「草津二十番勝負」で草津温泉に二泊三日。その時、寒くて夜中目が覚めるという目に遭った。外に出ると、紅葉はもう目の前。
草津白根山から降りてきた人がいう。「上はもうだめだ。紅葉シーズンが終わって冬の気配がするよ」と。な、なんだってー。都心のほうじゃ、12月上旬まで銀杏並木が美しい。まだ秋を愛でる時期は先だと思っていたのに、既に時代に乗り遅れかかっていたとは。
そんなわけで、今年紅葉を見そびれたらものすごく損した気分になってきた。あらためて、「まだ紅葉真っ盛り」な場所を探して今シーズン紅葉狩りをしなきゃ!
ただし、きれいな光景を一人で見てもあまり楽しくはない。ならばと後輩を半ば強引に誘い、今年の秋をめでることにした。
無理やり引っ張りだされた後輩だが、彼は「紅葉もいいけど」とこちらの熱気を帯びたプレゼンテーションをさえぎる。
「紅葉もいいですけど、群馬天文台に行ってみたいです」
はい?そんな場所、あるのか。初めて聞いた。星好きのみが知るマニアックな場所なのだろうか。
「何かの番組でみかけたんですよ。結構立派な天体望遠鏡があって、一般公開もしているらしいので見てみたいんですよね」
なるほど了解した。では行く方角は群馬県に決定。つい先日草津温泉に行ったばっかりだけど、まあいいや。群馬界隈の紅葉を愛でて、そのあと温泉に一泊して、翌日群馬天文台に行けばちょうど良い旅行パッケージになりそうだ。
温泉には目処がついていた。川中温泉。「日本三大美人の湯」の呼び名高い一軒宿だ。そんな霊験あるお湯ならお客さんがいっぱいでしょう?と思って、ダメもとで電話をかけてみたら案外すんなりと予約を取ることができた。川中温泉の場所は東京方面からだと草津の手前、伊香保、四万温泉よりむこう。有名な温泉地に挟まれている一軒宿のため、たとえ「日本三大美人」であっても目立たずに素通りされてしまうらしい。
そもそも、誰が「日本三大美人の湯」って名乗ったんだよ。その根拠を述べよ。こういうのは言ったもん勝ちだから、どこまで信憑性があるかわからない。こういうの、誇大広告とかで警告はあるんだろうか?まあ、もう予約取っちゃったので、今更「いや、実は日本三大というのは言いすぎでした。ベスト100くらいには入ると思いますが」なんて言い直されても困るが。すげえや日本三大美人の湯!と男であるおかでんが声を大にして叫ぼう。はいこの話題ここまで。
2008年10月25日(土) 1日目
都心を抜けた車がインターチェンジを降りたのは下仁田。まずは妙義山で紅葉を探してみることにした。
妙義山に向かう道は紅葉の気配なし。まだここは時期尚早だったようだ。
妙義山に近づくにつれ、山の形が面白くなってくる。まるでスポンジの表面のように、ぽこぽこと波打つ山なみ。このあたりの山を縦走したら、標高の割に相当疲れると思う。
妙義山。修験道の修業の場として使われる山なので、岩がするどくそびえている。同じく修験道道場である戸隠山と似ている。この妙義山、見た目通りにヘビーな登山になるのだが、目が悪いのか勘所が悪いのか、毎年山深く突撃した挙句に遭難する人が出てくる。標高の高さと遭難者数の比率でいったら、日本最悪かもしれない。あ、でも最近は「高尾山」というこれまた低山に登山初心者が群がるために、遭難のメッカになっているのでいい勝負だろう。
まった。今回は登山企画ではない。紅葉を愛でる企画だ。
駐車場に車を停めて、紅葉を探してみる。
「あった」
「なんだか微妙だな・・・」
「これ、もう紅葉が終わった後なんですかね、それとも色づいている最中なんですかね?」
「さあ?」
紅葉を見慣れていないので、何がどうなのかさっぱり。そもそも二人とも木の名前に疎い。えーと、この木の名前は何。
中之岳神社に行ってみる。
「そうか、神社といえば杉並木だよな。このあたりは全部針葉樹林だわ」
「紅葉しないじゃないですか」
「作戦しっぱい」
紅葉を見に行こう、と言っていた手前、こんなありさまでは引くに引けない。
「きれいな紅葉が見えますように」
と妙義神社さんにお祈りしておく。
ついでに、
「この旅行が終わったら、『日本三大美人』になれますように」
と無理なお願いをしておく。もし紅葉捕獲失敗、となったら、名湯に浸かってお酒飲んでわーい、と場をごまかすしかない。
妙義山から下界を見下ろす。
うーん、紅葉していないぞ。これは・・・時期を間違えたか?
