もともと僕は酒飲みで、しかも交友範囲が広くなかった。そんなわけで、「オフ会」と称して飲んだり食べたりする企画をずっと昔から続けてきた。
たぶん、僕が90年代のパソコン通信文化から自分のキャリアをスタートさせたからだろう、「オフ会」という言葉には未だにワクワク感を感じる。
随分長いことオフ会を開催してきた中で、「オフ会常連」の枠を越えて本当の親友になった仲間もいるし、遠方から泊りがけで参加してくれる人もいる。日頃このサイトで文章を書いていると「のれんに腕押し・豆腐にかすがい」という言葉を感じるのだけど、オフ会ばかりはガツンと人とのつながりが感じられて、ものすごく僕自身のモチベーションにつながっている。これまで参加してくれた人、そしてこれから参加したいと思っている人には本当に感謝だ。
しかし、パソコン通信のような双方向コミュニケーションの産物としてのオフ会ではなく、「個人ブログで記事を書いている人と、その読者」という非対称コミュニケーションのオフ会だ。なかなか持続的に開催を続けるのは難しい。「自然発生的に、メンバー内でオフ会が企画された」という構図が存在しないからだ。だって、「メンバー」なんていないから。
そんな中、オフ会常連でありアイデアマンであり飲み助でもある「のっちょ」さんが、「こんなイベントがありますけど」とちょこちょこと情報を提供してくれて助かっていた。彼は僕の視界からは見えてこない、いろいろなお店を紹介してくれる。
新型コロナウイルスが2020年初頭から大流行しはじめ、オフ会開催が開催が難しくなった。でもまだ「オフ会をやる文化」は途切れないように、と2020年秋には「勝手知ったる人限定」でオフ会を開催したりもした。
2021年は・・・感染者数が多すぎて、とてもじゃないけどオフ会どころじゃなかった。それ以前に、外食すらできる雰囲気じゃなかった。
仲間で集まることさえNGなのに、ましてや「さほど親しくない人もウェルカムでオフ会だ!」とオープンにメンツ募集なんてやったら、問題になっただろう。「世間の空気に忖度した」ということよりも、参加者から感染者が出た時のリスクがある。そんなリスクを背負ってまでイベントを企画することはできなかった。営利目的ではないのだし。
でー。
ようやく2021年秋、一旦新型コロナウイルスの感染者数が減ってきた。今後どのように推移するかは不明だけれど、そろりそろりとイベントを再開させてもよさそうな雰囲気になってきた。
・・・とはいってもどうすればいいのか。
初対面の方も含めてバーンと参加者を募集してもいいのか、それともお会いしたことがある方に限定したほうがいいのか。いや、「初対面かどうか」なんてのは感染となんら関係がないのではないか?
規模は?場所は?募集から開催までの間に情勢が急に変わった時の判断は?集まった人たちのルールは?
なかなか悩ましい。
この2年近く、僅かながらも人と会う機会があるときはお互いの「プロトコル」を最初に手探りするという作業があった。人によって警戒度合いが違うからだ。たとえば、「飲食店で良いのか、家に遊びに来てもらった方がよいのか、そもそもお誘いはNGなのか」とか、「寒くても窓を開けていないとNGなのか、どうなのか」とか。
もちろんマスクを外してウェーイ、なんてことはしないし、家で会う時でもお店で会う時でも必要な衛生対策はとっている。しかしどこまで厳重な対策が必要と考えているかは、人によって異なる。でも、それをお互い口には出して言いづらいものだ。だって、せっかく会ったわけだし、「こうしてくれないと困る」と注文をつけるのはなんだか気まずい。
だからこそ、相手の空気から「あ、この程度ならOKなんだな」とか「これは駄目だな」というのをすばやく察知し、せっかくの来客が不安にならないよう、安心快適に過ごせるよう対処するのがホスト役である僕の立場だった。
だからこそ、オフ会の再開は難しい。
とはいっても、まずは一回小規模でやってみて、そこから今後を考えたい。最初の一歩を踏み出すことで、オフ会に向けた思考回路に頭が切り替わっていく。
そんなことを考えていたところ、のっちょさんから「羊フェスタ2021」という野外イベントが開催されます、という情報提供を受けた。ほう!それは面白い。
コロナ前、僕らは「羊肉の会(仮称)」と称して羊料理を出すお店を巡るオフ会をやっていた。
「羊フェスタ2021」は一時中断となっていたこの企画を復活させる、良いきっかけとなる。カジュアルかつライトなイベント、しかも屋外なので、なおさら好都合だ。
これはいい!ぜひ参加しよう。直前のお誘いだったけど、家庭内調整のうえおかでん家3名でイベントに参加することにした。0歳児の僕の子供は、オフ会初参加だ。
2021年11月06日(土)
「羊フェスタ2021」は、中野駅から徒歩数分のところにある「中野セントラルパーク」で開催される。正確に言うと、野外飲食イベントが11月6日・7日の2日開催で、それ以降の一週間は中野区界隈の飲食店で引き続き開催、という体裁になっている。
東京都で緊急事態宣言が解除になってからまだ一ヶ月ちょっと。緊急事態宣言の解除を見越してイベントの企画は始動していただろうが、どこまでの規模や内容でイベントを開催して良いか、主催者はギリギリまで予想がつかなかっただろう。
世論として「このご時世にこういうイベントをやるなんて」というキツい風当たりがあるかもしれないし、逆に「緊急事態宣言解除!歓迎!」とばかりに歓迎されるかもしれない。感染者数の大小では測れない、「空気感」がある。
