鍋奉行を成敗せよ!彩の国鍋合戦

全国各地で、年中あらゆるイベントが行われている。

伝統と格式だけのイベントでは、余暇が多様化している現代の人の興味を引きつけることは難しい。だから、どこも知恵を絞って日々イベントを進化させている。イベントを享受する立場としては、うれしい限りだ。

とはいえ、あまりに世間に情報が氾濫しすぎており、各イベントの存在が埋没してしまっているのが現状。後になってイベントの存在を知り「えっ、そんな魅力的な祭りがあったの!?」と驚くことがある。

一例を挙げると、毎年9月の第一土曜日に山形県で開催されている「日本一の芋煮会フェスティバル」。直径6mという常識外れな巨大鍋に6トンの水を入れ、鍋ぶたはクレーンでつり下げるという、桁外れ過ぎて笑ってしまうイベントだ。1日で5万食が出るというから、さすがは日本一を名乗るだけある。

芋煮会フェスティバル、これはぜひいかなければと毎年思っている。しかし、そう思うのは9月の中旬くらい。つまり、祭りは既に終わった後。「あっ、しまった、忘れていた・・・」とがっかりするのがおかでんにおける毎年初秋のお約束だ。そして、「来年こそは」と心に誓うのだが、翌年になるとまた忘れる、の繰り返し。イベントの存在を認識していてさえ、忘れてしまうくらいだ。未知なるイベントを知るのはなかなか難しい。

そんなわけで、イベント情報はできるだけ幅広く情報収集していきたいし、行けるならば「まあ今年はいいや、来年」などと思わずに即現地入りするべきだと思っている。きっと楽しい体験が待っているはずだから。

鍋合戦看板

今回行ってきたのは、「彩の国鍋合戦」。「彩の国」は「あやのくに」と読むのではなく、「さいのくに」と読む。「埼玉」の「さい」という読み方を艶っぽい漢字に置き換えたたものだ。埼玉県内限定だが、この表現はよく使われる。

そんな鍋イベントが埼玉であることなど全く知らなかった。そもそも、埼玉に鍋のイメージは皆無だ。そんなところにも、伏兵イベントが潜んでいるのだから侮れない。

この「彩の国鍋合戦」は埼玉県和光市にて開かれる。和光市といえば、ホンダの国内営業本社が移ったということで知名度があがったが、基本的には東京のベッドタウンだ。東武東上線、東京メトロ有楽町線/副都心線が走る。埼玉県とはいえ、県庁所在地のさいたま市に公共交通機関で行くには東京を経由せねばならず、地元民が「東京の属国」とぼやく立地条件だ。埼玉は案外そういうところが多く、所沢なども東京の属国だ。

おかでんが和光市に持つイメージは、「笹目通りと外環道と川越街道で分断されまくってる市」であり、「近くに練馬駐屯地と朝霞駐屯地がある、基地の町(注:正確には両方とも和光市ではない)」となる。鍋?えっと、鍋ねぇ・・・。和光市のお隣、板橋区に長年住んでいたが、鍋のなの字も聞いたことがない。相撲部屋があってちゃんこが名物、というわけでもないし。

和光流鍋の定義

和光流鍋の定義、というのがある。どれどれ。

古今東西 地球の恵みを汁仕立て煮立たせ、囲み、食すれば、身心ともに温まり和やかな笑顔が光る 煮込み料理である。

はい先生すいませんよく理解できません。どこをどう縦読みすれば良いのですか。行間を読むべきですか。まあ、とりあえず苦しいながらも文中に「和」「光」が入っているということで、和光で鍋大会をやる正義は我にあり、ということだ。

な、なんだってーーーー。

なんのこっちゃわからんが、どうやら和光にはもともと鍋文化は根付いていないが、これから頑張っていきますという事らしいということは分かった。

それにしても、「鍋の定義」と銘打っておきながら全然定義になっていない。なんだこの抽象さっぷりは。ただ、後になってこのイベントのレギュレーション=鍋の定義が明らかになる。それについては後述。

和光市からなにやら提言があるらしい

なおも執拗に「なぜこのイベントが和光市に?」という背景をネットで調べていたら、その経緯が詳細につづられた文章を発掘することができた。鍋合戦参加申請書に、記述がある。せっかくなので転載するが、長いので興味がある方のみ読んでいただければ結構です。

