草津二十番勝負【ミニ湯治強行軍】

ベルツ温泉センター

駐車場の先には、昨晩お世話になったベルツ温泉センターの建物が見えた。なるほど、浴室で外に面した部分が一面ガラス張りだったが、展望大浴場という位置づけだったんだな。真っ暗になってからの入浴だったから全然気がつかなかった。

位置からすると、ちょうど西の河原を見下ろすことができると思われる。未確認だけど。

これだけ大きく開放的な窓ならば、女湯も丸見えなのではないかと思うのだが、どうなっているんだろう。スケベ心とは別に、単純に興味がある。

フライシートを干している最中

テントが乾くまでしばらく近辺を散策する。スキー場あたりまでぶらぶらした後、戻ってみたがまだフライシートが乾かないので参った。相当露だらけだ。

しょうがないので、車のリアハッチにひっかけて天日干しにし、それでも乾かない分についてはタオルで拭き取って片付けた。撤収終了。さあ、大滝乃湯が営業開始する9時には現地に到着していよう。

大滝乃湯

大滝乃湯到着は9時ちょうどだったが、今日も相変わらずの繁盛降り。既に入場が始まっていたが、長蛇の列が入口から伸びていた。

おかでんも慌てて行列に並ぶ。

こっちとしては風呂の写真が撮りたい。風呂が裸祭りになってしまい、盗撮カメラマンになってしまう前に、撮影しておきたいところだ。

しかし、時既に遅し、浴室に到着時点でどこの湯船も人が「おかでんシフト」を敷いて待ちかまえており、写真撮影できる状態ではなかった。残念。

なんでこんなに早い時間から、行列を作っているのかねと思うが、理由は二つありそうだ。一つは、車中泊をやっている人が朝風呂を浴びるため。朝9時に行列を作るような人は、普通温泉旅館に泊まっているとは思えない。あともう一つは、休憩室で自分のスペースを確保するためだ。休憩室はあっという間に電線に並ぶ雀状態に鈴なり。休憩室を陣取るような人は、「今日一日ここでねばる」くらいの覚悟がある人だ。だから、そう簡単に場所が空くことはない。結果、昼頃やってきた人には休む場所がないということになる。

大滝乃湯の中

入浴料800円。ベルツ温泉センターより100円安い。大滝乃湯は名物の合わせ湯があるし、個人的に最も好きな煮川源泉を使っているということもあって非常にお得な感じがする。

ただし、あらためて脱衣所を見てみると、コインロッカーは有料で100円だった。お金は戻ってこない。さすがにこれだけ人が出入りしているところで、財布やデジカメを放置しておくのはチキンレースの最たるものだ。そりゃもうキンチョーして、ゆっくり風呂に入っているどころの騒ぎではない。大人しく100円払うのが大人ってぇもんだ。で、結局100円払ったらベルツ温泉センター(こちらはロッカー無料)と同じ値段になるのだった。まあ、それでも施設の充実度からいったら、おかでんは大滝乃湯を推したい。

大滝乃湯を推したいのは、源泉の良さもさることながら、その施設にある。西の河原露天風呂は露天風呂しかない。カランすらない。ベルツ温泉センターは内湯しかない。そして、大滝乃湯は内湯(含む打たせ湯)、サウナ、露天風呂、合わせ湯と各種取りそろっている。お得感では一番上だ。

おかでんは、内湯も露天風呂もすっ飛ばして、階下にある合わせ湯に直行した。これが本日のお目当て。

合わせ湯とは、5つの小さな湯船群で構成されており、その湯船毎に温度差がある。低いところで38度、高いところだと46度にもなる。源泉が流し込まれているのは46度と45度の湯船なので、残りの湯船は温度が高い順にお湯がバケツリレーされていき、最後に38度に行き着くのだろう。この6つの湯船を、1分ずつ順番に入るというのが合わせ湯。

順番は、(1)42度→(2)46度→(3)38度→(4)45度→(5)44度、となっている。「ぬるい湯船からだんだん温度をあげていき、体を慣らす」という発想ではない。(1)はいいとして、いきなり2番目に最高温の46度という遍路道になっているのは相当にきついものがある。いやちょっと待ってください、その前に38度入らせてください。

