手打蕎麦 ぐらの(01)

2004年03月13日
【店舗数:157】【そば食:279】
埼玉県入間郡大井町

そば膳、お酒

はじめに。

まずこの記事を書くにあたって、ものすごい怒りを抱いている。破壊衝動にかられていて、パソコンをぶっ壊したい気分でさえも、ある。

今回、これから紹介する「ぐらの」は、結論から言うとおかでんのツボにぴたりとはまった、拍手喝さいスタンディングオベーションな店舗だった。だから、紹介記事も、まるで提灯記事かのように熱の入った、べた褒め文章になった。そして、文章はいつにもまして長文となり、最初から最後まで気合いの入った文章に仕上がった。おかでんにしては非常に珍しいことだ、こんなに絶賛するなんて。

そしてそれを、今日(2004年4月4日)に、満を持してリリースするつもりだった。

リリース準備をすすめようとして、ファイルを開いてみたら・・・後から書いた、別の記事が上書きされていた。過去最高に気合いの入った文章は、どこにも残っていなかった。

この落胆たるや、相当なものだ。二日がかりで書いた文章だったというのに、何一つ残っていないなんて。

しかし、その落胆が怒りに変わるのにはそれほど時間を要さなかった。上書きした記事が、「285 あじさい茶屋渋谷2店」のレポだったからだ。

よりにもよって、まずい蕎麦屋(もう、怒りに任せて情け容赦無しに断言するぞ。とばっちりを受けたあじさい茶屋、済まぬ)のレポに上書きされるなんて!畜生!

べた褒めされた「ぐらの」に対する、「あじさい茶屋」の嫉妬、なのかもしれない。言霊同士の権力争い。でも頼むから、上書きはやめてくれよなー。

そんなこんなで、これから書く文章は「復刻版」となります。イチから書き直しとなったものです。とてもじゃないが、あらためて初稿のテンションは維持できていません。事務的に、簡易な報告となります。ああ 残念、「ぐらの」。

「蕎麦喰い人種行動観察」のコーナーにリンクを張っている他サイトはいくつかある。こちらのwebサーバのアクセスログを見れば、どんなサイトからジャンプしてきたかはある程度把握できるので、リンク元を逆探知することができる 。調べてみると「本職の蕎麦屋」さんからリンクが張られている事があり、恐縮してしまうことも時々ある。一例を挙げれば、「総本家小松庵」は、おかでんが「イマイチ」とか 批判しちゃってる自店舗の訪問記そのものにリンクを張っている。すごい覚悟だ。

「ぐらの」という蕎麦屋さんからもリンクが張られている。聞き慣れない名前だが、オフィシャルサイトによると川越街道沿いの、埼玉県入間郡にあるという。川越街道は時々通るが、そんな蕎麦屋がある 事は全然知らなかった。

その蕎麦屋がやっているサイトは、蕎麦に対するこだわりを結構なボリュームでしたためていて、そのほかにも蕎麦の雑学などを開陳し、「みんなに蕎麦のすばらしさを知って貰おう」と努力している様が伺える。かといって、高慢な態度なわけではなく、家族経営的なスタッフの全員集合写真を載せたりして、親しみやすさも感じさせる造りになっている。

そんなサイトの中に、なぜか「蕎麦喰い人種」へのリンクが張られていた。「なぜか」という枕言葉をつけたのは、その前後のリンクが「ためしてガッテン!わさび特集」だとか「そばアレルギーの研究」といったサイトだからだ。そもそも、そのリンクが設定されているページが蕎麦 用語の紹介とか、蘊蓄が語られたページ。どう考えても違和感がある。何かの勘違いだろうか。少なくとも、この「蕎麦喰い人種」は、読んで貰えば分かるとおり知識増大に何ら影響を与えない、暇つぶしサイトにすぎない。

このサイト管理人(=ぐらのの旦那)、頭おかしいんじゃないか。

・・・と思ったのは冗談だが、なかなかトンチが効いているというか、面白いと思った。そんな縁があって、一度訪問してみようと以前から考えていたのだった。

しかし、東武東上線ふじみ野駅が最寄り、ということもあって結構家から遠い。車で行けばさほど問題はない距離なのだが、やっぱり蕎麦屋といえばお酒じゃないですか。 しかし飲酒運転というわけにはいかないし、公共交通機関を使うのは面倒だし。