主催者いわく、「規模を縮小し、それでもイベントとして成立するようにした」とのこと。ビジネスとして損が出ないようにするのも大事だし、感染者数を出さないことも大事。そのバランス感というのはこれからのウィズコロナ時代のノウハウになっていくだろう。
受付でもらったパンフレットには、「「羊肉復活の狼煙」をあげましょう!」とか、「新しい時代の羊の形、食フェスの形。」というキャッチコピーが書かれていた。かなりの意気込みが伝わってくる。逆に言うと、ここまで謳わないと再始動できないほどに、飲食業やイベントというのはコロナでダメージを負った、ということだ。
中野セントラルパーク内の「なかのアンテナストリート」と呼ばれる石畳通路沿いがイベント会場になっていた。
柵を作ってイベントエリアを取り囲んでいるようなことはなく、人が自由に横切ったりしている。羊肉を食べている人よりも、公園脇のビルに入居しているマクドナルドをテイクアウトして、家族でピクニックやっている人の方が多いんじゃないか?というくらいののどかさだった。
イベントの入場受付の前には一番搾りフローズンのキッチンカーが停車していた。ちなみに中野セントラルパークは、キリンHDの本拠地だ。
羊フェスタ2021の受付。
公式webサイトでは事前に来場者登録を推奨していた。大まかな来場時間、氏名年齢連絡先などとともに、「来場直前の体温」を入力するようになっている。
しかしこの仕組みはザルで、実際に予約をしてみたけれど登録したアドレスに「予約完了メール」はこなかったし、受付で予約状況のチェックはなかった。しかも、何人で訪れるかさえも登録が不要だったので、会場が混雑してきたら入場制限をかけるといった手立てもなかったようだ。
そもそもこの会場は開放的で、入場制限のかけようがない場所だ。あくまでも事前登録はクラスター発生など不測の事態が起きた際のアフターフォロー用なのだろう。
人の往来が自由なら、受付は何の意味があるの?という気がする。
でも、ここで検温して手指消毒をやったら、小さな丸いシールが一枚もらえる。これが大事で、胸などの目立つところに張っていないと会場内でお買い物ができないのだった。なるほど!
いろいろ、このご時世は新しいルールを考えつかないといけないから大変だ。
不思議な民族衣装を着た人が道路脇に立っていた。「イ族のズマグニ」なるものをサンプルで配布しているので是非どうぞ!と笑顔でスパイスを差し出された。ありがたくいただくが、イ族というのもズマグニというのも聞いたことがない。羊肉によくあうスパイスだ、ということだけど・・・どこにいる人なんですか?
「劉備のところです!」
劉備玄徳(三国志の登場人物)=蜀=中国四川省か。どんな味なのか、この会場ではお試ししなかったけどいずれ家で試してみよう。スーパーで羊肉を買ってこなくちゃ。
会場内は、これといったベンチや机がない。屋台料理で宴会ができてしまうと感染の懸念があるからだろう。長居してもらうことを前提にしていない会場設営、というのは潔い。
実際、イベント主催は「滞在時間は1時間を目処に」といった趣旨の発言をしている。飲んで食って盛り上がる、というのはまだ時期尚早ですよ、というわけだ。
とはいっても、小一時間の滞在とはいえどこかにベースキャンプ地を作りたいものだ。会場をそのまま素通りしたら、そこにはちょうどウッドデッキがあった。レジャーシートは持参していないけど、ここに座り込んで戦利品を食べることにした。
周囲はご近所からやってきたと思われるファミリーがいっぱいで、持参したお弁当やら、買ってきたマクドナルドやらをおいしそうに食べている。肝心の羊を食べている人はむしろ多くないエリアだった。
今回、この「羊フェスタ」に出店している飲食ブースは7つ。
「むむ。これは全制覇できそうですね」
おもわずのっちょさんに目配せをする。大人3名なんだから、十分いけそうな気がする。
ざっと会場を見て回る。
一番人気で、どんどん行列ができてどんどん行列がはけていく、高回転のお店がここ。「味坊集団」。
味坊といえば、御徒町にある「羊香味坊(やんしゃんあじぼう)」が有名で、僕も愛しているお店だ。グルメ雑誌dancyuで羊肉特集が組まれたときは、巻頭にこのお店が紹介されたくらいだ。
ここは羊肉の串焼きが2本で500円。食べやすさ、手頃さ、そしてすぐに買えることから大人気だった。僕も、今回の羊フェスタでは一番好印象を持ったお店だ。羊肉串焼きなんてありきたりすぎるけれど、こういう野外イベントだと「食べやすさ」と「手頃な値段」はありがたい。
たぶん、「羊肉コロッケ」だとか「羊肉から揚げ」みたいに手でつまめる料理を売る屋台があったら、それも大人気だったと思う。
「Eat me! Try me! ウェールズ産極上ラム」
と銘打たれたブース。
ウェールズ産のラムチョップと、ウェールズ産ラム肉のカウルが売られていた。
「カウルってなんですか?」と聞いたら、スープだという。ポロ葱が入っているのが特徴のシチューみたいなもので、日本の味噌汁的存在なのだという。
こういうイベントは久しぶりなので、料理をどの程度買ってよいのか検討がつかない。つい、「両方ください」とオーダー。お会計2,500円。さっきの羊肉串は2つ買って1,000円だったので、トータル3,500円。羊肉なので、決して安くはない。
やあ、久しぶりに「みんなで料理を買ってきて、シェアする」ことをやってるぞ。楽しいものだな、こういうのは。
(つづく)
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