登場人物(2名)
おかでん:南に行くつもりで、半袖まで新調していたのになぜか北に行く天の邪鬼。
おかでん兄:北でも南でも、何か面白そうな企画があれば同行するおかでんの良きパートナー。
2002年06月08日(土) 1日目
いきなりだが、本当は沖縄にいくつもりだった。
行く気満々だった。
H.I.S.のツアーで、「久米島2泊3日、羽田直行便で3万円ちょっと」っていうのがあったからだ。南国の離島で、リゾートで波の音を聞きつつ、泡盛をちびりちびり・・・くぅーっ、これを極楽と呼ばずしてなんと呼ぶ。もう、予約を入れる前から妄想著しくしていたんである。
しかし、まあ結果はご覧の通り。参加・不参加の態度を明確にするのが遅かった上に、チケットの手配もおっとり刀でいた、事の重大さを理解しとらん約1名のために、敢えなく「予約いっぱいでーす」の報。水着を新調しようか、まで考えていたパラダイス野郎の欲望は、その瞬間潰え去ったのであった。
精神のよりどころを失ってしまった僕はうろたえてしまい、何か「精神的にしがみつくことができる」旅行の企画を立てねば・・・と髪を振り乱して検討をした。八丈島、佐渡島、乳頭温泉、ううん、いずれもイマイチ気持ちがまとまらない。ならば、エーイ、南がダメなら北にしてしまえ、となってやけくそで北海道に決めてしまったのであった。
あまりにヤケクソだったので、百名山登山と組み合わせることにした。ターゲットは、十勝岳もしくは大雪山。当日までバタバタしていた関係で、いつもの綿密なプランは支離滅裂。結局当日行き当たりばったりで決めよう、ということになってしまい、手元には「パターン1」から「パターン4」までのありとあらゆる旅のプラン書を握りしめている始末。中には、2泊3日で十勝岳と大雪山両方登ってしまえというスパルタクスなプランもあったが、一読した兄貴が「これ、却下」と一言。無情である。
今回も、暇人同士ということで兄貴との行動。ホント、端から見てると同性愛者に見られるかもしれない。
おっと、あらかじめ言っておくが、この「へべれけ紀行」にはおかでんの全ての旅が掲載されているわけではないぞ。あまりにプライベートであり掲載していないものや、内容が内容なだけに伏せておきたいイベントやらは除外している。また、参加者によっては写真掲載を断る人もいるし。おかでん&おかでん兄の旅行が多くこのコーナーに掲載されているのは、まあ、そこらへんがクリアにしやすい身内だったから、という理由が最大。
新千歳空港到着後、送迎バスに乗せられてレンタカー乗り場へ行く。今日から2泊3日、レンタカーで道内をあっちこっち制圧しようというつもりだ。
兄 「しかし・・・どこへ行く?空港からどんどん離れていくんだけど」
おかでん 「拉致されているというオチは?もしくは、レンタカーではなくて、レンタヒグマ、とか」
兄 「あんまりヒグマとか言ってると、鈴木宗男に怒られるぞ」
やや不安になりかかったころ、車は脇道にそれて恐ろしく広大な駐車場スペースに。ここが、レンタカー屋が集まっている場所だった。
おかでん 「な、なんだぁ?これは。デカイ、でかすぎるぞ」
兄 「日本的じゃない光景だな、ほら、ずーっと向こうにもあるぞ?」
そこには、レンタカー屋各社が軒を連ね・・・といっても、それぞれが数百台の駐車場を持っているので、一軒一軒が相当広い・・・並んでいた。
おかでん 「トヨタレンタカーなんて、営業所が二つもあるじゃないか、ここに!」
御免なさい、レンタヒグマとか言ってた私が馬鹿でした。
おっかなびっくり、広い敷地をうろうろしながらカローラをレンタルする。
おかでん 「で・・・とりあえず、どこへ行こう?」
なーんも、決めていない。決まっていない。
兄 「とりあえず・・・襟裳岬、なのかな?」
「とりあえず」で行けるような場所ではないのだが、まあ、そんなもんです行き当たりばったりの旅ってものは。
なにしろ北海道は広い。最初はひたすら単調な道だって楽しめたのだが、徐々に飽きてくる。こういう時こそ、これから何をするのかガイドブックで調べればいい。
最初に行くことにしたのは、日高ケンタッキーファームという場所。
