オフ会の定番企画、「羊肉の会」シリーズ第8回目。

オフ会というか、単に友人のよこさんから「モンゴル料理のお店が西日暮里にあるから食べに行かないか」と提案があったので、その案に乗った会だった。
ちょうど僕もGoogleマップでこのお店の存在に気がついていて、自分の中での「行きたいお店リスト」に入れていたところだったので渡りに船だった。
このサイトで募集をかけたわけではないので、「オフ会」と呼ぶのはおかしいんだが、よこさんとは10年来のオフ会仲間。なので、なんとなくオフ会。

お店の名前はイフモンゴル。
尾久橋通りと明治通りが交差する場所の近くにある。
あらゆる路線の駅からも微妙に遠いところにあるので、どちらかというと地元民向けの立地条件だ。
・・・と思ったら、次から次へとお店にお客さんが入っていく。しかも、見るからにモンゴルにルーツがある方々だ。だって、モンゴルの民族衣装を着てるんだもの、きっとそうだと思う。結婚式かなにかお祝いごとがあって、その二次会でここにやってきたのかもしれない。
店内は朝青龍と記念写真を撮ったよ!という写真がいくつか飾ってあった。モンゴル出身の人にとっては大事なお店らしい。
よこさんは、大相撲観戦が趣味だ。で、モンゴル出身のナントカ関(名前を忘れた)もこのお店を利用していて、それでこのお店のことが気になっていたと言う。へー。
そういえば、ここのご主人もかなりゴツい体格をしていらっしゃる。同じ男として戦って勝てる気がしない。モンゴル相撲か、大相撲か、どちらかの心得がありそうな気配だ。

モンゴルといえば羊肉料理がおなじみだ。
しかし、このお店は羊だけでなく牛肉も使った料理がいくつもあった。
いずれにせよ、中国料理などとくらべて圧倒的に認知度が低い料理だらけで、「さて・・・何を選ぼう?」と悩んでしまう。
中国料理の場合、「前菜(冷菜)」「炒め」「揚げ」「煮」「飯・麺類」などとジャンルごとにメニューがわかれていて、僕らもなんとなくその分類学にもとづいて料理を選択する。でも、モンゴル料理店の場合はそうはいかない。
ええと、どれを頼んだら他の料理とバッティングしちゃうんだろう?とチラチラ前後のページを見比べ、なかなか決まらない。

こういう民族料理のお店の場合、僕らが気をつけないといけないことがある。
それは、「ガチなものを食べたくて訪れているんだから、ガチではないメニューを頼んで財布と胃袋のリソースを圧迫するのはやめよう」ということだ。
たとえば、「シーザーサラダ700円」というのがメニューに載っている。シーザーサラダが食べたい人にとってはありがたいメニューだとは思うが、たぶんこれ、モンゴルのネイティブな料理ではないはずだ。どうしてもサラダが食べたいならば止めないが、それよりも別のものを頼んだほうがきっと楽しい。

ほらほら、このあたりにくるといかにもモンゴルっぽいメニューになってきたぞ。
「モンゴルうどん」のように日本語にローカライズされたメニュー名もあるけれど、「ホイツァイ」「ホルホグ」のように翻訳不可!そのまま現地語(を日本語の発音でカタカナ表記)だ!というものも混じっている。
ところでホイツァイってなんだ?煮物っぽいな。
団体で盛り上がっている民族衣装の人々は、骨付き羊肉と根野菜の盛り合わせの「ホルホグ」をみんなで食べていた。
メニュー写真だと、料理盛り合わせのとなりに黒い炭?のようなものが見える。これは・・・なんだ?食べ物ではなさそうだ。
あとで調べてみたら、ホルホグという料理は、鍋の中に羊肉、じゃがいも、にんじん、たまねぎ、熱した石を交互に敷き詰めて加熱する食べ物なんだそうだ。なるほど、その石か。ちなみに味は塩のみ。こういうシンプルさがモンゴル料理に醍醐味だ。

外国料理店に行った際、メニューのお酒欄を見るのも隠れた楽しみだ。
そのお店や国において、何の飲み物を重視しているかがわかるからだ。
えっと、このお店は・・・あれっ、ワイン?ワインがドリンクメニューの先頭なのか。これにはびっくりした。
ワイン、サワー、日本酒、焼酎、ソフトドリンク・・・と続いていく。おっ、ビールがないぞ?

