そば処 ふじもり

2009年05月23日
【店舗数:237】【そば食:419】
長野県安曇野市穂高有明

山菜三種盛り、そばの実ぞうすい、ざるそば、玄そば

林の奥に蕎麦屋がある

美味い蕎麦を食べ歩いて、安曇野を旅する3軒目。

「美味い蕎麦を探し求めて」なんてキャッチコピーをつけなくて良いところが、安曇野の良いところだ。これまでの2軒、いずれもおいしかった。探さなくても、そこら中でゴロゴロ美味がある。もっとも、ガイドブックのお店抽出が素晴らしいからであり、ガイドブック非掲載の店は悲惨なのかもしれないが、そこまで確認する勇気はないのでやめとく。

さあ、蕎麦食べ歩きは3軒目からが佳境。胃袋と相談しながら、ということになる。既に同行者からは「いかん、腹がいっぱいになってきた」という苦悶の声が上がっている。お店の営業時間と、ガイドブックから受ける「美味そうな予感」の印象と、胃袋をバランス良く踏まえつつ、次なるお店探しとなった。

選ばれたのは、「そば処 ふじもり」というお店。ふじもりと聞くと、アルゼンチンの元大統領を思い出してしまうが、多分なんの関係もない。黒姫高原の蕎麦の名店「ふじおか」とも似ているが、もちろんこれもなんの関係もない。

安曇野観光のメイン道路といってよい、山麓線という広域農道の側に2008年5月オープンということだ。まだ新しいお店だが、さっそくガイド本に掲載されるくらいだからすごい。実際、ガイド本の安曇野市界隈の蕎麦店紹介写真を見比べてみると、このお店が一番「美味いぞオーラ」を放っていた。色気が素晴らしい。

いざ、山麓線に車を走らせてみると、そこら中蕎麦店だらけ。安曇野は凄いな。戸隠のように蕎麦を前面に出した観光地以外で、こうも自然発生的に蕎麦店が密集しているところって、安曇野が一番なのではなかろうか。

ただ、それらのお店だが、深い木々に覆われていたり、山麓線から少し奥に引っ込んだところにあったりして、なんの気なしに車を走らせると、あまりお店そのものを目にすることはない。見えるのは、お店の案内看板だけだ。

そんなわけで、われわれは案の定道に迷った。いや、迷ってはいないのだが、店を見つけられなかった。「おかしい、この辺なのだが」といいながら、若干うろうろする。

ようやく店の看板を見つけ、それここだと脇道に逸れたら・・・あら、道路が舗装ではなくなりましたな。砂利道だ。深い緑の中を走る砂利道は、途中何度か曲がりつつ走る。「おい一体どこへ連れていくんだ」と若干不安になったところで、目の前が急に開け、ぽこんと建物があった。目的地到着。

この過程、そういえば小淵沢の「月舎」とそっくりだな、と思った。

ふじもり

それにしてもすげえ立地だ。小さいながら看板はロードサイドに出ているとはいえ、商売っ気があるんだか無いんだかわからない。「安曇野に行ったらおそば食べたいねえ」と漠然と考えている観光客が、ふいと立ち寄るシチュエーションではない。店へのアプローチとなる地点は山麓線のメインともいえる場所に近く、好立地っちゃあ好立地。しかしそこから先が急に難易度が上がる。

この地にたどり着けるのは、地元民か、ガイドブックで入念に下調べしたそば好きくらいだろう。結果的にシロウトお断りになっている。

まあ、そういうお店は他にも、全国各地あちこちにある。しかし、なぜ蕎麦ばかりがこういう求道者的立地条件で店を開くのだろう。蕎麦が持つ特殊性だ。ラーメンがこういう山の中に店を開いているというのはあまり聞いたことがない。きっとあるんだろうけど。

ぽつんと一軒、雑木林の中にあるお店「ふじもり」。おかしの家ではあるまいか、とか過激派のアジトではなかろうかとちょっと心配になる。そういう客心理をお店側も分かってか、どどーんと大きな「ふじもり」の表示。それを見てちょっと安心する。恐らく、山麓線沿いは景観条例があって、派手な看板は出せないのだろう。その鬱憤をここで晴らしました、ここなら好きにできるぜヒャッハー、といった感じか。