歴史的にも現実的にも、和光市と鍋の関わりは特に目立ったものはありません。
しかし、全国的に有名な「宇都宮の餃子」や「富士宮の焼きそば」、さらには、喜多方をはじめとする各地ラーメンなど、決して地域資源に限ることなくブランド化を成功させている事例も多くあります。
「鍋を囲む・鍋をつつく」といった言葉の先には、身も心も暖まる笑顔のコミュニケーションの場が浮かびます。「鍋」という題材には、全国各地や世界各国の様々な文化が存在し、豊かなエッセンスがふんだんに盛り込まれており、家庭や職場や仲間同士での和みづくりの格好のアイテムとも言えるでしょう。
和光市商工会では、「鍋」をテーマとした街づくりに全市をあげて取り組み、地域での話題性のみならず、鍋文化が創り出す来訪スポット化を図り、和光市の顔づくりとして地域付加価値や経済効果を高めることを目標に、諸事業を展開してまいりたいと計画いたしました。
名産品や観光地もない東京隣接のベッドタウンで、寒い季節を「ほっと!」に楽しむための「ほっとステーションWAKO」づくりをめざし発進いたします。
そして、和光市のこれからの「まちづくり」を「鍋」にスポットをあて、人と人とのふれあいやコミュニケーションを大切にできる街でありたいとの願いを込めて、「鍋文化発信の街 和光」に係る次の提言を行います。
私たちは、和光市民憲章に定める「豊かで住みよいまち」をめざし、鍋文化の持つ様々なエキスを活用し、和光市のエネルギーを高めることを目的として、「鍋文化発信の街 和光」の推進にあたり次に掲げる事項を提言します。

1 私たちは、鍋文化の栄養素を活用し、心身の健康づくりに努めます。
2 私たちは、鍋文化の包容力を活用し、家庭や地域の団欒づくりをめざします。
3 私たちは、鍋文化の広域性を活用し、世代間や地域間の交流づくりをひろげます。
4 私たちは、鍋文化のエネルギーを活用し、和光市のコミュニティパワーを高めます。

なるほど、確かにそうだ。「ご当地ならでは」のイベントである必然性なんて、本来必要ないのだった。無から有を生み出す事は何ら恥ずかしいことではないし、その発想力は素晴らしいことだ。恐れ入りました。十分納得しましたので、ぜひ鍋合戦をしまくってください。

あと、「『鍋文化発信の街 和光』提言」という表現が気に入った。「鍋文化発祥」などと不遜な事を言いだしていたら相当電波な人たちだと思うが、そのような事はない。そして、「宣言」ではなく「提言」としているところも、謙虚さが伺えてとても好印象。頑張れ、と応援したくなる。

なお、そんな和光市だが、市内で鍋料理を提供するお店マップを作成して配布しているらしい。一年に一度のイベントだけでなく、本当に和光を鍋の街にする気らしい。その心意気や良し。

しかも、「11月の第三木曜日が鍋解禁日」とされており、その日から市内の各店舗は鍋料理を提供しはじめるようになるという徹底ぶり。この日は和光市駅前で解禁イベントが開かれる。すなわち、和光市で「夏だけど鍋食いたいのぅ」と思っても「まだ解禁されていないので無いです。お隣の町まで行ってください」ということになる。こういう「制約」することで価値を高めるやり方、好きです。

※もちろん、このイベントに全ての飲食店が賛同し、参加しているわけではない。そのため、イベント不参加店舗では年中鍋を扱っている。

11月第三木曜、といえばボジョレー解禁日と同一日。世間一般じゃボジョレーヌーボーを飲んで祝うが(最近は息切れ感強いけど)、和光市だけは鍋で祝う。あえてボジョレーの解禁日に当てつけたところはセンス良いと思う。ひねくれている方が、独自文化っぽくなっていく。

和光市役所に向かう道

話を一番最初に戻すと、何でこの「鍋合戦」を知ったのか、ということだ。

実は、和光市側からの情報発信でこのお祭りを知ったわけではない。全然関係のないはずの埼玉県越谷市に関する情報で、このイベントを知ったのだった。

TV東京系列で毎週土曜日21時より放送されている「出没!アド街ック天国」。特定の地域(○○町、など非常に狭い)をクローズアップし、特徴的なものや面白いものをベスト30形式で紹介する番組だ。