ただ、個々の湯船は相当に小さい。3名入ればもういっぱいいっぱい、という湯船もある。だから、先客さんがいらっしゃったら入ることができず、必ずしも上記のような順番で入ることはできない。そして、高温の46度や45度の湯船だけはいつも空いているので、おいでおいでと悪魔の手招きをしてくるのだった。

いろいろな温度の湯船を往復し、46度の湯船にも何度も浸かった。思ったより耐えられる。昔ここを訪れた際は、46度の湯は熱すぎて手足がシビレたもんだが、今回一連の共同浴場巡りで耐性がついたようだ。オラ確実に強くなっている気がする。老化による神経の鈍化という可能性も捨てきれないが、それは考えすぎとしておこう。

メリハリの利いた温泉ならではなのだろうが、熱いお湯とぬるいお湯では、お湯の感じが全然違う。熱いお湯の方は体に差し込むような印象を受けるが、ぬるいともう少しまったり感がでる。これは新鮮なお湯と、冷めるまで時間が経ったお湯の違いからくるのかもしれないが、いずれにせよ熱いお湯は大いに気に入った。

この合わせ湯、基本的には「混浴」扱いだ。とはいっても、女性専用タイムもあるのでご安心を。「混浴」タイムとはいっても、女性が居たのを見た試しがない。事実上男性専用タイムと女性専用タイムに別れているといっても過言ではない。ちなみに、男性は露天風呂から裸一貫タオル一丁でそのまま合わせ湯に入ることができるのだが、女性はいったん脱衣所から外に出て、合わせ湯用の脱衣所でまた服を脱がないといけない。女性にとっては使い勝手が非常に悪い作りになっている。

おかでんの個人的意見だが、大滝乃湯に行くからにはぜひとも合わせ湯は体験するべきだ。温度差のある湯船巡りも楽しいが、床から湯船まで木造の作りは風情があってとても良いものだ。だから、合わせ湯の「女性専用タイム」は事前に確認した上で行った方が良い。時間の都合上、入りそびれたらスゲーもったいない話だ。夫婦やカップルで行く場合は、女性専用タイムと混浴タイムをまたぐような時間に訪れるのが吉。

草津町情報端末
Adobeの画面が出ていた

11時から千代の湯で時間湯の予定なので、10時半を目処に風呂からあがる。ちょうど10時半から合わせ湯は女性専用タイムになるのでタイミングが良かった。

湯上がり、一息つきつつ廊下を歩いていたら、草津町情報端末なるものが据え付けてあるのを発見。悲しいかな、「KUSATSU」の塗装が剥げてしまい、「USATSU(うさつ)」になってしまっていた。どこだよ、それ。こういうのは町の顔なんだから、早く直した方が良いと思いますです、はい。

そしてもっと悲しいのが画面表示。草津の観光案内が表示されているどころか、なんとAdobeのサイトが表示されているではないか。おい、一民間企業のサイト表示してどうする。

多分、観光案内のwebサイトの中に、PDFファイルがあるんだろうな。で、お決まりの「Get ADOBE READER」アイコンがあったんだろう。それを誰かが押しちゃったために、この画面に飛んできてしまったんだな。

可哀想なので元に戻してあげようとおもったが、ブラウザのツールバーやアイコンの類は非表示になっていた。だから、「前の画面に戻る」ことができず、にっちもさっちもいかない状態。イタズラ防止で全画面表示にしたんだろうが、かえってそれが行き詰まりを産んでしまっているとは。

現在のセキュリティ設定では、このファイルをダウンロードできません

ならば、とこっちも便乗して調子にのってみることにした。

せっかくAdobeのサイトが表示されているのだから、ADOBE READERをインストールしてみようではないか。

ぽちっとな、とインストールボタンを押してみたのだが・・・

ポップアップが表示された。

「現在のセキュリティ設定では、このファイルをダウンロードできません」

ちっ、管理者権限でPCがログオンされていないのか。その点抜かりないな。インストール失敗。

↑東京・白根山・湯畑方面

千代の湯時間湯のチケットを大滝乃湯フロントで購入する。560円也。予約不要だし、現地でお金を払っても問題ないのだが、念のためチケットを購入しておいた。時間湯というのは、TVのドキュメンタリーで見たせいもあって非常に神聖であり土足厳禁であり、かつ外部からはクローズドな秘密結社の印象があった。だから、現地であたふたするのがいやなのでチケットを先に買っておこうというチキンな発想。

