【番外編】 祈年 手打茶寮

2010年04月28日
【店舗数:—】【そば食:—】
東京都港区西麻布

「準備中」だったために食せず

このサイトには、「意見・要望」というページがある。問い合わせフォームがあって、そこに必要事項を書き込むとおかでんにコンタクトできるという仕組み。以前は全ページ下部にコピーライト表示と共におかでんのアドレスを掲載していたのだが、SPAMメールの餌食となったため、専用フォームを作った次第。

ぽつり・・・ぽつりと、月に1件程度はなにがしかの問い合わせがあるのだが、その殆どが「投稿理由:生暖かい声援」カテゴリに属している。わざわざ声援を送って下さる方がいると、こちらもモチベーションがあがる。本当にありがたいことです。

しかし先日、「投稿理由:その他」カテゴリで問い合わせメールが届いたのには焦った。旅行記や食べ歩き記録が多いサイトなので、どこかのお店や施設から「ふざけた事書いてるんじゃねぇ!消せ!謝罪しろ!」と言われてもおかしくない。それが心配。そもそも「その他」って何だよ。そういうカテゴリを設定した自分でもよくわからんわ。

本当にドキドキしながらメールを開封してみたら、あれれ、物腰柔らかい文面だぞ。お説教じゃないのか?物陰に隠れていたおかでん、おずおずと表に出る。

送信元は、西麻布で3月に蕎麦屋を開業したばかりのご主人だった。蕎麦には自信があるのでぜひ一度お召し上がりください、と書かれている。なんだ売り込みか。帰れ帰れ。

・・・とはならないのがおかでんの性格。おもしれぇ、その挑発乗った!と鼻息が荒くなってしまった。いや、別に挑発はしていないんだけど、勝手に「かかってこいやコラア」と言われたと拡大解釈し、一人血の気が多くなっちゃってるありさま。「かかってやらあコラア」とこっちもノリノリだ。

「目下の不景気で長年勤めた会社からリストラされ、一発奮起して趣味の蕎麦屋を営むことにしました。開業資金はなけなしの退職金です。独学ですが家内からはおいしいと褒められます」

なんて辛気くさい事が羅列されていたらさすがにご免被るが、やる気と自信を感じさせる文体だったのが好印象だった。

それよりも何よりも、「おっ?」と思ったのが以下の文章。

当店のおすすめは
●更科(水捏ね 十割)
●発芽蕎麦(十割)
です。

「おっ?」というより「あー」という感じ。これを見ただけで、なるほどあっち系ですか、というのが推測できる。なにせ「発芽蕎麦」だ、こんな奇抜な蕎麦を出す店といえば、長野県上田市にある「おお西」のお弟子さん以外あり得ない。恐らく、ご主人は「大西流」の免許を持っているのだろう。

この「蕎麦喰い人種行動観察」では、おお西本店の他に、お弟子さんがやっている「志な乃」「奈賀井」を訪れた事がある。どの店もおいしい蕎麦なので、この店もよっぽど織田信長的反骨精神のご主人でもなければ、確実に美味い蕎麦が出ると思う。

この日の午前、仕事の打ち合わせがあったのだが、「4月に別企業から移ってきましたー」という方が今回からおかでんのカウンターパートナー。初顔合わせ。

さあおかでん形勢逆転。先週、前任者と打ち合わせをしていた時点までは「3年がかりの活動の成果が出るぜ」とウィニングラン状態だったのに、この新任の方から「あともう一回フルマラソン走ってきなさい」と言われたに等しい指示が。これぞリアルちゃぶ台返し。うわー。ちゃんと話を引き継いでおいてくれよー。「仰ってる事の理解はできます(ただしまったく納得できていません)」と答えるのが精いっぱいだった。

もうやってられん、というかこりゃ作戦を根本的に練り直さないといけない、というか、「あの人は結局何を求めているんだ?」というのさえわからんので、もう今日は仕事お終い。やめたやめた。今日は引き上げよう。

というわけで、昼には身柄が空いてしまったので(さぼって会社を抜け出したわけじゃないぞ、念のため)、例の蕎麦屋に行ってみる事にした。

お店の場所は、ご主人が「陸の孤島、と地元の人に言われるくらいの立地条件」と仰る場所。確かに、地下鉄の六本木駅からも、乃木坂駅からも、表参道駅からも遠い・・・。野球でたとえるなら「テキサスヒット」な場所だ。