この「鍋合戦」が開かれる6日前に放送されたのが「越谷」をテーマにしたもので、そこで第17位として「こしがや鴨ネギ鍋」が紹介されたのだった。越谷にはもともと宮内庁のお狩り場があり、鴨が狩猟されていたという経緯がある。また、越谷は葱の産地でもある。ちょうど鴨が葱しょってやってきた状態の町であり、必然的に鴨葱鍋が登場するわけだ。

その鴨ネギ鍋だが、「第二回・第四回彩の国鍋合戦で優勝した」と紹介された。何だその面白そうな合戦は。ここでようやく鍋合戦の存在を知り、ネットで調べて開催要項を把握した。ちょうど次の週が開催、というのもタイミング良く、これは絶対いかねばならんと決心。

鍋を食べて食べて食べまくろうではないか。スケジュールを調整し、いざ、和光市へ。

和光市商工会、意外なところで宣伝してもらえてすごくラッキーだっただろう。また、その存在を知ることができた自分自身もとてもラッキーだ。

開催場所は和光市役所の敷地内。和光市駅からちょっと離れたところにあるので、てくてく歩くことになる。

路駐は禁止だよ

開催場所である和光市役所への道中、沿道にはびっしりとカラーコーンが立てられていた。路駐を防ぐための対策が講じられている。車で訪れた人は、どこか離れたところのコインパーキングを探さないといけない。実際、車で訪れたおかでんは和光市駅近くの駐車場に停めることになった。原則、公共交通機関を利用した方が良いだろう。

さすがに「日光そばまつり」の時のようにパーク&ライドだとか最寄り駅からシャトルバス、といった大規模イベントにはまだ成長していないようだ。今後知名度が上がるとその手の対策も考えないといけなくなるかもしれない。

鍋リスト

事前に「鍋合戦」に出店する鍋リストを印刷しておいた。

今回は34ブースが出店だ。34種類の鍋!非日常的すぎて全く想像がつかない。あの日光そばまつりでさえ、23ブース(日によって若干変動あり)だった。その規模でさえ状況把握ができずに目が回ったというのに、34なんてどうすりゃいいの。

鍋いっぱいがどの程度の量なのかは分からないが、どんなに少量だとしても「34杯」食べるのは無理だ。「日光そばまつり」で11杯の蕎麦だったわけだから、今回は多くても10杯が良いところ。いや、場合によっては5杯くらいでもう飽和状態になるかもしれない。予測がつかない、となると「おいしそうなものは後回し」なんてのは無理だ。「おいしそうなものから順に食べる」という事に徹しないと。

そんなわけで、事前に検討はしておいた。ふむふむ、この鍋は面白そうだ・・・。おっ、これは・・・。なんて読んでいるうちに、結局何を食べたいのか訳が分からなくなってしまった。恐るべし、34鍋。種類が多すぎて、目移りしているうちに頭が混乱してきたではないか。

ただ一つ言える事は、「第二回・第四回鍋合戦で優勝(鍋奉行、という名称が与えられる)」という、「こしがや鴨ネギ鍋」だけは最初に食べようということだ。これはTV報道されたこともあり、人気店になること間違いなしだ。開会直後にさっさと食べてしまおう。

後は・・・うーん、わからん。というか、どれもおもしろすぎる。鍋っていろいろあるもんだねえ。醤油味、塩味、味噌味、キムチ味。具もよりどりみどりだ。ストイックな「そばまつり」とは大違いだ。煮てりゃ「鍋」なわけだから、何でもあり。アイディア勝負だ。

ここは、オーソドックスな鍋を出すブースは除外することにした。奇抜な奴をピックアップしただけで、結構な数になる。もつ鍋なんて数店舗が取り扱っているが、これはまず最初に対象から除外した。メチャ美味いかもしれんが、この際割り切りが必要だ。

和光市役所

鍋合戦の会場に到着。

日光そばまつりの時と同様、この手のイベントは「先手必勝」が重要だ。開会前には現地入りして、お目当ての店にスタンバイしておかないと。昼飯代わりに、とご近所の方がやってくるであろうお昼のピーク前に多くの鍋を食べる事こそ、勝利の方程式だ。波に乗り遅れると、「ひたすら行列に並ぶ時間を堪え忍ぶ」という羽目になる。

あと、自分の経験と今回の企画概要からして、だいたい想像がつくシチュエーションが一つあった。昼過ぎになると、早々に「売り切れ」となる店舗が続出するだろう、ということを。