大滝乃湯のフロントスタッフは、チケット払い出し時に帳簿に「正」をつけて売上管理をしていた。ちらっと見た限り、毎日数名程度しかここではチケットが売れていないようだ。やはり非常にマニアックな世界なのか。ちょっとドキドキする。

時間に遅れたらスゲー怒られそうなので、時間厳守で現地に向かう。11時から、ということなので、5分前集合じゃ遅いかもしれん、10分前には着いておかないと。

大滝乃湯から千代の湯に向かう途中に、交通案内の標識が出ていた。そこには、「↑東京・白根山・湯畑方面」という記述。なんかもう、むちゃ苦茶な記述だ。草津中心地から見て、東京と白根山は真逆の方向。それが同居しているという不思議。結局、一方通行や狭い道が多い草津の中心地は、まず中心地から脱出することが先決となる。行き先が別れるのはその後の話だ。その結果、上記のような奇妙な道路標識がいたるところに存在することになる。

ちなみに、今自分が背にしている方向に車を進めても東京には行ける。暮坂峠を越え中之条に向かう道だが、恐らくこれが最短。狭い峠道がイヤでなければそちらをどうぞ。

千代の湯

10分前集合で現地に到着。秘密のベールに包まれている時間湯に今まさに迫っている。何しろ、鍵がかかってインターフォン付きの扉の先にある湯船だ。そして、時間湯独特の入浴儀式もある。「秘密結社」と先ほど形容したが、あながち間違っているレッテル張りではないと思う。実際は秘密結社でもなんでもない、至って真面目に普通に病気治癒を頑張っている人と、それを支える人によってなりたっているんだけど。

おそるおそる、インターフォンを鳴らす。しばらくすると、女性の声で応答があった。

「ワタクシ、時間湯を体験させて頂こうと思い、お伺いいたしました。中に入ってよろしいでしょうか」

ここは丁寧にお願いをしてみる。すると、

「11時からになりますので、11時にまたお越しください」という回答。ありゃ、11時から時間湯スタート、ではなく、11時からこの開かずの扉(といっても、1日4回も開いてるが)が開く、という意味だったのか。それは大変失礼しました。準備中だったであろう副湯長(女性の方だったので、たぶん副湯長なんだろう)のお邪魔をしちゃった。外で大人しく待とう。

外で待っていると、同じように入場を待っているであろう人が千代の湯前に集まり始めた。総勢10名程度か。

11時ちょっと前になると、開かずの扉が内側から開け放たれ、「どうぞー」とわれわれを招き入れてくれた。神妙な面持ちで中に入る。後で知ったのだが、5分前集合が原則なのだそうだ。

時間湯バスタオル

ドアの中には玄関があり、玄関脇には入浴グッズが売られているコーナー(といっても狭いが)がある。そして、部屋が二つ。畳部屋で、結構狭い。脱衣所・・・かと思ったが、男女混合で部屋に通されたのでそうでもないのか。何がなんだかさっぱりわからない。

部屋に通された面々も、やや緊張の面持ち。勝手が全然わからないからだ。鍵付きのドアの中に入り、これから独特な時間湯を体験するというだけでも緊張ものなのに、部屋には「撮影禁止」だとか「勝手に浴室に入ってはいかん」「余計な事をしゃべったらいかん」みたいな注意事項が書かれている。正直、びびる。いや、びびる必要は全くないんだけど。

まず、副湯長さんが部屋にやってきていろいろ注意事項や確認事項を語った。状況に応じて順番にやっていくので、最低でも数十分、長い場合は1時間以上終わりまでにかかると聞かされ、驚いた。時間湯は高温のお湯に3分浸かるというものだ。だから、あっという間に終わるのかと思ったが、そうではないらしい。