道の駅妙義。
せめて味覚くらいは秋っぽくいこうや、ということで椎茸を買ってみた。下仁田界隈は椎茸栽培が盛んなもんで、産直で結構安く買うことができる。
もっと標高が高いところにいかないと。妙義山より高いところといえば、とりあえずは軽井沢だ。妙義を下りたところにある横川から、軽井沢は数百メートルの標高差がある。軽井沢に行けばもう少し紅葉が進んでいるだろう。それでだめならさらに標高が上がる北軽井沢へ移動。どうだ、これで鉄壁だ。そして北軽井沢から万座に抜けていけば、今晩のお宿:川中温泉にそのままたどり着く。
まずはお昼ご飯を。横川駅前にあるおぎのやドライブインで峠の釜めし900円を。
正直高いと思う。器を返却したらデポジット代として100円返してくれる、なんていう制度があればありがたいのだが、それはない。
「でも、お釜いらないから紙の弁当箱に詰めたやつで売る、となったらそれでも食べます?」
「いやー、全然ありがたみがなくなるので、食べないだろうなぁ」
なるほど、風情ってやつだな。
「できればこれに豆板醤など辛味成分が加わればなお美味いと思うんだ」
「そうですかねえ」
辛い物好きと、そうでない人との間には埋めがたい味覚の違いがあるのだった。
初日昼までにちゃんとした紅葉を見ることができなかった。これから挽回しないと。
17号バイパスを通り、碓氷峠越え。
ぐいぐいとカーブを繰り返して標高を上げていくのだが、するとみるみると草木が色づいてくるではないか。
「おお!ここがまさに紅葉前線なんではあるまいか」
「いやーまだわからないですよー」
「ほら!さっきから明らかに変わってきている!」
「まだまだ」
南軽井沢、入山峠入口。あった!これはもう日本の美、「紅葉」と呼ぶしかないという見事な紅葉が。なんて鮮明なんだ。こんなくっきりとした紅葉を間近で見るなんてめったにないぞ。ここが本日の紅葉最前線決定。
いやー、真っ赤な紅葉だー。
「きれいですねえ」
「今気が付いたんだけど、僕ら本当の意味の紅葉って滅多に見てないよな」
「なんスかそれは」
「街路樹の銀杏並木が色づくのを見たり、なんか適当な雑木が秋枯れして変色しているのは見ているけどね、こうやってもみじ!真っ赤!ってのを見る機会はないよなと」
「そういえばそうですね。いつのまにか紅葉って黄色いもんだと思っていたかもしれない」
しばし二人でもみじを見とれる。
「僕ね、紅葉って観光地に行かなくちゃ見られないと思ってたんだよ」
「軽井沢も観光地ですよ」
「いや、そういうんじゃなくって、○○峡とかなんとか、山の奥の方にある風光明媚なトコ。そのかわり道は狭かったり駐車場が小さかったりして道路は大渋滞」
「ああ、日光みたいなところですかね?」
「そうそう、そういう所。だけど、見ろ!週末だというのに、渋滞知らずですいすいと紅葉を楽しめるではないか!軽井沢の街路樹素晴らしいな。紅葉だらけだ」
12月になったらクリスマスイルミネーションを施す街路樹よりも、10月~11月に真っ赤に色づく落葉樹のほうがきれいだ。
「あ!結婚式だ!」
軽井沢の裏道を走っていると、生垣の隙間から挙式風景が見えた。どうやらチャペルらしい。
ウェディングドレス姿の新婦姿。
「秋の軽井沢で結婚式挙げたら、しんみりしちゃいそうですね」
「新しい生活!とはしゃぎそうになる気持ちを落ち着けてくれるかもしれんよ」
軽井沢の東の端、「見晴台」に到着。
わーい、紅葉だらけだー。
しばらく子供に帰った気分で紅葉の中を走り回る。
「見晴台」から群馬方面を眺める。ちょうどここが長野と群馬の県境。碓氷峠を挟んで、一気に土地の高さが数百メートル、差ができている。何かの地殻変動の結果こうなったのだろうか。
そんな標高差を眺めていくと、色づいている木々が遠ざるほど(=標高が低くなるほど)緑色に呑まれていく。上から俯瞰する紅葉前線。
真っ赤な実のようなものがついている木もあった。もう、赤くなりたくて仕方がない!という赤色への執念すら感じる自然の芸術。
軽井沢界隈で紅葉の名所といえば、「雲場池」というところらしい。
軽井沢には何度も来たことがあるが、その名前は初めて聞いた。地図を見ながら雲場池へ。
すると、紅葉見物のため多くの車がやってきていた。池からやや離れたところにある有料駐車場に誘導されたので、そこに車を停めて徒歩で移動。
周囲は金持ちの別荘が並ぶ。別荘を持つ金持ちの中でも特に金持ちたちがこのあたりに住んでいるらしい。とにかく広い「お屋敷」が並ぶ。
「誰が住んでいるんですかね?表札すらないですよ」
なにやらヨーロッパの家紋のようなマークの入った鉄扉のお宅を覗き込みながら、彼は持ち主探しに余念がない。しかし、手がかりとなる情報は見つからなかった。
雲場池に向かう途中も紅葉づくし。これでもか、と色の競演を展開していた。
赤いもみじ、黄色いもみじ、まだ色づいていない緑のもみじ。
一か所で複数の色がかぶりあう。同じ場所なのにどうしてこんなに色づきが異なるのか、不思議。
雲場池。おお、これはきれいだ。
雲場池は、周囲の木々が池に覆いかぶさるように生えている。それがとても美しい。
皇居お堀端にある「千鳥ヶ淵」は桜の名所で、お堀を覆うように生える桜がみどころ。それの秋バージョンといった感じだ。春に千鳥ヶ淵を見て、秋に雲場池を見れば日本の四季を満喫した気になれそうだ。
紅葉の時期としてはまさにジャスト。妙義山の色づき具合を見たときは心配になったものだが、雲場池に焦点を合わせれば大成功の旅行計画だった。
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