ビールは次のページだった。ソフトドリンクのあとにビールが出てくるメニュー構成、というのは初めて見た。
これは、お店や国民性によるお酒の重要度の違いだけでなく、モノをどのように整理するのか、論理的思考法が国の教育によって異なるということも関係している気がする。
なお、ビールのあとにモンゴルウォッカ、そしてウィスキーと続く。いちいち面白い。
だって、ウィスキーの欄に書かれているのは、コニャックのヘネシーとジャパニーズウィスキーの竹鶴だぞ?なんだこの組み合わせは。
そして、日本酒は越乃寒梅と手取川。いいなあ、面白い。
もっと面白いのが、このページの右側に「飲めば飲むほどきれいになる チャチャルガン健康サワー」と書かれていたことだ。チャチャルガン?聞いたことがない。
年間の温度差90度に耐え抜く植物、チャチャルの実を使った飲み物だという。チャチャルガンにはアスパラギン酸が多く含まれ、体内のアンモニアを体外に排出して健康にしてくれるとかなんとか。それがほんとうならヤバいな。チャチャルガンに頼らないと体内のアンモニアが排出できないような内蔵なら、すぐに病院に行った方が良いレベルな気がする。
それはともかく、響きがいい。チャチャルガン。
サワーもあるけど、ジュースもあるので、お酒を飲まない僕も頼んでみよう、チャチャルガン。
お前、「チャチャルガン」って言いたいだけちゃうんか。

ということで頼んでしまった。
左から、ウーロン茶、チャチャルガンドリンク、チャチャルガンサワー。
チャチャルガンジュースはマンゴージュースのような色をしている。これをサワーにすると、ウコンハイのような色に。
味は覚えていない。そんなにクセがある味ではなかったと思う。

こういうお店を訪れたら、何を頼むのが正解なのか。
もちろん「食べたいものを食べる」というのは第一優先だけど、せっかくなんだから「よくわからないメニュー」を頼んでおきたい。いまどき、「ペッペッ!まずくて食べられないよ!」なんてものが出てくることはないんだから。
特に、「店員さんにオーダーする際、発音するのがちょっと心ときめく」名前のメニューはぜひ頼みたい。
ということで、「バンタン」。
メニューにバンタン、としか書かれていないのでなんだかよくわからない。どうやらスープっぽい。
バンタンが届いてみると、羊肉が入ったすいとんだった。味付けは塩だけか、なにか他のものが入っているとしてもほんのちょっとだと思う。シンプルな味付けだけど、癖のある食材である羊肉のおかげで十分に美味しく仕上がっている。
やっぱり羊肉って偉大だ、と思う。
牛豚鳥も偉大だけど、羊肉もそれに匹敵する偉大なる肉だと思う。もっと日本でも安く気軽に買えると嬉しいんだけどなぁ。いざ買おうとすると高いしなぁ。

ボーズ。900円。
羊肉を使った小籠包だ。これは僕でも知っていた。
東京外国語大学の大学祭、「外語祭」でモンゴル語専攻の学生たちが飲食ブースを出していて、ボーズを売っているからだ。

それを思うと、外語祭はほんとうに素晴らしいイベントだ。世界各国の文化への窓として開かれている。
中国料理で「小籠包」とは別に「焼き小龍包」というのが存在するが、ボーズにも「焼きボーズ」というのがメニューにあった。それはそれで美味しかろう。
ボーズは口に入れると、羊肉のムワッとした匂いが口の中に広がる。食べたァ!という実感を強く感じる、満足感の高い料理だ。
羊肉はダイエットに良いのだ、という説があるけれど、肉のインパクトが大きい分、少量でも満足しやすいという点でもダイエットに効果はあるかもしれない。

羊肉の煮込み焼き。4,500円。
煮込んだうえに焼く、という手間がかかっている。
お皿には大きな骨付き羊肉。ウデなのか大腿骨なのかわからないが、相当デカい。
添え物の野菜は、じゃがいも、にんじん、玉ねぎ。モンゴルではこの野菜3種類はとてもメジャーらしい。

