そば処 港屋(02)

2012年11月29日
【店舗数:—】【そば食:541】
東京都港区西新橋

冷たい肉そば

白い外壁

前日、湯島の「古式蕎麦」で真っ黒でワイルドな蕎麦を食べた。その時、「スーパーのチルド麺売場に売られている蕎麦でもこういう黒っぽい蕎麦がある」というコメントを残している。しかし、もっとよく考えてみると、蕎麦業界の異端児の事を忘れちゃいませんか、ということに思い当たった。その名も、「港屋」。そうだった、古式蕎麦も凄いが港屋も凄いぞ!

港屋のすごさについては、前回訪問時にさんざん書いたし、他サイトにもさんざん書かれている事だ。繰り返してここで書く事は避けるが、何ともこんな蕎麦もあり得るんだなぁ、と感心するやら呆れるやらおなかいっぱいになるやら、というイチモツなのだった。

思い当たったが吉日、久しぶりに再訪してみることにしてみよう。時刻は16時ちょっと過ぎ。このお店は17時まで昼営業をしているのがありがたい。この時間だったら、さすがに昼時のアホみたいな行列は皆無だろうと踏んだ。

行ってみて驚いたのが、以前は真っ黒な外観だったのが、真っ白になっていたということ。オセロか!?というくらい見事な変身。どういう心境の変化だろう。この店、つくづくトリッキーだ。これで店内も白かったらさぞやまぶしかろう、と思ったが、さすがに店内は黒いままだった。おかげでますますオセロ状態に。

わかりにくい看板

お店を示すマークは、前回「黒の時代」よりもより一層少なくなっていた。

以前は、路上に店名が記された行灯がともり、表札もやや大きかった。それが今では、ごく一般のご家庭にあるようなサイズの表札に、小さく「Minatoya」と書かれているだけ。お店を発見してもらおうという気が全くない。

おかげで、店の外でしばらく様子を伺っていたら、このお店に入ろうかどうしようか逡巡する人が何人も居てなかなか人間観察としては楽しかった。店の入口には屋内の暖房の暖気が逃げないようにビニールカーテンがかけられており、それが「もう営業していませんよ」という拒絶の印にも見えるのでトリッキーだ。この時間は昼時のように行列ができていないので、営業しているかどうかの判別が外からでは全く付かないのだった。

港屋のテーブル

店内は相変わらず。無駄にでかいテーブルが一つだけ。このせいで人の導線に支障が出ているという問題は全く解消されていない。お店の外壁を直すよりそこを直せよ、と思うが、さすがにこの特注のテーブルを壊して新しいのにやり直すとなると巨額の費用がかかるしもったいない。このお店はこのままテーブル問題は解消しないまま突っ走るのだろう。

16時過ぎということもあり、お店は省エネモードになっていた。昼時にはたくさんの店員さんがお客をさばいているお店だが、この時間帯は一人だけ。そのため、お会計をする場所が厨房カウンターの片隅に移動となっていた(昼時は入口入ってすぐのところにレジがある)。あと、お客が食事をするテーブルには、サービスの生玉子が置いておらず、また、蕎麦湯も置いていなかった。これらは蕎麦が提供されるタイミングで、お盆に載って出てきた。さすがに一人では客席の玉子・蕎麦湯補充までは面倒が見きれないのだろう。調理、お会計、下膳、皿洗い、テーブル拭き・・・とやらなくちゃいけないことはいっぱいだ。何でお昼は潤沢に人材を使っておきながら、この時間になると極端に人の数を減らすのかは謎。

ちなみにお客さんの数だが、2~3分に1名やってくる、といった感じだった。パラパラと五月雨式に、でも途切れる事なく来店していた。アイドルタイムである16時過ぎという時間帯であること、そしてビジネス街である場所柄を考えるとびっくりだ。相変わらず繁盛してんなあ。

冷たい肉そば850

冷たい肉そば850円を注文。前回は温かい鶏そば(850円)だったので、このお店で双璧をなすもう一方のメニューを選んでみた。しかし、店内の他のお客さんは全員温かい鶏そばを頼んでいたのが印象的。冷たい肉そばはおかでんだけだった。そりゃそうか、今日は特に冷え込んでいるもんな。

ゆで上がった蕎麦を、水切りもそこそこに丼にどかん。そこに甘辛く煮込んだ肉をどさっ、長めに切った葱をばさっ、胡麻をスプーンでばらばら、最後に海苔をトングで掴んですぱん。肉そばの完成。つゆはラー油が入っている、つめたいつゆ。玉子と蕎麦も添えられて、お待たせしました。

どこに陣取るか、だが、やっぱりここはテーブルに置いてある揚げ玉の前を推したい。揚げ玉及びその他調味料(わさび、唐辛子)はテーブルの一辺につき1セットしかないので、一等席はこのお店に4つしかないことになる。今回は空いていたので、一等席は余裕でゲット。

あと、理想は給水器の近くに陣取るのが正解。このお店のつゆ、非常に辛くて喉が渇いて仕方が無いのだった。食べてみるまでそのことを忘れていて、食事の後半喉の渇きに大いに苦しめられた。

肉そばアップ

刻み海苔、葱を押しのけて蕎麦とご対面。おお、やっぱり黒いな。とはいっても、やっぱりあの古式蕎麦とまではいかない黒さだ。あれは特殊だよ、つくづくそう思った。

蕎麦だけで食べてみる。うん、堅い。これを「腰がある」と形容する人がいるが、腰ではない。単に堅い。でも、港屋という独特の蕎麦ワールドにおいて、この堅さが美味さに繋がっているから不思議なものだ。蕎麦の味はほとんどせず、香りなんて全くない。新蕎麦の季節?知ったことか!という状態。その潔さが素敵。そもそも、胡麻、葱、海苔といった香りが強いものばかりが蕎麦の上に乗っかっている時点で、蕎麦のフレイバーを楽しんでいただきたく候、なんて気がさらさら無いことが分かる。

こんな独特な蕎麦を、ラー油混じりのつゆにつけて食べる。ああ、いいね。「ラーメン二郎はラーメンではない。二郎という食べ物だ。」という名言が存在するが、同じ事が港屋にも言える。「港屋は蕎麦ではない。港屋という食べ物だ。」と。蕎麦の常識としては駄目な事をやりまくっているわけだが、不思議と最終的にはおいしくなっているのだから不思議。

途中で唐辛子を投入してみる。山椒の香りが強く感じられ、ますます香りが複雑になる。以前は一味唐辛子だったと思うが、中身の調合を変えたっぽい。

さらに後半のお楽しみは生玉子だ。一般的にはつゆの方にポンと投入するのだろうが、今回はあえて麺の方に落としてみた。箸でよく麺と玉子をかき混ぜて、釜玉風にして食べる。これも変な味でおいしい。なんなんだよ、いったい。

満腹になってお店を後にした。いやはや、相変わらず凄いお店だこと。たまにはこのお店に通わないといかんな。ここで蕎麦の常識をいったんリセットする機会を時々設けることで、その後フレッシュな気持ちで蕎麦屋食べ歩きができそうだ。

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