兄 「で?どこに行くんだって?」
おかでん 「いや・・・どこって言ったって、よく知らんのよ。ガイドブックを見ても、何がなんだか」
そんな感じで、ガイドブックの「日高・えりも」項でトップに紹介されていた場所に行った次第。うむ、主体性が無さすぎ。
兄 「いい眺めだな」
おかでん 「確かに。ほら、あっちでサラブレッドの調教をやってる」
兄 「ああ、あの遠いところか。・・・馬が丘を駆け上っていくな」
おかでん 「でも、あの光景は別にケンタッキーファームと関係ないんだよな」
兄 「だな。ここから先は敷地外につき立ち入り禁止って書いてある」
おかでん 「・・・入園料500円は一体どこに?」
兄 「さあ?こんなの、土産と食事の収入だけでいいのにな。タダで十分」
おかでん 「その割には観光客来てるぜ?」
兄 「よく声を聞け。ほとんどの人が中国語しゃべってるぞ」
おかでん 「あっ、確かに」
兄 「どういう訳か、台湾人の日本旅行として北海道って結構利用されているらしんだな。おそらく、この場所も観光コースに組み込まれているんだろう」
おかでん 「観光コース?見所はどこ?」
兄 「さあ?」
馬がたくさんいた。
お金を払えば乗馬できるそうだが、相当お値段が張るので、却下。何でも、上級者向けにはここから海岸まで往復するトレッキングツアーもあるらしい。馬ファンにはたまらない企画・・・なのかもしれない。
馬とにらめっこをしようとしたが、これだけ目と目が離れている馬面ゆえに、どこを凝視していいのか分からず、企画倒れ。
おまけに、馬に「ぶるるるる」と言われ、唾が飛んできたのであえなく敗退。
兄 「以上。みどころ、おしまい」
おかでん 「ううむ。一日がかりでピクニックするだとか、レストランでジンギスカンを食べるとかするなら楽しいんだろうけど。僕らみたいに野郎二人で通りすがりに立ち寄る場所としては、少々しんどかったかもしれぬ」
兄 「ガイドブックには『全国的にも有名な日高エリア最大の観光牧場』って書いてあったんだろ?なんか納得できんがなあ・・・」
気を取り直して、襟裳岬に向かって国道235号を東に進む。信号なしで、ひたすら海沿いの殺風景な道をひた走る。気を許すと、ついついスピードが乗ってしまうので要注意。
でもねえ・・・こういう道を見てしまうと、本当に北海道に高速道路っているんか?って疑問になるなあ。
あ、いや、すいません、単なる観光客の戯れ言です。
新冠近辺は、日本最大のサラブレッド産地だったりする。だから、なんとこのあたりは通称名「サラブレッド銀座」なのだから笑える。
優良血統の証「サラブレッド」という単語と、日本を代表する歓楽街の一つ「銀座」という名称がくっついているのだからなんとも縁起の良い名前だ。
ここら辺は、延々7km以上もの間に複数の牧場が密集し、そのいずれもがサラブレッドの牧場だっていうんだから凄い。さしづめ、銀座7丁目あたりの雑居ビルって感じだろうか。
ちょうど、その牧場群を見下ろすような形で駐車場があり、絶好の見晴台になっていた。
おお、確かに・・・牧場の終端が見えないくらい、延々と牧草の敷地が続いている。よく見ると、いるわいるわ、サラブレッドがいるぞぉ。
「あら社長お久しぶり」
「私たちも一杯いただいてもいーい?」
なんて声があちこちから聞こえてき 嘘です口から出任せです
まあ、それはともかく、サラウンド状態で右からも左からも「ひひーん」「ひひーん」と聞こえてくるのはなかなかありそうでない経験ではあったよ。
おかでん 「まてよ、ここにいる馬を一網打尽にすれば、競走馬としてどれだけ利益を産んでくれるんだろうか・・・。ああ、馬がすべて札束に見えてくるよ」
兄 「ひがむな、貧乏人」
駐車場の横に、なぜか隔離されるように白馬が二匹いた。
双子の兄弟なのか、背格好はほとんど一緒。仲が良いのかぴったりとくっついて、こっちを伺っている。
白い馬なので、たてがみが髪の毛に見える。抜け毛にお悩みのおとーさん諸子からすると、何ともうらやましいばかりのボリューム感。草食っててどうしてこんなに黒々としていられるんだろう?
