信州・松本そば祭り2009

2009年10月11日
【店舗数:—】【そば食:428】
長野県松本市松本城内

8軒の蕎麦屋食べ歩きでおなかいっぱい

今年も新蕎麦シーズン突入。気が早い事に、幌加内の方じゃ9月早々に新蕎麦まつりを済ませてしまったようだが、蕎麦祭りだらけの信州地方は10月が本場。小さなところでは、一店舗だけだけど「そば祭り」を名乗っているところもあるし、大規模なところになると蕎麦店の屋台が並ぶようなものまである。それが、「信州・松本そば祭り」。

今年で第6回目になる松本のそば祭り。以前、第2回の時に訪問したことがある。女子校が出店していたりして、ちょっと独特な雰囲気が面白かった。ただ、蕎麦の味は特に見どころはなかった、と記憶している。

そんなわけで、二度目の訪問はないだろうと思っていたのだが、知人と話をしている中でこのそば祭りが話題となり、そのままレッツゴーという段取りになった。

調べてみると、今年は24もの蕎麦ブースが軒を連ねるらしい。いつの間にか、規模が巨大化している。昨年訪れた日光そば祭りが恐らく日本最大だと思うが、そこも24店舗。いつの間にか松本も巨大イベントに成長していた。

訪れたのは10月11日、3連休の中日だ。1,000円高速の影響もあって、中央道下りは45kmの渋滞、関越道下りは30kmの渋滞予報が出ていて、行く前からげんなり。結局、渋滞を避けるために朝5時に家を出発した。蕎麦を食べに行くには、気力体力が備わっていないと無理だな。

朝食バイキング実施中

渋滞の先手を取ったつもりだったが、みんな考える事は同じ。皆様早起きして、精を出して車を高速道路に突撃。おかげでまだ夜明けなのにノロノロ運転。中央道を避けて、関越道から松本を目指したので、まだこれでもマシな方だろう。

途中、横川SAに立ち寄る。

「大変であります!朝食バイキング実施中、の文字が!」

うおおお。

いや、冗談です。食べません。これから蕎麦食べるのに、こんなところで食事なんてできるかアホー。

1,000円高速になってから、ますますSAやPAでの朝食需要が増えるだろう。このSAの場合、朝7時から営業、となっているが、いっそのこと朝5時からやっても結構売上が見込めるのではないか。

そんな考察をしていたら、同行者はおにぎりをかじっていた。

「ありゃ、蕎麦食べる前になんてことを」
「いや、いいんスよ。あと3時間くらいあるので、ちょうど消化されるはずなんで」

なるほど。

確かに、自分のようにストイックに蕎麦食べまくるってのは正直どうよ、と我ながら思う。蕎麦も食べつつ、その他の料理や観光も楽しむというのが良いのではないか、と自問自答してしまった。蕎麦食べ歩きスタンプラリーをやっているわけでもないし、大食いチャレンジでもないし、蕎麦評論家になった覚えもないし。

おにぎり食べている彼が急にリア充に見えてきた。

そば祭りはパーク&ライド

湯ノ丸から下道に降り、鹿教湯を経由して松本へ。

そば祭りはパーク&ライドが採用されていて、町はずれの合同庁舎駐車場に車を停め、そこから無料シャトルバスで移動ということになっている。しかし、合同庁舎の駐車場がいっぱいの場合は、もうしょうがないので松本市内のどっかのコインパーキングにでも停めてつかあさい、という事になる。だから、正確に言うとパーク&ライドではない。

合同庁舎は確か松本ICのすぐ近く、くらいの記憶で現地に向かったら、発見できず少し焦った。案内標識くらい出ていると思ったのだが、油断していた。少しだけ遠回りして、駐車場へ。

しょせん合同庁舎なので、駐車場のキャパは知れている。早めに到着しないと、駐車場難民になるだろう。早出・早着しておいて良かった。朝8時半の時点で4割くらい埋まっていた。

シャトルバス乗り場
受付

そば祭りは10時からスタートということだが、そんなわけで既にシャトルバス乗り場には行列が。逆に、車の数の割には行列が少ないのだが、他の人は一体どこへ消えた?

始発のバスは9時にここを出発するという。それまで行列で待機。行列の脇には長机が置いてあって、そば祭りのパンフレットを無料配布していた。パンフレットがあるのはありがたい。今の内にどのお店に行くか、作戦を練ることができる。

あと、パンフレットとは別に、100円で小冊子が売られていた。「そば文庫」と言うらしい。スタッフの方曰く、地元の人が選んだ蕎麦店のガイド本なんだそうだ。100円と非常に格安で、120店舗紹介されているのはなかなかそそられる。しかし、中信地方のお店を120店舗も紹介って、ちょっと数が多すぎだ。観光客の立場からしたら、絞り込みが足りず情報過多。さすがに買うのはやめておいた。

無料配布のパンフレット
蕎麦屋がずらり

無料配布のパンフレット。それなりのページ数があり、国宝・松本城の紹介や松本市街の見どころ紹介記事も掲載されている親切な内容。

ただ、今はそれどころじゃない。どんなお店が出店するのか、そしてどのお店を優先させるのかを綿密に検討せねば。何せ、公式webサイトには店舗情報が載っていないという謎すぎる構成。今、ようやくお店の全貌を知ることができるのだった。

ちなみに、公式サイトには「県内10団体、県外10団体の計20ブースを予定」と記されているだけ。どうなっとるんだ。普通、出店ブースはこんな団体ですよ、と紹介することで集客を図るものだが。しかも、最終的には24ブースが出店しとる。これまた、どうなっとるんだ。

同行者と作戦会議をする。しかし、全く結論が出ない。「いかんな、結論がでないぞ」といったんお互いの議論をリセットし、これまでの議論内容をまとめた上で再度審議入りさせても、やっぱり結論がでない。それは、良いお店だらけで困ったねぇ、という話ではなく、「実物見て、食ってみんことにはよく分からん!」となってしまうからだ。議論すればするほど、どれも横一線に見える。すっげぇ美味そうな売り文句や写真が無い変わりに、ダメダメなところもほとんどない。

結局、きりがないので「このお店は行かなくていいや、というものをピックアップして、消去法にしていこう」ということにし、何店舗か切り捨てていった。たとえば、「いばらき蕎麦の会」や「会津山都蕎麦 蕎邑」なんてのはそば祭り行脚をしている集団なので、別の機会に食べることは可能。故に今回はサヨウナラ、となる。その他にも何店舗か却下。

あと、ブースの位置を確認しつつ、「多分会場入口近辺って行列ができにくいはず。ざっと会場を見てから、食べる店を決めるはずだから・・・だからこそ、会場の奥の方の店から先に行こう」なんて議論をしておいた。混んで行列ができるのは目に見えるので、できるだけ効率よくお店を回らないと。先手先手で。

シャトルバス乗り場は長蛇の列
シャトルバス

9時になると行列がずいぶんと伸びていた。一度にバスに乗れるのか心配だったが、案外バスって人が乗れるものだ。全部わっさーと根こそぎ人を収容し、松本城近くまで護送。

そば祭り会場

バスの乗降場となっている駐車場から、歩いて会場に向かう。10時からは歩行者天国となる道だが、ただいま準備中。

ちょうど松本城の入口前にファミリーマートがあったが、そこでは店員さんが屋台を出して、Lチキなどの販売準備を進めていた。絶好の商機だ。しかし、ここでコンビニB級グルメを食べたら、ある意味負け。間違ってもそっちで胃袋を満たしちゃダメだ。ただし、お子様は蕎麦なんかよりこっちの方が好きだろうから、親子で来るときはぐずる子供を黙らせる材料として使えるかも。

そばは水まわしできまる!

「10時スタートだけど、フライング営業している店はあるか?」

というのが、バスに乗っている間われわれの議題になったところだ。10時になったらアナウンスがあって、ヨーイドンというのはなんか変な話だ。別に勝敗を競っているわけでもないし、準備でき次第オープンでも良さそうだ。だったら、まだ9時20分だけど、営業している店があったらそこから優先して食べ歩く事になるんだろうね、と話をしていた。

実際、会場入りしてみると、既に一部店舗では営業を開始していた。しかも、行列が既にできているお店まで。やばいやばい、先行逃げ切りのつもりだったが、出遅れ気味になっているぞ。ちょっと焦る。

この手のイベントは、お昼時になると激混みになるのがお約束。昼のピーク前にどれだけお店を回る事ができるか、というのが今回のキーポイントだったのだが。

「とりあえず、会場の奥まで」

と移動している最中、なんだか怪しいTシャツを売っている店発見。「そばは水まわしできまる!」と書かれている。だから何なんだ、というTシャツ。松本そばまつりのキャラクターが描かれているところをみると、公式Tシャツなのだろうか?

こんなん、買っても着る場所がない。室内着として着るには1,200円払う気がしないし、外で着るのは激しくイマイチ感が漂う。誰がこんなの買うんだ・・・と思っていたら、帰りがけにガイジンさんがうれしそうにこのTシャツを着ていた。なんかよくわからんが、クールと思ったのだろう。むう、奥が深い。

そば祭りの会場は、松本城のお堀を取り囲む公園にあり、ぐるっと半周に及んでいる。お堀の北側はすぐ道路になっているので、もうこれ以上会場規模は大きくできない状態。そのせいで、蕎麦ブースだけでなく、小規模な物販ブースも結構窮屈そうに配置されている。なにせここは、天安門広場のようなだだっ広い会場ではない。ランダムに木が生えていたり、植え込みがあるので、それを避けつつのブース設営だ。自ずと、利用できる場所は限られる。

さて、まずは蕎麦ブースの中で一番西側奥にあるお店までたどり着いた。恐らく、人の流れとしては「まず会場入りして、『さあ、どこで食べようかねえ』と言いながら店を物色しつつ、一番奥まで流れてくる」はずとわれわれは踏んでいた。入口近辺は混まず、むしろ会場奥の方が混むのではないか。だから、この早い時間に奥のゾーンは早めにお邪魔しておこう、という算段だ。

なお、毎度毎度悩ましいのが、この手のそば祭りの場合、「プロの蕎麦屋がやっているブース」と「そば好きの同好会がやっているブース」が混在しているということだ。ぱっと見、「そりゃあシロウト集団の蕎麦よりもプロの蕎麦の方が良いだろう」と思ってしまうが、これまでの経験上それは何とも言えない。同好会さんは蕎麦を愛するが故に、採算度外視で良い蕎麦粉を使っていたりする。だから、全く侮れない。

そうなると、お店選びの基準は?というと、もうこれがさっぱり。「行列」というのも全くあてにならない。一見さんだらけなので、蕎麦の下馬評が無いからだ。「並んでまで食べたくないねえ」と言って、行列店を回避した人たちが群がって逆に行列できちゃった、なんて事はあり得る。

蕎麦の場合、店が持つ色気というのも重要な判断材料だが、画一的なテントでどう色気を見極めろ、と?無理だ。

結局、「ご縁」があったかないか、それだけの事になる。たまたま空いていたから入りました、とか、客引きのおっちゃんに熱烈歓迎されたから、とか。

ラーメンイベントだと、初日すぐに出店店舗毎の評価が様々なwebや掲示板に掲載される。それだけラーメンフリークが多いし、ネットとの親和性が高いのだが、蕎麦というジャンルではそれが無い。だから、勘で動くしかない。

シャトルバスが来る前、さんざん悩んだわれわれは、結局「天ぷらを出しているお店は蕎麦巡りの中盤、蕎麦の味に飽きてきた頃を見計らって訪れよう」と決めることしかできなかった。

出石皿そばのブース

で、話が大きく脱線したが、最初に覗いてみたのは一番奥にあるブース、「出石皿そば」だった。関西の蕎麦の名所である出石。場所が関東在住者にとって相当不自由なため、これまで一度も食べたことはない。興味があったのだが・・・あれれ?まだお店が開店していない。店員さんもなんだかのんびり。10時開店を想定して準備を進めているらしい。「準備でき次第、すぐに開店するぜ」というブースもあれば、きっちり10時からやるぜ、という店もあって面白い。

なお、ただいまの時刻は9時20分。こんな時間からフライング営業している蕎麦ブースの方がある意味凄いのであって、この出石皿そばブースにやる気がない、というわけではないので念のため。

ただ、開店前ならブースの脇で蕎麦打ちに精を出していてもよさそうなものだが、蕎麦打ち職人さんが全然いない。蕎麦打ちパフォーマンスをする場すらこの会場では乏しいことから、恐らく蕎麦は別のところで打っているのか、どこかから仕入れているのだろう。

これはその他多数のブースでもそうで、実演をしているところは小数だった。日光や金砂郷の蕎麦まつりとは景色が違う。あの蕎麦打ちパフォーマンスこそが、「そば祭り」っぽくて盛り上がるんだがなあ。ただ、会場スペース、来場者数の関係でそのような事がやりづらいのだろう。

なお、信州蕎麦界のゴッド、金子万平氏は今回のそば祭りを見て「店頭で蕎麦打ちの実演をしていたが、あんな日が照って環境が悪いところで打った蕎麦は美味いのか?」と信濃毎日新聞のコラムで疑問を呈していた。いやまあ、その通りなんスけどね。生地は乾燥するし、砂埃も混じるし、外で打つのは最悪だけど、それはそれ、お祭りですから。

