
15:53
ピザのお昼ごはんを食べたのち、月形町を後にする。
これからもここに来る機会があるのかどうか、わからない。千歳のハタケをこちらに移転させるという話もあるけれど、空港からそれなりの距離になってしまうし、免許と車が潤沢にないと東京からの応援部隊の送迎が難しい。
しかし恐るべきは北海道よ。昨年、ハタケのついでにニセコ、洞爺湖を巡ってそのスケール感とダイナミックさに愕然とした。そして今回も、地味ながらも雄大な大地の月形という町を知った。いくらウロチョロしても飽きない気がする。
日本は少子高齢化・人口減国家だ。失礼ながら、北海道の地方はどんどんこれから人が減り、集落が消滅していくことになるのだろう。「老後時間が出来たら、北海道のあちこちを旅したい。」なんて悠長に考えていたら、間に合わない気がする。そしてそれは北海道に限った話ではなく、日本全国がそうだ。
海外のメジャーな観光地なんて、ほっといても潰れない。それよりも、日本の地方に行くことを考えたほうが良さそうだ。
月形町を去る途中、道中に松田とうふ店を発見したので急停車した。月形の名物として数えられていた、「樺戸とうふ」を売るお店だ。今回いろいろ月形町にはお世話になったので、なにか少しでも貢献したいと思っていたところだ。名物を買って帰ろう。

・・・で、買ったのがこれ。樺戸あげ、樺戸とうふ、「月形まんまるトマト」という名前のトマトジュース2本。
保冷バッグなんて当然持ち歩いていないけど、あとはもう東京に帰るだけだし・・・まあいいか。腐らないだろう、という希望的観測でものを考える。それにしても北海道みやげで、ジュースはともかくお揚げと豆腐を買うことになるとは思わなかった。

17:45
一同は、六花亭円山店にやってきた。六花亭といえば、札幌駅近くに「札幌本店」があるのだけれど、こちらは17:30閉店でもう間に合わなかった。さらに我々は車なので、駐車場が併設されているお店がいい、ということで中心部からちょっと外れたところにある円山店が選ばれた。
僕が運転する車には、お昼にピックアップした日帰り組2名が乗車していたのだけど、ジャージで現れた女性に話をあれこれ話を聞いてみてさらにびっくりした。
今晩1時過ぎに新千歳空港を出る便で東京に戻るのだ、というからだ。
そんな深夜便、聞いたことがない。マジか。でも、実際にそういう便があるのだという。しかも、
「朝4時頃に羽田空港に到着しても、電車もモノレールもバスも運行していないので、始発まで空港の中で待機していないといけない」
のだという。よくもまあ、そんな便に乗るものだ。しかも北海道日帰りで。それだったら、今晩は札幌とかで一泊して、明日ゆっくり帰京すればいいのに。お金が勿体ないのかな。いや、だとしたらわざわざ日帰りで月形まで来るわけがない。
「明日ふつーに仕事ですよ?」
えええ、マジですか。というか、この人バカなのかな、と思ってしまった。日帰りで北海道、というだけでもすごいのに、深夜便で東京に戻ってきて、空港に雪隠詰めになって、始発電車で帰宅して、1時間程度?仮眠をとって、それで仕事。どうしたらこんな予定を立てられるというのか。
若さ故の無謀なのだろうか。
この人、いったい何歳だろう?と思わずルームミラー越しに顔を覗き見てみたが、ジャージ姿&化粧っけ無しだったのでまったく年齢不詳だった。若作りのマダムのようにも見えるし、若いんだけどそれなりに見えるし、そのどれでもないようにも見える。さすがに初対面の人相手に年齢は聞けなかったけれど。

六花亭のお菓子なんて、新千歳空港に行けばいくらでも売っている。しかしわざわざ直営店に行くのは、併設カフェで直営店限定の冷菓などが売られているからだ。
ほら、「雪やこんこ まじりっけなし」というスイーツが売られているぞ。

「雪やこんこ」というのはブラックココア入りのビスケットでサンドされたホワイトチョコレート菓子だ。しかし直営店併設カフェでは、ソフトクリームにブラックココアビスケットを載せたメニューが用意されている。
うん、うまい。
うまいというより、「なんだか北海道を満喫してるな」感がある、といった方が正しいか。

18:23
カフェでお茶をした後、1階のお店で六花亭のお土産を買う。直営店でしか売っていない品(◯△□など)があるので、「荷物になるし、空港に着いてから買えばいいや」とはならない。あと、バラ売りをしているものもあるので、あれもこれもちょっとずつ食べたい、という一人暮らしには向いている。
ここで僕は一人、仲間たちとお別れとなった。21時前の飛行機を予約していたからだ。
おかしいな、21時前の飛行機って随分遅いのに、僕が真っ先に引き上げるとは。
残りの仲間たちは、この六花亭のすぐ向かいにある別のカフェ、「円山坂下 宮越屋珈琲本店」に行くのだという。カフェをハシゴするのか。すごいな。さすが、カフェに集まった人たちの遠足だけある。
みんなにお別れを告げ、一人車で新千歳空港に向かう。

