大黒屋

2015年04月18日
【店舗数:394】【そば食:651】
福島県南会津郡下郷町大内山本

ねぎ一本蕎麦、蕎麦はっとう

久しぶりに、福島県は南会津郡の大内宿にやってきた。気が付いたら9年振りだ。江戸時代の宿場町の雰囲気を残す、茅葺き屋根の家が軒を連ねた独特の雰囲気。変わらないことが良いことである場所なので、そう何度も行く必要はないのかもしれない。

前回、前々回と、ここを訪れるたびに名物である「ねぎそば」を食べてきた。2005年のときは三澤屋、2006年は大和屋だ。長ネギ1本まるごとを箸替わりにして蕎麦を手繰るというやり方はとても独特で、見た目のわくわく感、食べてみてのわくわく感は最高だ。こんな食べ方、自宅でも簡単にできるのではあるが、やっぱり「宿場町・大内宿でやってこそ」の楽しさだ。

今回も、もちろんねぎそばを食べるつもりだ。

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昔は、ねぎそばを食べようと思っても「どこで食べればよいのやら?」と警戒したものだ。というのも、大内宿の多くのお店は食堂を併設しており、そこで蕎麦を食べることができるのだが、「ねぎ一本を箸がわりにして食べる」という独特なスタイルをそのお店でやっているのかどうか、外から判別がつきにくかったからだ。お店に入ってみて、注文してみて、出てきた蕎麦がふつうのお箸で食べる蕎麦だったらかなりがっかりだ。なので、2006年に大和屋を訪れた際は、事前に入念に店頭メニューを調べたものだ。

しかし2015年の今、ねぎそばを明確に標ぼうするお店が増えていた。というか、どこのお店もやっているっぽい。おそらく、B級グルメだのご当地グルメといったものが日本全体で盛り上がったことで、ねぎそばという観光資源があらためて注目されたんだと思う。これまでも、各店舗ではねぎそばを当たり前のようにやっていたのかもしれないが、今では明確に「うちではねぎそばやってますよ」と店頭で宣言するようになっていた。「変わらない事が良い町」である大内宿であっても、こうやってどんどん時代の流れとともに変わっていく。

さてそうなると困るのがお店選びだ。大内宿の蕎麦屋はとても多いので、どこで食べるのがいいのか、さっぱり見当がつかない。「数少ない選択肢なので、えーいこのお店にしちゃえ」だったこれまでと違い、「こっちも、そっちも、あっちもあるけどどうする?」という状態だ。

蕎麦屋というのは、外観の色気というか雰囲気で蕎麦のうまいまずいが透けて見えることがある。なので、その法則をこの大内宿でも適用したいんだが、ここではそれが無理だった。大内宿独特の作りなのだが、お店の入り口は通りに面しておらず脇にひっそりとあるのが決まりだ。表からじゃ、お店の風情ってのが全然把握できないのだった。

結局、決めかねて、目のまえにある「大黒屋」に入ってみることにした。特に根拠はない。

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大内宿は人気の観光地なので、タイミングによっては激しく混雑する。駐車場渋滞のために数キロ車が大名行列するというのは定番の風景だ。駐車場が増設され、少しは解消されたと聞くけど、場所柄混むときは混むはずだ。

しかしこの日は、週末のお昼時ではあったけどさほど混んではいなかった。ご覧の通り、大黒屋も空席が多かった。

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お値段は結構高い。「ねぎ一本蕎麦」が、いわゆる「ねぎそば」に該当するのだが、1,080円だ。もともと田舎の蕎麦ってこともあって、量は多めだ。それに観光地物価が加味されると、これくらいの値段になってしまう。

「ねぎ一本蕎麦」のとなりに「ねぎ蕎麦」が同じ価格で並んでいて、大変紛らわしい。一応店員さんに確認してみたら、「ねぎ蕎麦は白髪ネギです」という回答が帰ってきた。つまり、「長ネギを丸ごと一本、そのまま出すのが『ねぎ一本蕎麦』であり、細かく刻んだネギが薬味として蕎麦の上に乗っかっているのが『ねぎ蕎麦』というわけ。

大内宿の周囲はまだ雪が残っている場所があり、ようやく春が訪れつつある雰囲気だ。連れは、暖かい蕎麦が食べたかったのだが、ねぎ一本蕎麦は冷たいのしかないので断念。以前訪れた「大和屋」には暖かいねぎそばがあったのだが、お店によっては取り扱いがないのだろう。というか、ぶっかけそばの一形態なのがこの「ねぎそば」なのだから、原則冷たい食べ物なのだとは思う。