このお店で、お酒を呑むことに拘ったのは、webに記載されていたメニューに「そば膳」というコース料理が紹介されていたからだ。以下、転載する。

そば膳 soba-zen 2000円
お品書き
1.そばがき
碾き立てのそば粉をご自身でかき混ぜ、蕎麦の「香りと味」をお楽しみください。こちらでご用意もできますので、係にお申し付けください
2.だし巻き玉子
そばつゆを作るのと同じ「だし」で、ふわふわに仕上げた玉子焼きです。蕎麦屋の玉子焼きは、甘くありません
3.そば味噌
そばつゆを作るのと同じ「しょうゆ・みりん」で味付けしています。炒った蕎麦の実もなかなかいけます。
4.板わさ
蒲鉾には生山葵がよく合います。蕎麦屋の伝統的なつまみ三種です。
5.ふわふわ豆腐
大豆の味の濃い豆腐です。まずはそのまま味わってみてください
6.車海老と野菜の天ぷら
姿の伊勢エビ、味のくるま海老と云われます。そのくるま海老と季節の新鮮野菜の天ぷら盛合わせです。
7.石臼碾せいろ(小)
やはり、〆は蕎麦。蕎麦の香りと清涼感を味わってください。
※ご飯セット(ごはん、みそ汁、おしんこ)250円
※せいろ(中)へは210円増、(大)へは420円増

なんたる魅力的な品そろえ。蕎麦屋の酒肴の王道を、一から十まで並べてみましたって感じだ。これで2000円というのは正直、信じられないくらい安い。ぜひ、食べてみたいものだ。これさえ頂いちゃえば、「ぐらの」の店を 美味かった、まずかったと総合的に評価したってバチはあたるまい。

ただ、このゴージャスな品々をお茶だけで頂け、というのは拷問だ。頼む、酒を飲ませろ。いや、飲ませてくださいお願いです。1杯・・・いや、2杯はいきそうだな・・・。

こうなると、どう考えても車じゃ無理なんである。2合お酒飲んで、どうして「何をおっしゃいますお巡りさん、あたしゃシラフですってば」と言えよう。

結局、行こう、行こうと思いつつ行く機会を逸したたまま、数カ月が経過していた。

ある日、「ぐらの」訪問の機会をうかがいつつ、妙案がないかと「ぐらの」のサイトを睨み付けていたら、ある事に気がついた。

・・・数キロ先に、サティがあるぞ。

・・・サティといえば、併設されてワーナーマイカルシネマがあるはずだぞ。

きらーん。閃いた。

車でサティまで出かけ、そこで車を駐車。おもむろに、トランクに詰めて置いた自転車を引っ張り出し、「ぐらの」までサイクリング。

蕎麦と酒を満喫。

また、自転車でサティまで引き返す。しかし、体内のアルコールは絶好調のはずなので、お酒が抜けるまでの間映画を鑑賞する。

【警告】道路交通法の改正に伴い、飲酒後の自転車運転は厳罰が適用されるようになりました。記事記載の時点ではまだ警察から「黙認」されている状態でしたが、現在は完全にアウトであり、逮捕されます。絶対にまねをしないようにしてください。

お酒が抜けたところで、帰宅。蕎麦と、お酒と、映画という優雅な週末の完成。

おい、頭いいぞおかでん。ビジネスモデル特許取れるぞ(←うそつけ)。

この新発想で、今まで訪問が難しいと思われていた蕎麦屋に行けるし、お酒だって飲むことができる。思い立った日が吉日、早速この日の夜に訪れることにした。

・・・夜にしたのは、映画はレイトショーが安かったからだ。ちょっとだけ懐具合を気にしてるんですよ、こう見えても。

川越街道の石碑

サティ大井町店に駐車し、自転車をトランクから引っ張り出す。折り畳みタイプのモノではないので、相当強引に押し込んだ事になる。

気がせいて、強引に引っ張り出しているうちに後部バンパーを自転車でひっかいてしまった。ああ、傷が・・・。

見なかった事にしよう。

ちょっとだけ動揺を隠せないまま、自転車を夜の町に投入する。きこきこ。ううむ、見知らぬ町をいきなり自転車で走るのは違和感がある。しかも、これから蕎麦食べに行くんだから、我ながら理解不能なシチュエーションだ。

