その5:涅槃の9月(1)
まだまだ遍路は続く。平日休日問わず。
【30軒目】ラーメン二郎三田本店(東京都港区三田) 2010年08月17日
二郎の総本山、三田本店。
平日と土曜日の昼間しか営業していないので、訪問するにはハードルが高い。土曜日はここぞとばかりに人が殺到するので、殺人的な行列の長さになる。間違っても猛暑や厳寒の時期に、土曜日訪問はするべきではない。実際この日、鋭い太陽光に炙られ、オーブンの中にある七面鳥の気分にさせられた。
本店は三階建てになっており、上から見ると三角形型の不思議な建物だ。道路拡張の際に移転を余儀なくされ、今この地に店を構えている。二階から上は製麺したり下ごしらえしたりする場所になっているはずだが、実際に見学したことはないのでわからない。厨房には上の階に通じるエレベーターが備わっており、上で作られた麺などは食料品専用エレベーターで階下に下ろされる。
昔は慶応の学生が鍋を持って裏口にやってきて、「鍋、1,000円分で」などとオーダーすることができた。その鍋を部室に持ち帰って、仲間で食べる。鍋二郎だ。今でもできるかもしれないが、多分できないと思う。この「鍋」オーダーが入ると、行列数人分の割り込みが入ることと等しく、並んでいる人は「あー、鍋入っちゃよ」とがっかりすることになる。
本店の名物といえば、鳩。主に裏口を中心に数匹が常にうろうろしており、よく店舗内に入ってくる。客の足元あたりを物色し、モヤシやら麺の端が落ちていたら「しめた!」とばかりにつついている。鳩が店内に平然と居座る、奇妙な二郎。
鳩の寿命がどれくらいかは知らないが、もうかれこれ10年近くはずっと鳩がこの店に居座っているのをおかでんは確認している。だから、代替わりしてもまだ根城にしているようだ。
その鳩だが、とてもじゃないがマスコットキャラにはなれない不細工さ。アブラっぽいものを常に食べているからか、毛並みは非常に悪く、病気に罹患しているように見える。あまり二郎を食べ過ぎると、この鳩のようになるぞ、という警鐘かもしれない。
ぶた入り大ラーメン ヤサイニンニク 750円
このお店では、大を頼むと赤い丼、小を頼むと白い丼で提供される。しかしその丼のサイズには目立った違いが無く、むしろ白の方が大きいのではないか?と疑ってしまうくらいだ。
実際、盛りつけは店主のノリとテンション次第というところで、熟練の技が織りなすブレが随所に現れる。
ブレが大きいのがこのお店の特徴で、明日の新店店主候補となる人が助手としてやってきているせいか、訪問した時期によって麺の堅さやスープのできが違う。中期的なブレと、日替わりの短期的なブレがある。当たればラッキー、外れればまた次回どうぞ。
さらに、超短期的なブレもある。このお店は、スープの寸胴の水位が下がってきたら、水道水をじゃーっと注いで水かさを増やすのだった。その光景をはじめて見た時の衝撃はすごかったが、今やすっかりおなじみの光景。スープ寸胴に水を足すし、背脂も豚肉も足すので、時には薄く感じられたり、時にはやや生臭く感じられたりする。そういうのも楽しめてこその三田本店。
なお、コップの水は水道の蛇口から注がれる。それもまた、シンプルすぎてワイルド。女性受けはなかなかしない店だ。
【31軒目】ラーメン二郎仙川店(東京都調布市仙川町) 2010年08月18日
仙川の二郎は夜営業のみのスタイル。
二郎の中でも非常に珍しい「鍋によるお持ち帰り」、すなわち「鍋二郎」がOKな店。とはいえ、以前は店頭に鍋二郎の案内表示があったが、今は取り外されている。あまり積極的にはやりたくないのかもしれない。
鍋二郎をする際は、スープを入れるための鍋と、生麺を入れるためのビニール袋持参のこと。それで、なにがしかの現金とともに助手に出せば、用意してくれる。
ちなみに生麺だけでも1玉100円で売ってくれる。家で二郎を再現するもよし、麺で焼きそばや混ぜそばを作ってみるもよし。
店頭には逆さづりにされたニワトリ。「にぎって」と書いてあるので、うっかり握ると周囲にひびく大きな音で鳴き叫ぶので注意が必要。しかも一回だけでなく、何度も鳴くから、握った人は大層ばつが悪い。
大盛りラーメン ヤサイニンニク 800円
店主からは小さな声でトッピングコールをされるので、うっかり気が散っていたら気づかないままスルーされてしまう。
「大の方・・・」と手をすっと差し出すだけで、「ニンニク入れますか?」という定番フレーズは使われない。はじめての人は何を意味する呼びかけなのか、理解できないと思う。そういうハードルの高さも二郎の特徴。