風にたなびくたてがみ。
しかし、当然なんだけどヘアーをセットしているわけでもなんでもないので、一歩間違えるとファッションに無頓着なオタクなおにーさん、って風情でもある。
兄 「おい、試しに般若心経唱えてみろよ」
おかでん 「は?何で?」
兄 「馬の耳に念仏ってのが本当かどうか、確かめるんだ」
おかでん 「あ、なるほど・・・では。かんじーざいぼーさー・・・」
兄 「おおおっ、本当に相手にしないな」
おかでん 「聞く耳を持たないどころか、無視されちゃったよー。兄貴が持ってるデジカメの方がよっぽどありがたいらしいや、そっちばっかり見てる」
新冠町観光マップ。
うむ、牧場だらけだ。「観光マップ」なのに、地図上は馬のイラストだらけ。「うマップ」だ、これでは。
そろそろ昼飯にしないと。
とりあえず、イマイチいいお店が見あたらなかったので回転寿司にしてみた。
おかでん 「もしまずかったら、一皿で店を出ればいいんだから。ここにしよ?」
・・・
結局、一皿で出てくることもなく、ここでお昼ご飯は完結。
おかでん 「ううむ」
兄 「どうした」
おかでん 「勝ち負けで言ったら負けた気分。ネタはおいしかったんで良かったけど・・・値段がやや高めなのと、シャリが少ないのとで、意外と高くついた」
兄 「いくらかかったんだ?」
おかでん 「1600円。ううむ」
JR日高線の終着駅、様似駅。
もうこの先に線路はありません、という行き止まりの駅にくると、なんだか急に「旅情」ってぇもんを感じてしまうのは気のせいだろうか。
とりあえず、意味もなく駅の写真をぱちりと撮ってみたりする。
それだけでは「とりあえず」が収まるわけもなく、ホームに侵入して駅名表示板の前でも記念撮影をしてみたりする。
それだけでは飽きたらず、停車中の電車の写真もこの際だから撮っておけ。
いや、もうこうなったらとことんだ。
発車時刻表も写真に押さえておこう。
・・・って、こんなの、時刻表を見れば済む話じゃん。何の記念撮影だ。
あれ、1日7便しかないのか、この路線は。朝、寝過ごすと取り返しのつかない事に。
旅人は、常に先端を目指す。山のてっぺんしかり、岬しかり。
乳児期に母親の乳首に執着するという本能を人間は持ち合わせている以上、「先っちょ」に対しては異様な愛着を持っているのかもしれない。ほら、その証拠に襟裳岬に着いたら、どうしてこうも安らいだ気分になれるんだろう・・・
おかでん 「なわけ、あるかー。風が強い!」
この襟裳岬、年間290日は風速10m以上の風が吹くという日本有数の強風の名所らしい。
おかげで、岬から振り返ってみると、見よこの荒涼とした大地を。強風のため、木が生えていない。
兄 「ううむ。こういうのを見ると、最果ての地に来たなあ、って実感するよ」
おかでん 「満足したか?以前、能登半島一周したときは『もっと絶望感が無いと駄目だ』なんて景色に駄目出ししてたけど」
兄 「うん、いいね。やはり北の大地はひと味違うよ。あとこれで、廃屋となった番屋とかあると言うこと無し」
おかでん 「むちゃ言ってるよ、アンタ」
襟裳岬は、沖合数キロまでずっと岩礁帯が続いている。日高山脈の終着点として、ここから大地が海に潜っていっているんだなというのがよく分かり、ますます旅情をかき立てられる。
・・・のだけど、
先ほど記念撮影をした灯台のところからふと下をみると、遊歩道が延びていてまだ先に行くことができた。しゃーない、旅人は先端を目指すものだと強風の中遊歩道を歩き、さらに岬の先に向かった。
・・・のだけど、
まださらに先があるじゃないかー。それぞれの死角に、さらに先っちょが控えているという状況。これにはいい加減腹を立て、「旅情」返上。
おかでん 「何が旅情だ!先に行ったってどーせ大して風景が変わるわけじゃないし、往復するだけ面倒なだけじゃ!誰があんな先まで行ってやるかよ、ケッ、ケッ!」
さっきと言ってる事が全然違う。
襟裳岬は、岬の沖合10kmくらいまで延々と岩礁が海面に顔を出しているのが特徴。こういう岬も珍しい。
兄 「お、アイスクリームを売ってるな、食べようかな」
おかでん 「アイスクリーム好きだな・・・」
おかでん兄弟は、二人とも間食はしない。ましてや、甘いものは一切食べない嗜好だ。なのに、おかでん兄はなぜか旅行先に限って、アイスクリームを食べる癖がある。
おかでん 「アイスクリームを食べることが旅情なのか、アンタにとっては?」
