千葉県の大半を占める房総半島は、半島ならではの特性で、奥に入れば入るほどズブズブの沼だと思う。
沼、というのはネガティブな意味ではなく、「まだ見ぬ強豪が潜んでいる」という意味だ。
紀伊半島でも伊豆半島でもどの半島でもそうだが、人は半島の外周に沿って移動する。海沿いには温泉があったり、海鮮が美味い港町があったりするからだ。また、古くから海運が栄えていたりもする。一方、半島の真ん中あたりは、観光客があまり立ち入らず、魔境と化す。
だからこそ、そんな内陸部を探していると、「おやっ」と目を見張る、楽しい施設や食事処が見つかることがある。まさに、穴場。
今回、そんな穴場を一つ地図上で見つけたので、わわざわざそれだけを目的に房総半島に車で出撃した。
名前はずばり「猟師工房ドライブイン」。
場所は、まさに房総半島の奥地にある。
全国的に有名な水族館、「鴨川シーワールド」に行く際は君津の高速道路インターチェンジから下道に下り、「房総スカイライン」という下道をずっと走って鴨川を目指す。その道中にある。
このドライブインでは、ジビエ肉の販売を行っているほか、併設レストランでジビエ料理のビュッフェが連日提供されているという。
ジビエのビュッフェ!なんて素晴らしい。
ジビエというのは、とても希少な存在だ。そうやすやすと食べられるものではないので、ビュッフェという食べ放題スタイルには不向きな食材なはずだ。しかし、害獣駆除やレジャーハンティングが盛んなこの土地だからこそ、こんな試みができるのだろう。
わざわざレンタカー代、高速代などを払ってでも家族でウッキウキでこの地を訪れる価値はある。メガロポリス東京でも、ジビエのビュッフェは見たことがないし、たぶん無理だからだ。
房総半島は害獣としての鹿、イノシシにほとほと困らされている。年々この手の偶蹄類の猛攻に里山が陥落し、彼らの生息域は広がる一方だ。人はもはや食い止めることさえできず、途方にくれている状況が続いている。
さらにはここ数年、小型のシカみたいな生き物、「キョン」が房総半島で猛威をふるい始めた。ますます房総半島の農家の皆さんは大変な状況下にある。
以前、僕は足繁く房総半島の鋸南町に通い、わな作りや害獣防御のための柵作りのワークショップに参加した。そのときの学びや体験は大きな人生の糧になった。
残念ながら、その後鋸南町に我が身をもってご恩返しをする、というところまで至っていないが、僕なりになにかできないだろうか、ということはいつも頭に引っかかっている。
また、ALSOKのジビエをふるさと納税で取り寄せた、ということもこのサイトで記事にした。
その文章の中で、なぜ今警備会社がジビエに関わるのか、ということを書いている。よかったら読んで欲しい。
害獣なんだからどんどん駆除して流通させればいいのだが、物騒な猟銃やわなを扱える人が足りていないのと、山奥でイノシシなどを仕留めても、それを下界まで運び下ろすのが大変すぎる問題がある。
特に後者は「そりゃそうだよな」と思う話で、100キロ近くあるイノシシやシカを、山からどうやって車道のところまで運び下ろすのか問題がつきまとう。しかも、食肉とする以上、雑に山の斜面から蹴落とすといった扱いはできないし、仕留めたら速やかに大動脈から血抜きをしなければならないし、公設の食肉加工場に1~2時間程度で運び込まないといけないし。
少なくとも、害獣駆除が目的である地元の農家の方々にとっては、そこまで丁寧に扱ってジビエ肉を流通させる道理はない。なので、どうしても流通量が少ないままだ。
日本ジビエ振興協会のページに、「解体処理の前に」というガイドラインPDFがある。それを読むと、「なるほどなぁ」と感心させられる内容で興味深い。
ジビエ肉の流通がが十分にビジネスとして軌道に乗れば、ハンター志望者が増えて害獣が駆除され、好循環が生まれる・・・というのは机上の空論で、多分そうはならないだろう。今この空前の人手不足の時代、いったいどれだけの人がハンターを目指すだろうか?