あと、現在通院・服薬しているかどうか、体で調子が悪いところはないか、今朝既に風呂に入ったかどうか、水分は既に十分に補給してあるかどうか、血圧に異常はないか、などの確認が一つ一つ、丁寧に、かつ確実に行われた。また、ノートに自分の住所氏名を書かされた。まさか年賀状を送るので住所書いてね、なんて事ではあるまい。また、旅の記念に、というわけでもあるまい。入浴中に万が一があった時のために、素性を明らかにせよ、ということなのだろう。

そんななかで、うかつに「はい、私その項目に該当します」と手を挙げたら、「貴方は入浴は無理。今日は諦めて」と言われるんじゃないかとびくびくした。びびりすぎだ。実際既におかでんは大滝乃湯に入ったわけで、それは正直に申告した。すると、副湯長さんはどれくらいの時間入浴したのか、どこのお湯に入ったのかなど詳しく聞いてきたのでますますびびった。

副湯長さんと時間湯の名誉のためにあらかじめ言っておくが、あくまでも「その人にとって最良の効果を導き出したい」と思ってあれこれ丁寧に聞いているだけだ。その結果、入浴に不向きだと判断されたとしても、それはその人にとって良い事であり、判断を恨むべきではない。

同じ部屋にいたおにーさんが、「先日事故で腕を骨折して、骨にボルトが入っている状態なんですが」と体調について相談していた。事故以降、肘の関節がうまいぐあいに回らないんだ、と。副湯長も細かくその話を聞いていた。その方は「時間湯についてご相談したい」と副湯長に訴えていたので、ひょっとしたら今回限りの体験時間湯ではなく、湯治も視野に入れているのかもしれない。

そういうのを見てしまうと、「僕も体調悪いっす、首と肩の凝りが酷くって、全身倦怠感があります」と申告するのが、あまりにレベルが低すぎるような気がして、結局言いそびれた。本当は言うべきなんだけど。というか、それを治すために草津に訪れたのに、肝心の温泉のプロ・時間湯副湯長に相談しないとは何事か。チキン野郎め。

一つ一つの確認は、副湯長さんが念入りに行っていた。一つの質問をしたのち、全員の顔をぐるっと見渡して確認し、何もなければ次の質問へと移る。「水を補給したか?湯上がりに水が飲めるようにしてあるか?」という質問に、「僕ペットボトル持ってきてます」と言ったら、わざわざそのペットボトルの水の残量をチェックしたくらい、念入りだ。結果、「これでは少ないので外で汲んできてください」と指示を受けた。水を飲む、ということも時間湯では重要らしい。

一連のチェックが行われている最中、ずっと気になっていた事があった。バスタオル、必要なんだろうか?ということだ。今、手持ちの装備品は普通のタオルと水が入ったペットボトルだけ。普通だったらこれで十分だが、同室には女性の方(夫婦で来訪)もいらっしゃる。丸裸で時間湯、というわけにもいくまい。だいたい副湯長さんが女性だ。それに、時間湯のチケットには、バスタオルをまいた男性が湯船の縁に並び、湯もみをしている写真が描かれている。バスタオルがないと、イヤーンな状態なのではないのか。

ただ、千代の湯の外にある掲示板には、バスタオル持参のこと、という事は一切書かれていなかった。普通、共同浴場巡りをしたり温泉街散策をする場合、タオルは持ち歩くが、バスタオルまで用意する人はあまりいない。タオル兼バスタオルだ。なにも書かれていない、ということは、いらない、ということなのだろうか。

ただ、後になって実は必要でした、じゃ困るので、念のために一連の確認を終え、集金を終えて部屋を退出しようとする副湯長さんに聞いてみた。

「バスタオル・・・必要ですか?」
「当然ですね。」

即答。あ、そうですか、必要ですか。慌てて「すいません、持ってきていないので購入します」とお願いした。当然すぎて、一連の副湯長さんの確認事項にすら入っていないくらいの事だったらしい。そのやりとりを聞いて、「あ、じゃあ私も」と後追いする人数名。質問しておいて良かった。いざ時間湯、という時になって、ドタバタ騒ぎになるところだった。

バスタオルには二種類あって、「時間湯バスタオル」なるものと「バスタオル」があった。値段は覚えていないが、時間湯という名が付く方が安い。安い方を選ぶ。普通のタオルも同様に、「時間湯タオル」と「タオル」があって、「時間湯」の方が安い。