ハードルの高さといえば、この店は殺伐としている。総じて二郎は殺伐系の店が多いが、ここはその中でも殺伐度が高い。ちなみに殺伐度で高ランクなのは相模大野、京成大久保、松戸駅前など。
【32軒目】ラーメン勇花(埼玉県戸田市美女木) 2010年08月22日
埼玉県戸田市、外環道と首都高速のジャンクション(なんと信号機が設置されている。高速道路なのに)で有名な「美女木」の近くにある「ラーメン勇花」。
ここの店主は以前富士丸の西新井大師店で助手をしていた事があり、スピンアウトして自らの城をこの地にこしらえた。どうも「ラーメン二郎」はその看板を受け継ぐために助手の求心力が働くのに対し、「ラーメン富士丸」は遠心力、つまり助手をやめてから自力でお店を興す力の方が強いようだ。京都で初の本格的二郎系ラーメンの店となった「ラーメン荘 夢を語れ」は西新井大師店の店長だった人によるもの。
なお、既に巡礼済の「めんしろう」はこのお店からのスピンアウト。
そうやって富士丸から離脱・独立しただけあって、店主には思い入れがあるようだ。自らがいつも着ている黒いTシャツの肩には、「店主・●●」と自分の名前を染め抜いている。
豚入りラーメン汁無し+生ニンニク ヤサイニンニク 980円
このお店に行く時はいつも「汁無し」を頼んでいる。各店舗、ラーメンにそろえた方がこの連載の資料的価値が高いのだが、このお店に関してはどうしても「ラーメン」より「汁無し」を選んでしまう。スープの味がおかでんの好みと路線が違いすぎるからだ。汁無しにしてラー油を入れたりして食べると、麺のワイルドさをじかに楽しめるので結構おいしい。
勇花に限った事ではないが、富士丸系の店では「ニンニクトッピング(無料)」はあまり迫力がない。なぜなら、業務用のボトルに入ったニンニクを使っており、風味が欠けるからだ。パンチの効いたニンニクは別料金、50円で売られている。明日口臭を気にしなくて済むならば、別売りニンニクを試してみると良い。この半分でも十分なのに、という量が提供される。
【33軒目】ラーメン富士丸神谷本店(東京都北区神谷) 2010年08月26日
ラーメン富士丸の本店、「神谷本店」。旧ラーメン二郎赤羽店。
この建物の二階が「富士丸製麺」になっていて、富士丸全店舗の麺を一括生産している。
陸の孤島に近い場所で、なおかつ手頃なコインパーキングが近くにないことから、店の前に群がる行列は一体どこから沸いて出たのか?と常々不思議に思う。なお、行列に並んでいたら、時々「フィーン」と掃除機か、ミキサーかといった軽い羽音が頭上からする時がある。そのときは謎の白い粉が降ってくるので要注意。製麺所を掃除・換気した際の小麦粉だ、という説と、隣の家の人が行列の人々に頭に来ていて、嫌がらせで何か粉を巻いているのではないか、という説の二つがあるがはっきりとしない。
国産ブタメン ヤサイニンニクアブラ 1,000円
注意と言えば決壊。
富士丸に限らずどの二郎であっても、丼をカウンターに置いたらダラダラとスープがあふれる、という「決壊」のリスクはある。しかし、その中でもモストデンジェラスなのが神谷本店。カウンター老朽化に伴い、盤面が結構傾いているのだった。よって、わずかでも丼からの決壊を許したが最後、つつーっとスープの海ができ、それが川となって我が身に迫ってくるのだった。想像してみて欲しい、おしぼり一つでは決壊を防ぎ切れないくらいの勢いがある、ということを(写真参照)。
この日は、助手さんが慌てて災害救助にあたり、おしぼり2つめでなんとか食い止められた。ズボンを濡らす事はなかったが、スープの海は川となり、そして滝となって床にしたたっていた。
【34軒目】ラーメン二郎松戸駅前店(千葉県松戸市本町) 2010年08月28日
千葉県松戸市にある二郎。
この二郎は夏休み時期ということも相まって、臨時休業が比較的多い。昼営業はやっていた、という情報をつかんだ上で夜に行ってみたら閉まっていた、ということもあり、松戸という地政学上休業時のダメージはとてつもなくデカい。
おかでんはこの開店に出会うまで4回も足を運んだ。車に乗り、外環道で1時間くらいかけて訪れるので、ガソリン代と通行料をあわせると金銭負担だって馬鹿にならない。ましてや、コインパーキングに車を駐めたあとになって営業していないことを知った日にゃあ。
でも、ここで怒っても始まらない。今やっていることは「巡礼」であると思い、心清らかにありのままを受け止めるしかない。
無心で臨まないと、ということで、習志野で酒飲んで酔っ払った勢いで訪問したら開いていた。無心になる最短ルートはアルコールだな。そのかわり、JR武蔵野線を延々と乗るのは随分疲労するのだけど。
