スパイシーな夜を、貴方に。(四川料理/味覚)

「この中で辛いメニューってどれになりますか?」

店員さんに素直に聞いてみる。こういうのは聞いちゃったほうが手っ取り早い。

「うちのはどれも辛いヨ?」

なまりのある日本語で店員さんが答えてくれた。ほう、そうなの?どれも辛いの?激辛料理が自慢のお店というのは空の星ほどの数存在するが、「出てくるメニューどれも辛い」お店というのは案外少ないものだ。そんなメニュー構成にしたら、マニアしか訪れないお店になってしまい経営が立ちゆかない。でもこのお店は「どれも辛い」のだという。

さすがに前菜にある「冷やしトマト」なんぞが辛いわけはないと思う。半信半疑で、

「じゃあ、辛い中でも特に辛いヤツってどんなのが?」

と追い打ちをかけて聞いてみた。すると、前菜のトップに書かれている「味噌やっこ豆腐」なんぞも辛いのだという。バンバンジーも辛いよ、と。嘘だろ?前菜からガンガン攻めてくるじゃあないか。この人日本語通じてるのか?

味噌やっこ豆腐

で、半信半疑のまま頼んでみた前菜。味噌やっこ豆腐。出てきた料理を見て、全員納得しちゃって「ああ」と声を出したあと笑った。なるほど確かにこりゃ辛そうだわ。激辛!というほどではないにせよ、前菜にしては攻めたなオイ、という。これはこれからが期待できそうだ。

ネギチャーシュー

そんなわけで、同じく前菜のネギチャーシューもそこそこ辛くて良いスターターキットだった。辣油が絡まって、生のネギの青臭い辛さと相まってよろし。ネギの辛さを肉の甘さで中和。柿の種を食べている気分と似ていた。

紙に覆われて石鍋登場

しばらくしたら、厨房の方でじゅーっという音が聞こえてきた。振り返ると、ドライアイスに水でもぶっかけたのか、というくらい猛烈に湯気が立ち上がっているのが見えた。あっ、あれが噂の「頂天石焼麻婆豆腐」なのか。

見るからに店員さんがおそるおそる運んできたそれは、油紙のようなものがかぶせてあった。グツグツのために中身が飛び跳ねたら熱いやら痛いやらで大変なことになるからだろう。こんな見てくれの麻婆豆腐は初体験だ。一同騒然となる。

当の店員さんは慣れたもので、何事もなかったかのように器をテーブルに置き・・・となるかと思いきや、既に顔をしかめているし、腰が引け気味なのがわかる。ハハハなにをご冗談を。

頂天石鍋麻婆豆腐

紙を取り払った店員さんは、二つのレンゲを使って中身をざっくりとかき混ぜ始めた。ますます立ちこめる湯気。その瞬間、店員さんが咳き込んだ。何回も。

うわ、バラエティ番組のオーバーアクション演出を目の前で見ているかのようだ。

「嘘でしょ?そんなわけないじゃん」

その場に居合わせた全員が笑い飛ばした。だって、目の前に器があるのに、着席している我々がニコニコ平気だ。咳き込んでいるのは店員さんだけじゃないか。

・・・と思ったら、メンバーの一人が咳き込み始めた。

「またまた、ご冗談を」

とそれを笑った僕も、笑った瞬間に咳き込んだ。ケホケホ。

石鍋からほとばしった辛さ成分満載の空気が、じわじわと周辺を汚染しはじめたらしい。最初は湯気として真上に上昇していたのだが、それが重力に従って舞い降りてきたらしい。

これにはびっくりした。風邪を引いたときの咳とは全く違う。もっと軽薄な表層的な咳だ。「ゲホゲホ」ではなく、「ケホケホ」。喉の「咳スイッチ」が勝手にオンされた、って感じ。イガイガでもないし、ひりひりでもない。本当に、脊髄反射的に咳が出るのだった。

「うひゃあ!」

これには全員がびっくりしてしまい、思わず奇声を上げた。

扉半開き

店員さんが逃げ出す、というのはさすがに大げさだったが、入り口の扉は大きく開け放たれ、しばらくはこのまま換気された。入り口すぐ横に座っていた僕は寒くてしょうがなく、ガクガクするハメになってしまった。何しろ外は1月中旬の真冬だ。辛いのを食べたって寒いものは寒い。でも、それくらいしないと、毒ガス濃度が希釈できないということだ。

「むせるくらいの辛さ成分を含んだ麻婆豆腐」に一同騒然としたが、実際のお味はかなりいい塩梅だった。これはうまい。辛さのあまり味がわからん、というわけではなく、肉と豆腐から感じられる甘みを引き立て、手頃な辛さだった。ただし、熱い上に辛いので、ばくばく食べるものではない。あんまり大口開けてどかっと食べると、確実にむせる。それはさっきの咳き込みの比じゃないくらいに苦しいだろうから、気をつけないと。

メインイベントが早々に出てしまったので、後は普通の中華料理店での宴会風情。どれもいい味だった。一つ一つの料理について熱弁を振るうほどのことはないので、ばっさりと省略。

牛肉水煮
牛肉水煮アップ

最後、「食べ放題メニューには入っていないけど、是非食べた方がいい!って友達から言われたから」と言う人がいて、別注文で牛肉水煮を注文した。四川料理の定番で、見るからに辛そうなビジュアルは問答無用だ。

「この料理はご飯の友なのか、それとも酒の肴なのか」という議論をしながら食べたが、とても美味しかった。これ、汁ものなので酒の肴としてはジャブジャブしていて邪魔くさいし、かといってご飯にあわせるのも微妙な気がする。チャーハンに添えて食べるのが一番のジャスティスかもしれない。

そんなこんなで、2014年の新年会は終わった。満足感のある宴会であり、また利用したいね!という声が早速上がっていたくらいだ。いいね、また訪問したいものだ。今度は麻婆豆腐一人ひと皿で。

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