刀屋 そば店(03)

2004年07月20日
【店舗数:—】【そば食:307】
長野県上田市中央

もりそば大

鹿島槍ヶ岳から下山してきたおかでん兄弟は、「さて、昼飯どうすっかねえ」という状況下に置かれていた。
「蕎麦だったら食べられるかな」

と兄貴がいう。山歩きの最中、こまめに栄養補充をしていたので、それほどおなかは空いていない。

蕎麦屋に行くのはこちらだって望むところだ。しかし、どこに行けばいいだろうか。下山口が扇沢だったので、近場で妥当なのは安曇野翁だ。もしくは、松本で浅田か、楽座か。

いずれにしても、手堅すぎる。確実に美味い蕎麦は食べられるだろうが、何となく「安パイで楽してる」という気になってしまった。蕎麦に疎い兄貴に、力んで「ここの蕎麦はおいしいんだよ」と説明したって、「ふーん、よくわかんないや」で終わってしまいそうだ。

過去、自信をもってお勧めした蕎麦屋が、「普通じゃん?」と一刀両断されてしまった事が何度あることか。蕎麦喰い人種の基準と、蕎麦食わない人種の基準には、越えられない壁が存在しているようだ。今回も、そういう脱力感は味わいたくない。だから、安曇野翁などは、ちょっと・・・というわけだ。

「そうだ、上田の蕎麦屋はどうだ」

と兄貴が言ってきた。

「上田の蕎麦、一度食べてみてもいいな」

何ゆえに兄貴が「上田の蕎麦」というキーワードを思いついたのかというと、おかでん家の親戚が上田に住んでいるからだ。で、その親戚宅にお邪魔したおかでん祖母が、上田における蕎麦のボリュームにぶったまげたという経緯がある。もう随分と前の話だというのに、いまだに祖母は「上田の蕎麦はものすごい量だった」と家族に語って聞かせている。その印象が、兄貴には強く残っていたらしい。

なるほど、これで閃いた。じゃ、今日は刀屋に行こう。味は十分にお勧めできるし、値段は安いし、ボリュームは兄貴期待の通りのすさまじいものだし。言うことなしだ。

うれしいのは、刀屋が中休み無しで昼下がりも営業している事だ。安心して、連れて行けるお店ですな。

それにしても、ネタ蕎麦屋と化しているお店だな、ここは。

刀屋

刀屋到着。15時過ぎだけど、ちゃんとのれんがつり下げられている。

この日は、東京で39.5度の猛暑を記録したというだけあって上田もゆで上がっていた。お店の前には、すだれがびっしりと立てかけられていて、どこが入り口かわかりゃしない。まるで、敵からの攻撃をブロックするバリケードだ。

実際、おかでん達の直前に入店しようとしていたオバチャンは、間違ってお勝手口から入店してしまっていた。店員さんに「入り口違います」と指摘されて、あわてて正しい入り口に向かう始末。

刀屋のお品書き

刀屋のお品書き。ここに訪れるのは3回目だが、いまだに名物である「真田そば」を食べることができていない。今回も、兄貴にチョモランマな盛りの良さを見せつけないといけないので、 もりそば(大)をオーダー。

ふと思ったのだが、このお店に来るのは3回目だが、もりそば(大)以外食べたこと無いぞ・・・。

手前の席にいた先客に天ざるそばが届けられたが、それを見た店内のお客一同「おおお」とうなっていた。普通の盛りでも、初めてのお客さんをビビらせる量がある。

隣の席の家族は、30過ぎと思われる息子2名と老いた両親という構成だった。おやじさんが、「この店の盛りは板そばと比べてどうなのかね」と息子に質問していた。なぜこのとっつぁんは板そば(山形県のそば。へぎに載せられて出てくる。詳しくは出羽路の記事にて)を比較対象にしているのか、よく分からない。

その質問に対して、息子さんは「板そばよりも多いんじゃないの」と答えていた。「板そば」は店によってボリュームが違うと思うのだが、ひょっとしたら「1板そば」「2板そば」っていう単位が存在する地方があるのかもしれない。1板そば=500g、とか。

よくわからん会話だったが、どうやら家族の中では成立していたようだ。日本人の皮をかぶった宇宙人かもしれん。

刀屋の蕎麦

さて、われわれの蕎麦がやってきました。右が、もりそば(大)。左が、兄貴が頼んだざるそば(普通)。

このお店は、小<中<普通<大 という4段階の盛りがあるのだが、普通と大の間でこれだけの格差がある。普通は楽勝で食べられるから、という事で大にチャレンジしたら玉砕、という事だってあり得るだろう。

兄貴が「おおおお」と思わず感嘆の声を上げる。隣のおとっつぁんも、目が釘付けだ。「板そばよりも多いな」とコメント。いやだから、板そばってどれくらいのボリュームなんスか。

わっさわっさと食べる。この季節であっても、ワイルドな蕎麦の味と香りがちゃんと残っているのはうれしい。太さがバラバラで、堅めにゆでてあるので食べ応え抜群だ。この蕎麦を「田舎蕎麦」と名乗っても全然問題ないと思ってしまう。ワイルドさに欠けた、お上品な「田舎蕎麦」を出す蕎麦屋はぜひ見習って欲しいモンだ、なんていいながら蕎麦をかじる。もう、すするとか手繰るなんて言葉は通じない。かじって、咀嚼。

隣のテーブルでも、蕎麦が届けられた。息子2名が大で、おやっさんは中だった。一口二口食べたところで、何やらまた板そばとの比較談義が始まった。きっとこのおやっさん、板そばに人生を賭けていたんだろう。きっとそうだ。

1/3程度食べ進んだ段階で、味覚嗅覚ともに麻痺してしまった。せっかくの風味だが、あとはもう麺をかじっているだけ、という状態。返す返すもったいない話だ。

「鈍化した味覚と嗅覚が即座に復活する何か」を薬味として添えることはできないものだろうか。葱、山葵、大根おろしくらいでは回復は難しい。ええと、たとえば・・・らっきょう甘酢漬けなんて、いいかもしれない。

「どうだ、上田の蕎麦は」

食後、兄貴に声をかけてみた。

「いや、うわさ通り凄いボリュームだったな。値段が安いっていうのが驚きだし」

祖母の体験談は本当だった、と身をもって体験し、大満足な兄貴であった。

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