鞍馬

2012年10月28日
【店舗数:304】【そば食:524】
東京都杉並区西荻

伊豆わさびのかえし漬け、鴨ねぎ焼き(もも肉)、箱盛そば、国権、田酒

西荻窪に素晴らしい蕎麦屋がある、という情報は10年以上前から知っていた。その名前は鞍馬、という。故杉浦日向子さんが愛したお店、という折り紙付きだ。飲食業としては、「かの池波正太郎が足繁く通った店」というと箔が付くように、池波正太郎ブランドは相当なものだ。しかし、蕎麦に関しては池波さんに加えて杉浦さんが権威になっている。

杉浦日向子さんは、「ソバ屋で憩う」という名著で特に知名度が高い。おかでんも影響を受けた一人で、この「蕎麦喰い人種行動観察」というコーナーを開始したきっかけは杉浦さんと、その著書の影響だ。

ではなぜずっと放置されていたかというと、単に西荻窪に行くのが面倒だったからだ。蕎麦喰い人種黎明期(2000年~)におけるおかでんの興味はもっぱら信州蕎麦であり、自宅近場の店(蕎香)だった。マイカーを手にしてからは、この鞍馬の支店「新座鞍馬」(埼玉県)に行った事があるくらいで、肝心の西荻窪本店には結局足を向ける事が無かった。

しかし、今年はひと味違う。おかでんが「今年こそは新蕎麦の季節に蕎麦をたくさん食べたい。しかも、東京都内で。」という気になっていたので、鞍馬を訪れるチャンス到来。

今回は、ただ単に鞍馬一店舗だけ訪問するのはもったいないので、「鞍馬」→「本むら庵」「髙はし」と、荻窪界隈の蕎麦屋3軒をハシゴしようと思っている。もちろん、満腹による途中リタイアあり、という条件付きで。

鞍馬外観
鞍馬看板

目指す鞍馬はJR西荻窪駅を出て徒歩1分のところにあるという。

そんな近いところ(=地価が高い)に美味い蕎麦屋があるんか?と不思議に思う。蕎麦屋って、もっと辺境なところにあるもんじゃないのか。蕎麦食べ歩きを開始して既に12年目に入っているおかでんだが、駅チカで美味い蕎麦ってすぐには思い当たらない。

「どうせ『徒歩一分』といっても実際は数分かかったりするんでしょ?」

と思っていたが、スマートフォンのナビを頼りに歩いて見たら本当に1分だったのでびっくり。

店は非常に地味な作り。通りすがりに「おっ、蕎麦屋があるぞ。軽く手繰っていくかぃ」と気づいて入店するのはちょっと無理がある、そんな地味さ。駅が近く、派手な看板を掲げているお店が多いのにこのさりげない感じはどうだ。いずれ、外壁を迷彩塗装にして、ますます店の存在を秘匿にしようとしているんじゃあるまいか。

店内に石臼

お店に入る。訪れたのは16時前だったが、客席は比較的埋まっていた。みな一様にお酒を飲んでいる。やあ、昼酒ですか。いいですな。後で僕もその一員になりますよ。

お一人様の場合、大きな机があるのでそこに座ることになる。こういう「一人用の席」が用意されているのは実はありがたい。もちろん相席になること前提になるが、おかでんとしては「四人掛けの席を一人で独占」するよりも「相席の大机」の方が気が楽だ。お客さんが次々やってきたとき、「四人掛け」だと気が引けてしまうからだ。

幸い、大机には先客がおらず、おかでん一人でぜいたくな場所を占有した。

おっと、前言撤回。先客はいたぞ。電動石臼くんが大机の傍らにたたずんでいる。こんにちは。今日はどんな蕎麦粉を挽いたのですか?

さすがに午後ということもあり、石臼は動いていなかった。タイミングさえあえば、回る石臼を肴にしながらお酒が飲めるんだろうな。いや、でもそんなことやったら、目が回って悪酔いするかもしれない。

田酒

お品書きをじっくり吟味する。昔はお酒を頼んだら、自動的にお通しで蕎麦味噌がついてきて、それ以外の酒肴は用意されていないお店だったはず。しかし、2012年10月時点の今、お品書きを見ると結構お酒も酒肴も品そろえがよい。しかも、酒肴は値段がどれも安いのがうれしい。300円~1,160円まであるのだが、主な料理は300円から500円の間に収まっているから素敵だ。

「このお品書きに掲載されている料理を、右から順に左端までお願いします」

というとんでもない注文をしても、そんなにお財布には響かないだろう・・・と思って計算してみたら、やっぱりそんなことはなかった。全メニュー頼んだら、当然高いや。やめとけ。

結局、「伊豆わさびのかえし漬け」300円なりを注文し、お酒は「国権」一合(560円)をセレクトした。このお店、お酒は「一合」または「半合」と量を選べるのがうれしい。