このイベントは、惜しいことに1日のみの開催だ。せっかくだから土日の2日でやればいいのに、と思うがなぜか1日。

となると、出店者側は「たくさん作って売れ残るくらいだったら、そこそこ作ってさっさと売り切った方が良い」という判断になるに決まっている。売れ残った鍋は、持って帰るのはかさばるし、重いし、店(家)に持って帰っても食べきれないし、困る。10時-15時、とたった5時間のイベントなので、どれだけの量を作ってスタンバイするかは店側としてとても難しい。

そもそも、どんなに人気店であっても、売るスピードには限界がある。5時間でさばける客の数は限られてしまうので、その点も考慮しなくてはいけない。なんか、同人誌即売会と同じ世界だな。

こしがや鴨ネギ鍋は早くも大行列

そんな「需要と供給のバランス」なんて何処吹く風、と大行列ができているお店があった。第二回・第四回「鍋奉行」の名誉を持つ「こしがや鴨ネギ鍋」だ。直前にTV報道されたこともあるし、ディフェンディングチャンピオンということもあって、行列が凄い。開会前、9時59分時点で既に200人が並ぶという繁盛っぷりだ。

実際おかでんはまだ会場入りしていないし、お店の様子すら見ていない。なぜなら、行列が会場の外へと延々と伸びているからだ。それに合流しただけ。見えるのは、「最後尾」と書かれたプラカード。

越谷市商工会青年部、手慣れたもんだ。長蛇の列ができることを見越して、こんなものまでこしらえているとは。この後食べ歩きを進めたが、チームプレイという点ではこのブースが他を圧倒していた。手練れ、という言葉がぴったりだ。

この鴨ネギ鍋目当てでやってきた来場者は多いのだが、行列を見て仰天していた。スタッフの人に「大丈夫ですかね、食べられますかね」と心配そうに聞く人多数。するとスタッフの方、「大丈夫ですよ。1000人前は仕込んでいますから。4時間以上かけて仕込みました」と答えていた。そして、最後に「実績、ありますから。」と力強い発言。おお、今年も鍋奉行の座を取りに行く気満々だ。

鴨ネギジャケット着用のスタッフ

越谷市商工会青年部は相当力を入れているようだ。最後尾プラカードもさることながら、スタッフはオリジナルジャケットを羽織っている。背中に青首の鴨が描かれていて、その尻尾がネギという、いかにも鴨ネギな絵がプリントされてある。結構な人数を送り込んでいるようで、本気度がが伺える。

行列に並んでいる間に、過去4回の鍋奉行について紹介しておこう。

第一回だが、「第5回彩の国鍋合戦開催概要」というPDFファイルによると、「食文化研究会」による「福ふく鍋」が受賞している。「幸福を招くという耳の型の紅白手作りうどんを入れ、自家製の醤油だしで仕上げた」のだそうで。

しかし、同じ開催概要の別ページには、第一回の鍋奉行は「和光市食文化研究会」の「牛肉のワイン鍋」が受賞したとされている。なんでこんな重要なところで不整合になっているのか、謎だ。ただ、今回はそのいずれも参加していない。

で、第二回目にただいま行列中の「こしがや鴨ネギ鍋」受賞。第三回目も連覇を目指したが、「和光鹿児島の会」の「本場黒豚入りだんご汁」に奉行の座を明け渡した。しかし翌年(つまり昨年、2008年だ)、泥水をすすってはい上がり、またもや鴨ネギが奉行を奪還。そして今年を迎えた、というわけだ。

初回から今回までの出店メンツを見ていると、入れ替わりが激しい事に気がつく。奉行になったり、優秀賞を受賞したような店舗でさえ、翌年姿を消している事が多い。この新陳代謝は魅力だ。

おかでんはこの手の「食べ歩きイベント」はそばまつりしか知らないので、この事実はちょっとした興奮だった。毎年、新参者が現れてイベントを引っかき回すという構図が新鮮。

そばまつりの場合、どうしても出店するメンツというのは絞られる。それは、蕎麦が特殊器具、技術、経験によって初めて成立するからだ。また、手打ち蕎麦を大量に提供するためには、多数の人手が必要だ。そのため、複数のそばまつりに行ってみたら、「おやまたあのお店が出店してる・・・」なんてことがざらにある。そばまつり常連のお店、というわけだ。だから、良くも悪くも代わり映えはあまりない。

