草津二十番勝負【ミニ湯治強行軍】

体調が優れないのはここ数カ月ずっとだった。どうも頭がぼーっとする。朝会社いくのがとても辛い。疲れているのに、熟睡感が無い。「頭がぼーっとする」のがあまりにひどいので、このサイトも「体調不良宣言」とともに更新が完全ストップしてしまったくらいだ。その結果、約2カ月近く更新が止まった。

酒飲みなので、もともと肝臓の調子がベストではない。ひょっとしたら肝機能低下による全身倦怠感なのかと思った。だから、「三度の飯は食べなくてもビールは欠かしたことがない」という生活習慣を改め、休肝日を作るようになった。お酒を飲まない日というのはそれはそれで良いもんだ、ということを今更のように気がつくきっかけとなった。おめでとう、34歳のオレ。そして、血液検査の結果、γ-GTPが若干高いもののそれ以外は全く問題なくなった。

これで朝のだるさは少し改善した気がする。しかし、その割には調子がベストではない。ベターでもない気がする。いやむしろ悪いままだぞ。ううむ、これが加齢というやつか。でもどうも釈然としない。

そんな中、久々に整体に行ってみた。もともと肩が凝りやすいのだが、最近はそれほど自覚症状を感じていないのでご無沙汰していた。すると、整体師は背中をざっと揉むやいなや、「これまで触ってきた人の中で一番固い」と苦笑いしながら言い放った。それだけなら、整体やマッサージにありがちな「凝ってますねえ」系のリップサービスだ。しかし、おかでんは過去別の2店舗でも全く同じ事を言われたことがあり、あながち大げさな話ではないようだ。どの店でも同じリップサービスを提供しているとは思えない。同じ空間には他のお客さんだっているわけだし。

しかもその整体師、僅かに自覚症状があった首と肩だけでなく、「ほら、ここも凝ってます」なんていいながら腕、足を揉む。「ああ、これはひどい。全身に疲れが広がってしまっていますね」と絶望的な発言。確かに、揉まれて気付く、体の凝り。あちこち揉まれて、なんて気持ちよいのかと快楽を感じると共に、恐怖を覚えた。

それからだった、凝りについて強く意識するようになったのは。開けなくても良かったパンドラの箱が開いたかのように、その日を境に強い肩こり、首凝りを感じるようになった。意識すればするほど、痛い。頭がぼーっとする度合いも強くなったような気がする。

こっちだってその状況に甘んじているわけではなかった。打てる手は打った。

(1)フィットネスクラブ
従来にもまして、ヨガ、ピラティス、ストレッチ、バランス、そしてルーシーダットンまで取り組んでみた。やった直後は開放感を感じたので、やってることに間違いはなさそうだが、今の体だと疲労物質が余計貯まってかえって悪化してしまいそうな感じ。

(2)整形外科
総合病院の整形外科に行き、徹底的に見て、根本的抜本的革新的かつ斬新な対策を打って貰おうとした。会社をわざわざ休み、朝から待合室で待つこと2時間、ようやく診察してもらった。担当医は、肩こりがひどいと聞いて、非常につまらなさそうな顔をして「じゃレントゲンとりましょか」と一言。いやもっと問診とかやってくれないんスか。どうも、肩こりのような平凡な症状では医者としてのモチベーションが湧かないらしい。

レントゲンを前後左右から撮影し、さあ結果はどうなんだ、頸椎がゆがんでいるとか、なんとかスゲーことになっているのではないのか、とちょっとだけ期待。もちろん、骨が曲がっていては大いに困るのだが、原因が特定できると精神面で落ち着く。

すると、お医者さん、さらにつまらなさそうな顔をしながらレントゲンを指さし、

「ストレートネックですね。首の筋肉が硬直して、本来湾曲しているべき頸椎が真っ直ぐになっています」

という。

「そ、それは何かスゲー病気なんすか」
「いや、肩こりの人はよくある症状です」
「は、はぁ・・・」
「あと、男性の割にはなで肩ですね」
「え?そんなこと言われたこと、一度もないですよ」
「でも、横からのレントゲン写真を見ると、肩関節が胸骨の上端より下に位置してます」
「うーむ、で、それは問題なんですか」
「いや、肩の筋肉が引っ張られやすいので、肩こりになりやすいですね」
「で、抜本的な治療は?」
「とりあえず湿布と、筋肉を弛緩させる飲み薬を出しときます」

以上おしまい。

引っ張ったり押したりするのは、「整形外科」ではなく「リハビリ科」になるらしい。しまった、湿布貰うために半日潰してしまった。湿布は有り難く使わせてもらった。ボルタレンテープというやつ。確かに医薬品だけあって、普通のサロンパスなどよりははるかに効き目が感じられる。でも、しょせん湿布であり、劇的な変化が得られるわけではなかった。ちなみに、筋弛緩の薬は、どうせ脳の交感神経をブロックする系の薬だろうから、飲まなかった。そっち系の薬は効果が得られやすい反面、抜けだしにくくなるからいやなんだ。