そもそも、都心北部に居住しているおかでんにとっては、六本木でさえ不便な場所だ。東京近郊の人間は、勤務地がない限りは基本的に山手線の円内奥深くにはあまり立ち入らない。面倒だからだ。山手線沿いに新宿渋谷池袋上野・・・と飲み食い買物をするには困らない場所があるので、わざわざ中まで入り込む必然性を感じないのだった。

こういう時でもないと、なかなか行くことができないと思い、雨が振る中傘無しで突撃(傘を忘れたため)。

教えて頂いた場所は、謙遜でもなんでもなく「陸の孤島」だった。いやぁー、これは「仕事帰りにちょっと立ち寄ろう」とは思わないな。仮に「比較的近場」である六本木ヒルズ勤務だったとしても、ここまで来ようというガッツ溢れる人がどれだけいるか。ましてやおかでんのように、山手線の外側、湾岸エリアにオフィスがあるような人にとってはまず無理だ。山手線内側の蕎麦屋は「神田まつや」くらいの位置で勘弁してくれ。

そんなこともあって、今回蕎麦のコメントを書くとなると、非常に悩ましかった。お店を訪れる前から、悩んだくらいだ。恐らく「西麻布界隈で仕事をしたり住んでいる方」向けの店だから、そういうおセレブな方々の価値基準とおかでんの基準はまったく違うだろうから。

長野県で蕎麦を食べようがどこで食べようが、「地元価値基準」と「おかでん基準」が違うのはいつものことだ。しかし、今回特に頭を抱えてしまったのが、このお店のお値段にあった。ぶっちゃけ、非常にお高い。

「定番のもり」と呼ばれるベーシックな蕎麦が1,000円。大西流のメインイベント、発芽そばは1,500円、更科そばは1,800円・・・。蕎麦一枚で、少なくとも夏目漱石さんお一人を供託しないといけないということだ。ちょっとこれはシビレる。

もともと「おお西」の蕎麦は長野のお店であってもお値段が張る。発芽そばは手間がかかるので仕方がないとも言えるが、それに加えてこのお店は東京、しかも西麻布という地価が高い場所だ。そりゃあこういう値段に落ち着くしかないのは十分理解できる。

理解できるが、そこまで高いお金を払ってまでお蕎麦を食いたいかね?という根本的な話になってしまうのだった。場所は不便だし、お値段高いし。「美味いか・まずいか」以前のところで高いハードルが立ちふさがっているのだった。

そこで話が戻るのだが、「でも西麻布界隈の人たちって、これくらい払っても平気なのかもしれん」という考え方もある。店の雰囲気が良いですね、とか酒肴が変わっていて面白いですね、なんてところに価値観を見いだす方がいるかもしれないし、外国からのお客さんをもてなすにはちょうど良い店だね、という考え方だってある。「隠れ家的でナイス!」という発想もありだろう。

そんなわけで、高いだのなんだの言うのって、この店を評するのには無粋なのかもしれない。というか、きっとそうだ。「広島では500円台でお好み焼きを食べられるのに、東京だと900円近くは最低でもする。東京ぼったくりすぎ」というのがいかに間抜けな意見であるかは言うまでもないが、それと同じ事が今目の前の店でもある予感。ええと、困ったな。

今まで、(物価が高い)東京から(物価が安い)地方の蕎麦屋に行くというパターンが多かった。だから、「安くてこの美味さ!このボリューム!」みたいな事が言えた。アホでも言える。しかし今度は「東京の中でも特に物価が高いエリア」からのオファー。どうすんの、これ。

しかもwebサイトでお品書きを眺めていると、「野菜サラダ」なんてのがあって困惑するし(女性客をターゲット?)、クリームチーズ西京漬とか八丁味噌ナッツ、といった蕎麦屋にしては挑戦的なメニューが並ぶ。やばい、この世界観はおかでん、わからんぞ。蕎麦屋の定番中の定番酒肴「板わさ」もお品書きに列記されていてほっとしたのだが、お値段が700円でこれまたちょっとびっくり。