大盛りラーメン ヤサイニンニク 750円
無心だけでは駄目だ。このお店は独特のルールがあるので、それを把握していないといけない。若干というかかなり引き締まった空気の店で、しーんと店内は静まりかえっているのでミスなくクリアしたい。
独特なルールとは、このお店ではトッピングコールのタイミングが大きく違うということだ。普通は、ゆで釜から麺が丼に盛り分けられた時点で一人一人聞いていくが、このお店の場合は麺がゆで釜に投入された直後になる。二郎経験値が高い人ほど、驚く。でも、そういう経験値が高い人は適応力も身につけているので、そこまで狼狽はしない。
麺の堅さを指定するのは、このトッピングコール時。
よく、他の店で「ニンニク入れますか?」「ええと、入れてください。あ、あと麺堅めで」「麺堅めは最初に言ってくれないと」「は、はあ・・・」というやりとりを目にするが、この店の場合それはない。二郎35店舗の中でも唯一のオリジナルルールだ。なお、さすがに厨房の奥さんが丸暗記するのは無理なので、メモをとっている。コールをメモるのもこのお店オリジナル。
店主は、トッピングを開始する前に、麺が入った丼から丹念に液体油をレードルですくい取っていた。油で味がぼけないようにするためなのかもしれないが、その油をまたスープ寸胴に戻していたのが気になる。このオペレーションを続けていたら、しばらくしたら寸胴の中が油だらけになってしまうような気がする。
【35軒目】ラーメン二郎めじろ台法政大学前店(東京都八王子市寺田町) 2010年09月11日
都心をメインテリトリーとしている二郎の最西部にある店が「めじろ台法政大学前店」。高尾山の近くだ。ハイキングの帰りにぜひどうぞ。といっても、駅から相当離れているので、お店までさらにハイキングになるが。
法政大学前、と名乗ってはいるが、店からは大学のだの字も見えないくらい離れている。大学の名前を入れた方が活気があってよさそう、と思ったのだろうか。
以前、「美貌の盛り」にてこのお店を紹介したことがある。栄えある第一回連載店舗。
遠方なので、ついついここにきたら「大豚W」という店の中では一番量が多いメニューを注文してしまったものだ。今となっては、「栃木街道」などさらに都心から遠い店ができたので、ここが「地の果ての店」といった薫りはしなくなった。
店主はいつも几帳面に、麺を計りでただしく計測してからゆでている。ゆでるのはテボを使うため、一人前の量がブレることはない。ねじりはちまきが定番のスタイルだし、「職人」的な雰囲気がある人。
ここの店主は二郎の助手からラーメン屋のキャリアをスタートさせた訳ではない。それ以前にラーメンショップか何かのお店をやっていたらしい。そういう流れもあってか、店頭には「味自慢 ラーメン」「味自慢 つけ麺」といったのぼりが「どうだ」とばかりにはためいている。二郎でこの手の宣伝は他に例がない。宣伝しなくてもお客さんがくるわけで、やる必然性がないからだ。
しかし店主としては「店頭は華やかな方がいいだろう」くらいに思っているのかもしれない。
二郎の店頭または店内には、青色の自販機が据え付けられている事が多い。その大半がサントリーであり、一部アサヒ飲料が混じっている。サントリーといえばなんと言っても「黒烏龍茶」であり、非常によく売れる「キラーコンテンツ」である。
わざわざ黒烏龍茶を買って飲んでいる人は、これを飲めば摂取した油分がカットされるなんて全く信じちゃいない。どう考えても無理だ、と悟っているからだ。狭い店内、食事中にお冷やのおかわりをするとなると、給水器のところまで何人もの人を「すいませんすいません」と言いつつ押しのけないといけない。それがイヤなので、何かペットボトルのお茶を・・・となり、せっかくだから黒烏龍茶、という判断だ。
このお店の場合、店頭に黒烏龍茶専用の自販機が設置されていて驚く。このような自販機にニーズがあるのかどうか、二郎以外のシチュエーションでは想像がつかない。わざわざこれをこしらえたサントリーにも驚きだが、それを設置したこのお店に対してもびっくりだ。
ぶた大ラーメン ヤサイニンニクアブラ 900円
店内には二十歳そこそこの若い女性助手さんがいる。
チンタラした動きは全く見せず、堂に入った貫禄で堂々のトッピングコール。あちこち動き回ってコールを確認している様は、「いずれは男性社会の二郎でも、女性店主が現れるかもしれない」という期待を抱かせるものだった。本人にその気があるなら、ぜひ店主を目指して欲しい。
【36軒目】ラーメン二郎品川店(東京都品川区北品川) 2010年09月14日