結局、連れと二人でねぎ一本蕎麦を1つ、そして蕎麦はっとうを頼んでみた。ここで満腹にならなくたって、大内宿はあちこちで食べ歩きができる。気になるものを買い食いしていける楽しみを得た、と思えば十分満足だ。

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お茶請けとして出てきた、白菜の浅漬けをポリポリと食べながら待つ。

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ねぎ一本蕎麦到着。

あ、こういうタイプか。つゆに蕎麦が浸かっていて、その上にかつお節、刻み海苔、大根おろしが載せられている。そして箸の代わりに、ネギ一本。ネギは、緑色の部分をすっぱり切り落としてあり、真っ白な棒だ。緑の部分があった方がよりネギっぽい雰囲気が出て良いと思うのだが、これは好みの問題だろう。ネギの緑部分は食べないよ、という人は多いわけだし。やっぱりこの「ねぎ一本蕎麦」、最後はきれいさっぱり箸代わりのネギを食べ尽くしました、というところが愉快なわけで、それを踏まえると緑部分はいらないのかもしれない。

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蕎麦アップ。麺は素朴な切り方で、乱切りっぽい。しかし、以前食べた大和屋と比べると細めではある。この蕎麦の場合、ネギを丸かじりしつつ食べる!という強い刺激を伴う。だから、挽きぐるみの田舎蕎麦で、ごわごわの太麺にした方が楽しいと思うんだがどうなんだろう?しかしそうなっていない、ということは、それはイマイチだったのかもしれない。

あ、それ以前に、太麺なんてしちゃったら茹で上がりが遅くなる。大量の観光客をさばくためには、ある程度麺が細い方が助かる・・・という台所事情があるのかもしれない。

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早速、蕎麦を食べてみる。

「このネギを使って食べるのがなかなか難しいんだよ」

と言いながら手繰ってみたが、あれれ・・・簡単に、かつ大量に蕎麦をすくい上げることができたぞ。これまでは、つるんつるん滑る蕎麦に苦心させられたのに。

それもそのはず、この蕎麦にはかつお節がかかっていて、それが水分を吸って蕎麦に絡みついていたのだった。だから麺がごそっとすくえる。これは「食べにくい」と定評があるねぎそばを手軽に食べることができるコツだな。

いいとは思うのだけど、食べていると口いっぱいに広がるのはかつお節の味。蕎麦そのものの味を楽しみたい嗜好の僕にとっては、嬉しくなかった。ぶっかけ蕎麦というスタイルでさえ、あまり好きではないのだから。しかし、これは単なる僕の好みの問題であり、一般的には「食べやすくてニコニコしながら楽しめるねぎ蕎麦」としてウケがいいかもしれない。

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さすがにねぎそば3回目ともなれば、ネギをかじりつつ蕎麦を食べるというペース配分をわきまえてきた。ネギを食べ過ぎてしまうと、蕎麦が食べられなくなるし、蕎麦ばっかり食べていると、ねぎそばの意味がない。一口蕎麦を食べてはネギをかじる、この交互がいい。

うまくいけば、ほら、最後の蕎麦一口とネギ一口がうまくタイミングが合う。

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さて、もう一つ頼んでおいた「蕎麦はっとう」が来た。

はっとう、といえば南会津の秘境とも言って差し支えない尾瀬檜枝岐に伝わる蕎麦のおやつだ。以前、檜枝岐の「開山」でこの料理に初遭遇し、「へええ、こんな食べ物があったのか!」と驚かされたものだ。それがここ、大内宿でも食べられるとは。

上にかけられている白い粉は砂糖なので、当然のごとく甘くてじゃりじゃりする。今のようにお菓子がよりどりみどりじゃない時代からしたら、これが大ご馳走だったんだと思う。胡麻が入っていて、香ばしさもあり美味しい。しかし、粒をよく観察していたら、何か丸い種のようなものがあちこちに見える。店員さんに「これは何?」と聞いてみたら、エゴマだという。あ、なるほど、てっきり砂糖と黒ゴマを混ぜたものが上にかけられているものだと思ったが、実際は砂糖とエゴマだった。そういえば、エゴマはこの大内宿のあちこちでお土産として売られていたな。エゴマ油は、小瓶でも1,000円以上するのでびっくり仰天の高級品だ。

なるほどねぎそばというのはお店によっていろいろあるものだなあ、と感心させられた訪問だった。折角だから、ねぎそば食べ歩きをやってみたいという気にもなるが、そういう「コンプリート企画」は今後あまりやらないつもりだ。やりだしたらきりがないから。

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