少し早めに新千歳空港に戻ってきたのは、みんなとのお別れタイミングの関係もあるけれど、もう一つの野望があったからだ。それは空港のラウンジを使う!ということだ。
不肖おかでん、つい先日ようやくクレジットカードのゴールドカードを所有するに至った。なんのことはない、住宅ローンを組んだらその関係で勝手に銀行系のカードが金色(こんじき)に輝き出しただけのことで、僕がブルジョアというわけではない。
で、その金色のカードをひけらかしに、ラウンジに入ってみようと思ったわけだ。そのためには、搭乗時間よりちょっと早く空港に到着しておく必要がある。
しかし、空港に到着してみて「あっ」と思った。
空港が、なんとなく活気がない。それもそのはず、地震の影響でターミナルビル内の店舗営業がかなりストップしているんだった。すっかり忘れていた。
ラウンジは上のフロアにあるはずだけど・・・えーと、何やら人の気配がないような気がする。

スマホを取り出して情報を確認してみたら、こう書いてあった。
※地震の影響により、スーパーラウンジにつきましては、当面の間、休業させて頂きます。
あー。
しまった。調べておけばよかった。
「くつろぎのひとときをお過ごしください。」と書いてあるけれど、地震直後でくつろぎのひとときを提供できるどころじゃないわけだ。そりゃそうだ。

ラウンジくつろぎ計画は頓挫してすっかり途方にくれてしまったけれど、この空港はいくら時間があっても足りないだけの、超巨大なお土産屋さん街がある。ここでしばらく時間を過ごすことにしよう。
こうして、21時ごろ(正確な時刻は忘れた)の飛行機に乗り、日付が変わるか変わらないかくらいの時間に東京の自宅に戻ってきた。短いけど、変化に富んだ面白い旅だった。地震の被害に遭われた方々は大変にお気の毒だけど、その結果僕は北海道の違う一面を見ることができた。
自宅に帰ってから、「そういえばあのジャージ娘はまだ新千歳にいるのだろうな」ということに気がついた。なにせ、「電車の始発まで羽田空港で待機」だけじゃない。新千歳だって終電があるわけで、その時間から飛行機の搭乗時間まで、空港でぼんやり待機していなくちゃいけないのだった。
メッセンジャーで「そちらの様子はどう?」と聞いてみたら、「売店が全部閉まっていて何もやることがない」という返事が返ってきた。なるほど、これは思った以上に苦行だな。つくづくすごい人だ。
この人が後に「いし」という名前でちらちらと僕の文章に出てくることになる、僕のパートナーだ。初対面の印象は、「化粧っけなしのジャージ姿の豪快な姉ちゃんが、日帰りで北海道にやってきた」というものだった。まあ、色気は全然なかった。これは本人も認めている。
あっけらかんと、サバサバしているので僕は「この人となら、性別を越えた友達になれるかもしれない」と思った。僕の好みのタイプは、もっとウェットな感じの性格だ(と、自分では思っていた)からだ。あと、歳を聞いてみると自分と同じ干支であることがわかった。つまり12歳年下だ。
あ、これだったら何か僕がソワソワしたりする必要はないな、比較的ご近所さんだったこともあるから、気軽にメシでも食べにいけるな、と安心だった。「下心ありつつの、女性をメシに誘う」というのは僕のような歳(当時44歳)にとってはしんどい。しかし、さすがに12歳も年の差があれば、下心もへったくれもない。むしろ堂々と、気軽に声がかけられた。
で、実際にメシに誘って、それに応じてくれて、という交流が始まったのが2018年の12月ころ。そこからあれよあれよと話が展開していき、2019年の12月に結婚する展開になった。世の中、わからないものだ。
世の中わからないものだ、といえば、いしは本当は2020年から数年間海外赴任する予定があった。それを承知の上での結婚だったわけだけど、あいにくの新型コロナウイルス大流行によって海外渡航ができる状態ではなくなり中止に。その結果、2021年春におかでんJr.が産まれることとなった。
今回この北海道遠足は、特に大きな山場もない平坦な旅行記になることがわかっていた。実際そのとおりに文章は書かれたわけだけど、それでもわざわざ旅行記を書いたのは、僕にとっての大きな転換点となった事件だったからだ。
人生、どこで転機が訪れるかわからない。でも一つ言えることは、積極的に動き回っている人に転機というのは訪れるということだ。これからも気力と時間が許す限り、動き回っていきたいものだ。(不倫をしたいというわけではないぞ、念の為)
(この項おわり)
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