2005年01月20日(木曜日) 1日目


今回はおかでん家の家族旅行話。
おかでん兄弟は東京の企業に勤めている関係で、案外「家族旅行」というものはやっていない。ただ、おかでん母が「体が動くうちに海外など行っておきたい」ということで、初めての海外旅行に兄弟が同伴することになった。年齢的に、今後いつ体調を崩すか心配するお年頃にさしかかったのだろう。そんな母親の胸のトキメキをなんとか兄弟でサポートしたい。
とはいっても当のおかでん、全く時間がとれないのだった。近年まれに見る多忙っぷりで、「できるビジネスマン」と自らを鼓舞しないと倒れちゃう、というありさま。タイに行きたいって?ああ、それはいいねえ、はいもうぜひ。日程?・・・ええと、ええと・・・とおかでん永世名人、長考に入りました。
当初、5日間の日程を提示されたのだが、そんな期間おかでんが職場を空けたら、日本のライフラインがストップするくらいの勢い。せっかくのタイだが、4日間(現地2泊3日、機中泊1日)でご勘弁願った。後で、現地のガイドさんに「こんなに忙しいツアー客は珍しいですヨー」と笑われたくらいだ。確かに。タイといえば、バンコクに行くだけでなくチェンマイに行ったり、プーケットに行ったり、隣のカンボジアにあるアンコールワットに行ったり・・いくらでも展開のしようがある。4日となれば、自ずとバンコク限定となってしまう。随分もったいないことをしているのだが、こればっかりは仕方がない。仕事の関係でタイ駐在にでもなった時に楽しみは残しておこう。
そんなわけで、出発当日になるまでほとんど旅の概要について把握していなかった。いや、いざタイに降り立ってからも、よく分かっていなかった。今回はコーディネーター役になった兄貴にお任せ。完全におんぶにだっこだ。
手元にはタイのガイド本がある。しかし、これが使えねぇんだわ。われわれのツアーはバンコクを中心にした行動範囲となるわけだが、このガイド本、その大半をプーケットやサムイ島といった南国リゾートの紹介に充てとる。いざ機内で落ち着いて読もうとしたら、全然的外れでびっくりでござるの巻。兄貴が「地球の歩き方」を買った、と言っていたので、ならば僕は違う本を、と思ったのが作戦失敗。地球の歩き方はホント良い本です。その国の歴史から政治経済まで紹介してあり、読み応えがある。
さて、なんとか上司を説得して木曜日、金曜日の有給を取得し、いざ当日。
広島に済むおかでん母の利便性を考えて、集合場所は福岡空港とした。さすがに「成田集合!」というわけにはいくまいて。関東の人以外は、成田空港はホント使えない空港だと思う。今現在、お台場のさらに沖に巨大な埋め立て地をこしらえているが(中央防波堤)、なぜあそこに新・羽田空港をこしらえなかったのか不思議でならん。
福岡空港は国内線ターミナルと国際線ターミナルが完全に別棟。滑走路を挟んで向かい合っている位置関係にある。そのため、ターミナル間連絡バスは大きく滑走路を回り込んで走る。「やべえ、待ち合わせ時間に間に合わん」と兄弟そろって焦る。
東京に住んでいると、福岡空港が海外への玄関口というイメージがいまいち沸かないが、どうしてどうして、立派なターミナルを持っている。
やや遅刻気味ながらも到着した兄弟、思わず高い天井を「ほー」と見上げる。


今回は西鉄旅行のツアーに申し込んでいたので、ツアーカウンターでチケットの引き渡しを受ける。
「あれ?」
JAL、と書かれた看板のもとで手続きをするのだが、今回われわれが乗るのはタイ国際航空(TG)。出発案内のディスプレイを見ると、JALとTGのコードシェア便であることが分かった。いやでもちょっと待って欲しい。タイ航空ってスターアライアンスだぞ。ANAとコードシェアするなら分かるが、なんでワンワールドのJALとくっついてるのよ。不倫ではないか。
どうやら、各航空会社がアライアンスという名の徒党を組む過程の中で、過去の経緯からこういう「ねじれ現象」が起きているものもあるようだ。とはいってもタイ航空ってスターアライアンスの発起人の一つだぞ。何やってるのよ。
チェックインカウンターでANAのマイレージカードを出して「マイル、溜まりますか?」と聞いてみたが、駄目だった。ちぇっ。あくまでもスターアライアンス的ではない、「お忍び便」らしい。


