雪の中を、歩こう。【野沢温泉スノーシュー】

2005年04月10日(日)

野沢温泉での素晴らしき日々。知的発達障がい者のスポーツ大会、「スペシャルオリンピック冬季世界大会・長野」のボランティアとして10日間もの日々を野沢温泉で過ごしてきた。その間休みの日はなく、毎日野沢温泉アリーナ(交流の場であるSOタウンが設置されていた)とスノーシューイング会場の往復だった。朝出て、戻りは夜。せっかくすぐ目の前に、日本でも有数の知名度を持つ野沢温泉スキー場を控えているというのに、そのゲレンデに痕跡を残すことは全く無かった。それでも、充実した日々はなにものにも代え難い。

野沢温泉を後にし日常生活に戻ったあとしばらくも、野沢温泉の日々が思い出されてため息をついていた。非日常の生活をそれなりの期間過ごすと、日常生活がいかに物足りないかという事が分かる。ま、だからこそ人はたまの休みに旅行に行ったり非日常的行動をするわけだが。

その「日常生活の物足りなさ」を嘆息するあまり、この前の連載で書いたように「仙台にぶらり一人旅」なんて事をやって大散財してみたりしていた。そんな中、SOボランティアで知り合いになった野沢温泉村の人から、「今度公民館でスノーシューイングの企画があるんだけど、来ない?」というお誘いを受けた。

スノーシューイングで野沢温泉のゲレンデを歩く。

おう、それはまたとない機会だ。ぜひ行かなくては勿体ない。

いろいろ検討した結果、ボランティア仲間だった人と日帰りで野沢温泉往復をすることになった。片道4時間弱。結構な強行軍ではあるけど、それは承知の上。

早朝、真っ暗なうちから都心を離れ一路関越道を北上。いったん新潟県に侵入してから、長野県に向かう。空が明るくなってくるにつれ、周囲の山の状況が見えてきた。まだ、雪だ!東京じゃ、もうお花見も終わったというシーズン。にもかかわらず、この長野の地にはまだ雪が「現在進行形」で残っていた。決して、溶け残った残骸とは呼べないくらいのボリューム感だ。そうか、まだここは早春なんだな。日本という国の幅広さを感じる。

雪解けのSOタウン

ただ、そうはいってもさすがにSO大会期間中だった1カ月前とは状況が一変していた。あれだけ雪に埋もれていた野沢温泉アリーナは、すっかり雪解けになってその全貌を表していた。ああ、こういう建物だったのね、ということに今更気づく。

また、われわれボランティアの人間は10日もの間野沢温泉に滞在したわけだが、そこでの光景はひたすら雪だった。街が雪の中にある光景を当たり前のように見てきたし、野沢温泉村というのはそういう街であるという印象を強く持っていた。しかし、この光景はどうだ。まるで別の場所かのように、雪がない建物、道路、木々で満ちていた。われわれは、見慣れた建物の横を通るたび、見慣れた光景を見るたびに「ああ!?随分と変わったなあ」とおどろきの声をあげた。

春でも運行されているゴンドラ

ここまで春めいてくると、山の雪はどうなのか気になる。

山のほうを見上げると、まだ確かに雪は残っているようだ。ゴンドラは運航しているし、スキーやスノーボードで山の上から滑り降りてきた人がちらほらいる。春スキーはまだまだできるようだ。

スノーシューイングをしにここまで来たのに、「雪がないのでハイキングになります。山菜でも摘みながら歩きましょう」ってなったらなんだか拍子抜けだったが、それは大丈夫そうだ。

春スキーは5/5まで。

春スキーのシーズンは3月27日から5月5日までらしい。3月27日に「春スキーオープニングイベント」なるものが開催された模様。

ゴンドラ乗り場近くで参加メンバーと合流し、スノーシューを借してもらいいざゴンドラで山の上へ。

山の上はまだまだ雪がある

ゴンドラで山の上に登ったら、さすがは春スキーのシーズンだけあってまだまだ雪は十分にあった。

空の青さも相まって、純白の雪がまぶしい。

ボランティア期間中、ゲレンデの近くに居住しながらも全く遊ぶことができなかった分を今ここで楽しむことができそうだ。

スノーシュー

こちらが貸してもらったスノーシュー。

日本語で表記するなら、「西洋かんじき」ということになる。

雪質が柔らかいところだと、普通の足で歩こうとすると単位面積あたりの重量が重く、雪の中に足がめり込んでしまう。これだと非常に歩きにくい。だから、足の表面積を広げ、雪の上を歩くことができるようにしたのがこのスノーシューだ。

スノーシューの裏

裏返しにしてみたところ。

シンプルな構成だ。

ただ、つま先をセッティングする部分の裏が、軽アイゼンのように金属の歯が出ている。ここで雪にグリップする作りになっているわけだ。

スノーシュー装着

スノーシュー装着。思わず装着する際、「がちーん」という効果音を口にしてしまった。子供の頃に見た合体ロボットもののアニメの影響だろうか?

