長崎の過去と今【軍艦島・池島】

シュークリームを食べるばばろあ

寿司屋で無事、「嬉野湯どうふ」にありつくことができた我々は、日が暮れた嬉野の街を歩く。ばばろあが「部屋飲みするための酒と肴を買おう」と提案したからだ。スーパーとはいわないまでも、ちょっとした酒屋くらいはあるだろう。

途中、洋菓子店を発見。甘いものに目がないばばろあは早速入店し、一個数十円という安いエクレアを発見。「食後のデザートは必要じゃろ?」と言いながら買っていた。僕もつられて買う。

ばばろあと僕は浴衣姿。

ばばろあは「浴衣の方が楽じゃん」というスタンス。

僕は「せっかく温泉に来たんだから、浴衣を着て旅情を味わいたいでしょ?」というケチくさい発想。

一方の蛋白質はというと、普段着のままだ。しかも、シャツの一番上のボタンまで閉めてきっちりしている。ネクタイをするわけでもないのに、一番上までボタンを閉めなくてもいいだろ?こういうところがいかにも蛋白質だ。

たぶん彼は、「まっすぐ歩いてくれ」と言われたら、「止まれ」と言うまでひたすら真っすぐ歩き続けるだろう。そんな真面目というか、馬鹿正直な性格だ。着崩した格好をしている姿を見た記憶がこれまで一度もないかもしれない。

とはいえ、僕が中学一年生のとき、彼の存在は学年中で注目の的だった。そいうのは、パンツがブリーフというのが当たり前の年代だったのに、彼だけトランクスをはいていたからだ。そんなんどうでもいいじゃん、と今となっては思うが、1980年代の広島というのは、まだまだ後進的で閉鎖的だった。そんな世界でトランクスというのは「大人」でありイキっている存在だった。

子供の浅はかさというか、「蛋白質がトランクスを履いている」というのはあっという間に広まり、そこから尾ヒレがついて「蛋白質はインキンタムシだ」とか「ずるむけでとんでもないことになっている」というデマが流れたものだ。でも実際問題、蛋白質に「なんでトランクスなの?」と聞いたら、「風通しがよくていいじゃないか」と答えたので、「ブリーフの風通しに不満がある⇒股間が蒸れている⇒インキンタムシ」という発想になったのは致し方ない。

スーパーかと思ったらホームセンター

スーパーの看板らしきものが見えたので、そこまでてくてくと歩いていった。

しかし、近づいてみてびっくり。

「おい、ホームセンターだぞこれ」
「まじか!なんで温泉街にホームセンターがあるんだよ」

地元民からしたら、ホームセンターがあって何が悪いということになる。とはいえ、スーパーを求めて、酒肴をもとめてここまで歩いてきた立場からすると大変にがっかりなのだった。

これ以上お店を探す気にもなれず、諦めて戦利品ゼロで宿に戻った。

2017年05月05日(金) 4日目(最終日)

嬉野温泉の朝

最終日の朝を迎えた。

昨晩も、3時間ほどかけてばばろあ劇場が展開されたのだが、さすがに独演会形式ではなくもうちょっと会話形式にはなった。というのも、聞き役になっていた蛋白質が軽く風邪をひいてしまい、そうそうに寝込んでしまったからだ。

とはいえ、ばばろあが

「蛋白質、あいつはあんなに遠藤周作が好きなんなら、もっといろいろな彼の作品を読まにゃいかんで。『沈黙』だけじゃなくって、他にもいっぱい書いとるんじゃけえそれも読んでこそ沈黙でほんまに言いたかったこともわかるようになると思うんよ」

と僕に話していたら、寝ていたはずの蛋白質が飛び起きて

「読んどるぞ!狐狸庵先生のエッセイとかそういうのも読んどる!」

と言ってきたのにはびっくりした。

それはともかく、最終日にどこに行くかが前日夜になっても全く決まっていなかった。夕方、久留米にある「モヒカンラーメン」で豚骨ラーメンを食べてから、新鳥栖駅で解散するということだけは決まっているけど、それだけだ。

ばばろあは、

「吉野ヶ里遺跡には行ったほうがええと思うんよ。わしら高校の修学旅行で行ったじゃろ?あの時と比べ物にならんくらいデカくなっとるから。昔って、ほったて小屋みたいなのが数軒建ってるだけじゃっただろ。そのつもりで今行くとびびるで。なんでここまでデカくなったん?ってくらいデカい」

と力説する。へえ、それは面白そうだ。

いや、正確に言うと、「昔との違いを対比して、面白そうだ」だ。はっきりいって、弥生時代の遺跡というのは見ても大して面白くないものだ。これは吉野ケ里にかぎらず、静岡県の登呂とかもそうだ。お城のような派手さがないぶん、ひたすら地味。修学旅行でも、ほとんど記憶に残らないくらいにつまらなかった。

