山中秘湯旅館を貸し切り大満喫【那須岳・三斗小屋温泉】

無間谷

12:20
木でできた橋を渡る。無間谷、と言うらしい。

このあたり、よく歩かれているようで整備はしっかりされている。歩きにくいという箇所は道中全くなかった。快適な山歩き。

延命水

12:34
今回の道中で唯一の水場、延命水。何の変哲もない茂みから、水が湧き出ていた。

水が足りなくなっているなら、ここで補充をどうぞ。寿命が延びる御利益があるかどうかは不明。

牛が歩いた道

12:36
やたらと平たんかつ広めの道。登山道には石ころすらあまり転がっていない。一体これはどういうことか、と思ったら、案内看板が登山道脇に設置されていた。

牛が歩いた道
茶臼岳では、かつて噴気孔のガスから硫黄を採取していました。戦前は三斗小屋周辺からも木材を牛の背に乗せて登山口の精錬所へ運んでいました。この道は当時、牛が通っていた道なのです。

だって。へー、こんなところを牛が歩いていたのか。上高地の徳本峠を思い出したが、あっちよりもこっちの方が道が良いはずだ。

沼原分岐

12:41
沼原分岐。とりあえず、タイムスタンプを残しておくために記念撮影。

ここから本日のゴール地点、三斗小屋温泉までは1.1km。峰の茶屋跡からは既に1.8km歩いているので、もう後半戦に突入だ。

ゆるゆると道が続く

12:47
相変わらず歩きやすい道を、てくてく歩く。傾斜があまりないので、歩くのはひたすら楽だ。本当にこの山は初心者向けだな、と思う。「これから山を始めたいんですけど」という人が現れたら、ぜひこの山に連れて行きたいと思う。

栃木県が設置した看板が、三斗小屋温泉の解説だった。少し距離をあけて二つ設置されていた。そろそろ、温泉の湯気が見えてくる頃かな?

三斗小屋温泉
那須では多くの温泉が茶臼岳の東側に分布していますが、三斗小屋温泉だけは西側にあります。隠居倉火山の熱による単純泉で、旅館は現在2軒あり、山の中の素朴な味わいのある温泉です。

三斗小屋温泉の歴史
三斗小屋温泉は、古く1142年(康治元年)に発見されたと伝えられています。江戸時代には、関東から会津へ行きかう人々や、那須の山岳信仰の行者などでにぎわいました。明治初めには旅館も5軒あったそうです。

そういえば、那須って東側にぼこぼこ温泉があるけど、西にはさっぱり無いな。言われてみて初めて気が付いた。じゃあ、三斗小屋温泉は貴重な存在じゃないか。孤高の温泉を今日は満喫しなくては。三斗小屋温泉に泊まったよ、といえばちょっとした自慢になるし。

煙草屋旅館

12:57
前方が開けてきたな、と思って歩を進めていたら、建物が見えてきた。いよいよ、三斗小屋温泉に到着。まあ、「いよいよ」という程歩いちゃいないんだけど。

「2時間以上歩かないと辿りつかない、山の中の秘湯」というのは間違っちゃいないが、トレッキングが嫌いじゃない人なら余裕な場所ではある。「行ってみたいけど、大変そう・・・」と躊躇している人がいるなら、悩む前にとりあえず行ってみろ。案外楽だから。

※とはいえ、ちゃんと装備はして行ってください。「アワレみ隊OnTheWebのせいで遭難した」とか言われたらかなわんので。

登山道正面に「大黒屋」の看板が見えるが、手前にある建物は煙草屋旅館のものらしい。「煙草屋旅館第二別館」の文字が見える。今日僕がお世話になる宿だ。こんな山奥の宿なのに、別館どころか「第二別館」まであるのか。すごいな。最初に本館をおっ立てた当時には想像できなかった規模の来客があったのだろうか。