買ってみると、時間湯とプリントされたバスタオルだった。おお、これは良い記念になるではないか。こっちの方が安いとはちょっと意外。確か値段は2倍以上の差があったと思う。

ここまでで既に10分以上が経過している。確かにこれは長丁場になりそうだ。

副湯長さんは隣の部屋に移り、こちらの部屋同様に集金をはじめた。しかし、手際がやけに良いし、確認・質問事項に関するやりとりがない。さらに、「○○さんは・・・」と、名前で相手を呼んだりしている。どうやら、あっちの部屋は「経験者部屋」、こっちの部屋は「初心者部屋」として仕分けされたようだ。

時間湯を終えて

隣の常連部屋でもお会計が済んだところで、しばらくしたら浴室の方からガッコンガッコンと木がぶつかる音がし始めた。しばらくそれが続いたが、恐らくこれは副湯長さんが一人で湯もみをしていたのだろう。

その後、副湯長さんが部屋に現れ、「神様にお参りしますので、浴室にお入りください」と指示があった。「ただし任意ですが」という言葉も添えていたので、信教の自由は尊重されている。案外細かい気配りだ。

おかでんは幸い神社参拝などを禁じる宗教には属していないので、有り難くお参りさせていただくことにする。浴室に入ると、壁の上に神棚が祀ってあった。そこに、副湯長さんの音頭で二礼二柏手一礼。神妙な気分になりつつ部屋へと引き下がる。

その後、部屋替えが行われた。やはり、待合室として使われていた場所は脱衣所であり、男女別になった。女性は1名、男性は8名程度だろうか。男性脱衣所は狭くてたまらん状態。さあここからが本当の時間湯タイムの始まりだ。

副湯長さんが、トップバッターを指名していく。先ほど神様に参拝した時に湯船を見たら、結構な広さだ。10名程度が入るのは可能だと思う。男女別にしたとしても、2回で済むはずだ。しかし、副湯長さんが指名したのはおかでんを含めて数名。適当に選んでいるわけではなくて、何か考えながら人を抽出している。順番には意味があるらしい。初回はとりあえず初心者ばかりを集めました、というわけでもなく、常連さんも混合していた。また逆に、初心者でも二回目以降に回されている人がいた。まあ、ずっと待つよりはトップバッターなのでありがたいことだ。すぐに服を脱ぎ、バスタオルとタオルを持ってスタンバイ。副湯長さんの指示があるまでは浴室に入ってはいけないので、合図があるまで待った。

中に入っても副湯長さんの指示が行き渡る。どこか適当なところに陣取れば良いのかと思ったが、一人一人「あなたはこちらへ」と細かく場所を指定していた。その時は指示に従う事で精いっぱいでなぜだろう、ということは考えられる状態ではなかった。

バスタオルを取って、と言われてええっとびびる。何のためのバスタオルだったんだ。股間を隠すためのものじゃなかったのか。よくわからんまま、バスタオルを隅に置く。女性の副湯長さんに股間を見せるのはどうかと憚られたが、さすが場慣れしている副湯長さん、今更男性の股間ごときで動じるわけもなかった。そんな些細なことより病気治癒が先決、というわけだ。

まず最初に、頭にタオルをかぶせ、その上から手桶で30杯のお湯をかぶるよう指示を受けた。熱いお湯に入るとき、頭からそのお湯をかぶればのぼせ防止になる。これは時間湯に限った手法ではなく、その他の熱い温泉(例えば、那須湯本の「鹿の湯」など)でも推奨されている。手桶を取ろうとしたら、副湯長さんから「それ、違う!」と鋭い注意。慌てて、もう一つの手桶を取った。何がいけなかったのかわからないが、様式美みたいなものがあるのだろう。

お湯をばっさばっさとかぶる。熱さはそれほど問題なさそうだが、足元を流れるお湯がもの凄く熱い。樋から流れてくるお湯の量は少ないので、恐らく浴槽に入らず溢れた分が床を流れているらしい。あまりに熱くて、飛び退いたくらいだ。これが副湯長の湯もみによって温度が下げられたのだな。