その点、鍋というのは全く違う。極端な話、誰にでも作ることができる。そして、作り置きが可能。前日に寸胴いっぱいに煮込んでおけばよろしい。当日はそこからお椀に移すだけでよいので、人海戦術は不要。だからこそ、いろいろな人が鍋合戦に挑み、時には勝ち逃げし、時には志半ばで敗れて去っていくのだろう。もちろん、毎年戦いに挑み続けるところもある。

出店ブース一覧を見てみると、結構面白い。商工会による「オラが町の名物を知らしめるぞ」という鼻息荒いところから、プロの飲食店、サークルレベルのものまで、色とりどりだ。中には「東洋大学キックボクシング部」だとか「和光体操クラブ」なんていう全然ジャンル違いな組織も店を出している。こういう、「誰でも参加機会はある。腕自慢、集まれ」という雰囲気が、新陳代謝を産んでいるのだろう。

で、鍋の怖いところは「いかにも素人な組織」であっても美味い可能性があるということだ。先入観を持たず、美味そうなものを選ぶようにしたいところだ。

出店している組織の大半は、和光市もしくは埼玉県のもの。さすがにまだ全国の猛者がご当地鍋をひっさげて参戦、というところまでは知名度が上がっていないようだ。

ステージでは開会宣言をやってるっぽい

午前10時、いよいよ開会。ただし、この時刻と同時に発売開始となるわけではなく、まずは10分間の開会式が執り行われる。

われわれ鴨ネギ行列は会場の外に並んでいるため、開会式の様子は司会者の声でしかわからなかった。ただ、「鍋合戦」というだけあって、戦国武将のよろい兜を身にまとった人たちが裏でスタンバイしているのだけは見えた。

前回大会の鍋奉行、越谷商工会青年部による「選手宣誓」があった。「選手」?やや奇妙な気がするが、まあいいや。

その際、宣誓した人は「正々堂々と戦い・・・」という言葉を使っていた。おお、やっぱり「戦い」なのか。鍋奉行争奪の戦いなのか。「和気藹々とおいしい鍋を食べて暖まりましょう」イベントではないのだな。

地元おふくろ鍋のビラ

各ブース、繁盛店にあやかろうとビラ配りに必死

戦闘モードは連覇を狙う越谷市商工会だけではなかった。鴨ネギ鍋目当てに並ぶ人たちに、他の店の人が自分の店をPRして回っているのだった。「鴨ネギ鍋食べたら次はこちらにお越しくださいー」なんていって、ビラまで配っている。うお、本気だ。
本気、といっても繁華街の客引きみたいな商売っ気満点な感じではないので念のため。全然嫌味な感じはない。でも、どこもやる気満々だ。

さてここで、この鍋合戦のレギュレーションについて、説明しておこう。「開催要項」という、出店団体募集の資料が入手できたので、それを紹介していきたい。

まず参加資格だが、いくら何でも「誰でも参加可能」というわけではない。「俺んちの鍋は最高だぜ」とかいって、闇鍋を出店する馬鹿が出てくるとも限らず、安易に参加されては大会のレベルが下がるからだ。条件としては

(1)商工会・商工会議所会員
(2)商工会・商工会議所の推薦する団体

ということになっている。これだけ見ると、商工会とは縁もゆかりもない個人や組織は参加できないじゃないか、と思うが、(2)の条項のとおり地元商工会に乗り込んで自己PRすれば推薦してもらうことも可能だろう。

なお、申し込みは先着40チーム。今回は34チーム出店だったので、定員割れになっている。しかし、40チームが参加した回が過去あったので、年によってばらつきがあるようだ。「先着順」というのが恐怖だ。優秀な成績を過去に収めたチームでも、申請が遅れると定員オーバーではじかれる恐れがある、というわけだ。受付開始とともに申請しておかないと、万が一があり得る。

出店料は5000円。これはガス代や機材のレンタル代に充当されるそうだ。安いと思う。

そして、当日貸与されるのは寸胴鍋x2、テント、ガス代x2、LPガス、お店の看板、チャッカマン、割り箸、お椀(リサイクルカップ)600個(不足したら補充あり)、長机x4、椅子x4。

