100階から下に降りる際は、行きと同じ。いったん97階に降り、94階までエスカレーターに乗り、そこからずどんと地上まで。
あらためて97階の「スカイウォーク97」を歩くと、こちらの方が100階よりも空いていて外の景色を楽しむには良い事に気がついた。達成感という点ではぜひ100階に行きたいところだが、97階も100階も視界に大差はない。通とかプロと呼ばれる人は、ぜひここで風景を満喫したいところだ。
いずれにせよこのビルの場合、直下の風景を見ることはできない。先端恐怖症の人かかってこいや、という尖ったビルデザインなので、足元の視界が非常に悪く、高度感はあまりない。
どうやら、建築の際に「高所恐怖症の人には手加減してやろう。ただし先端恐怖症の奴らはゆるさん」というコンセプトだったらしい。
先ほどは素通り扱いだった94階だが、帰り道には立ち寄る事ができた。
ここは、フロア全体を使った広いスペースになっていた。後でリーフレットを見ると、ここでイベントを開く事を想定しているらしい。
94階でイベントか。そりゃ映えるな。ただし、大型資材の搬入は不可能なので、例えば自動車メーカーが「新車発表会をここで」なんてのは無理だ。
金持ちどもが、ここでケータリングを頼み、立食パーティーなんぞ夜な夜な繰り広げているのだろう。ええのぅ。仮面をつけて、「奥さん、一緒にダンスなぞ如何」なんていかがわしいやりとりが展開されておるんかね。
そんな妄想たくましゅうしておるところではあるが、昼間はなんともガランとした広場。フットサルのコートなら余裕で3面はとれるんだから、開放すりゃいいのに、とさえ思うが、わざわざフットサルするのに150元払ってくる馬鹿はいない。
お土産物屋があり、上海ヒルズのグッズをはじめとして上海みやげを細々と売っていた。大々的に屋台を連ねたいところだろうが、それをやると肝心のイベントの時に撤去するのが大変なので、できないとみた。
「へー」と感心しながら、お土産物の写真を撮ろうとしたら店員さんに怒られた。写真、ダメらしい。
浅草でも、写真撮影ゆるさん、という土産物店があるけど、何でなんでしょう。観光客に写真撮られて、見られてこそナンボだと思うんだが。
コダマ青年はここでノートを購入していた。ちょうどノートが欲しかったらしい。
今時ノートかよ、と思うが、異国の地だし、筆談用だとかなにかと紙とペンが必要になるのだろう。
ホールのすみっこに、飲料とパンが売られている売店があった。
ドリンクが陳列されているのだが、それがとても興味深い。
見たこともないドリンクがあるのはおいといて、午後の紅茶がストレートとミルクの二種類用意されていて、サントリーの烏龍茶も二種類。え?二種類・・・気をつけろ、良く見るとラベルが微妙に違うぞ。うっかりすると砂糖入りのやつを買ってしまうぞ。あと、コカコーラやスプライト、シュエップスなど。
意外だった。中国料理店や茶芸館で「烏龍茶」なるものを飲んだらわかるが、あれは完全に緑茶だ。日本のコンビニで売られているような、茶色なものではない。だから、てっきり「茶色い飲み物」は日本人向け仕様なんだと思っていた。しかししかし、上海人もその茶色い烏龍茶を飲むとは!しかも、日本メーカーのものを。
加糖と無糖の両方を取りそろえているくらいだから、よく売れるのだろう。もっとも、日本人観光客が買っているだけかもしれないが。
あと、ビールも売られていたのが面白い。一番搾りと、青島。一番搾り、案外頑張っているんだな。このがらんとしたフロアで、サンドイッチつまみながら缶ビール・・・というのは、さすがに飲み助なおかでんとコダマ青年であっても想像がつかない。一体誰が買うんだ、これ。
中高年日本人団体観光客御一行、なんてのが買うのかね。ガハハハと笑いながら。
さて、そんな外来のドリンクが並ぶなか、一番左端に燦然と輝く缶が。赤地に黄色の文字で大きく「王老吉」と書かれている。怪しい、謎のドリンク。このドリンクの広告は、上海のいたるところで見かけたし、お店でも大変偉そうに売られていた。上海人のソウルドリンクらしい。成分を見ると、仙草をはじめとする薬草だらけ。漢方ドリンク、というわけだ。
仙草は癖があるからなあ・・・日本人にとっては、罰ゲームに等しい。
ビルから脱出。
「どうする?ドンファンミンジュに行く?高さはあっちの方が低いから、景色は今のとあまり変わらないけど・・・俺は行ったことはないけどね」
とコダマ青年が水を向ける。しばらく二人して悩んだ末、行ってみることにした。行かずに後悔するよりも、行って後悔した方がいいや、と。
ドンファンミンジュ、大変に目立つタワーだ。東京タワーがスタイリッシュなのに対して、こっちは重厚感を伴っている。多分、地震大国の日本だったら、地震が起きたらあの玉は下にずり落ちるからNGだ。
街中のいたるところが工事現場。
まだこれ以上ビル建てるのかよ、と呆れる。こんなにあっちこっちで工事やっていたら、人不足でしょう?と思うが、そこは偉大なる中国、人なんて掃いて捨てるほどいる。今や、大卒でも社員食堂の清掃要員の募集しかなくて、ニュースになっちゃうくらいのありさまだ。
工事現場の傍らには、作業者が寝泊まりするためのプレハブ飯場が作られていた。ここで寝泊まりしながら朝から晩まで働くのだろう。
いや、前言撤回。まだ11時くらいなんだが、弁当食ってる作業員発見。その奥では、中華鍋で何か作っている人がいた。もうお昼ご飯ですか?しかも自炊している人がいるとな?なんだこの工事現場は。
周囲には高層ビルだらけなので、感覚が狂う。
目の前にあるはずなのに、一向に到着しない・・・と首をひねってしまうのだが、何のことはない、本当にそれなりに距離があるだけだった。ビル一個がでけぇもんだから、距離感が滅茶苦茶になるのだった。
それにくわえて、あちこちで行われている工事。そのせいで進路を阻まれたりして。
ようやく到着したのだが、入場券を売っていると思しきところのあたりには黒山の人だかりができていた。何をやっているんだ、あれは。入場券売り場の手前にフェンスが作られ、その人だかりは中に入れないルールになっているらしい。
警備員がフェンスの中からけん制をかけているのだが、コカコーラの日傘を据えて日陰から暢気に警戒中。定番行事となっていて、黒山になる方もそれをガードする方も様式美の世界になっているらしい。ところで、あの人たち、何?
「ダフ屋だな。チケットを売ってるんだよ」
「中国にもダフ屋があるのか!でも、横流しする人なんているのか?興業日が決まっているコンサートならまだしも・・・」
「なんかいろいろあるみたいよ」
中国においてダフ屋行為が合法なのかどうかはしらないが、われわれはわざわざそういう方々から買う筋合いはないので、まっとうに正規チケットを購入だ。
コダマ青年にチケットを購入してもらった。毎度毎度すいません、お世話になりっぱなしで。
チケットを手にして、「ああー」と一言。コダマ青年が先ほどから口にしていた「ドンファンミンジュ」というこの塔の名前、ようやく理解したからだ。
漢字でかくと、「東方明珠」になるんだな。あ、いや、そういう漢字だからなるほどこの読み方だ、と分かるほど中国語を知っている訳ではないのだが、漢字を知ると理解の度合いが深まりますな。さすが表意文字の漢字。このタワー、だんご三兄弟になっているから、「珠」という言葉が入っているんだな。納得だ。
お値段は150元と、先ほどの上海ヒルズと同額。たけー。たけー。しかし、施設内では貨幣価値が違う外国人観光客なんて小数で、圧倒的にネイティブ中国人が多いのだった。一体これはなんなんだ。
コダマ青年に疑問をぶつけてみると、
「案外、上海周辺の農業やっている人なんかがカネ持ってるわけよ。そういうのがおのぼりさんとして、ここにやってくる」
という。食料需要が旺盛すぎる上海だ、その周辺の農家は以前と比べてはるかに収入が増えたことだろう。なるほど、中国で農業は儲からないと思っていたが、大都市近郊ではそうではないのだな。
「ほら、見てみ?上海の人と、地方の人とでは明らかに服装が違うから。地方の方がださい」
たしかに、ださいかどうかはともかくとして、ちゃきちゃきの上海人と比べて10年から20年くらい時代遅れな身なりをしている人があちこちにいる。どうやら、そういうのが「おのぼりさん」らしい。
さて、この東方明珠の入場料だが、AからFまで6区分の料金が設定されていた。二番目の珠までしかいけませんよ、とか、全部の珠に行けるのに加えてディナー食べられますよ、とか、珠には登れないけどリバークルーズ行けますよ、とか。われわれはもちろん、一番上の珠まで登るやつを。
さすがに三番目の珠までしかいけません、という禁欲的なチケットは存在していなかった。三番目の珠は高さ90m。この界隈じゃ、低すぎて何の商品価値もないのだろう。
危険物持ち込み禁止の告知。
ここでも、刃物や火薬類の持ち込みは当然NGとして、ペットボトルやハンマーといった類まで持ち込んじゃダメよとなっていた。厳しいな、ペットボトルくらいいいじゃないかと思うが、ダメというなら仕方がない。
さらに目を引いたのが、この告知の先頭の項目として、「精神病患者」は入っちゃダメ、と書かれていたことだ。すげえな。そりゃ言いたいことはわかるんだが、日本だったら「差別を助長する」とかなんとか言って、抗議される内容だ。
塔のはるか手前に入場ゲートがある。
塔の入口で検問すればいいのに、と思うが、場所に余裕があったのか、それともここからなら火炎瓶投げ込まれても塔に実害はない、という距離をあけておきたかったのか。
「貴方は精神病患者か?」と聞かれるかと思ったが、無し。チケットチェックだけで中に入ることができた。
てくてく歩いていくと、ようやくタワーに取り付くことができる。
支柱の太いこと太いこと。コンクリート剥きだしの作りなので、なんだかダム建築のような印象を受ける。
東京タワーが、鉄骨を四角錐に組み上げたものなのに対し、こちらは真ん中に高い棒があり、それを周囲から斜めの棒何本かで支えているという構造になっている。よって、ちょっと作りが特殊だ。
東京タワーによじ登る怪人が時々現れるが、この塔にもよじ登る怪人は多分いるんだろうなあ・・・。しかし、中国でそんなことをやったら、どういう処刑が待っているか非常に怖いのだが。
東方明珠の入口には、今もっとも上海でよく見かけるキャラクターである、青い変な生き物が。おいお前、顔色悪いが大丈夫か。
こいつは、2010年の上海万博マスコットキャラクターの「海宝(ハイバオ)」くん。もう、街中いたるところにこいつがいた。
そんなわけで、何度もこのキャラクターを好意的に見ようと思ったのだが、どうやっても好きになれんかった。日本人とセンスが違うな。ディズニーのアニメキャラが、良くできているとはいえ日本人好みではないのと一緒。それを考えると、愛知万博の「モリゾーとキッコロ」は素晴らしかった。さすがスタジオジブリ。というか、日本人が作ったキャラだから、日本人受けするのはある意味当然だが。
塔の中にはいると、そこには赤い服を着た牛のパネルがお出迎え。これも何かのマスコットキャラか?・・・いや、どうやら、今年が丑年だかららしい。来年になると、虎に置き換わるのかな。
牛のパネルがあるあたり、広いスペースがあるのに柵だらけ。一体何をしたいんだ、と思って目を凝らしたら・・・ああ!手荷物検査、やっている。ここでもか。
ご丁寧に、X線検査と金属探知機、両方備わっていた。上海ヒルズではなかったので、油断していたぜ。公共の施設ではやることになっているらしい。よっぽど、中国の自治体政府はテロについて身に覚えがあるらしい。まあ、そりゃそうだわな。
ここでもオイコラ的な扱いで検査を受ける。なんかイチャモンつけられて連行されたらどうしよう、と小心者のおかでんはヒヤヒヤもんだ。
この保安検査場のせいで人混みができているのかと思ったが、実際はさにあらず。上に行くエレベーター待ちのために、もの凄い行列ができているのだった。馬鹿は高いところに登る、という格言が真なら、ここには選りすぐりの馬鹿がそろっている事になる。あ、僕らもその一員か。まいったなあ。
中は東京ドームのグラウンドくらいはあろうかという広いスペースが広がっていて、その真ん中には東方明珠塔の中枢をなす3本の御柱が立っている。エレベーターはその柱に内蔵されているわけだが・・・エレベーターホールへは・・・あー、その「東京ドームくらいある」ホールの外周をほぼ一周、行列ができているんですけど。
さすが中国、人数が半端ないです。
なんだか、カーバ宮殿を参拝するイスラム教徒の心境。何だこの人の多さは。で、柱を中心にぐるぐる回る。
行列は、がっかりするくらい前に進まない。エレベーターが上から下りてきましたね、というのが遠目で見えるわけだが、さあこれで行列がある程度進むぞ、と期待してもほとんど動かないのだった。行列が長すぎて、先頭の人たちが10名20名そこらさばけても、その結果がわれわれのところに伝播してくるのは数分後なのだった。しかも、じわじわと。
とにかく、人口密度が高い。中国の人って、こういう行列では限界ギリギリまで間をつめてくる性質がある。ちょっとでも間をあけると、割り込まれるという現実があるからだが、暑苦しいので寄ってこないで欲しい。
間を詰めるだけ詰めて、その結果、体が当たったりしたら、「チッ」などと大きく舌打ちする。おい、ぶつかってきたの、そっちじゃん。舌打ちしたいのはこっちなんスけど、なんで先にそっちがやるんですかー。やめてくださいよもー。
見事1時間以上待って、ようやくエレベーターに乗ることができた。
いや参った、こりゃあ上海万博なんて行かない方がいいぞ、と心底思った。上海および中国は人口多すぎ。万博なんてやった日にゃ、一体どれだけ混むんだ?愛知万博でもげっそりしたのに、あれをはるかに上回る事になりそうだ。
おかでん人生の中で、もっともやる気のないエレベーターガールに遭遇し、感心しつつもエレベーターは90mの展望台へ。
90mの展望台は、一般開放されていないようだった。柵が設けられているし、電気がおちていた。見る限り、ベランダがあって、外に出ることができるように作られているらしい。
ここで、263m展望台行きのエレベーターに乗り換えることになる。ただ、塔の宿命として、エレベーターが小さくなるのだった。ここがボトルネックになってしまい、これまた渋滞。
263mの展望台に到着。二番目の珠の中にいることになる。先ほどの90mタマと比べると随分小さくなっている。そもそも、塔の途中にこういうタマがあること自体不自然なわけだが、よくぞこういうデザインにしたもんだ。
ぐるりと外周に沿って、観光客の皆様が鈴なり。そして、内周はぐるりとお土産物屋が軒を連ねている。扇子などの「いかにも中国」を想起させるような工芸品や、チョコレートといった食べ物など。東方明珠塔のミニチュアがいろいろ売られていたが、こんなのを買う人がいるのだろうか?特異なデザインではあるが、お部屋のインテリアとしてはイマイチすぎる。トロフィーみたいだもの。
円形の展望台なので、ぐるりとまんべんなく360度みて回ることができる。
うっかりここで満足してしまいそうだが、忘れちゃいけない、われわれは一番てっぺんの珠まで登る権利があるんだった。
「350m太空船入口」と書かれた看板から、さらに上を目指すエレベーターホールに入る。
あー。
わかっちゃいたけど、ここでさらにエレベーターは小さくなりまーす。
ロシアの民芸品、マトリョーショカみたいなもんだ。どんどん入れ子式に小さくなっていく。
エレベーターの表示は「263」。現在何階、と表現するのはナンセンスな建物なので、えいやっと「地上高」で表示しちゃったというわけだ。
より一層高度なテクニックを駆使するなら、地上高ではなく「標高(海面からの高さ)」で表示すれば、いくらかは水増しできる。ご関心がある新築ビルオーナーの方、ぜひお試しください。
350米太空船。350m、ということは東京タワーの先っちょよりも高い事になる。そんなところに展望台があって、塔のてっぺんはまだ上なんだからこの塔、高い高い。大地震が起きて倒れたら、近くにある何棟のビルが巻き添えを食らうんだろう、と心配になってしまうくらいだ。なにせ、この辺りは高いビルだらけ。さすがに慎重に工事しているとは思うが、万が一があったら世界一豪快なドミノ倒しが実現する。
さすがに最上層だけあって、土産物屋が並ぶようなスペースはなし。シンプルに展望台が広がっていて、幅があまりない。ただ、客の数も下と比べると随分減っており、ちょうど良い人数配分。
さすがにここに人が殺到したら、重さで珠が下にずり落ちてしまう。350mだったはずが、264mくらいにまでずり落ちたら、なんのための展望台だかわからない。
さすがに350mだけあって、眺めは超一等。東方明珠が黄浦江という川沿いにあるという立地も奏功している。本当は、対岸に「外灘(ワイタン、バンドと呼ぶ)」という、列強各国が上海を貿易拠点にしていた頃の洋風建築が並んでいるのだが・・・ほとんど見えない。かすみすぎ。CO2削減以前にこれ、どうにかしろ中国政府。
展望台の反対側に回ると、浦東のまさに建築中ビル群が楽しめてこれまた楽しい。大変にスケールの大きな開発をまさに行っているわけだが、この辺りは埋め立て地でもなければ以前軍事基地があったのが民間に開放されました、という事実もない。要するに、これだけの土地をドカンと確保するために、大量の民家やお店を立ち退きさせたわけで、さすが中国と感心するやら呆れるやら。日本だったら絶対に無理だ。
来場者をちょっとばかりキャーと驚かせようとした配慮からか、足元はピンク色になってはいるもののガラス張り。怖い人はこれでも十分怖いだろう。
人間、恐怖を感じた時にドキドキするが、それは恋愛をしたときの興奮と類似性があるらしい。だから、カップルで絶叫マシンやお化け屋敷に入ると、より二人の関係が親密になるんだという。二人の仲を発展させたい方、こちらへどうぞ。
なお、もっっっのすごい高倍率の双眼鏡で下からこの珠を覗着続けていれば、時々パンチラが楽しめるかもしれん。全くもって無駄な労力だが。
おや。この珠は二層構造になっているらしい。上にあがる階段があるので、上に上がってみる。
1フロア上も展望台になっている。ここが一番てっぺん。
ぐるり円周360度のガラスには、「こっちには北京」「こっちは香港」などと距離と地名が書かれている。
南東方面には「台湾省台北市 680km」などの表示が。台湾は我が領土、というアピールをここでさりげなく実施中。
展望台からさらに一回り外周に出ることができる。もちろんベランダ状ではなくガラス張りのスペースなのだが・・・ああ!床もガラスだ。足元がら空き状態。全世界の出歯亀諸君、超望遠レンズ装着のカメラを持って、東方明珠直下に集合だ!そして女性は、スカート履いてここに来たらダメだ!これだと、ミニスカか否かなんて関係ない。角度の関係上、どんなロングスカートでも中を覗かれる!
ただし地上高350mのパンチラなので、天体望遠鏡でも使わないとパンチラは見えないと思うが。
いやー、こりゃ高所恐怖症の人は絶対に無理な場所だわ。足元が、まるまるガラスだもんな。自分が高所恐怖症でなくて良かった。
・・・いや。
・・・うーむ。
ガラスをはめ込んでいるフレームから足を踏み出す事ができない。踏み出して、足元ががらんどうのところに体重を乗せるのが、怖くてたまらない。おかしい、何だ、これは。
・・・これが高所恐怖症、というものなのか?
まさか底が抜けて落ちる事はない。安心して歩ける。実際、周りの人は歩いている。大半がびびって、フレーム沿いだけど。しかし、分かっていても、足が踏み出せないのだった。
顔が、青ざめる。へっぴり腰になる。長時間の正座で痺れた足のために歩けない人のように、その場から動けない。こんな恐怖は初めてだ。
一方コダマ青年は全然平気。
これ見よがよしにずかずかとガラス床の上を歩き回っていた。
「よく歩けるなぁ。僕は動けん!落っこちない事は分かっていても、歩けない!」
というと、
「わからんぞ?中国の建築物だから、底が抜けるかもしれんぞ」
といい、コダマ青年はその場でどしーんどしーんと四股を踏みやがった。
「やめろ!やめろ!」
そんなことされたって底が抜けないことはわかっているのに、びびるおかでん。自分にこんな弱点があったことがびっくり。
悔しいので、なんとかしてこのガラス床を端から端まで歩ききろうと頑張ったが、結局ダメだった。足元を見ると、もう足がすくむ。
多分、高いところだから怖い、というよりも足の着地点がわからないことに対する恐怖だとは思うが、いずれにせよフレームの上に立っているのがやっとだった。これは罰ゲームとして使えるくらいの恐怖感だ。下手なアトラクションよりも怖い。
へっぴり腰でかろうじてデンジャーゾーンから脱出した時点では、手のひらにびっしょりと冷や汗をかいていた。相当アドレナリンが出たんだろう。
うつ病や境界性障害のような精神疾患がある人の治療法として、一日一回ここで冷や汗をかくというのは有りかもしれない。薬物療法とセットで。で、この後サウナと水風呂を5分ずつ、4セットくらいすれば随分脳内麻薬どばどばになる予感。
外灘は相変わらず霞んで見えない・・・。
どうなっているんだここの空気は。鼻毛製造工場か?
上海の主要名産品:鼻毛
なんてなるかもしれん。美女の鼻毛で作った絵筆、なんて売れる・・・か?さすがの不肖おかでん、そこまでのフェチズムは理解できん。
展望台に別れを告げ、下へと降りる。
上海に行くには、寒い時期の方がいいだろうな・・・。空気が澄んでいて、見通しが良いだろう。6月中旬で既に相当蒸し暑い上海なので、冬の方が寧ろ快適っぽい。ただ、コダマ青年曰く「冬は相当冷える」そうだ。緯度でいったら日本の南の方に該当するので、温かそうなのだがそうではない。大陸性気候、というやつだろう。
冬だったら上海蟹あるしー、紹興酒暖めて飲むと身も心もイイカンジに仕上がりそうだしー。
下りのエレベーターは、ガラス張りの展望エレベーターになっていた。素晴らし・・・いやいやいや、筒の中を通っていくので、全然展望にならないんスけど。ほとんど無駄に透明な乗り物であったよ。
一階のホールにはいろいろお店があったり、なんやかやあったようだが、ざっと素通り。
人間、情報量が豊富過ぎるといい加減観光が手抜きになってしまう。教訓だな、観光地って、サービス精神旺盛に展示物や土産物を並べちゃダメだな。逆に、山奥にあるダムの「電力資料館」なんかのしょーもない展示の方が、よっぽどじっくりと読む。「電力ができるしくみ」なんて全く興味ないのに。
でも、思わず立ち止まってしまったのが、巨大なキティちゃん。台北でキティちゃんを見かけた時は、なんてワールドワイドな猫だと思ったものだが、いつの間に中国大陸まで普及していたとは。「ネズミ=ミッキー」という世界定番がある中、「猫=キティ」という構図ができつつあるのは素直に驚く。
こうなると、「犬」キャラもメイドインジャパンで、と思うが、既にディズニーが百一匹わんちゃんとかグーフィーというのを持っているのでどうしたものか。あと、今ある日本の犬キャラで強力なものが見あたらない。頑張れサンリオ。もしくは任天堂。任天堂は既に「謎のいきもの」代表として「ピカチュウ」がいるし、「ヒゲ親父」代表としてマリオがいるので、あともう一踏ん張り。
とりあえず、誰も手をつけないであろう「蛙」キャラ代表として、「ど根性ガエル」でどうだ。
さてそのキティちゃんなのだが、変幻自在な様はここでも同じ。チャイナドレスに中華帽を被った上に、ピンク色の東方明珠に抱きついているのだった。おい、「身長はりんご3個分」のはずなのに、いつのまにか300mくらいの身長になっている。ガンダムなんて、あっという間に踏みつぶされるくらいの巨大さだ。怖ぇぇ。
東方明珠から出たところで、コダマ青年が「ほら、あれ見てみ?」と街路樹あたりを指さす。見ると、人が立っているようだが、あれが何か?
「あれ、写真撮ってるだろ」
「ああ、撮ってるな」
「あの写真撮影、商売にしてるんだよ」
「ええ?あんな普通に撮ってるだけなのに?しかも、人のデジカメ借りてるだけじゃん」
端から見ると、どう見ても「すいませーん、写真一枚撮って貰えますか?」で写真を撮っているだけだ。そんな善意の行為すら、中国では商売になるというのか。
「ああいうプロの人は、どの場所からどの角度で撮影すれば、人物と東方明珠とがうまく一緒に写るか知っているわけよ。だから、ああやってローアングルから撮影する」
確かに、パンチラ写真でも狙っているかのように、カメラを低い確度に構えている。アレは、「銭になる」秘伝のアングル、というわけらしい。へえー。
多分、場所取りなんてものもあるんだろう。ここぞ、というナイスポジションを取るために朝早くから陣取ったりするんだろう。それはそれで大変な仕事だ。トイレだっておちおち行ってられないし。
良い意味でも悪い意味でもハングリーだな、中国。
「どうするかなー」
とコダマ青年が悩んでいる。この後の展開をあれこれ思案しているようだ。心強いなあ。とりあえず、黄浦江を地下トンネルでくぐっていく事にし、地下トンネル入口に向かうことにした。今度はコダマ青年、「どこだったかなー」と言う番。どうやら、この界隈はどんどん建物が生えてくるので、ややこしいらしい。半年前の知識で町を歩こうと思ってもそうはいかん。
とりあえず、目の前に立ちふさがる「正大広場」を素通りすることにする。英語にすると、「SUPER BRAND MALL」だって。漢字と英語が合致していない気がするが、まあいいや。
中に入ると、これがまた広い広い。どうなってるんだこの国は。
日本でも、イオンモールなんぞデカい商業施設はあるが、そんな物の比じゃねぇ。ただ、その広さに比例して人の数もやんややんやといるので、ちょうど釣り合いがとれているようだ。こんなに広い店だが、これ以上客がくると将棋倒しとかケンカとか起きそうだ。
広い館内を通り抜けしている最中、なにやらイベント広場みたいなところにたくさんの椅子と、それに座る大勢の人がいた。見ると、「経路按摩新体験」という看板がある。凄いなあ、マッサージを無料で受ける事ができるのか、このショッピングモールは。
上海進んでいるな、と感心していたんだが、コダマ青年が
「あれは単に家電量販店でマッサージチェアを売っているのと一緒だぞ、気に入れば椅子を買うことになるぞ」
と言われて、なんだそんなことかと納得。感心して損した。マッサージチェアの新製品だかなんだかの無料体験会だったというわけだ。
ただここのマッサージチェアが日本と違うのは、なにやらアイマスクみたいなものまでついていることだ。眼精疲労までフォローしてくれるらしい。これはうれしい。
とはいえ、言葉が通じない中国で、販売員の言葉に適当に頷いていたら椅子買っちゃったー、となるのはたまらん。何がかなしゅうて上海でマッサージチェアをみやげに買わないといかんのよ。だいたい関税がどれだけかかるのかさえ、わからん。見とれてないで、次行くぞ、次。
巨大ショッピングモールを出たところで、コダマ青年道迷い。どこに地下トンネルがあるかわからない。でも、そうやっていろいろウロチョロした方がいろいろ見ることができて楽しい。むしろありがたいぐらいだ。
ちょうどわれわれが出たところは、バスのたまり場になっていた。・・・いや、これ、バスターミナルだ。こんな高層ビルや巨大施設がある場所なのに、何で平屋建て平地のバスターミナルなんかが・・・。もの凄いギャップを感じる。
ただ、大都市・東京にバスターミナルと称するものがあちこちにあるように、上海にだって当然たくさんあるのだろう。そのうちの一つに過ぎず、これくらいで上海の全力を見たと思うなよ、ってなところだろう。実際は相当凶悪にデカいターミナルがどこかでとぐろを巻いていそうな予感が。
とはいえ、中国における長距離バス事情ってどんなもんなんだろうな。日本だったら、夜行バスやらなんやら、日本列島を網の目のようにバスが走るが、中国大陸ともなりゃちょと隣の地方都市に行くだけで大変だ。夜行で到着するくらいの距離ならまだしも、うっかりすりゃ24時間かかりますが何か、みたいに平然と言われそうだ。
上海を真っ二つに割っている川、黄浦江(Huángpŭ Jiāng=フアンプージアン)のほとりに到着。
世界地図で上海の位置を確認すると、海沿いの都市というイメージを受ける。実際、上海市は海沿いまで広がっているのだが、ここいらの上海中心地は随分と内陸地だ。でも、アヘン戦争に負けて列強各国に開港させられたのは、この川があったためだ。見た目、大したことない川だが上海にとって歴史的に重要な川となる。
この川の東側、すなわち今いる側が「浦東」で、昨日見た人民広場や上海博物館、空港が「浦西」。浦東空港というのが上海の空の玄関口になっているが、「黄浦川の東側」だから「浦東空港」なのだった。
さて、この川を挟んだ対岸が外灘。上海租界があった頃の石造り欧風建造物が並び、オサレな高級ブランドショップやレストランが入居している。あと、銀行も。古い建物に銀行が入っているというのはどの国も定番だな。
南側から1号、2号と順番に建物に名前がついているようで、最後は北朝鮮まで伸びていてその名前が「よど号」・・・ゲフンゲフンいやなんでもない。
夜はライトアップされているそうなので、デート旅行の時なんでもどぞー。
川沿いの気持ちよい歩道を歩いてみると、毎度おなじみマクドナルドの「M」のマーク発見。お店なのだが、やたらと小さい。暴動が起きたら、車をひっくり返すように転がされてしまいそうな店だ。上海で反米デモなんて起きたら、真っ先に襲撃されそうなので要注意。
こんな小さな屋台マックは初めてみた。何を売っているのだろう。以前、日本で「クオーターパウンダーだけしか売らないマック店舗」ってのがあったが、それでももっとデカいぞ?
覗いてみると、ソフトクリームとジュース限定のお店だった。ソフトクリームは、バニラの上にフルーツソースをかけるタイプで、数種類から選べるっぽい。でもこれ、マックである必然性がないと思うんだが・・・何で?
それなりに繁盛しているようなので大変結構なことだが、こういう場所に外資の店の出店を許した上海市もすごい。
案内看板に誘導されながら進んでいくと、おお、あったあった。
ぽっかりと開いた入口と、「外灘観光隧道」の文字。英語名は「Bund Sightseeing Tunnel」なんだな。トンネルなのにSightseeing、というのがミスマッチで面白い。どこぞの鉱山跡みたいに、トンネルを掘っている電動マネキンなんかがいるとでもいうのか?