兄 「いや、そういうわけじゃないんだけど・・・空気が乾燥しているからじゃないか?気温は結構低いのに、アイスクリームが食べたくなるんだから」
おかでん 「そういうもんか?」
兄 「ほら、見て見ろ。地元民とおぼしき人まで、車運転しながらアイスクリーム食べてるぞ」
指さす方向を見ると、赤の軽自動車を運転するおばちゃんがアイスクリームを食べ食べ、駐車場から出ていくところだった。
おかでん 「あ、ホントだ。市民権を得ている?というわけか?」
ちなみに、襟裳岬の駐車場にあったレストハウスのアイスクリームは100円。非常に安い。ジュースよりも安いというのはなんだか奇妙だ。そのため、アイスクリーム屋の前は行列ができていた。
おかでんは、「せっかく北海道に来たんだから」と、バニラとメロンのミックス。100円かと思ったら、180円ですごく損した気分になってしまった。
もう一つちなみに、このレストハウスの名前は「霧笛(むてき)」だった。渋い、渋すぎる。
襟裳岬から、今度は帯広方面に北上を開始。
ひたすら何も無い原野をまっすぐ突っ走る。こういうところを走っていると、地価がどうのとか、坪単価が・・・なんて話がばかばかしくなってくる。
おかでん 「こういうところだったら、豪邸建てるのも安いだろうな」
兄 「冬は雪で大変だぞ、大体、土地が安いって事は不便だったり何か理由があるんだから」
おかでん 「うーむ、ムツゴロウ王国ならぬオカデン王国を作りたかったのだが」
兄 「何をやってるところだ?それは」
おかでん 「牛や馬の代わりに、美女ばっかりいる王国」
兄 「こんな辺鄙なところに来るわけ無いだろ、美女が」
おかでん 「むむむ。言われてみれば尤もだ、大幅にプラン修正だなあ・・・先は長い」
兄 「一生かかっても無理だと思う」
兄 「この道路は『黄金道路』って言うらしいぞ」
おかでん 「ん?北海道で金山ってあったっけ?」
兄 「いや、見て見ろ、あっちこっち工事中だらけじゃないか。崖が海まで迫っているので、道路を造るのに莫大なお金がかかったらしい」
おかでん 「・・・やっぱり、ムネヲですか?」
兄 「さあ?それは知らないけど」
おかでん 「それにしても、いまだにあっちこっち補修工事をやってるって事は・・・一体どうなってるんだ、この道路は?開通してから時間は相当経っているだろうに」
兄 「見て見ろよ、工事現場の手前にちゃんとした信号灯が設置されてるぞ」
おかでん 「あ、ホントだ。・・・って事は何だ、暫定的なものを置くレベルではなく、ずーーっと工事をしているということなのか。まるで地獄だな、延々と卒塔婆を積み上げなければいけないみたいな・・・」
帯広に入ると、今度はあきれるくらいの大地。延々と続くまっすぐの道と、真っ平な地面。
「こういう場所は、信号のない交差点で出会い頭の事故が多いからな」
「北海道は事故数はそれほど多くないんだけど、事故における死亡率が高い場所だからな、要するにスピード出し過ぎで事故るんだよ、危ないぞ」
などと言いながら、慎重に運転するおかでん兄。
道路脇にあった牧場。
今年生まれたのだろう子牛を、道路側に向けて作った寝床に住まわせていた。
おかでん 「あ、かわいい!おい、ちょっとバックしてくれ」
いっぺんは通り過ぎたのだが、バックして写真を1枚。
おかでん 「やばいやばい、牧場のオッチャンがこっちを見てる。すぐ車出して!」
別にやましい事をやってるわけではないのだが・・・。
さて、今晩のお宿は、アルファリゾート・トマムというリゾートホテルなんである。なんか、バブル崩壊のあおりで運営会社が倒産しちまったとかそういう噂も聞いたような聞かなかったような。
何となく、双子のタワーが意味もなく広大な大地の中ににょっきりと建っている、という印象しかない。「ばっかでー、土地がいっぱいあるのに高層タワー作る意味なんて無いじゃん!金の無駄遣い!」なんて感心するやらあきれるやら、だったのだが、まあそのせいなのか、倒産していたんですね。ご愁傷様です。
しかし、勤務先の会社における福利厚生関連で、1泊素泊まり2000円っていうんだから泊まるしかないではないか。こんなに安くていいのか、「リゾート」ですぜ、「りぞーと」。客足があまり良くなく、冬でもスキーリフト券無料の日があったりとたたき売り状態になっているという噂も聞いたことがあるが、それとこれは関係あるんだろうか。それとも、ウチの会社の福利厚生担当がガンバって、相当の宿泊費補助を出しているのだろうか?