そんな施設が大発展を遂げるとは。違いを見てみるのはよさそうだ。

ただし、せっかくクリスチャンの蛋白質がいることだし、我々もド・ロ神父に感化されたフシがある。このまま佐世保から平戸に抜けて、教会巡りを続けたいという希望もある。ばばろあと地図を見ながらウンウン唸ったが、この案は結局採用されることはなかった。

「あっちはあっちで、あらためて一つの旅行としてやろうや」

という話になったからだ。夕方に久留米・鳥栖方面に向かうにしては、ちょっと無理がある行程だった。

ばばろあはぼやく。

「佐賀界隈って、あっちこっちにちょっとした観光地が散らばっとるんよ。一つの観光地を目的にするにしてはインパクトが弱いし、かといってハシゴするには面倒だし」

実際そうだ。伊万里や唐津というのも佐賀の重要な観光地だが、たぶんこういうところに行くと3人の興味の度合いによって温度差が激しいだろう。今回はやめておいたほうがよさそうだ。

結局、

武雄温泉⇒肥前浜宿⇒吉野ヶ里遺跡⇒柳川⇒モヒカンラーメン⇒新鳥栖駅で解散

という流れになった。

卓上

荷造りをしている最中、蛋白質がかばんに手を突っ込んで「あっ」と声を上げた。

何事かと思ったら、かばんから「ネスカフェ・ゴールドブレンド」がでてきた。しかも未使用品の新品だ。

「何だ、コーヒーを飲みたかったのか?」

と聞いたら、彼はニヤニヤしながら、

「いや違う、こういうことがしたかったんだ」

と遠藤周作の本を横に据える。・・・ああ、そういうことか。

昔、ネスカフェ・ゴールドブレンドのTVCM「違いがわかる男」シリーズの中で、遠藤周作が登場したことがある。それのオマージュだ。でも、遠藤周作がそのCMに出たのは1972年のことだ。僕らが産まれる前だぞ?お前一体何歳なんだ。

「しまったな、外海にいるときにやっておくべきだった」

と悔やむ蛋白質だったが、「いいんじゃない?折角だから今写真を撮っておきなよ」と声をかけたら、彼は気を取り直して写真撮影をしていた。

遠藤周作文学記念館でこの行為に及ばなくてよかった。彼の性格なら、チケット売り場のスタッフさんに「ネスカフェ、持ってきたんです!」などと聞いてもいないのに見せびらかしそうだ。

で、写真撮影を終えた蛋白質は満足したらしく、そのままこのインスタントコーヒーをかばんにしまっていた。

「えっ、飲まないの?」

綾波レイ?

宿の駐車場はちょっと離れたところにあるらしい。車を取りにばばろあ一人が離れている間、しばらく宿の前で待機する。

建物の壁に、浴衣姿の女性が描かれていた。壁にじかに描いたのだろうか?よく描けているものだ。

「でもこれ、綾波レイに似てるよな」
「やっぱりそう思った?」

ウルフカットの女性を描くと、必然的に綾波レイに似てしまうのだろう。

嬉野温泉の街

朝の嬉野温泉。

ご覧の通り、高い建物が少ない。つまり、宿が少ないということだ。このあたりはシーボルトの湯に近く、一番の中心地のはずなのに。

巨大なホテル

そんな嬉野温泉中心地?の中、こつ然とそそり立つ建物がある。

てっきり市庁舎かなにかと思ったが、もちろんそんなわけはなく、「ホテル桜」という宿だった。周囲との調和というのが全くない、我が道をゆくホテル。いや、むしろ周囲にこのクラスの宿がないということが非常に不思議だ。これだけ有名な温泉地なのに。

ただ、このホテルは圧巻すぎる。夜になると建物の看板が光り輝き、しかもゆら~りゆら~りと色を変える。ちょっと浮いている印象すら受けた。

最上階に展望露天風呂があるそうなので、そこから嬉野界隈の景色を一望できるだろう。眺めを楽しむにはちょうどよさそうだ。

ネオン街

ホテル桜の駐車場脇には、スナックなどが集まった建物がある。

やっぱり、温泉街といえばこういうネオン街もセットになるものなのだな。僕はこういうお店に出入りする機会が全くなかったし、興味もなかったので、こういうお店の需要というのがさっぱりわからない。どういう人がお店に繰り出すのだろう?

なにしろ、海のもの山のもの盛りだくさんの宿メシは、食べきるとかなり満腹だ。仲居さんから「ご飯のおかわりは自由ですからね〜」なんて言われたら、ついつい食べ過ぎちゃうし。さらにそこでビールやら清酒を飲んだら、一体この後どこに「二軒目に行くぞー」という気力体力胃袋があるというのか。

しかも、部屋に戻ったら、もう一度風呂に入りたいし。

という発想はあまり一般的ではないのかな。宿飯はそこそこにして、なれない温泉街の飲み屋に繰り出してサイコー!という人がかなりの数、存在するっていうことなんだろう。



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