あれ、そういえば湯もみはやらなかったな。ウォーミングアップも兼ねて、時間湯の最初は全員で湯もみをするものだと思ったが、省略されている。

さあこの後がクライマックスの入浴。湯船の上に橋のように渡してある木の板の上に副湯長さんが立ち、「支度がよろしければそろそろ下がりましょう」と言う。一同、「オー」と声を上げて湯船に浸かる。湯は、気合いをいれたり声を出して誤魔化さないといけないほど熱くはない。先ほどの大滝乃湯の46度合わせ湯よりも低温に感じた。45度、44度くらいか。

あまりの熱さに耐えかねて、3分を待たずに湯船から逃走するという恥さらしにはならずに済みそうだとまずは安心。これだったら、5分はキツいけど3分なら大丈夫(おかでん基準。一般人なら相当キツい温度)。

さあカウントダウンの開始だ。要所要所で副湯長さんが声をかけてくるので、それに対して「オー」で返さないといけない。オーと声を出すことで熱さを我慢できるという直接的な効果もあるが、発声時に温泉の湯気を吸い込むため、体内からの治癒効果が期待できるのだそうだ。

「そろって三分!」「オー」からカウントダウン開始。

1分経過時点で、「改正の二分!」「オー」。改正とはなんぞや、と思うが、とりあえずオーと答えておく。

2分経過時点で、「限って一分!」「オー」。なんだか、プロレスの試合で、リングアナが「残り時間1分!」と叫んでいるのを思い出した。

ここからは副湯長さんのかけ声が小刻みになる。熱さで手足が痺れてくる頃なので、我慢のしどころだと励ます意味があるのだろう。

30秒前に、「チックリご辛抱!」「オー」。

15秒前に、「辛抱のしどころ!」「オー」。

10秒前に、「もうじきです」。ここでは、「オー」ではなく、「ありがたい」と応える。

ラスト5秒のところで「如何ですか」。今度は「効きました」と返す。効いたかどうかはともかく、そう答えなくちゃいかん。「よくわかりません」「効いていません」などの場を乱す発言厳禁。病は気から。効いたんだよ、確実に。まずはそう思え。

そして、3分に達すると「さあ効きましたらそろそろ上がりましょう」「オー」でおしまい。湯船から出る。「効いていないのでもう少し入ってます」というのも当然駄目です。

ふぅー、なんて言いながら湯船から立ち上がったところで、常連さんから「頭、低く!」と指示された。見ると、湯を頭からかぶった時のように、土下座スタイルで頭を低くしている。慌ててそれに倣う。貧血防止ということだ。高温の湯に浸かっていたので、急に立つと倒れる危険性があるのだな。これも経験に裏打ちされた様式美(美、という表現を使うと、真剣に治療されている方に失礼かもしれないが、おかでんには様式が持つ意味に美を感じた)だ。

しばらく土下座したのち、副湯長さんから「お疲れさまでした。できるだけ体をふかずにあがってください」との指示。ぞろぞろと浴室から退却した。よく「風呂からあがるときはしっかりと体を拭いて」と入浴施設では注意書きを見るが、ここではその逆が推奨されているから面白い。温泉の成分をできるだけ体に吸わせるために、上がり湯を使わないのは当然として、体を拭くことすらしないのだった。

・・・バスタオル、何に使うんだろう。股間隠しには使わなかったし、体は拭かないという。はて、必需品だったのかどうか。

副湯長さんは、早速第二陣の時間湯に向けて準備を開始していた。ストップをかけていた源泉の供給を開放し、樋からはどばーと勢いよくお湯が湯船に流れ込んでいた。

更衣室に戻ったら、即着替えてサヨウナラではない。まだ時間湯はこの後も続く。ここでようやくバスタオルの登場で、バスタオルをかぶり、5分以上はじっとしていること、という指示を副湯長さんから受けた。なるほど、温泉成分を入念に染みこませるわけか。