品川、といっても北品川が最寄り駅の「ラーメン二郎品川店」。
夏前に店内改装のため長期休暇に入り、1カ月以上休んだのちに復活。隣のスペースをぶち抜き、店舗面積を随分と広くした。二郎といえば狭い店を想像しがちだが、最近の新規店を見ると、そこそこの広さは確保するようになってきている。時代の流れか。
新装開店の際には本店の山田氏も応援に駆けつけ、新規オープンの店同様営業を盛り上げたという。
この品川店だが、昼も夜も実は隠れ行列店となっている。インターシティという超大規模オフィス街が眼前にあるので、そこを抜け出してきたサラリーマンが多数集うからだ。夜は行列が30人越えもあるようなので、油断しているとえらい目に遭う。
マンションの一階にテナントを構えているが、二階の人は洗濯物が全部二郎風味に燻製されるという特権付き。ああうらやましい。
大盛焼豚 大豚 ヤサイニンニク 900円
このお店はカウンターが高く作られており、目の前に立ちはだかっている。そのため、店主と助手のオペレーションがほとんど見えない。何か魔法の調味料を入れているのかもしれない。
このお店は珍しくトッピングコールでダブルはおろかトリプルが指定できる。珍しく、というかこのお店限りだ。そもそも、「ダブル」などの英語が通用するのはここと、池袋、歌舞伎町の3店舗だけだと思われる。品川の二郎も生粋の二郎ではないため、そういう独特の文化が存在し、今まで継承されてきたわけだ。一般的には、マシ、マシマシとなる。でも、その「マシマシ」でさえ存在しない店が大半なのだが。
なお、よっぽど自身がある人は「ヤサイタワー」というコールもある。ただ、スーツ姿のサラリーマンがそれをやると相当貧乏臭いので、TPOをわきまえなくては到底頼めない。
ちなみに「ニンニクタワー」と頼めるのかどうかは知らない。
大ぶりで間口が広い丼は、見た目のボリューム感がでにくいが、食べやすいということで重宝する。
【37軒目】ラーメン二郎上野毛店(東京都世田谷区上野毛) 2010年09月22日
上野毛駅から徒歩1分弱、という好立地なところにある「ラーメン二郎上野毛店」。「上野毛駅前店」とはしていない。基本的に二郎には「5kmルール」がある以上、あまり詳細な地名を店名に織り込む必要はない。だから、シンプルに「上野毛店」なのかもしれない。
「池袋東口店」なんて、まるで西口にもありそうな勢いのネーミングだが、当然そのような店はない。もっとも、西口にお店を作ったらそれはそれで繁盛するとは思う。(同レベルの味を提供するなら)客の食い合いということはないと思う。
このお店の場合、駅からごくごく近いとはいえ、改札口からは店の入口が見えない場所にある。そのため、わざわざご丁寧に「ラーメン二郎←」という看板が設置されている。黄色い看板がまぶしい。
二郎という看板を掲げていても、味も似ていなければお作法も似ていないというのはこれまで紹介してきた通り。調理法ですら店ごとにばらばらなのは非常に特徴的だ。普通は、お師匠さんの作り方を踏襲するものだ。
本店では、麺をゆでる場合は、人数分の麺をゆで釜に全部投入する。ゆであがったら平ざるで麺をすくい上げ、平ざるで湯切りをしつつ丼によそっていく。
しかし、店の中にはテボ(グリップがついた小さな深底ざる。1人前程度の麺をゆでる事ができる)を使っている店もある。上野毛しかり、その一つ前の品川もそう。比較的新しい二郎はすべて平ざる店だが、そこそこ古い時代から二郎を名乗っている店はテボを使っているところが散見される。
テボの方がオペレーションが楽になるので、一般的なラーメン店ではよく使われる。だが、二郎のような太麺の場合、テボを使うと麺同士がざるの中でくっついてしまい、ダマになりやすいので注意が必要。
大豚入り ヤサイニンニク 850円
このお店のオペレーションは独特。
丼をスタンバイ後、化学調味料をひと匙。その後、スープ寸胴の上澄みをレードルですくい、各丼に注いでいるのだった。つまりは、液体油。結構真剣なまなざしで、慎重に行っているので大切な儀式らしい。そして麺がゆで上がる前になって、あらためてスープを丼に注ぎ、麺を入れ、トッピングコールしてお客に提供。
油っぽいのではないか、と思ったら思った通りに液体油が層をなすいっぱいの完成。札幌ラーメンと一緒で、油膜のおかげでラーメンはいつまでも熱々。口のやけどに注意。食べているうちに、大量の汗と鼻水、涙をぐっしょりとかいてしまった。ティッシュとタオルの持参をお忘れ無く。
(つづく)
(2010.10.01)
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