なお、この出石皿そばを後ほど見かけたら、無事営業をしていた。

が、あまり混んではいなかったようだ。たまたまかもしれないが。値段は他店よりも高く、700円だったか800円だったと思う。何でそんなに高いの、と思ったら、食べている人を見てびっくり仰天&納得。なんと、皿そばの名にふさわしく、陶器のしっかりした平皿に蕎麦が盛られ、それが一人前5皿だったのだった。これ、出石から運んできたのか。凄い。今大会でもっともびっくりしました賞進呈。ただし、おなかいっぱいだったので食べなかったけど。

出石皿そば
宝永三年(1706)に但馬國出石藩主と信州上田藩主のお国替えの際、仙石氏と供に信州から来たそば職人の技法と在来のそば打ち技術に加えられ誕生した「出石皿そば現在では関西屈指のそば処として知られています。

[1軒目:信州松本そば打ち美蕎楽交流会 09:27]

信州松本そば打ち美蕎楽交流会

私たち会員が「おいしいそば」が食べたいの思いを皆さんに食していただきます。素人の集まりだからできる、そば粉の厳選とつゆにこだわりました。もりそば・そばゼリーのセットです。美蕎楽セット600円

「さて、どうするかね」
「10時の開店まで、この辺りの店攻めておきますか」

出石皿そばに振られたわれわれは、早速目標を見失い困っていた時に目についたのがこのブース。はっきり言って、ノーマークだった。そもそも、店舗名がいまいち垢抜けしておらず、自薦文もワクワクはしない。そばゼリーのセットなんていらないし。

ただ、店頭にて高らかに掲げられている「健康そば」ののぼりに若干興味が湧いた。何がどう健康なんだ、と。今更「蕎麦は健康食」なんて言い出すんじゃないだろうな、と。

サンルチンが健康にキク

幟をぽかんと見上げていたら、早速受付のおねいさまにロックオン。「ぜひ食べていってくださいー」とお奨めされまくった。

「何が健康なんですか?」

と聞いたら、「サンルチン」という蕎麦がごっつええで、という事だった。なんだそのサンクロレラみたいな名前は。受付を見ると、どうだ、とばかりにサンルチンの解説パネルが飾られている。なんでも、「ルチンが3倍はいったそば品種」なんだそうだ。なるほど!それで「3ルチン」なわけか。安直というか、分かりやすいというか。そりゃどうも結構なこった。

ルチンとは、蕎麦が健康に良いと言われる所以とも言える成分で、動脈硬化を防ぐとされている。蕎麦をゆでるとルチンはゆで湯に溶けてしまうので、蕎麦湯を飲むと良いとよく言われるのは、ルチンを取り逃がすなという観点からだ。ダッタン蕎麦もルチンが多く含まれているが、あれは相当癖がある蕎麦。ダッタンではなく、普通の蕎麦でルチン3倍ならちょっと面白い。3倍、と聞くと、おかでん世代(30代~40代)はすぐにガンダムを連想してしまうが、さすがに蕎麦は赤くないようだ。ツノも当然生えていない。

「でもなあ、オレらどうせ蕎麦3枚以上食べるし、そんなにルチンとらなくても」

と元も子もないような事を口走りかかったが、これも何かの縁、食べてみることにした。こういうきっかけでも無いと、なかなか「最初の一軒目」が決まらんよ。

ちなみに普通のもりそばが500円、サンルチンも500円だった。パンフレットの自薦文に書いてあった「そばゼリーとのセット600円」というのは、「この店は(食べたくもない)そばゼリーが自動的についてくるんだ、しかも他店より100円高い」と思わせてしまうので、あまり得策ではなかった。

なお、このお店に限らず、大半のブースではいろいろトッピングや天ぷらをつけて客単価向上を狙っていた。邪道じゃん、そば一本で勝負しろよ、と若造おかでんは憤慨。しかし、空腹が満たされ冷静になってみると、「求道者的に蕎麦食ってるのもつまらんよな、蕎麦から広がるいろいろな食の可能性、ってあってもいいよな」、と賢者モードに発想が切り替わった。多くの店では天ぷらを出していたが、その他にも「揚げ蕎麦出すぜ、これでビールぐいぐいいっちゃいなYO!」とか「蕎麦と岩魚の塩焼きセットだぜ、おにぎりもつくよ」みたいな店があっても面白いと思う。

「食券を渡す際、そばとうどん、どちらかをお選びください」・・・というのはさすがに立ち食い蕎麦すぎてダメか。

なお、来場者は天ぷら類の「トッピングの面白さ」を基準に店を選んでいる人が多かったようだ。そりゃそうだ、蕎麦なんて食べてみないとわからないわけで、そうなると店選びの基準は「どんなトッピングがあるか」になりやすい。

このお店ではおかでんはサンルチンを、同行者はもりそばをオーダー。二人いると、二種類の蕎麦をシェアできるからありがたい。

「見せてもらおうか、連邦のサンルチンの実力とやらを!」

なお、サンルチンのパネルだが、「100%信州産。100%石臼挽き。」というキャッチコピーが書かれていて苦笑いしてしまった。そうだよなあ、今、こういう表現でもしないと信用できない時代になってきたからな。「石臼挽き蕎麦粉でござい」といっても、実際は30%程度しか入っていません、残りは機械製粉ですという悪質な店だってあるだろう。

厨房は人だらけ

厨房は人だらけ。逆に身動きつかなくなってやりにくいんじゃないか、というくらい、人だらけ。蕎麦をゆでる、水で締める、盛りつけるなどのシンプルな行程にこれだけの人を配置しなくちゃいけないのが、そば祭りならではだろう。実店舗でこんな人件費をかけたら、お店としては即死だ。高速道路のサービスエリアのそば・うどんコーナーだって、こんなに人はいない。

蕎麦なんてあっという間に食べられる食べ物。だから、食べるところが無いので入場制限なんてことはなく、必ず厨房がボトルネックになる。お客さんはどんどんやってくるわけで、売上を決めるのは、厨房の手際の良さに尽きる。そりゃ全力で人を投入しないと。

この人数の多さを見て、「ジオンのモビルスーツ『サク』みたいだ」と思った。では、店にやってくるお客は連邦の『シム』か。

ルチンそば
ルチンが入っている蕎麦

ルチンそば。本日第一発目。ここは豪快にすすりあげたいところ。松本の秋風、季節の移ろいを鼻腔に感じながら、いざ、蕎麦を手繰ろう。それ、鼻からすすれ。

むちゃ言うな。

ただでさえ狭い客席、変な事をしてむせたら周りのお客さんの大迷惑だ。何せ、繁盛ラーメン店以上に隣の人、背後の人と密着状態だから。何なんだこの狭さは。

とにかくテントが狭い。いや、建造物として考えればそれなりのデカさなのだが、厨房もあって、客席もあって、人の導線もあって、となるととてもじゃないが狭くてかなわん。おかげで、しわ寄せが客席に来ちゃった。こういう時、隣の人が左利きだと非常に困る。和を乱す。「左利きの方優先席」を端に設けてもよいのではないかとさえ思う。

あと、時節柄、会場はインフルエンザに警戒中。こんなところで、蕎麦にむせたとはいえゴホゴホ言っていたら、即座につまみ出されそうだ。紛らわしい事はよせ。

会場入口にはご丁寧にアルコール消毒液が置いてあったくらいの警戒だが、野外イベントでそれってあんまり意味がないような、と同行者はつぶやいていた。

で、ルチンそば。おおおう、一発目ということで味覚も嗅覚も新鮮なときに良い出会いがありました。これ、香りはほとんどないんだけど、味わい深い。もっとダッタンっぽい苦さがあると思ったけど、全然そんなことなし。イロモノ蕎麦だと思っていたが、案外王道をばく進中の蕎麦だ。

もりそば
もりそばアップ

一方割を食ってしまったのがもりそば。味も香りも見どころなく、残念。

ルチンそばと比べてこちらの方が細麺に仕上げてある。ルチンの方は、細切りがしづらい生地なのかもしれない。

つゆは醤油辛さが強く、一口目にイガイガ感を感じる。そして、後味が少々生臭い特徴があった。ルチンそばとの相性は悪くはなかったのだが、もりそばの場合は生臭さが目立ってしまった。蕎麦が細いが故に、気持ちよくずるずるッと手繰れてしまう。その際、生臭さが目立ってしまったのだった。難しいね、そばつゆ、特に辛汁というのは。

とはいえ、サンルチンの蕎麦は「こりゃいいんじゃないですか」と一軒目にして勝利宣言が出るくらい、蕎麦の旨みがあってよろしかった。最初から当たりくじを引いた感じ。

卓上にある薬味類

卓上にある薬味類など。

割り箸、葱、わさび、七味、そしてやかんに入った蕎麦湯。

このシーズンになると、花園ラグビー場とか国立競技場であの「魔法の水」がよくグラウンドに登場しますな。ラグビー競技中、強烈な当たりでノビてしまった人にやかんの水をばさーっとかけるとあら不思議、急に復活するという、あれ。あれ、きっと水なんじゃなくて蕎麦湯なんだと思う。

七味が八幡屋磯五郎のブリキ缶なのがうれしい。これを見ると「ああ長野に来たのぅ」という実感を受ける。東京でもスーパーで売ってはいるが、お値段が相当によろしいので、美味いんだが自宅には配備していない。

箸は割り箸。その他のブースもみな割り箸だった。エコブームということで、主催者は「マイ箸持参」を呼びかけていたが、さすがに呼びかけるだけではなかなか効果はでないと思う。割り箸利用につき10円、とか課金すればもう少しマイ箸が普及するかもしれないけど、それはかえって会計が煩雑になるか?

「マイ箸は無理だとしても、せめて塗り箸を」というお店はどこにもなかった。最近、ラーメン店や牛丼店で塗り箸を採用するところが増えたが、これが非常に滑りやすくて使いにくい。蕎麦にしてもしかり、で、食べにくいから採用に踏み切りにくいのだろう。

国宝松本城天守閣を眺めながら蕎麦

ここのそば祭り、狭くて窮屈ではあるが、何が良いって「国宝をオカズにして蕎麦を手繰れる」ということだ。国宝松本城天守閣がほら、眼前に。こんな眺望、なかなかないですぜ。

もっとも、昼時になると歩道は人だらけになってしまうため、この景色を愛でるためには早い時間か遅い時間、そのいずれかになると思う。城を見ながら蕎麦一枚、のつもりがジジババを愛でることになると、大層食欲がうせる。

最後、蕎麦湯を一応飲んでみる。同行者曰く、「つゆの椎茸の香りが強くなった」。確かにそんな感じ。まだ営業開始から時間が経っておらず、薄い蕎麦湯ということもあって、椎茸のお吸い物を頂いているような気分になった。

北海道そばのブースは賑わう

一軒目の美蕎楽交流会の隣が、やたらとにぎわっている。「北海道そば」のブースだ。なんてシンプル過ぎる名前なんだ、と呆れるくらいストレート。北海道からやってきた蕎麦ブースは他にも数店舗あるし、北海道産の蕎麦粉を使っている店まで含めると結構な数になる。なのに、「北海道そば」。他の奴らは皆邪道、と言わんばかりのシンプルなネーミングが素晴らしい。錦の御旗は我こそにあり、と。
すぐ隣のブースも「幌加内そば」ののぼりを掲げているのだが、なんだかこっちはライセンス供給を受けているだけです、みたいな感じで笑えた。

それは大げさだとしても、「錦の御旗」として真っ赤な「かに」「えび」と染め抜かれたのぼりがたなびいていて、周囲を色香を放っていた。

このお店の売り物は「もり」「かけ」(各500円)と、「天せいろ」「天ぷらそば」(各1,000円)と至って分かりやすい。この天ぷらを目当てに、まだ公式オープン時間前だというのに、早くもそれなりの行列ができていたのだから凄い。

ただ、この光景を見ると、「結局蕎麦そのものでの集客って難しいから、オプション品頼りになってしまうんだな」とちょっと残念。何に残念がってるのか、自分でもわからないけど。

確かに、この「かにとえび」攻撃は強烈。われわれも列に並びたい衝動に駆られたくらいだ。このブースの場合、コロッケの実演販売のように、店頭で天ぷら揚げパフォーマンスをすればますます客が集まると思う。なんだか本末転倒だが。

「いや待て、この時点で天ぷらなんぞ食べたら後が続かない。今食べるべきではないぞ。蕎麦の味に飽きた時のために取っておくべきだろう」
「でも、その頃になると天ぷらなんて胃袋に入らないかもしれないじゃないっすか」
「ああ、そういう考え方もあるな」

結局、「とりあえずもう少し様子見」といって他のブースを物色後、数分後に戻ってみたら余計行列が伸びていて作戦失敗。まだ9時40分なのに。この調子でいったら、昼頃には行列が長くなりすぎてお堀に誰か、落ちるぞ。

北海道そば
天せいろ(冷)、天ぷらそば(温)1000円。天ぷらは、北海道ならではの蟹に加え、海老とかぼちゃの盛りあわせ。蕎麦は北海道の新蕎麦です。他では、なかなか味わえませんよ!目印は蟹の旗です。

[2軒目:手打ちそば仲間倶楽部 09:44]

手打ちそば仲間倶楽部
手打ちそば仲間倶楽部メニュー

メニューは、地鶏の若鶏を使用した鶏せいろ800円、もりそば500円、和歌山県田辺町産の梅を漬けた自家製の梅を梅肉にした、冷たいぶっかけ梅そば700円は毎日限定50食提供いたします。ご来店を、お待ちしております。
方や行列ができて既に大繁盛のブースがあるのに、いまだ営業開始の気配すら見せない出石皿そば。なんだか気になってしまい、「まだやっていないのかな?」と様子を頻繁に見に行くハメになってしまった。その途中にあったお店に、何かのご縁でお立ち寄り。本日2軒目。全くのノーマーク店だったのだが、空いていたのでつい。