寸胴貸してくれるのはありがたいのだが、その中身をどうやって現地まで運ぶんだろう。前日に寸胴で仕込んで、寸胴ごと持ち込むんじゃないのか?よくわからん。ポリタンクにつゆを詰めて、具はタッパウェアなどに入れて・・・ってやったりするんかな。恐らく、正解は切り刻んだ具だけを現地に持参して、つゆは当日、会場で水を汲んできて作り始めるんだろうな。さすがに「つゆも含めて全部自宅から持参」ってのはきつい。

注意事項には、「保健所の指導により、現地での調理作業は禁止」とされていた。でき上がった鍋を当日持ち込め、ということだ。これは結構な重労働になりそうな予感。あと、「思ったよりも売れ行きが良いので、具を継ぎ足して追加」ができない、一発勝負でもある。

そういうのは出店者の方にお任せするとして、面白いのが販売価格。「1杯200円以上で自由設定」とされているのだった。えっ、「以下」じゃなくて、「以上」?これには一瞬目を疑った。だって、そうすると超豪華な鍋作るところ出てくるでしょ。「カニやエビがふんだんに入った鍋です。1杯1,000円ですが」なんて。普通、こういうのは「1杯○○円の設定で」だとか、「いっぱい○○円以下で」とするものだが、ここは「下限値」が設定されている。面白い試みだ。

ははーん、なるほど、うかつに値段を高くすると、不人気を招くから、安易な値上げはないと主催者側はふんでいるんだな。最大40店舗も出るとなると、来場者は何杯も食べ歩きたい。となると、高い鍋は敬遠されることもあろう。だから、競争原理が働いて適正な価格に値段が納まるというわけだ。

逆に、下限設定をしなかったら、「100円の豚汁」なんてのが出てきてレベルが下がる恐れがある。また、そんなのが人気投票で上位にランクインしたら面白くない。そういうバランスを考えた上で、「1杯200円以上」としたのだろう。さて、各店舗どのような価格設定をしてくるか、楽しみだ。

人気投票の仕方だが、来場者がいっぱい鍋を食べ、その器をリサイクルステーションに持ち込んだところで1枚投票券が配布される。その投票券を、投票所にある各店舗ごとのポストに投函すればOK。一番投票券をたくさん獲得したところが鍋奉行認定、というわけだ。

なお、イベントは10時-15時だが、鍋奉行の発表まで含めてイベントが15時であるため、投票締め切りは早かった。13時半に投票締め切り。本当に短期決戦だ。となると、いかに人目を集め、早い時間帯に来場者に食べて貰えるかがこの鍋合戦の重要な課題となる。後回しにされた時点でもう鍋奉行の座は遠のく。

禁止事項、という欄も興味深い。

(1)販売開始合図前の販売
(2)200円未満の価格にての販売
(3)販促品付き販売(飲料・漬物・パン等の添え物や景品など)
(4)指定販売容器以外での販売
(5)各チーム参加者・関係者による自己チームへの投票
(6)その他実行委員会の指示に従わない場合

の6項目だ。

特に(3)が特徴的で、飲料はまだしも添え物もアウトなのね。洋風鍋だと、バゲットの薄切りなんてのが添えてあるとうれしいもんだが、アウトー、というわけか。でも、そういうのをOKにすると想定外なアイディアを出してくる「奇策合戦」なるかもしれないので、予防線を張ったのだろう。

あと、(5)についてはその通りだと思うが、実質こんなのは規制できない。いちいち関係者かどうかのチェックなど、不可能だからだ。だから、一族郎党引き連れて大量に動員をかけられる組織の方が有利。

以前、米国の「TIMES」という雑誌で、「Person of the year」の投票をネットで行った事がある。その時、2ちゃんねらーが大挙して「田代まさし」で投票し、危うく本当に「世界で最も今年一年を代表する顔」として田代まさしが認定されかかったことがある。人気投票なんてのはしょせんそんなものだ。真実を含んではいるが、100%真実ではない。

食べる場所を求めてみんな右往左往

開会の宣言とともに、武具を身にまとった人たちがほら貝を5回、吹き鳴らした。

本当なら、力強く、野太い「ぶぉーっ」という音が響くはずだったのだが・・・練習不足からだろう、「すこー、すこー」と抜けた音になってしまった。

会場のあちこちで失笑が漏れる。

そんなわけで、なんとも緩い開会となった。

開幕直後から、早速お椀を持った人が会場から出てくる。会場の外に臨時のテーブルがいくつか設置されていて、そこに陣取った人が戦利品を手に帰還してきたのだった。

会場は和光市役所の敷地内の中庭的な場所。決して広くはない。そのため、34店舗+お客で既に相当な混雑状態になっていた。とてもじゃないが、敷地内にお食事用の椅子と机なんて設置はできない。実質的には、ほとんどの人が「立ち食い」となっていた。