これは、蕎麦の味そのものよりも、他のお客さんの客層や注文している品などに興味が湧く。どんな人がどんな注文をするんだ?夜の営業時間中にいくと、いろいろ面白そうだ。ただし今回のおかでんはお昼の訪問。

お店にたどり着くと、その建物は到底蕎麦屋が入居しているとは思えない、レンガ造りの外壁の建物だった。楕円形になっており、まだ日本がイケイケだった頃に作っちゃいました感がありあり。この手の「斬新なレトロ建造物」はこの界隈と、恵比寿の奥の方でよく見かける。

入口には白い丈の短い暖簾と、木の看板、そしてお品書きがある。これで一応飲食店であることを主張しているのだが、あまりに地味だ。建物の外観からして、カジュアルイタリアンのお店あたりが入居してると違和感ないのだが、まさかこんなところに蕎麦屋があるとは。しかも、店頭に「手打ち蕎麦」「毎日打ち立て」なんていう下世話なのぼりは当然出ていないので、目立たないことこの上ない。通りすがりの人で、運良くこのお店に気がついたとしても最初は「寿司屋?」と思うかもしれない。

蕎麦を打つ場所らしいものが見える

ただちゃんと歩道に面して、蕎麦打ち場はあります。これで「ここは蕎麦屋だ」とさりげなくPR。あくまでも「さりげなく」だけど。それにしても、レンガの外壁と蕎麦って似合わないもんだねえ。

なにせ、お隣のビルはアマンド(洋菓子店)だ。このギャップは何。

準備中

中に入ろうとすると、あれれ。「準備中」の札がかかっている。まだ営業していなかったのか。開店時間はとうに過ぎているのに、どうしたんだろう。変わりやすい気候のために蕎麦打ちに難航しているとか?

だとしても、12時20分になってまだ営業していないというのは飲食店として野心的すぎる。昼営業をするなら、12時~13時はかき入れ時だ。一体何が起きたんだ。

そもそもこのお店、昼営業は12時~16時。なんだか変な時間帯だ。普通は11時、遅くとも11時半から営業して早めにお昼ご飯を食べるお客さんを捕まえるものだが。

そして、営業開始が遅い分終了も遅いという謎。15時台にお客ってどれくらい入るのだろう?西麻布界隈のおセレブな方々の生活習慣はよくわからん。

店頭の看板に電気は灯っているし、天ぷら用のごま油の臭いが店周辺に漂っているので、店としては営業開始寸前と思われる。しばし待ってみる事にした。

待つこと30分。よくもまあ大人しく待ったもんだと思ったが、陸の孤島なのでじっと待機するしかないのですよ。雨だし。

で、いい加減店が開いているだろうと思ったら・・・まだ準備中の札が。何じゃこりゃあ。まさか、店の人が「営業中」に札をひっくり返し忘れてましたアハハ、というオチじゃあるまいな。

その札を見ておかでん、「ああ、そうですか」ときびすを返してこの店を後にした。いわゆる就職活動でよく使われる言葉「今回は残念ながらご縁が無かった」という奴ですね。

「営業、していないんですか?」と店に首を突っ込んで店員さんに確認しても良かったのだが、今回はあくまでもお忍びで行くつもりだったので、それはやめておいた。準備中というならはいそうですかと引き下がるまでだ。

西麻布という微妙な位置なので、しょうがないので渋谷まで歩いて行くことにする。雨降ってるし、お昼食べ損なったし、足取りがとても重い。・・・あ、そうだ、今足首には片足2kgずつの重りを巻き付けてあって、トレーニングしてるんだっけ。そりゃ足取りは重いわけだ。

何故かライオン

渋谷でお昼ご飯を食べる場所を探す。

「もうこの際だから飲んぢまおう」と思ったが、昼酒歓迎な店ってさすがの渋谷でもそう簡単には見つからない。あったとしてもこっちのニーズとあわないジャンルの店だったりする。「孤独のグルメ」状態でただひたすら渋谷を歩き回った。