窯が店の脇にある

駐車場の片隅には、かまどが作られてあり、大量の薪が燃やされるのを今や遅しと待ちわびていた。何に使うのだろう。

じつはこの店、蕎麦屋ではなく和風モダンなピザ屋になりました、と言われたら相当びっくりだが、それだったら何も店の外にかまどを作る必要はあるまい。陶芸でもやっているのかしら。

ふじもり入り口

駐車場側からそのままお店に入る事はできるが、わざわざ建物の反対側に回り込んで、表口から入る事にした。こちらにはちゃんと白い暖簾がかかっている。

山麓線からこのお店に車を走らせると、まずこの表口が目にとまる。しかし、そのまま裏手の駐車場に車を止めてしまうので、お客の殆どが裏口から出入りすることになる。歩いてくる人なんて皆無だろうから、この表口は飾りに等しい。だが、それがいい。敢えて表口から暖簾をくぐってお店の中に入る。

ふじもり店内

お店は靴を脱いで中に入るスタイルで、床は全面板張り。天井がとても高く作られており、屋根の真ん中が一段高い。まるで、温泉の湯小屋のようだ。

「ここに源泉引っ張ってきて湯船作って、男女の仕切りを作ればそのまま温泉施設として使えそうだ」

などと冗談を言う。

窓が広く取られていて、開放感と明るさがすばらしい。とても居心地が良い空間になっている。ここでつらつらと酒を飲みつつ、外の景色を愛でるというのは良い昼下がりの過ごし方だろう。恐らく、夏になると窓が開け放たれ、風が屋内を通り過ぎていくだろうから、それも楽しそうだ。

ただ反面、冬は相当冷えそうだ。もちろん暖房は入るだろうが、これだけ窓が大きくて、屋根が高いと室温が快適になるまで相当時間がかかりそうではある。お店の人、暖房費バカにならんだろうと心配になる。だが、それがいい。

ちゃぶ台のような机に案内され、腰を下ろす。最近、この手の新しい飲食店は大抵掘りごたつ形式になっているので、油断していたがこのお店は普通の床だった。思わず足が戸惑った。

お品書き表紙

お品書き冒頭
店内には石臼が飾ってあったり、5月だからか兜が飾ってあったりして、なかなかいい感じ。そしてお品書きが和紙で作られていて無骨なのもいい感じ。
山菜三種盛りが本日のおすすめ

本日のおすすめとして、「山菜三種盛り」というのがあった。

時は既に5月の下旬、そろそろ山国である信州とはいえ春の山菜は時期が終わりつつあるだろう。食べるなら今しかない。注文してみることにした。

ひじき

注文が通ったあと、しばらくしてお通しがやってきた。

長野の蕎麦店(主に北部)で定番の野沢菜ではなく、なんと「ひじき」だ。なぜにひじき?

聞くと、お店で出汁を取ったあとのものを有効活用するためだとか。へぇ、とその場は聞き流したが、よく考えると一体どこをどう有効活用したんだろう。鰹節の絞りかすが入っているわけではない。多分お店では使わないレベルのだし(三番だしとか)で煮含めたのだろう。ただ、それでも結構な手間であり、店員さんがさも廃物利用かのような言い方をしている裏で、実はなみなみならぬおもてなしの心がある。

具はひじき、にんじん、厚揚げ、わらび。わらびが入っているあたり、春を感じさせてうれしい。そうか、こういう食べ方もあるのだな。

味はとても良い。これまで食べてきたひじきのなかでも相当イイカンジだ。食堂なんかでひじきの小鉢を頼むと、塩辛かったり甘かったり、どうも自分好みのものにであう機会がない。しかしこれはバッチリだ。素敵。売り物にしても良いくらいだ。酒肴にぴったり。

「ひじき・有料でお土産にできます」とお店に掲示があったら、迷わず購入していたことだろう。

山菜三種盛り

山菜盛りあわせがやってきた。500円。

右から時計回りに、わらび、山うど、こしあぶら。

「えっ、これわらびですか?」

と思わず感嘆したそれは、とても良い発色をしていた。わらびって、くすんだ色をしたものが多いが、これは深緑色で奇麗に染まっていておいしそうだった。実際食べてみると、歯ごたえが残っていて素敵な食感。くたくたになったわらびしか食べた事がなかったので、歯ごたえがあることに驚いた。ここのご主人、油断ならん人だ。味つけも絶妙だし(おかでんにとっては)、いい腕を持っているっぽい。ははーん、だからこんな辺鄙なところに敢えて出店できたんだな。腕に自信がなければ、この立地条件は相当にリスキーだもの。