なにせ、ネーミングがゆるキャラ系だ。「手打ちそば仲間倶楽部」って。もう少しカッコエエ名前をつけようとは思わなかったのだろうか。蕎麦店名や組織の名前って、気取っているか田舎ぶっているかシンプルか、と相場が決まっているものだ。なんですかこのPTAの知り合い同士で集まりました的名前は。素晴らしい。嫌味じゃないぞ、素直に素晴らしいと思う。いいぞもっとやれ。

メニューは「もり(500円)」「鳥せいろそば(800円)」「梅ぶっかけそば(700円、50食限定)」、「黒舞茸そば(700円、50食限定)」の4種類。限定ものを2つも用意するという先手必勝策に出た。

これ、まだ限定メニューが残っている午前中は希少感を煽ってイイカンジだとは思うが、売り切れた後って大丈夫なんか?残りの通常メニューが「売れ残り」感が強くなって、イマイチな印象を通行人に与えてしまうと思うんだが。4品中2品限定品、というのは相当ギャンブルだ。

とはいえ、「黒舞茸そば」に惹かれたのは事実。限定だから、というより「黒舞茸ってなんだ?」と気になったからだが。ただ、今はひとまず「味に飽きるまではもりそば一本で行く」という骨太の方針2009を自らに課したので、男らしく店頭にて「もりそばを。」とバリトンボイスで発注。

手打ちそば仲間倶楽部の厨房

手打ちそば仲間倶楽部の厨房。

まだお客さんの数が少ないが、結構オペレーションに手こずっていた。お昼までになんとか頑張って手際をきわめられるとナイスだ。

このお店ではトッピング類が入った容器をずらりとカウンターに並べ、順繰りに入れていって横に流せば完成、というやり方になっていた。ベルトコンベア方式だ。

しかしこれだと、トッピング担当:わたし一人、となってしまう。蕎麦は一度に大量にゆで上がるため、トッピング工程がボトルネックになるのは明らか。ちょっと工場などの製造業をかじっていれば分かる事なんだが、まだここでは気がついていない。さて、この後どのように改善されていったか、気になる。来年に向けて、「ザ・ゴール」(エリヤフ・ゴールドラット著)という本を読むと良いです。いや、読まなくても良いですけど。

信州松本そば祭りは、厨房に割けるスペースがあまり広くないということもあって厨房内レイアウトはどのお店も似ていた。しかし、それでも効率化を求めて魔改造に挑んでいるブースがあったりして、厨房を眺めるだけでも結構楽しいものだ。また、金砂郷のそば祭りなんて、テント一つがまるごと厨房用として提供されているため、各店舗ごとのやりたい放題になっている。これは即ちノウハウの結晶であり、厨房マニアにはたまらないと思う。でもそんなマニア、いるのか?車の改造大幅ありのレースと、改造ほとんどダメよレース、それぞれに面白さがあるのと一緒だな。

頭には頭巾もしくはヘアキャップ、口にはマスクの出で立ち。そういうお店が多かったので、主催者方針で着用を義務づけているのかと思ったが、やっていない店もあったのでルール化はされていないようだ。

使い捨て容器

「おや?使い捨て容器だ」

先ほどの店は再利用できるちゃんとした容器だったのだが、こちらでは一回限りの容器になっていた。このイベント、エコもテーマの一つちゃうんか。

確か、「来場者はマイ箸持参推奨」の他に、このそば祭りのレギュレーションとして「出店者は再利用可能な容器を使うこと」とされていたような気がするのが、記憶違いだったかな。どこかでそういうのを読んだ気がしたのだが・・・。

その時、「うわ、これだと『飯田女子高』みたいなところは出店できないな。ちゃんとした食器類をそろえられるところって、どうしても限定されるからなあ」と真っ先に思ったものだ。「そば祭り行脚をしているプロ集団が中心という時代になるのかねえ」と。

しかしいざフタをあけてみたら、使い捨て容器のお店だらけだった。完全におかでんの勘違いだったらしい。実際問題として、「再利用可能な食器」を使った場合、少なくとも1人はゴミ捨てと食器の回収係、もう一人は食器洗い係、もう一人は食器を拭く係・・・なんて要員計画が必要になる。加えて、食器を洗うためのシンクが必要。シンクは既にゆで上がった蕎麦を水で締めるために使われているので、最低二つシンクがないとダメということになる。物理的にも、人的にもちと面倒くさい。しかも出店可能者が限られる。なかなかそう簡単にはいかん、ということなのだろう。

いずれ、「ラップで巻かれた器で提供。食後はラップを剥がして、また次に使用」なんて事になるだろう。再利用食器と使い捨て食器の中間ってところで落ち着くんじゃないだろうか?

【後注】再利用可能容器の使用を義務づけているのは「日光そばまつり」でした。松本そば祭りではそのような規定はないことが後日判明。

そばを食べている時の二人の会話を以下、ノーカット収録。

偉そうにあれこれ述べているが、実はほとんど内容がない。かえしに使っている素材すら分かっていない。敢えてここでこれを公開するのは、「しょせんこの程度の舌しか持っていないおかでんが書いているサイトですよ、ここは」という事を提示しておきたかったから。だから、このコーナーのトップページにも書いているが、美味いだのまずいだの時折言い出すが、基本信じちゃいけません、ということ。数百杯も蕎麦を食べても、しょせんこんなもんです。

なお、全店舗こういう会話を二人でしていた訳ではないので念のため。後半になるとだらけてくるし、味覚もバカになってくるので非常にいい加減なやりとりに始終している。

「食べ始めで元気な頃は、こんな会話を必死こいてやってました。まだまだ青い奴らめ」くらいにでも思っていただければ。

(だ:同行者の名前)

お「いただきます」
だ「いただきます」
お「ここは・・・手打ちそば仲間倶楽部。すごい名前だな(笑)」
だ「ちょっとねえ、鶏と葱の香りが強すぎて・・・」
お「鶏と葱の香りが強すぎて」
だ「全然・・・」
お「これねぇ、蕎麦の色が」
だ「ちょっと違いますねぇ」
お「ただ、量が少ねぇなあ」
だ「だしが・・・」
お「さっきの店は悪くなかったからな」
(ここで蕎麦を二人とも手繰る)
だ「さっきの、さっきのサンルチンと比べるとアレですが、さっきの盛りそばと比べれば、蕎麦の味がしますよ」
お「蕎麦の香りがするし、あと、蕎麦の・・・唾液が出てくる、噛んだときに。甘みが出てきて」
だ「うんうん」
お「まあよく伝わってくる。唾液分泌量はこっちの方が上だな。なんか、なんだろ。何がピンとこないのかな?・・・うん」
だ「割り箸が臭い(笑)」
お「あ、ほんとだ、割り箸が臭いね(笑)・・・うん、うまいんだよな」
だ「うん、うまい」
お「うまいんだけど、固めにゆでてあって・・・何がおかしいんだろう?あんまり上手いこと、蕎麦をずるずるっと手繰れないのか?」
だ「うん」
お「手繰った後、なんとなく口の中でもさもさしちゃう?」
だ「それは、僕はこれくらいが十分ですけどね。堅さというか、舌触り?」
お「うん・・・つゆがよく冷えていて、ちょっとうれしいけどね。今、なんかね」
だ「まぁ、まぁ、まぁ・・・」
お「まぁ、熟成が足りない、というのは仕方がないつゆですが」
だ「まぁ、ごく一般的な」
お「でも、バランスが結構」
だ「うん。・・・マイルドさはないですけどね。ま、こんなもんじゃないですか。あのー、仲間?」
お「仲間倶楽部ね」
だ「仲間倶楽部としては、いいんじゃないですか」
お「なんかあの、あんまり・・・ネガティブな事を言う要素はないけれど」
だ「ははは。そぅそうそう、飛び抜けて美味くもない」
お「でも、こういう蕎麦屋が家の近くにあると、ありがたいぜぇ~」
だ「普通に」
お「ん?・・・でも、蕎麦と一緒につゆを食べると、なんか、つゆが妙に甘く感じるというか」
だ「浸けすぎじゃないですか?」
お「もう少し辛くてもいいんじゃないかと」
(ずるずる)
お「うーん、僕は、蕎麦とつゆと食べたら、なんか、つゆの甘さが後に長引いちゃったな、という気がする。気のせいかな?」
だ「僕はちゃんと蕎麦の味が最後に残りますけどねぇ」
(ずるずる)
お「うーん、このつゆはなんなんだろうなあ?よくあるつゆといえばつゆなんだけどなぁ。あんまりカツオカツオしていないよな」
だ「うんうん」
お「何がこう、カツオを押さえ込んでまったりさせているんだ?・・・昆布か?・・・みりんを結構多めに?」
だ「うん」
お「だとすると、もっと味のバランスが崩れるはずなんだよな。もっと甘くなって、べたっとして」
だ「そうですねえ」
お「ああ、みりんが多いのかもしれない、甘く感じるのは」
だ「蕎麦を浸けた時の方が、甘くは感じますね・・・後に残る感じは、僕はしなかったですねえ」
お「なんだろうね?」
・・・
だ「なんでしょうね?」
・・・
だ「や、コレだけで飲むと、辛いわ」
お「あ・・・。蕎麦湯で薄めると、なんか妙にうまいぞ、これ・・・違う、気のせいか。それをわざわざ言うほどでもない」
だ「うん」
お「うーん」
だ「でも僕は及第点はあげられますね」
お「うん、それはそうだ」
だ「『どうだ、食って見ろ』的なアレを出してない分」
お「うん、そうね。それはやはり『手打ちそば仲間倶楽部』・・・」
だ「(笑)名前が名前だけに、最初油断しますよね」
以上、蕎麦食べ始めから食べ終わりまで全ての会話。実際は食べながらの会話なので、もっと間が空いている。

表現力が無い奴らめ、と思うだろうが、実際そうかどうかは兎も角、マスコミ報道でもなけりゃ大げさな表現なんてしませんってば。外観なんて特に、二人とも同じ物を見ている以上敢えてコメントする必要はないし。

おかでんが執拗に気にしていた「つゆの甘さ」は、恐らく東京風の醤油っ辛いそばつゆに慣れているために感じた違和感だろう。最近、バリエーション豊かに蕎麦を食べていないし、そもそも蕎麦食自体が減っているので、「なんだろう?なんだろう?」とひたすら首をひねっていたのだった。

ひたすらブースが並ぶ

食後、次なるゾーンに移動。

この辺りは比較的広いスペースがあり、それを取り囲むように5店舗が軒を連ねる激戦区。ちょっと離れたところから、この5つのブースを俯瞰すると結構楽しい。

「おっ、あの店行列ができていますねえ」「しかしその隣は空いているな」

なんて会話をしていたら、数分後には行列の逆転現象が起きることがしばしば。

「空いているブースに並ぼう」という心理が、客足を分散させているらしい。

イベントによる客の導線やさばき方、群衆心理を勉強するには最適のステージだと思った。イベントを検討中の自治体や経験不足の広告代理店はぜひこちらで人物観察をどうぞ。生きた教材ですぜ。

会津山都蕎麦蕎邑
会津山都蕎麦蕎邑のブース

会津山都蕎麦蕎邑。

そば祭り行脚を繰り返す、「祭りのプロ集団」。おかでんが出没する、松本・日光・金砂郷の3そば祭り全てに登場しているので、あまりに見慣れたブースだ。

故に、真っ先にわれわれの「訪問したいブース」の対象から外されてしまった可哀想なお店でもある。食べようと思ったらいつでも食べられるからいいや、という判断だ。

「このお店、美味いのは分かってるから」という理由もある。美味いからパス、というのも何か変な話だが、やはりそば祭り、いろいろ変化球を投げてくるお店に出会いたい。妥当に美味いくらいじゃ、食指が動かないのだった。

そば祭り行脚をしているくらいだから、そば同好会の類かとおもったら、ちゃんと福島県に実店舗を持っている、れっきとした「蕎麦店」。まつりの期間中、お店は一体どうしているのだろう。「そば祭りシーズンだけの期間従業員募集、そば打ち経験者厚遇」なんて就職情報誌に掲載でもしているのかな。

会津山都蕎麦 蕎邑
平成21年3月に福島県のオリジナル新品種のそば「会津のかおり」が農水省に登録認可されました。会津在来種から系統選抜により作出されたもので色、香り、のどごしに優れ、焼畑により栽培しました。つなぎを使わない十割そばでお召し上がりください。

北海道上砂川手打ちそば愛好会
お品書き

「この集落状態に集まっているブースの中から、1軒ないしは2軒、どこかで食べたいところですね」
と同行者が言う。彼は、パンフレットでお店を選ぶ限界を悟り、「広い会場に分散しているお店を、平均的な距離感で食べ歩く」という方針に頭を切り換えたようだ。確かに、パンフレットの宣伝文句じゃどのお店もどんぐりの背比べに見えるし、かといってお店を実際に巡ってみても、画一的なテントなために正直、よくわからん。だったら、「このあたりのお店から1軒チョイス」「次の場所で1軒」などとしたほうが、後腐れなくてよい。

そんなわけで、行列などを見極めつつ判断したのが、ここ、「北海道上砂川手打ちそば愛好会」。同行者が「新そばって書いてありますよおかでんさん!」と言うので、このお店を選んだ。10月上旬ということもあって、北海道では新蕎麦が手に入り、長野や茨城といったところはまだ少々時期が早い。

[3軒目:北海道上砂川手打ちそば愛好会 10:00]