三斗小屋温泉到着

12:58
建物がいろいろあるぞ?えーと。

右側の建物が煙草屋旅館のメインの建物。帳場、食事を取る大広間などがある。正面奥が宿泊部屋が並ぶ建物。左は大黒屋の建物なので、詳細不明。

山中に忽然と姿を現した建物群は不思議な雰囲気がある。場所柄、朽ち果てた廃墟の方が様になるが、どっこい、ここでは元気に営業中だ。

大黒屋はちらっと見える

12:58
大黒屋は、煙草屋旅館から一段下がったところに建っていた。木々が邪魔して、全体像を見る事はできなかったが、煙草屋旅館と異なり大きな一つの建物で構成されているっぽい。改築してあまり時間が経っていないらしく、建物はきれいらしいぞ。

「三斗小屋温泉に宿泊したいんだけど、大黒屋と煙草屋旅館、どっちを選べばいいの?」

と悩む人は多分多いだろう。僕は両方に泊まったわけではないのでベストな回答はできないのだが、自分の体験と伝聞を統合してみると、「女性がパーティーの中にいるなら、大黒屋がいかも。男性ばかりなら、煙草屋旅館かな?」といえる。

煙草屋旅館は、この後紹介するけど「古ぼけた建物で味わいがある」。それを良しとする向きにはいいけど、そうでない人にとっては比較的新しい大黒屋の方が良いかもしれない。大黒屋の方は羽布団があったりするし、ランプの宿で風情があるし。

あと、煙草屋旅館の最大の魅力は露天風呂(大黒屋には露天風呂がない)。露天風呂に魅力を感じる人は、無条件で煙草屋旅館を選択することになるだろう。ただし、基本は混浴なので、女性は限られた「女性専用時間」を狙い撃ちするか、男性を気にしながら混浴時間に入浴することになる。煙草屋旅館には内風呂もあるのだが、ここも混浴。女性専用風呂はあるにはあるのだが、非常に狭くて畳一畳分くらいの浴槽しかない。女性グループにとってはちとこれはキツい。「山ん中で、ひたすら風呂に入ってくつろぎたい」と考えている女性にとっては、必然的に混浴覚悟で煙草屋旅館に挑まないといけない。それでもよければ煙草屋旅館、いやそれは微妙と考えるなら大黒屋、というチョイスで良いと思う。

煙草屋旅館

13:00
なんてタイミングがいいんだ。煙草屋旅館のチェックイン時間、13時ちょうどに建物前に到着ではないか。これはもう、今日はひたすら温泉に浸かりまくれ、という神の啓示にちげぇねぇ。山登りに来たんだか温泉浸かりに来たんだかわからん今日だけど、どっちでもいいや、楽しければ。

さて、いい頃合いなので、チェックインしようか。えーと、目の前に「煙草屋旅館入口」という看板が掲げられているけど・・・ここは入口じゃ、ないのか。なに?もっと右?

煙草屋旅館の階段

13:00
ああ、これこれ。webとかの写真で何度も見たことがある階段。

隠居倉、朝日岳方面に向かう登山道を挟む形で煙草屋旅館の建物が建っていて、その右側が帳場。何でこんな狭いところ、しかも階段のあるところを正面玄関にしたんだ、と不思議だったが、登山道に面しているんだと言われれば一応納得は・・・あんまりしないけど、まあいいや。

煙草屋旅館のタリフ

13:01
入口をくぐると、ご主人らしき方が出迎えてくれた。早速宿帳に住所氏名などを記入する。

宿の説明をざっとして貰った際、そのご主人から

「今日は貸し切りですから。お風呂はいつでも自由に使ってください」

と言われた。一瞬何の事かと理解できなかったが、すぐにそれが「今日は僕以外、宿泊客はいない」ということに気がついた。えええ、まじですか。今までそんな経験、一度もないぞ。営業している宿を一人っきりで独占してしまうなんて。それは宿の人に申し訳ないことしちゃったなあ、僕が今日泊まらなければ、一日まるっきりオフだったのに。

「本当ならお風呂は女性専用時間があるんですけどね、気にしないで使ってください」

とご主人は言う。分かった、じゃあ心置きなく使わせてもらうことにします。

それにしてもなあ、当初予定では、「山の中、または宿で知り合った人と仲良くなろう」と思っていたのだが、道中でも宿でも誰にも会わないだなんて。思惑から完全に外れてしまい、今回の作戦は失敗!なわけだが、まあこれはこれで貴重な体験だ。楽しませてもらうことにしよう。