よくわからんが、「国内唯一」ということだ。はあ、そうスか。そら楽しみだ。
エスカレーターで地下に潜ってみたら、何だか「ハコモノは新しいんだけど、中身は古びた地下商店街」的な雰囲気も若干ある。ゲームコーナーがあってセガラリーとか古いゲームが置いてあるし。
チケット売り場はおしゃれなブース。チケット価格は・・・あれ、40元もするのか。たけぇー。でも、「単程:40元/人 双程:50元/人」と書かれているので、往復だと50元。往復チケット、ディスカウントし過ぎだろ。これだったら、ダフ屋が横行しそうな気がするのだが、そういう人は見あたらなかった。
なお、チケットのお買い上げはJCBでもできますー。他のカードの表記はなかったのだが、クレジットカードはJCBだけしか使えないのだろうか。凄いなJCB。
チケット。
自動改札を通すにしては、やたらと幅が広い。
なんだか、近未来の宇宙コロニーみたいな絵が描かれている。なんだ?これ。
うお。
事前知識無しでそのままトンネルを進んでみると、何だか目の前にすごいのが出てきたぞ。
スキー場のゴンドラだろ、これ。・・・あ、いや、違う。ちゃんとレールがある。鉄道?地下鉄?ええと、これは何と定義すればよい乗り物なんだ。囚人護送車?
まあ、しょせんは地下トンネル版ゴンドラなんだが、地下をするするとこいつが動いていると、何だか近未来感がある。日本では見たことがない乗り物だからだろう。
乗車ホームまでゴンドラがやってくると、扉が自動的に開き、そしてそのままホームから旅立っていく際には扉が閉まる。
「おお、すげえ」
いや、スキーゴンドラでは当たり前の技術なんですけど、ついつい。
面白いもんで、車の通行と同じで右側通行(半時計回り)。日本とは逆に動いているので、結構違和感を覚える。
とはいえ、しょせんは地下トンネルだ。ゴンドラだろうがカボチャの馬車だろうが何だろうが、真っ暗の中を進んでいる限りはなんも面白くない。川を観光渡し船で渡った方がナンボかマシだわ。
・・・と、思ったら。ありゃりゃ、するすると進んでいくと、次から次へと繰り広げられるイルミネーション。黄色くなったり、赤くなったり、下から風が吹き上がって吹き流しが宙を舞ったり。1分おきくらいに、どんどん次の「出し物」が出てくるのだった。
ご丁寧に、次の出し物が見えないように、漆黒のカーテンで前方がふさがれているのが面白い。ゴンドラが近づいたら、ばっとカーテンが開き、ゴンドラが通過したら、すぐにまた閉まる仕組みになっていた。
でもなあ・・・これ、アイディアは無いけどカネだけはあります、というしょうもない演目だ。紅白歌合戦の小林幸子の衣装は、アイディアもカネもあります、と一応なっているが、このトンネルは学芸会レベル。
おかでんはこの光景に、正直恐怖を覚えた。何なんだ、この無邪気さは。子供が宝くじ当たっちゃって、そのお金を何に使おうかナーって言っているような印象を受ける。
このようなトンネルは、日本の経済力ではお金がかかりすぎてもう作る事はできないだろう。成長著しい中国だからこそ、できることだ。しかし、それにしてももう少し中身を考えようや。繰り返しになるが、こういう国が世界一の大国に登りつめようとしていることが怖い。無邪気すぎる。
カネがあるんだったら、このトンネルの周囲を透明にして水族館にするとか、ラスベガスの商店街のようにアーケード全てをスクリーンにしての映像ショーを見せるとか、やりようがあるだろうに・・・。
驚きと呆れがこんがらがりながら、それでもB級ウォッチャー的な視点で十分に楽しめるひとときだった。正直、一度行けば十分、二度目は無いなというトンネルではある。しかし、40元(580円)だし、それほど日本人からすれば高くはないので観光がてら訪れてみてもいいかもしれない。馬鹿馬鹿しいと笑うか、末恐ろしいと身震いするか、アナタはどっちだ。
ちなみに、今書いていて気がついたのだが、40元って現地じゃすげえ高額だぞ。それでこの内容で、本当に中国の人って納得してるのか?観光地物価だからって済まされる金額と内容のバランスではないと思うのだが。
地上に出る。
外灘側の入口はこんな感じ。
うわあ・・・なんだか、高校の文化祭で、教室を徹夜で飾り付けました!みたいな感じだ。中国人が好む赤と黄色を多用しているのはともかく、何だか「うれしくて仕方がない」感がひしひしと伝わってくる。
提灯がぶら下がっているのが、いかにも中国的。日本の蕎麦屋が民芸調な店構えを好むように、「伝統を強調した、わざとらしい演出」として中国では提灯が使われているのかと思った。しかし、本当に好きだったとは。いや、提灯好きですよ僕。だから、ぶら下がってるとうれしくなるけど。
道路の向こう側に行きたいのだが、行けない。フェンスが邪魔をしている。
信号は・・・どこにも、ない。なんじゃこりゃ。美観のため信号機を設置しなかったのか、そもそも川岸にこんな地下トンネルができることを想定していなかったのかは知らないが、ずさんだなあ・・・。
で、どうすんのよ。
「ダッシュで渡るしか」
えー、信号がない分、結構な勢いで車が突っ走っているんですけど。これ、ゲームウォッチとかのゲームだと、結構長生きして敵の動きが速くなった状態だわ。
「上海の人、信号があっても守らないから。だから、無くてもいいの」
とコダマ青年は平然としているが、いやー、見る物全てが新鮮だわ。
うわっち、なんだこの足元は。工事中か。それとも遺跡発掘中か。土が剥きだしで、デコボコになっている。
何をやってるんだー、ちゃんと人が通るところはボードを敷くなどして、歩道を確保しておいてくれよ。雨の日だったら、ぬかるんで大変な事になるではないか。
「何を。ここは中国だから」
「でも、怪我するかもしれんぞ」
「怪我した奴が悪い」
そうかー。そりゃそうだよなあ。日本では、工事中は周囲への配慮の徹底が必須だが、別の国にいけばそれが「過保護」になるんだな。
ちょっと歩いて、外灘の古いビルのたもとにあるバス停にたどり着いた。
ここから、上海で観光地といえばここ!という「豫園」という場所に移動し、そこで小籠包食おうぜ、という段取りだ。
バス停といっても、日本的なものではなく、番号がずらりと書かれているボードがあるだけだ。上海ではバス路線が全部ナンバリングされているからだが、ユニバーサルデザインで外国人でも安心で、日本でもぜひ見習うべきだ。
この先停留していくバス停の名前が全部書かれているのも、ありがたい。慣れない土地でバスに乗った場合、「あれ・・・目的地の一つ前の交差点で曲がっちゃった。やべえ、違う方向に向かってる」なんてことが多々あるが、これだったら事前に目的地にバスが行くかどうか、チェックができる。
ただし、日本と違って時刻表はない。来たときが乗り時。大人しく待ってろ、ということだ。でも、交通事情によって誤差が大きいバスなんだし、これで妥当だと思う。各バス停に時刻表がある日本って、ちょっと神経質だ。
目的のバスが来たらしいので、乗り込む。921号線。すげえな、まさか900路線以上あるとは思えないが、これだけの人の数を見たらあながちうそでもなさそうな気がする。
バスはこれも韓国の大宇製。「タクシーはフォルクスワーゲン、バスは大宇」と公共交通はしっかりと定番がある。ただこのバス、やたらとドアミラーの支柱が太い。他のバスも、大抵ぶっといミラーになっていて、不格好だ。
「バンバン人や車にぶつかるからだろ、きっと」
とコダマ青年は言うが、なるほど納得だ。細い支柱だったら、ぶつかった際にへし折られる。そして、これだけ人が道路を平然と歩き、車がぶつかりそうになりながら走っていたら、ミラーのフレンチキスくらいは日常茶飯事だろう。
乗り込んだ際、ここでも地下鉄で使ったICカードをタッチ。おかでんは現金で支払うが、確か2元だったはず。お釣りはでないので注意。
バス停を2つだか3つ程度移動したところで下車。
「安いから、楽しちゃうんだよなあ」
などとコダマ青年は言いながら、町歩き開始。街並みを見られるので、散歩は歓迎だ。
正面に見えるのは、外灘にあるような古いビル。立派で見とれる。銀行でも入っているのかと思ったら、玄関には「中医問診部」と書いてあった。ありゃ、ここって中医(=漢方)を扱っているお医者さんだったのか。こういうビルで古いイメージの漢方、というギャップが面白い。
コダマ青年が、言う。
「いや、俺も先日漢方の医者んところに行ってさあ」
「え?すげえな。保険きかないだろうし、言葉も通じないだろうに」
「中国語ができる会社の同僚に付いてきて貰って」
「何で漢方なんか行ったんだよ」
「肝臓の調子が悪くって」
「ありゃ。肝臓か」
コダマ青年は、酒の飲み過ぎが祟って肝臓の塩梅がよろしくない。入院するほど悪化させているわけではないのだが、数年前には医者から「超音波エコー撮ったら、肝臓の形がよくわからんほど崩れている」と言われたくらいのレベルらしい。さすがにその診断を受けたああとは何カ月か断酒をしたとのこと。
それで、もう完治したかと思ったのだが、中国駐在、しかも営業職ということで接待なんぞが多いものだからまたやってしまったらしい。
今回、おかでんが上海にやってくるぞ、ということもあって、コダマ青年は数週間前から体調管理はしてくれた。「悪いね、俺肝臓が気になるからお酒は控えるわ」とおかでんの前では口が裂けても言えぬ、お前が飲むなら俺も心おきなく飲む、という配慮だ。かたじけない。
その体調管理の一環でか、漢方医のお世話になったんだとか。
「医者に連れて行ってもらったんだけど、診察室が開きっぱなしなんだよ。中の会話が外で待っている人に丸聞こえで」
「イヤだなそれ、全部体の悩みが他人に筒抜けじゃないか」
「で、俺んときも全部客に聞かれているの。そんな中、医者に肝臓が悪いので肝臓に効く漢方を出してください、って」
「うわ」
「そうしたら、医者が何で肝臓が悪いんだ、と聞くので、酒を飲み過ぎたので、と答えたら、ギャラリー達が『アイヤー』とか言ってるわけよ」
なんという恥辱プレイ。で、結局薬を処方してもらったそうだ。多分、漢方の事だから体質だとか生活習慣まであれこれ聞かれたんだと思うが、さすがにこれは通常の駐在員レベルでは語学力的に無理。現地語ぺらぺらの人が同行しないと無理だろう。
「その薬は効いたのか?コダマ青年、昨日は酒飲んでたけど」
「よくわからんが、飲まないよりマシって感じか。何となく効いているような気はするのだが」
そういえば、コダマ青年、夜家に帰って、ビニールパックされた青汁のようなものを冷蔵庫から取り出してまずそうに飲んでいたが、あれが肝臓の薬だったのか。日本人における漢方のイメージって、「大正漢方胃腸薬」なので、粉薬を想像してしまうのだが、最近は飲み物形式のものもあるのだな。
ちなみに、おかでんが上海に運び込んだコダマ青年向けサプリは、NアセチルLシステイン、タウリン、ミルクシスルなど肝臓がらみの物だらけ。コダマ青年、必死です。でも、「酒を今後も飲み続けるために」必死。そんなコダマ青年のガッツがたまらなく愛おしいぜ。さあ、今晩も飲むぞぉ。
上海のど真ん中にもかかわらず、結構人が住んでいるようだ。
数十年は軽く歴史があるだろう低層建築物も、二階以上は住居になっている。
そういった建物からは、必ずといっていいほどにょきにょきと棒が突き出ていた。まるで防波堤に並ぶ釣り竿だ。しかし、そこにぶら下がっているのは洗濯物。なんと、洗濯物を空高く、鯉のぼりのように掲げているのだった。
ベランダが無いし、物干し台もないことから、窓からさおだけを突き出し、そこに洗濯物を吊している。生活の知恵、なんだろうが、日本人からするととても奇異な光景だ。うっかり竿が落下して、通行人に怪我させそうな気がする。大変に危なっかしい。
よっぽど洗濯物を干す場所に飢えているのか、こんなところにも洗濯物が。
電信柱の脇にあるトランスに、洗濯物がつり下げられていた。
そもそもトランスがなぜ下に、しかも中途半端に宙に浮いた状態で設置されているのか不明なのだが、そこにわざわざ洗濯物を干しにやってくる人というのも不思議だ。
しかも、干してあるのはパンツやブラジャーなどの肌着。おいおい・・・。
でも、多分これを干しているのは激しくおばさんであり、即ち激しくガッカリさせられるわけであり、こんな洗濯物を見て興奮したり、ましてや盗もうなんて思ってはいかん。
ここで下着を晒している人だって、「盗れるもんなら盗ってみなさいよ、アタシのでよければ、の話だけどねアハハハ」って開き直っていると思われる。
それともアレか、「アタシの下着に気安く触るとシビレるわよ」という事か?
道路脇が駐輪場になっているのだが、きっちり「収費」と書かれている。多分、この辺りを料金回収の人が巡回していて、駐輪代金を徴収されるのだろう。
駐輪場の上に花壇が設けてあるというのが面白い。面白い・・・が、これ、お手入れや水やりがとても面倒くさいレイアウトだと思うんスが、運用は支障ないんでしょうか?
相変わらずあちこちで道路工事をやっているのだが、100%どこに行っても歩行者用の配慮はされていないのだった。この写真の通り、歩道にタイル張りを施している最中なのだが、歩行者道路がない。しゃーないので、みんなずかずかと未舗装のタイルやら砂地の上を歩くことになる。
これ、作業をする側からしても、通行人が無秩序に歩くので邪魔だと思うんだが・・・どうなっているんだ。この街でハイヒールを履くのは危ないのでやめておけ。
なんか賑やかなところにやってきた。観光バスやタクシーがひっきりなしに行き来している。どうやら豫園に近づいてきたらしい。
建物の造りも、なにやら独特のものになってきた。屋根の先端がせいやっ!と反り返って上を向いているのが特徴的だ。どうやったらこういう曲線の屋根が作れるんだろう。見ていて不思議だ。あの反り返り方だと、銀河鉄道999がそのまま宇宙へと旅立つ事ができると思う。台湾の道教寺院でも似た屋根は見たが、ここまで反っくり返っていなかったと思う。
豫園(Yùyuán=ユーユエン。日本語読みでは「よえん」)に入ってみる。
「豫」という漢字は普通日本では使わないが、一応JISにはあるようなので、昔は使っていたものなのだろう。「愉」を意味するそうで、「楽園」って意味になる。ということは、ここが消失したら「失楽園」か。
三階建てくらいの木造建築がずらっと並ぶ。どこも避雷針のように突っ張った屋根をしていて、独特の景観で面白い。欧米人は特にこの光景は喜ぶと思う。もちろんこれらの建物は再建された物であり、歴史なんぞないし有り難みはないが、それでもこうやってイメージを統一させて作ったのは立派だ。日本の観光地も見習って欲しいものだ。「建て替えてもいいけど、古い建物風の外観になっていないとゆるさん」みたいなルールにして。
よくここまでイメージを統一させられたな、と感心していたら、ここは「豫園商城」というゾーンなのだという。ここを運営しているのが上海証券取引所に上場している企業であり、ある意味、テーマパーク風ショッピングモールとなっているのだった。なるほど、個人商店の寄り合いじゃないから、これだけイメージを統一できるのだな。
古くからの観光地だと、当然古くからのお店や住人がいるはずだが、こうやって大規模に一企業(前身は行政による管理)ができるのは、共産主義国家ならではだ。
豫園商城は、お土産店がたくさんならんでいて目移りする。あまりに多すぎて、寧ろ見る気を失うくらいだ。とりあえず個別のお店訪問は後回しにして、お昼ご飯を先に食べる事にした。小籠包の店がこの先にあるというので、先を急ぐ。
途中、生首に人だかりができていのを発見して「うわ」と思わず声を出してしまった。何だありゃあ。公開処刑か?
遠目で眺めてみると、この屋台では女性の髪の毛の結い方実演をしているところだった。どうやら、髪留めか、ヘアバンドか何かを売っているらしい。店員さんは実演しながら、ヘッドセットでしゃべっている。生声での実演が主流の日本において、拡声器を使った実演販売はちょっと興味深い。そういえば台湾の士林夜市でもヘッドセットを使っていたが、日本ではヘッドセット利用が禁止されているのだろうか?さらにこのお店の場合、薄型テレビを屋台に吊し、どこかから撮影している手元のアップ映像を見せている。薄型テレビ搭載の屋台なんて初めて見た。まだまだ屋台って日本では進化の余地、ありだな。
「南翔饅頭店」。これがお目当ての店らしい。
この辺りは路地が細く、ただでさえ観光客でごった返している場所なのだが、それに加えて激しい行列。なんですかコレは。小籠包目当てに行列ができているの、初めて見た。
小籠包の老舗として名高いお店で、世界各地にフランチャイズで支店を持つほどだという。日本にもお店があるそうだが、知らなかった。小籠包といえば台北の鼎泰豊、というイメージだったもので。
うわあ凄い行列だなあ、こりゃ何分待ちかなあ、と思っていたら、コダマ青年は何事か確認をしたあと、ずずずいと店内へと分け入って行った。あれれ、行列無視の割り込みっすか?
「行列してるのは持ち帰りの人。オレらは店内で食うから別なの」
ああ、そうなのか。道理で、そこら中の路上で小籠包食べている人がいるわけだ。
その、テイクアウトの小籠包を食べている人。
紙箱に入っているのが面白い。ちゃんと割り箸も貰えるようなので、受け取り次第食べるとよろし。
箱に蓋がついていないのが特徴。持ち帰りなんて考えずにその場で食え、せっかくのアツアツの小籠包が冷めたらゆるさん、ということなんだろう。だから、正確に言えば「テイクアウト」というよりも「立ち食い用」小籠包ということになる。
12個単位で売られているので、食事目的にするなら一人一箱、おやつ程度にするなら三人で一箱といったところか。
コダマ青年がずかずかと上がっていった二階席は、一階の喧噪がうそのようだった。あ、うそのよう、というのはうそだな。みんな談笑しながら食事をしているので、ここはここで喧噪はある。ただ、若干落ち着いた雰囲気。
ここも若干、客席の入口のところで待たされたが、5分程度で客席に案内された。コダマ青年がいなかったら、バカみたいに階下の行列に並び、しかもテイクアウトで小籠包を買うハメになり、「なんでこうなった」と頭を抱えていたところだ。ありがとうコダマ青年。
さて着席すると、店員さんが取り皿、調味料皿、お手ふきを持ってきて、さらに小皿いっぱいの針生姜を持ってきた。おおー、この針生姜の量と突っぱね方、いかにも本場って感じがする。
感心したのは、ちゃんとお手ふきが出てきたことだ。昨日の湖南料理の店もそうだったし、衛生に関する意識というのがちゃんと根付いているのだった。失礼ながら、中国ってもっとそのあたりはざっくりしている国だと思っていたので、感心させられた。
店内の様子。
一階及び屋外のとんでもない混雑とはうってかわって、やや落ち着いた雰囲気。ただ、一応混んではいるので相席くらいは当然。ここ、一人で来るのは相当ハードル高いだろうな。一人焼肉は平気でできるおかでんでもビビると思う。一人小籠包。うーん、それだったらお持ち帰りにするな。
ここにも円卓は無かった。昨晩の湖南料理の店といい、上海は円卓文化があまりないのだろうか?それとも、われわれがそういう店ばかりを選んでいるのか?客層を見ると、せいせい2名~4名のグループだらけで、一族郎党引き連れてやってきました的大人数なのは見あたらなかった。大都会になってくると、外食シーンは少人数化していくのかな?
店員がやってきて注文をとる。コダマ青年に一任して、適当に頼んでもらった。コダマ青年は中国語で料理名を読み上げているのだが、時折「コレ」などと指さし注文をしていて、不思議だった。全部中国語で読み上げられないのだろうか?日常生活にそこそこ不自由しないだけの語学力があるのに?
・・・帰国後、いざ自分で中国語を勉強してみてわかった。漢字オンリーの国なので、漢字の読み方がわからんかったら、どんなに意味を理解していても発音できないのだった。その点、朝鮮語、英語をはじめとするアルファベット言語圏って楽だなあ。意味がわからんでも、一応読める。
メニューはシンプル。チャーハンやら担々麺やら、いろいろやっているわけではない。あくまでも小籠包中心で潔し。
ええと、漢字ばっかり、しかも見たこともないし意味すら想像できない漢字が並んでいるので、紙上再録する気になれん。許せ、省略。台灣編の時は、こういうメニューは全部文章化する気構えだったんだが。
見ると、蟹ミソ入り?と思われる「特製蟹黄小籠」が6個入りで45元(約652.5円)うへえ、1個100円以上するのか。中国物価で考えたら金持ちしか食わんぞ、こんなの。さすが蟹みそ。その他、蟹肉入りが6個25元(約362.5円)、ベーッシックな小籠包も同じく25元。いやいやいや、蟹味噌様だけに限らず、値段高いぞ。これが上海の観光地物価の実力なのか!
完全に足元見られておるのうわしら、と嘆いていたが、周りは中国人だらけ。案外中国人、カネ持ってるんだな。感心した。
それにしても高い、と思っていたが、実はこのフロアで飲食すると物価がハイパーインフレするということを、つい先日webで知った。別のフロアで食べると、事前食券制となるものの16個で12元(約174円)、だって。こっちは激安。しかし16個ってやたらと数が多いな。チンタラ注文してるんじゃねえ、どばっと食えこの野郎、ということか。なんでも、16個でちょうど100グラムになるらしい。
テイクアウトにした場合も、同じお値段。道理でこのフロア、空いている訳だ。「空席とゆったりしたスペースをカネで買う」のであって、小籠包自体は安いのだった。
当然コダマ青年とおかでんの組合せだ、昼から飲むぜ。「小籠包=食事」なのではない。「小籠包=酒のつまみ」だ。そう孔子も言ってた。多分。
青島啤酒が来たのだが、296mlというなんとも中途半端な量。なぜキリの良い300mlにしなかったのか、謎。車の排気量みたいなものか?これで10元(約145円)。
青島啤酒といえば、緑の瓶に緑のラベル、というのが日本における印象だ。しかし、こちらの瓶は茶色で、ラベルは黄金色だった。昨日飲んだ「青島・純生」は白ラベルだったし、結構こいつはカメレオンらしい。
どかどかとわんこそばのようにせいろが届けられた。さあ大変だ、暢気にしゃべったり飲んだりしている暇はない。熱いうちに食え!ふーふーなんてなまっちょろい事やってたらはり倒すぞ。鳥のように、丸呑みしろ。
小籠包はつくづく「食べ時」が難しい。卓上届きたての時は熱くて火傷しそうだし、しばらくしたらあっという間に冷めてしまい、一気にまずくなる。ここまで秒刻みに味が劣化うする食べ物って、そうないと思う。
おかげで、青島啤酒をもう一本、さらに一本と行くことなく、怒濤のお昼ご飯は終わったのだった。
食後、豫園の中核部に向かう。
人が多い!何だこの人だかりは。多分、上海っ子における豫園は、「一度くればもういいや」くらいの場所だろう。ということは、ここらの人は全部お上りさん、または外国からの観光客ということになる。それにしては人の数が多すぎ。さすが人口13億人の国。
普通の週末の、普通の豫園でこのありさまだ。上海万博が開幕になったら、万博会場は一体どうなるんだ。地盤沈下して川の底に会場全体が沈むのではないか?大丈夫か?
大きな池の上に、ジグザグに走る橋がかかっている。九曲橋、というらしい。その先に池に浮かぶ建物があるのだが、これは「湖心亭」と呼ばれる茶芸館。レトロな建物の中で、眼下に池を愛でつつお茶を・・・と思っていたのだが、とんでもない。こんな人混みの中で、ゆっくりとお茶なんて飲めるかぁぁぁ。「上海では茶芸館で、お茶をまったり」というのが出国前の希望だったのだが大失敗。でもこの人だらけな状態を見たら、そんな意欲もうせる。多分、自分が飲むためのお茶っ葉の枚数よりも、この辺りの人の数の方が多い。
この建物は、外見レトロだが、一階にスターバックスが入っていた。そのギャップが面白くてついつい写真を。
九曲橋を越えたところでコダマ青年が言う。
「実は今までのは豫園ではないんだよ」
「え?」
「コレが本当の豫園」
目の前には、塀に囲まれたスペースが。この奥にあるのが「豫園」だというのだ。じゃあ、今までのは豫園ならぬ、三円か。二円か。それとも百円か。
ご丁寧に、入口近くにはチケットブースもある。カネとるんですかそうですか。
コダマ青年は
「入るの?まあ、大したことないけどねぇ・・・」
とやけに及び腰だ。
「一度見たらそれでいいかな、っていうような感じ」
などと言う。そうなのか?それが、上海を代表する観光スポットなのか。
「他に見るところがないからな、上海は」
そうかー、消去法でここが観光地になるのか。でも、ここまで来て中に入らないのはすごく損した気になる。「なんだ、やっぱり大したこと無かったねハハハ」と後で言えるようにするためにも、中には入っておきたい。
「入るかー。そうか。わかった」
コダマ青年はチケットを買いに行った。すまん、お付き合い頂いて。
チケットは40元。チケット売り場の値段表を見ていると、「現役または退役軍人は無料」なんて書いてあった。何という特権階級。
「この国、どこもそんな感じよ?地下鉄でも、譲り合いの席のところに妊娠中の女性、老人、軍人が優先って書いてあるもの」
「妊婦と健康優良な軍人が同格なのか。そりゃすげえな。そういえば、地球の歩き方を見ていたら、上海駅の構内には『軍人専用待合室』ってのがあるのに気がついた」
日本ではありえない、というか想像すらできない世界だ。日本じゃ、自衛隊が歩いているだけで「軍靴の音が聞こえる」などと市民団体の皆様が騒いだり、災害救助している自衛隊を意識的にテレビカメラに写らないように嫌がらせしたりという国なのに。
なお、この国の特権階級としては「共産党員」もある。共産党員だと就職が有利、という不公平がいまだにあるのだから、すごい。とはいえ、日本だって一時「A型の人を優先的に採用」などと、血液型で新卒採用していたとんでもない企業もあったが。
入口に入ってすぐのところに、通せんぼをするように大きな石がある。
「海上名園」だって。誰かと思ったら、「江沢民」って書いてある。またアンタか。さっき行った東方明珠でも、この人の書が偉そうにふんぞり返っていたが、ここでもそうだった。新しい建物ならともかく、古い建築物の敷地内に自分の存在感と権力を見せびらかす石を置くのはすごいガッツだ。せめて敷地の外でやれ。
豫園の細かい説明は省略。興味がありゃガイドブックでも読んでください。
古い建築スタイルの建物と、池と、各地から集められてきた奇岩とが狭い敷地内にぎゅうぎゅう詰まっている。
特に順路はないため、あっちこっち狭い廊下や橋を渡ったりして、全体をちゃんと見ることができたのか?見落としがあるのではないか?と不安になる。ただ、別に見落としてもいいやという気になる内容だが。
いや、素晴らしいモノであることに異論はないのだが、何の予備知識もなくふらーっとここに入ったら、何が何だかわからず、有り難みも理解できず、するすると歩いているうちに出口に来ちゃいました、という内容なのだった。多分、ガイドさんが同伴していると全然違った感想を持つと思う。
彼女さんなんかと一緒だと、この岩やら建物やらを利用して、ナイスなスナップショットを撮ろうとあれこれアングルを考えるだろう。その最中に新しい発見があったり、豫園の良さを知る事もあろう。ただ、今回はオッサン2名、しかも小籠包でビール飲んだばっかりの奴らなので、色気もへったくれもないのだった。
「ここの良いところはね、静かなところ」
コダマ青年の解説が入る。解説になってないけど。
確かにここは静かだ。外がとんでもない人と喧噪なのに対し、別世界。上海全体が騒々しいのだが、落ち着きを手に入れるためにここに来るというのは有りだ。ただ、敷地内にあれやこれや詰まっていて、見どころ密度が高いため、ゆっくりとできる雰囲気ではない。
静かだったが、なんだか相変わらず落ち着かないまま豫園を後にした。なお、白人さんの観光客が結構来ていた。多分、フランス人。こういうのを見るにつけ、日本ってまだまだ観光客が少ないと思う。
豫園商城で、何かお土産になりそうなものを探す。
売り物はいっぱいあるのだが、いまいちピンとこなかった。職場やお世話になっている人へのお土産は最終日にでも適当なお菓子でいいだろうし、自分への買い物を考えた場合、扇子だとか筆とかTシャツとか、要らないんだよなあ。物欲がもともとあんまりないんで。今回の上海滞在で、お茶は買って帰るつもりだが、お茶は明日、それ専用に時間を確保してくれているという話なので不要。
チャイナドレスも売っているが・・・さすがに、東急ハンズやドンキホーテじゃないから、男用のものはないよな?コスプレ向けのやつ。
豫園の南から西に向かうと、ずっと商店街が広がっている。このあたりは老街と呼ばれているらしく、いろいろな店が並んでいる。日本だとすぐに「焼きたて煎餅屋」とか「団子屋」みたいに飲食店ができそうだが、ここはそれがない(多分。見た限り)。
骨董品、民族衣装、茶器、仏具、家具、謎の石・・・いろいろ売られているが、大抵渋いものばかり。好きな人にはたまらんのだろう。
「銅器」という看板の前で、プラスチックのバケツが売られていた。
なんじゃこりゃ。
老街の端まで歩いたところで、タクシーを拾うことにした。この後、「新天地」という人気スポットに行くことにしているからだ。おかでんは歩いていく事を主張したが、現地人コダマ青年としてはあまりにかったりい提案だったので、「タクシーに乗ろうぜ」と提案。結局タクシーに乗ることにした。
さしずめ、東京に初めてやってきた友人をおかでんが案内する際、「上野から浅草まで歩いていこうぜ」と言われて「うそーん、面倒じゃん」と抵抗するのと一緒だろう。
タクシーを捕まえるのはなかなか難儀だ。車の数が多く、いずれも整然と走っちゃおらず車同士が独立した生命体としてウネウネしている。タクシーを見つけるのが少々難儀。そして、タクシーの台数は多い割に空車率が低い。結構庶民の足として使われているようだ。さらに、タクシーに気をとられて車道に身を乗り出していると、チャリンコやスクーターにぶつかりそうになる。おまけに、足場が工事中だったらつまづく恐れがある。
しばらく手間取りつつもようやくタクシーを捕まえ、新天地へと車を向かわせる。
相変わらずタクシーはフォルクスワーゲンで、アクリル板で運転席がガードされている。そのアクリル板には結構キズが入っているのだが、これは「客が凶行に及んだ」跡だろうか?・・・いや、単にぞうきんで拭いている時についたキズだと思いたいが。
タクシーに乗っている道中、車が信号でもないところで停車した。
運転手が「なんとかかんとか!」と言い残し、車から降りていく。何だ、何事だ?
コダマ青年もよく聞き取れなかったようで、お互い顔を見合わせていたら、この運転手、道ばたの店で何ごとかをやっている。車が故障でもしたのか?