「鍋合戦?おもしろそうじゃない。じゃあ次回は子供連れで・・・」なんて思わない方が良い。人が多すぎて、子供は迷子になるだろうし、座る場所がないから子供がぐずるに決まっている。

こしがや鴨ネギ鍋のブース

さすが鍋。既に200人が行列を作っているというのに、流れは大変にスムーズだ。この行列を最初に見たとき、数十分待ちは覚悟したので、「こりゃあ食べ歩きをしたくても、胃袋が満杯になる前にタイムアップになるかもしれない」と危惧していた。しかし、するするとさばかれていく。そばまつりとは全然違う。

ここで、こしがや鴨ネギ鍋の仕込み数が「約1,200食」であることを把握。

「こしがや鴨ネギ鍋」は1番目のブースを与えられているが、これはきっと同人誌即売会と同じ考えなのだろう。人気サークルほど行列ができるので、その行列が他のサークルの邪魔になってしまう。だから、人気故に壁際に配置される。素人考えだと、「人気実績店=会場ど真ん中」と考えがちだが、それでは運用が成り立たない。

待てよ、ということはこの会場の四隅にある店というのは実績があるということなのだろうか。要注意だな、ちょっと優先順位を上げておこう。

[1杯目:こしがや鴨ネギ鍋(越谷市商工会青年部)]

こしがや鴨ネギ鍋(越谷市商工会青年部)

第2・4回の優勝チームです。越谷市内にある「宮内庁埼玉鴨場」にちなんだ鴨と越谷ネギをはじめとする特産の地場野菜等を豊富に取り入れた鍋。

ようやくブースが見えてきた。

実際見てみると、非常に小さい。「幅2間、奥行2間」の正方形のテント1つが陣地となるわけだが、狭いったらありゃしない。

そばまつりの場合、そばを打つ場所、ゆでる場所、食器類を洗浄する場所などで結構な陣地を必要とするが、鍋ともなれば至ってシンプルだ。極端な話、料理が入った寸胴を火にかける場所、予備の寸胴の置き場所、作業要員のスペース、お会計と商品引き渡し要員が陣取る机とスペースがあればよい。

この鴨ネギブース、ご丁寧にも店先にパンフレットラックを設置し、「越谷鴨ネギのススメ」というパンフを配布していた。いいね、こういうの。全部が全部、ガツガツした雰囲気の出店だと「ふるさと見本市」になってしまってつまらないが、たまにはこういうのが混じっている方が面白い。

ネギが積んであるカウンター

ようやくカウンター近くにまで接近できた。ようやく、といっても流れは至ってスムーズではあったが。恐るべき勢いでてきぱきと客さばきをしていた。バックヤードから次々鍋が届けられるし、お会計はスムーズだし。やるな。

カウンターには、過去2回の鍋奉行トロフィーが誇らしげに飾られていた。そして、越谷としてはぜひPRしておきたい、越谷ネギも。

そして、料理サンプルが店頭に飾ってあったのだが、なぜか「峠の釜飯」の釜に入れられていたのが面白かった。でも、これだけの繁盛店。サンプルを見てから食べるかどうするか決める人なんて誰もいない。そのまま行列に並ぶ。

これだけ行列ができていても、大きくて威勢の良い声で周囲に活気を振りまいていた。特にアド街ック天国に出演したことをさかんにPRしていた。本気で勝ちに来ているぞ、ここ。いい緊張感だ。

トッピングは調理のうちに入らないらしい

鍋なんだから、寸胴からお玉でひとすくいしてお椀に注いでそれで完成だろ、と思っていた。しかしそれは非常に甘い発想である事を早速目の当たりにしたのが、厨房の風景。まあ、「現地調理は禁止」というルールなので、「厨房」とは呼べないのだが。

