ファラフェルという名の未知数

短期集中食べ歩きマニアックス(その6)

ファラフェル、という料理の名前を知ったのは、ある女性との会話だった。当時僕のお気に入りだったその女性は、毎朝早く起きて自分の弁当を作ってから出勤しているのだ、と僕に教えてくれた。その際、僕が「得意料理とかあるの?」と聞いたら、返ってきた答えが「ファラフェルとかこの前作りましたよ。」というものだった。

ファラフェル?聞いたことがない料理名だ。

しかし、その女性の前ではカッコつけていたかった僕は、「何それ知らない」とは言えなかった。

「お、おう、ファラフェルね。すごいじゃないファラフェル作るだなんて」

とその場は適当にお茶を濁し、でも頭の中には「?」の文字がいっぱいだった。

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その場を離れてから、スマホでさっき覚えたばかりの「ふぁらふぇる」なる料理を猛烈に検索してみた。すると、出てきたのはやっぱり見たことも聞いたこともない料理だった。

なんかSF的な臭いが漂う名前ではあるが、もともとは中東地域の食べ物らしい。端的にいえば「ひよこ豆をすりつぶしてミートボール状にして揚げたもの」だ。コリアンダーやスパイスを入れて作るそれは、見たことも聞いたこともない料理だ。こんな料理を自炊で作るとは、この女性何者なんだと舌を巻いた。さっき言葉にした「すごいじゃない」という褒め言葉が、数十分後にようやく実感を伴ったわけだ。

その女性は僕よりも一回り以上年下だったわけだが、そんな小娘にファラフェルという謎料理を語られてしまったことがなんだか悔しかった。ってなわけで、おかでんなりの女性に対する屈折した思いを込めて、都内で僅かながらファラフェルが食べられるお店を行脚してみることにした。チョイスしたお店は全部で10軒。これだけ食べれば、いっぱしのファラフェル通を気取れそうだ。付け焼き刃、だけど。

ちなみに食べ歩きをしたのは、その女性とはすっかり縁遠くなってからのことだ。にもかかわらず頭に「ファラフェル」という言葉がこびりついて離れなかったのだから、よっぽど執着していたっぽい。

01軒目:DAVID’S DELI@白金高輪

ファラフェルが食べられる店、というのは都内でも数えるほどしかないっぽい。「イスラエル料理の店」「パレスチナ料理の店」などと標榜する店、果たしてどれだけ思い当たるだろうか?地方に住んでいる人なら、全く心当たりがないだろう。東京近辺に住んでいてもそうだ。そもそも、「世界三大料理」とか言う割にはトルコ料理店すら全然みかけないというのに。

そんなわけで、一軒目は白金高輪にあるイスラエル料理店を選んでみた。

DAVID'S DELI

店名をDAVID’S DELIという。デリ、という名前の通り、食べ物のテイクアウトも一部対応している。もちろんお店で食べるもよし、お酒飲んでもよし。数少ないイスラエル料理店だからか、お客さんは外国の人が多かった。でもそれがユダヤ人なのかどうかまではよくわからなかった。黒服着て黒い帽子かぶって長いひげはやしてたら一発でわかるんだけど。

ファラフェルとはカリカリボールのことらしい

店頭にはこんな売り文句が掲げてあった。

カジュアルな一階で
本場イスラエルのコラーゲンジェリーよせ(ピシャ)や
ニューヨークの一流デリでしか食べられない
マッツァボールチキンスープ、マメとハーブの
カリカリボール(ファラフェル)等の健康とキレイが
いっぱいのお料理で皆様をお待ちしてます!!

ファラフェルって、「カリカリボール」なんだ。うまそうな和訳だけど、一気に俗っぽくなってしまい、「まだ見ぬ強豪」感は失せてしまったのが残念。どうやらこのお店、ニューヨーク経由のイスラエル料理店、という位置づけなのだろう。宅配ピザが「イタリア料理」ではなくて、「アメリカ料理」の移植であるようなものだ。

マッツァボールチキンスープ

で、店内のメニューにも「ニューヨークの一流デリでしか食べられない」と謳っていたので、まんまとその言葉にはまって予定外の注文をしたのがこれ。「マッツァボールチキンスープ」。実物を見て、「うわなんだこれ」と思わずつぶやいてしまった。

シンプルなチキンスープの中に、ごろんと一つの団子が入っている。日本人なら、どうしてもこの上に三つ葉を添えようとか色気を出してしまうけど、ここまで潔いとむしろ拍手だ。「ZENの境地」とかいうやつかもしれん。

このマッツァボールだが、鶏胸肉ミンチかなにかだろうと思って食べてみたら、全然違うふわふわした物体だったので面食らった。これ、「マッツァー」というユダヤ人が食べる、クラッカーのようなパンが原材料なのだった。マッツァーを砕いて団子にしたもの、それがマッツァボール。だから、ボール自体にさほど味があるわけではなく、チキンスープに浸して、その塩気で食べるという一品らしい。しらんかった。見たことも聞いたこともないわ、こんなん。

あれ?パンみたいなのがきた

とかいってるうちに、本命であるファラフェルが到着。

うわ。なんだこれは。白いふかふかした何か。これが・・・カリカリボール?これがひよこ豆?