いや、待て。この店を見ろ。店頭にでかいせいろが積み上げられているぞ。メニュー表らしきものを見ると
辣肉包 1.00、鮮肉包 1.00、豆沙包 1.00・・・おい、肉まんの店ではないか。肉まんの店でレスキュー依頼・・・じゃないよな、やっぱり。まさか、僕らにプレゼントするわけでもないだろうし・・・呆気にとられて見ていたら、案の定肉まんが入ったビニール袋をぶら下げて、うれしそうに戻ってきた。で、僕らにお裾分けするでもなく、助手席にビニール袋は収まり、車は何事も無かったかのように運転再開。
「お昼ご飯だったようだね」
「ひでぇな、客が乗っている最中にコレかよ」
「どうも遠回りしているなあ、と思ったんだが、肉まん買うのが目的だったのか」
さすがのコダマ青年も呆れていた。しかも、遠回りするとは太ぇ野郎だ。その分返金せよ、と言いたいところだが言葉は通じないし、せいせい1元(14.5円)程度の差だし、まあいいや。ある意味面白いものを見せて貰った。
それにしても肉まん1元って安いなあ。これが庶民価格なんだな。言葉に不自由しない日本人だったら、容易にこの国でデブりそうで危ない。
大回りされながらも新天地到着。
新天地は、中国語読みすると「xīn tiān dì=シンティエンディ」なので、よーわからんかったらタクシー運転手に「しんてんち!」と叫べば一応通じるので安心。筆談するとしても、日本語と同じ「新天地」なので楽。とはいえ、油断していると「新天地のどこら辺に車を停めればいいの?」と運転手さんに聞かれて、何を言われているのかさっぱりわからず混乱、というオチがあるが。
新天地は、1920年代のフランス租界を再現した一角。人工的に作ったものなので、建物に歴史があるわけではない。日光江戸村みたいなもの・・・という喩えはちょっと強引か。でも、復刻版でもなんでも、石畳と石組みの建物は独特の風情がある。冬だとすごく寒くなりそうな景色ではあるが、夏は涼しげだ。
何があるかというと、オサレなブティックや雑貨、飲食店など。その手のものに興味がない人(含むおかでん)にとっては、あまり面白い場所ではないが、「一応観光ガイドで紹介されたので、とりあえず」行ってみた。
台北の小籠包の名店「鼎泰豊」がここにもお店を出していたのには感心した。上海にもあるのかー、と感心していたら、コダマ青年が「夕飯、ここにするか?」と気を利かせて聞いてきた。いやいやいや、何が悲しくて台湾の店の料理(しかも日本にも支店がいくつもある)を上海で食べないといかんのよ。当初予定通り、今晩は「これぞ上海」という料理をずばり、頼みます。
新天地には、あちこち建物の前がオープンカフェ状態になっていて、ランチや昼下がりのお茶を楽しんでいる人が大勢いた。ほぼ満員御礼。おっと、ビールを飲んでいる人も多いぞ。ええのう。
見ると、西洋人が結構多い。どうやら、たまり場になっているらしい。何でだ。
「いやあ、日本でも六本木に白人が多いでしょ。あれと一緒」
とコダマ青年が解説する。
遠目からでも目立つパラソルがある。紫色だ。なんだか、晴れやかではない重い色。目立つ割には、ここの席にはまだ空席がある。
近づいて確認してみると・・・「藍鮨亭」だって。ん?スシ?日本料理の店か?
日本料理で、屋外で食べるの?
わおう。
「北海道牛奶南瓜火鍋」だって。写真を見ると、牛乳が鍋になみなみと注がれている。
えーと、豆乳鍋というのは知っているのだが、牛乳鍋というのは初めて見た。どこの国の料理ですか?え?日本料理?ああそうですか。えっと、ボクが住んで、普段食べたり空気吸ったりしている国ってどこだっけ?日本?えええええ。そうなん?これが日本料理なん?
ネーミングからして、恐らく牛乳に、ほうとうのようにカボチャを煮溶かし、そこに野菜類を入れるようだ。うーむうーむ。で、「牛乳といえば『北海道』でしょ!」と、意味もなく北海道の地名が冠についている。絶対北海道産牛乳じゃないでしょ、これ。
南国・台湾が北の大地北海道に憧れるのは理解できるのだが、なぜ上海の人まで一緒になってビバ北海道になっているのだろう?
お値段は68元(約986円)。結構なプライスだが、新天地という場所柄相場が高くなるのは仕方がないだろう。それにしても、一人鍋をテラスで食べるという光景は結構シュールだな。
新天地をざっと歩いて見たところで、コンビニのようなお店に立ち寄った。
今朝から歩きづめなので、喉が渇いた。何か飲み物が欲しい。
水を買おうと思い、ペットボトルの水を買った。600mlのペットボトルで、日本で見かけるものよりずっしりした体つきがたくましい。飲み応えがありそうだ。ゲホゲホ。
何だこれ。単なる水かと思ったら、炭酸水だぞ。しかも、ニッキのような味がする。まずい。すっげえまずい。
油断していた。「水」って書いてあるから、てっきりそうだとばかり。しかも、他のミネラルウォーターより安かったので選んでみたんだが、安いくせに一手間余計なマネをしやがっている水なのだった。
飲むと口の中がすーすーする。日本人なら大抵の人が嫌がるであろう味。こりゃダメだ、さすがのおかでんでもこればっかりは飲めなかった。とっとと捨ててしまいたかったが、道ばたのどこにもゴミ箱がない。結局、この憎たらしい水をしばらく持ち歩くという恥辱プレイの刑まで与えられてしまった。俺、なんか悪いことしたか?
地下鉄駅まで移動し、そこから南京東路に移動することにする。
南京東路は、上海租界で真っ先にできた繁華街で、今でも上海を代表するショッピング、グルメ、その他もろもろの通りとなっている。
人民広場駅で地下鉄を乗り換え、南京東路駅まで移動する。
よく見ると、地下鉄のホームには乗車位置がちゃんと記載されていて、そこには矢印と線が描かれていた。どうやら、「ここから人が降車する↓ので、お前ら乗る奴らは脇←→へ避けていろ」ということらしい。モーセが海を切り開いたみたいだ。日本だったら両側で挟み撃ちにするような待機はしない。右か左、どちらか片方に列を作って、降車が終わるまで待つのが普通だ。・・・ああそうか、こっちの人は、列を作って電車の到着を待つという概念がないので、わーっと乗降口に殺到するんだったっけ。だから、「お前ら、この黄色い線から中に入るなよ。降りる奴がいるからな。いいか、入るなよ。絶対はいるなよ」とやっているわけだ。で、ダチョウ倶楽部のギャグと同じで、案の定黄色い線を越えて入ってこられちゃう。
南京東路(nán jīng dōng lù=ナンジンドンルー)。
この通り、歩行者天国になっているんだな。東は外灘の川沿いまで、そして西は人民広場まで。数キロくらいはこの広い道路が常時歩行者天国になっている。これだけ広い歩行者天国、初めて見た。よくぞやったり、だな。ここに出店している業者さんは、資材搬入とかゴミ処理とか大変に面倒だとは思うが。
近代的な建物と古そうな建物が混在した通り。また、ゴチャゴチャしているような、整然としているような、曖昧さもあり、なんとなくとらえどころがない。異国だねえ。
うわっと、後ろから何かやってきたぞ。
この通り、歩行者天国ではあるが、機関車天国でもあるのだった。機関車(型をしたモーター自動車)が客車を引っ張っており、お客さんがうれしそうに南京東路の光景を楽しんでいた。
人通りが多い歩行者天国で、この遊覧車はちと危ない。誰か轢いてしまいそうだ。多分日本だったら、警察署から「お前ちょっとこっちに来い」と呼ばれるであろうサービスだ。この辺りは、多分中国だと「車はゆっくり走っているんだし、ぶつかる奴が間抜けだ」という事になるんだろう。逆に日本だと、「人にぶつかるかもしれない危険性を予見していないサービス提供者は問題」と180度逆の判断になる。
もういいや、面倒だから上海、いっそのこと「空中を透明なチューブで結び、その中を新しい乗り物が飛び交う」近未来なやつをやってくれ。経済成長著しいこの国ならできないことはあるまい。
古い繁華街だとはいえ、古そうに見える建物のうちどこまでが本当に古くて、どこまでが復刻版なのかはわからない。
例えばこのビル。ナイキが入居していて古い建物っぽいが、一部が大胆なガラス張りになっている。
道路の途中に、緑色の巨大な缶があった。
何だろう、と近づいてみると、リサイクルマーク(日本のものとはちょっと違うっぽい)と、「飲料容器回収机」という字が。あ、ちなみに中国語(簡体字)で「机」というのは、日本語の「機」に該当する。
ほー、エコロジーですなあ、と感心したのだが、よく考えてみたら何を今更感のあるゴミ箱であった。日本では当然すぎる。ただ、中国ではようやく分別回収や資源ゴミのリサイクルといったことに関心が集まってきているのだろう。
どうやら、この缶型ゴミ箱にペットボトルなどを入れたら、小銭が貰えるらしい。ただ、缶も瓶もペットボトルも同じ穴にシュートするので、まだまだ「分別回収」が徹底されているというわけではない。これから変わっていくのだろう、中国は。
南京東路の通りに面したビルで、来年に控えた上海万博のオリジナルグッズ専門店があった。オフィシャルショップらしい。
「まあ一応、上海万博は話題だからお土産にはいいかもしれんよ」
とコダマ青年は言う。先ほど、豫園商城のお店でこれといったお土産物に出会えなかったので、ここでリカバリーしてはどうか、というわけだ。
以前、コダマ青年に「上海の定番土産とは?」と聞いた事があるのだが、彼は「日本メーカーが中国限定で作っているお菓子とか食べ物」と答えていた。
「中国の食品って日本じゃあまり信用されていないので、お土産としてあげても喜ばれない可能性があるんだわ。だから、日本メーカーが中国の工場で作っている、中国向けの中国オリジナル食品にしてる。安心だし、珍しがられるから」
そういって彼はおかでんに、グリコのコロン「ブルーベリー味」をくれた。なるほどこれは面白い。
それはそれで明日にでもスーパーに行って物色するとして、とりあえず上海万博グッズだ。いろいろな品物があるので、何か「これはイカす」というモノがあるのではないか。執拗に物色してみる。コダマ青年も、自らが帰国する際の土産物になりそうなものを調査。
・・・しかし、しかし、だ。どう甘めに見たって、マスコットキャラクターである「海宝(ハイバオ)」くんがどんくさい。キャラデザが悪すぎるので、人形になろうが、ボールペンになろうが、手帳になろうが、何やっても冴えないのだった。あと、品そろえが定番すぎて、東京ディズニーランドの土産物店に入った時のような「おお、そう来たか!これは物欲をそそられるぜ」という変化球がない。中国、まだキャラクタービジネスが苦手らしい。
よっぽど海宝くんが胸に描かれたTシャツを買おうかと思ったが、サイズがないと言われてあえなく却下。結局、二人とも手ぶらでこのお店を後にした。
南京東路にはいろいろな店やビルが並び、情報過多。うっかりするとぼんやりしたまま通りの端まで行って、はいお終い、になってしまいそうだ。適当なビルに突撃してみることにする。
上海第一医局。中国といえば、ワトソンズというドラッグストアが成長著しいが、ここはなにやら漢方なども扱っている昔ながらの薬局の風情。中にはいると、おお、タツノオトシゴとか冬虫夏草とかがたくさん売られているぞ。
上海も大都市、デスクワークで健康や体重が気になる人が多いらしい。日本同様、健康増進系のサプリメントがたくさん置いてあった。こういうのをうかつに買って帰国すると、薬事法違反とか大麻取締法違反で捕まる恐れがある。興味はあるがやめておこう。成分表みても、何がなんだかさっぱりなものばかりだし。
ところで、冬虫夏草なんて高級中華料理で食べる以外、何に使うんだ?煎じて飲むのか?こういう薬局で大量にグロテスクな姿をさらしているのを見ると、不思議だ。
この南京東路に限らず、上海の中心街には本当によく昔の西洋建築が残されている。もちろん、中にはイミテーションも混じっているんだろうが、上海という町を特徴付ける点でとても良いと思う。日本って、よっぽど古い建物以外は平気で壊しちゃうからな。これら上海の建物ができた1800年代後半の頃の建物なんて、日本じゃあっけなくマンションに化けそうだ。
逆に言えば、この西洋風建築が無くなっていたら、上海って「単に人が多いだけのメガロポリス」であり、ショッピングくらいしか魅力がなかったと思う。いや、まあ実際のところ、この建物があっても大差はないんだけど。
写真のお店は、「上海ファッションストア」だって。中で何が売られているんだろう。メイド服とか、執事服とか売られていそうな。「本日の特価品:お抱え運転手用白手袋と、車を手入れするためのモフモフモップのセット」とか。
「あれっ」
思わず声をあげてしまった光景。それは、人民広場の一角に自動販売機があったことだ。
何で驚いたかというと、自動販売機が道ばたにひょこんと置いてあるというのは、相当治安が良いぜ、という宣言に他ならないからだ。そんな芸当ができるのは日本くらいだと思っていたが、上海でも自販機があるんだな。
「ああ、一応あるよ。上海って、そんなに治安は悪くないからな」
コダマ青年は言う。でもアンタ、最初僕がバスに乗るって言った時は「スリに気をつけろ」とかいろいろ言ってたやんけ。
街中には警察が溢れているし、100元紙幣を出したら相当胡散臭がられるし、こりゃ相当疑心暗鬼な国だぜ、と思ったが、意外意外。見直しました。
ありがたい、ちょうど水が飲みたかったところだったんだ。
さっき、新天地でへんな水を手にしてしまいほとんど飲めなかったので、これは助かった。上海のオアシスと呼ぼう。
見ると、何だかペットボトルが不そろいだぞ。デコボコしまくっている。この自販機の中、一体どういう仕組みになっているんだ?と人ごとながら心配してしまう。製造工場だってそうだ、せっかくだから高さくらいはそろえた方が良いと思う。
水は2元(約29円)。お茶が3元(約43.5円)と続き、ジュース類は3.5元(約50.75円)という価格レンジ。
大変に警戒しながら水を飲んでみたが、れっきとした水だった。水飲むのに緊張しなくちゃいかんとは、恐るべし上海。なおこの水だが、「ミネラルウォーター」ではなさそうだ。ラベルには「飲用純浄水」と書いてあったので、浄水器を通した水ですよ、ということらしい。金払ってまで飲みたいモンじゃあないが、仕方がない。ちなみに、なぜか中途半端な550ml。
コダマ青年があれこれ考えながら、「静安寺の近くにあるマッサージ店に行こう。その後、南京西路にある上海料理店で夕食。静安寺まではバスで言ってみるか」と言った。
人民広場から静安寺までは地下鉄があるし、タクシーに乗りゃ一発だが、敢えておかでんのためにバスを選択してくれたようだ。ありがたくバスに乗ってごとごと静安寺まで移動することにする。
人民広場のバス停には、「上海市民たるものこれくらいは守ろうぜ」という趣旨の事があれこれ書かれていた。また、それだけじゃ一方的だと思ったのか、「俺たちもこういう事を努力するよ」という事も書いてある。内容は・・・んーと、漢字難しいデスネ。私良く読めマセン。
どうやら、「降りる人が先で乗る人後」とか、「年寄りと子供優先」とか、「衣服はちゃんとしよう」なんてのが書いてあるようだ。「衣服ちゃんとしろ」ってのは冗談のようだが、実際中国では「だらしない格好はいい加減やめなくちゃいかん」キャンペーンがあるらしい。先進国になろうとしているのに、上半身裸で道路をうろついている太鼓腹のオッチャンとかそういうのはどうよ、というわけだ。
バスで南京東路を進む。
おしゃれなブティックや小物店が並び、時折巨大なデパートが姿を表す。そんなのが、ずっと続く。銀座と表参道を足して二で割ったような感じ、か。
社内には薄型テレビが装備されていて、ニュースが流れていたのは感心。日本よりもこの点進んでいる。もう、日本が「世界いちィィィ」と喜んでいられる時代は終わったのかもしれない。
静安寺でバスを降り、そこからてくてくと歩いていく。
目指す店までの間、いたるところが掘り返され、なにやら空高く積み上げられ、街中が建築現場で騒々しい。一体この都市はどこへ向かっていくというのか。
多分、5年後にあらためてこの地に訪れたら、全く違った印象を受けるだろう。それだけ、スピードが早い。現に、ほぼ1年遅れの情報が載っている「地球の歩き方」を手にしていたのだが、既に地図が違っている。
しばらく上海の街並み(というか、工事風景)を楽しみつつ、たどり着いたのは「Massage マシサージ」とだけ書かれている建物。ここがお目当てのお店らしい。
マシサージ、ですか。日本人が英語の「R」と「L」の発音に難儀するのと一緒で、外国の人は日本語の「シ」と「ツ」の違いがあまりわからないようだ。これ、どこ行っても一緒だ。
マッサージ屋というのは日本でも中国でもどこでも、当たり外れがある。怪しいところに入ったら、最悪財布盗まれたとか、ろくでもない施術だったとか、ほうほうの体で逃げ出す事になる。おかでんをアテンドするコダマ青年としてはそういうのは避けたいだろうから、手堅い店を選んでいる様子。その証拠に、日本語表記がある。日本人駐在員もターゲットにしている(=値段はそれなりにするが、品質がよろしい)お店、ということだ。ただ、表記が「マシサージ」だけど。
店の外部には「マシサージ」と日本語表記があるものの、メニューは全部中国語。これがまた何のことだかさっぱりわからん。英語で併記されているので、むしろそっちの方が理解しやすい。漢字よりもアルファベットの方が良くわかるって、なんとも不思議なシチュエーションだ。
店名は「橙橙養生館」というらしい。日本名だと「だいだいマッサージ」。帰国後調べてみたら、日本の旅行サイトなどにも紹介記事が載っている。ただ、日本語はほとんど通じないので注意。
えーと、9つのコースがあるんですが、ここに書き記す事がでけん。漢字がわけわからん。足つぼ、全身、タイ式、中国伝統などがあるのだが、中には「太極追風」とか「腎部保養」など何じゃそりゃ、気になるやんけというメニューもある。何をするのだろう?腎臓を背中側からモミモミするのだろうが、それって気持ち良いんだろうか。気になる。一週間くらい上海に滞在するなら、毎日通いたいくらいだ。
われわれは最初からやるメニューが決まっていた。コダマ青年が「オイルマッサージはいいぞ」と教えてくれていたので、2日目の本日はオイルマッサージという段取りだったからだ。
オイルマッサージ、という言葉を聞いておかでんが連想するのは、「南国リゾートで、パツキンの白人がうっとりした目で、ビキニの後ろをはだけて、受けるもの」という構図。おっさんが、しかも二人並んで受けるなんて想像すらしたことがない。大丈夫か?これでますます日本人は変態だと思われるんじゃないだろうな?
そんなわけで、おかでんはオイルマッサージ初体験。胸鎖乳突筋まわりの部分的なオイルマッサージは受けた事があるが、全身は初めてだ。既に俺の体はオイル(脂)だらけだぜ、と思いつつもコダマ青年と店員さんとのやりとりを見守る。
ちなみに中国語名は「経路排毒」で、英語だと「Aroma Oil Massage Draining channel’s Massage」になるそうだ。後で知ったのだが、このお店の経路排毒は看板メニューなんだそうだ。90分と120分のコースがあったが、夕食までまだ時間があるし、えーい120分お願いしちゃえ。生まれて初めてですぜ、マッサージ120分だなんて。ぜいたくすぎる。ドキドキ。
【後注】あとで考えたら、タイに行ったときも120分でマッサージを頼んでいた。
お値段は120分で236元(約3,422円)。日本物価と比べりゃ相当安いが、さすがに2時間やってもらうと値段が張ってくるな。何せ、あの「店員さんが胡散臭い目でさんざんチェックする」100元札が2枚あっても足りない値段だもの。
ただ、一番安い足つぼマッサージだと1時間で60元(870円)なので、相当お安いのは事実だ。経路排毒がめっぽう高いってこった。
2名が同時に経路排毒を受けるということで、施術師が足りず、しばし待つことになった。
待合いベンチの脇には、小冊子が置いてある。コダマ青年が
「おお、あった。これ持って帰らないと」
と言ってそれを手にしたのだが・・・あれれ?これ、日本語が書いてあるぞ。
「メタボなんて怖くない ナビで始める健康生活」
そして、表紙にはデカデカとサントリーの黒烏龍茶。なんだこれ?
「日本人向けのフリーペーパーだ」
「えー。・・・なるほど、そりゃそういうビジネスは当然成り立つだろうけど・・・でも、えええ?」
「上海には1万人以上の駐在員やその家族がいるから、案外商売として成立すると思うよ。実際、こういうの読んでオレらも参考にしてるし」
そうなのかー。現地駐在員向けのビジネスかー。確かに、「どっか美味い店ない?」となったとき、いくら言語が達者であっても現地のグルメガイドを読んだりするのは面倒。日本語のお店紹介雑誌があったら、当然そっちが優先されるってのが心情だ。で、日本人はこの手のフリーペーパーを貴重な情報源として利用してくれるので、広告宣伝効果が高い。お金を払ってでも出稿したいお店はたくさんあるだろう。
言われてみれば、案外こういうフリーペーパーでも商売になることに気がついた。なるほどー。
多分、われわれが住む日本においても、中国人向け、とかブラジル人向け、といったいろいろなフリーペーパーが流通しているのだろう。知らなかった。
それにしても、まさか黒烏龍茶のお姿を上海の雑誌、しかも表紙でお見かけするとは思わなかった。日本じゃ、「高カロリーなラーメン食べても、黒烏龍茶飲んだらプラマイゼロでグー」などという迷信が冗談として語られている(特にドリンクの店舗内持ち込みが可能である「ラーメン二郎」好きの人の間で)、そんな飲み物。
中国ではなにげにサントリーは外資系の成功企業の好例として取り上げられる事が多い。他の外資が中国市場に参入する前から中国に進出していたという事もあるが、サントリーの中国語名「三得利」が非常に縁起が宜しい、と好印象をもって受け入れられているからだ。
「三つがそれぞれ利益を得る」という意味になるのだが、ここでいう「三」は、「人民・国家・地方」を連想させる。中国政府及び国民に受け入れやすいネーミングセンスだったというわけだ。
中は単なるお店情報の広告オンパレード、と思っていたのだが、いやいやどうして、これは奥が深い。同じ日本人同朋相手とはいえ、上海には上海のニーズがある。掲載されている内容が微妙に日本本土のセンスとズレているのでびっくりしてしまった。
たとえばこれ。
「こんな夜食があったっていいじゃないか。」
というキャッチコピー。渋い。渋すぎます。そして、料理の写真にはサンマの塩焼き、納豆、生玉子、ご飯とお味噌汁。
結構斬新な構図とキャッチコピーで、広告代理店上手くやったな、と感心する。ただ、この写真を見ると「夜食」というよりどう見ても「朝食」だが。
まあ、「あったっていいじゃないか。」と問題提起というか、開き直りをしているのだから「そりゃご自由にどうぞ」としか言いようがないのだが、だとしても夜食でこれはボリューム多すぎないか?カロリー大丈夫か?
そして、その営業時間を見てますますびっくり。「24:00~明け方」だって。おい、本当に夜食店だよ。一体これ、どういう人が利用するんだ?「明け方」という曖昧な営業終了時間も怪しいし、営業開始時間も大変に怪しい。
恐らく、徹夜寸前の残業をしているビジネス戦士向けなんだろうが・・・。いやはや、全く驚かされる。
驚かされるといえば、納豆を多分日本から空輸しているんだろうということと、生玉子って中国でも食べられるんかいな、ということ。ひょっとしたら、玉子も日本から持ち込んでいるかもしれない。
日本でもおなじみの居酒屋チェーン、「白木屋」と「笑笑」が連名で広告を出していた。
「厳選食べ飲み放題178元」
と言う文字が躍る。飲み放題は居酒屋の宴会メニューの定番だが、食べ放題なんてのがあるのか。
「月、火、水、木、日曜日ご利用で 食べのみ放題138元」
要するに金曜日と土曜日は除くって事よね。何で回りくどいんだ。でもここでも食べ飲み放題か。約2,000円。上海物価を考えればいくら食べ飲み放題といえ高いが、和食類を安心して食べられる事を考えればこれくらい駐在員にすれば大した事はない。日本物価から考えたら、アホみたいに安いわけだし。
ちなみに「昼割」というのもあり、こちらは食べ放題98元(+ソフトドリンク飲み放題118元)だって。
やたらと食べ飲み放題だ。なんじゃこりゃ、と思ったら、別のページの他の店でも、至る所に「食べ飲み放題」の文字が躍る。何だぁ?上海の日本人は、食べ放題を好むのか?
コダマ青年に聞いてみた。
「オレらもよく使うよ、食べ飲み放題は。値段が最初から決まってるから楽じゃん」
いやそりゃそうですけどね、でも日本列島ではあまりそういう居酒屋って無い訳で、上海が特殊なんじゃないかと思うんですが。
そのあと色々コダマ青年に事情聴取をしてみたら、同じ職場の現地スタッフ(=中国人)と一緒に飲みに行った時なんぞに重宝するそうだ。現地スタッフは日本人と給与体系が当然違うので、職場のみんなで飯いこう!となったら日本人が奢る事が多いそうだ。その際、さあ遠慮無く現地スタッフのみなさん飲み食いしてください、とするためにも食べ飲み放題というシステムは良いんだそうだ。なるほど。
ちなみに、そういう宴会があるときは、ここぞとばかりに現地スタッフは酒瓶を持って日本人駐在員のところにお酌をしにくるそうだ。日頃の恨みをここで晴らすぜ、という半ば冗談半ばマジなノリで、現地スタッフがスクラムを組んで入れ替わり立ち替わり、狙った日本人に集中砲火。で、潰される日本人駐在員が後を絶たないとかなんとか。あっちの飲み会文化じゃ、乾杯したら飲み干さないと無礼なので、どうしても飲んでしまい、彼岸の彼方まで行ってしまうことになる。そりゃコダマ青年の肝臓がやばいことになるわけだ。
イタリア料理店の紹介も載っていたのだが、なんだかややこしいぞ。最初、意味がわからんかった。
「イタリア人が造るイタリアンを・・・」という売り文句。これはいい。そりゃ本場の味、っていう方がうれしいもんな。でもその次が何だか怪しい。
「恵比寿、広尾の老舗の味をそのままに持ってきました」
何がなんだか。えーと、シェフはイタリア人で、味は恵比寿なのね。つまり、
「イタリア発、恵比寿・広尾経由、上海行き」
というわけだ。ややこしいのぅ。
きっと、ド真面目にイタリアンを作るよりも、ジャパナイズされたイタリアンの方が駐在員受けが良いのだろう。だったらイタリア人シェフのサルバトーレ氏の立場は一体どうなってるんだ。わからん。日本人シェフでもええやん。
こういう、多分現地人ならよくわかるのであろう「広告のツボ」がこのフリーペーパーには凝縮されているから面白い。
なお、このイタリア料理店だが、「日本人奥さまに大人気のランチメニュー」ってのがあるそうだ。なんじゃそりゃ。ランチ時にハウスワイン1杯サービス、だって。昼から日本人奥様、飲んじゃいますか。ええですなあ。どんな奥様だよ。こんな奥様向けサービスやっとるレストランって日本じゃ存在しないと思う。
多分、言語の壁やビザの関係があって、駐在員と同伴で上海にやってきた奥様ってのはパート仕事ができないのだろう。そもそも、パートなんかしなくても給料はダンナの会社からがっつり出ているはずだし。で、必然的に専業主婦となるわけだが、そんなわけで昼から飲んじゃおうかなー、っていうのもこれまた人間の摂理なり。何しろ、その気になればお手伝いさんを雇うことだってできるくらいの収入と、物価の安さだ。昼からお酒飲んだからといって、家事がおろそかになるということはあるまい。ううむ、駐在員世界は奥が深い。
しばらくして準備ができたとのことで、部屋に通される。
なんだこりゃー。こんな高級そうな部屋で施術されるの、初めてだ。
南国リゾートホテル併設のマッサージルーム、といった風情。ブラウン管の中でしか見たことがない(←死語)景色が目の前にある。さすが、やたら値段が高いだけある。
しばらくして施術が始まったのだが、奮発して2時間コースにしたこともあり、ゆるりふわりと長期戦でまったりと。
以前、赤坂の台湾式マッサージの店で部分的なオイルマッサージを受けた際は、
「オイルを肌に塗ると指の滑りが良いぞ。よし、ならばいつもに増して強くぐりぐり指圧してやる」
という思考回路でオバチャンに攻め込まれたもんだ。その強引さがたまらんかったのだが、こちらのオイルマッサージはあくまでもゆるゆると。多分、前者の台湾式の店は「凝りをほぐす」目的で、後者のこのお店は「リンパの流れを良くする」目的なので、やり方が違うのだろう。
中国でマッサージ、といえば店の壁には全裸の人の絵があり、体中にびっしりと経路とツボが描かれている・・・という印象がある。また、肩胛骨まわりのように、特に凝りやすいところなんぞは肘を使ってでもぐりぐりとやるやや荒っぽい印象。しかし、ここではあくまでもふんわり。ちょっと意外だった。
日本でも「指圧」とか「柔道整復」とかいろいろあるようなもんで、中国にもいろいろなやり方があるのだろう。しかしなぜか、日本にある中国式のマッサージ店は「中国気功整体」などと名乗るところが多い。どこがどう「気功」なのか、さっぱりわからないのだが。
マッサージの後、食事に繰り出す。
今晩は「せっかく上海に来たんだから」と上海料理だ。「小南国」という店に行く、というのだが、いくつか支店があってさあどうしようか、なんてコダマ青年は悩んでいた。店によっては混んで待つ場合もあるそうだ。
結局、「だったら一番大きい店にしよう」という結論になり、先ほどのマッサージ店もそこから逆算して選定されていたのだった。もちろん、その前にバスで移動したのも、夕食を食べる時間を踏まえての時間調整的側面がある。
こういう細かい差配につくづく感心させられる。なんて頼もしいんだ、アンタ。俺が女だったら確実に惚れていたとおもう。ただし、前提条件として「俺は女」じゃないので、その推測は全くの無意味だが。
数カ月前、台湾滞在時にFishのお世話になったわけだが、その時の「その場の気分や思いつきで行動する」という台湾人気質(?)に相当振り回されたもんだ。それを知っているので、この差には愕然とするしかない。異国上海の地でまざまざと知る、日本人と台湾人の気質差。
補足しておくが、台湾人気質がイカンというわけではない。ああいうおおらかさは非常に良いことだと思うし、むしろうらやましい。ただ、神経質な日本人が彼らの中に混ざると、あまりのおおらかさに戸惑ってしまう。どっちの国の人の性格が上とか下とか、そういう事ではない。
さて、その「席数が多い上海料理店」は南京西路の近くにある。地下鉄で1駅しか離れておらず、歩いていくのも余裕な場所だがタクシーを使っちゃうあたりが上海流。
コダマ青年が運転手に行き先を告げる際は特徴がある。もちろん何を言っているか聞き取れないのだが、どうやら「○○、▲▲」と二つの道路名を並べて言っているらしい。「路(=ルー)」と言っているので、なんとなくわかる。
コダマ青年に聞いてみたら、
「二つの道路が交わっている地点に行け、という意味になる」
んだそうだ。日本のような番地制度ではないので、行き先を告げる際は縦軸と横軸を指定するんだって。なるほどー。
さて、降りたところは「呉江路」というところ。
何でも、小吃の店が軒を連ねているらしい。それは楽しみだ。なんなら、そういうところで飯食ってもいいくらいだ。
上海はどこも人が多いので、今更なんだが、ここも特に賑わいを見せていた。若い人が多い。しかし、台湾のような屋台街を想像していたので、やや肩すかしをくらった。てっきり、士林夜市に代表される台湾的屋台街が中国全土至る所にあるもんだと勝手に思いこんでいたが、そういうわけではないようだ。
いや、ひょっとしたらそういう場所もあるのかもしれないが、コダマ青年が「屋台は危ない」と主張しているので、そっち方面には足を運んでいないだけかもしれない。
少なくとも、ここにあるのは「屋台」ではなく「実店舗」。ただし、お持ち帰りできるようになっている店が多く、店頭で実演販売がされていた。
店の多くが赤と黄色の看板なので、なんだかどれも同じに見えてくる。しかも、メニューがわけのわからん漢字でびっしりだし。
赤、黄が珍重されるのは中国では縁起がよい色とされるから。また、風水的にも、温かい色は良しとされる。
逆に、寒色は縁起が悪い。だから、中国では会社のロゴに青色を使っているところは少ないはずだ。
以前、大田区大鳥居にあるセガの本社を見た風水の大御所さんがびっくりしたらしい。青いロゴであるだけじゃなく、ガラス張りの本社ビル。ガラス張りは、建物内の気を逃がすためダメらしい。
何が売られているのか、漢字メニューから読み解こうとする。しかし、一品目が判読できてラッキー、と思ったらもう二品目で意味不明の漢字登場だ。こりゃあ、「漢字」といっても似て非なるもんだぞ。
やたらとどの店も「烤」という看板を掲げている。「焼烤」とか「烤魚」とか。どうやら「焼烤」で「BBQ」という意味になるらしいということがわかったので、炙る、または炒めるに近い意味らしい。
つまり、思いっきり要約すりゃ、日本の焼鳥屋みたいなのが軒を連ねているぜ、ということだな。
ちなみに羊串が10元(約145円)で6串くらいの物価相場。安いなあ。ただ、一度に6串渡されても困るんですが。
メニューを見ていると、「秋刀魚」なんてのもあって感心してしまった。上海人、サンマ食べるのか!しかも、串焼きで食べるとは。意外と好かれているんだな、サンマ。でもさすがに苦いワタは食べないだろー。あれが美味いんだぞー。清酒に良くあうんだぞー。
「焼烤王」という、なんとも豪快な名前の店では、タコがねじりはちまきをしてニコヤカにお出迎えしとる。案外中国でもタコはポピュラーなんだなあ、と思ったら、「章魚小丸子(=たこ焼き)」だって。たこ焼き強し。しかし、たこ焼きの横で臭豆腐も売っているというこのミスマッチ感がたまらん。ちなみにたこ焼き、4元で6個。
あと、「日本流行小吃」として、「烤八爪魚」と書かれていた。知らん知らん、そんなものは日本では流行っておらんぞ。10元1串。で、実物を見ると、あれっ、小さなタコだ。それを丸ごと一匹、鉄板焼にしていたのだった。なるほど、「八爪」って、タコには足が八本あるからなんだな。でも、繰り返すが、これは別に日本では流行っていない。どうやら、「タコ=日本」という構図ができているらしい。
特に行列が長かったのが、この黄色い看板の店。
「小楊生煎館」(xiǎo yáng shēng jiān guǎn=シャオヤンションジェングアン)と書かれている。
生の煎?濡れ煎餅みたいなものか?