信州のみなさんこんにちは、私達は9月初旬に収穫する北海道砂川産のボタンそばを自家製粉して持っていきます。甘みのあるボタンそばと北海道オホーツク産のホタテの干貝柱と玉ネギの掻き揚を、一緒に召し上がってください。待っています。

なるほど、店頭には「ほたて」と大きく書かれたポスターが貼られている。ぱっと見たら、帆立屋なんだか、蕎麦屋なんだかわからん。蕎麦の方が地味。そういえば、さっきの「北海道そば」のブースもそうだったな。あっちはかにののぼりだったが。北海道系のブースはこういうサイドメニューでお客をぐいぐい引きつける素材があるので強い。

厨房

厨房の写真を撮ろうと思ったが、人が多すぎて何がなんだかわからん写真になった。

薬味のネギがでかいバットに山盛りにされているし、練りわさびはお椀にてんこもりだ。大量の来客をさばくためには、色気なんて言ってられない。

われわれは、「かけそば(500円)」と「もりそば(500円)」を注文。

ほたて、完全無視してしまってごめん。掻き揚げそばは700円なり。天ぷら食べるのはまだ時期尚早。

そもそも上砂川ってどこだか知らない。後で地図で調べてみたら、札幌と旭川の中間くらいにその地名を確認できた。海沿いではないのか。なるほど、だからホタテは「干し貝柱」を使っているか・・・いや、それは妄想だ、そんなこと言ったら、内陸に住んでいる人はいまだに刺身が食べられないという時代感でないとつじつまがあわない。

このお店は食券の替わりに、お会計時に箸が渡される。箸の根元の部分にマジックで色がつけられており、それで注文した品を厨房は判断する仕組みだ。

「ということは!こっそり割り箸を持ち込んで色をつければ、それでただ食いができる、ということだ!」

※ただしこの程度の食い逃げで人生を棒に振ってもよいという人に限る

いや、わからんぞ。それくらいの事はお店側も想定済みで、実は割り箸の中にはICチップが埋め込んであって、偽物はすぐにバレるようにしてあるのかもしれん。

かけそば
もりそば

麺は幅広。そのため、これまでの2軒と食感が違い、これはこれで面白いしおいしい。細めの蕎麦で、つるっと手繰れるのが必ずしも良いというわけではない証拠。

しかし、幅広が災いしたか、ゆでむらが若干あるのが惜しい。ところどころ粉っぽかった。

とはいえ、その欠点を補って余りあるほど二人からは絶賛の声。特にかけそばに賛辞の声多し。少し時間が経って柔らかくなった麺をホフホフ食べつつ甘めのつゆを飲むとなんとも幸せなキモチになるのだった。同行者は

「こんな蕎麦が駅の立ち食いであったらいいなあ、うれしいなあ」

とつぶやいていた。

「立ち食いで500円、というのはちょっと高いが、それでもこれが食えるなら500円払ってもいいかも」

とおかでんも同調。しばらく同行者はかけそば賛辞が続き、

「学食でこういうのが出てくればいいのにな。食育ってこういうことなんだーって分かる」

なんて言っていた。

蕎麦の美味さもさることながら、つゆが評価されている方が強いかもしれん。さっきから、蕎麦よりもつゆをすすっている時間の方が長いくらいだ。もりそばのつゆは個人的に「もう少し辛くても良い」とは思ったが、かけそばは「甘くておいしいなあ」と嘆息しつつ、一口、また一口と飲んでしまった。普通、塩分を気にして麺類のスープなんて飲まないのに、珍しい。

かけそばは、時間が経つと麺が伸びきり、箸で持つとプチプチと千切れてしまう事が多い。しかしこの蕎麦、柔らかい食感だけど案外しぶとく、麺類としての役割を放棄しなかった。おかげでつゆを楽しみつつ麺も楽しめる余裕があったのは有り難かった。美味い蕎麦でございやした。

[4軒目:唐沢そば集落 麺好房・水舎10:12]

唐沢そば集落 麺好房・水舎

山形村唐沢名物の皿そばです。今話題の粗ひき蕎麦です。焼きみそ蕎麦は秘伝のソバの実や牛蒡が入ったヘルシーな蕎麦みそです。薬味として汁に溶かして味噌味にします、その汁で・・・想像を裏切る味です。一口そばおやきの天ぷら付です。
しばらく行列の栄枯盛衰を遠目で眺めていたのだが、実際のところはどのお店に入って良いのやら検討がつかず、途方に暮れていたというのが正しい。

しかし、悩んでいる側からどんどん会場内の人口密度が増えていく。いかん、悠長に観察なんかしている状況ではないぞ。ほら、大雨の時に「用水路の様子を見に」行って、「流されて死亡」する人状態。様子見している暇があったら、早くどこかの店に入らないと。そんなわけで、既に結構な行列ができていたものの、水舎に並んでみることにした。粗ひき蕎麦というところに惹かれたからだ。どれくらい荒くれた奴が出てくるのか。こちらも木刀とか何か武装して店に入った方がよいのかどうか、悩む。

そういえば、「十割そば」を出す店はあっても、「粗ひき蕎麦」を出す店って今までこの手のイベントであったっけ。確かに珍しい部類だと思う。

「粗びき蕎麦」と「焼きみそ蕎麦」

このお店が面白いのは、「粗びき蕎麦」と「焼きみそ蕎麦」という、風変わり同士のメニューで勝負を挑んでいることだった。かけそば?そんなものはない。黙って冷たい蕎麦をすすれ。

あれもこれもやってます、トッピング豊富です、というのは一軒二軒しか食べない人(=大多数)にとってはありがたいだろうが、われわれのようにあちこち巡る人にとっては面白くない。こういうマニアック路線を走っている店だらけの方が、正直うれしい。

ところで焼きみそ蕎麦ってなんだ。

粗びきそば500円に対して、焼きみそ蕎麦700円。

「秘伝!!」

カウンターのところにある看板によると、「秘伝!!」と銘打っている。

最近、「秘伝」という言葉が飲食業の間で地盤沈下著しい。グルメ番組が多すぎて、やたらと「秘伝のソース」だの「秘伝の調合」が登場し、一体この業界にはどれだけの極秘事項が渦巻いているんだ?と思う。

秘伝、と言っている割には「そばの実・牛蒡入りの焼き味噌」とカミングアウトしている。それ以外は教えられないのだろうか?でも、店の人にレシピを聞けば案外あっさり教えてくれたりして。いや、それだったら秘伝じゃなくなるんだけど。

「みそ味・・・??想像を裏切る味・・・!!」

と勇ましいキャッチコピーがそそられる。味噌かと思ったら、実は「う●こ」でした、とかすっげえトラップがしかけられていたら最高だが、さすがにそれは秘伝すぎて無理だ。でも、想像を裏切りすぎたらそれはそれでマズいと思うんですけど。

でも、これくらい煽らないと、全24店舗あるそば祭りじゃ埋没だ。「沈黙を美徳とする」ような蕎麦屋も多いけど、そば祭りの時くらいは盛大にやっても良いと思う。

おかでんは普通の粗びき蕎麦を選び、同行者は挑発に応じて焼きみそ蕎麦をチョイス。

大行列

このそば祭り、どのブースでもそうなのだが、いったん行列が長くのびてしまうとなかなか前に進まない。なぜかと思ったのだが、ゆで釜の寸法が小さいのが原因のようだ。そのため、一度にゆでることができる蕎麦の量が少ないのだった。別のそば祭りで見かけた釜よりも小さいようだ。

ただ、それはそれで正解とも言えて、狭いテント内の食事用テーブルは満席状態が続いている。蕎麦を受け取っても食べるところが無くて、途方に暮れているうちに蕎麦がダレまくるという悲惨な事態になりかねない。この客席のキャパシティを考えれば、結果的には絶妙なゆで釜の寸法なのだった。
時折、厨房の方で「ごーっ」という音がする。覗き込むと、なんとガスバーナーを職人さんが手にしていた。溶接作業でも始めますかこれから?

何に使っているのかと思ったら、「焼きみそ蕎麦」の「焼きみそ」を炙っているのだった。表面に焦げ目をつけて、香ばしくする一手間。なるほど、これは凝っていますな。あっ、秘伝が一つバレちゃった。

粗びき蕎麦
焼きみそ蕎麦

写真左が「粗びき蕎麦(500円)」、写真右が「焼きみそ蕎麦(700円)」。

おお、皿蕎麦だ。ざると比べてそっけない感じがするが、でも実用本位といった感じはする。自宅で蕎麦食べるときなんて、こんなもんだもんな。気取ってざるやせいろを用意するのも良いが、こういう皿で出すというのも「田舎の、普段着の、蕎麦」って感じでよいもんです。

粗びき蕎麦に焼きみそ

焼きみそ蕎麦は、粗びき蕎麦に焼きみそと蕎麦おやきの天ぷらがついているというものだった。根本的に違う蕎麦、というわけではない。

東信濃地方の蕎麦店でくるみ蕎麦を注文するのと同じだ。店側も、「最初は普通のつゆだけで食べて、途中から味噌を溶かして食べるとナイス」と説明していた。

焼き味噌とおやき
大根おろしフリー

おかでんと同行者の会話。
お「これ、七味がおいてあるのはいいけど、なぜ雷門の絵が・・・」
だ「浅草に行った時に買ってきたんでしょ」
お「あ、これ蕎麦湯だ。旅館なんかで見かける湯飲みがおいてあったので、お茶が入っているのかと思ったけど、それは無かったか・・・ではいただきましょう。・・・とにかく席が狭い。すごいね、これは」
だ「(蕎麦を手繰って)あー・・・なるほどな」
お「粗粗しているねぇ」
だ「うむ」
お「粗挽きになると、麺が白っぽくなるんだね。ああそうか、いわゆる挽きぐるみとは違うからか。粗挽きだからか。当たり前だ」
だ「ああ、結構苦み走ってますよ。殻が多い」
お「むー、ゴワゴワするねえ」
だ「うむ」
お「ゴワゴワ、キシキシするねえ・・・まあ、当然だけど、香りは・・・」
だ「凄い」
お「強引に引き出しました、ってくらいで。味もまぁ、するんだけど・・・こういう蕎麦って好き嫌いわかれますよ」
だ「分かれますね・・・つゆ、すごくカツオ」
お「カツオ?・・・(つゆを一口すすって)・・・ああ、カツオだ。こらカツオ!って感じ。サザエさん。」
だ「そうか、だから味噌入れるんだ」
お「凄いねえ、シンプルにカツオで出汁とりました、以上。って感じ。今までの店のはもう少し別のまったり系な味だったんだけど」
だ「そうですねえ。・・・ああ、カツオ強いわ」
お「粗挽きだと、麺が繋がりにくいのかねぇ。長い麺もあるけど、ぶちぶち切れているものが結構ある」
だ「確かにそうですね。幅広にすればもっと長くできたかも?」
お「むう。・・・食感がね、ちくちくするという。あれ思い出した、高崎の・・・」
だ「高崎の『梅の花』ですね。あれは刺さった」
お「刺さった。怪我するんじゃねぇか、って。あれを思い出した。」
(しばらく食べる)
だ「ちょっとつまんでみます?(と、焼きみそを渡す)」
お「あ、ありがとう」
だ「食べてみると、ちょっとごりごりっとした、これば牛蒡かな、という食感がありますね」
お「・・・ああ」
だ「蕎麦の実というよりも、牛蒡のインパクトが」
お「ああ、確かに牛蒡だ。ちょっと牛蒡、強すぎません?」
だ「いや、これくらいで良いんじゃないですか?」
お「あと、みりんがちょっと強すぎません?」
だ「いや、これはつゆに溶かす用ですから」
お「そうか、そうだよな、あんまりこれが辛いとなぁ、つゆの塩分濃度がどうなっちゃうんだと。死海になってしまうではないか。体が浮くぞ」
だ「蕎麦も浮くのかなあ、死海に浮かべたら」
お「ははは。そばつゆの中で蕎麦が浮く?」
だ「かけそばでそばが浮いているっていうイメージ、あまりないですね」
お「ないね。逆に、浮いているくらい量が少ないと怒るぞ。なんだこの店はと。具が浮いているなら兎も角、蕎麦が浮いているとはどんだけの量なんだと」
・・・
お「うーん、ちょっと、これ、デフォルトのつゆが残念すぎるんで・・・」
だ「カツオがくどいですね」
お「カツオの味が後まで引きずるんだよな。良くできたつゆは、カツオの風味は急加速・急減速できゅっと引き締まっていると思うんだが、どうか」
だ「みそ、蕎麦と一緒に食べてみましょう・・・ふふっ」
お「おぅ、これ、焦げが不思議な味を出すねえ、面白いねえ」
だ「不思議な食感だ・・・なんだろ?・・・不思議な・・・」
お「うん・・・面白いね、牛蒡の甘みが出てくるんだな、そのまま食べるよりつゆに入れた方が」
(しばらく二人とも食べるのに没頭)
お「黙ってしまう」
だ「いや、まずいまずくないではなくて」
お「そう、表現できない」
だ「一食これでおなかをいっぱいにしたいかと問われると、ちょっと違うかな」
お「わかるなあ」
だ「変わり蕎麦、としてちょっと食べるならば・・・」
お「私は大根おろしなど普段は入れないのだが、今回入れてみよう。これだけねぇ、インパクトがある蕎麦だから、薬味類を入れてみるのも案外有りじゃないのかと」
だ「なるほど」
お「これ、温かい蕎麦だったらどうなんだろう?」
だ「でも挽きぐるみの蕎麦で温かいのって見たことないですよ」
お「見たこと無いねえ、無理なのかもしれない」
・・・
お「あ、大根おろしなんぞ入れてみて、ざぶんとつけて、わちゃーっと下品に食べると、これは美味いぞ。小難しい顔をして、蕎麦つゆがどうたら、なんて言うんじゃなくって」(だておー、現在おやき食べている最中)
お「あ、おやきもう食べたんですか。どうですかおやきの方は」
だ「悪くないです」
お「うは、僕の方は大根おろし失敗。量が多すぎて、味が辛くなっちゃった・・・」