保安検査場にはペットボトルに可燃物が入っていないか、確認する装置が設置されていた。2010年の今でこそ珍しくないが、当時はまだ珍しかった。なので、おのぼりさん気分満々でわざわざ写真撮影している。
これが導入されるまでは、ガソリンだろうが灯油だろうが機内持ち込みしてもバレなかったわけで、よくテロが起きなかったものだと思う。まあ、臭いで一発でバレるんだろうな、きっと。
そんなペットボトル検査機に感心している傍らで、おかでん母が検査に引っかかっていた。
「針のようなものが入っていませんか?」
という探偵のような鋭いピンポイント指摘。調べてみたら、鞄の中からソーイングセットが出てきた。さすがだ。探り当てたのもさすがだが、旅のおともに縫い針と糸をわざわざ持っていく昭和生まれの母親の思慮と愛情におかでん兄弟が泣いた。

JALとタイ航空のコードシェアだが、機材はタイ航空のものだった。
中は一面紫でまぶしい。シートが紫というのは相当珍しい。日本の観光バスでも、柄の一つとして紫色を使っているのはよくあるが、まさかこんなにド紫に染め上げるなんて発想は絶対にない。こういうところにお国柄を感じる。

キャビンアテンダントは、飲み物をサーブする段になると肩からたすきのようなものを掛けた。民族衣装なのだろうか?
エプロンをする、というなら機能的で理解できるが、まさかたすきがけをするとは意表をついた。あれ、どういう意味があるのだろう。日本じゃ、選挙やっている人がかけるか、天皇陛下が儀式の際にお召しになるか、それともサンダーバードの登場人物くらいでしかお目にかからない。


機内で飲むビール、実は美味いと思ったことはほとんどない。ぬるくなっていること、そして気圧の関係で泡ばっかり出て飲みにくいからだ。でも、「さあこれから海外だーッ」と自らの琴線にガツンガツンと触れまくる最高のアペリティフとして機能しており、絶対に欠かしてはならんものだ。
そういう「酒飲みの勝手な思惑」にどうして航空会社は迎合してくれるのだろう。スナックと食前酒の配給をわざわざしてくれるなんて、これだけで1,000円分の価値はあると思う。
もし、LCCで格安に海外旅行に行けたとしても、多分おかでんは機内ビールを頼んじゃうと思う。割高になるやんけ、といっても旅の儀式として、ルーチンワークとして、外せないでしょうこれは。
さて、そのビールだが、当然シンハービールだ。これからタイに行くというのに、国産ビールを飲むのはちと縁起が悪い。日本のしがらみはもうすべて置いて、現地のパラダイスを夢見ようではないか。
しかし面白いのがスナックだ。タイ航空オリジナルスナックなのに、中身はおかき。純和風だった。もちろん日本便用に用意されたものだろうが、タイにはおかきに相当するスナックは存在しないのだろうか?それともおかきはタイ米を使って作ることが多いので、実はタイでもよく食べられているとか?
おかきに、シンハービール。こんな興味深い食べ合わせは機内でこそ、だろう。おかでん家族で乾杯後ビールをぐびり。なんだかすべてが愛おしくなる。

そのシンハービールもタイ航空オリジナルバージョンだった。
MORE OF THAILAND WITH THAI
だって。
そういえば、先ほど書いた入国審査用の紙には、
WELCOME TO THE KINGDOM OF THAILAND
と書いてあった。
「おおー、そうか、王国だったよなタイって」
とあらためて感心する。「王様がいる国」に行くのは初めての体験。

さて、食前酒が済めばその次はお楽しみ2、機内食となるわけだが。
さっき、機内誌「サワディ」を読んでいたら、機内食の説明が写真入りであったぞ。
カートではなくコロつきテーブルに銀のプレート、そしてその上にはこん棒のような海老と墓石のような肉。それをにこやかにナイフとフォークでサーブするCAさん。
うおお。これは凄い。
もちろんファーストクラスのサービスであるということは了解済みだ。同じものがエコノミークラスに出てくるなんて夢見るアリスちゃんなことは言わない。しかし、しかしだ、せめて廃棄する海老の頭くらいは出てきやせんかのぅ。