気になりながらも、店の前を素通り。なにせ、人が多くて何を売っているのかさえわからん。それくらいの大人気。ドラクエの発売日か?
この後、コダマ青年の家に戻ってから「地球の歩き方」を読んでみると、焼き小籠包の超有名店だったことが判明。うわ、そうだったのか。それは惜しいことをした。惜しいことをした、といってもその時点では既に満腹で、胃袋に入る余地なんてどこにもなかったんだけど。朝6時半からやっているので、朝食にするもよろし。
呉江路の端に、目立つネオンが輝く「上海小南国酒家」。まるで高速道路のインターチェンジ脇のホテルみたいなネオンだが、まあいいや。
聞くところによると相当有名なお店のようで、銀座にも支店を出しているらしい。
建物の中にはいると、一階はがらんとしたエントランスだけ。
で、そこに5名もの男性スタッフと1名の女性スタッフ、計6名が突っ立ってお出迎え。何をしてくれるんかと思ったら、人数を確認したのち、「エレベーターで上の階へどうぞ」と案内しておしまい。
おい待て、それは計6名でやる必要がある仕事か?人件費が無駄だろうに・・・。いくら人件費が安い国とはいえ、これはあんまりにも豪勢すぎる。経営者だって馬鹿じゃない、いくら安い人件費とはいえ、不必要な人をカットすればそれだけ利益は出るはずだ。なぜそうしないのだろう?
・・・いや、「なぜ人件費カットしないのか?」という発想は日本的であり、中国的ではないのだろう。あまり深く考えても意味がないと思われる。
おとなしく、専用エレベーターで上のフロアに行く。それにしてもぜいたくだよな、一階のエントランスだけでも十分お店が経営できる広さなのに。せめてお土産物屋でもやればいいのに、なぜしない?中国の人って、もっとお金に細かいのかと思ったが、意外だった。
上のフロアに上がり、2名である旨を告げると、出迎えた従業員さん、ちょっとだけ思案。円卓で、大人数による食事が多いからか、「2名席」のような都合の良い席がないのだった。結局、円卓一つをわれわれが占領し、余った椅子は撤去となった。ぜいたくだ。ただ、円卓はちゃぶ台とは違う。相手との距離が遠く、ひそひそ話はできない。中国の人が大声なのは、食卓の関係があるのかもしれない。
「従業員を見てろよ、縦割りでしか仕事しないから」
とコダマ青年が言うので、気をつけて様子を見る。
確かに、席まで案内する人、余った椅子を片付ける人、お皿を持ってくる人・・・。入れ替わり立ち替わり、人がやってくる。モデルショーですかここは。ここで、間違ってもお皿を持ってきた人に「とりあえずビール。」なんて頼んではイカンのだな。郷に入っては郷に従え。注文伝票を手にした人が現れるまで、待て。
ここでも青島啤酒「純生」を頼む。ビールを飲むグラスがワイングラスというのが風変わりだが、とりあえず乾杯。
さて何を頼むか、というところだが、いかんせん「上海料理って何?」というのがよくわからん。上海蟹くらいは当然知っているが、あとは田うなぎなんぞを醤油で甘辛く煮込んで食べているイメージしかない。ああ、そういえば小籠包は上海料理だったっけ。
この小南国、やっぱりメニューが分厚くて重い。年寄りには持てない重さだ。日本語も併記してくれているのはうれしいのだが、あまりにメニュー数が多すぎて一つ一つ吟味していられない。で、頭が混乱してしまい「もうどうでもいいや」になってしまうのだった。
「油麺が美味いぞ、ここは」というコダマ青年に完全に注文を任せ、こちらは青島啤酒を飲むのに専念した。
コダマ青年が洗面所に行っている間、メニューの写真を撮影していたら従業員がすっとんで来て何か言ってきた。どうやら、メニュー撮影はやめろ、という事らしい。うーん、まあ、料理の写真なら兎も角、メニューの写真というのは「競合他店のスパイ」と思われても仕方がないか?でも、旅行者としては、何を食べたか確認したいのでメニューの情報は欲しいんだけどなあ。観光客もたくさん来るだろう店だけど、厳しいな。仕方がない。
その話を、お手洗いから戻ってきたコダマ青年にしたら「ええ?そうなの?明日会う予定の人が今ここにいたら、きっとビシバシ文句言うと思う」とのこと。この国では、疑問や不満があったらその場ではっきりと言わないといかんらしい。とはいえ、おかでんは語学力が無いし文化の理解もないので従業員とバトルのしようがないのだが。
しばらくして料理が到着。「おー、来ましたよ来ましたよ」とカメラを取り出し、料理の写真を撮ろうとしたら・・・ここでも全力疾走の従業員さんにファインセーブ。「なんてことをしてくれるんだ」という困惑の表情すら浮かべている。あれっ、料理の写真もダメかー。謝って、カメラを仕舞った。
※よって、実際は一部メニューや料理少々の写真が存在するのだが、店側の意向を踏まえて掲載は差し控えます。
「それにしてもよく気がついたな、写真撮っているの。あの人、どこにいたんだ?」
とコダマ青年が不思議がる。監視カメラでもついているのではないか、と二人してきょろきょろしてしまったくらいだ。確かに、店内で料理を運んだり注文を受けている従業員ではない服装だ。マネージャークラスと思われる。
しばらくしたら、われわれ横のレジカウンターでなにやら女性客と店でバトル勃発。お会計の件で揉めているらしい。そうしたらまたもや先ほどのスーパー従業員さん登場で、延々20分くらい論戦を繰り広げていた。
「どうやらクレーム係らしいな」
「そうらしいな。僕が写真撮っていたのを見た別の従業員が、通報したんだろう」
それにしても、延々20分もわれわれのそばで口論するのは止めて欲しいんスけど。別室にお引き取り願ってくれんものか。
えーとですね、そんなわけで料理写真無し。そのせいで、何を食べたかすら記憶から消えてしまった。もったいない・・・。
冷菜で、香草と羊肉と唐辛子を和えたものは食べた。あと冷菜をもう一品。
それから小籠包、焼き小籠包。
焼き小籠包は面白い食べ物だ。餃子のぱりっと感と、小籠包の汁気のいいとこどり。絶妙のタイミングでお皿に盛らないと、単なる餃子になってしまいそうで難易度高い料理だと思う。これはおいしい。ただ、これをメインでがっつりご飯食うぜ、という気にはならない。
あと1品か2品、何か頼んだ気がするが覚えていない。で、最後はコダマ青年推奨の「油麺」。正式名称は知らない。見た目、ソース焼きそばのような茶色い麺だったのだが、確かにこれは美味かった。あっさりしているような、そうでないような、その絶妙加減がとても気に入った。ただ、美味いんだが量が多すぎる。途中でその単調な味にうんざり。日本だったらいろいろ具をトッピングして味のアクセントをつけるものだが、こっちの国じゃ「どうせ大人数で少量ずつとりわけるんでしょ?」と単調な味をどしんと持って来ちゃう。
結局、「打包!」とお願いして持ち帰りにした。
【後注】 調べてみたら、この「油麺」なるものの正体は「葱油拌面」という麺だった。油そば、というと日本では通りが良いようだ。そうそう、思い出した。最初はあまりぱっとしない色なんだけど、かき混ぜると底からどす黒い醤油みたいな油がでてきて、麺が真っ黒に染まるんだった!
夕食後、寄り道しないでコダマ青年の家に戻る。
エレベーターのボタンを見て気がついたのだが、ちょっと風変わりだ。
一階に相当するのが「G」で、そのあと「2」。ここまではいい。そのあと、「P1」「P2」「P3」と続いて、「7」「8」「9」・・・となっていくのだった。何だ、これ?
聞くと、駐車場がここにはあるのだという。ああ、それで「P」なのか。マンションの中に駐車場が仕込まれているって面白いな。
ちなみに、縁起が悪いということだろうか、「13階」は存在しなかった。
コダマ青年宅の窓から外を見る。
うわ、プールがライトアップされている・・・。
夜は安全確保の観点から泳ぐことはできないのだが、こうやって煌々と輝いているのを見ると、まさにリゾートではないか。
おいコダマ青年、君は僕と同期入社だよな?机を並べていたよな?なんですかこのギャップは。
「せっかくだからどっかもう一軒飲みにいこうぜ」
肝臓の調子が悪いので漢方薬を飲んでいる男の発言とは思えない提案。確かに、「小南国」では食べるのが精いっぱいで、大して飲んでいない。こっちに来て思ったのだが、料理の量がとにかく多い(少なくとも2名来店では)ので、飲んでいるどころじゃないのだった。
コダマ青年は先ほどからしきりに電話をかけている。職場の後輩と連絡をつけようとしているようだ。え、でも今日は土曜日だぜ。会社休みの日に、「おいなんか店知ってたら教えろ」ってのは強引じゃあございませんか。
そういえば、明日は「上海で飯食うには二人じゃ足りないから」と、1名援軍が参戦することになっている。本当は、都合さえつけばさらにもう1名くる予定だった事くらいで、こっちは恐縮しまくりだ。というか、なんか怪しいマルチ商法の勧誘でもされるんじゃないか、くらいの恐怖を覚えた。
しかし実際のところは、彼ら上海駐在員って交友範囲が非常に狭いため、親密な関係になるというのが実情らしい。異国なので、学生時代の先輩後輩とか、バイト仲間、とか家族、なんてのが一切いない世界。しかも、現地の人とは言葉の壁がある。そうなりゃ、駐在員同士公私隔てなく仲良くなるのは必然、っちゅーわけか。生きていく上で、日本人同士の連携が必須というわけだ。
結局その後輩殿とは連絡がつき、中山公園近くのお店がよろしかろう、という情報を得た。
早速中山公園に繰り出してみたら、おや、お目当ての店はバーなんだな。「Jet Lag」というらしい(正確に言うと、昼間営業が「Jet Lag」で、夜になると別のややこしい名前になるようだ)。バー上等、早速入ってみる。
「いらっしゃいませ」
えっ。
今、バーテンダーさん、日本語しゃべったよな。何だ?何事だ?われわれの立ち居振る舞いで、即座に日本人とわかったのか?コダマ青年の方を見ると、彼も状況がわかっていないようでちょっと驚いている。
そんな二人に追い打ちをかけるように、
「どうぞこちらへおかけください」
とカウンター席を勧められる。しかも流暢な日本語だ。えーと、心の準備が。ゲフンゲフン。
「日本の方ですか?」
と念のため聞いてみたら、上海の人だという。名刺を頂戴したら、確かに中国名だ。おや、店名の脇に「日式Bar」と書いてあるぞ。日式Barとはなんぞや、というと、どうやら日本語が通じるバーの事らしい。すげえな日本人駐在員。そんな店が、さりげなく地下鉄駅の近く、ちょっと小じゃれたところにあるなんて。
店内をぐるりと見渡すと、そこにいるお客さん全員が日本語をしゃべっていた。日本人のアジトになっとる。へえええ。信じられん。
何を飲むか、と聞かれたので、せっかくなのでオリジナルのカクテルを、とお願いして作って貰った。上海の女性をイメージしたカクテルだかなんだかを作って貰い(記憶が曖昧)、その後、そのバーテンダーさんも交えて「上海の女性は性格がキツい」なんて話題で盛り上がった。日本人の視点で、上海女性がキツいのかと思ったが、上海人男性からしても女性はキツいらしい。
ソレは兎も角、和やかに場を過ごせて大変に良かった。日本人相手のビジネスだから、当然接客態度は日本流で、とても快適。非常にくつろげた。こりゃ駐在員のたまり場になってそうだ。今日は週末だからお客の数は少なかったが。
「また機会があったら来ます」とか無責任な事を言い残してお店を後にする。コダマ青年は再訪があり得ても、おかでんは相当難易度高いぞ、それ。
帰り、酔い覚ましも兼ねて近場をお散歩。
それにしても・・・夜でも煙っているなあ。これはどう考えても光化学スモッグです、ありがとうございました。昼間だけもやがかかっているなら、水蒸気という可能性もあるのだが、深夜0時近くなってもこれじゃあその可能性は無かろう。本格的に環境対策しないと、四日市ぜんそくみたいな公害問題が大規模に発生するぞ。
車道では、放水車がゆっくりと路面に水を撒きながら移動していた。町全体が工事中で埃っぽいので、夜の内に散水しておくのだろう。ただ、水を撒いても埃が落ち着くだけで、翌朝水が乾燥するとまた空中飛散するわけだが。
なにやら前方に人だかりができていると思ったら、ゲリラ屋台だった。
行ってみると、歩道いっぱいに小物や衣類、かばんといった類を並べて売っている。よしお前ら、ちょっとそこに並べ。
(1)人が少なくとも3名くらいは通過できるだけの幅を歩道に残しておいてくれ。商品が邪魔だ。
(2)商品を地べたに並べるのはよせ。汚い。
信じられんのが、ただいま深夜0時ということだ。こんな時間に屋台、しかもフリーマーケットみたいなのを開いて誰が買うんだ。・・・いや、買う人がいるから、店が開いているんだろうが、不思議だ。
どうやら、昼間開いていると警察に追いかけられるので、警察の目が届かない夜にこっそりやっているらしい。
2009年06月14日(日) 3日目
翌朝、身支度をして朝食を食べに出かける。
おかでんの意向は「粥とかなんとか、そういういかにも中国っぽい朝食を食べさせてくれる屋台なんぞに行きたい」だった。しかし、コダマ青年が昨晩、飲み屋情報を各方面に収拾する際に「朝でもやってる屋台」情報を併せて確認したところ、皆一様に「やめとけ」という反応だったらしい。現地の人はともかく、日本人の味覚と内臓の強さにおいては、とてもじゃないがお奨めできないそうだ。さすがに反対を押し切ってまで屋台飯を食うほど馬鹿じゃないので、この件は却下。
その代わり、「地球の歩き方」に書いてあった「蘇州麺」の店、「滄浪亭」に連れていってもらうことにした。
蘇州麺というのが全くわからん。上海の近くに「蘇州」という地名があるのは知っている。水の都として観光名所だ。そこの麺だろうというのは名前から一目瞭然なのだが、で、その蘇州麺とはどういった特徴が?とネットで調べてもどうもよくわからないのだった。もちろん、「地球の歩き方」にも書かれていない。「熊本ラーメン」のようにスープに特徴があるのか、それとも麺なのか、具なのか、気合いなのか、何なのか。気になるので、ならば行こうじゃないか、と。
幸い、朝6時半から営業しているというのがうれしい。上海の飲食店は結構変な営業時間で、ランチ営業から始業の店でも「朝10時開店」などという店がざらにある。日本人と24時間の流れが違うらしい。
いざ出発、ということでサービスアパートメントを出るところで、コダマ青年はエントランスのドア脇に控えていた従業員に軽く会釈。すると、その従業員は大通りを走っているタクシーを呼びとめ、車寄せまで誘導してきたのだった。うへー、高級ホテルのベルボーイじゃないか、これだと。細かいところまで日本との違いを見せつけてくれる。
お店は准海中路という場所にあり、この辺りはデカい建物とデパート、ブランドショップなどが建ち並ぶ。南京西路の南側に並行して走る道路でもある。こうもあちこちにデパートや大型商業施設がひしめいていると、もうこの街、何がなんだかさっぱりわからなくなってくる。東京だって、渋谷-新宿-池袋-銀座・・・と、商業施設はコロニーを作り、「その他いまいち盛り上がっていない場所」と「大盛り上がりの場所」の差がはっきりしている。しかしこの町、どこもかしこもがっつんがっつん盛り上がっている印象を受ける。よく息切れしないものだ。旺盛な消費意欲がビジネスを下支えしているのだろう。
そんな中、ひっそり、といっていい雰囲気でお店を出していたのが「滄浪亭」。うっかり見落としてしまいそうな店構えだ。特に派手な看板は出していない。
後で知ったのだが、「滄浪亭」って蘇州にある世界遺産登録されている庭園の名前なんだな。そんな庭園の名前を冠したこのお店、蘇州麺の元祖と言われているお店なんだとか。
でも、別に「元祖」が一番美味いってわけじゃないし、そもそも蘇州麺なんて知らんし、とりあえずなんか美味いの、くれ。
店内に入ると、ずらっとネームプレートが並ぶ盾があった。
「このお店で30分以内に10人前食べた人を賞してここに記す」という意味・・・じゃないか。えーと、これ、料理名と値段ですな。こんなプレートにがっつり書いちゃうと、簡単に値上げができないじゃないかと思うが、どうするんだろう。
どうやら、これを見て食券を買ってくれ、という事らしい。ええと、1階席は食券を買ってください、2階席だと席までオーダー取りに行きますよといった事が書いてある(写真を後で見直して気がついた。当時はそんなところまで見る余裕なんてない)。昨日の小籠包の店同様、ここも階が上がればサービスも上がるし値段も上がるシステムか!こういう「金持ってる人にはより上級のサービスを」というのはある意味格好いいが、まさかラーメン屋でもこういうのがあるとは。
ええと、それはともかく、早いところ注文を決めないと。とはいってもなあ、この漢字だらけのメニューを見て、どうやって注文を決めろというのか。まだおかでんは日本人だから良いけど、アルファベットな国の人だとここで大きく躓くことになる。
ただ、幸いなことに、というか失礼なことに、というか、目の前のレジカウンターにいる女性店員さんたち、われわれの存在など空気のごとく、仲間同士で大声で談笑をしているのだった。「早く注文しなさいよ、のろまッ!」といった雰囲気はない。10分、このメニューボードの前で悩んでいても全く相手にされないかもしれない勢いだ。すげえ。中国すげえ。そもそも、狭いレジに店員さんが2名、すし詰めになっている意味が全くわからねえ。ここでも人件費は派手に使われているのだった。
注文に窮したので、メニューの中で一番先頭にあったモノを選んでみた。値段順に並んでいるわけでもないし、多分「このお店の代表メニュー」なんだろうと勝手に推測する。「雪菜虾仁面 24元」だって。なんだろう、それは。
でも、メニューの先頭からしばらくは「雪菜ナントカ麺」というメニューが続くので、多分蘇州麺では有名な食材なんだろう。野沢菜みたいなモノか?「虾仁」に至ってはなんのことやら。「虫の下」って何だよ。ゴキブリとか出てきたらびっくりだが、さすがにそれはあるまい。
【後注】「雪菜」は中国特産の野菜。高菜に近いものらしい。日本にも米沢あたりで同名のものが特産のようだが、それとは別。「虾仁」は、「えびのむき身」という意味。そういえば、味の素CookDoで、「干焼蝦仁(エビのチリソース炒め)」というのがあったな。あの「蝦仁」の事だった。簡体字、難しい・・・。頼む中国、もう一度繁体字に戻ってくれんかのう?
一階の店内の様子。
時刻は9時を回っているので、朝食のラッシュ時は終わったのだろう。のんびりとした空気が流れている。
その「空気」を醸し出しているのが、レジでだべる店員2名と、客席担当の2名。「雑談するならせめて客がいないところでしなさい」と指導しても、多分彼女たちは「何で?人前でしゃべって何が悪いの?」と意に介さないだろう。「だって、お客が不愉快じゃないか」「その程度の事で不愉快になる客の心が狭いのが悪い」・・・このまま話は並行線、いや、それどころかこっちが悪人にされそうだ。
サービスのあり方というのはその国の文化によって当然違うものだが、この「やる気なさそうな態度と、言動」は相当シビレる。逆に旅行客であるおかでんはこういうのを見ると萌える。ド変態だからな。
コダマ青年が注文していた品が先に届いた。
黒椒牛肉面、20元。
なるほど、麺と具が分離型なんだな。丼には麺とスープ(と薬味少々)だけ。そして、細切り牛肉の黒胡椒炒めが別皿でついてきている。
20元といえば約290円だ。中国物価を考えると相当高い食事だ。高級食ではないか。朝から食べるにゃ、かなりのぜいたく品。
「これ、別皿で具が用意されている意味って、あるのか?」
「さあ?」
といいながら、コダマ青年が食べる。結構ボリュームがある。というより、ひたすら単調なのだった。スープは甘い醤油味で、ここに甘辛い牛肉が載るわけだが、ご飯でも横に添えないと味のメリハリがない。でも、中国人で「ラーメンライス」なんて食べる人は皆無だろうから、そんな注文をしたら「お前アホだろ」と言われるに決まってる。
コダマ青年は傍らに持参した水のペットボトルを置いている。なるほど、こっちの飲食店じゃ「お冷や」という概念はないのだな。飲み物は、買って持ち込むか、注文するしかない。
コダマ青年がしばらく食べ進んでいるにもかかわらず、おかでんのところには、注文した料理・・・えっと、何だっけ。忘れた・・・が来ない。コダマ青年が心配して、
「忘れられてるんじゃないか?店員呼んで確認したほうが・・・」
と言ってくれるが、先ほどから一連の店員の態度が妙に面白くて、
「いやここはもうしばらく様子を」
なんていって様子を見てみることにした。
5分経過。
もし麺をゆでていたんだとしたら、どう考えても伸びきってます。
さすがに後からやってきた客に丼が運ばれる光景を目の当たりにして、「やっぱり忘れられていたーッ」という事を確信した。
どうすりゃ忘れられるんだか、さっぱりわからん。居酒屋メニューのようにあれこれ頼んだ中で一品抜けた、というならまだわかるが、ここは単品注文が基本の店だ。連れでやってきて、一人には丼が届いていて、もう一人には何もないっていう時点で誰か気付け。コダマ青年のところに料理を運んだ時点で、「あともう一人いるな・・・注文なんだっけ」ということに思いを馳せてくれ。
これもまた、「縦割り役割分担」の弊害ってやつなんだろう。「私はこの人の注文は聞いていないから知らない。料理ができ上がれば、指定されたテーブルに運ぶ、それが私の仕事」なんだろう。恐るべし。いや、重ね重ね言うが、怒ってるんじゃなくて、ホント感心してるんだわ。思考回路が日本人と違いすぎる。
コダマ青年が見かねて店員さんを呼び、品物が来てないよ、と指摘。すると、店員さんは「嫌なクレームをつけられた」といわんばかりの不満そうな顔で、厨房に引っ込んでいった。おいコダマ青年、君が何を言ったかは理解できないが、何か暴言でも吐いたのか?と思ったくらいの、イヤそうな店員さんの顔。シビレます。そうこなくっちゃうそだ。さあますます楽しくなってきました。
しばらく、停滞していた店員さんの動きがゴソゴソしていた。縦割り行政なので、伝言ゲームのように厨房やらレジやらまた厨房やら、この事案が伝えられていく。素人目で見ても効率が悪そうだが、人数がたくさんいるし、格好の暇つぶしなんだろう。
しばらくしたら、今度は店員さんが2名がかりでわれわれのテーブルに押し寄せてきた。まさに「押し寄せてくる」という表現がぴったりで、テーブルから身を乗り出すように、何かしゃべってくる。何だ、今度はどんなショーを見せてくれるんだ。
「どうやら、注文した品は無いって言ってるらしいぞ」
「無い?そうなの?まあ、いいけど・・・」
傍らでは、店員さんが写真入りのメニューを手に、何か指さしてしゃべっている。日本人的感覚で端からみると、脅される人と脅す人という構図にしか見えない。
「こっちの方がお奨めだから、これにしろって言ってる」
相手が観光客とわかっているから、「当店だったらこれを食べるべし」というものをあえて勧めてくれているのだと思う。しかし、何が何だかわからんおかでんの心境は、「押し売り」にあっている気分。
「はあ、まあそれでいいです」
すると、今度は店員さん、手を差し出して金をよこせ、という。なんだかむちゃ苦茶だ。
コダマ青年がしばらく相手の言い分を聞いて、翻訳してくれてようやく理解したのだが、当初頼んでいたのは24元だったのだが、今度のは28元。だから差額の4元を出しなさい、と言っているのだった。敢えて高いメニューを勧めてきたか。まあ、いいや。
4元をゲットした店員さんたちは、レジと厨房にそれぞれ戻り、また泰平な時を過ごしはじめるのだった。何だったんだ、あれ。
今度注文忘れがあったらますます面白かったのだが、さすがにそこまでこちらの興味に付き合うほど店は暇ではなかった。きっちりと仕上げて丼を運んできた。
「草鸡汤面 28元」。ややこしいので日本語でもわかる漢字に直すと、「草鶏湯麺」ということになる。
「草」とはなんぞや、と思ったらこの料理の場合、青梗菜を指すようだ。麺と、鶏肉と、青梗菜と、鶏ガラスープ。以上。シンプルすぎてすごい。スープの表面は、鶏から出た油が幕を作っている。
鶏肉はやけに黄色く、何がどうなったらこんなに黄色いのかと不思議。ただ、そんなことに構ってはいられない、油断大敵なのは、当然のごとく骨付き鶏であるということだ。うっかりがぶりとやると、歯が折れるぞ。あー、麺食べながら鶏肉の骨を外すのは面倒くせぇー。手が汚れるー。しかも骨を捨てる小皿がないし。でも、これぞ本場の拉面なのよね。有り難くたべなくちゃ。
で、麺なんだが、なまっ白い細麺で、やたらと長い。本当に「拉」しているんだろう。生地の束一つが二つなり、四つになり・・・と増えていって、1024本とか2048本とかまでどんどん伸ばしていってでき上がりと。
かん水は当然中国の麺なので入っておらず、日本人の味覚からするとピンぼけした印象をうけるスープと相まって、モヤモヤした味に仕上がっている。決して美味いもんじゃあ、ない。いや、言い方が悪いな、日本人の味覚とはちょっと違う。多分日本だったら、もう少しスープの塩味を強くするだろうし、鶏肉を下処理して味をつけておくだろう。また、麺の歯ごたえも強くするはず。日本のラーメンが「日式拉面」として別ジャンル扱いで売られているのが、よくわかる。確かに全くの別モンだわ。
なお、上海ではやたらと「味千ラーメン」を見かけた。中国で大人気らしい。中国法人の社長さん(中国人)は大富豪になったと、先日ニュース記事で読んだ。
食後、地下鉄でぐるっと移動する。上海は東京や大阪のように環状線があるので、一周することが可能。今回はその南側を少々移動。
コダマ青年は「洗濯物とかしたいんで」といったんここで退散。おかでんは、昼までの時間、中山公園駅に隣接するカルフールで買物をすることにした。ブランド品やいかにも、という土産物には全く興味がないが、庶民的な食料品には大変興味がある。
カルフールは日本での事業に失敗し、日本法人がイオンに吸収されてしまったという苦い経験があるのだが、上海ではたくさんのお客さんを集めていた。えーと、買物は後回しにして、まずはこの建物全体を見て回ることにしよう。このカルフールが入っている建物は複合商業施設になっていて、専門店が軒を連ねている。
移動する際、草津温泉の温泉街にあるはちみつソフトクリーム屋を発見してびっくりした。こんなところでいつのまに事業拡大してるんスか。
見上げれば大きな吹き抜けと、膨大な店舗。
何階建てだったかは忘れたが、10階ははるかに越えていたはず。そして、お店はこの円周吹き抜け沿いだけでなく、奥までずっと広がっているので、数百店舗は余裕で入居しているはずだ。こんな巨大な規模のお店、日本じゃ滅多にお目にかかれない。しかも、郊外型店舗じゃなくて、地下鉄駅直結でこのデカさ。
国としての発展が日本や他の先進国と比べて遅かったが故に、今こうして燦然と「新しい街・お店」が存在しているのだろう。
こういうのを見るとがぜんガッツが湧く性分。上のフロアから地下まで、全部のお店をひととおりウィンドウショッピングすることに決めた。
・・・結局、立ち止まることなく歩いただけで、2時間近くかかってしまったのだが。でけぇ。でかすぎる、この施設。
いっとくが、周りは超繁華街でもなんでもないし、隣接する地下鉄駅は2路線が乗り入れているとはいえ、ターミナル駅とはほど遠い。それでこの規模って一体なんなんだ上海。あの、すいません、急に尿意が。トイレどこですか。
麻辣誘惑、というポスターに惹かれてしまった。
英語訳が「spice spirits」だって。何だか変だが、でも面白い。ところでこれ、一体何屋?コスメショップなのか、それともエステなのか。中国の人はこれを見れば、「ああ、アレね」とすぐに何の店かわかるのだろうか。
コスメといえば、吹き抜けのところに「慧俪轻体」という字をよく見かけた。運動しているお姉さんや、ウェスト周りを計測しているお姉さんなど、何パターンかある。漢字の意味はわからんのだが、どうやらダイエットがらみらしい。えー、上海の人ってみんなスタイルいいじゃん。特に足なんてすらっとしている。細い、んじゃなくてラインが美しいんだな。そんなこととは無縁なのでは?