当時の会話では「微妙な蕎麦」という雰囲気で語っているが、後になってこのそば祭りを振り返ると、結構良い蕎麦だったなと思う。似たような蕎麦が軒を連ねている中、こういうくせ者の蕎麦はとても良かった。味も良かったし。ただ、本文中でも述べたとおり、あまりに荒々しかったためにびびったのも事実。野蛮すぎる蕎麦、と褒め言葉の意味で評したい。

[5軒目:石挽きそば そば処小沢 10:29]

石挽きそば そば処小沢
石挽きそば そば処小沢メニュー

新そばを松本の名水、源智の水で打ちます。信州名物、安曇野の葉わさびや、山形村の長芋と共にお召し上がりください。今回、さっぱりした甘味が人気の「自家製そば茶寒天のあんみつ」とのセットメニューは800円。数量限定で提供します。
われわれは場所を移動し、会場入口近辺のお店を物色しはじめた。予想した通り、このあたりのブースはそれほど行列ができていなかった。来場者の目に触れやすい「一等地」であるが、そのままスルーされてしまうという不幸な場所でもある。そのブロックの中からどれか一軒には入ってみよう、となった際、選ばれたのがこの「そば処小沢」だった。おかでんの要望による。

「石挽き」という言葉と、「葉わさび」に惹かれた。どちらもさほど今の蕎麦業界においては珍しいものではないのだが、24店舗もの宣伝文句を一度に読んで頭が混乱してくると、この手のさりげないキーワードの店が案外印象に残るのだった。で、「まあ印象に残ったことだし、ここにすっか」となる。

「そば処小沢」という実店舗は存在してないようだが、「小沢そば」というお店は松本市内に存在する。恐らく、「小沢そば」のそば祭り臨時ブースバージョンが「そば処小沢」なのだろう。

なぜそう推測できるかというと、店名に関している「石挽」という言葉、これって「小沢そば」が商標登録しているんだそうで。えええ、こんな普通っぽい言葉でも商標はとれるものなのか。驚きだな。ちなみに、「石臼挽」という言葉もこの店が商標を持っているんだって。自社サイトにちゃんと記載されてあった。これ、商標侵害している店、結構あるはずだぞ。大丈夫か?小沢のサイトには、「商標権には専有権と禁止権がある」などと仰々しく自社が持つ法的権利について説明書きがあり、侵害したら許さんぞ的な雰囲気を醸している。とはいえ、今本格的に侵害を摘発しはじめると、蕎麦業界全体を敵に回すことになるので、黙認しているといったところか。

おっと、いかんな、商標登録されているなら、今おかでんが書いているこの文章も「石挽TM」「石臼挽TM」と記さないといかんかもしれん。危ない。

厨房
食券

行列はなく、すっと店内に入ることができたのがありがたい。
厨房前には、なぜかトロ箱が積み上がっていた。中には今朝捕れたばかりの新鮮な魚が、というわけはないだろうが、何が入っていたのだろうか。

厨房前のカウンターで食券を渡し、通番が書かれた半券を持って席に座っていれば、でき上がり次第運んできてくれるというスタイル。カウンター前に人を並ばせて、完成品を手渡すセルフ方式とは違う。

二人で葉わさびそば(500円)、山かけそば(500円)をそれぞれ購入。具が乗っている蕎麦なのに500円で提供するというのは安い。多分、他店だったら600円で提供しているはずだ。

通番を見ると、葉わさびが60番、山かけが40番。葉わさびの方がよく出ていることがわかる。

葉わさびそば
山かけそば

料理到着。実店舗を会場近隣に持つお店とはいえ、お店の食器類をイベントに流用できるほど余裕があるわけではない。使い捨てのプラ容器で登場。
実物を見たとき、「ああ、ぶっかけだ」と気がついた。そんなの、最初から気付けよと思うが、当日の現場では情報量が多すぎ、あんまりモノを論理的体系的に考えていないんですわ。で、実物見てようやく納得するという状況。実物を見るまで「具が載った蕎麦=温かい蕎麦」だと勝手に思いこんでいた。

「ぶっかけ蕎麦はもう少し後でも良かったかもしれん。今まだ味覚チェンジをする段階ではなく、もう少しもりそばを食べ続けた方が良かったか」

などと思ったが、同行者から

「一体何杯食べる気なんスか」

と言われて、そりゃそうだ、と思った。既に5軒目だ。同行者は「もうそろそろ蕎麦はいいかな、という気分ですね」とリタイア予告が出ている状態。

葉わさびそばと山かけそば、見比べると山かけそばの方のつゆが多い。逆に、葉わさびそばはつゆが少なく、麺に埋没している。意識的なのかどうかは不明。

幅広で歯ごたえがしっかりした蕎麦。一口、二口すすって「うん、いい歯ごたえだね」なんて語っていたのだが・・・いやはや、葉わさびのインパクトすげぇ。「いきなり最初から葉わさび食べたら、味が分からなくなるからな」と、敢えて葉わさびを避けつつ蕎麦を食べたのに、インパクト圧勝。つゆにわさび味がしっかりと抽出されていたのだった。「おふざけが過ぎているな」などと笑いながら食べる。

丼をチェンジして、山かけそばを食べてみた。こちらも美味いんだが、なにせ長芋だ、つるつるっと食べられてしまい、蕎麦の食感も風味も曖昧にまったりしてしまっている。「うむ、これもおふざけが過ぎている」と二人ともコメント。

「おふざけが過ぎている」というコメントは、ネガティブな意味で言っているのではない。もちろん冗談で言っているのだが、二人とも、「蕎麦は美味い」という判断があるから、「ぶっかけではなく、もりそばで食べたかったなあ」と思ったのだった。

「もりそばと値段が一緒だったから、ついついこっちを選んでしまったけど、判断間違えたな」

と同行者は言ったくらいだ。これは十分すぎる褒め言葉。

あと、もう一つこのお店の素晴らしいのは、具が載っている蕎麦だからといって、麺の量を減らしているわけではない、ということだ。具があっても十分すぎる量。素晴らしい。この辺りで、二人とも「いい加減そばつゆの味に飽きてきた」とぼやき節が出てきた。

さすがに5軒目だし、しかも今回はぶっかけなのでつゆがダイレクト。

「ここらあたりで天ぷらなど食べたらいいかもねぇ」
「ああ、いいですねえ・・・もしくは、全く味が違う、アメリカンドッグとか」
「アメリカンドッグ!?」

越前そば道場 ふくいそば打ち愛好会
越前といえばおろしそば

そば処小沢の隣は、越前そば道場 ふくいそば打ち愛好会。

福井の蕎麦といえば、おろしそばが名物。要するにぶっかけそばなのだが、大根おろしが載っているのが特徴。・・・とはいうものの、いまだに福井の本場でおろしそばを食べた事はない。ほぼ全ての県で寝泊まりしたことあがるおかでんだが、福井は宿泊どころか、高速道路で素通りした事が一度あるだけだ。日本で一番疎遠な場所の一つ。

いつも、「永平寺で禅修行をさせて頂き、その後の打ち上げでおろしそばを」と画策してはいるのだが、いまだに実現していない。永平寺というイベントを強引にくっつけようとしているのが悪いんだろう。

そんなわけで、おろしそばを食べるのもいいねえ、とは思う。しかし、「しょせんぶっかけそば」と思うと、魅力も減少するのだった。さっき、隣の店でぶっかけは食べたし。

蕎麦って、地元に根ざした食のはずなのに、どうも画一化が進んでいるような気がする。それじゃ面白くないので、もっと地方色が出てくると面白いのだが。むしろ、麺という携帯でなくてもいいくらいだ。蕎麦刀削麺でもいいし、蕎麦クレープでもいい。

店頭には、「全日本素人そば打ち名人大会 第九代名人」として岡本さんなる人物の名前が恭しく掲げられていた。そば打ち愛好会にとって、こういう大会の名人認定は看板になるし、励みになって良いのだろう。

それにしても九代目?昨年、いばらき蕎麦の会が日光そばまつりで掲げていたのは第六代だったはずだが、一年で三代も世代交代したのだろうか。やたらと早いな。・・・気になって、帰宅後調べてみたら、いばらき蕎麦の会の方は「全国素人そば打ち大会」だった。紛らわしい、なんと「名人大会」と「大会」と、そっくりな名前の大会が二つあるようだ。このお店は、おろしそばオンリーで勝負。潔いことこの上ない。日本人って、こういう「スペシャリスト」を愛するよな。中華料理の世界じゃあり得ないところだ。

[越前そば道場 ふくいそば打ち愛好会]
越前おろしそば、408年前本田富正候が越前へ入府の折り供そろへの中にそば匠を同行させたのが始まりと言われています。守り続けられた伝統の味をご賞味ください。

南無庵

南無庵。名前が特徴的なので、5年前の松本そば祭りで食べた事を鮮明に覚えている。後で知ったのだが、ここって高遠からさらに少し山に分け入ったところに実店舗があった。いつかは実店舗で一回食べてみたいものだ。ということで今回はスルー。多分、おいしいと思う。でも、おいしいだろうからといって食べていたら、このそば祭りではきりが無い。4番打者がスターティングメンバーに二人もいらないのと一緒。

[南無庵]
花と歴史の信州高遠より、国産の良質な蕎麦粉と清冽な水だけで打ち上げた十割蕎麦をお届けします。水打ち十割ならではの鮮やかな旨味と滑らかなのどごしをお楽しみください。地元産の天然きのこ蕎麦とざる蕎麦でお待ちしております。

湯捏ねではなく水で十割蕎麦を打っているのだから、素敵。十割きのこざるそば(600円)、というのも気になる。南無庵の地元里山でとれた天然きのこ、だって。しまった、今考えれば食べておけば良かったな。
きのこそばって、普通は温かいそばかぶっかけになるものだが、ざるそばできのこ、というのが面白い。惜しい事をした。

江戸そば 青山学舎
江戸そば 青山学舎メニュー


会場入口、来場者がまず真っ先に見るお店がこちら。

[江戸そば 青山学舎]
そば粉は、本年産、北海道産と茨城産新そばです。芳醇で豊潤な味わいです。「そば打ちは二八の細切り。冷たいざるそば500円、温かい鴨南蛮そば800円」を楽しんでください。

関東から松本にやってきて、わざわざ江戸の蕎麦を食べるのは何だか損した気分なので、問答無用でパス。とはいえ、既に東京の蕎麦も長野の蕎麦も、それほど大差ない状態になりつつあるので、蕎麦from東京を邪険に扱うのはちょっと理不尽ではある。

ちなみにこのお店、二八そばを500円に対して、十割そばを600円で売っていた。当然、蕎麦粉よりも繋ぎに使う小麦粉の方が安いので、十割の方が高くなる。とはいえ、先ほどの南無庵は十割でも500円で売っているのだから、すごい。この青山学舎が「高い」のではなく、単に南無庵が凄い、ということだ。

ちなみに、駅の立ち食い蕎麦なんぞは酷いところだと蕎麦粉1割、という店もあるので注意。それだと蕎麦っぽい色にならないので、着色料を混ぜているありさま。日本「蕎麦」を名乗るためには蕎麦粉を3割以上含んでいること、というのが決められているのだが、業務用激安蕎麦なんてその点非常に怪しい。蕎麦はどうしても良い粉であれば美味いわけであり、「安くて、美味い」なんてのは絶対無理だ。安い蕎麦ということは、蕎麦粉の品質及び小麦粉の配分量に問題があると見て間違いない。

安曇野「社」(やしろ)そば
安曇野「社」(やしろ)そばメニュー


さて、松本城の東サイドに向かってみよう。
この辺りは通路が狭く、ブースに行列ができると通行するのさえ困難になるゾーンだ。食べるならさっさと食べてしまった方がよろしいのだが、何かめぼしいお店はあるだろうか。

[安曇野「社」(やしろ)そば]
のどかな安曇野の田園風景の中にたたずむ、悠久の社穂高神社境内にて営業中のコミュニティーホール参集殿より、信州奈川産の玄そばを北海道黒松内の落合農場で丹誠込めて育てたそばの実を厳選し石臼自家製粉したそば粉を、熟練スタッフによて本格的手打ちそばにして提供します。

遠方からでも大変分かりやすいメニューボードだが、それが逆に色気がなくてそそられなかった。というわけで、パス。場所的に、「とりあえずもっと会場の奥まで行ってみよう」とスルーされやすく、不利だったと思う。

ところで、穂高神社って田園風景の中にたたずんでいないぞ。住宅街の中だぞ。うそはいかん。

お品書きを見てみると、他ブースでは珍しい「ざるそば」があって「おおお」と思わず嘆息してしまった。蕎麦の初歩だが、「もり」と「ざる」の違いは、上に刻み海苔が乗っているかどうか、だ。普通、この手のそば祭りだと、蕎麦の味そのものを楽しみたいという人が集まることもあって、味が分かりにくくなる海苔トッピング、すなわち「ざる」は敬遠されて登場しないものだ。しかし、ここではちゃんとある。ざるそば好きの方、ぜひこちらのブースへどうぞ。