お巡りさんに職務質問されたら何て答えればいいんだ。変な回答だと解釈されて、署に連行されたらどうしよう。

それはともかく、焦ってしまって「え?飲んでませんよ、飲酒運転なんてしていませんってば」と相当早とちりな回答をしちゃいそうで怖い。

きこきこ。

案外距離があるなあ・・・。

きこきこ。

こりゃ、この季節だからいいけど、盛夏や厳冬期はしんどいぞ・・・。

15分弱ほど進んだところで、川越街道は単なる幹線道路からけやき並木の道にシフトした。江戸時代の街道の名残なのだろうか。けやき並木の入り口には、石碑で「川越街道」と書かれている。

ぐらの看板

その傍らに、ぐらのはあった。

うわ。めっちゃ一見客さんいらっしゃい、なドライブイン型レストラン、って感じなんですけど。大丈夫でしょうか。

一見さん目当ての蕎麦屋で美味いものはない、というのは正解率70%くらいの真実だ。観光地にうまい蕎麦屋はなかなか無いし、街道筋の郊外型店舗、そして大駐車場完備の蕎麦屋でもおいしい 店は少ないと思う。

もちろん、木曽福島の「水車屋」のような例外があるので断言はできないのだが、過去の経験では、この「ぐらの」の店構えはちょっと「イマイチ警報」発令中なんである。「腹減ったー、蕎麦食べたいなあ」といいながらこの道を車で運転していても、おそらく入る事はないだろう。

ぐらの

しかし、店構えは非常に小しゃれていてすてきだ。和風でも洋風でも、どっちにでも使えるような木造の店構え。嫌みが無く、好印象だ。

民芸風の外観にしてあったら、「ああ!もう、この店で美味い蕎麦に出会うのは相当厳しい」と思ってしまっただろう。

店の入り口をくぐると、そこは喫煙場所になっていた。もう一つの扉を開けて、入店。

こういう分煙に対する配慮は、うれしい。タバコ吸いたけりゃ、外で吸え、と喫煙者を突き放していない姿勢も、気持ちよい。

びっしりと書き込まれた文字

店内は、お座敷席、テーブル席、大テーブル席の三種類あり、全部で50名くらいは入れる規模だった。そのほとんどが既に埋まっている盛況だ。おかでんは単独訪問だったので、大テーブル席に通された。

早速、そば膳を注文する。もちろん、今日はこれ一本で勝負だ。

「お蕎麦のサイズは小のままでよろしいですか?」と聞かれたので、「ああ、はいそれでお願いします」と答えて置いた。はっきり言って、この時点ではお店の蕎麦を信用していない。

お品書きの裏面には、写真のようにびっしりと素材の拘りとか、蕎麦の蘊蓄が書かれていた。これだけ見ると、ものすごく真摯に蕎麦に取り組んでいるように見える。しかし、案外この業界、そうでもない例もあるんだよなあ。店の箔をつけたいのか、お品書きや店内の壁に蕎麦の蘊蓄をぺらぺらと語っているお店があるが、そういうのに限ってイマイチだ。

だから、最近では「蘊蓄を語るお店=警報レベル2」くらいで考えるようにしている。ちなみに、民芸調の店構えだったら警報レベル3、でき合いの「毎日手打ち」とか「手打ち蕎麦」と書かれたのぼりを店先に出して ヒラヒラさせているお店は警報レベル4だ。

今日、こうしてお店を訪問する前に、webでこのお店の風評を調べてみた。しかし、具体的な話はどこにも見あたらなかった。蕎麦好きの間ではノーマークのお店らしい。そんな理由から、蕎麦のサイズを大きくしなかったのである。