さてここで周囲を見渡す。恒例の女性ウォッチング。変態か、俺。
すらっとしているし、足は奇麗だし、色白だし、日本の女子校の制服を着せたらさぞや可愛いことだろう。・・・って、ますます変態チックだ。やめとけ。
足が奇麗、というより、こちらの人は骨盤が小さい気がする。そのせいで、いわゆる「安産型」のお尻をしておらず、ヒップラインが・・・だーかーらー、どこまで続ける気だ。
話を戻すと、この「慧俪轻体」だが、後日オフィシャルサイトを見に行くと、「ダイエットコンサルティング」をやっている会社なんだそうだ。あちこちで抜群の認知度だぜ、とグラフ入りで自慢しているのだが、日本じゃ聞いたことすらねーぞ。
コダマ青年に「中国の人、もともとスタイルいいじゃん?」と聞いてみたら、コダマ青年は「えー、そうでもないぜ。年寄りを見てみ?もの凄いおなかが出ているぞ」と笑って言った。あ、そういえば、確かに上海で見かけたおばあさん、その多くは「太鼓腹」状態だった。小柄で、そんなに太っているわけでもないのに、おなかだけは七福神状態。食文化の関係だろうか?なお、背が高い女性というのは若い人に特化している。急速に経済成長し、食生活が豊かになったからだろう。
巨大施設をぐるぐる、らせんを描くように上から順に見て回る。最下層にはカルフールがあるので、そこでお買い物ができればゴール。
ファッション系のテナントが中心で、いわゆるオサレ系の店が多い。負けじと、日本のUNIQLOも出店準備を進めただいま工事中。これだけ床面積も店舗数もあるんだから、マニアックな店舗構成になっても良さそうなものだが、日本同様金太郎アメ的。はく製の店とか、アフリカ伝統楽器の店とか、そういう店があっても良さそうなものなのに。
登山用品店があったら見てみたかったのだが、そんなもの影も形もなかった。そりゃそうだ、上海にはそれこそ山そのものが影も形もないんだから。上海人で「登山が趣味です」なんていう奴がいたら、そりゃあ相当の趣味人だ。
建物は新しく、快適な空間が提供されている。しかし、ところどころでアラが・・・。
あちこちで補修工事をやっているありさま。で、人出が回らないところは、「当心転倒」なんてシールをタイルに貼って、その場しのぎをしている。
曲線と直線を組み合わせた建築デザインを「かっちょえー。イカすー」と設計図レベルで承認したは良いが、いざ作ってみると職人さんの技術が追いついていませんでしたというオチ。
で、こんな状態でコケたら、日本やアメリカじゃ訴訟問題にでもなりそうだが、中国だと多分「コケたお前が悪い」ということになるんだろう。
ちょうど館内をうろついていたのが、飲食店が開店する11時前だった。おかげで、飲食店の開店前の様子をうかがえて面白かった。
まず大前提として、飲食店が各フロアに散らばっている。日本の場合、「飲食店街」としてフロアを束ねる事が多いが、どうやら中国の美学としては「各フロアに飲食店がある」ことを良しとしているようだ。
で、そのお店なのだが・・・やたらと中華料理店が多い。全体の7割くらいが中華料理じゃあるまいか。何でこんなに偏った店舗構成なのかと首をひねってしまうが、日本が洋食の味やスパイス、ハーブ類に馴染むようになったのが戦後数十年経ってからであったように、まだまだドメスティックな料理が中国人はお好みらしい。
とはいえ、単にワンパターンな中華料理、というわけではない。それぞれ、北京料理だったり広東料理だったり四川料理だったり、火鍋だったり・・・と種類がたくさんあるのだった。なるほど、多国の料理にバラエティを求めなくても、自国内で幅を出せるのだった。
従業員は、開店前にまかないを食べているのが印象的だった。しかも、どこも等しくそう。昼食のピーク時を過ぎた頃にまかないが出るのが普通だと思っていたが、「腹が減っては戦ができぬ」という考えらしい。ただこれだと、食後に仕事をして眠たくなりそうだ。始業前に朝礼を行っている店舗は多く、感心させられる。その場所はなぜか決まって店の前。ありゃ何かの対外的パフォーマンスだろうか?
一連のお作法が終わったら皆さん所定の位置につくのだが、どの店も判を押したように店の入口のところに「受付担当」が1名ないし2名が張り付く。相変わらずどこも人件費は潤沢だ。
あっ。
思わず声を上げそうになった。
吹き抜けの眼下に見えるファンシーな飲食店。それはそれで気になるのだが、それ以上に気になったのが、店頭にいるおにゃのこ店員さんの服装だった。
・・・制服?
遠くからなのでよくわからないが、下はチェック柄のミニスカート、上は半袖のシャツ。コスプレ喫茶か何かか、ここは。
店の名前は「蛋蛋屋」というのだが、どうやらオムライスなど卵料理を扱っている店らしい。玉子料理と若い女の子、というのは古今東西どうも相性が良いのだが(おかでん私見)、それをまんまとコスプレ込みでやるとは。このマニア根性(スピリッツ、と読む)は素晴らしい。というか、日本的発想だな。
なんのこっちゃと調べてみたら、ありゃ、これって台湾資本の店なのだった。さすが台湾、日本のマニア根性をよく知っている。それをうまいこと大陸に持ち込んだ商売根性(これは単に「こんじょう」、と読んで良い)はお上手。
本家台湾の店は「蛋蛋屋洋食館」という名前で、サブタイトルに「TAMAGOYA」となっている。オフィシャルサイトを見ると、あちこちに日本語が出てくる。ただ、大陸に持ち込む際は日本カラーを出すとマイナスに作用する事も懸念し、日本語は消したようだ。
とはいえ、ひらひらしたミニスカを店員にはかせるあたり、殿方を喜ばせる気満々。たいへんにけしからん。
けしからんので、もっと近くで観察すべきだったのだが、このビルのあまりの情報量の多さの前にお店の存在をすっかり忘れてしまっていた。ちいっ、惜しい事をした。
カルフールであれこれ食材を買う。面白いなあ、売っている物が豊富で、かつ日本と違う品そろえで。鮮魚コーナーにはいけすがたくさんあって、魚や海老が生きたまま売られている。他にも商品の陳列の法則が日本と全く違うので、感心しっぱなしだ。麺類と、パン類は同じジャンルとしてくくられて並んでいるのね、とかいろいろ。(ごめん、ほとんど覚えていない。忘れた)
食材買物を済ませたら、コダマ青年との再集合時間まであまり余裕がない。何か日本で待つ知人のために土産を買って帰ろうと思っていたのだが、これといっためぼしいものが無くて困った。コダマ青年が帰国の度に頭を悩ませるのと同じく、「中国で食材を買って帰っても日本では喜ばないよなあ・・・」という問題に直面したからだ。食品に関しては、「中国産」というのはむしろ土産として不向きだ。食べ物以外だって、クオリティという点であまり信用されていない。じゃあ何を選べと?
気を取り直し、書籍コーナーへ。料理本が目に付いたので、見てみる。「家常○○菜」というシリーズ本が数種類でていて、それぞれの地方の料理を紹介している。その料理数、一冊につき1,000レシピ。桁が違いすぎる。全シリーズそろえちゃうと、一体お宅のレシピは何千種類になるんですか、という凄さだ。一日一品作っても、全部作り終えるまでに何年かかることか。
・・・まあ、多分相当重複しているんだとは思うが。
とりあえず面白そうなので、「家常浙菜」という本を買ってみる。多分、浙江省界隈の料理を紹介したものだと思う。
結構分厚い本だ。なにせ1,000レシピ。中を見ると、本の分厚さの割にはみっちりと内容が詰まっている。老眼の人、無理っす。あと、重いので、やっぱりお年寄りには無理っす。
簡体字で書かれていて、何となく意味がわかるような、わからないような、そんな微妙なところがむしろ面白い。コレは一体何を意味するんだろう?と考えながら読むと楽しい。B級なものを愛する人なら、この楽しさはきっと理解してくれるだろう。寝る前、布団の中で5分くらい読むとよく眠れると思う。
で、この本がB級たるゆえんは、料理の写真がどれも「クソまずそう」にしか見えないということに尽きる。ひどい、ひどすぎる。料理本で料理がまずそうってどういうことだ。
まず紙質が悪く、写真以前の製本の問題というのもあるのだが、撮影している環境も、人も、全てがダメすぎて楽しい。明らかにブロガーが携帯で撮影しているラーメンの写真なんぞの方がうまそうだ。
素人目で見ても、「これ・・・天然光だよね。照明当ててないじゃん」という光加減。どうやら、窓際に料理を持っていって、そこで撮影しているらしい。おかげで、料理の半分には影が差し込んでしまい、なんだか陰気な食い物だ。
そしてアングルもダメ。魚丸ごと一匹の料理なのに、魚が見切れてしまい2/3程度しか写っていないとか、そんなのだらけ。
これ、日本の料理出版会社ってビジネスチャンスだと思うなあ。日本で培ったノウハウを中国市場に投入すれば、あっという間に蹴散らす事ができると思う。もちろん、料理の知識や語学といった問題があるので、ちゃんと現地法人と提携しないと無理だけど。
この日の収穫物全部。
詳細はこの連載の最後に紹介します。
カルフールの中を歩いていると、どうも何か臭う。結構癖のある臭いだ。何の臭いだろう、と思って臭いの発生源に近づいていくと、そこは黒酢売り場だった。さすが中国、さすがカルフールということで、黒酢だけでもかなりの売り場面積なのだが、そこからかなり強い臭いが・・・。ああ、黒酢の臭いか。中国の黒酢はコーリャンとか使うので独特の臭いがあるんだよねえ。そりゃ仕方がないよな。・・・って、待てい。「臭う」ってことは、「漏れてる」って事ではないか。
並んでいる瓶を子細にチェックしてみると、何割かの瓶の口部分のプラ容器が黒くにじんでいた。あー、こりゃダメだー。密閉する精度が低く、隙間から黒酢が漏れているのだった。
中国での買物、特に液状のものを買う場合は密閉されているかどうかのチェックが必須と実感。こんなもの、スーツケースに入れたら大変な事になる。
水分を補給するために鉄観音茶も買っておこう。
お茶の本場中国だからといって、ペットボトルのお茶が激うま、ということは特に無かった。ただ、日本だと日本茶(緑茶)か烏龍茶、せいぜいジャスミン茶程度しかないのに対し、こちらは白茶とか青茶とかいろいろあってうれしい。
うれしいといえば、見てきましたよビール売り場。やっすう。何じゃありゃあ。サントリーが安くて、大瓶サイズで3.5元だった。50円ちょっとですぜ?ありえん。あまりにうらやましすぎて失禁寸前だったが、でもこういうところに住むと、確実にアルコール依存になるだろうな。遠くから眺めているだけにしよう。
ちなみに一番高いビールはどれ、と見比べてみたら、ハイネケンが一番高くて確か12元くらいだったと思う。すっげえ高い。
買物を済ませ、コダマ青年との合流時間に待ち合わせ場所に移動。
カルフールが入っているテナントビルの前なのだが、そこではサントリーのキャンペーンガール達がなんと「黒烏龍茶」を配っていた。やる気満々ではないか、サントリー。
そもそも、サントリーの烏龍茶自体が中国人に受け入れられているのか、一日本人としては不安なのだが、独特な風味で癖がある黒烏龍茶まで市場投入しやがりますか。すごいな。
ただ、最近のニュースを見ると、中国でも黒烏龍茶がヒットを飛ばしているそうだ。作戦大成功だな、サントリー。
なお、キャンペーンガールだが、当然痩せていてスタイルが良かった。まさかふっくらぽっちゃり系の女性をこの商品のイベントに使うわけにはいくまい。
コダマ青年と合流後、その後コダマ青年の同僚であるミハラさんも到着。男性かと思ったら、女性だったのでちょっとびっくりした。わざわざ職場同僚の知人が上海に来てるんで、ということで馳せ参じてくれるとは、ありがたくて涙がでる。しかも、同性の友達ならともかく、異性だし。いかに駐在員は横の繋がりが緊密かというのがよく分かる1シーンでもあった。
ただ、コダマ青年は「飯食うときには人数が多い方がいい」という理由で仲間を参集したはずだったが、乙女ではちょっと力不足ではないのか?その点について問うたところ、「いや、この後茶を買いに行く時、俺の語学力じゃ太刀打ちできないんで」と言っていた。なんでもこのミハラ女史、大学時代から上海に留学しており、現地採用された強者。当然言葉には不自由しない。そういう点でも、コダマ青年はミハラさんを頼りにしているようだ。
肝臓の薬として漢方薬を貰いに言った際に同行し通訳したのも、このミハラさんだったという。呆れた。現地スタッフに同行してもらったんじゃなかったのか。しっかし、病院まで同行するとは、なんとも世話好き姐さんだ。
年齢はわれわれよりも下なのだが、会社での採用年次は彼女の方が上なので、コダマ青年は「さん」づけでミハラさんを呼んでいた。おかでんは彼女と仕事の上下関係が全くないのだが、コダマ青年にならってさんづけで呼ぶことにした。
さて、三人そろったところで「何を食べよう?」となったわけだが、この商業ビルのすぐ近くにお店がある、ということでてきぱきと話はまとまり、測移動。現地駐在員頼りになるなあ。観光ガイド片手の観光客風情とは全く段取りも決断も違う。ほれぼれするぜ。ホンマ今回は上海にお招き頂きありがとうありがとう。・・・まあ、目的の半分以上は「コダマ青年に物資を輸送する」だったんだが。
入ったお店は「港式小厨」と書かれていた。どうやら香港料理の店らしい。香港・・・ってことは、広東料理だな。
2日前に湖南料理、1日前に上海料理、今日は蘇州麺とこの広東料理、そして今晩は四川料理の予定。やあ、食べまくっているな。あと北京料理食べれば、一応中国四大料理は制覇・・・だが、さすがに北京料理を食べる機会は今回は無かった。これはまた今度。
早速啤酒を注文する。ミハラさん含めて、当たり前のように啤酒を頼むこの面子が大層頼もしい。いいぞお前ら。そして俺もいいぞ。
「これ飲んだことないだろ」
と言いながら注文された啤酒だが、届けられたのは何じゃこりゃ、という瓶。透明ですがな。日本では「透明の瓶は光が入り、中身の品質が劣化する」として茶色の瓶であるのが相場だ。だから、透明なビール瓶を見るともの凄く違和感を感じる。
いや、まあそりゃあ、コロナビールのように透明な奴はありますけどね。でも、大瓶サイズで透明ってのにはどうも落ち着かない気分。おしっこを詰めたみたいな。
しかも、よくみるとこれ、キリン製だし。えええ、キリン、中国でこんな商品出してたんかい。
サントリーのビールもそうだったが、どうも日本人のビールの嗜好と中国人のそれとは違うようだ。日本と同じ商品を中国市場に投入しないところをみると、日本の定番商品では売れないと判断したのだろう。
おっかしいなあ、日本人なんて外国ビールを飲む際、むしろ「日本では味わえない味」として好むのに。でも、日本人が外国ビールを比較的「ハレの飲みもの」と位置づけるのに対し、中国人は日本メーカーのビールを日常使いにしているのだろう。だからこそ、中国人の嗜好にあったビールを開発しなくちゃいかんというわけか。そんなこんなで、香港式のレストランでも、キリンのビールが置いてあるという不思議。
このキリンのビール、「沁」という名前だった。「しみる」ってどういうこっちゃ。消毒液みたいな名前だな。
興味津々で裏のラベルを見ると・・・ええと、すまん。漢字わからん。
でも、「第一道麦芽汁」と書いてあるのは分かるので、どうやら一番搾り麦汁を使ってるぜ、といるっぽい。
原材料は、「ナントカ麦芽」(漢字読めぬ)と大米、酒花。
ホップの事を「酒花」と書くとは知らなかった。勉強になるなあ。でもどうせすぐ忘れるけど。
飲んでみると、もの凄くさっぱり、あっさりしている。透明瓶から注がれるというビジュアルも相まって、なんだか飲み応えがない。こってりした中華料理にはこういうのが向いているのだろうか、はて?
青島啤酒も迫力のない味だが、中国人は苦みの少ないビールが口にあうようだ。また、ドイツビールのようにどっしりした味が好きなわけでもなく、悪く言えば水っぽい、良く言えば飲みやすいビール。バドワイザーよりも、さらに飲み応えがない。
なぜにこんなにスカスカした感が漂うのか、と再度ラベルを見てみると、酒精度(アルコール度数)が3.6%以上、と示されていた。納得だ。日本の大手ビールは大抵5%程度の度数なので、明らかにライトビールだ。こういうところにも国民性って出るんだな。
ひょっとしたら、「ビールは最初に口を潤す程度でよろし。酔う気があるなら、この後紹興酒にチェンジだ」という発想なのかもしれない。
メニュー。
例によって、やたらとページ数が多く、なおかつ紙が分厚いので重い。
「写真撮るか?なんならメニュー持ってようか?」
とコダマ青年が気をきかせてくれたが、さすがにこのボリュームには戦意喪失。
「いや、いいわ。一枚だけ一応撮影して終わりにする」
とおかでんの方から辞退。
コダマ青年がミハラさんに、昨晩のレストランで写真撮影を断られた件を説明する。ミハラさん、
「もしそんな事言われたら、私は猛抗議する」
と息巻いていた。どうやら、中国で生き抜くためには、言うべき事はしっかりと言って、議論しないといけないらしい。日本生まれの日本育ちだとこの辺りはからきし苦手だ。さすが上海生活が長い人は違う。
昨晩の小南国で撮影を拒絶された際、コダマ青年から「明日合流する人だったら絶対に抗議する」と聞かされていた。だから、てっきり男性が登場するのかと思っていたが、実際は女性だったとは。女性でも言うべき事は言う。それが中国流、か。
注文はもっぱらミハラさんが担当。コダマ青年、自分より語学力がある助っ人の登場で安どした顔をしていた。確かに、観光客おかでんからするとコダマ青年は大層頼もしいが、彼とてまだ駐在1年。本人にとっては、何かとやりづらいところもあったろう。お勤めどうもありがとうございました。
さてそうなると、がぜんコダマ青年気が緩みまくり。「俺日本料理食いてぇなあ。中華はもういいわぁ」とか、「カレー食おうぜ、カレー」などと言いたい放題。おい、さっきまでとキャラが変わったぞ。
そんな中料理がどんどん届く。さすが炎の魔術料理・中華。出てくるスピードが早いったらありゃしない。一度に注文しているので、料理が一度に出てくるような勢いだ。多分、店の内外に店員が溢れているのと同様、厨房にもコックが溢れかえっているのだろう。相当なマルチスレッド処理だ。
・・・とはいえ、おい、皿数が凄いことになっているんですけど。「あれを頼んで・・・」「そうなるとこっちも・・・」「せっかくだからこれは食べて貰いたいし・・・」なんて上海在住者二人であれこれ注文しているうちに、昼食にあるまじき皿数になっちまった。
鳥だけでも、丸ごと2匹がテーブルの上でニーハオしてるぞ。魚はでかいのが一匹。鳥の足(もみじ)なんて、一体何羽分使ってるんだという。大量殺戮ショーの様相。
鳥にはご丁寧に頭付き。丸焼きの写真を撮ろうとしたら、ミハラさんが「せっかくだから」と言いながら、添え物のパセリを鳥のくちばしにくわえさせていた。おかげでなんともシュールな絵に。日本の女性だったら「きゃーグロテスク」と言いそうだが、さすがミハラさん、これしきでは全く動じることはない。当然といえば当然だが。
人数が一人増えたぜー、といってもしょせん3人だ。
とてもじゃないが、3人で食べられる量ではない。おい現地駐在員、アンタらボリューム感は分かっているのに、なぜこんなに頼む。
「やぁ、食べられなかったら残せばいいんだよ。大した額じゃないし」
あっけらかん。なるほどー、そういう考え方かー。
そもそも中国では食べ残しが悪とはされていない食文化なので、少々食べ残すくらいは無問題。それもあって、「食べたいものを頼む」を貫けばよろし、と。
料理はどれもおいしかったなあ。ただ、鶏肉なんぞは一匹まるごとなんで、骨を外したりしゃぶりつくのに手間取り、結局ぱくぱく食べる前に満腹感到来。あああ、まだたくさんお皿には残っているのに。
茄子を土鍋で煮込んだやつは特においしかった。
コダマ青年熱望のカレーがきた。「ここのカレーはうまい」んだそうだ。
これだけ料理頼んでいて、さらに一皿・・・いや、一鍋きちゃったよどうするんだよおい。
でも美味いから許す。さすがにこの液体は、お持ち帰りできんだろうなあ。
生クリームが入っているのか、マイルドな味わい。濃度は日本のカレーより若干ゆるく、スパイシーさはあまりない。でもこれが妙にうまい。中国でまさかカレー食う事になるとは思わなかったが、案外イケるもんだな。
こういう食との邂逅は、現地人に案内してもらわないと無理だ。「せっかく中国に来て、カレーは無いだろカレーは」って即決で却下だ。
でも、今なら言える。おかでんに余りあるお金と時間があれば、「世界カレー食べ歩き」をやってみたいものだ。韓国のカレーは福神漬けのかわりにキムチが添えられているのか?とか、アメリカのカレーって、豆が入ったりするんか?とか興味は尽きない。
お昼ご飯にもかかわらず、もの凄く食べちまったぞ。どうも上海に来てから食い地獄続きなので、お酒の消費量がむしろ減っているくらいだ。まあ、肥満による脂肪肝になるか、アルコール性脂肪肝になるか、という二者択一であるわけだが。どっちもダメじゃん。
食後、ミハラさんの案内で中国茶を買い出しに行く予定になっていた。しかし、おかでんが先ほどカルフールで仕入れてきた食材のうち、要冷蔵のものがあったのでいったんコダマ青年宅の冷蔵庫に預けることにした。三人してコダマ青年宅にいったん引き上げ。
ミハラさんもコダマ青年のあの豪華アパートメントに上がり込んだのだが、「やっぱコダマさんの家は豪華よねー」などといった発言は全くなし。過去に訪れた事があるんだろうが、だとしてもこの豪華さはそう簡単に慣れるモンじゃない。・・・要するに、彼女もこういうアラブの貴族みたいな家に住んでいるんだろう。ちくしょぉぉぉ、みんなして次元が違うぜ。
それにしてもミハラさん、大学生から社会人になって、生活環境が激変したんじゃあるまいか。
コダマ青年の部屋から外を見下ろすと、欧米人家族がプールで遊んでいた。なんて非現実的な世界なんだ。
コダマ青年宅から、歩いて目的地であるお茶の卸問屋密集ビルに向かう。
今日午前までは「おかでんの庇護者」だった立場のコダマ青年だが、ミハラさん登場ですっかり「俺まだ駐在1年だし」と自らの格下げを断行。「たりー。タクろうぜ面倒だし」などと、先ほどの昼食から引き続いてやる気無しキャラを続行。ミハラさんに「肝臓悪いんだし、運動しなくちゃダメでしょうが」などとハッパをかけられていた。
とはいえ、6月中旬の上海は既に30度近い。しかも湿気が強いので、歩いていて気持ちの良い状態ではないのは事実。とはいえ、そんなに遠くはないのでそれ、歩け歩け。さっきのお昼ご飯は食べ過ぎだったし。
街を歩いていると、写真のような門をよく見かける。いわゆるゲートシティだ。マンションやオフィスビルはこの門の奥に入っており、扉を閉めたらプチ要塞となる仕組み。大通りに面して建物があるというのは不用心、ということらしい。
そういえば、コダマ青年のサービスアパートメントも、大通りから脇に入ったところに入口があった。ビルの顔である玄関が脇道にあるのはなんとも冴えないのだが、「冴えない」と考えること自体が日本的思考なんだろう。
そういえば台湾もこういう光景があった。中華文化圏はこういうのを好むらしい。実際にそこまで治安が悪いかどうかは兎も角、「これだけセキュリティしっかりしてるぜ」という事が不動産価値を高め、転売した際に有利なんだって。へえー。
歩いている途中、建物を改装?修理?中の建物の脇を通る。
「おおー、中国風だなあ、竹を組んでる」
感心してしまう。しかし面倒じゃないんかね。これ、一本一本組んでいかないとダメな気がするのだが、それよりも金属製の足場を用意した方がてきぱきできそうな。多分、想像を絶する「足場組みテク」ってのがあるんだろう。
その超絶テクがこちら。おい、竹が路面に突っ立っているぞ。支えも何もない。単に、路面に乗っかっているだけ。しかも、竹は植物。規格品じゃないので、長さは違うしゆがみ方も違う。すごいバランス感覚だ。オオカミがやってきて息を吹きかけると、あっという間に倒れそうだ。「三匹の子豚」の寓話で、木の家はダメよと習わなかったのか。
これ、ムシャクシャした誰かがガツンと足場を一本けっ飛ばしたら、足場どころか建物全部が崩壊するんじゃないか?面白い、誰か試しにやってみ。責任は取れないが。
これがお目当ての「天山茶城」。虹橋地区にある。
上海で唯一「国家専業茶葉卸売市場」として認可されている場所だそうで、100以上もの茶葉卸や茶器販売店などが並ぶという。ええと、「お茶の築地市場」みたいなもんだと思えばいいのかな?なんでも、日本で流通する中国茶の多くは、ここでバイヤーが仕入れて日本に持ち込んだものなんだそうな。
それは楽しみだ。日本で中国茶を買うともの凄く高いのだが、現地で直接買い付ければ安く済みそうだ。よし、この建物にあるお茶全部持ってこい。
足場、全く通行人の事を考えてくれていない。不安定な状態を支える事が最優先されており、通行人その他の利便性は二の次だ。
おかげで、足場の真下を歩こうとすると、写真の通り足場をくぐっていかないといけない。なんて我が儘な足場だ。公道である歩道を占拠する時点で、歩行者への配慮ってのが必要なはずなのに、「足場組んだ者勝ち」状態。
バリアフリーという概念からは数十年遠い世界だ。ここを車いすで移動するのは無理。
一応、「ここ足場あるから危険」と、黒と黄色でトラ模様を作って警戒を喚起しているのが良心といったところか。
天山茶城の中に入る。
土曜日なのに、というか土曜日だからか、というか、どっちかわからないが、広い建物内は来場者がほとんど居なかった。卸問屋街だからバイヤー達はお休みなのかもしれない。その分、ゆっくりとわれわれはお店を見て回ることができた。
とはいっても、小さな店がもう、みっちり。テトリスでいったら、高得点間違いなしの状態まで高く積み上げましたってありさま。よくぞここまで、単一業種を集めたものだと思う。
故に、訳がわからん。
どのお店も、烏龍茶、鉄観音茶、龍井茶、普洱茶・・・と扱っている商品に大差はないようだ。ええと、では一体何を目安にお店選びをすればいいの?さっぱり、わからない。「このお店は値段勝負でっせ」とか、「うちは品質最優先なので値段高いよ」というのすらわからない。ましてや、店ごとの品質なんて、分かりようがない。
「えー。どうすりゃいいんだ」
思わず絶句。こんなスペース、見るのは初めてだ。
たとえ、単一料理が並ぶ新横浜ラーメン博物館に行ったって、「今日は豚骨の気分」とか、「味噌ラーメン食いてぇぇ」とか、「チャーシューたっぷりがええのう」とかいろいろ判断基準がある。でもお茶の場合、どうすれば?
どうやら、ここに並ぶお店は、それぞれ各地に自分とこの茶畑を持っていて、それを直売しているらしい。だから、結構品質に差はあるのだろうが、さすがにこればっかりは外見ではわからぬ。メンマがこっちの方が1枚多い、とかチャーシューの分厚さはこっちに軍配が、なんていう差がないんだから。
えーと。
決定打にかけるまま、茶器屋さんで「茶器ええのう。でもこれ日本に持ち帰ると荷物じゃのう」などと時間稼ぎしつつ、しばらく悩む。
中国茶の茶器はいずれもおままごと用みたいに小さい。だから、おかでんのようなずぼらな人間が持つと、いずれ飽きて飲んだまま放置され、茶器の奥に茶葉なんぞが詰まって、夏場にはカビが生えて、うわあああああな状態になるに決まってる。分かっているからこそ、手を出さないジャンルだ。
このビル、お茶屋さんばっかりがずらりと並んでいるのだが、それは下の階まで。上層階になるとお茶屋以外のテナントもいろいろあるようだ。
あれっ、24時間営業の店があるぞ、と思ったら、卓球倶楽部なんて書いてある。卓球センターがあるんか、ここ。さすが卓球大国。おっと、忘れちゃいけないぜ、中国人の庶民の娯楽といえば麻雀。雀荘もあるぜ。これも24時間営業。
その他、旅館があったり、网吧(インターネットカフェ)があったり。インターネットカフェがお茶問屋と同居しているあたり、今風というか中国風というか。
うーん。
どのお茶屋さんも、サンプルの茶葉が店頭に置いてあるのだが、よくわからない。「おお、これは良い茶葉だ」という基準が分からないので、見ても、臭っても、わからない。
プロの茶ソムリエは、「これはミネラルのふくよかな味が・・・」みたいな事、言うんかね。
先達のミハラさんから「どういうお茶が欲しい?」と聞かれたが、おかでん自身実はあんまり考えたことがなかった。「いやー。美味いお茶が」なんて適当な答えを返すしか無かった。一応、青茶、緑茶、黒茶の3種類くらいは買いたいです、と後で申告はしたが。
かといって、日本人が抹茶やほうじ茶、煎茶に詳しい訳ではないのと同様、ミハラさんとてお茶のエキスパートではない。「青茶ならここにしときなさい」などとアドバイスできるわけではなかった。もうこうなったら、目についた店に適当に飛び込むしかない。
目に付いたお店に一応入り、適当に鉄観音茶を選ぶことにしてみた。
味にうるさいおかでんさん、という立場なら、あれこれ店をハシゴして飲み比べて決定となるのだろうが、正直そういう基礎知識すら持ち合わせていない。そもそも、鉄観音茶ってよく聞くけど、なに?烏龍茶と違うの?ってところからスタートしなくちゃ。
そんな不安いっぱいなおかでん少年を、ミハラさんがうまいことリードしてくれて、店員と引き合わせ。上海の近く、杭州の名産だという龍井茶(Lóngjĭngchá=ロンジンチャー)が欲しい、と告げると、店員さんは「まあ飲んでみよ」と着座を促してくれた。
ずらりと並ぶ茶器の前に、一同着席。おばちゃんの流れるような手さばきをただただ、見とれるしかなかった。
ガラスのビーカーみたいな急須にお茶っぱを入れ、ポットのお湯を注ぐ。ポットはフリスビー型の電熱ヒーターの上で暖められていた。その間に湯飲みをお湯で温め、トングで湯飲みを掴んでお湯から取り出す。へぇー。で、ビーカーから正式な急須にこし網経由でお茶を注ぎ、その後湯飲みにお茶を注ぐ。
えーと、臭いだけ嗅ぐという儀式があったかもしれないが、詳細な儀式は忘れた。
なんにせよ、見ているだけで面白い。
龍井茶の葉は、おおよそ日本人が想像する茶葉とは形状からして違う。扁平な、まさに「葉っぱ」の形状をしており、これを煮出すと青虫の味がしそうな見てくれになる。おい、それは森の中に映えているような雑草ではあるまいか、と不謹慎な事を言いかかるが、控えおろう、これぞ中国を代表する高級緑茶、龍井茶であるぞ。何しろ、龍井茶は生産量より流通量が多く、中国じゃ「龍井茶不出於龍井村(龍井茶は龍井村では産出されない)」と皮肉られるくらいだ。うかつな奴に手を出すと大抵偽物を掴んでしまうシロモノ。それだけ貴重だし、偽物が出回るくらい人気があるってことだ。こういう問屋さんで扱っているものは・・・多分本物、だよね?
