羊肉の会#6 「焼き羊」というありそうでなかった単語

串焼き

店頭の黒板メニューにも書いてあった、「ひと口生ラム」のメニュー。

やや、よく見ると「炭火串焼き・串揚げ」と書いてあるぞ。

「これ、全部串揚げにすることもできるんですか?」
「できますよ。でもおすすめは串焼きですね」

そりゃそうだろうな、カツにしちゃうとせっかくの羊の部位ごとの味がわからなくなりそうだ。

よく見ると、料理名ごとに◎や◯の印がついているものがある。なんだろう?と思ったら、メニュー一番下に

◯ 食べやすい部位
◎ 希少部位

と書いてあった。

「ほほう、食べやすい部位、か。ということは、◯が付いていない部位はむしろ癖がある通好みの部位、ってことか。じゃあ僕らは◯が付いていないヤツを頼もうぜ」

発想が天のじゃくだ。

それにしても、希少部位と言われると頼みたくなるじゃねぇかこの野郎。「シキンボ」とか聞いたこともない名前だ。

「これってどれくらいの量、あります?」
「本当に一口ですね」
「ああ、じゃあ一串をみんなでシェアするというのは?」
「それはちょっと難しいですね」
「うーん」

さすがにこの串を人数分、全種類というのは無理だ。胃袋のキャパをコイツラに捧げる覚悟ならばいいけれども。そして、お財布も。「一人ずつ、串を全種類!」ってやったら、それだけでかなりの金額になっちゃう。

「よしこうしよう、一人2串ずつだ。じゃんけんで決めよう」

何も全員が全種類味比べをしなくてもいいだろう。「早い物勝ちのジャンケン勝負」ってことにすれば、それだけ場が盛り上がる。あーでも困ったな、14種類あるぞ、これ。

それを見かねた店員さん、

「ここに書いてあるフィレとサーロインですが、Tボーンステーキを頼むとそれで食べられますよ。この2つを除けば、12串(=6名参加なので、一人2串ずつ)になります」
「それだ。じゃあ、Tボーンと、残り12串で」

即決。

悩んでも始まらない。

お通し

というか、さっきからなかなか頼むものが決まらなくて、延々とどうしようどうしようとみんなで話をしているのだった。何らかのきっかけがないと、永遠に注文する品が決まらない気配がする。

というのも、どれも甲乙つけがたいし、羊メニューだらけだから。「これは敢えて頼まなくても、いいだろう」と切り捨てられる料理が殆ど見当たらない。そして、羊肉だからお値段はそれなりにする。「どうせ安いんだし、えいやっと全部頼んじゃえ」とはいかない。かといって、値段が高すぎるから頼むのを断念するほど高級でもない。絶妙な値段なのだった。こういうのが一番悩ましい。

でも、悩ましい、っていうのがこのオフ会では一番たのしいことだ。

一種の大喜利みたいなもので、メニュー片手に羊と、それにまつわるエトセトラの話題が尽きない。料理なんておまけなんです、というくらいに僕はこの時間が好きだ。

写真は、ししゃもの卵を混ぜた、「子持ちこんにゃく」。まずはこれを食べてみんな落ち着け。

ちなみにこの日の参加者は、

のっちょ、ちむ、さとちゃん夫妻、いし、おかでん

の6名。これくらいの規模感だと、何を注文するか?ということを考える際にゲーム性が高くなってきて、面白い。8名だったら、「じゃあ同じものを2皿お願いします」とか「こっちのテーブルにはアレを、そしてあっちのテーブルにはソレを」と注文しやすい。しかし6名ともなると、微妙に1皿では足りなかったりするし、取り分けが難しい。だからこそ、たのしい。

サラダ

結局僕らじゃ何も決められないので、店員さんが

「どうですか、せっかくですからサラダとかは」

なんて言われたら、

「そうですね、サラダいいですね」
「羊チーズとルッコラのサラダ、なんてありますが」
「それいいですね、それください」

ともう、なすがままなんです。というか、そうやって背中を押してくれてありがとう。

それでやってきたのがこれですよ。やあ、チーズが新雪の吹き溜まりみたいになっているぞ。これは嬉しい。

食べてみると、なんとなく牛の乳で作ったチーズとは違うことがわかる。ああ、いるいる、遠くで羊のメー!という鳴き声が聞こえてくる。へええ、羊のチーズってこういうのか。

チーズの塩っけがあるので、ドレッシングはなし。それでも十分にうまいうまい。980円。

たたき

はっはっは、もう笑っちゃうしかないね。ラムのたたき。1,100円。

前回の「ラム・ミート・テンダー」で、「羊肉っちゅうやつは、ピンク色に輝いて宝石みたいなやっちゃなぁ」としみじみと感じたのだが、これはその極地。なんなんですかもー、このピンク色はー。

ピンク=エロい、なんて安直な比喩は使いたくない。そういう下世話な方向に話題を振り向けたくないくらい、これは美しかった。一同息を飲んで、そのあとため息を付いた。・・・結局、呼吸をしているだけなんだけど。

これまでの羊肉の会は、モンゴル、中国、トルコと各国料理を楽しんできた。それらのお店は、いずれも火をしっかりと通した肉を出してくれた。しかし、前回今回とピンク色の肉が出てきて、僕らを悩殺してやまない。これは素晴らしいなあ、見た目だけじゃなくて、食感もすごくいい。

牛肉よりもうまいんじゃないか?これって。牛肉独特のスジ感がまったくなく、でも生っぽさがあるから肉の弾力がしっかりある。臭み?いや、全然。

黒焼き

じゃあ、火を通していないラム肉最高!・・・と断言してよいのだろうか。

否、否とよ。

そうはいくか、とばかりに出てきたのが「黒焼き」。980円。

サイコロステーキ状の羊肉を、宮崎地鶏のように直火焼きにしたもの。柚子胡椒でいただく。

みんな、柚子胡椒をつけてぱくり。

・・・

「しまった、柚子胡椒の風味が勝ってしまった」

このお店で提供されるラム肉は、全てくさみがなくってふんわり上品な味わいだ。だから、下手に調味料をつけるとそっちに味を持っていかれてしまう。できるだけシンプルに味わいたい。

串カツ

生ラム串カツ。1本380円。

生ラムをわざわざ串カツにするなんて、と思う。ずるい、とさえ思う。こういうのは食っちゃいかんよ、麻薬と同じで、後戻りできなくなる。

原了郭の調味料

よく見ると、テーブルの片隅に原了郭の調味料が並んでいた。おおお、すげえ。

原了郭の山椒や黒七味は、とても風味が高くて僕は大好きだ。ただし、東京だったら三越百貨店の地下でお買い求めになるような品で、けっこうな値段がする。八幡屋礒五郎の七味は気軽に買えても、原了郭の七味はちょっとした度胸がいる。そういうものがしれっと卓上に置いてあるのが、嬉しい。

(つづく)

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