本日の特選地酒

そういう 微妙な警戒心を隠そうとしない傍らで、店内の清潔さ、木造建築が織りなす暖かみ、天井の高さからくる開放感が既にココロをくつろがせていた。居心地いいなあ、ここ。

天井を眺めながら、「本日の特選地酒」を頂く。銘柄はうっかり忘れてしまった。

驚いたのは、蕎麦屋のお酒というのは徳利+お猪口という組み合わせが当たり前だと思っていたのだが、升つきのグラスと一升瓶がテーブルに届けられて、お店の人が目の前でお酒を注いでくれたということだった。気の利いた居酒屋みたいな演出だ。これ、蕎麦屋ではあまり見かけないスタイルだと思う(知識不足なだけかもしれないが)。

感心しつつ、注がれるのを眺めていたが、ついついお酒が表面張力に達した時点で「おとととと」と声を出してしまった自分が情けない。

粉から作るそばがき

お酒を一口、二口と頂きながら高い天井を見上げ、いやぁ 気持ちいいなあと既にくつろいでいたところ、店員さんが何やら黒っぽい板を持ってきた。

表彰状・・・?

ではなかった。ランチョンマット代わりの板らしい。これも面白い演出だ。気が利いてる。

「ほう?」という顔で店員さんの様子をうかがっていたら、その板の上に「そば湯ですー」と行って湯桶を載せた。え?この時点でそば湯って、どういうこと?まだお蕎麦食べてないんですけど。いや、それ以前にそば膳を何一つ食べていないんですけど。

あっ、さては「もう何も食わずにカエレ」って事か!そうなのか、きっとそういうことなのか!・・・んなわけ、あるかい。

動揺しつつ、茶碗蒸しでも入っているかのようなお椀のフタをとってみたら・・・単なるそば粉が入っていた。なるほど、これで状況が理解できた。そば粉にそば湯を入れてかき混ぜて、自分でそばがきを作ってくださいというわけか。面白い!セルフそばがきなんて、このお店の人は発想がすてきだ。

最近じゃ、セルフで串揚げを作る店まで存在するし、お好み焼きだってもんじゃ焼きだって自分で焼く。自分で作る楽しみ、を提供してくれると、単なるおいしさだけじゃないプラスアルファが加わって、喜びは倍増だ。

お手製そばがき

ヨロコビの力を箸に込め、気合いを入れてかき混ぜてみる。

微妙な加減でそば湯を継ぎ足しつつ、ぐりぐり。かき混ぜると、ほわんと蕎麦の瑞々しい香りが立ち上る。おっ、このそば粉は結構いいぞ。

食べる前から、美味いことが保証されたと言って過言ではないそばがき。すいません、「蘊蓄語る店は信用できない」とか先ほど口走っていましたが、あれ無かったことにしてください。全部おかでんのうわごとでした。妄想でした。

・・・と、一口も食べる前から宗旨替え。

さて、あんまりかき混ぜると、箸とそばがきが一体化してしまう。高速のSAで売られている「じゃがべー」みたいな状態になってきつつあるので、これ以上のモチモチ感は諦めて一口食べてみる。

うん、予想したとおりおいしい。これはすてきだ、醤油なんていらないくらい、ふくよかな香りと、ひねていない上品な蕎麦の味が広がる。さらに、自分が作ったんだぞ、という達成感。最初からガツンと客のココロを 掴んでくれるじゃないですか、このお店は。

感心していたら、店員さんが「お箸がそばがきまみれになってますね、交換しますのでしばらくお待ちください」と言って新しい箸を持ってきてくれた。こういう気配りも、うれしい。

蕎麦屋のつまみ三種盛り

まず、店内の風景を愛でつつお酒を飲むのが本格化する前に、そばがきがやってきた。

そばがき、美味いなあ・・・と、さて本格的にそばがきで酒を飲るか、と思っていたら、また次の料理がきた。

そば膳。それは短時間で料理がいろいろでてくる蕎麦屋の顔見世興行。ゆっくりとしてはいられない。

次にやってきたのは、蕎麦屋のつまみ三種盛り、すなわち玉子焼き、板わさ、そばみそだった。配膳する際、店員さんは「この出汁まき玉子はそばつゆを使っていて・・・」と細かい説明を施してくれた。まるで、ちょっとした高級店で食事をしているみたいだ。