ただし、ざるそばの定番としてもりそばよりも100円増しにしたは良いのだが、その結果天ぷらそばやきのこ山菜そばと同額(600円)になってしまったのはちょとアンバランスだった。刻み海苔と天ぷらが等価とはどうしても考えられない。とはいえ、運営側からすれば「550円にしたら、50円玉をたくさん用意しないといかん。それは勘弁して」という事なんだろう。確かにそりゃそうだ。

会津磐梯そば道場
会津磐梯そば道場メニュー

[会津磐梯そば道場]
「会津高遠そば」は日本農林規格に基づく有機農産物の認定を玄そばでは日本で初めて取得した「会津磐梯有機玄そば」を使い大根のおろし汁とそばつゆをミックスしたつゆで食べる絶品の一品です。皆様一度食べてみてください。お待ちしております。

高遠そばは、過去何度か頼んだ事があるが「思ったより大したことはない」という判定が覆ったことがない因縁の蕎麦だ。大根のおろし汁が入るのは面白いのだが、劇的に味が変化するわけでもなく、その割にはお値段が上がるのがなんだか悔しいのだった。

同行者が「昔行った、大江戸めん祭りでも食べましたね、高遠そば」と言う。おお、そうだったっけ。確かそのときは600円だったと記憶している。それでも「100円払うには惜しい」とおもったくらいだったが、今回ここでのお値段はなんと700円。大根のおろし汁で200円の付加価値があるとは思えないのだが・・・。どうしてこうなった。

帰宅後調べてみたら、実はこのお店、2005年の大江戸めん祭りで遭遇しているし、2008年の日光そばまつり2008でも食べていた。過去2回、おかでんは食べているわけだ。よっぽど「高遠そば」という言葉には惹かれるものがあったのだろう。ただし、今回はスルーということで事業仕分け。

奥飛騨・寶(たから)そば
奥飛騨・寶(たから)そばメニュー

[奥飛騨・寶(たから)そば]
自然薯そば「種捲きから手打ちまで」奥飛騨の冷涼な高地産新そばを、山畑栽培の自然薯と共にご賞味ください。自家栽培・天日干し・冷保存・自家製粉・湧水で朝打ちにこだわっています。真心こめたおもてなしに努めていきます。

なるほど。スルー。

いや、悪くないんですが、さすがに5枚の蕎麦を食べた後だと、賢者モードに入っているのですよ。悟り開いちゃって。少々のセールストークではもうお店に入る気にならなかった。

自然薯なんてほとんど食べたことがないので魅力っちゃあ魅力なんだが、多分ねばっこさ圧倒で蕎麦の風味が埋没すると思い、辞退。

そば処こやぶ

このあたりは通路が狭く、人通りが密集するためにあんまり立ち止まっていられない。「ふーん。分かった。じゃ、次」といった感じで判断するしかなく、遠目でしばらく吟味し、胃袋と相談し、結論を出す余裕はない。よって、このお店もスルー。

[そば処こやぶ]
そば処こやぶは創業36年。一日限定100食の生一本(十割そば)が毎年好評で、昼頃には売り切れてしまう人気のメニューです。地元の玄そばを毎日自家製粉したそば粉を使った、力強い風味のそばをお楽しみください。

限定100食の生一本

「限定100食」と銘打たれたら、どうしても目をひいてしまう十割そば。しかも、「十割そば」と名乗らないで、「生一本」というネーミングだったら、さらに目を引こうというもんだ。実際、われわれもちょっと気になった。

「昼頃には売り切れてしまう」とPRしているが、そりゃこれだけの客だと不人気メニューでも100食くらいはいくだろ、と最初は思っていた。しかし、このお店、随一のメニュー数を取り扱っていたので話はちょと違う。当然、注文は分散してしまうので、昼頃に100食出すのはちょっと大変かも。しかし、実際に11時過ぎには完売御礼になっていた。人間、限定品には弱い。しかも十割そばだし。

このお店の面白いのは、「大盛り」をメニューに据えていることだ。食べ歩き前提の人たちで溢れかえっているこの会場だが、大盛りなんて食べる人、いるのだろうか?生一本の大盛りに至っては1,000円の大台に乗っており、もりそば2枚を食べることができるお値段。自信の表れなのか、それとも他店潰しの策略か。

天然乾燥・石うす挽き飛騨のそば
天然乾燥・石うす挽き飛騨のそばメニュー

[天然乾燥・石うす挽き飛騨のそば]
春は山菜、秋はきのこと山の幸に恵まれた飛騨市。汁はなめこで仕込み、蕎麦粉は先人達が栽培してきた在来種の蕎麦の実を天然乾燥し、石うす挽きにしました。甘さと香りいっぱいの新蕎麦粉を、真心込めて打ち上げたこだわりの「なめこそば」をぜひご賞味ください。

「おっ、天然乾燥なんだってよ」

先日、当サイトの読者の方から天然乾燥のお米を送っていただき、大変満喫した記憶が蘇った。天然乾燥が良かったのか、米そのものが良かったのかまでは分からなかったが、「天然乾燥ってええのぅ」という良い印象は持っている。それがそのまま、この蕎麦にも適用。ちょっと、いや、結構気になる。

同行者は、「いやー、そろそろ違うものが食べたいなーと思っているんスけどねゲフンゲフン」とうつろな目つき。「とりあえずひととおり見て回りましょうよ」という言葉に促され、スルーさせた。

後でパンフレットを読み直すと、先ほどの「奥飛騨・寶そば」も天日干しを謳っていたのだが、全く気がつかなかった。これだけ店舗数が多いと、少々の売り文句くらいじゃ全然印象に残らない。結局、一番PRしたいことは店名に冠しないとダメだな。その点、このお店は上手いことやった。おかでんのハートをわしづかみです。胃袋は既に満腹だけど。

ダッタンそば 札幌 長命庵
ダッタンそば 札幌 長命庵の看板

[ダッタンそば 札幌 長命庵]
国内でも希少なダッタンそばを、札幌市の遊休農地の活用事業の一環として農地を借り入れ、農薬を使わずに自社にて栽培しています。当店自慢のダッタンそばをぜひともご賞味ください。

「ダッタンそばはねぇ・・・」

同行者が口ごもる。あれ、味覚チェンジしたかったんじゃないのかね。

「いやー、そうういう味覚チェンジじゃなくって、僕はこう、もっと蕎麦じゃないモノをですね、食べたいわけで。ダッタンそばは違うなぁー」

確かにそうだろう。蕎麦からいったん離れたいのに、「なら違う味の蕎麦でどうぞ」といわれたらたまらん。

ダッタンそば、確かにおかでんもおいしいと思ったことがない。敢えて食べたいとは思わないが、逆に言えばこういう「食べ歩きできるチャンス」でないと食べないかも知れない。むう、難しい。

茹で湯が黄色い

ちらりとテントの隅から厨房を覗くと、うお、ゆで釜がえらいことになっているんですけどー。

韃靼そばをゆで続けて何百食、真っ黄色のお湯になっているのだった。学校給食のカレーでも作っているかのようだ。凄いな、こんな色になるとは知らなかった。

さすがに、この蕎麦湯はあまり飲みたくない気がするが、それは食わず嫌いだろうか。ううむ。

二の丸御殿跡
こちらはやや人が少ない

ダッタンそばの店から先は、門があって別ゾーンになっている。二の丸御殿跡らしい。
5年前に訪れた時は、ここから先は会場として利用されていなかったと記憶しているので、規模拡大に伴い敷地拡張したのだろう。

しまいには天守閣にも蕎麦ブースが出店、なんてことになったら面白いんだが。いいぞもっとやれ。で、昨年度最高売上記録をマークしたお店は、天守閣の最上階に店を構える事が許される特典付き。・・・嫌がらせだな、それ。お客さん来ないし、調理に不自由するし。でも、お城のてっぺんでお店が構えられるという名誉さえあれば。

妄想はそのへんにしとけ。イベント主催者が許可しても、文化庁が許さないわ。国宝だぞ、松本城天守閣は。

二の丸御殿跡の敷地には、蕎麦ブースが4店舗、その他物産ブースが11入っているのだが、人の数はまばら。門で仕切られているせいで、心理的な抵抗感が来場者にあったのかもしれない。

さつまスティックの店

二の丸御殿跡に足を踏み入れた真っ正面に、さつまスティックの店があった。

同行者が

「おっ、これは魅力だなあ。すいません、僕ちょとこれ買います。一服もしますんで、おかでんさん先に行っててください」

と言い戦線離脱。ついに蕎麦の味から逃走していった。また、会場内の限られた場所にしかない喫煙所は、愛煙家にとっては貴重なオアシス。タバコを吸う同行者にとっては、ここで一息つかないでどこでつく?といった感じなのだろう。

ところでさつまスティックって何だ。最近、屋台の進化が著しいのでさっぱりわからん。さつま揚げが棒状になっているものかと思った。ゴボウ天みたいな。しかし実物は、薩摩芋を縦に野菜スティック状に切り、それを揚げたものだった。シンプルなおやつだが、屋台以外じゃまず見かけない料理だ。

EXCO中日本グループ 田舎蕎麦愛好会
EXCO中日本グループ 田舎蕎麦愛好会メニュー


さつまスティックに一本釣りされた同行者と別れ、まだ胃袋に余裕があるおかでんは先を急ぐ。彼がおやつを買い食いし、タバコを一本吸っている間に空いているお店で蕎麦一枚くらいは食べられるんじゃあるまいか。

[NEXCO中日本グループ 田舎蕎麦愛好会]
蕎麦を食べて健康になりたい、という志の同志が集まり、蕎麦打ちを始めた会社の仲間で参加しています。初参加です。一茶庵(横浜)で蕎麦打ちを習い、蕎麦道具をそろえ、蕎麦粉も一茶庵の国産を用意しました。今回の収益は交通遺児に寄付します。

今回の松本そば祭り、「どの店に行くか・どの店は避けるか」という議論を朝方にした際に真っ先に俎上に登ったのがこのお店だった。店には申し訳ないが、「ここには行くまい」と。

というのも、なんと魅力の薄い宣伝文句よ、というのに尽きた。NEXCOという会社組織名が店名にある時点で、もの凄く「趣味の域を出ていない同好会」感がにじみ出て、わくわくしない。しかも、想像してしまうのはSAにあるスナックコーナーの蕎麦。もちろん、それとは全然違う蕎麦を志向しているのは分かるが、24店舗ある蕎麦ブースの中でこのお店を積極的に選ぶほど胃袋と財布に余裕はないのだった。しかも、自己PR文も謙虚すぎて、全くの素人集団っぽく見えてしまう。一茶庵の名を使うなら、一茶庵そのものが出てきてくれれば良かったのに、とさえ思ってしまう。

つくづく広告宣伝というのは難しい。誇大だと後で失望と反感を買うし、正直すぎると魅力がない。今回のおかでんにとっては後者の方で、スルー。

このお店、取り扱っている品はざるそばのみ。どこまでも謙虚なのだった。しかも、そばにはもれなくミネラルウォーター500mlのペットボトル付き。謙虚だなあ。

北海道雨竜町 竜・りゅう亭
北海道雨竜町 竜・りゅう亭メニュー

[北海道雨竜町 竜・りゅう亭]
北海道の代名詞は「にしん」ですが近年漁獲高が激減しております。この幻の「にしん」を8時間煮込み自信をもってお届けしますのでご賞味ください。ジャンボにしんそば800円。若い人むきにカレーそばも提供します。

黄色い旗がなびいていると思ったら、そこには「カレーそば」の文字が。うわ、そば祭りでカレーそばを出す店があるとは思わなかった。ナイスチャレンジャー。やっぱり北海道のカレーなので、スープカレーなのだろうか?・・・いや、さすがにそれはないか。

ここでカレーそばを食べてしまうと、カレーの風味が口の中に残り続け、他店で蕎麦食べ歩きしてもひたすらカレー圧勝、ということになりそうだ。他店殺しのそば。

もりそば500円で、冷やしたぬきそば500円。天かす乗せても値段一緒、というのは関西のうどんっぽくて面白い。さすがに天かすトッピングで追加料金というわけにはいかなかったのだろう。600円で天ぷらそばが控えているし。この冷やしたぬきそば、もりそばのつゆをもりそばにぶっかけて、その上に天かすを載せたものだろうか?だとしたら、天かす分、もりそばよりお得ではある。天かす好きはこのお店に走れ。

開田蕎麦 田舎家
開田蕎麦 田舎家メニュー

[開田蕎麦 田舎家]
玄そばは海抜1,000メートル以上の開田産幻のそばを100%使用しております。農家との契約栽培をしており、毎朝自家製粉をしております。二八の手打ちそばと化学調味料を一切使用していないつゆとのぶっかけそばをご賞味ください。

おっと、このお店はぶっかけ一本で勝負だ。ぶっかけだと、お椀容器一つで済むし、薬味のトッピングが容易だし、店としては小数精鋭で臨めるという計算だろう。こういう割り切りも、ブースとしては面白い。「そば祭り、全店ぶっかけしかありません」じゃ悲しいがが、24店舗もあるんだし、自分とこの事情に則って大規模、小規模あれこれあるといい。

なお、この「田舎家」だが、開田蕎麦を標榜しているがお店は開田高原にあるわけではない。松本市だ。ちょっと紛らわしいが、東京で「出雲そば」の店があるのと一緒であり、別に理不尽な事ではない。お店は松本城からちょうど東に3kmくらい行ったところにあるので、今日は本店の営業もしつつ、この会場をサテライト店舗として掛け持ち運営しているのだろう。