困惑してしまったが、このキャッチャーミットみたいなのはピタパンであることを知った。ああ、ケバブを買った際に詰め込む、薄いパン生地だ。でもここのピタマン(みたいなもの)はそうとうふっくらしていて、中華まんみたいな状態だ。

ピタパンの中

で、中身はこちら。大量のキャベツとトマト、キュウリなどが入っていて、その中にファラフェルが2粒。これが夢に出てきてうなされた、懸案の「ファラフェル」との人生初遭遇だった。

ひよこ豆、というともっさりした食感で、あまり日本人好みなものではない。実際、普通のスーパーでは売られていないくらいだ。そんな豆をペーストにして揚げたものなんて、歯ぬかりしてマズいんじゃないか、口の中の水分が全部持っていかれるんじゃないか、と心配しながらかじってみたら、いやいや全然違いますよ旦那。これ・・・全然くどくないし、モサモサしてないし、食べやすくて旨い!えええマジですかこれ。

(2013.10.30)

02軒目:アルミーナ@神田

「地中海レストラン」を謳うお店「アルミーナ」が神田にある。都内唯一のパレスチナ料理店、ということだが、ここでもファラフェルを取り扱っているという。

アルミーナ

入り口を見て、入るのを躊躇してしまった。

エスニック系のレストランというのは、あまり一人で入るお店じゃない。デートなりなんなり、連れがいてこそのお店だ。僕一人がずかずかと入るのは気が引けた。吉野家じゃあるまいし。しかもこのお店、今日はベリーダンスショーもあるらしい。うわあ、一人客がベリーダンスの妖艶な踊りを観賞して、どうリアクションとればいいんだ?「ひょーゥ」とか言えばいいのか?やだなあ。恥ずかしいなあもう。

しかし、「ファラフェルの店10軒巡り」を決めている以上、ここを無視するわけにもいかない。おっかなびっくり、奥まったところにある入り口のドアを開ける。

値段の高さにびびる

案の定店内はカップルとか数名のお客さんばかり。水タバコを恍惚の表情で吸っている人とかいて、そんな中単身で客席に座るのはやっぱり居心地が悪い。ソワソワしながら、ファラフェルだけ食べて帰ろうと思ったのだが、そういうのは無礼じゃなかろうかしらん。

でもそんな心配をよそに、メニューにはファラフェルがなかった。焦る僕。ファラフェル扱ってないのなら、このお店で居心地悪くいるのはいやだ。お酒が飲めるなら、パレスチナ料理を肴に飲むぜーって発想の転換ができるけど、あいにく僕はお酒を飲まないんで。

でも、和食の定食屋よろしく、「これさえ頼めばオッケー」的な一品が思いつかない。中華料理店みたいに「ラーメン餃子」といった王道がパレスチナ料理にもあるのだろうけど、そんな知識はあいにく持ち合わせていない。で、値段はどれも結構高いので、うかつに選べない。さて、さてどうしたものか。

困惑しているうちに、めっさフレンドリーな店員さんが笑顔でやってきた。

「何食べたい?ケバブ?ケバブいいよケバブ」

ケバブ大好きです。でも今日はそれを食べにきたんとちゃう。

「あのー、ファラフェル?ファラフェルを食べたいんですけど」
「ファラフェルね。あるよ。ほら、これ」

指さされた先には、「おつまみプレート」と書かれていた。ああ、前菜コーナーのところにファラフェルって位置するものなのか!てっきりメインクラスの扱いのものかと思っていた。で、このおつまみプレート、いろいろな料理が盛り合わせっているらしい。お値段、1,200円。うむ、4桁のお値段か。

ざくろジュース

値段にびびって食べない、という選択肢は元々なかったので、ええいと注文。・・・のついでに、ザクロジュースも頼んでしまった。どうやらザクロってあっちの特産品らしいので。店員さんに「飲み物は?何飲む?」と言われ、ついつい「あー、じゃあザクロジュースで」と答えてしまった。

多分僕が年取ってジジイになったら、オレオレ詐欺にひっかかるんだろうな。押しに弱い。

ファラフェル

そんなわけでやってきましたおつまみプレート。

ミート・ロール、チーズ・ロール、グッペ(ラムひき肉、松の実入りミートボール)、ファラフェル(ひよこ豆と野菜のコロッケ)、サンポーサ(サモサ)。

どれもあっさりしていて、くどさが全然ない。健康に良い料理だろうなあとしみじみ感じさせるものばかりだ。かといって、物足りないかというとそうでもない。結構しっかりとした食べ応えもあり、いいバランスだ。

中は緑色

ファラフェルは、中にコリアンダーが入っているということもあって緑色をしている。揚げ物で中が緑なのでやや不思議な印象だ。コリアンダーのさわやかな青い味がとてもいい。これははまりそうだ。健康食!とかいってマスコミが煽れば、あっけなく流行りそうなんだけど、なんで流行らないのだろう?

ベリーダンスショー

そうこうしているうちに、ベリーダンスショーが始まった。狭い店内に作られた小さなステージなので、すぐ脇に座っている僕は大迫力。でも、一人客だし、心の準備が全くできていなかったのでどう盛り上がって良いのか苦慮した。最後になると、ステージに上がって一緒に腰を振ったり、「ひゃっはー」とか叫んでいたのだけど。半分やけくそだ。まさかファラフェル食べに行って、ベリーダンスを踊ることになるとは。

ケバブ

「ケバブは?ケバブおいしよ」

という店員さんの畳みかけるようなお誘いにまんまとのっかってしまった僕は、ケバブを頼んでしまっていた。

「ケバブどれにする?鶏羊牛いろいろあるよ」
「あー・・・羊は僕大好きです」
「ミックスもあるよ。ミックスにする?」
「はあ、じゃあそれで」

結局ミックスになっちった。

なんかとんでもない散財になってしまった。ケバブなんて、2,100円だぞ?ファラフェル食べるには財力が必要なのかもしれん、と身がすくむ思いがした夜だった。でも、ベリーダンスを見て踊れたので、ショーチャージだと思えばまあいいか。

(2013.11.01)

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