お茶ができるまでの間、お店をぐるりと見る。
実にいろいろなお茶がある。安い茶葉は普通に缶に入っているのだが、値段が上がってくると真空パック入りになっている。しかしそのパック、ドッグフードですかというサイズの袋なのでたまらん。こんなの買ったら、飲みきるのに何年かかるんだ?っていうくらいだ。俺そんなにお茶、のまないし。ぶっちゃけ。さすがプロ仕様の卸問屋だ。
小さな小さな湯飲みにお茶を注いでもらい、頂く。
日本でお酒を飲むのに使う、「お猪口」よりも小さい。中国においては、お茶というのは香りや味わいを楽しむものであって、喉の渇きを潤す性質のものではないらしい。麦茶やペットボトル烏龍茶を飲み慣れていると、お上品すぎて緊張する。大げさだけど。
うむ、龍井茶というのは初めて飲んだのだが、日本の緑茶とは違う。渋みが少なく、かわりに甘みがある。中国茶独特の華やかな香りで、「ごっくん」と飲んで終わりではなく、むしろゆっくり飲んですーはーすーはー鼻で息をしたい。なるほど、こりゃ美味いや。
「もう少し値段の高い奴もせっかくだから」と飲ませてもらった。色を比較すると、微妙に違うが、だから何がどうなのかまではわからない。真空パック詰めされた「値段が高い奴」は、香りがさらに華やか。なるほど、これが値段の違いか。
「もっと高い奴は?」と聞くと、今度は冷蔵庫から茶葉が出てきた。缶→真空パック→真空パック+冷蔵、とランクに応じて扱いが全く違うところが面白い。さすがにこちらは飲ませて貰えなかった。
いろいろ店員さんに話を聞き、「うーん」と悩み、品定め。さすがに言葉が達者なミハラさんがいるので、このあたりのやりとりは不自由しない。本当にありがたい。コダマ青年が尻込みしたのも、今となっては納得だ。日常会話はできるコダマ青年だが、形容表現が飛び交うこの場ではさすがに訳しきれないだろう。
結局、そこそこ良い龍井茶を購入。いいお茶を飲んでしまうと、禁断の果実だ。値段とうまさが比例倍になっていくので、ついつい高い茶葉に手をのばしてしまう。
さすがにドッグフードサイズは勘弁願いたい(というか、入国時点で確実に関税を取られるだろう)ので、100g単位で売ってくれるか聞いたら、OKとのこと。100g、購入。
わざわざ、アルミ袋に詰め、真空加工した上で「西湖龍井」と書かれた茶筒に入れてくれた。
値段は覚えていないが、そこまで高い買い物ではなかったと思う。でも、1,000円は軽く超えていたはずなので、中国の物価を考えるともの凄い高級品だとおもう。
龍井茶を購入した後、またぶらぶらと歩く。
先ほどの店で、ひととおりお茶を買いそろえる事も可能なのだが、せっかくだからそれぞれのお茶を別の店で買いたいところだ。
歩いているうちに、やたらとフリスビーのようなものが並んでいる店に目が止まった。このフリスビーもお茶で、普洱(プーアル)茶だ。理由は不明だが、高級なプーアル茶はこういう形に整形されて売られるのが普通らしい。
どのお店でもこのフリスビーは売られているのだが、このお店は特にフリスビーだらけだったので、ここで普洱茶を買うことにした。
安い普洱茶は、あめ玉サイズで、紙にくるまれて売られている。これは1個単位で購入可能。
普洱茶は、緑茶を発酵させたもので、独特のカビ臭さ、ほこり臭さがある。しかし、お酒同様熟成が進むと、この嫌な癖がとれ、丸みのある非常においしいお茶となる。普洱茶ってマズいと思っている方、ぜひ一度高い奴をお試しください。とはいえ、中国料理店で出てくるようなやつは大抵安物なので、おいしいのにはなかなか出会えないが。中には真っ黒で、ドブのような奴が出てくることもある。
雲南省の名産品で、発酵させている関係でサポニンやミネラルが豊富。そのため、内臓の保護活性化に役立つと言われるし、脂肪分解効果があるとかないとか。そんなわけで、長期熟成された方が値が張る。
ただし普洱茶の残念な事は、文化大革命の際に「旧来的だ」と糾弾の対象となってしまい、相当数処分されてしまったという事だ。何て事をしてくれるんだ、文化大革命。現在の簡体字も文化大革命によって決定的になったものだし、(第三者である日本人のおかでんからすると)余計なことをしてくれたものだ。
そんなわけで、文化大革命以前のビンテージものは、台湾とか香港に僅かにあるらしい。ただ、いったいいくらくらいするのか、想像すらつかん。「お茶を趣味にすると財産をすりつぶす」とは言うが、まさにその通りだ。
まずは安い普洱茶を入れてもらう。茶こしが面白く、ひょうたんを真っ二つに縦割りし、中をくりぬいたものに網を張ったものだった。これだと、茶葉をすくう匙にもなるし、茶こしにもなる。
普洱茶。「黒茶」といわれるジャンルの代表格ですな。
とはいっても、真っ黒ではなく、美しい茶色でござんすよ。安いやつは汚い黒色なので注意。
飲むと、とても美味い。「まずは小手調べに安物を」と選んだとは思えぬ。さすが卸、レベル高いな。でも、確かアメ玉サイズ1個で10元だか15元だったはずなので、やっぱり現地物価を前提にすると相当高額なお茶ではある。
壁を見ると、フリスビー型ではなく、昔の貨幣の形をしたものまである。どうせこの後鏡割りのように割って壊すんだけど、遊び心ってやつだ。
「あれ、どうやって固めているんだろう?添加物入れて固めたんだろうか?」
と聞いてもらったら、
「いや、お茶を強く押し固めただけだ」
という事だった。まあ、そりゃそうか。高級品だし。
やっぱり高い普洱茶は美味いのぅ、と背後に忍び寄る散財の影。待て待て、いくら安いとはいえ、お茶だぞ?それ飲まなくても死にはしないぞ。そもそもそんなにお茶が好きでもないくせに、なぜここになって財布の紐を全開にしようとする?ちと冷静になれ。
お店の人は、さすが問屋だけあって「日本人発見!あれこれ売りつけてやろう」というやる気はなく、至ってしれっとしている。これはどのお店も同じで、お茶屋さんってのはこういう人種なのだろう。われわれに聞茶を勧める際、全てのお店の店員さんも一緒に一服していたので、それもまたこの業界の流儀らしい。トイレ近そうだが、大丈夫か?おしっこを我慢して、膀胱炎になったら一人前、といわれる業界だったらどうしよう。
ちなみに僕らは、この茶城にいる間、2回トイレに行った。ただでさえ水分、しかも利尿作用がある飲み物。そりゃあ、小さな杯でも尿意を催しますがな。
思案の末、「普洱茶は普段使いとして飲みたいお茶だし、中の下くらいでいいや、そのかわり量多め」という判断にした。さすがにあのフリスビーは買わなかったぞ。
袋詰めをしてもらう間、店内をざっと見る。「高い普洱茶はフリスビー、安いやつはあめ玉サイズ」と思っていたが、さにあらず。あめ玉型のやつでも高い奴発見。グラムあたりの値段、なんと380元(約5,510円)。たっけぇ。これは観光客日本人ですら、なかなか手が出ないお値段。卸価格でこれってことは、末端まで行った日にゃ一体いくらになるんだ?
このぶっとび高の普洱茶、10年もので「梅花小餅」という名前らしい。
これは万引き常習犯に見つけられたらたまらんな。大量かつ容易に万引きされそうだ。
あめ玉型の普洱茶でも、「1個いくら」じゃないんだな。ちゃんとグラム計量している。そして、その後ジップロックもどきのファスナー付き透明袋に詰めてくれた。
その際、ミハラさんがつつつーっと店員さんのところにやってきて、店頭に積んであったひょうたん型さじ(兼茶こし)を指さし、「これをおまけにして」とお願いしていた。その結果、あっけなくOK。そこでさらに一押しで、「3人分(コダマ青年、ミハラさん、おかでん)ちょうだい」と言ったら、これまたOKだった。1個10元くらいするものだと思うが、あっけなくゲット。さすが現地が長い人は違う。中国では値引き交渉して買うのは当たり前だと聞いていたが、こうやるのか。
緑茶(龍井茶)、黒茶(普洱茶)を買ったので、最後に緑茶を買うことにする。
緑茶といえば烏龍茶だろう。日本人はサントリーの烏龍茶のイメージが強いので、どうしても茶色のお茶(なんだか変な日本語だ)を想像してしまうが、中国の烏龍茶は、緑茶に属するし、実際に緑だ。
きっとアレだ、日本人が「青」と「緑」の区別が曖昧なのと一緒なんだろう。・・・って、いやいやいや、実際に明らかにサントリーの烏龍茶は茶色いんですが。
そうだ、それは兎も角、鉄観音茶って何だ?それも緑茶になるらしいんだが、何がどう違うんだ。
店の前にはいろいろ茶葉が並んでいるが、どうにもこうにも、植物標本にしか見えぬ。これを見て何をどう判断すればよいのやら。隣の店と見比べても、「おお、こっちの葉の方が活き活きしている!」なんて事はないし。
とりあえず、緑茶の扱いが多い店に迷い込んでみた。
鉄観音茶が試したい、とお願いして、試飲させてもらう。
対応してくれた店員さんは若い女性。こういう人もお茶屋さんやってるのか、と感心する。ああいかんいかん、孫を温かい目でみるジジイの顔つきになってきている。歳とったな、おかでん。
鉄観音茶を所望しておきながら変だが、店員さんに「ところで鉄観音って?」と聞いてしまった。馬鹿かこいつは、と思われたかもしれんが、何でも烏龍茶の一種だけど、その中でも高級なお茶らしい。
ちなみに、「八方美人」や「凍頂烏龍茶」は台湾ブランドの烏龍茶な。うっかりして上海で買ったら、あんまり意味ないぞ。
二種類ほど試飲させてもらう。高い方が確かに美味いんだが、香りが華やかになりすぎて、むしろ安い方がおいしく飲める気がした。うーん、と悩んでいると、店員さんに「ところで普段はどんなお茶を?」と逆に質問されてしまった。「えっと、麦茶っす」と答えたが、もの凄い貧乏人に思われたかもしれん。麦を炒ったものを水で煮出し、それを「茶」と名乗る事自体が中国の人には意味不明かもしれん。やべえ、野蛮国かもしれん、日本。
お茶請けも出してもらって、いろいろ試飲させてもらえて、下手な茶芸館に行くよりもはるかに良い場所。穴場ですな。ただし、言葉が達者な人が同行していないと全く太刀打ちできない場所でもあるが。
ちなみにおかでん、一連のお茶っ葉買い付けの際には「好吃(ハオチー)」しか言えなかった。まずい、という言葉なんて知りません。そもそも、「はい/いいえ」という中国語すら知らないんだから。
あ、でも「ビールください」だけは中国語で言えるぞ。これはおかでんにとって生命線だとなる言葉だからな。陸に上がったカッパ同様、定期的にビール飲めなかったら、死ぬ。
安いお茶は、こうやって樽の中にどっさり詰め込まれている。値段と扱いが正比例しているのが、なんとも潔い。
お買い物を済ませ、引き上げる。
まだ午後の時間は相当余っている。「夕食のお店は予約してあるから、まだ時間があるな・・・」ということで、時間つぶしをすることにした。わざわざ今晩のレストランは予約をしてくれたらしい。恐縮だ。
ミハラさんが、「せっかく上海で食材を買ったんなら、他にも良い物がある」と言う。その言葉に惹かれて、天山茶城の近くにある体育館に向かった。
・・・体育館?何で、と思うが、この体育館のぶっ飛んだところは、テナントとしてスーパーが入居しているのだった。ありそうでない発想だな、それは。確かに、こういう公共施設に民間テナントを入れて運営費を稼ぐというのは賢いやり方だ。これ、日本も見習った方がいい。ほら、地方都市でよくあるじゃないですか。街の一等地に体育館とか文化ホールとか。せっかく好立地なんだから、高値でスーパーなんぞに賃貸すれば相当財政を下支えしてくれるはずだ。
体育館でスポーツイベントがある日は、ドリンクやお総菜の売り上げが非常に増えそうだ。
上海の公共体育館なのだから、入居しているスーパーも当然地元企業・・・かと思ったら、テスコですか。イギリス資本。グローバルだな。
この手のスーパーのお約束、「入口と出口は別」という一方通行スタイル。万引き防止策。日本のスーパーがいかに無防備かって事だ。一方通行スタイルを採用しているのは世界でもそれほど多くはないと思うが。
それだけではなく、ここには入口にコインロッカーが置いてある。皆、荷物はここに預けて店内へと入っていく。これもまた、万引き防止策の一つ。昔は、手荷物持参で店内に入ることはNGだったらしいが、今では規制が緩和されたらしく、リュックを背負っているおかでんは何もとがめられなかった。これはこのお店に限らずどこもそうだったらしく、百貨店にしろスーパーにしろ、ちょっと前まではどこにでも入口にロッカーがあったらしい。
上海の地下鉄駅にはコインロッカーがないので、旅行者にとっては不便。でも、スーパーにはロッカーがあるという不思議。
ミハラさんがうれしそうに「これはお奨め」といって買い物籠に入れた商品は、酸辣湯の素。クノール製。クノール、中国で頑張ってるなあ。多分タイにいけば、クノール製のトムヤムクンなんぞがあるんだろう。あと、同じく酸辣湯系のスープの素として「麻辣鮮」というものもお奨めだとか。ミハラさんのお奨めとあらば、ぜひ購入しよう。
あと、おかでんが「漢方デザート屋に行ってみたかったんだよなあ、そういえば」とつぶやいていたのを聞きつけ、亀ゼリーを二種類ほど持ってきてくれた。まるで上得意様をお出迎えし、いろいろな高級商品を手取り足取り持ってきてくれるデパート店員さんみたいにかいがいしい。「こっちの亀ゼリーの方が個人的には好きだけど、こっちと比較してみるとよい」などとアドバイスを賜る。
そして、「せっかくだから」と、自動的に「王老吉」ジュースと、なんか美人のおねーさんがパックに描かれた飲み物も推薦された。後でおねーさんドリンクを飲んでみたが、牛乳のような外観。飲んでびっくり、これ、杏仁豆腐が液体になった奴だ。牛乳感覚で飲んだらめっちゃ甘かったので思わず吹いた。
王老吉?いやー、これまた甘くて漢方臭くてきっつい味。そうだな、ルートビア中国版とでも思ってもらえば。健康のため、と思って飲まない限りは日本人にはなじめない味だ。でも、はまる人ははまる・・・のかも。
その他、辣椒醤を購入して終了。せっかく「上海行きはサプリや本で荷物いっぱいだったけど、帰りは身軽」と思っていたのに、帰りも相当荷物がかさばるぞ。しかも、黒酢みたいな重いものまで買ってる始末だし。行きは日本の酢を運び、帰りは中国の黒酢をバッグに詰めるって一体何やってるんだ。
買物も済み、ぼちぼち天山路をお店方面に歩きながら、何か面白いものがあったら立ち寄ろうという事にして移動開始。
途中「にぎり寿司」とかかれた赤ちょうちんがぶら下がるお店を発見。これ、テイクアウト専用の寿司屋だった。驚いた、こんな「日本でも小僧寿司チェーンくらいしかやっていないような業態」が上海でもあるとは。
どうせ怪しい寿司もどきだらけなんだろうと思って写真入りメニューボードを見たら、これが予想以上にまとも、というか全く問題ない内容で意外。奇抜なインチキ臭ぇ握り寿司はないし、軍艦、巻物もちゃんとしている。へぇー。こういう立地条件とお持ち帰り専用店という事から、これは明らかに庶民向けの店だ。庶民にも、生魚を使ったスシってのが普及してきているんだな。
欧米人は、海苔巻きの黒い海苔が「気持ち悪い」という。だからカリフォルニアロールのように「シャリが外側、海苔は内側」という奇妙な巻物となるわけだが、こと上海においては何ら海苔の黒さに抵抗はないらしい。このお店のメニューは、日本でも通じるものだった。
コダマ青年に、
「こういう店で買って食べようと思うか?」
と聞いてみたら、
「いやー、どうだろうねえ」
とあまり気乗りしない回答が返ってきた。ミハラさんに聞いても同じく。ダメなわけではないが、積極的に食べるほどのものではないらしい。
道中、ミハラさんから上海の屋台料理について話を聞く。コダマ青年が「危険だからやめとけ」と何度も事前に言われていたものだ。実際上海歴が長いミハラさんはどう考えているのか?
てっきり、「いや、そんなに気にする事はないよ。過剰反応しすぎ」という余裕な回答が返ってくると思ったのだが、ミハラさんはコダマ青年の意見に同調し、それどころかもっと怖い事を言うのだった。
「どんな食材を使っているかわからない店があるし、食用油の替わりに廃棄された機械油を使っているような店もあるくらいだから、よっぽど信用できるところでないと食べない方が良い」
んだそうだ。あんまりにも強烈な具体例でさすがにびびった。
コダマ青年が追い打ちをかける。
「なにせ、日本人相手の日本料理店でさえ、お冷やに水道水を出すようなところがあるくらいだぜ?水道水、飲用できないのに。そういう土地柄だから、屋台の料理なんて推して知るべし」
なるほど、恐れ入りました。では、屋台料理は完全にアウトなのか?ミハラさん曰く、
「おいしそうな屋台があったら、まずは様子を見る。すぐには食べない。で、不審なところがなく、なおかつ、自分の知り合いで誰か食べたことがあり、体調に何も問題がない事が確認とれたら、ようやく買いに行く」
だって。要するに、他人の人体実験結果を踏まえないと手を出さない方が吉、ということだ。なんともデンジャーな世界だ。屋台って、ふらりと歩いている道すがら、「あ、おいしそう。買っちゃえ」という気楽さがうれしい楽しい世界。それがそうはならないのが2009年時点における上海クオリティということだろう。
もちろん、そういう世界で生き抜いている上海人にとっては屋台料理ごとき何ら問題ないのかもしれない。しかし、日本人じゃ、あっけなく体調を崩す恐れがあるってことだ。ちょっとした食い意地のせいで体を壊してちゃ、社会人失格だ。無理はしないに越したことはない。
とはいってもそんな食べ物屋台、上海に来てから一軒も見ていないんですけど。とりあえず、「やばそうな」屋台ってのを見てみたいものだ。
聞くと、上海駅周辺はスラム街化していて、そのあたりにはいろいろ怪しい店もあるらしい。それはぜひ行ってみたい。しかし、「やめとけ」と二人がかりで制止された。ミハラさんでさえ近づかないようにしている場所なんだと。
なんで駅周辺がそんな状態になっているかというと、きらびやかな上海に憧れて田舎から出てくる出稼ぎ労働者のたまり場になっているかららしい。中国において、沿岸部と内陸部の貧富差がもの凄い事になっているのは周知の事実だが、だからといって田舎の人が都会に出てきたら一もうけできるというのは安直。戸籍差別が歴然と存在しており、田舎出身の人には大した仕事がないのが実情なのだという。その結果、上海に来たはよいが、職につけず、かといって田舎に引き下がるわけにもいかず、駅周辺に貧民街ができるという構図。共産主義はどこへ行った。
ちなみに上海市民の戸籍を持っている人といない人とでは、パスポート取得などの資格にも格差がある。事実上の差別だが、こうも人口が多くてカオスな状態だと、どこかで線引きをしなくちゃいけない。差別、というより好意的に「区別」と解釈するしか行政が回らないのが実情と思いたい。
なお、上海ナンバー以外の車は上海市内への流量制限があったり、その他上海は「特別な場所」として燦然と輝いているのだった。これは多分重慶や広州など他の大都市でも同じなはず。
「あー、もうお店に着いてしまった」
たらたら歩きながらお店に向かってはいたのだが、まだ相当予約時間に余裕があるタイミングでお店近くまでやってきてしまったようだ。
「変顔ショーが行われるのは大体7時半くらいなんだよな。19時頃に入店するのがちょうどよいから、1時間くらい早いな」
時計を見ると、まだ17時45分くらい。確かに早い。ところで変顔って?・・・ああ、そうか、コダマ青年が「一見の価値あり」と言っていたやつか。ミハラさんも「あれは見て損はない」とその発言を後押ししている。かっらい四川料理食べながらみるショーって何だ。「超激辛唐辛子を生で100個同時に食べて、一瞬にして顔真っ赤になる見せ物」だったりするのだろうか。正体不明。
お楽しみは後にとっておくとして、時間があるので「じゃあここにでも」とお店すぐ近くのなにやら変なビルに入っていくことになった。何だこれ?「网吧、台珠棋牌」と書かれている。台珠・・・ああ、ビリヤードか!?
正解。ビリヤードだった。
確か一人10元払ってプレイしたと思う。それがどういう単位(1時間いくら、等)での料金なのかはわからないが、安いんだか高いんだか、わからないが格好の暇つぶしになった。
特に小しゃれたプールバーというわけでもなく、薄暗い広いスペースにビリヤード台が並んでいる、簡素な作り。
ビリヤードなんて人生で数回しかやったことがないので、おかでんは手元がおぼつかない。除夜の鐘でも突くかのような所作で、我ながらみっともなかった。一方、上海駐在員ペアはなんとも優雅な所作。ちくしょう、リッチな家(しかもプール付き)にすみ、ビリヤードにこ慣れているとは、なんてブルジョアな奴らなんだと嫉妬。
では、日本語にはない漢字を使っていた「网吧」とななんぞや、というと、ビリヤード場の隣のスペースには長机と、ずらりとならぶ椅子とPC・・・ああ、インターネットカフェだ!日本のように個室でプライバシー確保だぜ、なんて優雅なものではない。PC使えること、それがまだまだこの国じゃ優雅なことなのだろう。最小のスペースに最大のPCを並べました、さあネット接続しやがれ、という作りだった。
ためしに、ここのPCで「天安門事件」とか「チベット」などを検索してみたいと思ったが、その数分後には警察がどかどかと押し寄せてくるんじゃないかと恐怖に感じ、やめておいた。あ、いや、冗談だけど。いくら言論統制がある国でも、そこまで秘密警察みたいなのがいるわけではない。とはいえ、何かご機嫌を損ねる事をすると、お上から何をされるかわからん国であるのは事実。
1時間ほどビリヤードをやったら、ちょうど頃合いが良くなった。目指す四川料理の店へと向かう。ここは、コダマ青年(およびミハラさん)の職場で、接待なりなんなりがある際には時々使っている場所だという。接待に使える店、ということなのでそれなりの風格があるのだろう。
その割には、店の入口は狭い。ガラス張りでもないので中の様子がほとんどわからない。木の柱と、木造彫刻で彩られた狭き門は、まるで侵入者を食い止めるお城の入口のようだ。これは「ゾロゾロと田舎者の団体客なんかが来るんじゃねーぞ」という警告か。考えすぎだが。
店名は・・・えーと、これ、右から読むのかな、左から読むのかな。あ、左からですか。「巴國布衣」と書いてある。巴国ってどこだろう?・・・フランスのパリの事を「巴里」と日本語では漢字で書くので、ひょっとしたらフランスかもしれない。
いや待て待て待て、そうなるとこのお店はフランス料理店になってしまうぞ。なんじゃそりゃあ。四川発フランス経由の四川料理を上海で。ヌーベルキュイジーヌの技法を取り入れたヌーベルシノワで召し上がれ、か。
首をひねっていたが、後になって「巴国」とは、春秋時代に四川省あたりにあった国であることを知った。うわ、世界史の知識不足露呈。ちなみに中国語でフランスの事は「法国」という。
このお店、北京など中国各地に何店舗かあり、変面ショーが売りなのだという。・・・あれ?変面ショー?変顔ショーじゃなかったのか。あらためてコダマ青年に聞くと、「瞬時に演者が被っているお面が変わる」のだそうだ。よくわからんのだか、それは見ていて楽しいものなのか?
店内は木造作りに拘っていて、レトロかつ重厚な作りになっていた。蝶ネクタイした執事が「お帰りなさいませ」と出てきそうな感じさえうける。
二階部分は吹き抜けになっていて、開放感も素晴らしい。二階は吹き抜けを囲むように客席があり、そしてステージがある。ははーん、ここで変顔・・・じゃなかった、変面ショーがあるんだな。
ミハラさん曰く、「席によっては座ったままでは見られないので、予約をする際に『ショーが見える場所を』と指定しないといけない」んだそうだ。また、そもそもお店が混むので、飛び込みで食事ができる保証もないとか。
実際、われわれが入店した時点ではまだ空席が目立っていたが(なにしろ500席もあるという)、ショーの最中は満席。しかも、欧米人などの外国人駐在員・観光客も結構混ざっているようだった。それに加えて、団体宴会客なんぞもいるので、いくら客席が広くてもあっという間だ。
われわれは、一階席に案内された。ぎりぎり舞台は見えるか見えないかくらい。まあいいや、ショー見ててびっくりして息を呑んだ瞬間、間違って気管に唐辛子が詰まって悶絶、なんてのは困る。ショーの時は席を離れて近くまで見に行こう。
注文はもう完全にお任せ。
例のごとく、このお店もご多分に漏れずメニューがでかくて重くて、中身がうんざりするほどのボリューム。本来、メニューを見るとおなかが空くものだが、こと中国に関していうと逆で、むしろおなかいっぱいになる。
今回の上海訪問中、ほとんどのお店は大きな写真入りでメニューを紹介していた。非常に分かりやすくて良いやり方だと思う。日本のファミレス的ともいえる。言葉がしゃべられなくても、「これ」と指さしていれば一応困ることはない。以前、ジーニアスと香港に行った際にメニューが全部漢字で困惑し、果てには想像とは180度違うものを注文してしまった経験があるだけに、これはありがたい。
重厚な構えの店だし、例のごとく店員さんは入口から店内からうじゃうじゃいるし、格があるような印象を受ける。しかし、テーブルにはこれぞファミレス的、またはチェーン居酒屋的ともいえる「店員さん呼び鈴」が設置されていたのだった。こっちじゃ、「服務呼叫器」というらしい。
しかし、試しに押してみたが、反応がない。どうやら電池切れか、壊れているかどっちかだったようだ。結局、「服務員!」とお姉ちゃんを呼ぶ。
「あれっ」
注文してもらった啤酒がさっそく到着したのだが、お昼の時同様にこれも透明瓶。やっぱり、何度みてもおしっこを詰めているように見えてしまうのは、これまでの習性で思考回路が凝り固まっているからだろう。
で、このビールだが、よくみると「サントリー」と書いてる。おっと、サントリーは烏龍茶だけじゃなくてビールも上海で頑張ってましたか。そりゃ結構。しかし、この瓶にしろラベルにしろ、日本では見たことがないタイプだ。ええと、名前は・・・「プレミアム」だって?「プレミアムモルツ」じゃなくて、単に「プレミアム」か。へえー、外国市場ではこういうものを出していたのか。
何がどうプレミアムなのかと思ったが、「全程冷蔵」というハンコマークが印刷されていた。多分、それがプレミアムなのだろう。
飲んでみたが、いまとなっては味は忘れた。味はもちろん、他の啤酒同様薄い。日本人以上にドイツビールのようなこってりしたやつは苦手な国民性なのだろう。その他、印象として残っているのは、グラスがとても大きいのでぐいぐい飲めていいなあ、という事。なんのこっちゃ。
このお店のドリンクメニューは、まず最初に「紅酒類」からきて、「黄酒類」「啤酒類」「飲料類」「鮮搾類」とジャンル分けがされていた。「とりあえずビール」という発想ではないことが、メニュー順から見てわかる。
おかでんのホームグランドである「啤酒類」に関していうと、取り扱っているのは5種類。
朝日啤酒640ml:12元が一番安い。これはスーパードライなのだろうか?でも、恐らくオリジナルブランドを出していると思う。これまでの日本企業の傾向と、現地ブランド青島啤酒の味を見る限り、スーパードライは受けないと思う。
その次に青島純生600ml:15元、青島現生:16元と続き、世樽新鮮直送620ml:16元となる。この新鮮直送ってやつが今手元にあるサントリープレミアム。
なお、さらにぶっ高いビールは存在し、「藍妹啤酒」というやつで640mlで22元。圧倒的なプレミアム感だ。金箔が入っているに違いない。見たことも聞いたこともないのだが、通称「ブルーガール」と言うらしく、香港界隈ではよく見かけるそうだ。なぜこんなに高いんだろう。
そういえばこのお店、お茶はポットで無料で出てきたな。飲み物は基本有料、というわけではないようだ。
ソレは兎も角、お箸がない。そのかわり、テーブルにあるのは紙ナプキンが入っていると思われる、店名入りの大きな袋。料理が一品も来ていない現状においては、テーブル上でやたらとえらそうにふんぞりかえっているのだった。
袋を開けてみたら、紙ナプキン、袋入り濡れナプキン、袋入り箸の三点セットが出てきた。へぇ、結構丁寧な作りだ。ちょっと意外。
歓談していたら、最初の前菜が到着した。
が、ちょっと待て、これはコドモのおもちゃか?それとも何かの冗談か?