「あっ、さては僕が『蕎麦喰い人種』のおかでんである、と正体がバレたか?だから詳しく説明してくれているのか?」

と一瞬、自意識過剰勘違い節炸裂、な事を妄想してしまい、慌てて身だしなみを整え半分顔をのぞかせていた鼻毛を鼻の穴に押し込んだりなんかして。しかしそんな訳では決して無く、どのお客さんに対しても 分け隔て無く丁寧に料理の説明をしていた。素晴らしい接客態度だ。

三品とも、おいしい。それぞれ単品で頼むと、一人ではもてあましてしまう量になる。だから、こうして少量ずつ三役そろい踏みの光景を見ると、非常にありがたい気分になる。思わず手を合わせ、感謝の気持ちを三種盛りに示す。あまりにお酒がすすむので、中継ぎ投手を投入することにした。「本日のおすすめ地酒500円」を注文したところ、2種類あるということだったので福井のお酒をセレクト。 えーと、すいません、このお酒の銘柄も忘れてしまいました。

お酒を注いで貰うときは、「ほー、見慣れない銘柄ですねえ」とえらそうな口をたたきながら、一升瓶を手に取りラベルやら何やらを見せてもらったというのに 。格好だけかい。

おすすめ地酒の二種類とも聞き慣れない銘柄だったので、「どこでこんなお酒を仕入れてくるんですか?」と聞いてみたら、「酒屋さんがいろいろ勧めてくれるので・・・」という回答だった。いい酒屋さんと懇意にしているもんだ。

ふわふわ豆腐

今度は、ふわふわ豆腐がやってきた。てっきりおぼろ豆腐のスタイルなのかと思っていたのだが、崩れた絹豆腐といった風情だった。

「醤油はつけないで食べてください」という指示があったので、そのまま食べる。

わーい。思わず万歳。

うまいよなあ。こういう豆腐がスーパーで一丁128円とかで売られていたら、毎日食べるんだけどなあ。豆の味がしっかりとして、甘みが滲み出ているので醤油が要らない。

「こういう酒肴で喜べるようになった、というのは人生経験の賜物なのか、それとも老化なのかどっちだろうねえ・・・昔はコロッケでビール、みたいな毎日だったのにねえ」

と、ついつい自分の学生時代を振り返ってしまった。 ちなみに、愛食していたコロッケは、5個250円の西友のお総菜でした。これを、閉店前で50円引きになった時に買う。

おっと話が脱線した。

天ぷら

しみじみと「美味いなあ。この時間の流れ、心地いいなあ」と嘆息していたら、店員さんがつかつかとやってきて

「天ぷらでーす」

とお皿をごとり。わっ、まだ続きがあったのか。もうこれまでの過程で相当精神的に満腹になっていたので、天ぷらが出てくる事なんてすっかり忘れていた。

思わず、店員さんに

「まだありましたか!・・・種類、多いっすねぇ」

と自身のオドロキを表現してしまった。それを聞いた店員さん、にっこりと笑い

「そば膳は当店でも一番お得感が高いんですよー。計算していただければ分かりますけど、相当、頑張ってます。自信を持ってお出ししていますので」

だそうで。確かに、味もさることながらボリューム感、お値段、非の打ち所がない。

あの、非の打ち所がないついでで恐縮なんですが、そろそろお酒がカラになってきたんで・・・ああそうですそうです、「本日のおすすめ地酒」、さっき飲まなかったもう一方のヤツをお願いします。

3杯目のお酒は、宮城の・・・また忘れた。何一つ銘柄を覚えて帰れてないじゃないか、俺。確か、「緑」という文字から始まったような気がするのだが、それは福井の方のお酒だったっけか。記憶がこんがらがった。あれ?「雪の松島」だったっけか?