ちょっと不安になってwebを事前に調べてみたのだが、われわれがこれから泊まろうとしている「ザ・ヴィレッジ・アルファ」(このリゾートホテルは、敷地内にたくさんホテル棟が散らばって存在するのだ)は、
原生林に囲まれ、ひと際幻想的な雰囲気をかもしだしている、完全会員(オーナー)制のリゾート・コンドミニアムです。北欧にいるような原生針葉樹林は格別の眺めです。
注意:会員以外のお客様はご予約できません。
なんて説明がされている。「オーナー制」かよ。なんか、緊張してきたぞ。そんなところに2000円で泊まらせてもらえるとは、人生長生きするもんですな。(←志が低い)
それにしても、さすがはアルファリゾート。倒産するだけあって?か、恐ろしく広い。一体幅何キロあるんだよこら、て思わず叫んでしまった。
何しろ、敷地内に入ったからといって安心しちゃあいけない。幅数キロにわたって、建物が10カ所くらいに配置されている。どこかに集合チェックインカウンタがあって、各建物に散らばっていくのか、それともそれぞれの建物内にチェックインする場所があるのかさえ、さっぱりわからない。
てっきり、ランドマーク的存在のツインタワーの周辺に固まって存在するのかと思っていたのだが・・・いやあ、バブルって怖い。ここまでくると、「ぜいたくな土地の使い方」って表現は正しくない。「無駄なスペース」という表現をすべきだろう。いや、根が貧乏だから、とかそういうわけじゃなくって、本当にそう思う。
沖縄のリゾートは、敷地がそれほど広くなく、建物はある程度ぎゅっと絞り込まれている。その代わり、プールやスパ、白砂のビーチなどリゾートとして非日常空間をうまく演出している。その点、このトマムは「建物と建物の間の無駄な空間が非日常」という事か。
さて、到着しましたヴィレッジ・アルファ。三角屋根の建物で、ドイツや北欧を思い出させる作りだ。何しろ、完全会員制の宿だ、きっとエレガントに違いない。
わくわくしながら、チェックイン。
指示された部屋に向かう。なぜか、フロントがある建物から段差のある渡り廊下をてくてく歩かされて、その先に宿泊棟があった。こういう無駄な徒歩を要求するのも、土地をぜいたくに使っている証拠ってやつだ。
しかし・・・利便性という点においては、どうだろう?大体、この渡り廊下、段差が中途半端に大きいので歩きにくいんですけど・・・。しかも、壁はコンクリートの打ちっ放し・・・。ううん?
我が部屋に到着。鍵を開けて、いざ突撃我らがスウィートルームへ。
しかし、先頭を切って中に入った兄貴が、
「ありゃっ!?」
と素っ頓狂な声を出した。何だ?って、あれれれれ。
ドアを開けたその先は、まるで桟橋から船に乗るときみたいな細い通路があるだけではないか。何だ、これは。
細い通路の先には、ベッド発見。うん、これは普通。
しかし・・・リビングは?
あ、階下につながる階段があるぞ。
と、下を見下ろすとこんな感じでリビングがあったのだった。驚いた、この部屋は2階ぶち抜きの作りなのであった。
要するに、われわれはロフト付きの建物で、2階部分から部屋に侵入した事になる。
兄 「なんだか変な作りだよなあ、普通、こういうのって1階から入るだろ?何でこんな変な作りになってるんだ?」
おかでん 「こ、これが会員制・・・リゾート・・・」
あまりにびっくりしてしまい、しばらく二人とも立ちつくしてしまった。
「1階のリビング・・・おい、この机は何だ?4つにバラせるようになっているぞ。単なる木の箱を並べたみたいなものじゃないか。机、ではないぞ」
「それに、机の下に囲碁セットが置いてあるよー。なんか違和感ばりばりだよー」
この部屋の怪しさは、まだまだあった。
螺旋階段でリビングに降りてみると、そこには入子式構造になった棚が・・・
兄 「いや、これは棚じゃないぞ、ベッドだ。簡易ベッドじゃないか」
おかでん 「え?なんで簡易ベッドが?」
兄 「修学旅行生とかが泊まるんじゃないのか?」
おかでん 「会員制だぜ?修学旅行生が泊まるか?でも、確かにこういう2階建ての部屋だと、生徒は喜ぶだろうけどな」
兄 「えっと、ここに3つベッドがあるだろ。上の階に2つの本物のベッドがあって、・・・ああ、そういえば上の階には2段ベッドもあったな!・・・それに、この応接セットだってエクストラベッドとして使えるわけで、この部屋には合計9人も泊まる事ができるぞ!?」
おかでん 「なにー。なんなんだ、ここは。リゾートでも非日常空間でもなんでもないじゃないか。タコ部屋じゃん。何が会員制だよ」
兄 「どうもおかしいと思ってたんだよなあ、さっきから」
兄 「ほら、お前さっきフロントでチェックインするとき紙もらってただろ」
おかでん 「ん?ああ、これか。ゴミの分別について書かれた紙だったけど」
兄 「今考えるとおかしいよな、こんなの、普通の宿だったら宿泊客にはやらせないぞ?しかも、5種類に分別してくれ、って言ってるんだから」
おかでん 「ああ・・・言われてみれば、たしかにそうだな。キャンプ場だとか、安宿ならともかく」
兄 「だから、この宿はそういうところなんだろ?セルフサービスが原則、みたいな。その代わり安い」
おかでん 「えー、でも腑に落ちないなあ・・・、だったら何で会員制なんだよ。会員制っていったら、リッチなの象徴じゃないのか?」
兄 「知らん」
おかでん 「うーん」
兄 「うーん」
詮索しても結論が出ないので、あきらめて食事に行くことにした。欲張って襟裳岬まで行ってしまったので、時刻はもう20時近い。早く食べに行かないと、この田舎町トマムの中で食べるものがなく飢え死にしてしまいかねない。
しかし、さすがは巨大なリゾートだけあって、館内レストランは笑っちゃうくらいの数があって安心・・・のはずなんだけど、あれ、あれれっ。半分近くが休業中、なんですか?