目の前にあるのは、小さな鉄棒だか物干し台だかに、豚肉とキャベツがぶら下がっているという奇抜なシロモノ。「ンもう、今日は天気が悪くて洗濯物が乾かなくて困るのよね」という世の奥様方の声が聞こえてきそうな外観。なぜ食材を干す必要がある?理由はともあれ、強烈なビジュアルだ。
圧倒されるおかでん、それを「予想通りのリアクション」とうれしげに見ている駐在員2名。なるほど、そういう食べ物なのだな。初体験の人をびっくりさせる盛りつけ、というわけだ。その思惑通りに、素直に驚愕のリアクションを示してしまったわたくし。
料理の写真だけ見ると、非常にコンパクトに見えると思う。しかし実際は結構デカい。だから、人物との比較としてこの写真をどうぞ。写っている人は誰かしらんおっさん。気にしないでください。
こんな「物干し台」、合羽橋商店街に行っても絶対売ってないだろうな。そもそも、日本でこういう大げさな料理を出す店があるかどうか。やあ、ナイスセレクト感謝です。
この料理の名前は「晾杆白肉」というらしい。
食べ方は、ぶら下がっている豚肉ときゅうりを一緒につまみ、それでキャベツの千切りをくるみ、辛口のたれにつけて食べる、というもの。雲白肉の変形版、というか遠い親戚のようなものだ。
棒につり下げられているのは、すいっと豚肉ときゅうりを箸ですくい取る上で便利。見た目と実用を兼ねている。
にんにくがきいた辛口のたれは大変口にあい、前菜からしてテンションがあがる。うん、これはよき店だと思う。早くも確信。
「おかでん、何か食べたいものある?」と聞かれていたので、「辛い奴。とにかくこのお店で一番辛い奴を注文して欲しい」と味覚音痴全開な馬鹿発言。
そんなわけで、辛さ耐性があまりないコダマ青年とミハラさんは、自らの防空壕をこしらえておかなければならなくなり、「辛くない料理」も注文していた。それがこちら。
写真上は青菜炒め。空芯菜ですな。で、写真下はキュウリのたたきだ。いくら四川料理店とはいえ、これは全く辛くない。辛い料理をつまみつつ、こういうエスケープゾーンを設けておくのは、これまでの経験で得た知識なのだろう。
「四川料理の定番といえばこれでしょう」
ということで、頼んでいた麻婆豆腐がやってきた。
「あれ?」
到着早々、思わず疑問の声がおかでんの口を突く。
「これ・・・随分明るい色、しているなあ」
というのは、注文する際に「本場の辛さで。できるだけ辛く。」とリクエストしておいたからだ。ミハラさん曰く、少々のカスタマイズはこの手のお店は余裕でできる、とのことだったので、ぜひともとお願いしてあった。
麻婆豆腐に限らず、四川料理というのは本当に辛いと赤黒くなる。いや、「赤」というよりも「黒」の要素が強い。夜空の星を見る際、星の色でその星の表面温度を調べる事ができるように、色と辛さというのは密接に関連性がある。
普通の色<赤い<赤黒い<ほぼ黒
と、辛さのステージがあがっていく。で、この麻婆豆腐だが、どうひいき目に見ても「赤」だ。これではジャパニーズ麻婆豆腐と大して変わらない。
「とりあえず味見してみたら?」
と促され、食べてみたが、「できるだけ辛く」というオーダーに対して努力義務を怠っているとしか思えない辛さ。とはいっても、普通の人ならこれでも十分に辛いんだろうけど。だから、まあ、こんなものなのかもしれない。いくら中国とはいえ上海と四川は外国のように距離が離れている。上海風四川料理ならば、これくらいでも超絶激辛なのかもしれん。
納得がいっていない顔つきのおかでんの様子を察知したミハラさん、問答無用で即座に服務員を呼びつけ、「注文したものと違う。交換してください」と毅然とした態度。ひええええ、いや、そこまでしなくても。これはこれでおいしいですから。
「いや、こういうときははっきりと言わないと」
さすがです。そういうのが中国での処世術なのかもしれない。日本人だったら、確実に引き下がって、後で食べログあたりに「思ったより辛くなかったです。」なんて書いていそうだな。それと比べりゃ、もの凄く潔い行動。
豚肉・・・だったかな?の水煮。
これも四川料理の定番。最近は日本でも従来にはないディープな四川料理店が増えてきたので、水煮を食べる事が容易になったのはありがたい。ちょっと前まで、四川料理なんだか広東料理なんだかわからんチャンポン中華の店ばっかりだったからな。北京ダックが出てきたりするし。
ただ、当然のことながらこれは丼で出てくる。一人だと、この丼いっぱいでおなかいっぱいだ。あらためて、中華料理は人数で勝負するしかない、ということを考えさせられる一品。
写真を見ての通り、ナイス唐辛子。おかでんは拍手、残り二人は「うわー」と上体をのけぞらせながら苦笑い。やー、これくらいの方がビールが進んでよいのですよ。
ビール飲みにとって、辛いということはご馳走だ。清酒飲みだと、塩辛いものがご馳走になるが、おかでんはそっち方面にはほとんど興味がない。
隣のテーブルでは、黄色い服を着た店員さんが、やたらと口が長いじょうろを手にパフォーマンスを始めた。まるでヌンチャクを振り回すかのようにじょうろを上下左右に振り回す。でも中のお茶は一切こぼれないのだから見事なものだ。振り回しながら、時折ビシッと決めポーズをとり、湯飲みにお茶を注いでいる。写真のバージョンだと、頭の上に注ぎ口を載せてお茶を入れているパターン。他にも、「脇に挟んで注ぐ」とか、首の後ろから注ぐ、などと様々。
ああやってブンブン振り回すことに何の意味があるのかはわからない。「実は中には氷とウォッカとジンジャーエールが入ってまして、振り回しているうちにモスコミュールができ上がります」なんていう事かもしれん。正体不明。
それを見たおかでん、「よし俺もやる!」とテーブルにあったごく普通の陶器の急須に手を伸ばしたが、二人に全力で止められた。
「あれ?」
そうこうしているうちに、いったん引き取らせた麻婆豆腐が再登場。今度こそ、もの凄い奴が来るはずだ。何せ、「これじゃ辛くない。ダメ」とNG出された手前、厨房としてもプライドをかけて辛くするだろう。
しかし。さっきとほとんど色が変わっていない。これはもう、食べるまでもなく辛さに変化が無いことが分かる。
行動が早いミハラさん、早速この時点で腰を浮かせて、服務員を呼びつけようとする。しかしさすがに二度もNGは申し訳ないので、弱腰おかでんはこの料理でよいです、もう店員さん呼ぶのやめましょう、とミハラさんにストップをかけた。
「いったん下げたものをもう一度出し直したんじゃないかな?」
などとミハラさんは勘ぐっていたが、実際自分で一口食べてみて、「辛い!」と叫ぶ。
これまでは「こちらのリクエストに応えない店はけしからん」という態度だったのだが、この瞬間から形勢逆転、「こんな辛い料理でさえ物足りないというお前の方が悪い」みたいになってしまった。
いやね、でもおかでんの頭の中では、香港に行った際に食べた四川料理のインパクトが忘れられないんですわ。喉まで花椒のせいで麻酔がかかった状態になるわ、あまりの辛さで顔が青ざめるわ。そりゃあもう凄かった。「やっぱり大陸は半端ねぇなあ!」という記憶が強い。同時に「日本の麻婆豆腐はチキン野郎」という認識を持つに至った。だからこそ、この上海にて「日本でもありそうな、普通に辛い麻婆豆腐」っていうのはちょっと予想外だった次第。
花椒が少ないんですな、端的に言うと。ひょっとしたら上海の人って、花椒のシビレは苦手なのかもしれない。
辛い料理続きで、コダマ青年たちは専らキュウリや空芯菜にエスケープ中。「ご飯頼もうぜ、ご飯」ということになり、酒飲みにもかかわらずご飯を注文するという事態に。
辣子鶏がやってきた。
唐辛子と、サイコロ状の揚げた鶏肉を和えたもの。これがまたうまいんだわ。
「待ておかでん、唐辛子は残すものだろ?この料理は」
「いや、分かってるんだけど、鶏肉の脂っ気と旨みを吸った唐辛子はうまいんだ。パリパリしていて食感もよいし」
「それはありえん」
これは食べていると、脳が興奮するスマートドラッグとも言える。ただ、翌日は大抵お尻が痛くて後悔するのだが。
「ショーの開始はまだかな?」
と、おかでん以上にそわそわするコダマ青年。予定の時刻より押しているようだ。それだけ彼が変面ショーを見たいわけではなく、おかでんに見せたくてしょうがないのだった。なにしろ、席の予約もしました、入店時間もショーに合わせましたという用意周到っぷりだ。相当自信のある出し物なのだろう。
むしろ、なんのこっちゃ分かっていないおかでんの方が平然と啤酒を楽しんでいる状態。コダマ青年は言う。
「お面が切り変わる技術は国家機密に指定されているらしいぞ」
そんな馬鹿な。無形文化財だとか、人間国宝っていうなら分かるが、いわゆる手品みたいなものに国家機密なんてあるものか。しかも、そんなものが「四川料理店の、夕食時の見せ物」として簡単に出ちゃって良いのかね。酔客相手だぞ?
とはいえ、日本人であるコダマ青年が絶賛するということは、中国人が「うちの国の技術は凄い!」と「自国びいきのフィルター」経由で語るのとは訳が違う。まあいい、その国家機密というやつを今日この場で暴いてやるぜ。ただしそのまま人民解放軍に連行されるかもしれんが。
しばらくすると、音楽が流れはじめた。吹き抜けの上、二階の舞台になにやら一人の演者が登場。なんだ、あれは?
京劇・・・ではないな。なんだか、仰々しい服装をしている。映画や漫画でこの手のキャラが出てきたら、確実に悪役であると言える格好。マントを羽織って、冠かぶって、手には扇子。ショルダーパッドみたいな飾りもついているし、首にはフレンチのシェフみたいなスカーフ。どんな奴がこんな派手な衣装を、と見ると・・・あ、お面だ。赤いお面を装着しとる。
赤いお面なので、そこだけを見ると獣神サンダーライガーみたいだし、全体で見るとデーモン小暮閣下のようでもある。
この閣下がひらりひらりと舞う。扇子をふわふわさせ、軽やかなステップ。
しかし、踊りに気を取られていたら、あれ?演者が振り向いた時には既にお面の色が変わってる。いつの間に。
まあ、後ろを向いているうちにお面をはぎ取るか、何かしたのだろう。
・・・と思って気を取り直して引き続き見ていると、扇子でひゃっと顔を覆っただけでお面がかわったり、マントで顔を隠した直後にお面がかわったり。なんたる早業。遠目で見る限り、ちょっと固そうな素材のお面に見えるのだが、お面はどこから現れてどこへ消えていくの?
しまいには歌舞伎のように見得を切った瞬間にお面が変わったりもする。一体何がどうなってるんだ?両手はお面のどこにも触れていないのに。スイッチみたいなものがどこにあるのだろう??
てっきり、江戸時代のからくり人形のような仕組みなのかと思っていたのだが、そんな単純なものではない。さっぱり分からない。大げさな冠とチーフにからくりがあるのはほぼ間違いないはずだが(人体の構造上、それしかありえん)、それにしてはカラーバリエーションが豊富すぎる。お面の端がゴムで止めてあって、そのゴムを外したらしゃっと表層のお面が外れ、冠の後ろに収まる・・・と考えるのが一番妥当なのだが、もしそれが本当なら登場当時は相当「着ぶくれ」ならぬ「かぶりぶくれ」になっていなくてはおかしい。そんな気配も無いし、こりゃさっぱりわからない。
調子づいてきた演者さん、舞台から出てきて店内を闊歩し始めた。
おいおい、随分余裕じゃないか。間近で見られてもしかけはわからないぜ、というわけだ。演者さんの周りは黒山の人だかりになってしまい、握手攻めにあっていた。
そんな中でも、クッと動きを止めたかと思ったら(まるでグレート・ムタが毒霧を吐く瞬間の間合いみたいな)、その瞬間にお面が変わってやがる。もう、やりたい放題。それでもまだ余裕なもんだから、しまいには小さいコドモにお面を触らせちゃってる。おい、さすがにお面にタッチはまずいだろうと思ったが、全然平気、全然余裕。
ひょっとしたら、お面にからくりがあると考えるのは間違っているのかもしれない。われわれの電脳がハックされていて、そこに「お面が変わった」という情報を植え付けられているだけかもしれない。現代の「笑い男事件」だ。そりゃあもしそれが本当なら、国家機密は妥当すぎる。
※このたとえは、「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」を見た人だけしかわからん。
さすがにこのときばかりは、服務員のおねーちゃんたちも仕事そっちのけで演技を見ていた。仕事そっちのけ、といってもこのショーの間に何か注文したりお会計する人なんて誰一人いないわけで、仕事そのものがないわけだが。
で、そんな服務員さんをショーそっちのけで観察しているおかでん。我ながら変態趣味だ。
服務員さんたちは毎日このショーを見ているわけで、国家機密をうすうす勘づいているじゃないかと思うが、どうなんだろう。たまには失敗したステージなんかも目の当たりにするだろうし。
さんざん観客を興奮の渦に巻き込んだお騒がせの仮面紳士、これでもう満足だろうと舞台に戻る。
それで終わりかと思ったが、いやいやさすが国家機密、これだけでは終わらなかった。
最後により華麗に舞ったと思ったら、お面が全部ない状態、即ち演者さんの素顔が出てきたのだった。・・・と思ったら、またお面顔に戻る。ええええええ、何だ今のは。
「薄皮を一枚一枚はぐように、お面をチェンジしている」というのがこれまでの推理だったわけだが、根底からひっくり返された。素顔が出た時点で、薄皮は使い切っていなければおかしいからだ。ははーん分かったぞ、素顔の下もお面顔だったんだな。そんな馬鹿な。
混乱している一同を尻目に、演者さんは最後のだめ押しで、「顔の上半分だけお面、下半分は素顔」という混合技を披露。もう、あまりに訳が分からなさすぎて考えるのが馬鹿馬鹿しくなった。拍手拍手で、店内が興奮の渦に包まれたのだった。
既に何度も見たことがあるコダマ青年とミハラさんは、この間まったりと飲食をしていた。「どうだった?」と聞かれて、「いやもう何が何だか」としか答えようがなかった。
コダマ青年が言うには、「毎回あのショーを見た後議論になるんだけど、これといった結論が出た事はない」んだそうだ。そりゃそうだわな。
帰国後知ったのだが、この技術が国家機密というのはまさに本当だった。すげえ。で、ちょいと前までは写真撮影禁止だったそうだ。今は写真撮影OK。それだけ、国家機密の技術に自信があるということだ。
参りました。
変面ショーの後、黄色い服を着たお兄さんによる「お茶注ぎショー」が始まった。
客席でやっていたのと同様、じょうろのような湯飲みをブンブン振り回し、ビシッとポーズを決めたのちにお茶を湯飲みに注ぐ。良くこぼれないものだと感心するが、いかんせん変面の後だと地味だ。こっちを前座にしたほうが良かったような気がする。
席に戻ってみると、紹興酒が注文されていた。
初日の湖南料理の店でもそうだったが、こっちの紹興酒ってウィスキーボトルのような入れものに入っているのが結構あるのだな。これなんて、瓶が白くて中が全く見えない。
日本において、紹興酒といえばどうしても茶色いボトルで、赤いラベルに「塔牌」とか「陳3年」なんて大きく書いてあるやつを想像するのだが、こっちはそれだけではないらしい。
ではこれはバッタものかというとそづえもないようで、「10」という表記があることから10年陳酒なのだろう。値段は分からないが、結構よいものと思われる。
味?いやもう、覚えていないです。
「せっかくだから担々麺も頼んでみた」
ということで、担々麺が来た。おい、確かに「せっかくだから」なんだが、ちょっと食べ切れなくなってきたぞ。というか、既にずいぶん前に食べきれなくなってきているのだが。
またこの担々麺、麺がみっちりなんだわ。「以前、量が少ねぇ、と客に非難されたので、それ以来腹が立ってしょうがない。ムシャクシャしたので無理矢理たくさん麺を入れてます」って厨房のコックから荒々しく説明がありそうなくらいの量。中国じゃ、麺もシェアする対象なんだな。
日本のラーメン店なんかじゃ、「お一人様一品以上の注文をお願いします」という張り紙が貼ってあるお店があるが、中国じゃそれは非常識ってわけだ。面白いね。
味?忘れた。
ご丁寧に、最後のデザートが頼んであった。
辛い物が得意ではない二人のエスケープルートとしてのものだが、この期に及んで揚げ物デザートっすか。杏仁豆腐あたりで丸く収めようという気は無かったのか。いや、美味かったから結果オーライだけど。でも食べ切れんよ。
普通こういうシチュエーションだと、おかでんが暴走してあれこれ注文し、周囲から「食い地獄やんけ。何をするか」と窘められていたものだ。しかし今回はそれをコダマ&ミハラ両名が代行してくれるとは。感動した。でもやっぱり食い地獄だけど。
「もう今日はお持ち帰りはいらんぞ」
コダマ青年はあらかじめけん制していた。おかでん来上海以来、毎回お持ち帰りにしては、毎回翌朝に結局廃棄するというルーティンだったので、これは仕方がない。
最後、お会計してみたら、3人で435元(約6,308円)。一人あたま2,100円相当だ。安いなあ・・・。もっとも、中国物価で考えればべらぼうな額ということになるわけだが。
夕食開始時間が比較的早かったということもあり、夜はまだ長い。
かといって、何か手頃な娯楽施設があるわけでもなく、結局またマッサージ店に行く事にした。3日連続マッサージ。なんてぜいたくなんだ。でも悔しい事に、3日揉まれ続けても体がタコのようにくにゃくにゃにはならない。凝り固まったままだ。どうにかならないものか、この体の凝りは。タコは大根で叩くと柔らかくなるという言い伝えがあるが(実はこれ、迷信)、おかでんの体も大根で叩いてもらおうかしら。
さて、四川料理の店から歩き、中山公園駅近くまで行ったところにマッサージ店発見。ネオンが光っているマッサージ店というのはちょっと珍しい。あまり日本人観光客が来るとは思えない場所だが、「マシサージ」と日本語表記もある。・・・相変わらず「ツ」と「シ」、そして「ツ」と「ッ」の区別は難しいらしい。
店頭の黒板にメニューが出ているのでそれを見る。「ハーバルフットマッサージ」という表記があちこちにあるので、一応メインは足つぼの店らしい。上海でも足つぼが流行なのね。で、普通のいわゆるマッサージが「トラディショナルチャイニーズマッサージ」という英語表記になる。
店内でミハラさんに確認してもらったら、「このお店にはカッピングもオプションである」という事だった。すげえ。てっきりカッピングって、女性向けのエステなんぞにしかないものだと思っていたので、オッサンであるおかでんができるとは思ってもいなかった。それはぜひお願いしたい。
コダマ青年とミハラさんは「オレらは足つぼだけでいいわ」ということだった。
一人だけ別室に通されたのだが、これが緊張する。何を言われてもさっぱりわからないからだ。お土産物屋で物を買う、といったシンプルなシチュエーションとは訳が違う。「今日はどのあたりが特にお疲れですか?」という、マッサージ屋において定番とも言える最初の一言さえ、理解できない。淡々と事が進んでくれれば良いのだが。
・・・と思ったら、案の定なんか言ってキター。何を言ってるのかさっぱりわからん。荷物を入れた籐かごを指さしたりして、何か言ってる。「お前の服は汚いから洗濯してやる」・・・って言ってるわけ、ないよな。なんか、どっかにかごを持っていきそうな勢いなんですけど。何をするか。
よくよく様子をうかがうと、どうやら後からやってきたお客さんなどの都合で、部屋を変わって欲しかったらしい。いいぞ、その代わり「マジックミラーになっていて、壁の向こうから覗かれまくり」とか「アヘン窟」なんてのはご免だぞ。
状況が分からないので、自分の荷物を持って行かれないようしっかりとガードしながら別室に移動。そこでうつぶせになって施術開始。
・・・なのだが、イイカンジに揉んで貰っていたら、途中で施術者が行方不明に。上半身裸だし、なんて心細い事よ。俺、このまま見捨てられてこの地で飢え死にするのかなあ、とさえ思う。
さんざん不安にさせておいて、数分後に施術者は戻ってきた。しかし、なにやらカートを転がしてきており、そこからガラスっぽいカチャカチャした音がする。何を始める気だ!秘密の改造手術でも受けるのではないか!?
さっきまで弛緩していた筋肉が、緊張のせいでまた固くなってしまった。意味ねぇー。
実はこの「カチャカチャ」、カッピングをする際に使う風鈴みたいなガラスの器だった。カッピングは背中で行われるので、音だけが頼りだ。背中でなにやらごそごそやっていたかと思ったら、どんどん吸盤みたいなのが吸い付いていく。おおう、これがカッピングって奴ですか老師!
カッピングされている最中は特に「ぬおおお、血行が良くなるゥゥゥ」といった事はないし、気持ちよさを体感することもない。ただ、淡々と数分間のカッピングを受けるだけだ。これ、ご自宅でも掃除機を使えば十分に再現できるな。興味があるかた、ぜひどうぞ。
カッピングを受けると、血の巡りが良くなり老廃物が排出されるんだという。で、老廃物が多く出たところはどす黒くなる。色あいで健康バロメーターになるんだそうだ。おかでんの場合は、人生終了寸前、というほどではなかったらしい。美食に明け暮れている上海滞在だが、健康なことは良きこと哉。
マッサージ終了後、ミハラさんは一人帰途についた。当然タクシーだ。タクシーに乗るのが、息を吸うかのように当たり前な所作というのが本当に恐れ入る。
お見送りをした後、コダマ青年と歩いて帰る。道路では、今日も散水車が水を撒いていた。水をまくだけじゃ一向に問題解決しないんだけどなあ。翌朝、乾燥したらまた砂埃が舞い上がるじゃないか。不思議な国だ。
帰宅後、リビングのTVを付けると、社民党の福島瑞穂議員が国会質問に立っているシーンが映っていた。上海でこんな光景を見るのはものすごくシュールだが、NHK-BSが受信できるので、当然なのだった。中国とはいえ、日本の情報には全く困らないのだった。朝、食堂に行けば日経が置いてあるし。
特に印象的だったのは、この一日前、2009年6月13日の夜。日式バーでお酒を飲んだ後、帰宅してテレビをつけていたらコダマ青年が「おい、三沢光晴が死んだぞ!」と驚きの声を上げた事だった。驚愕してTV画面を見ると、NHK-BSの速報テロップで死去との記述。三沢光晴に憧れ、全日本プロレスの日本武道館大会は全部行ってた時期があったし、プロレスリングNOAHの旗揚げ戦にも行ったようなファンだったのだが・・・まさか、上海で訃報を聞くことになるとは思わなかった。
2009年06月15日(月) 4日目
6月15日月曜日。4日目となる上海滞在は今日が最終日。
昼過ぎの便で帰国することになるので、朝から荷造りだ。
荷造り・・・といっても、極端なまでに個人装備品は少ない。毎日洗濯をしないと翌日着る物がないくらいまで、パンツ含めて簡略化してきたからだ。だから、楽といえば楽なのだが、カバンを見ると苦笑いしてしまう。
行きは、柿の種や酢、醤油などの日本の食材、そして書籍。帰りは空っぽになったカバンを想像していたのに、今度は中国食材が相当量入ってる。なんだコレは。
どうみても怪しすぎる。国境あたりで行き来する、密輸商人みたいじゃないか。
成田の税関でカバンを開けよ、と言われた時、絶対に怪しまれるな。
あれこれ食材があるのに加え、黒酢のボトルが重い。ああ、行きは日本の米酢で、帰りは中国の黒酢とは。
コダマ青年は昼から会社に行かねばならんそうだ。金曜日から案件に支障が出ており、休めないから会社行くわー、とのこと。
特にこの日は何をするか予定を決めていなかったが、コダマ青年のオフィスがある人民広場近くで何かしたほうがよろしかろう、となった。そこで、地球の歩き方に書いてあった「上海城市規画展示館」なるところに行ってみることにした。コダマ青年もここは行ったことはないそうだ。
何が展示されているのかさっぱりわからん。
ただ、ど派手な建造物がそびえているのは、周囲と比べても相当際だっている。東京ビッグサイトをスケルトンにしました、という感じだ。こういう建物を造ることができる、というのは今の上海に力がある証拠だ。素直に感嘆する。
しかも、町のど真ん中、超一等地に巨大な建物作れちゃうんだからなあ。時には強引な事も良いことだ。民意民意と言ってたら、いつまで経っても後世に残る事はできない。
この施設は入館料がかかる。
なんでぇ、上海博物館が無料で、この何だかわからん施設が有料ってどういう事よ、と思うが、美術芸術の啓蒙にお金を惜しまない、と考えれば中国さんすげーっす。
建物の入口には、「愛上海、ナントカカントカ!」というフレーズが巨大ディスプレイに表示されていた。上海万博を控え、どこもかしこもマナーアップキャンペーンに余念がない。実際どれくらいマナーアップ効果があるものなのか、今後が楽しみ。
入館料30元。たけー、と思っていたが、裏面はハガキになっていた。チケットをもぎったあとの半券がハガキ。切手が印刷されているので、そのまま投函できる。これはお得。・・・かなあ?
入館の際に一悶着あった。
またここでも手荷物検査だ。ご丁寧に金属探知ゲート+X線検査。あー、面倒くせぇ。一体どこのどいつがこの施設を爆破したりしようとするのかね。この国、治安が良いんだか悪いんだかさっぱりわからない。
で、案の定X線検査に引っかかってしまったのだった。何しろ、カバンの中には食材だけなら兎も角、整髪用のジェルやらシェービングムースやら、なぜか黒酢やらが入っている。X線検査技師が、「えっ?なんだコレ?」とあわててベルトコンベアを逆転させたくらいだ。
入口近辺に、相変わらず掃いて捨てる程いる人たちが「ようやく暇つぶし発見」とばかりにおかでんの周りにやって・・・こない。暇つぶし対象となるものでさえ、「余計な事すんな、邪魔くせぇ」という扱いらしい。チケットもぎりのお姉ちゃんたちは、我感せずでおしゃべりに講じている。この人達、仕事ろくにしてないのにしゃべるネタに困らないのかね。話題が途切れそうなものだが。
そんなことより自分のことだ。しばらくモニタを凝視していた技師だが、どうにも理解ができなかったらしく「これは何だ?」と聞いてきた。中国語わからん。一応英語でも聞き返してくるのだが、こっちが「土産物だ」と答えても理解できなかったようだ。それは、「スーベニア」という単語を知らなかったのか、それとも「なぜこんな内容物が土産物なのか」ということが理解できなかったのかまでは分からない。
結局、「開けてみろ」と言われ、しぶしぶカバンを開ける。すると、最初に出てきたのはあら恥ずかしや、おかでん様のおパンツでございますよ。その次は靴下・・・。
「もういい、片付けろ」的な事を言われ、しっしっと追い払われた。そして、「あそこに行け」と指さされた。その先には、クロークが。ああ、クロークがあるなら最初っからそこに預けてたのに。
この間、こんなところでゴタゴタがあるとは思っていなかったコダマ青年は先に中に入ってしまっており、通訳や仲裁には一切タッチせず。後で話を聞いて「えっ、そんなことがあったんか」状態だった。
無駄に金を掛けた施設ではあるが、見て回るとなんとなくやりたいことが分かってきた。上海という町の現在・過去・未来を伝える展示館なんだね、と。上海の過去といっても、上海租界ができた100年前くらいからの歴史なのでそんなに古いものではない。しかし、これまらまだまだ開発するぜ、と鼻息荒い都市なので、未来に向けての意気込みたるや相当なものだ。そのあたりもばっちりと紹介しまくり、自慢しまくりの施設となっていた。
まずは上海の歴史から。
レトロ調にしたかったらしく、超巨大な紙をめくって文章を読んだり、紙芝居みたいにボードを引き出して読んだりというギミックが仕組まれている。面倒臭すぎて読む気全く起きず。ほとんどパス。
コダマ青年だけは、「おお、あそこが昔はこうだったのか」と微妙に反応していた。現在の姿を知っている人からすれば、面白いんだろう。でも、観光客からしたら「はあ、そうスか」状態。
フロアを一つ上がれば、2009年時点の上海の旬、上海万博に関する展示があった。
もう嬉しくって仕方がない、という気持ちを隠そうともしない。まさに子供だ。
まだ開幕1年前だが、既にパビリオン概要が発表になっている国についてはその内容がパネル表示されていた。パネルは可動式になっているので、今後概要発表が各国からある都度パネルを増やしていくのだろう。
呆れたのが、上海万博の会場。
黄浦江の両岸に作られるのだが、東方明珠や外灘がある場所からやや下流の地帯。どう考えても建物が密集しているはずだ。護岸工事して川を埋めない限り、万博会場なんて作ることができないはずだ。
・・・で、そんな疑問に答えてくれる航空写真、発見。まだ工事着手前のもので、「会場はここ」と赤線で境界線を引いてある。
あー。想像したとおり、工場やら民家やらが密集してるんですけど「広い公園があるので、そこを中心に会場を」、とか「デカい工場が郊外に移転するのでその跡地に」、なんて話ではない。とんでもない規模で、強引に立ち退きをさせるというやり方だ。すげええええ。万単位の人を立ち退かせたろ、これ?
日本で同じ事をやったら、個別補償の金額がもの凄いことになるし、そもそも立ち退き交渉だけで数十年はかかる事になるだろう。さすが中国。いや、ここは嫌味でもなんでもなく、素直に凄いと思う。日本もこれくらいガツンとやるときにはやらんといけん。とはいっても、これだけ大規模な開発なんて、日本においてはもう未来永劫なさそうだが。
さらに1フロア上にあがると、今度は「万博後」の近未来の上海を展示するフロアだった。「未来を展示」するという発想、案外日本にはありそうで、ない。前しか見ていない、勢いがある上海だからこそできる芸当だ。
フロア中央には、ゴムボールを使った手打ち野球くらいなら余裕でできるくらいのスペースに、一面の上海ジオラマ。これの執念たるやすごい。ビルの一つ一つまで、精巧に作られていて驚愕するしかない。一体これを作るのにどれだけの下調べと、製作日数をかけたんだ?