スノーシューを装着していても、雪が靴の中に入る可能性があるのでスパッツはちゃんと装備。

かかとが浮き上がる形なのがスノーシュー

スノーシュー後部にあるひもを足首に巻き付け、万が一すっこ抜けても良いようにする。これで完成。

つま先は稼働するけど、足首はフリーな状態になっている。だから、歩くときはつま先があがる。これが和かんじきやスキーと違うところだ。クロスカントリースキーに近い構造だ。

ニューモデルスキー試乗会

ゲレンデの一部で、人がごった返す場所があった。その周囲には、有名なスキーブランドのテントが立ち並んでいる。何事だろう。

近づいてみると、ニューモデルスキー試乗会だった。へぇ、この時期にニューモデルって既に発表されているのか。

試乗会、といっても、「はいどうぞ」と貸し出すと、そのまま新商品を持って逃走されるおそれがある。さすがに身分証明をさせた上で板を貸し出していた。

大人気らしく、貸し出し中の板待ちの行列になっていた。

時折、ゲレンデ内のスピーカーで「○○様、返却時間が過ぎておりますので・・・」という呼びかけがあった。ぎりぎりまで新商品で滑りまくっているのだろう。

そんな滑りまくり野郎たちの間を、わっさわっさと歩いていく僕ら。ちょっと違和感のある光景だ。ニューモデルスキーだ?馬鹿言っちゃいけない。僕らこそ時代の最先端だ。

・・・と、ライバル意識を無駄にかき立てられつつ歩くのだが、その横をすいーっとスキー板で滑っていくニューモデルな奴ら。楽そうだなぁ。

一面の雪野原

このあたりは一面の銀世界。雪がだれまくっているかと思ったが、まだ快適な雪質だった。

そんな中、一歩一歩歩いていく。坂道なんてへっちゃらだ。ほら、これからこの坂を上っていくぞ。スキーにもスノボにもこんなことはできない。

白銀の世界においては、僕は常に高速で滑り抜けてきた。こうやって、「ゆっくりと歩きながら景色を愛でる」のは初めての体験だ。

木々が気持ち良い

青い空、白い雪。そして、その間を貫くように伸びる木々。

ぶなの木が美しく、白い大地の中でくっきりと生きている様は潔い。

青空と、雪と1

青空と、雪と2

良い景色だなあ・・・。

スローに、ぽくぽく歩くので、ふと立ち止まって写真撮影するのも容易。春スキーのシーズンとはいえ、ゲレンデには殆どスキーヤーの姿が無かった。それがまた、ものすごい開放感を与えてくれる。心の隅々まで洗われる気分だ。

立ち入り禁止看板

滑るのではなく、歩くことで気づく自然の美しさ。スノーシューならではの楽しみだ。

しかし、スキーヤーと同じゲレンデ、しかも圧雪されている場所を歩いているだけでは物足りない。さあここからが本番。道無き道へとさまよいこもう。

目の前には「立ち入り禁止」という看板が。

その看板の脇を、ずかずかと侵入していく。参加者一同、「おおー」と感嘆の声をあげる。

遭難!コースには戻れません

「遭難!コースには戻れません」

と書かれた看板の横も、何も見なかったかのように通過していった。

何だかこれからすごく悪い事をするみたいで、わくわくさせられる。

大丈夫、村公認のイベントで、なおかつ村役場の人が先導してくれているので、お墨付きの「立ち入り許可」だ。

ゲレンデから外れて歩く

ゲレンデから外れると、圧雪されていないために雪は柔らかい。

恐らく普通の靴だったら、一歩歩くたびに雪に足が埋まってしまうのだろう。スノーシューを履いているので、そんな懸念は全くなく、ぺたぺたと歩いていくことができる。

鹿にかじられた木の枝

鹿にかじられた木の枝があった。

宿り木

これ何の写真だったっけ。宿り木だったか、鳥の巣だったか忘れた。

ニホンカモシカのふん

ニホンカモシカのふん。

このあたりにカモシカが生息しているようだ。

木の周辺だけ雪が溶けている

大きな木の周辺は雪が溶け、深い穴を作っていた。木というものは温度を持たないような印象があったが、これを見ると木は生きていて、ちゃんと体温のようなものがあることがわかる。大地から吸い上げた水分、太陽から受けた日光。そういったものが体温となり、周囲の雪を溶かしている。

のぞき込んでみると、1m以上ある。うかつに近づくと、あり地獄みたいに落っこちて出られなくなってしまいそうだ。危険。

雪に覆われてまだ春は遠い、という雰囲気だったが、こういうところで春の胎動を感じた。

夏は林道であろう道に出る

スキーやスノーボードだと躊躇してしまうような急斜面も、一歩一歩踏みしめていけば大丈夫。でも、さすがにまっすぐ急降下するのは難しいので、斜めに進みながら高度を下げていく。

夏の間には林道があるであろうところに降り立った。昔はここに隣村から続く水路があったらしい。微妙な高さをつけて水を流すために、測量は夜にろうそくを立てて行われたという。ろうそくの炎が水路予定地に沿って点々と光って見えるので、それで高低を計っていたのだろう。