さて、お会計は前払いだそうだ。このあたりが旅館風ではなく山小屋風。一泊食事付きで8,500円を支払う・・・が、プライスリストを見ていたら「お弁当500円」という記述があったので、慌てて追加注文。しめて9,000円を支払った。正直言って、明日は昼頃には下山してしまうのでお弁当はいらない。でも、500円なら頼んでもいいかなという気になった。山小屋でお弁当頼むと、昨今じゃ1,000円はざらにするから、500円ってのはとても廉価だ。この「へべれけ紀行」的にもネタになるから、ここはぜひ注文を。

缶ビールが500円、というのはいかにも山小屋価格だ。生ビールはさすがに置いていない。この近辺にヘリポートらしきスペースはなかったので、どうやら資材は全て下界からボッカしているらしい。結構大変なことだ。

煙草屋旅館の下駄箱

13:02
靴を玄関脇の下駄箱に格納する。オンシーズンなら、ここに登山靴やトレッキングシューズがずらりと並ぶのだろう。でも今日はがらりとしている。そりゃそうだ、宿泊客は僕ただ一人。寂しさ?いや、そんなものは微塵も感じてません。むしろ、「今日はアナタとあともう一人だけがここに泊まります」とか言われた方がイヤだ。その人と会話しないと気まずいかなーとか、性格が合わなかったらどうしよう、とかいろいろ考えてしまいそうだ。

ただ、女性の場合は「今日はアナタ一人だけで貸し切りです」って言われたらそれはそれで警戒するだろうな。やっぱり、身の安全を考えないといけない立場だから。実際、奥秩父の某山小屋で、そういう事件が起きて殺されたっていうのが過去にあったから・・・。

大広間

13:03
大広間。通常はここで夕食、朝食を食べる事になるらしい。でも、今日は僕一人で貸し切り!ということなので、夕食は部屋に運びますから、と言われた。おおお?部屋食?この山ん中の宿で?すげえ。なんだかぜいたくしてる気になる。この宿、山小屋なんだか旅館なんだか分からなくなってきたぞ。・・・ああ、旅館か。何しろ、「煙草屋旅館」なんだから。

まあ、宿の人からしてみたら、たった一人の食事なんだし、部屋に出そうが大広間に出そうがほとんど手間は変わらない、ということなんだろう。でも、わざわざ部屋食にしてくれたんだからその配慮には大きく感謝。とはいっても、食べる僕にとっても、一人しかいなんだから、部屋で食べようが大広間で食べようがほとんど差はないんだけど。

ん?待て、部屋に食事を出す?

ということは、僕は「部屋」に泊まるのか。よくある山小屋のように、大きな部屋で雑魚寝って訳じゃないのか。個室があてがわれるってことなのか。あれれ、そこまでは全く期待していなかったぞ、何しろこの山ん中だもの。ホント?

個室があてがわれた

13:05
ご主人に案内されて廊下を歩く。一番突き当たりで「ここです」と言われ、その6畳間が本日の僕の根城であることを知った。うわ、本当に個室だよ。ちゃんと旅館してるじゃないか!

それにしてもなんでわざわざ玄関から一番遠い部屋まで連れて来たの、と思ったが、ここが一番いい部屋だからだろう。角部屋なので、窓がついている。それ以外の部屋には、窓がないので基本、暗い。電気は夜にならないと使えないので、昼間は暗いまま我慢しなくちゃいけない。窓がある、それはステイタスのシンボル。

細い廊下

13:06
僕が泊まる角部屋から、玄関方面を見たところ。細い廊下があり、それに沿って右側に窓、左側に部屋が連なっている。つまり、ご覧の通り角部屋じゃない部屋には窓がない.明かりが欲しけりゃ障子を開けて廊下い面した窓からの光を取り入れてください、というわけだ。

なお、各部屋の「扉」は「障子」だ。鍵?そんなものはない。防音?隣の部屋の腕時計が秒を刻む音でさえ聞こえそうだわ。それくらいは覚悟してくれ。なにせ、山ん中だ。各部屋、仕切りがあってプライバシーが最低限保たれているだけでもありがたいと思うべき・・・と割り切ろう。それが我慢ならないなら、さくっと大黒屋へGO。