浦東地区の高層ビル群のディティールが良くできているのはまあ当然といえば当然。これは上海のシンボルだからな。しかし、それ以外の「ザコキャラ」「モブ」とも言える細かいビルまで、本物と同じ形をしているのは凄すぎる。というより、むしろ気持ち悪くなってくる。人力Google Earthになっとるではないか。
これが確か、2020年頃の上海をイメージしたものだったと思う。しかし、このジオラマを作っているそばからにょきにょき新しいビルができているわけで、作っている段階からもう何がなんだか、状態になっていたと思う。
中山公園駅にある、おかでんが買物をしたカルフールの建物もちゃんと再現。ああそうか、上からみるとこうなっていたのか、などと今更わかる。とにかく上海の商業施設はデカすぎるし中の構造が複雑なので、こうやって俯瞰してみないと何だかよくわからない。だからこそ、こういうジオラマはありがたい。
こういう商業施設に限らず、コダマ青年のサービスアパートメントといった民間施設までもが忠実に再現されていた。ここまでくると寧ろ怖くなってくる。
上海旅行の最後に、この施設に来られてちょうど良かったと思う。今まで見てきて、歩いてきたことのおさらいになるからだ。地図好きの人なら、ここだけで1時間以上はじっくり楽しめると思う。
地上だけでは飽き足らない。地下も頑張ってます宣言。こちらはパネルで解説。
どっかの駅だが、地下鉄が4路線乗り入れて複雑な駅の構造になってるぜどうだこの野郎、という解説だった。そもそも地下鉄が導入されたのでさえ歴史が浅い上海のことだ、こんな複雑な駅ってスゲーって無邪気に喜んでいる様子。
同じ光景を、30年くらい前の日本でも見た記憶があるぞ。おかでんが幼稚園の頃、営団地下鉄(現東京メトロ)半蔵門線が大手町駅に延伸し、大手町駅が複雑怪奇な階層構造になったわけだが、その断面図がまさにこの写真のようなものだった。記念のポストカードか何かを、父親から貰った記憶がある。
今となっては、大手町駅って乗り換えが面倒だし階段が多いし大変にうっとおしい駅となっているが、この上海の駅は新しく計画的に作っているのでそのようなことはないのだろう。新しいインフラってうらやましいよな。
建物の模型もあった。これも呆れるほど精巧。
解説文を読んでいないので、なぜこんなものを作ったのかよくわからない。「未来の上海人の住居」なのか、「現在はこうです」なのかは不明。
ただ、確かに今の上海はこんな感じで家が建っている。平屋建て・一戸建ては非常に少なく、長屋風の住宅が基本。で、時折高層マンションが建つという、高低まだら模様。
それにしてもよく作ったなあ、このジオラマ。この技術を萌えに発展させれば、中国最強なんじゃないか、と一瞬思ったが、多分それは当分無理なので却下。
昨日、たまたま「中国政府肝いりで巨費を投じて作ったアニメ」なるものを見かけたのだが、そりゃあもう素敵でございましたから。「宮崎駿を超えた!」などと絶賛している(されている、ではない)作品だったのだが、確かに動きは大変に滑らか。ディズニーアニメに通じる、体のしなやかさ。しかし、肝心のキャラデザが悪すぎてもう。というか、ディズニーからパク・・・いや、「インスパイア」されてませんか?
これを見て、「我が国はまだ10年は戦える」と確信した。ただし、とんでもなく変態な国に日本は進化を遂げて行っているが。
ただ、本当に末恐ろしいのはここから。
上海の今後の都市計画について、模型つきで解説されているのだが、なんて前途洋々としているんだこの都市は、と今後衰退が確実な日本に住む人としては背筋が寒くなる。港湾整備だとか、オイルパイプラインなどの解説の他にも、交通の要である空港についても模型があった。上が、おかでんが利用した虹橋。下が、上海の国際玄関口である浦東。
見ろ、飛行機が虫けらのようだ!
成田空港反対派の人に見せてあげたい。ガチで空港整備するとこんな次元は当たり前ですぜ世界は、と。でもそんな事言ったら、大阪の橋下府知事が「関空にカネつぎ込んでくれればこれくらいはやりますよそりゃあ」と言い出しそうだが。
虹橋空港、ボーディングブリッジが劇的に増えるわけではなさそうだが、全面的にターミナルを作り替えるようだし、周辺の道路も大胆に整備しなおすようだ。新しい場所に新しいものを作るなら兎も角、今あるものを拡張・改築って相当手間がかかるはずなのに・・・末恐ろしい国だ、ここは。
これが、オイルマネーで食っているような国だったら、原油価格暴落しました、とか資源シフトが進んで石油イラネ、なんてことにあんって「絵に描いた餅」もあり得る。しかし、中国、特に上海はこれくらいの事は当たり前のようにやっちまうんだろうな。
中国投信を所有しているおかでんとしては、中国の発展は我が収益、ということになり大変にありがたいので、ここいらでいったん売り払って利益確定させておかないと、一発バブル崩壊がありそうな予感ではある。
「どうだ凄いだろう」という、上海自慢博物館を全部見終わったところでちょうどお時間。12時50分の便で帰るおかでんは、ここで退却しないといけない。コダマ青年も会社にご出勤だ。
クロークで荷物を受け取る。「何でこんな重い荷物なんだよ面倒だなコノ」という顔をされながら、よいしょ、とカウンターに荷物を出してくれた。こういうやる気のない態度、見ていてだんだん楽しくなってきた。彼らに悪気はない事は分かっているので、何だか珍しいものを見ている気分になってくる。
コダマ青年がタクシーを呼び止め、わざわざ運転手に行き先(虹橋空港)を指示してくれた。あ、最後の最後まで気を遣ってくれてありがとう。こっちは、地球の歩き方を握りしめ、運転手に伝えようと身構えていたところだったのだが、助かった。
なにせ、「虹橋」を「にじはし」と読んでも伝わるわけがない。「hóng qiáo」が読みなので、敢えて日本語風に発音すると「ホンシャオ」となる。これが覚えられない。仮に覚えたとしても、単に「ホンシャオ」と発音したら、昨日行った天山茶城あたりの虹橋地区に連れて行かれるのがオチだ。じゃあ、「ホンシャオ エアポート」と言えば通じるかというと・・・相当に怪しい。若者はともかく、上海の人の英語力というのは相当望み薄なので、エアポートさえ通じない可能性があるからだ。
ま、結局コダマ青年が差配してくれたから万事OKだ。安心して空港まで向かう。高架橋の自動車専用道に乗れば、空港まであっという間。ものの15分ないし20分程度だ。近いなあ。最新鋭の巨大ハブ空港である「浦東空港」も気になるが、虹橋空港のお気楽さはたまらん。次回上海に行く事があっても、やっぱり虹橋を選ぶだろう。
・・・と、早くも次の計画なんぞを暢気に練っていたら、運転手さんから何事か話しかけられた。え、何を言ってるんですか?さっぱりわからん。そりゃそうだ。
「パードン?」なんて言っても通じるわけもなく、犬のおまわりさん、困ってしまってワンワンワワーン。
しばらく、ジェスチャーゲームみたいな事をお互い微妙にやりつつようやく把握したのは、「どこで車を降りる?」という事だった。さすがに日本国内の地方空港と違って、どの航空会社ならこのあたりで降りるのがベスト、みたいなのが細かくあるらしい。
とはいっても、俺そんなの知らん。知らんし、全日空です、とかANAです、といいたくても言い方がわからん。しばらく、車内に怪しい無言空間が流れ、車はそのままずるずると進んでいく。大体、「ここです」「はい/いいえ」「右・左」といった基本的な中国語すら知らないんだ、指示の出しようがない。おかでんが言えるのは「ビールを一本ください」という中国語だけだ。
やべえ、空港ターミナルもう終わっちゃうよ、というところでANAの看板を発見し、とりあえず「わーわー」とジタバタして騒いだら、車が停まった。ノンバーバルコミュニケーションは国境を越えると確信。
到着して確認してみると、この空港にはA楼とB楼という二つのターミナルがあることが判明。だから、どっちのターミナルなのかね?と聞いてきたという事らしい。あと、大きな荷物を持っていたから運転手は分かっていたとは思うが、正しくは「出発フロア」に行くのか、「到着フロア」に行くのかも指示しなくちゃいかんかった。なんとかなって良かった。まあ、この程度の事はなんとかなるもんだけど。
ターミナルに入る。
国際線と国内線の共用ターミナルということもあって、国際線独特のチェックインカウンター構造にはなっていない。ただ、特に困惑することはなし。羽田の国際線ターミナルのキテレツぶりを見てしまうと、もう慣れっこだ。
ANAの地上職員がいて、「NH1282 HANEDA 羽田」とかかれたボードを持って無表情で立っていた。現地採用された方だが、1日1往復しかしていない羽田-虹橋便のためにANAってそれなりに現地オフィス作ったり人材雇ったり結構大変。コードシェアしている上海航空に全面委託、というわけにはいかんのだろうか?
で、この地上職員さん、お人形さんのようにぴくりともしない。該当者が近くを通らないせいがあるのかもしれないが、それにしても空気すぎる。これだったら、立て看板を出すだけで良いのではないか、とさえ思ってしまう。こういうところでも中国風の「潤沢に人を雇い、あちこちに配置する」やり方は踏襲されているのだった。
もちろん、背後には自動チェックイン機があるので、その操作案内などで必要なのだろう。でも、こんな有人カウンターから遠く離れたところにチェックイン機を置くこたぁないだろ、と思ってしまう。
荷物の預けがあるので、有人のチェックインカウンターでチェックイン。
パネル持ってた職員さんごめん。無視して通り過ぎちゃった。
チェックイン時、「これを入国時に提出してください」と一枚の紙を渡された。あー、また検疫っすかー。行きの時同様、帰りもインフルエンザ対策がっつりやるぜ、という宣戦布告なのだった。面倒だけど仕方がない。
ただ、中身は非常にシンプル。中国版の方が記入項目が多く、内容が複雑。
「メキシコやアメリカで新型インフルエンザが出ている」と現状説明ののち、「10日以内にメキシコやアメリカに行ったか?」とか「それらの国の人と接触したか?」、そして「発熱や咳が10日以内にあったか?」という3つの質問だった。
全く問題ありません。健康優良児です。
で、ここであれっ、と気がついた。そういえばおかでん、辛い料理を3泊4日中2晩食べたはずなのに、おなかが痛くならなかったぞ、と。何だか人間として一皮剥けた気がする。きっときのせいだけど。
保安検査場および出国審査へのゲート。
なんだかとってつけたようなパーティションだし、ゲート前にはたくさんの警備員が立っているので最初身構えてしまった。これは職員用ないしVIP用入口なのか?と。実際、この脇にはまた別の保安検査場への道がある。何だ何だ。
しばらく、両方を見比べた後、どうやらここらしいと決め打ちで突撃することにした。警備員、怖いなあ。ただ、通過した際何も呼び止められる事は無かった。そうだった、中国において「無駄に人が多い」というのは定番中の定番であり、「警備が厳重である」「緊急性を要する」などとは直接関連性がないということをまだ理解していなかった。
安心しきって保安検査場に行ったら、今度は完璧に呼び止められた。カバンの中に何かあるだろキミイ、と言われ、いやそんなもの無いです、と中身を見せる。もう一度X線検査にかけ、やっぱりあるではないかキミイ、お前じゃダメだ俺が直接カバンの中を見る、と係員に言われ、あら探し(というか、ほとんどカバンは空だったのだが)をされた。おお、やる気がないのは顔つきだけで、実際は素晴らしくきっちり仕事をしているじゃないか。我がカバンをもてあそばれている最中、ちょっと感動。
出てきたのは、ひげ剃りフォーム。日本語で「NG。ダメ」と言われた。ああ、そりゃそうだわ。完全にうっかりしていた。参りました、と謹んで献上。ついでに、「あのおー、ヘアワックスのチューブもあるんスけど、これも没収対象じゃないんスかお代官様」と聞いてみたが、それはOKらしい。あ、そうなんだ。
出国審査を終え、中華人民共和国脱出。くるりの「GO BACK TO CHINA」を口ずさみつつ、歩く。
毎度思うのだが、あの審査官が見ているモニタには一体何が表示されているんだろう?見せてもらえないものだろうか。「足のサイズ」とか「好きなアイドル」とか、そんなプライベート情報満載だったらぶったまげる。
ほっと一息ついて、モニタ画面の出発案内を見る。
便、少ないなあ。午前の便はもう飛んでしまったので、午後だけになるが、合計6便。羽田の国際線同様、金浦と羽田便だけだ。恐らく、2009年6月時点では、
羽田便(2往復。ANA+上海航空、JAL+中国東方航空)
金浦便(4往復。上海航空、中国東方航空、アシアナ航空、大韓航空)
となっている模様。韓国路線はコードシェアにしなかったのだな。
見ると、ゲートは「B11」と「B12」の二つしかない。それでもまかなえてしまうのが現状。もちろん、こことは別に浦東にアホみたいにデカい国際空港があるからなんだが。
国際線の搭乗ゲートは二つしかないのに、B楼の左半分を占領してしまっている。これは、保安検査場や出国審査場の配置の関係上しかたがなかったのだろうが、その結果大変に無駄な空間ができてしまっているのだった。延々と並ぶ、誰も座っていないソファ。規模の小さな免税品店。
いっそのこと、ここに人工芝を並べて、「搭乗までの間パターゴルフができます」なんてサービスでも始めたら良いのではないか、と思った。しかし、パターなんて凶器になりうるから、制限エリア内では無理か。
まだ手元には結構なお金が残っていた。もちろん人民元だ。日本円が無くて日々の生活でひいひい言っているのに、何でこんなに中国のお金は持っているの、状態。確かこの時点で700元近く残っていたはずだ。
昨日、コダマ青年がミハラさんに、「おかでんにサプリ買ってきてもらって、支払いは元にした」と報告していたとき、ミハラさんは「それはひどいー」と笑っていた。2,000元以上のお金なんて渡してどうするの、ということだ。「3泊4日じゃ使い切れる訳ないじゃない。酷いなー」だって。
おかでんはそれまで、コダマ青年から現地通貨による立替決済をするとの提案に「おお、じゃあ僕はほぼノーマネーで海外旅行できるし、両替コストがかからなくてGoooooood!!ダディクール!」と思っていたのだが、なにやら怪しい雲行き。
案の定、現在ワタクシ空港にいるわけですが、大量の100元札の毛沢東が財布の中からニーハオしとる。あああ、これどうすんの。
コダマ青年は「ま、いいんじゃないの。俺まだしばらくはこっち(上海)にいると思うし、また来た時にでも使えば」という。しかし、外貨預金で利子がつくわけでもなく、なんだかとっても損した気分。ミハラさんは「これからは元が高くなるから、持っててもいいんじゃない?」とナイスフォローでございます。
とはいえ、さてどうしたものか。
そこで思いついたのが、ああそうだ、免税品店で高い商品を買えばいいじゃん、と。もちろん自分用のお土産じゃ意味無いので、日本の女友達に国際電話。勤務時間中に何事かと電話に出た相手に対し、「キミが好きなシュウウエムラの化粧品が免税品店で買えるが、どうかねキミィ」と勧誘、というか説得。急きょ、おつかいを頼まれる事にした。しめしめ、これで600元弱くらい消費できたぞ。帰国後、商品と引き替えに日本円に変換だ。
ただ、まだ100元くらいは残っている。さてどうしたものかね、とお土産物屋を物色してみる。既に豫園商城などの土産物店は見てきたので、今更取り立てて何か珍しいものはない・・・が、何か変なのがアッター。
「四川麻辣風味柿の種」
なんだこりゃー。裏を見ると、日本語が書いてあるぞ。
厳選されたもち米を原料として使った「柿の種」を、本格的な四川料理の「麻辣」風味に仕上げた、中日合作のお菓子です。
そうか、これはありそうでなかったアイディアだな。激辛の柿の種やわさび味といったものはあったが、「麻辣」というのは盲点だった。参った。買うよ、買うよ。
アイディア負けして、大して美味そうではなかったが買うことにした。レジに持っていくと、おおおう、ここにも3名の暇そうなねーちゃんがだらだらとくっちゃべってる。空港内売店、しかも国際線の職員といえば、若干はステイタスが高いだろうにこの有り様。最後の最後まで楽しませてくれるぜ。ちなみに1名はバーコード読みとり専門係。1名はお金の収受係。最後の1名はレジ袋に商品を詰める係。おいそれは日本では通常一人でやる事だぞ。ここは超繁盛店ですか?客はおかでん以外誰もいないんですが。
レシートを受け取ってお店を後にしたが、ふと我に帰ってレシートを見直してみてびっくり。68元。うわ、「よーしよーし、最後の100元札がさばけるぜ」とこれ幸いと買ったは良かったものの、68元って。約1,000円だぞ。1,000円の柿の種って何がどうなってるんだよ。完全に観光客目当てのぼったくり価格じゃないか。原価5元もしないだろ、これ?やられた・・・。
窓の外を見ると、隣のビルの1階にJALとANAのオフィスが仲良く並んであった。オフィス、といっても一部屋しかない。大航空会社様にしてはあまりにこじんまりしていて、おもしろくてつい写真撮影。空調があまりきかないのか、窓や扉が開け放たれていた。のどかだ。
なんか変な機械が据え付けてあると思って近づいてみたら、飲料水サーバーだった。右側に底が尖った紙コップが収納されていて、それを使って飲む。
日本の新幹線にも、昔はデッキ部分に飲み水が出る機械が設置されていたな。それを思い出した。紙コップに底がないため、いったん水を注いでしまったら、飲みきるまで片手が完全に塞がってしまうというのも一緒。
この後搭乗する際に利用するB12乗り場。客はあまり多くない。
なにやらソファーがたくさん並んでいる小部屋があったので、看板を見たら「ファーストクラスラウンジ」と書かれていた。え、これがラウンジっすか。なんとも殺風景。というか、外から丸見えのラウンジってどうなのよ。ドリンクや雑誌のサービスがあるかどうかまでは分からなかった。さすがに中に入ったらつまみ出されそうだから、やめとく。有視界の範囲では人の気配が中ではしなかったのだが、従業員が掃いて捨てるほどいる中国のことだ。絶対死角に何人かいるに決まってる。
待合室の柱に、電源コンセントがあった。
これが、ヒエログリフか何か、暗号のようにいろいろな形状の差し込み口がついている。さあアナタのお好みはどれ?
なんでこんなに混沌としているんだ。全世界のコネクタに対応してますどうだどうだ、と言いたいのかもしれないが、どっちにせよ変圧しなくちゃいけないわけで、あまり意味がないような。そもそも、これ、旅行者がPC繋いで良しといった類のものではなく、掃除機などを使う業務員用のものだ。一体この国の家電はどうなっているんだ?
窓の外を眺める。
なんだか、いかにも中国だなあ、と思う。何がどう中国なんだかはよくわからないが、そう思う。そもそも、中国といっても上海の中心地みたいな最先端の摩天楼があるし、ド田舎もあるので、「いかにも中国」って一言では言えないのだが。
ただ、漠然とおかでんがイメージしているのは、だだっ広くて、殺風景でデカい公共建造物があって、人がわらわら居て、というもの。大昔、NHKスペシャルで放送された「シルクロード」みたいな世界。その雰囲気が、この上海の空港にもまだ残っていた。どこが、と言われてもわからないが。
目の前に駐機しているのは、中国国際航空の機体。波に呑まれてるぞ・・・と思ったが、むしろ「波に乗っている」というコンセプトなんだろう。
まだ虹橋-羽田便は定着していないのか、搭乗率はあまり高くなかった。おかげで搭乗に要する時間は早い。「便利がよい」ということを盾に、航空各社は相当強気な運賃設定をしている(10万円以上)ので、おかでんみたいなマイレージ散財者くらいしか気軽には使えないのだろう。
おかげで、搭乗開始ー。乗ったー。もう出発ですー。とナイステンポ。滑走路が渋滞している事もないので、動き始めたらあっという間に離陸だ。こりゃやめられんな。羽田発の国内便よりも楽だぞ、これ。
眼下に、行き同様浦東国際空港を見下ろし、東シナ海に出たところで機内食のデリバリー開始。これまた、早い早い。
帰りは、とっととスパークリングワインとビールを両方注文する。アテンダントさんに二度手間取らせるのは悪い。・・・と思ったら、中国人アテンダントさんは顔をしかめた。昼間っから二本も酒飲む貧乏人、とでも思われたらしい。しまった。往路には、「おかわりはいかがですか?」とわざわざ聞かれるくらいだったので、油断していた。
復路便の機内食。行き同様、選択肢はなし。
国内キャリアの機内食は、「うわあこれはすごい」という驚きが無く、実に日本人にとっては穏便に仕上げている。安心の味とも言えるが、旅の醍醐味(だいごみ)という点では物足りない。でも、中国人からしたら、この「日本版」機内食も既に旅気分なのかもしれない。
食事を終わらせ、旅の余韻に浸りながら読書。
新田次郎著「劔岳 点の記」。
高度1万メートルの上空から、標高3,000m弱でのドタバタ劇を酒飲みながら俯瞰するこの優越感ったらなかった。・・・といったら、怒られるな。冗談です。
と、食後のくつろぎタイムに入ったときにスカイコンパスを見たら、うわあ、もう長崎上空を飛んでいるではないか。日本領海上どころか、九州上陸してる。なんて近いんだ。
せっかく、天然ガス問題で揉めている「白樺」あたりで、両国の仲裁をしようと思っていたのに、酒飲んで機内食食ってる間に通り過ぎたー。
というわけで、あっという間に飛行機は降下を開始し、あれよあれよと見慣れた房総半島の光景が眼下に広がり、あちゃーという間もなく羽田空港に着陸。早い、早すぎる。
そして、狭い国際線ターミナルをあっという間に突破し(もっとも、機内検疫があったが)、なんの変哲もない、平凡な日常へと戻ってしまったのだった。シンデレラ並に、素の姿に戻るのが早かったなあ。上海でこんなありさまなんだから、ソウルなんて一体どれほど国内的距離感なんだ?行ったことがないから分からない。
帰り、モノレールで浜松町に向かっていると、眼前に新国際センターミナルが見えてきた。ただいま絶賛工事中。2010年秋に開業だそうだ。すでにモノレールがぐにっと新ターミナルに吸い寄せられるように線路をねじ曲げている途中。次回、上海に行く機会があれば、ここから乗る事になるのだろう。
それにしても、2万マイルで、羽田から、あっという間に行ける異次元世界上海。食い倒れたければ、2009年時点でこれほど楽で安い場所はあるまい。ソウルも近いが、残念ながら朝鮮語は日本人には読めぬ。まだ、漢字を使っている中国上海の方がなんとなく理解できて、気が楽だ。機会があれば、また訪れたいものだ。ただし、もう見るべきものはあまり残っていないので、次は「グルメとマッサージ」中心で、プラス紹興や杭州、蘇州といった周辺都市へ遠征という事になるだろう。
(上海編:完)
【おまけ】
中国から仕入れてきた食材などについて、個別説明。
まず一品目、「揚州干糸」とかいう商品。3元だったか4元だったか。豆腐を押し固めたものを、麺状にしたもの。日本でも、本格的な中国料理・台湾料理の店でこの手の料理を食べる事ができる。池袋の中国食材店でも手に入るが、さすが本場中国、桁一つ安く手に入る。とても美味なので、ここは速攻ゲットだ。
原材料は大豆、純浄水、食品添加剤。
この手の食材全てがそうだったが、「純浄水」という記述があった。要するに単なる水なんだが、浄水器を噛ませた水ですよ、という事を強調しとかんと胡散臭くなるらしい。
この「豆腐麺」の調理法については、オフ会での飲み友達であるakeさんから以前習ったことがある。akeさんはこの料理が好きで好きで、池袋の食材店で買って帰ってはいろいろ試していたらしい。
作り方は、まず麺を軽く湯がく。その後、水を切ってから中華スープを少量からませ、ごま油で和える。お好みにあわせて塩少々。そして最後に、憎らしげに大量のパクチーをぶちまける。最後の工程、これ重要。この料理は、香草をおいしく食べるためのツールに過ぎないということを忘れてはいかん。
実際、相当においしく頂きました。香草万歳。誰だ、カメムシの味がするという奴は。カメムシ食ったことあるんかい。
これは「牛肉麺拌醤」という商品。レトルトのスパゲティミートソースみたいなものですな。これを麺に和えれば、「汁無し牛肉麺」ができるって事らしい。4.6元。
面白そうなので、適当に買ってみた。
克鶏蛋麺、という平打ちのきしめんみたいな乾物玉子麺も買ってみた。4.5元。
これをお湯でゆで、水切りした後牛肉麺の素を和える。もちろん最後にパクチーをどっさりとかけよう。かけないやつ、人生の1/1000くらいは損している。
見た目がさっきと同じみたいになってしまった。でも、味は当然違う。いいぞいいぞ。前菜にさっきの豆腐麺、メインにこの玉子麺で酒肴にも主食にもなるぜ。ヒャッハー。
お店の冷蔵ブースに山積みになっていたものを適当に買ってきたよ。
「鮮辣豆腐干」とかいうやつ。4元だったかな?よく商品名を見ないで買ったので、てっきり牛肉の大和煮みたいなものだと思っていたのだが、食べてみたら豆腐だったので相当驚愕した。豆腐といっても、高野豆腐みたいな食感。あまり美味いとは思わない。日本人の口には合わない味覚。
「五香小素鶏」って商品。味?忘れた。これも変な食感で、なんだか気持ち悪かった。そのまま食べるんじゃなくて、スープか麺の上に載せるものだったんだろうか?
「紫菜湯」。海鮮スープの素らしい。3.6元。
一食単位で小さくパック詰めされているので、便利。作ってみると、塩味の海苔スープなんだな。パッケージのように、お海老様がたくさん入っている事はない。これは調理例、ってやつだ。
スープの素を見ると、どう見ても大量の塩が入っている。大粒で、目立つ。これは塩辛いのではないか?と疑心暗鬼になりながら、規定量のお湯で作ってみたら案の定辛い辛い。高血圧で殺す気か?どうしてこんなに辛いのだろう。
調味料各種。
辣椒醤二種類と、なんかわからない醤を一つ。
辣椒醤は台湾でも、麺がある食堂では卓上の必需品。あちらの「辣椒醤」はいわゆるチリソースでドロドロなのだが、こちらの辣椒醤は刻んだ唐辛子を漬け込んだもので、ちょっとニュアンスが違う。
塩味が強めで、辛党のおかでんが料理に載せると、唐辛子の辛さよりも塩味が買ってしまい、何をしたい醤なんだかさっぱりわからないありさまだった。
日本人でも安心できるブランド、「李錦記」の辣椒醤は使い切ったのだが、TOSCOのPB辣椒醤は結局カビをはやしてしまった。こういうのにもカビが生えるのかとびっくり。
こいつ、よくわからん。蒸魚剥辣椒、という名前。青唐辛子ペーストらしいが、蒸した魚が入っているのだろう、多分。「猛辣」というシールが貼ってあったのに惹かれて買った。6.6元。これも、塩辛いなあ、ともてあましていたら、あっけなくカビが生えた。
むしろ、「この手の調味料はそう簡単にはカビがはえんぜ」という日本商品の方が怖いのかもしれん、と逆転の発想。
スープの素。
これはミハラさんがお奨め、ということで購入。
麻辣鍋の素は、早速使ってみた。調子ぶっこいて鍋いっぱいに麻辣鍋を作ってみたのだが、日本人の味覚とは違うものをいきなり大量に作ってはいかんということを身をもって体験した。まずい訳じゃないが、お椀いっぱいで十分。
日本人って、最後に麺とかおじやで締める事ができる味わいのつゆでないと納得できんのよ。この麻辣鍋の素は・・・結構えぐい味で、とてもじゃないが最後にシメて一息つける味ではなかった。
写真下は酸辣湯の素。クノール、何でも作ってます。
描かれているレンゲは、なんだかもの凄いバランスが悪い。手のサイズに比べてあり得ないサイズで、これは持っている手がプルプル震えそうだ。大体、その下にある鍋は一体どれくらいのサイズなんだ。「芋煮フェスティバル」状態だ。
これもミハラさんお奨めの亀ゼリー。
亀ゼリーって香港スイーツだと思っていたのだが、上海のスーパーでも当たり前のように売っているのだな。
ミハラさんは二種類を持ってきてくれて、「どっちかというと緑の方がお奨め」という。「でもせっかくだから両方比べてみたら?」と言われたので、おうやったらあ、と両方お買い上げ。上海経済に寄与したのでありました。
歳のせいか、こういうにっがい奴が最近、時々食べたくなるのよ。ただし、「時々」だけど。そのせいで、この亀ゼリーが冷蔵庫から消えたのは半年後だったが。
両方とも、ちゃんとプラスチックスプーンが同梱されているのが便利。赤いパッケージの方は、シロップ付きだ。さすがに庶民向けということもあってか、苦さは控えめ。変な味がするコーヒーゼリー程度の感覚で食べられる。亀ゼリー初心者お奨め。ただし、これ食べたら元気になるかどうかは不明。
上海ジャックをしていたといっても過言ではなかった、「王老吉」。ミハラさんからニヤニヤされながらお奨めされ、コダマ青年からも「せっかくだから」と何がどうせっかくだかわからん後押しを受け、おかでんは大航海へと旅だって行ったのであります。
亀ゼリーとセットで、罰ゲーム用ツールとしてぜひどうぞ。・・・としか言えん。
カルフール食料品売場を支配していた、黒酢の臭い。密閉されていない蓋から漏れた酢のせいなので、慎重に酢を選ぶ。
もともと、日本のスーパーで中国黒酢(黄色いラベルのやつ)を買ったって値段は知れている。300円程度。だから、わざわざ中国で重い酢なんて買う必要はなかった。しかし、「5年ものの陳年黒酢」というのが売られていたので、ついつい買ってしまった。そうか、酢も熟成されればそりゃ味がまろやかになるだろう。そんなものは日本では経験がなかったので、面白くなって買った次第。もちろん、ちゃんと口が密封されているかを慎重に見極めてから。
帰国後確認したが、無事密封は維持されていた。しかし、開封後しばらくしたら、プラキャップの隙間から漏れ始めた。あー。
この5年熟成の黒酢だが、確かに中国の黒酢にしてはまろやかな味わい。安いやつはもっとキツい尖った味がする。とはいえ、コーリャンが入っていてもともと独特の味わいがある酢なので、いざ日常生活で活用する機会があまりない。水餃子を食べるときに少量だけ使うとイイデスネ、程度だ。1年近く経った今でも、まだ半分残っている。
さすがに「黒酢健康法」と称して、これを毎日キャップ一杯ずつ飲む、なんて事はしたくない。味が独特すぎる。
15.9元だったので、500円弱。非常に高い商品。
最後。これもミハラさんから、訳も分からずに「おすすめ」と言われてそのまま買ったもの。ワンピースの女性が気になる。
なんだかわからずにコップに注いでみたら、若干透明がかった白色。牛乳・・・じゃないし、カルピスみたいなものか?
一口飲んでみて、思わず吹き出しかかった。甘い。これなんだ?あ、あれだ、杏仁豆腐のジュース版だ。よく見ると、パッケージには「杏仁露」と書いてあった。なるほど。女性の方ばっかり気がいってて、「杏仁」という文字までは目がいかなかった。
まさか杏仁豆腐ジュースがあるとは思っていなかったので、これはいきなり飲むと結構びっくりする一品。味?いやー、甘すぎてちょっと口にあわなかった。面白い一品なので、お土産にぜひどうぞ。
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