「この際、アウトバックでステーキをがつりと食ってもいいな」と思い行ってみたが、昼営業はやってませんでしたー。ええい、このやるせなさをどこで発散すれば良いんだ。

渋谷って、飲食店激戦区であるが故にランチ営業をやっている店って「お得なランチメニュー」限定勝負のところが多いんだよな。安くて結構なんだが、「レギュラーメニューから頼んでもいいですか?」とか「ビールも欲しい」といったら叩き出されそうな緊迫感がある。長っ尻客はご免だよ、と。居場所がないなあ。困った。

そうこうしているうちに14時近くになり、あちこちのお店がランチ営業を終了しはじめた。やべえ、このままだと「富士そば」で月見そばの昼食とかになっちまいそうだ。

結局、渋谷マークシティ内にある「ブラッスリー銀座ライオン」のお世話になることにした。ここだったら、お昼からがっつりと肉食べてもビール飲んでも違和感がない。マークシティー脇には古ぼけた焼鳥屋があって、生ビール250円などと激安ではある。ただし今日は鬱憤晴らしをしたいのでそういうお店の気分じゃなかった。ガツンといかせてくれよ。

大ジョッキフェア開催!

その点このお店はガツンだ。

「大ジョッキフェア開催!」だって。いいねえ、泡が消えようが、ぬるくなろうが、飲み残しが出ようが、おかでんは大ジョッキを愛する。今日のこの気分には大ジョッキがちょうど良い。決めた、ここにしよう。

ディナーメニューは15時から

あれっ。

店に入る前に食品サンプルを見たのだが、「こちらのディスプレイメニューは15時からの販売となります」だって。ディナータイムとランチタイムではメニューが違うのか。その「ディスプレイメニュー」とやらには、我が愛しのビールジョッキさんたちが五人囃子のように並んでいらっしゃるわけだが、アレも15時以降だったら泣ける。

ランチタイム限定!ビヤホールセット

おっと。そんなアナタに朗報です。

「ランチタイム限定!ビヤホールセット」なるものがあるらしい。生小グラスにおつまみ3品つき、1,050円。

い~じゃないか、い~じゃないか。これでいこう。

ビヤホールセット

ビヤホールセット。

蕎麦を食べるつもりだったのがまさかこんな洋風料理に化けるとは夢にも思わなかった。午前中の仕事の打ち合わせ同様、今日一日を一言で述べるなら「ちゃぶ台返し」だな。蕎麦食えなかった悔しさ紛れに、むしろこっちの料理をこのページで紹介しちゃる。

つまみ3品は生ハム、枝豆、生蛸のマリネ。蛸の足の薄切りはそのでけぇことでけぇこと。一体こんな直径の足を持つ蛸ってどんなサイズだと気になる。海の神様かその手下くらいのやつを捕まえてしまったんじゃないか?生蛸ならではのなまめかしい食感がとても美味なり。もちろんビールも美味なり。

うん、こいつはなかなかいいタコだ。いかにもタコというタコだ。まずいタコはゴムみたいだからなあ。

世界の乾杯

テーブルには、「世界の乾杯」という紙があった。

日本語では「カンパイ」、タイ語では「チャイ・ヨー」、アイルランドでは「スロンチェ」などといろいろ書かれている。

が。

ライオン流の乾杯は「ウォー!」と下に書いてあった。誰がこんな乾杯するのかね。

僕っすか?いやいや、勘弁してくださいよ。ウオーなんて恥ずかしくて言えませんよ。一人黙々と飲みます。

心の中で「ウォー」と言いつつビールを飲む

くーっ、これですよ。

渋谷に大ジョッキが似合うということが今日よくわかったよ。
まるで俺の体は水力発電所、胃はそのタービンのようだ。

うぉオン

ちなみに写真の大ジョッキは追加オーダーしたものだが、1杯1,030円だった。あれれ、よく考えると今日行きそびれた蕎麦屋の「もりそば」よりも高かったな。

この後、まだ鬱憤晴らしが終わっていないと踏んだおかでんは、今度は人間火力発電所になるために「蒙古タンメン中本」へ移動。激辛の北極ラーメンを大盛りで注文し、さらにそこに一味唐辛子をしこたま入れて食べたのだった。

半日後の深夜、今度はお腹が溶鉱炉になってしまいトイレに駆け込んだのは言うまでもない。

準備中の札のせいで歯車がズレたか・・・