[6軒目:小川の庄 おやき村縄文そば 10:48]

小川の庄 おやき村縄文そば
小川の庄 おやき村縄文そばメニュー

ばあちゃんの打つ手打ちそばです。男性の打つそばは力を入れて打ちますが力のないばあちゃん達はじっくりそばを延ばしていくので肌理が細かくそばの香りやコシが特徴です。不そろいなそばですが故郷を思い出す懐かしいそばです。
会場の一番外れにある、小川の庄。店名のとおり、おやきを売っている実店舗だが、蕎麦も扱っている。客足は他店と比べて一番悪く(訪問時)、空いていたので入ってみることにした。さつまスティックとタバコで離脱中の同行者が復帰した時点で、蕎麦を一枚食べ終わっていられればベスト、と思ったからだ。しかし、悲しくなるくらいお客さんがいない。出店場所が悪かったようだ。

お品書きは、ざるそばと、温・冷それぞれのきのこそばで、合計3種類。

厨房

人の配置を減らすためか、このブースには店頭の食券カウンターが無かった。その代わり、テント奥の厨房カウンターでお会計をする。店頭のカウンターは、客が少ないときは客引きの役割も果たすので重要だと思うのだが、こういう運用もアリか。ただ、この手のイベントは既にノウハウが蓄積されており、「必勝パターン」みたいなものがある程度存在している。このお店、その必勝パターンを完全無視して、革新的なんだか無知なんだか、わからん。ただ気をつけろ、ノーガード戦法でボクシングしても勝てる人がいるように、こういう店こそくせ者だ。

厨房カウンターで注文をし、お金を払うとお店の人から名前を聞かれた。「ゴンザレスです」とか適当な名前を名乗ろうかと思ったが、素直に本名を伝える。何で名前を聞くのかと訝しんだら、「お席でお待ちください」と言われた。どうやら、蕎麦ができ上がったら名前を呼んで、お届けにやってくるというオペレーションらしい。なんという効率の悪さだ。

食券を作るのが面倒だったからだろうが、名前が他の人と重複したらどうするのだろう。揉める原因だ。紙切れでもいいから食券を作って、番号で呼んだ方が良いと思うんだが、大丈夫か?

ほら、案の定オペレーションミスだ。きのこそば(温)がなぜかおかでんのところに運ばれてきたぞ。違う違う、僕が頼んだのはざるそばです。お引き取りください。

・・・しばらくしたら、今度はきのこそば(冷)がやってきた。おおーい、一体どういった管理がされているんだ。名前と伝票確認して持ってきて頂戴。

さつまスティック

しばらくしたら、さつまスティックを持った同行者がやってきた。

「あれ、まだ食べてないんスか」

なんて言う。ええ、厨房が何だか混乱しちゃっているようで。ただ、こういうシチュエーション、結構楽しめる性格なので、「さあもうこうなったらお店側との根比べだぞ」と逆に腹が据わってきた。待たせてしまっている同行者には申し訳ないのだが。

「お、あれじゃないですか?あれじゃなかったら・・・」
「そりゃあもう、大変な事ですよ」
「机ひっくり返します?」
「いや、テントが倒れるかもしれん」

なんて誇張表現しながら様子をうかがったが、見事スルーされまくり。

「忘れられてるんじゃないですか?次来なかったら言った方が・・・」

と言われるが、

「いやー、まだまだ」

とこっちも粘る。何しろ、店内の客数は少ないんだ、どんなにぼんやりしていも忘れられるなんて事はなかろう。とはいえ、最初の間違った料理が着席後すぐに届けられたので、どうしても「もうすぐだろう、もう食べられるだろう」と思ってしまう。そのため、待たされている時間の長く感じることといったら特筆ものだ。

結局、10分待ったところでようやく到着。我慢比べはこっちの勝ちだ。

どうやら、客数が少なかったせいで、常時ひっきりなしに蕎麦をゆでていた訳ではなかったようだ。なるほど、客が少ないとそれはそれで提供が遅れてしまうのだな。一度お待たせしてしまうと厨房は対処が後手後手に回ってしまうため、リカバリーするのにしばらく時間がかかるのだろう。

で、手元に蕎麦が届いた頃には、急激にお客さんがやってきた。15名くらい、厨房カウンターの前に行列。おかでん同様、「ここ、空いているから入ろうぜ」という人が集まってきたのだろう。さあ、厨房はますます大混乱だろう。頑張れ。

ざるそば
ざるそばアップ

肝心の蕎麦は、「お待たせしました」という意味もあってか(多分ないと思うが)、結構なボリューム。みっちりと容器に詰められた麺の密度は他店よりも上だった。
麺の切り幅は広めでムラがある。最近は蕎麦打ち技術が向上し、大抵の店で小奇麗な蕎麦が出てくるようになったので、かえってこういうムラがあると得した気分になる。ゆで加減が、とか食感が、なんてネガティブ要素はあろうが、画一化したら蕎麦はつまらんよ。

麺は明るい色あいで、若干赤身を帯びているのが特徴。きしめんのような平打ち麺なので、もさもさした食感は好き嫌い分かれるところだ。

蕎麦の香りと味は、随分と遅れてにじみ出てくるという遅効型。すすって、噛んで、ワンテンポ遅れて風味が出てきた。決して風味は弱くないので、麺の形状に由来するのかもしれない。同行者はこれを「人見知りする子」と形容していた。

つゆはシャーベット状になっているのが独特。これは面白い試みで、心地よい口当たり。ただし、冷えすぎているために鼻腔にかつおの香りが抜けない、という微妙な試みでもあった。ただ、時間が経つとだんだんとつゆの塩辛さが強くなってきた。どうやら、つゆの温度が上がってくると、人間の味覚が敏感になるために辛さを感知しやすくなるからだろう。ぬるいコーラはメチャ甘い、とかアイスにはもの凄い量の砂糖が使われている、というのと一緒。

ドライフルーツを売る店
佐世保バーガーの店

お店を後にし、会場内を歩く。
二の丸御殿跡の会場では、いろいろな食べ物屋台が軒を連ねていて面白かった。

ドライフルーツを売る店があったのも、面白い。さすがに縁日にはこういった屋台は出ないだろうから、興味津々で眺めてしまった。

他にも、佐世保バーガーの店なんぞもあって、鉄板ではひっきりなしにパティが焼かれていた。今、はやりだからな。でも、佐世保バーガーなんて食べたら、せっかくのそば祭りがあっという間にゲームオーバーだ。

伊那名物ローメンを売る店
ソースカツ丼まん

伊那名物ローメンを売る店もあって、さすが長野、と思わせる。
さすが、といえばソースカツ丼まんなんてものもあった。これも、南信地方の名物だが、商品タイトルが気になる。

「ソースカツ丼まん?・・・ソースカツまん、じゃないのか?」
「ご飯でも入っているんですかねえ」
「まさか」

と言いながら店に近寄ってみたら、本当に饅頭のなかにご飯が入っている事が判明。激しく仰天した。なんて発想だ。それが可能なら、カツ丼まんもうな丼まんも可能、ということではないか。コペルニクス的発想転換だな。

しかも、キャッチコピーがシビレる。

「踊りながらでも食べられるどんぶり」

飛騨そばのこだわり
飛騨そばの客席

二の丸御殿跡から、またメイン会場に戻る。
先ほどからずっと「天然乾燥」の蕎麦が気になっていた。自身の胃袋の状況、また、同行者の「もうそろそろギブ」というオーラを考えると、こんど素通りしたお店には二度と入ることはないだろう。どうする?自分。

結局、胃を決して、違った、意を決して「飛騨そば」を食べることにした。決め手は、やはり「天然乾燥」。最近、蕎麦店の技術がインフレ著しい。「自家製粉」「石臼挽き」程度では驚かず、「蕎麦の実は一食分ずつ真空パックで低温保存」も珍しくない。いい加減消費者側も感覚が麻痺してきているのだが、それでも「天然乾燥の蕎麦の実」というのは今まで馴染みのないセールストークだった。では、ぜひお世話になろうではないか。

さすがに同行者は「僕はラスト1軒がやっとですね。いいっすよ、一服してきますんで」と辞退し、また喫煙所へと消えていった。おかでん一人で行列に並ぶ。

この店は、食券をどんどん発売しないで、ある程度客席の状況とゆで釜の状況をみた上で適時販売、という流量制限を行っていた。また、食券を購入したお客は、従業員の「こちらへどーぞー」の案内に従い、指定された席に着席する。他店とは違うオペレーションでの挑戦。

とはいえ、だからといってバンバンお客さんが回転しているかというと、そうでもなかった。結局、ゆで釜が小さいのか火力不足なのか、どうしても蕎麦の供給がお客の来店数に追いつかないのだった。

テーブル
漬け物サービス

お客さんを着席で待たせている間、お茶うけとして・・・あ、お茶はないか・・・漬物が用意されていた。ええと、箸休め?・・・いや、まだ何も食べていないから、今そのものが休んでいる最中なんだけど・・・。
北信の蕎麦店では、蕎麦を待つ間に野沢菜が供される事が多い。その飛騨バージョン、ということか。大根と大根の葉?が紫蘇と一緒に漬けられたもので、赤い。葉っぱと一緒バージョンのお皿と、大根のみバージョンのお皿の二種類があり、葉っぱ有りバージョンの近くに着席した俺強運、なんてどうでもよい意地汚い事を考えてしまった。とはいえ、味見程度しかしなかったけど。

もりそば
もりそばアップ

もりそば500円到着。

この蕎麦ブースは、「飛騨市そば振興組合」という寄り合い所帯であるにもかかわらず、立派なお盆、器を用意していたのが驚き。飛騨、やる気満々ではないか。「蕎麦といえば長野」というイメージが一般的にはあり、山一つ向こうの岐阜県・飛騨からすれば納得いかん事も多かっただろう。存分にこの地でその存在感をPRしちゃってください。

天然乾燥を謳うそばだが、太麺かつ固め・ざらついた感触で、ものすごくしっかりした食感。力強い、と表現するとちょうどよい。蕎麦の味と香りは噛むと強く出る。しかし、興味深いのは蕎麦の香りは後にふぁーんと引きずらず、ぽん、と立ち上がってすっと消える印象。ヒット&アウェイだ。

つゆは、濃厚。どろどろしているかのような印象すらうけるくらい、濃い。そして、辛い。醤油辛い、というのではなく、もはや単に塩辛いというレベルになっていた。飛騨の蕎麦ってこういうつゆと合わせるのが普通なのだろうか。これは食べ方を工夫しないと、つゆの辛さに蕎麦が負けそうだ。

おわらの里 八尾のそばは長蛇の列

一服終えた同行者と再度合流し、会場内を散策する。

そば店巡りを優先して、物産ブースや蕎麦以外の飲食ブースを見てこなかったが、あらためてゆっくり見て回ろうではないか、という時間。その間に、ラスト1食の蕎麦を見極めることにした。

「やっぱり最後はどこかで天ぷらかな?」

などと話しながら会場を歩いていると、前方になにやらもの凄い行列が。その行列の先には、蕎麦ブースが。「おわらの里 八尾のそば」だ。何でこんなに行列が、と呆れる。端っこにある蕎麦店にも関わらず、会場内で一番の人手になっている。行列の脇には、「白海老天ぷら」ののぼりがはためいていた。みんな、富山名物の白えび天ぷらがお目当てらしい。

トッピングに気を取られるとは、うかつだぞ!蕎麦メインで考えて店を考えようよ!と思うが、かくいうわれわれも

「白海老かぁ、いいねえ」
「関東の方じゃ、なかなか食べられないですからね」

と惹かれまくり。おかでんは2カ月前に富山に行っており、その際にも白海老は食べているのだが、それでも「白海老また食べてみたいのぅ」と思ってしまうレアアイテム。北海道そばの「蟹の天ぷら」も大変に結構なのだが、蟹って北海道じゃなくても食べられるよね、と言える。その点、白海老の方がインパクトがでかい。

とはいえ、あまりに行列が長いので、「とりあえず他のブースを見て回って、それから並ぼう」ということにしていったんここは退却。

物産ブース

物産ブースは、蕎麦ブースのように厨房や飲食スペースが不要なので、小さな領土でひしめき合っていた。その数、会場全体で62。「蕎麦?いや、趣味じゃないなあ」という人でも、この62のブースを巡るだけでも十分に楽しめる。

※ただし、蕎麦アレルギーの人を除く。

会場の看板全てに、「このイベントは、そばを提供するイベントです。そばアレルギーの方は来場をご遠慮ください」と書いてあった。

「蕎麦と関係ないブースの店名看板にまで書いてありますよ、これ」

同行者が驚きの声を上げる。そばアレルギーって、一歩間違えると死にかけるくらい酷いと聞くので、主催者は慎重に対応しているのだろう。とはいえ、「そば祭り」なんだから、そばアレルギーの人は来ないと思うんだが。

だけど、訴訟大国になりつつある日本、ちゃんと注意喚起してました、という逃げ道を作っておかないと訴訟リスクがあるっていうことなんだろう。なんとも世知辛い世の中になったものだ。

物産ブースの中でも行列ができている店があった。何だろう、と思って近づいてみたら、「株式会社霧しな」というブースだった。なぜ大人気なのかといえば、乾麺の蕎麦とうどんの無料試食をやっていたのだった。霧しなといえば、アワレみ隊で長野蕎麦食べ歩きをやった際に開田高原にある霧しなの工場に立ち寄って、無料試食したことを思い出した。