なので、せめてジビエ料理を食べたりして、ハンターやジビエに関わる人たちが少しでも潤うような支援は、都会住まいの僕らとしてはやっていきたい。
狩猟工房ドライブインは、迫力ある展示だ。
中に入ると、まずはイノシシの剥製がお出迎え。3歳になる弊息子タケ、びっくり。
いかも、梁からたぬきの皮とかがぶら下がっているので、いちいちそれらを指さして、「これは何?」と親に聞いてきた。
彼は剥製に馴染がないので、この人形のような本物の動物のような存在を、何がなんだかわけがわからなかったのだろう。
そして猟師工房ドライブイン、ジビエビュッフェへ向かう。朝10時からビュッフェレストランがオープンしているので、僕らはあさイチに訪れた。のんきに昼頃の到着を目指していると、東京湾アクアラインが渋滞するかもしれないし、こんな唯一無二のビュッフェレストランだから混雑する可能性を危惧してのことだ。
ビュッフェレストランは14時ラストオーダー。開店が早いが、閉店も早いので興味がある人は注意。
ジビエというのは、秋から春までがシーズンだ。猟期が終わるのが3月上旬だからだ。とはいえ、レジャーとしての猟期は3月まででも、害獣駆除目的であれば地元の方は年中イノシシやシカを捕獲できる。また、冷凍で流通するのが一般的な肉なので、この施設に夏訪れたからといって季節外れでメニューが物足りない、味が落ちる、ということはないはずだ。
とはいえ、やっぱりできるだけオンシーズンにジビエは食べたい。そんなわけで、猟期は終わってしまったものの、3月中にこの地を訪れることができた。
ちょうどこの時、日にち限定でキョンの肉が振る舞われており、この日は「きょんカレー」「きょんちん知る」「きょんのトマト煮」が特別メニューとして用意されていた。
レストランで食べる時間はないのだけどジビエ料理は食べたい、という人には、テイクアウトも可能だ。
「猟師工房まかないカレー」1,000円と「鹿コロ」という名前の鹿クリームコロッケバーガー500円、鹿クリームコロッケ2個500円が売られていた。
まかないカレーは、猪肉のダシで煮込んだカレーに、鹿コロッケをトッピングしたものだそうだ。カレーライスの弁当で1,000円というのはちょっと高いが、特殊な食べ物なのでご理解いただきたい。
猟師工房ジビエビュッフェは60分食べ放題。
10:00~15:00、ラストオーダーは14:00。
1名様2,480円、小学生1,480円、未就園児無料。(税別ドリンク別)
「未就学児無料」ではなく「未就園児無料」という記述になっているのが「おや?」と思うが、弊息子タケ3歳は無料だった。タケは0歳から保育園に通っているので、もう2年以上就園しているのだが・・・。おそらく、小学生料金の記載があるので、「未就園児」という記述は「未就学児」と読み替えてよさそうだ。
店内の様子。
ところどころに猪の首がこんにちはしているので、ぎょっとする。
そんな猪や鹿に見守られながらの、料理。
ビュッフェカウンターはこじんまりとしたコの字型。僕らが一番乗りだったので、他のお客さんとバッティングせず悠々自適に料理をえらぶことができた。お客さんが多いときはこのカウンター周辺はごった返すだろう。
このレストランの本当に素晴らしいのは、極力ほぼすべての料理にジビエ肉を使おうとしていることだ。
フライドポテトだとかオムレツだとか、ありきたりなビュッフェメニューを並べ、その中に「ジビエも、置いてあります」というスタイルかと思っていた。朝食ビュッフェの中に焼鮭があるようにジビエ肉がある、そんなイメージ。
でも、ここはクソ真面目に料理それぞれにジビエ肉が使われている。その実直さに感動した。
さすがにこれにはジビエ肉は使われていないけれど、パンケーキがカウンターの一番端でお出迎え。それも、ご丁寧に「猟師工房」の焼印が押してあって、丁寧に客をもてなそうとしていて、嬉しい。
パンケーキの味はさすがに普通なのだけど、添えられているはちみつが白濁してドロっとした濃厚なやつで、とても美味しかった。すばらしくて、ついこのパンケーキとはちみつをおかわりしてしまったくらいだ。これは隠れたおすすめ料理。
(つづく)
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