(3)リハビリ科
低周波治療器による治療開始。市販されているやつとどう違うんだ、と思うが、機械が巨大なのできっと医療用器具は市販品と違うんだと思いたい。

あと、ウオーターベッドに仰向けで寝る器具があって、これが気持ちよかった。ベッドの下からジェット噴流がゴゴゴと吹き上げてきて、ベッドの生地の下から押し上げてくる。それが上から下へ縦横無尽に動く。新手のマッサージ器だ。とても気持ち良いのだが、残念ながら抜本的な解決策にはならない予感。ただし、一回のリハビリで320円なのは安い。

ところが、「平日18時以降もしくは土曜日12時以降の診療については、平成20年度より診療報酬体系が変更となったため、時間外手数料をとります」という張り紙があった。会社帰りに行くとなると高くつく。これは悲しい。

(4)内科
整体師が「体に疲労物質が溜まるのは、肝臓や腎臓の調子が悪い時に起きやすい」と言っていた。なるほどごもっともだ。また、背中の筋肉が凝るのは内蔵疾患から起因することが多いのだという。それはけしからん。あらためて内科で検査を実施。血液検査だけでなく、超音波エコーで念を入れてみた。結果、肝臓、胆のう、胆管、膵臓、腎臓全て問題なし。健康な体に産んでくれた両親に感謝。

(5)心療内科
うつの初期症状として、強い肩のこりや頭痛が生じる事がある。体からの危険信号というわけで、放置しておくと本当のうつが発症するケースがある。そんなにストレス感じてたっけなあ、と思いつつも心療内科受診。

初診の場合、30分近いカウンセリングがあるのね。家族構成や仕事の詳細にまで突っ込んだ話になったのでびびった。

しかし、「まあ、肩こりなんて多くの人がなるわけですし、気にしないことですよ」と一笑に付された。「確かにおかでんさんの言うような事例(肩こり)はあり得ますが、現時点でお話を聞く限りうつではないと思います」だって。なんだったら緊張をほぐす為の抗不安薬だそうか、という話もあったが、それは断った。デパスの類だと思うが、非常に癖になりやすい薬として定評があるのでやめておきたい。誘惑には負けやすい性格なものでして。

そうこうしているうちに、ついに体が言うことを利かなくなって、朝会社に行けなくなった。体がだるすぎる。お酒の飲み過ぎ・・・じゃないよなあ。社訓じゃないけど、「飲んだ翌日は這ってでも会社に来い」という言葉が自分の所属する会社ではよく言われる。二日酔いで休むなんて言語道断、会社に出てきてぶっ倒れる方がまだマシだ、というわけだ。生産性が低いという点では会社に出るだけ無駄なのだが、根性論の世界がまかり通っている。話がずれた。何が言いたかったかというと、そんな職場にいるので、二日酔いごときでは会社をサボらない。つまり、二日酔いを上回るくらいに体がだるいということだ。

これはいかん。いかんぞ。本格的にやばい。

対策として、2年くらい前に楽天で買った「福辻式 首ストレッチャー」なるものを押し入れから引っ張り出してきた。これ、首を強制的にのけぞらせて、ストレッチするという代物。5分もすれば、首が痺れてくる。やり過ぎ厳禁。でも、やってみたら大層塩梅が良かった。思考回路も若干クリアになった気分。しかも首まわりの血行が良くなり、首ストレッチャーをしながら新聞を読んでいるだけなのに汗ばんだぐらいだ。

さらに、東急ハンズで「姿勢矯正ベルト」を買ってきて、装着。猫背になりがちな背筋をのばした状態にするベルト。これも悪くないようだ。肩胛骨内側の血行が良くなった気がする。ちなみに、100円ショップでも同様のものが売られているが、粗悪品なので買わない方が良いです。∞型の単なるゴム帯。確かに両肩に装着すると猫背は矯正されるのだが、着けてしばらくするとゴムが脇の下に食い込み、非常に痛い。耐えられない。

そんなわけで、不本意ながら会社を欠勤していた日は、昼間はひたすらストレッチ、夜はフィットネスクラブでストレッチ及び有酸素運動という時間を過ごした。夜は、枕無しで眠る。今まで、テンピュールの枕を使ったり、松下電工製のエアー注入により頭の形に自動フィットする電動枕を使ったりしていたが、それでも朝起きると肩と首がガチガチになったからだ。結局、キンチョールのスプレー缶を首の下に置いて寝るのが今の自分にとってちょうど良さそうなので、それに落ち着いた。ただこれでは熟睡できるわけがない。寝返りを打つたびに目が覚める。辛いのう。

そんな苦痛の日々を送っている最中にやってきたのが十月の体育の日三連休。「せっかくの三連休、今年は山に登っていないから山に行かなければ。もうシーズンオフだ」という気持ちになっていた。しかしまあ待て、体調不良ですと会社休んでいるような輩が、連休になったらウキウキしながら趣味の登山をしているっておかしくないか?上司にどう説明つけるんだよ。「その程度の体調不良で会社を休んでいるのかねキミは」と言われる。