「無料」とはいえ、今この胃袋の状況ではいらない。謹んでスルーした。

メイトー牛乳のブース
蕎麦道具とウクレレ

基本的に、物産ブースも蕎麦ブース同様、テントが主催者から支給されている。各店舗は、与えられた狭い敷地内をいかに有効活用し商品陳列するかで工夫をこらしていた。
しかし、中にはレギュレーション破りをしているブースも。写真上はメイトー牛乳のブース。なにやら、コンテナみたいな箱を持ち込んでいた。これ、どうやって持ち込んでどうやって組み立てたんだろう?テレビ番組のセットみたいに、ベニヤ板のハリボテ、というわけではあるまい。牛乳を売るだけだったら、主催者提供のテントでも十分なはずだが、メイトーさんやる気満々っす。・・・と思ったら、別のブースも同じコンテナハウス利用のところがあった。「前年度売上上位」とか、「主催者に貢ぎ物をたくさんした店」とか、基準は不明だけどコンテナが一つ丸ごと支給されるお店もあるようだ。

同行者は、ここで瓶の牛乳で水分補給をしていた。先ほどは、試食の何かお菓子を別のブースで貰ってたし、ううむ、端から見てそば祭りを十二分に満喫しているな。一方おかでんはというと、ひたすらストイックに蕎麦だけを食べ続ける。どっちが人生楽しいかというと、多分前者だろう。

写真下は、蕎麦道具の店。駒板、のし棒などが売られているのだが・・・頭上には、ウクレレがつるしてある。何だこの時空のゆがみは。確かに、両方とも木材製品だから、あっても不思議ではないのだが、こんな光景は初めて見た。

プリン専門店春夏秋冬
そばプリン

いろいろな店がある。物産ブースが並ぶ小径を歩いていると、この祭りが一体なんなのかさっぱりわからない。ビーフシチューのおやき、イベリコ豚のハムとワイン、タスポカード申し込み受付、ドレッシング、地ビール、野沢菜もんじゃコロッケ・・・。
たまには、「そば祭りには行くけど、蕎麦食べるの禁止」という縛りを設けて、蕎麦以外を食べるのも良いな、と思った。または、1泊2日で出かけて、「初日は蕎麦中心に食べる。二日目はそれ以外を食べる」とか。

そんな中、目を惹いたのが「プリン専門店春夏秋冬」というお店。アワレみ隊のメンバーで以前、蓼科の蕎麦店「みつ蔵」に行った際、あまりの美味さに感動した事がある。それ以来、そばプリンと聞くと、甘い物には全く興味を示さないおかでんでさえ、「お?」と立ち止まってしまうようになった。今回もそう。ということで、「信州ぜいたくプリン」シリーズの中から「そば」を購入。300円なので、お値段もぜいたく。

ちなみに、他には栗とか、黒ごま、純米酒、酒粕、塩キャラメル、豆乳、抹茶、味噌・・・などと非常にチャレンジングな月面宙返り的プリンが並んでいた。この様子をみると、多分信州名物はひととおり試作プリンを作ったことがあるに違いない。りんごプリンなんて旨そうだが、商品化されていないところを見ると多分まずかったのだろう。あとは、野沢菜プリン・・・うーん、漬物はプリンにするの、やめとこうや。

ぜいたくプリン、といっても原材料はシンプル。シンプルゆえにぜいたく、ということだ。牛乳、卵、砂糖、生クリーム、蕎麦粉。牛乳だけでは飽きたらず生クリームを追加しているので、濃厚。これがぜいたくプリンのぜいたくな所以か。

ただ、その濃厚さが、蕎麦7枚食べたあとのおかでんにとっては重たかった。

「美味い!美味いんだけど、重いよ。一口食べただけでずっしりくるよ」

とうめいてしまった。そば?えっと、蕎麦の味、したっけ?

蕎麦プリンって、肝心の蕎麦の風味が見事活かされているものはまず見あたらない。これもそうだった。相当難しいのだろう。

山賊焼き
山賊焼きの店

なにやらやたらと良い臭いを発している屋台が、一軒あった。厨房内でなにやら肉を調理している。その煙もさることながら、長い行列もひときわ目を惹く屋台。見ると、「松本山賊焼き」という看板が出ていた。山賊焼き?なんすか、それ。
写真を見ると、鶏肉の唐揚げ・・・いや、鶏もも肉の塊を竜田揚げにしたもの、が正体のようだ。

「なるほど。いわば、チキンタツタというわけだ」

おかでんと同行者は、10年以上前共にマクドナルドでバイトをしていた仲なので、「チキンタツタ」という言葉を使うと妙に納得できた。ちなみにその当時は、チキンタツタはまだレギュラーメニューだったが、いつ陥落してもおかしくない時代だった。おかでんはマネージャーになったのでPOSを見る事ができたのだが、当時、チキンタツタが売上に占める割合は5%程度。やべえなあ、という雰囲気ありありだった。もっとやばかったのがベーコンポテトパイだったけど。案の定、両方とも今では消えた。好きだったんだけどなあ。

ところでチキンタツタって松本名物だったんか?知らなかった。

松本市公式観光情報ポータルサイトによると、

鶏の肉をニンニクなどの入った汁に漬け込み、片栗粉をまぶしてあげたものを山賊焼き(又は山賊揚げ)と呼びます。(中略)松本では、クリスマスの季節のスーパーにもローストチキンとともに山賊焼きが並びます。

だって。クリスマスのチキンって、本来は七面鳥なんだろうけど、日本では「鶏もも肉で代用」。それすら面倒になって、「ケンタッキーフライドチキンかチキンナゲットでいいや」、さらには「鶏肉食わなくていいじゃん、寿司にしようぜ」とまでローカライズされている。実はクリスマスの日にはお総菜の寿司が売れる日本。それが松本の地では「鶏肉だけど、竜田揚げという和の技法使っちゃいました」状態。西洋人はびっくりだろう。

なお、このブースを営業している松本食堂事業協同組合は、松本市で山賊焼きが食べられるお店の地図を作成・配布していた。

にんにくの香りが素晴らしく、「揚げたての山賊焼き食べながら麦酒飲むのっていいよなあ。あー、蕎麦食うんじゃなかった」と考えてしまった。おいちょっと待て、蕎麦食うんじゃなかった、って、アンタ何しにここに来たの。でも、それくらい魅力的だった。

600円で値段はこなれているし、お土産にしても良かったのだが・・・どうせ今晩は食事抜きでしょ。翌朝までおなかいっぱいだよ。諦めなさい。残念だ。

[8軒目:おわらの里 八尾のそば 13:45]

おわらの里 八尾のそば
おわらの里 八尾のそばメニュー

昨年大好をいただいた白えび天ざるを主力メニューに出品致します。八尾産の地粉は甘味ともちもち感が特徴で「白えび」との相性も抜群。ていねいに手打ちした富山ならではのおそばをおわら風の盆の里よりお届け致します。

ぐるっと回ってみて、やっぱり最後の一枚は白えびの天ぷらを添えよう、という事にした。食べている人を遠目でみると、天ざるの天ぷらは、ちゃんと竹で編んだ風情ある器に紙が敷かれ、そこに盛られているのが見えた。それだけでも非常に好印象。凄い行列だけど、ラスト一軒だと思えば我慢はできる。なにせ、まだ12時30分を過ぎたばかりだ。これを食べれば後は帰るだけ、夕方の道路渋滞に巻き込まれる事もなく余裕だろう。はっはっは、白えび食べて今回のイベントは勝ち逃げするぜ。

お品書きは、ざるそば、かけそば、白えび天ぷらざるそば、白えび天ぷらそばの4品。これだけの行列に敢えて並ぶようなお客さんのことだ、ここで「ざるそばください」なんて頼む人はまずいないだろう。いたとしたら、よっぽどここの蕎麦そのものに惚れ込んだということだ。実際、われわれが見ていた限りでは、100%全員が白えびを食べていた。こんなに人気だと、白えび、乱獲で絶滅しちゃうんじゃないか?

食券
厨房

行列の長さにぶったまげたが、しょせん蕎麦だ。回転はそんなに悪くないだろう・・・と思っていたのだが、それは認識が甘かった。行列の長さにきっちり比例して、もの凄く待たされ、二重にぶったまげた。列に並んでから、蕎麦が目の前に届けられるまでにかかった時間、1時間15分。一体なんの行列だ。「蕎麦屋の行列の長さと、待ち時間」ではギネスに載ることができるんじゃあるまいか?超人気ラーメン屋並ではないか。

行列の横を通り抜けていく別のお客さんも、「何、この行列?」と並んでいる人に思わず聞いてしまうくらい、異様な光景だった。この店だけ、蕎麦を無料配布しているかと思ったのかもしれない。そんなわけはないのだが。

並ぶ時は「よし、まあいっちょならんでやるか」という気持ちはあったが、15分で後悔、30分で落胆、45分で達観、60分経過時点で悟りの境地。ここはもう修行の地と化していた。

ようやく店に近づいたところで、店の手際を視姦してやることにした。一体どうしてこんなに待たせるんだ、と。行列はしょうがないとしても、もっと客の回転を上げる事はできるんちゃうんか、と。

しかし、実際のところ、厨房には十分すぎる人が配置されており、若干の手際の悪さはあったとしても人数でカバーしている状態だった。

暇なので、同行者と

「あ、今天ぷらがネタ切れになりましたよ。今天ぷら待ちです」
「天ぷらは今十分にありますねー、蕎麦待ちです」

なんて実況しあっていた。ただ、結局のところ、蕎麦のゆでが全く追いついていないのだった。

店頭の食券売り場で購入した食券はミシン目が入っていて、半券に切り分ける事ができるようになっていた。これは、厨房カウンターの料理受け取り口に行く前に従業員さんに回収された。この先どんなオーダーがどれだけ入っているか、事前に厨房側で把握しておこうという趣旨のようだ。ただし、半券どころか、券丸ごと。半券の意味がない。

半券が手元にないのは本当に大丈夫なのか?という疑問の声を上げる人がいたが、それに対して従業員さんは

「大丈夫ですから。こちらの方で食券の順番はちゃんと管理しますので」

とのこと。しかし、それを聞いた同行者が

「割り込みがあったらどうするんですかねえ。こっそり、食券買わないで割り込みなんて余裕でできそうですけどね。そうしたら、後の人の注文、グチャグチャになりますよ」

とつぶやいていた。

白えび天ぷらそば
白えび天ざる


1時間15分経過で、ようやく着席及び料理到着。
われわれの前後の人が曖昧な列の作り方をしていたため、自分たちの手元に正しく料理が届くかどうか不安視していたが、問題なく届いた。お見事。

・・・いや、頼んだものがちゃんと届くことくらい、当然といえば当然なのだが、このお店の運営はそれが心配になる危なっかしさがあった、ということ。

写真上が、白えび天ぷらそば。写真下は白えび天ざるそば。いずれも700円。天ざるは、やはりこの竹で編んだ器が、なんだかうれしい。さすがにこれは使い捨てなわけ・・・ないな。

厨房の白えび天ぷら班は、天ぷらが揚がったらいったん全て、この天ざる容器に海老を盛りつけていた。で、蕎麦がスタンバイできた時点で、天ざるならそのまま容器をお盆に載せ、天ぷらそばなら器の中の天ぷらをかけそばにばさっと移動させるというオペレーションだった。なるほど効率が良い。いちいちオーダーを見ながら、盛りつけていたら時間がかかって仕方がない。

白エビの天ぷら
蕎麦アップ

さて、1時間以上待ち続けた白えびさんとのご対面。
いざ、実物を見ると、案外大したことがなくてびっくり。もともとこういうものなのだろうが、待っている間にどんどん妄想というか、理想の白えびが大きくなりすぎてしまったのだった。

つくづく、行列というのは罪だ。待っている時間が長ければ長いほど、「これだけ待っている俺様」という境遇を正当化させるため、行列の対価としての飲食物に過度な期待をしてしまう。

白えびは甘みが強い。とくにかけそばに浸かった状態の天ぷらそばだと、つゆがもともと甘い上に油の甘み、そして海老の甘みのトリプルパンチですっげえ甘い蕎麦に仕上がっていた。

「北陸って、甘い醤油がありますよね。それの影響かなあ」

「なるほど、だから卓上にデカい七味唐辛子のボトルがあるのか。これ、家庭にはないサイズのものだぞ」
一方、天ざるそばの方は、かりっと揚がっている、というか殻が口に刺さって痛かった。凶器ですかこれは。口内炎の人は間違っても天ざるは頼んではダメだ。

蕎麦に関しては、「悪くはないが、他店と比べて平凡。」と一刀両断。行列がなければ、評価はどうなっていたか分からない。つくづく、食べることってのは難しいと実感した、松本そば祭り最後のいっぱいだった。

退却

1,000円高速を舐めてはいかん。三連休中日とはいえ、夕方の上り線は混む可能性が高かったので早めに退却。ただし、「中央自動車道は調布IC付近で9kmの渋滞」という予報だったのに、実際は甲府南ICから先断続的な渋滞に。渋滞予測があてにならない、1,000円高速の実体をまざまざと見せつけられて参った。

退却中は喉が渇いて仕方がなかった。さすがに、8軒も蕎麦屋を食べ歩くと、塩分の取りすぎだ。体が塩分を中和したがって悲鳴をあげていた。その結果、1.5リットルもの水分を補給したのだが、トイレには全然行かなかった。

腎臓病を患ったら、蕎麦食べ歩きなんて絶対無理だな。むちゃは若いうちに済ませておこうと思った。・・・いやいやいや、それ、発想が間違っているぞ。若いうちからむちゃはしないで、死ぬまで腎臓疾患にならないのがベストだ。

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