うは。機内食ではおなじみのカートがやってきましたよと。
そりゃそうだ、他社と同じ飛行機を使っている限り、できることには限界がある。魔改造して「うちはすげえ調理できます」とでもしないかぎりは、見栄えは一緒。
多分この形状は機内でミールサービスをする上で研究しつくされたものだと思うので、「効率度外視」のアッパークラス用サービスでなければ変更の余地はなさそう。
とはいえ、カートの上にはパンが盛られたバスケットと、赤白のワインボトルが。あらなんかおしゃれ。
せめてワインでも頂いて、あのファーストクラスの豪華機内食のマネをしよう。


機内食。
上はチキン、下はフィッシュ。
フィッシュには赤唐辛子を刻んだものが混ざっており、おかでんがぜんテンションUP。タイ料理といえば酸っぱ甘辛い、というイメージを持っているのだが、唐辛子でその片鱗見たり。タイまでそんなに遠くないよ、もうすぐだよ!という気分にさせられた。事前学習をほとんどしないまま当日を迎えたおかでん、食べ物を前にしてようやく旅モードに頭が切り替わってきた。
なおこの唐辛子だが、辛さ耐性があまりない母親は食べられなかった。そんなに辛いものじゃないんだけど。
それにしても毎度困るのが、ご飯とパンという組み合わせ。ご飯を主食として食べつけない人用にパンがあるわけで、どっちかを食べれば本来は十分。でも、残すのはもったいないと思ってしまうと、両方とも食べてしまうのだった。炭水化物、摂りすぎ。これは皆さんも経験があると思う。


せっかくなので白ワインを頂く。グラスが手に馴染むサイズでかわいい。
ティーカップはできうる限り軽量化しつつコンパクトに、ということから、独特のデザインになっている。取っ手部分を象の耳のようにしているのは初めてみた。これを親指と人差し指でつかんでお茶を頂く。おままごとをやっているかのようだ。



約5時間半のフライトでバンコク国際空港(スワンナプーム国際空港)に到着。
滑走路のすぐ横にゴルフ場があってびびった。
「えっ?うそだろ?」
思わず目を疑ったが、一家三人で凝視してみたらやっぱりゴルフ場。ちゃんとフェアウェイやグリーンがあるし、実際プレイしとる人もいる。
「どうすんだよ、飛行機の風圧で球が逸れるぞ。止まっていた球も転がりだしそうだし」
それ以前に、OBぶったたいて滑走路に球が転がりました、なんて場合はどうするんだろう。到着後すぐにえらいもん、見せられた。
飛行機から降りると、真っ先に目に付くのはタイ語の案内看板。一体何が書かれているのかさっぱりわからない。分からなさすぎて思わず笑ってしまう。
それから、アイコンが日本とは違うテイストで面白い。非常口を示す看板は緑色で日本と一緒だが、描かれている絵が微妙に日本と違う。なんだかヘロヘロになりながら逃走している。大丈夫か、おい。日本のアイコンは凜、として颯爽と逃げているが、国が変わればこういう表記も変わるのだな。


まだ制限エリア内のところに、「EXCHANGE」と書かれたマシンがあった。どうやら自動両替機らしい。どこの国の通貨からどこの国の通貨にかえてくれるのか、レートもわからない大変に怪しい雰囲気。でも、お札を入れるところには日本語の注意書きもある。気になるので、試しに少し両替してみることにする。お金を吸い取られてしまっても許せる程度に。


日本語モードに切り替えると、今時感ありまくりなカタカナ表記で案内が出た。
ますます怪しい。家族全員身構えながら紙幣を入れてみる。
・・・ごく普通に両替できた。しかもピン札。拍子抜けする一同。なんだ、普通じゃん。
まあ、当たり前なんだが。空港の中で、インチキマシンが置いてあるなんてあり得ない話だし。
そうだとなればこの機械、賢いな。いろいろな国の通貨を取り扱っているようだし、結構な紙幣判読機能がついているということだ。


人がいっぱい。アジア的雑踏、という気がする。アジアには雑踏がよく似合う。
到着ロビーにはツアーガイドさんが鈴なり。みんな日本語の名前が書かれた紙を持っているので、一体何が起きているのか一瞬戸惑ったくらいだ。
「おかでん様」と書かれた紙を持つガイドさん(現地人)を発見。