こしあぶらは天ぷらでしか食べたことがなかったので、おひたしで出てきたのでうれしかった。山うど・・・。ええと、食べたことがなかったです。今回初めて食べました。なるほど、勉強になる。

そば雑炊

そばの実ぞうすい、400円。

「そばの実の雑炊、美味いんだよなあ」とうれしそうにぼやきながら、同行者が食べていた。「おなかいっぱいなんだけどなあ」
実際、とても美味かった。まるまるとしたそばの実がほくほくしておいしいし、味つけもこれまたいい塩梅だ。ただ問題なのは、これを食べると相当おなかに溜まる、ということ。蕎麦食べ歩きをしている時に、このメニュー選択は打ち止め宣言に等しい。

ざるそば半分
玄そば一人前
写真左:ざるそば半分。写真右:玄そば一人前。

ざるそばに限っては、「半分」という単位がある。半分(700円)<一人前(900円)<大盛(1,050円)、という構造。

普通、蕎麦というのは量が少ないものだ。だから、大盛だとか中盛が存在するわけだが、半分、というのはなんとも面白い。そばの実雑炊や玄米ごはんと一緒に食べたい人に適している、とお品書きには記されていた。

しかし、出てきたそれは、どう見ても一人前としか思えない量だった。さすが長野。長野基準で量を考えると、これで半分なのか。そうか、よく考えると、一人前900円とチと高い。これは、「盛ってやるぜ」というお店側からのシグナルだったと解釈すべきだ。

ざるそばは丸ぬきを石臼で挽いた九割そばだ。丸抜きなので薄緑の発色をしていて色気たっぷり。そして、アクセントして殻を少し混ぜているので、ぽつぽつと麺の表面に星が見える。これまた、食欲をそそる。

一方玄そばは、見るからに黒っぽい。挽きぐるみの十割蕎麦だ。メニューからは無骨な印象を受けるが、蕎麦は細く長く仕上がっており、ご主人の腕の確かさが伺える・・・と書くと相当にエラそうだな。何様だお前。

それぞれ食べてみる。見た目の色気から、これがまずかろうはずがない。勝利が約束された外観だ。実際、いずれも大変においしかった。玄そばの方はもっとごわごわした感じがするかと思ったが、予想以上になめらかで食べやすい。香りは、さすがに殻ごと挽いてあるので玄そばの方が良い。ただ、ざるそばの方も全く劣っていない。ざるそばの方はその性質上手繰りやすいので、気持ちよく食べ勧められる。うーん、両方とも非常にレベルが高い。どっちがお奨めか、というとこれは甲乙つけがたい。個人の好みの問題だ。

ただ、残念な事もあった。辛汁を一口すすった同行者が、「ん・・・」と一瞬固まった。おかでんも辛汁をすすってみたが、なるほど確かにこれは。酒臭いのだった。みりんの配合を間違えたか、加熱か寝かしが甘かったか。いや、間違えではなく、もともとこういうつゆなのかもしれない。しかし、結構これはクセが強く、これまでパーフェクトゲームでやってきたこのお店としては意外な一面だった。

なお、話は若干逸れるが、このお店のつゆは、鰹をベースとした王道のつゆの他にもう一つ選択ができる。植物性のおだしで仕込んだ、という「精進つゆ」だ。恐らく椎茸を中心にだしをとったのだろう。非常に興味深い。ちゃんこ鍋みたいな味なのだろうか?などと、この精進つゆを想像するだけでも楽しい。今度訪れる事があったら、こちらも試してみたいところだ。

弥生式土器のような湯桶

蕎麦に大満足・大満腹になっていたら、蕎麦湯が机に届けられた。

うわっと、何だこれは。驚かすなあ、もう。ありがちな塗り物の四角い湯桶ではなく、なにやら土器のようなポットが出てきたのだった。

「弥生式土器?」
「いやいや、それは言い過ぎ」

この陶器が非常に味わいぶかく、注がれる蕎麦湯に鄙びた感じをより一層醸し出して良かった。重いし、割れる危険性もあるし、洗うのも面倒だと思うが良い試みだ。後で気がついたのだが、駐車場脇にあったかまどでご主人が製作しているのかもしれない。だとしたら器用なものだ。

つゆに関しては「?」というところがあったにせよ、非常に・すこぶる満足度の高いお店だった。大満足です、ごちそうさまでした。