あ、あと、部屋の中では虫たちの大運動会があちこちでずっと繰り広げられておりました。それも生理的に受け付けられない人がいるとは思うけど、許せ。もう一度言う、なにせ山ん中だ。

ふすまを開ければ隣の部屋

13:06
隣との部屋はふすまで仕切られているだけ。壁では、ない。だから、ふすまをがらりとオープンさせると、ご覧の通り。あらお隣さんこんにちは。ついでにもう一部屋お隣の方ともグッドモーニング。

部屋が密閉できないのは分かりました!では、貴重品をしまう金庫はどこにありますか?

ばかもん!そんなもの、あるか!気になるなら常に持ち歩け。それが一番の防犯だ。山小屋じゃどこでもそうだ。

この宿、「旅館」と思い込んだらちょっと残念だが、「山小屋」と思えば相当良い部類だ。ここを訪れる際は、余計な先入観を捨てて臨みたい。

天井には蛍光灯

13:07
天井にある照明。蛍光灯一本。発電機が動き始める夕方になるまで、明かりはおあずけ。

なお、消灯時間は9時と設定されているのが山小屋風。それ以降の時間は点灯しなくなるので注意。夜中トイレに行きたいときは、懐中電灯やヘッドライトが必要。一応、トイレそのものには明かりが終夜点灯するのだが、そこまでの廊下が何しろ真っ暗なもので。

てぬぐい
てぬぐいには「山のいで湯」

13:07
のし風の紙に包まれた何かをご主人から貰ったので、何事かと思って中を引っ張り出してみた。あ、手ぬぐいだぞ、これ。タオルではなく、宿オリジナルの手ぬぐいが用意されているというのがちょっといかしている。

大きく広げてみたら、「山のいで湯」と大きく、黒々と書かれてあった。これはちょっと貰ってうれしいかも。何せ、知る人ぞ知る秘湯の煙草屋旅館だ。自慢になるほどじゃないけど、人にはチラ見くらいはさせたい一品。

宿泊案内

13:07
宿泊時の注意書きが、隣の部屋とを仕切っているふすまに貼り付けてあった。普通こういうのは卓上に置いてあるものだが、掃除などの際に邪魔なのでふすまに貼っちゃったのだろう。ざっくばらんだ。

入浴時間について書かれている。

・女性風呂/共同風呂:午後8時半まで。共同風呂は午後6時~7時の間は女性専用。
・露天風呂は24時間いつでも入れる。ただし午後3時~5時は女性専用。

こういう「女性専用時間」ってのは、多くの宿でも採用されているシステムだが、「食事時間と被るじゃないか!」という時間設定がとても多い。だから、見た目上よりも実際に女性がお風呂を楽しめる時間は少ないのが通常。この宿もそう。こういうのを見て、男性ながらちょっとかわいそうに思う。もう少し時間をなんとかしてやれないものなのかねと。

で、気になるお食事時間なのだが、

・夕食:午後4時半ころ
・朝食:午前6時半ころ

とされていた。おおう、こういうところはきっちりと山時間を採用してくるのだな。それにしても夕メシ4時半ってアンタ。多くの山小屋だって5時スタートのところが多いってのに、この宿は4時半かい。そりゃ思い切ったな。うっかり3時頃におやつ食べちゃったら、夕食持てあますよ。おやつ大好きな人はペース配分に注意が必要だ。

食事は遅くとも17時には食べ終わってしまうだろう。なにせ、山の飯だ。いくら「旅館」を標榜しているからといって、酒を酌み交わしてちんたらと食べていていい雰囲気ではない。とっとと食ってさっさと自室に戻れこの野郎、といった感じだろう。さあ、夜は長いぞー。消灯時間まで4時間もあるぞー。暇を持てあまさないように、気を付けよう。特に僕のような単独行の人の場合。個室があてがわれているが故に、同じ日に泊まった人との交流は希薄になりがち。

歩数計

13:22
おっと、忘れるところだった。本日の歩数を見ておかなくちゃ。

えーと。17,831歩。まあまあ、かな。この程度でたどり着ける秘湯ですが、皆さんどうですか?

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