出番待ちの常連さんの話によると、普通はバスタオルを数枚持ってくるのだそうだ。何しろ体が濡れているわけで、まずは1枚、下に敷く用で必要。それから、かぶるのに1枚。だから、最低2枚だ。さらに念入りにやるなら、胴体用、足用などと体をラッピングするかのように巻き付けるので、もう2枚くらいあると良い。常連さん曰く、「凄い人になると、部屋のストーブをガンガンに焚いて部屋をサウナ状態にして、自分は頭からタオルをかぶって顔の前でタオルをクリップで留めてる」んだそうだ。部屋を蒸し風呂、自分自身もタオルで蒸し風呂という二重構造だ。ここで汗をしっかりかき、なおかつ温泉成分を体に浸透させる事が重要。さすがに、湯治まで思い至った方の執念はすごい。でも、当初抱いていた「病気を何とかして治したい・・・辛い・・・」という陰鬱な感じはなく、常連さんはあっけらかんとしていた。暗い気持ちでは病気は治らない、明るくいこうということだろう。「いまだにかけ声で間違えるんだよね。全然関係ないところで『ありがたい!』って叫んじゃったり」なんて言ってけらけら笑っていた。

「温泉成分染みこませ時間」の間に、常連さんの話を聞いていると、その人の症状に応じて副湯長さんはお湯にいろいろ工夫をするそうだ。一つの湯船の中でも、成分の濃淡、温度を変える技術を持っているともいう。なるほど、浴室に入った際、配置に拘ったのはそういう意味があったのか。あと、トップバッターの選定には作為的なものがあったが、これも症状や年齢に応じて、類似する人をそろえたということなのだろう。第二陣、第三陣になると、その時のメンバーにあわせてまた副湯長さんはお湯の温度と成分を調整するわけだ。もの凄く細かい。職人技だ。「これだけの人数だったら、男女それぞれ1回の合計2回で済むじゃん」と最初は思ったが、そういう単純な話ではないということだ。恐れ入りました。

ちなみに第二陣は、たった一人の女性に対して行われた。旦那が既に第一陣で終わっているので、配慮したものと思われる。第三陣以降に残された常連さんは「人が多い時は終わるまで1時間半くらいかかる時もあるんだよね」と苦笑いしていた。確かに、そうなることもあるだろう。ただ、時間湯は1日4回、2時間ないし3時間間隔で行われている。1回で1時間半もかかってしまうと、すぐ次の回になってしまう。時間湯づくしだ。でも、常連さんは湯治目的で時間湯を利用しているわけだから、それでも良いのかもしれない。

汗が出きったところで、服を着用し千代の湯を後にした。いやあ、最後の最後ですごい体験をしたな。温泉の濃度に勝る濃厚な時間だった。まさに、草津ミニ湯治の旅の締めくくりにふさわしい湯であったよ。

今回の旅の総括としては、やっぱり草津のお湯は良いねと。天下の名湯という言葉に偽りなしだ。今回、20ものお湯に入りまくるという暴挙に出たわけだが、この歳にして完遂できて良かったと思っている。温泉は歳食ってからでも楽しめる趣味だが、20のお湯に入り続ける体力なんて、あと何年持つことか。老体になってからではできなかった事だろう。もちろん、何度にも分けて訪れて、少しずつ各共同浴場を巡れば良いだけの事なんだが、それだと面白くない。一度にやってこそ、面白くなる。ただし、くれぐれも普通の人は真似しないように。体調を崩します。多分、草津の湯を知る人から言わせれば、「愚行」にしか見えない事をやったんだと自覚しております。

その結果・・・といっては何だが、翌日、思いっきり湯あたりを起こしてしまい、早速会社を休んでしまった。まあ、当然の結果だが、「草津のお湯をナメんじゃねーぞ」という温泉の神様からの天罰なのだろう。

ただ、ありがたいもので、首と肩の調子はその半月後くらいから少し改善していった。でも、多分これは草津効果ではなく、「スプレー缶枕」効果っぽいが。

次回草津を訪れる際は、一日三回程度の頻度で、じっくりと時間湯のお世話になってみたいものだ。あと、今度はさすがに宿に宿泊だな。これだけお世話になったんだから、もう少し町にお金を落としていかないと申し訳が立たぬ。まったりと、時間湯と宿の往復で一日を過ごすのも悪くない。

ありがとうございました、草津温泉。

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