発泡酒の試供缶をもらう

ここいらでちょっと一休み。

スノーシューを借りる際に主催者から頂いた発泡酒の試供缶を少量。

うう、「夏こそビールだ」という言葉はよく聞かれるが、こうやって飲むと「冬でもビールだ。」と力強く答えたい。

山の中を歩く

行動再開。

スキーヤーたちが全く入り込まない山の中を歩く。

ゲレンデのスピーカーから流れる音楽も聞こえず、ひたすら静寂だ。静寂もごちそうの一つ。

ニホンカモシカ

谷の向こう側にニホンカモシカを発見。

僕はこの生き物を初めて見たので、ちょっと興奮。一生懸命撮影しようとしたが、距離が遠く望遠で近づいてもこれがやっとだった。

ヤドリギだらけ

ヤドリギがたくさん繁殖した木。寄生されまくっている。それでも一生懸命木々は生きる。

春を待つンガロー

大自然の中を歩いていたら、人口建造物が見えてきた。バンガロー群。

このあたりは夏はキャンプ場になっているようだ。

あー、そういえばここ、昔来たことがある。2000年の秋、蕎麦を食べ歩いていた時に立ち寄ったことがあるなあ。

雪に閉ざされた沼

厚い雪に覆われた沼。

雪原になっている。沼があることを知らない人にとっては、「なぜここだけ急に木が生えていないんだろう?」と不思議になるだろう。

雪が降らないとこんな光景

2000年秋にこの地を訪れた時の写真。

ご覧の通り、浅い沼が広がっているのであった。

なめこの味噌汁

ここで、主催者側がなめこの味噌汁を作ってくれた。

てきぱきと、手慣れた手つきで準備を進める。ガスストーブの下に板を敷いたり、風防替わりにスノーシューを立てかけるなど、なるほど、と感心させられる。

できあがったなめこの味噌汁

できあがったなめこの味噌汁。おいしそう。

ビールを飲みながら

ではせっかくなので、支給品の発泡酒とは別に持ち込んでいたビールを飲みながら。

リュックに入れているだけなのに、十分にビールは良く冷えていた。寒空の下でビールだと体が冷えそうだが、これまで十分に体を動かしてきたので全く問題はない。しかも、でき立てのなめこの味噌汁を頂きながら、だ。

夏になると表れるであろう沼に思いを馳せつつ、ぐいーっと。良い哉良い哉。

林の中を歩く

小腹を満たしたところで、行動再開。

このあたりから山の傾斜はなだらかになり、さくさく歩くことができた。

誰も踏みしめたことのない雪面に、一人づつ足跡を刻んでいく。

雪に折れた木の枝

雪の重みに耐えかねて、ぼきっと折れてしまった若木。

雪の暴力。雪の力は強い。

歩く

歩く。

開けた場所

ゲレンデでもないのに、こんなに開けたところがあった。

春スキーシーズン中は閉鎖されているコースなのだろうか。不明。

一本だけ取り残された木が、程良い景色を形作っている。まるで北海道の美瑛のようだ。

ゴンドラ駅が見えてきた

スキーコースと合流し、われわれはゴンドラ駅に向かっていった。

急に現実に引き戻される瞬間。

さっきまでは、天下の主になったような気分でのっしのっしと歩いていたが、ここに来るとのろまな亀に思えてくる。すぐ横をすいーっと気持ちよさそうにスキーヤーが通過していった。

ゴンドラに乗って下山

ゴンドラに乗って下山。

野沢温泉村の町並みを下に見下ろす。

スキーに訪れた観光客にとっては当たり前な光景かもしれないが、僕らみたいにボランティアとしてゲレンデに行かず、ずっと街の中で生活していた人間にとってはこの光景は妙に新鮮だった。

スキージャンプ台

ゴンドラを下りた先にあるスキージャンプ台。

このあたりは、もう春が近づきつつあることが分かる。雪があちこちで溶けていた。長かった野沢温泉の冬も、そろそろ春が近づいているようだ。でも、あの先ほどまで歩いていた雪深い山中に春が訪れるのはどれくらい先になるのだろう?しばらくは春の息吹を聞くまでに時間がかかりそうだ。

このあと、村役場の人と歓談した後に東京方面に退却していった。これまた、片道4時間近く。さすがに帰宅したときはへとへとになっていた。

これにて、スノーシューイング体験談はおしまい。

面白い話題も失敗談も何もないじゃないか、という声が聞こえてきそうだ。何だこのチラシの裏に書くべき的な文章は、と言われそうだ。確かに。今回は、特にこのwebを使って伝えたいネタ的要素は全くなかった。しかし、何だか報告せずにはいられない、そんなすばらしさに満ちた雪歩きだったのでこうして文章におこしてみた次第だ。いつもは高速で滑走する雪面。しかし、ゆっくりと歩いてみると、そこには日常生活にはない驚きと感動があった。

スノーシュー。地味なレジャーではあるが、とても面白いものだった。また機会があればトライしてみたい。