さすがに、ごった煮状態のものをお椀によそうと、具にばらつきが出てしまうのだろう。鴨ネギ鍋なのに、ボクのお椀には鴨肉無いよママ!なんて事になったら悲しい。そう言うわけで、「具の一部は後のせ」という作戦が採られていた。後のせは「調理」とはみなされないのだな。バットに敷き詰められた鴨肉を後のせしているのが見えた。あと、色合いとして使われている水菜も後のせ。こりゃ大変だ、鍋とはいえ高等戦術を使ってきているな。甘くみていたぜ。それにしても、お椀いっぱい作るのに結構手間がかかるのに、なんという手際の良さだ。人数を大量投入しているというのもあるが、いずれにせよ多数の行列が滞りなくどんどんさばけていく様は圧巻。見事としかいいようがない。

「こしがや鴨ネギ鍋」。200円。

本日一杯目となる、「こしがや鴨ネギ鍋」。200円。

鴨肉は決して安くないはずなのに、200円というルール上の最低限の価格設定で挑んでいて、驚嘆に値する。実店舗だったら絶対に採算はとれない。完全にもうけ度外視だ。

具は、椎茸、大根、人参、長葱、鴨つくね、鴨ロース、水菜。
長葱はご丁寧に事前に炙ったものを、後のせだ。この鍋で後のせなのは、鴨ロース、長葱、水菜。
※鴨つくねも後のせだと思うが、人が多くて確認できなかった。
たかが1杯200円と侮ることなかれ。いっぱい目からスゲー気合いが入ったもん、出てきたぞおい。さすが過去2回鍋奉行になっただけのことはある。

では、さっそく食べてみます。頂きます。

・・・うーん。味は鴨鍋としては淡泊。はっきり言えば物足りない。鴨って、あの脂こそ美味さの根本だと思うんだが、その脂分がつゆに浸透していないからだ。こってり感が足りないため、やや肩すかしを食らった感じ。

鴨ロースは、レアな火加減で調理されており、肉の真ん中がまだピンク色。この辺り、拘りを感じて好印象。しかし、食べてみるとちょっと肉のインパクトが強すぎた。ぜいたくに厚切りにしたせいで、肉をくちゃくちゃ噛んでいる時間が長くなり、鍋としてのバランスが悪い。しかも、肉がスカスカした感じで、脂で「てりっ」とした艶やかさがない。これは作り置きせざるを得ない性質上やむを得ないのだろう。

意気込み、体制、手際の3点において、全34ブースの中でここは一番だと思った。しかし、味は「ぜひここに投票しよう」というところまでは行かなかった。一軒目にして、「あ、ここに投票することはないな」と思ったくらいだ。

多分、実店舗でゆっくりとこの鍋を食す機会があれば、ダントツで美味かったと思う。「屋外で、短時間で、大量の客をさばく」という制約が惜しいところ。でもそこも含めてこの「鍋合戦」だ。仕方がないだろう。

おかでん的敢闘賞を差し上げたい。あ、上から目線で語っているようで申し訳ない。

ブースがずらっと並ぶ

さて、二杯目を食べるか・・・。

ブースを見ると、さすが「2間」の幅しかないテント。びっしりとブースが立ち並ぶ。この鍋密度の濃さは壮観。

まだ時間が早いこともあり、鴨ネギ鍋のように特定の人気鍋ブース以外は空いていた。チャンスだ、今のうちにどんどん食べておこう。

驚愕したのは、34ブース全てが「200円」の値付けで横一線だったということだ。中には奇抜な高級食材で勝負に出る所があるかと思っていただけに、このデフレ状態は意外だった。

会場中央には大型テント

鍋ブースが向かい合って並んでいる真ん中には、大きな仮設テントが設置されていた。椅子や机があるわけではない。みんなここで立ち食いだ。鍋は日本が誇るファストフードではないか、とこの光景を見て思った。

このイベントは雨天決行だ。そのため、雨をしのげるテントが絶対必要。だから、こういうテントを設営したのだろう。でも、晴れていても既にテントは人だらけ。雨が降ったら、一体どんなカオスになるのだろう。もちろん来場者数は減るだろうが、それでもこのテントには収用しきれない。

二杯目の鍋を求めて、先に進む。特に二杯目以降は何を食べるか決められなかったので、ブースの配列順に食べ進めていくことにした。もちろん、胃袋には限界があるので、食指が動かなかったところはスルーということで。

(2)おがの祭りもつ鍋うどん
(3)地元おふくろ鍋

は残念ながらスルー。もつ鍋は平凡だし、おふくろ鍋はけんちん汁とのことで、こちらも平凡。平凡が悪いわけじゃないが、どうしても優先順位は下がる。