おかでん 「うわっちゃー。休業中が多いぞ」
兄 「ん?そうなのか。やっぱここは冬がメインシーズンなのかな?」
それでも、夕食を営業しているレストランが6軒、ラウンジが1軒あるのだから立派といえば立派だ。しかし、メインシーズンになるとこの倍近くのレストランが開業しているようなので、その数たるや恐るべし、だ。
後で調べたら、このトマムには8,000人を収容する力があるらしい。道理で、レストランの数が多いわけだ・・・が・・・ハイシーズン以外で集客できなかったら、そりゃあ経営は苦しいわな。
部屋の作りに驚くやらあきれるやら、ひととおりした後は、とりあえずカッコつけのために螺旋階段で記念撮影。
何がどういう記念なのか、この際問わないように。
夕飯を食べに行く前に、チェックイン時に放置していた車を駐車場に置きに行った。ホテルの建物から徒歩5分。ううむ、遠いぞ。
とりあえず、そのまま食事に行かずに、トマムの象徴だったツインタワー(正式名称は「ザ・タワー」と言う)に行ってみることにした。
遠くから眺めると、明かりがついていない部屋の数が圧倒的に多く、大丈夫なんだろうか?と人ごとながら心配してしまう。
おかでん 「大丈夫かなあ・・・儲かってないんじゃないかなあ」
兄 「さっき、修学旅行生らしい集団が飯食べに行ってたな。ああいう団体客を見込んでいるんじゃないのかな」
おかでん 「でも、今日は土曜日、週末だぜ?この時間でこれだけしか明かりがついていないとなると・・・」
兄 「その割には、僕らが泊まっている建物にあるレストラン、えらく混んでいたな?一体どこから湧いて出てきたんだろう?」
そう、このリゾート全体としてはそこそこ宿泊客はいるのだろう。しかし、あまりに広大なのと、あまりに建物がバラバラなために、一つ一つの建物に全然お客が入っていないように見えるのだろう。・・・と弁護してみたものの、結局部屋に空室がたくさんあるという事には変わりないわけで・・・やっぱり心配。
ザ・タワーの見取り図。
タワーそのものは結構小さい。タワー下にあるのがロビー。右側の通路は、延々とわれわれが泊まっているヴィレッジにまで続いている。
1階は、スキー客用のロッカールーム及び更衣室になっていて、外見の高級リゾートっぽさとは裏腹に、コンクリートむき出しのごく普通のスキー場っぽいのがものすごいギャップだ。
ザ・タワーからヴィレッジに戻る渡り廊下。
途中、「フォーレスタ・モール」という飲食店舗が集まっている店舗への分岐がある。
分岐点にあった看板。
「Closed」となっている店が結構あることがわかる。冬になれば、フルオープンになるのだろうか。
看板の右には、「○○高等学校お食事場所←」と書かれた紙が貼ってあった。どうやら、ザ・タワーに修学旅行生が泊まっているらしい。
延々と続くヴィレッジまでの渡り廊下。
おかでん 「しっかし、無駄だな」
兄 「無駄だな」
おかでん 「この地から無駄を省くと、何も残らないんじゃないかってくらい、無駄だな。たとえばこの廊下。何でとなりの施設に移るのに5分以上歩く事になるんだろう?」
兄 「しかも、壁、天井ともにガラス張り。金かけてるよな」
おかでん 「その割には、床がコンクリートむき出しの上に薄いカーペット。なんかアンバランスなんだよな」
兄 「スキー客もいるんで、床は豪華にできないのかな?」
おかでん 「ねえ、ちょっと初歩的な質問。やっぱ、リゾートなんだから、こういう風にあちこちうろうろと広大な施設を散策して回るってのも上等な遊びの一つ、なのだろうか」
兄 「そうかもしれないけど、この薄暗さはちょっとね。高級っていうより、なんか不気味でじめっとした印象を受ける。これじゃあ、散策しても楽しくないだろう」
建物内にあった自動販売機。
おかでん 「おおっ!500mlビールが400円、350mlビールが300円じゃないか!いいぞ、すごく良心的じゃないか!山小屋物価とは大違いだ」
兄 「しかし、周りの施設の状況を見てるとこの値段は妥当なような・・・」