届けられたお酒は、フラスコ状のガラス徳利&おちょこなのが涼やかで良い。そういえば、このお店では熱燗はお品書きに書かれていなかったな。

伊豆わさびのかえし漬けは、わさびのさわやかな味わいで清酒を飲むのにぴったりだ。少量であるとはいえ、これで300円はお得だと思う。わさびの茎の部分を蕎麦のかえしで漬け込んだ、蕎麦屋ならではの一品。いかんな、酒が進む。

鴨ねぎ焼き(モモ肉)

本当は「一品だけ酒肴を注文し、お酒も一合まで。さっと蕎麦前を楽しんで、蕎麦を手繰ってとっとと退店する」という心づもりだったのだが、清酒一合ですっかりいい気分になってしまった。そんなわけで、ついついお酒と料理の追加をば。

注文したのは、鴨ねぎ焼き(モモ肉)と、田酒。

お品書きを見ていて「おや?」と思ったものがある。鴨肉料理、二品もあるぞ。しかもそこには、「モモ肉」と「胸肉」の記述。うーん、鴨といえば、無条件で「鴨ロース」なんだと思っていた。しかし、ニワトリ肉同様にモモ肉や胸肉ってあるんだね。そりゃそうだ、同じ鳥類だものな。じゃあ、今まで食べてきた「鴨ロース」ってどこの部位だ?

調べてみたら、鴨における「ロース」は胸肉に相当するらしい。えー、ニワトリにおける胸肉って、脂身がなく若干パサパサした食感なのに、鴨になると随分変わるものだな。蕎麦屋でまた一つ賢くなってしまった。

鴨のモモ肉、気になるじゃねぇかこの野郎。多分今までで一度も食べた事がないはずだ。ここで会ったが三年目、注文しないわけにはいくまい。ちなみにお値段600円。鴨胸肉のほうは1,100円なので、胸肉(いわゆるロース肉)の方が倍近く高い。

出てきた鴨ねぎ焼き(モモ肉)は、まさに「鴨がネギしょってやってきた」状態。これがまずい訳がない。上に振りかけられた一味唐辛子が良いアクセントになっておいしさを加速させている。うん、これなら清酒よりビールの方が合うかもしれない。あの、すいません、ビールを・・・。いや待て、本当にそんな事やったら、長っ尻になるぞ。ビール飲んでたら今度は酒肴が足りなくなり、酒肴を頼んだらお酒が足りなくなり。その繰り返しだ。過去何度この悪循環にはまったことか。過去の反省に基づいて今回はこれにて蕎麦前終了!

お盆
箱盛そば

お蕎麦を頼む。注文したのは「箱盛そば(白目の標準的なそば)、940円。

「甘皮蕎麦(黒目の甘皮多めの太そば)」990円という蕎麦もあったのだが、お品書きに「特におすすめは箱盛で、純度の高い蕎麦の味を出したいと努力いたしております。」と書いてあったので、じゃあ箱盛だね、と。

甘皮蕎麦は多分いわゆる「田舎蕎麦」の事を指すんだと思われる。

蕎麦より先にお盆が卓上に運ばれてくる。わざわざ紙が敷いてあるのが、蕎麦屋のおしゃれ、という感じがして面白い。先ほどの酒器もそうだったが、食器類の類は高橋邦弘氏(現・「達磨」ご主人)の影響を受けている事が分かる。ただ、独創的なのは蕎麦が本当に箱の中に入った状態で供されることだ。しかも、手元に届くまでの間、ふたが閉められているというのも面白い。目の前で店員さんがふたを開けてくれる。少しでも蕎麦が乾燥するのを防ぐためだろうか?それとも単なる演出?こういう展開は、300軒以上蕎麦を食べ歩いてきたおかでんにとって初めての体験だ。

箱盛そばアップ

蕎麦は茨城県産の常陸秋そばを採用しているそうだ。茨城産だと、まだ新蕎麦の季節手前かな。ちょっと訪れるタイミングが良くなかったかもしれない。でも、蕎麦自体はおいしかった。清酒を飲んだ後のシメにぴったりの食感。しっかりした麺だけど、堅いわけではなく、もっちりしている。十割蕎麦だけど、つるつるッと喉を通過していく感触が楽しい。あー、新蕎麦でこれを食べてみたい。今回食べた蕎麦は香りがあまり強くなかったので、多分新蕎麦になると今以上に美味くなるのは間違いがない。

ちなみに壁に貼ってあった休業日のお知らせによると、10月23日~25日は新そば仕入れのため臨時休業、とのことだった。あれ、ということはこの蕎麦はもう新蕎麦採用?よくわからない。

蕎麦は若干高いが、それに見合った味ではある。酒肴が安いこともあるしこのお店は今後も訪れてみたいところだ。ただし、その時は飲み過ぎ注意!

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