首肩の痛みというのはそこだけに問題があるのではなく、腰だとかの別の箇所の不調から派生して痛みの箇所が広がっていく事が多い。だから、「首肩のマッサージ」だけではなく、「全身マッサージ」「全身運動」は重要な事だ。だから「調子が悪いので、全身の血行を良くするために登山に行きました」というのは論理として間違ってはいない。でも、通用しないだろうなあ。

そういう「対外的な観点」で登山は無理、というのもあったし、登山の際にザックを背負うというのがたまらなく今の体調だと憂鬱。ますます血行が悪くなりそう。やっぱり登山は却下だ。とはいっても、三連休家でひたすらストレッチやっているのは憂鬱すぎる。何か良いアイディアは無いものか。

そこでひらめいたのが、「そうだ、湯治だ」。

湯治。日本では古くから伝わる文化で、もともとは農閑期の農家の人が、冬季に1カ月単位で温泉宿に泊まり込み、農作業の疲れを癒したものだと言われる。今でも体調に問題がある人が長期にわたって温泉療法に取り組んでいる例は多い。特に東北地方には湯治客を相手にしている湯治宿が散見される。

湯治は最低一週間以上行うのが普通。温泉の効果が出始めるのが一週間以降だからだ。逆に言うと、1泊2日の温泉旅行程度ではその薬効を得ることは難しい。転地効果によるリラックス、といったところが関の山だろう。

湯治を始めてだいたい3日目くらいから、温泉の薬効のせいで体調を崩す事がある。倦怠感、食欲不振、下痢、病状の悪化など。これを「湯あたり」といい、湯あたりになるといったん温泉に入るペースを落とし、回復に努める。湯あたりをおこすことは決して悪い事ではなく、「好転反応」とよばれる。なぜなら、その調子悪化を境にして体調が快方に向かい始めるからだ。温泉療法は、基本的に「毒物を体に取り入れ、自己免疫力を強化させる」というワクチンと似ている。だから、「抗体」ができるまでは調子が悪いが、抗体ができれば強い体に生まれ変わるというわけだ。

おかでんも、その先人の知恵に授かり、早く体調を回復させようと思い立った。目指すは、天下の名湯、日本三大薬湯であり、なおかつ日本三大名湯の一つとも謳われている草津温泉。

草津温泉は都心からそれほど遠くないところに位置しているし、温泉の強烈さは日本有数だ。即効性が期待できそうだ。でも、「草津に行こう」と思い立ったのはそれだけではない。この草津、地元の人のための共同浴場が18箇所も存在し、そこに部外者でも「貰い湯」と称して入浴させて貰うことができるからだ。

以前から「草津共同浴場を全部回る」事を狙っていたのだが、今回こそがまさにそのタイミングではないのか。地元の方のご厚意で、共同浴場は全て無料。お金がかからずに天下の名湯を満喫、体調回復。これは今の自分にとって最適だ。そうだ、草津に行こう。

ただ、リスクも十分に理解していた。草津のお湯は強烈で、ただでさえ1時間もじっくり入っていたら湯疲れを起こす(湯あたり、とは違う)。2泊3日で18箇所も回ったら、確実に湯あたりを起こし、かえって体調を悪くさせる恐れがある。あと、湯治というものは一日にアホみたいにお湯に浸かるのではなく、2~3回程度に留めるのが普通。たくさん入れば効果倍増、というものではない。体は疲弊するし、湯あたりのリスクを高めるだけだ。

・・・と、わかっていても、今の体調をなんとかしたかった。あと、共同浴場巡りという企画にわくわくした。よし、三連休はミニ湯治で決定だ。これでばっちり体調を直し、翌週からはエリートサラリーマンの道を疾走するんだ。

2008年10月11日(土) 1日目

企画前日夜に「草津行き!」と思い立ち、翌日朝にはもう出発だ。フットワークが軽いというか、計画性が無いというか。

思慮の浅さは当日になっていやというほど思い知らされた。

朝早く家を出発するつもりだった。関越道で渋川伊香保ICまで行くことになるので、ETCの通勤割引(午前9時まで)を利用するつもりだったからだ。

しかし、起きられなかった。体が動かない。草津に行くのが非常に面倒になった。

・・・そりゃそうだよなあ、体調不良です、といって会社休むくらいの状態だ。週末になった途端に急にフットワークが軽くなる訳がない。そうだとしたら仮病だ。

2時間くらいぐだぐだして、もういい加減に動き出さないとこの後の行程がうまくいきませんよ、という段階になってしぶしぶ行動開始。あー、だるい。

今回はお金をかけない旅を目指しているので、宿は確保しない。温泉街外れの駐車場に夜間だけテントを張って対応するつもり。キャンプ用品一式は車に詰め込んであるので大丈夫。でも、もし「さあ出発前にキャンプ用品をトランクに詰め込むぞ」という事になっていたら、絶対挫折していた。

朝9時45分、高速に乗る。外は雨。そして高速道路は大渋滞。三連休初日ということで、都心から脱出する観光客が多い。早くも、途中のICで降りて帰りたい気持ちになる。待て待て、この体の不調を直すぞという強い意志を持て。途中で諦めるな。

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