さて、延々歩いてヴィレッジに戻ってきたら、その足で夕食へ。建物内にある「海鮮市場」というレストランだ。ここは、蟹をはじめとする魚中心の料理が食べ放題っていうのが売り。4,800円という値段が玉にキズだが、まあ大目に見よう。
学校の体育館よりも広い敷地に、数百席に及ぶ客席が並ぶ。われわれは遅い時間に行ったからまだ比較的余裕があったが、それでもこのトマムのどこからこんな人たちが?っていうくらい数多くのお客さんがわさわさとカニと格闘していた。
カニ星人に違いない。
みんな、目つきが血走っている。カニ、カニと口走っている。どうしてカニは人をこうも血気盛んにさせてしまうのだろう。そのくせ、みんな黙々と食べているんだから不思議だ。
さて、料理のほうはというと、さすがにバイキングで4,800円もとるだけのことはある。100種類は余裕であるだろう料理がずらりと並ぶ。魚や貝類は、目の前で炭火焼きにしてくれるなど、プレゼンテーションもなかなか良い。
しかし、ちょっと待て。「釧路漁港直送」って・・・ここ、相当山の中なんですけど。考えてみれば、何でこの地で「海鮮市場」をやってるのか激しく謎。
やっぱり、僕らみたいな「北海道旅行に来ました」客ってのは、「北海道=海の幸が豊富=カニ、ウニ、ホタテ、イクラ」みたいな単純な発想をついついしてしまう。だから、たとえその場がトマムという山の中であっても・・・何しろ、ここから釧路までの距離っていったら、東京から新潟まで行けてしまうんではないか、ってくらいあるんだから。
たとえば、本州の山奥にある温泉旅館で、「新鮮な刺身が自慢!」なんて出されたって「いや、山なんですから刺身って言われてもねえ」って感じるでしょ?それと同じシチュエーション。でも、「北海道」という枠でくくってしまうと、なんかどーでもいいのよね。北海道というネームバリューが美味を約束してくれるような気にさせるのか、それとも北海道というローカルな大地の知識と地理感が基本的に欠落してしまっていて、誰も「おい待て、トマムで釧路漁港っておかしくないか?」って事に気づかないだけなのか。
おかでん 「まあ、そんなことはどうでもいいわけだ。美味いものが食えれば、多くは要求すまい」
兄 「ビール2杯か!?」
おかでん 「ここ、ビールは別会計で即金支払いなんだな。でも、気楽に飲めるからいいや」
兄 「で、ビール2杯なのか」
おかでん 「まあね、どうせすぐ飲んでしまうでしょ。これだけ豊富に食べるものがあれば・・・。しかし、面白いな。ビールの名前が、ススキノビールだったか何だったか。札幌の地ビールだったぞ」
兄 「料理は釧路で、ビールは札幌か。もうむちゃくちゃだな」
兄 「むしゃむしゃ」
おかでん 「あっ、いつの間にか兄貴がカニ星人になってしまっているよ・・・」
兄 「高いものを優先して食べないと、割に合わないからね。普段食べないカニを食べて置かなくちゃ」
おかでん 「その発想、まぎれもないカニ星人だよ・・・怖いよ・・・」
おかでん、トレイ二巡目に突入。
いつの間にか生ビールグラスは片づけられ、手元には旭川の地酒「男山」御免酒が置かれている。
おかでん 「もうこうなったらチャンポンよぉ、釧路、札幌、次は旭川だ。もう怖いものないぞ」
兄 「料理もどんどん釧路漁港から離れて行ってるな」
おかでん 「ん?言われてみれば・・・サラダ、鶏、里芋の煮っ転がし・・・どんどんチープになっている気もする」
結局、飲むだけ飲んで、食べるだけ食べてこんな感じ。
食べ過ぎました。
まあ、4800円の元が取れたかどうかは分からないけど、そういう事は言いっこなし、ということで。
兄貴は後半、完璧にカニ星人になってしまい、一人でカニの殻をうずたかく積み上げていた。
おかでん 「キトサン野郎だな、おい」
兄 「ん?何か言ったか?」
腹ごなしに、外を散策してみることにした。