まあ、それはともかく、このお店のお酒はいずれも、端麗な感じで飲みやすいのだが、後でうま味が口の中に広がるタイプのものだった。蕎麦屋の酒肴に非常によく合っていると思った。

その旨、店員さんに伝えたところ、3杯目のお酒を注いだあとに耳元に口を寄せ、「ちょっと多めに注いでおきましたから!」なんてうれしい事を言ってくれる。 このフレンドリーさがたまらんです。

天ぷらのサクサク感がなくなる前に食べなくちゃ、と天ぷらをわっせわっせと頂く。その傍らでは、まだ先ほどの三種盛りも豆腐も残っているわけで、もう一体僕は何から食べればいいの、といううれしい悲鳴状態となった。

精進天ぷらかと思ったら、一番下から車海老の天ぷらがコンニチハしてきた。普通、天ぷらの花形俳優である海老は「どうだぁ!」と最前列に陣取っているものなのだが、このお店では「その他食材の土台」にされてしまっていた。こういうのも、おかでん的には結構好き。「おい海老、おまえいつでも主役を張れると思っちゃいかんぞ。そういう慢心を捨てるためにも、たまには下積みしたまえ」などと訓辞をたれつつ、海老にかぶりついた。

蕎麦

さて、最後、満を持して登場なのは蕎麦。急きょ、大盛りに変更した。これだけ大満足な料理が出てくるのだ、蕎麦で 今更間違いはあるまい。

そして出てきた蕎麦は、こちらの期待を裏切らないおいしい蕎麦だった。大盛りにしたおかげで結構なボリュームがあり、うまいうまいと調子にのって蕎麦たぐり寄せてもまだ楽しめる。

さっきまで「うわぁこんなに肴が出てくるの」とか思っていた自分であったが、「蕎麦は別腹」とばかりにぐいぐいと食べてしまった。

しかし、猛ピッチでぐいぐいと食べたかというと、そういうわけではなかった。一口すすっては、「いやぁ・・・うまいなあ」「いやぁ・・・くつろぐなあ」と独り言をぶつぶつと口にしていたからだ。麺のコシ、つゆの香りと味、蕎麦の香りのいずれも非常においしかった。まあ、思わず嘆息して声を出しちゃうほど超絶なものだったか、と聞かれると正直答えに困るのだが。酔っぱらっていたからかもしれない。

いずれにせよ、蕎麦屋で幸せ、という気分になったのは相当久しぶりな気がする。美味かった、という感想よりも先に、幸せでした、という感想が出てきてしまうお店。こんなお店の出現を待っていました。

お会計、4,300円(税別)。ちと高くついてしまったが、料理6品+蕎麦大盛り+銘酒3品を頂いた事を考えれば安い安い。しかもおいしかったわけだし。

このお店は蘊蓄を語っているお店だけど、 それはハッタリでも何でもなく、お客の五感に明確に分かる形でその蘊蓄が昇華され、フィードバックされていた。いや、大満足です。胡散臭い目で最初見てしまって申し訳ない。

店員さんにお礼を言って、店を後にした。また、数キロのサイクリング。きこきこと自転車を漕ぎながら、引き続き「いやぁ・・・たまらんなあ。良かったなあ」という独り言を連発していた。幸せ気分は、当分の間消えることが無かった。築地さらしなの里以来じゃないかな、こんな気分になったのは。

自転車を駐車場に停めておいた車の中に無理矢理押し込み、ワーナーマイカルに向かった。そこで映画を一本見たのだが、途中尿意を激しく催してしまい、映画どころではなかった。なるほど、アルコールを飲んだあとはお手洗いが近くなることをすっかり忘れていたわい。

さあ、ここまでストロングリラックスさせてもらっちゃうと、次の訪問はどうしようかなあという気になってくる。できれば毎週末、通いたいお店だ。しかし、往復の移動時間+蕎麦屋滞在時間+映画見る時間で半日がかりの作業になってしまうことから、そう易々と行くわけにはいかない。

お酒抜き、ってわけにもいかないもんなあ・・・あれだけおいしくお酒を飲ませてもらった以上、もうやめられない体になっちまったし。