イフモンゴルホーショール。1枚300円。
店名を関したホーショール。ホーショールとは羊肉のひき肉が中に入ったシャーピンのような食べ物だ。
味はついているので、そのままいただく。
どの料理も塩味。それでも飽きがこないんだから不思議だ。
たぶん毎日モンゴル料理を食べていたら、日本人ならたぶん数日で飽きてくるんだと思う。でも、こうやってたまにモンゴル料理店を訪れるなら大丈夫。どれも新鮮な感動とともに美味しく食べられる。

この日の参加者一同。おかでん、よこさん、いし、弊息子タケ。

タケは肉が大好きなのだが、コストコで買ったような分厚い肉は噛むだけ噛んで吐き出す習性がある。
この羊肉も食べないかな、と思ったら、骨をガッシと握りしめ、ゲンコツの部分に残された僅かな肉を一生懸命かじって食べはじめたのにはびっくりした。
しかも、大人のマネをして「食べるフリ」をしているのではなく、ずっとガリガリとかじっている。よっぽど気に入ったらしい。
2歳児をも満足させる羊肉。おそるべし。
弊息子タケは食物アレルギー持ちなので外食は要注意だが、モンゴル料理は基本的に塩味なので心配が比較的少ない。調味料の隠し味にNGな食材が紛れ込んでいた、という複雑なことは行われていないだろうから。

「なにかシメになる炭水化物を頼もう」
と声をあげたが、よく考えたらホーショールやボーズといったもので炭水化物は取っているんだったな。ええと、どうしようか。「シメで麺かご飯物」という発想は中華料理的だが、ここはモンゴル料理店。
結局、「ツイウァン(モンゴル風焼きうどん)950円」というのを頼んでみた。
肉と野菜の千切りを具とした、短いうどん。食感は独特。でも、メニューには料理名しか書かれておらず、これが一体なんなのかが全くわからない。だからこそ面白い。
「これは一体なんだろう?」
とみんなでわいわい話をしながら食べる。それが一番のごちそうだ。
正直言って、僕くらいの歳になってくると、うまいものを食べても大して嬉しくなくなった。それよりも、一つの料理を誰かと一緒に食べるという体験こそがご馳走であり、そこで食べ物についてあーだこーだと語ることこそが最大の美味だと思うようになった。
まさに今回の料理がそう。
そして、家に帰ったあと、写真の整理をしながら「ところで今日食べたアレってなんだったんだろう?」とネットで調べて、「ああなるほど!」と納得するところまでが食事だ。
このツイウァン、調べてみると野菜の上に麺を乗せ、蒸し焼きにした料理なのだそうだ。水が限られている遊牧民族の知恵として、大漁の水で茹でなくても食べられる麺なのだという。へええええええ。これ、茹でてないのか!そんな麺って、あり得るのか。びっくりだ。
さらにびっくりなのは、マジで水がない場合は家畜の乳で小麦を練って麺を作るというやり方だ。今回食べたのがその作り方なのか、水で捏ねたものなのかはわからなかったが、水のかわりに乳を使うというのは目からウロコの製法。

最後。デザートを頼もう、ということで「バンシタイツァイ(モンゴル風ミルクティーにバンシ入り)850円」を頼んでみた。
このお店のメニューにはデザートの欄がなかったので、メニュー半ばに書かれていた料理を注文した。ミルクティーの料理なら、きっと甘いだろう。
ということで、小皿に取り分けたのち、みんなで食べる。
すると、みんな一斉に「おっ?」「えっ?」という顔になった。
全く甘くなかったからだ。
バンシというのは、モンゴルの羊肉餃子。それが水餃子としてミルクティーの中に入っているのだが、一口飲むまではチャイのようなコッテリした甘さを想定していた。なので、甘くないという現実を突きつけられ、頭が混乱したのだった。びっくりしたなあ、これには。
道理でメニューの半ばにこの料理が記載されているわけだ。これ、デザートでもなんでもない。具入りスープだ。
最後までいろいろ楽しませてもらった。モンゴルは近くて遠い異国。料理名も、料理そのものも、馴染みがないものが多くて食べると楽しい。いろいろな発見があって、驚きがあって、とても楽しい食事会となった。
(2023.02.19)
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