ヴィレッジのさらに奥に、もうひとつツインタワーがある。ほとんど電気がついていないので、廃墟みたいにも見えるが、これが「ガレリアタワー・スイートホテル」と呼ばれるところで、まあ要するにスイートルーム棟という位置づけなのだろう。
真っ暗な山道を進む。どうやら、この山道は冬季はスキーコースになっているらしい。
廃墟かと思ったら、ちゃんと入り口は開いたし、電気がついていた。スイートルームの建物なので、部外者立ち入り禁止だと言われないように、フロントをよけつつエレベーターホールに向かう。
おお、明らかにカネのかけ方が違う。
各階に押し掛けてみたが、廊下を見る限りあんまり高級感は無かった。何しろ、床面積がそれほど広くないタワーの中だ。自ずと、廊下も狭い。しかも、客室の扉のすぐ隣にリネン室?みたいな部屋があったりして、どうもハイソ感に乏しいような。
気をとりなおして、最上階にあるバーラウンジに行ってみることにする。トマムの夜景を見ながら、一献でもしてみるかね。
ありゃ、ありゃりゃっ!?
シャッターがおりていた・・・。
営業していなかった。がーん。
まあ、考えてみればそうだよな、この建物自体が開店休業中状態なのに、わざわざバーラウンジだけ開業しているわけないよな。
すごすごと引き返したわれわれであった。
帰り道、夜道の傍らにキタキツネがいた。人間様の残飯をねらっているのだろうか。
この土地全体を包む奇妙な空気、そして理想と現実のギャップにいちいち感心しながら部屋に戻ってきた。
そうしたら・・・いやあ、まだまだ出てくるもんだ。
洗面台の下の扉を開けてみたら、こんなものが入ってました。
兄 「あああ?何だ、こりゃあ?」
兄貴の素っ頓狂な声を聞いて、駆けつけてみたらこの状態。食器が置いてあるのはまだわかる。貸別荘ではよくある話だ。しかし・・・ワンカップのガラスコップに突っ込まれた3本の歯ブラシ。明らかに「これ僕用のネ」と宣言しているような柄のついたコップ。砂糖、油、ミツカン酢。そして、綿棒。これは、どう見ても生活臭ありまくりの台所ではないか。
兄 「どういうことだ、これは?当たり前のように人が住んでいたって感じだぞ、これだと」
おかでん 「うん、確かに。われわれが今日ここに泊まるから、って事で急きょ退去したって感じさえ受けるぞ?」
兄 「じゃあ、何なんだ、この会員制リゾートってのは」
おかでん 「ひょっとすると、われわれがそうであったように、企業の福利厚生用として法人契約を結んでいるんじゃないのか?だから、高級かどうかってのはあんまり関係ない」
兄 「それはわかったけど、この個人所有物っぽいのは一体なんなんだ、また今度来たときに使おうっていう気満々だぞ!?」
おかでん 「1泊2,000円だからなあ・・・北海道あたりの支社の人が、頻繁に利用しているのかもしれない」
兄 「宿側が処分しないのか?気持ち悪いぞ、なんだか」
おかでん 「部屋の掃除はするんだろうけど、あくまでも宿側は部屋の維持を任されているだけなんだろうね、当然部屋の中にどんな個人所有物が置いてあっても、それは会員様の自由」
兄 「そうか・・・ってことは、この宿に泊まる資格を与えられたのが会員、っていうわけじゃなくって、この部屋自体に所有権を持った会員って事なのか!」
徐々に明らかになる事実。しかし、それは同時に「思い描いていたリゾートとのギャップ」を露骨に示すものであり、二人とも頭を抱えてしまった。
おかでん 「いや、2,000円で泊まる事ができるんだから、これでも十分立派すぎるんだけどねぇ」
兄 「そうなんだけど、そうなんだけどギャップが・・・」
間接照明がカッコイイ、とデザイナーは思いこんでいたのかどうか知らないが、非常にこの部屋は暗い。本や雑誌といった文字を読むのが苦痛なくらいだ。
兄 「ううむ、すべてがジメっとした感じだな、この建物は!」
二人とも、悶々としながら床についた。お休みなさい。明日も朝は早い。せめて、体力は温存しておかないと。
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