海外で現地ガイドつき旅行をするのは初めての体験だったので、どういうお作法がこの後あるのかさっぱりわからない。「●●ツアー」みたいな缶バッジとかシールを目立つところに貼ってくださいね-、とか、別のグループも一緒に団体行動ですよー、となるのだろう・・・と思っていたら、あれれ。案内されたワンボックスカーはわれわれだけだよ?これに乗ってホテルに移動し、本日はおしまいだという。ホテルに移動するとみせかけて、奴隷船に乗せられるなんてことはないだろうな。
聞くと、今回は全日程通してわれわれしか参加者がいないのだそうだ。マジすか。「2名様から出発保証」とパンフレットには書いてあったが、われわれ3名でこのツアーは組まれたというわけか。すげー。
その言葉通り、現地2泊3日の行程ではおかでん一家以外のツアー客が合流してくることはなかった。思わずガイドさんの儲けを心配してしまい、恐縮。
空港からバンコクの中心街へは比較的近い。交差点や道路の合流点ごとに警官が立っていて、道行く車を見張っている。そのおまわりさんの鼻先をビュンビュン車が通過していくので大変に危なっかしい。お巡りさんは、巻き起こる埃と排ガスから身を守るためにマスクを着用していた。大変な仕事だ。
道路を走っていて、どうも既視感がある、というか異国情緒が感じられないと思ったら、この国って右ハンドル左側走行の国なんだな。日本と一緒。しかも、走っている車の多くがトヨタ車で、ほかにも日産、ホンダといった日本車だらけ。時折ベンツなど高級欧州車を見かけるくらいだ。トヨタいつの間にこんなに頑張っちゃったんだ?
ただ、その既視感の中にも、町中にいきなり金ぴかで派手な寺院がにょっきり建っていたりして、タイに来たんだな、という気にさせてくれる。

われわれが乗っている車はトヨタ・ハイエースなのだが、なぜかステアリングが交換されており、跳ね馬?のシンボル付きのものになっていた。ワンボックスカーでフェラーリってどういうことだよ。もしそんな車をフェラーリが発売したら、一体おいくらになるのやら。

三菱の車は町中でほとんど見かけなかったが、看板はあった。なぜかランエボ!
ハイパワーターボ+4WD、この条件にあらずんば車にあらずだ。

道には露天商がところどころに出ている。1月なのに施設内ではクーラーがガンガンに効いているような気温の国だ、夏場になると露天商なんてやってられないだろう。冬だからこそ、商売が成立するのかもしれない。
で、その売り物なのだが、なぜか日本刀がずらり。誰が、何の目的で、いくらで買うんだ?たとえ日本であっても、こんなもの買う人いないぞ。せいぜい、鎌倉大仏か浅草界隈くらいだろ、こういうものが売れるのは。
タイ人=日本刀大好き
と勝手にインプット。ひょっとしたらこの国、「暴れん坊将軍」みたいな日本の時代劇が放送されていたのかもしれない。
奴隷船に連れ込まれたり、山の洞窟に引き込まれることもなく無事ホテルに到着。これから2泊お世話になるのは、「インペリアルクイーンズパークホテル」。あまりの巨大さにのけぞってしまった。でけえッ。聞くと、バンコク最大のホテルで室数その数1,300だという。一部屋2名平均で泊まったとしたら、2,600人は宿泊する計算になる。一つの自治体ができちまうぞ、これ。従業員と客をあわせたら、政府転覆を狙うことだって夢じゃない。

一応高級ホテルということになっているようだ。ロビーにはきれいに細工された花が生けてあったり、雰囲気が良い。今回の旅行にかかった費用は一人91,000円。その割には随分とぜいたくさせてもらった。やはりタイは物価が安いからだろう。
タイでは花を大事にしているようで、どこへ行っても花が飾られてあった。車の中にも花、渡し船の舳先にも花、ムエタイ選手にも花、ホテルにも花。きっと優しい心を持った国民性なのだと思う。


部屋は3名部屋。片隅にはウェルカムフルーツが置いてあって、家族全員に動揺が走る。こんなサービス見たことないっぺ、と。この国では水道水は飲めないので、喉を潤すためにフルーツは重要な位置づけなのかもしれない。
早速おかでん母はフルーツに手を伸ばしていたが、曰く「水っぽく味が薄い」とのこと。日本市場向けに甘さがっつりな品種改良はされているものとは違うようだ。
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