閉鎖病棟・上高地【小梨平ソロキャンプ2018】

自分のやっていること全てにプレッシャーを感じ、謎の追い込まれ感に見舞われることがときどきある。

ここでも何度か話をしてきたが、どんな些細なことでも、マルチタスクな作業が発生するとものすごく焦ってストレスになる。

たとえば、両手にスーパーの買い物袋いっぱいに買い物をして帰宅したときなんてそうだ。玄関から家に入って、まずはリビングまで行って照明をつけようか、それとも右手の荷物をとりあえず下に置こうか、いや両手の方がいいだろうか、マスクを外すのが先か、そのためには耳につけているイヤホンをどうしようか、玄関の鍵は?

・・・赤の他人からすると、どうでもいいことだと思う。でも、僕はそれをどうすれば最適化できるのか、最短の一筆書きができるのか瞬時に悩み、結論が出ず、焦る。その結果動作がフリーズしてしまったり、心拍数が上がったりするということはない。パニック障害というわけではないから。とはいえ、こういう些細なことを毎日何度もストレスに感じているのは、生きていくのがキツい。

そのために、時々「何もやらない」時間を作ることが大事だ。

一番良いのが温泉。

何もほかにない、山奥の一軒宿が一番いい。メシの時間も内容も決まっていて、選択肢がない。やることは、風呂に入ることしかない。それだけ。

メシ時間から逆算して、寝る時間も起きる時間も必然的に決まる。そして風呂に入ることで、カリカリした気持ちが和らぐ。最高だ。

しかしお金がかかるのも事実だ。そして、「こんなことをやってて良いのだろうか?」という罪悪感もある。大金持ちならまだしも、平社員のサラリーマンがやっていいことではない、という気持ちが常に付きまとうからだ。ましてや、「人混みを避けるために平日に休みを取る」ということも組み合わせると、なおさら。

次善の策として、登山というのも悪くない。

ひたすらてくてくと歩き続けると、歩き始めに感じていた雑念が薄らいでくるのがわかる。呼吸音と、足の裏から伝わってくる振動に集中していたら、下山時には心が晴れやかになっている。

下山後に、ご褒美として温泉に入ったりご飯を食べたりできるのも、いい。

ただ登山の場合、装備品の準備とか登山計画を立てるとか、あれこれ事前準備が必要となる。登山口までの交通の便について調べ、公共交通機関をどう活かすかの作戦も練らないといけない。

「生きていくための選択肢を、できるだけ減らしたい。」と考えている僕にとっては、この登山計画立案は結構しんどいものだ。

2018年冬は、思ったより体調が悪い時期だった。

そんなわけで、1月には早速、那須湯本に療養に行った。

これですっかり調子を取り戻したぞ!と当時は思ったのだけど、メンタル不調というのはそう一朝一夕でどうにかなるものじゃない。

その後、日帰り登山を2回やって、その都度ご機嫌にはなるもののすぐにぶり返す、を繰り返した。

当分の間、情報から遮断されたい。世の中の選択肢で思い悩みたくない・・・。

そう思う日々だった。

そんな中迫ってきたのがゴールデンウィーク。

ゴールデンウィークという存在自体が、僕にとっては苦痛だ。なぜなら、「大型連休だよ?何して過ごす?」という、その存在そのものが大いなる選択肢だからだ。家に引きこもったとしても、「ねえ、外出しないの?せっかくの休みなのに?」という選択肢の声が、常に僕の頭に響き渡るだろう。

なにか、すぱっと決めてしまいたい。むしろ、その決まったことでGW期間中は身動きが取れないようになりたい。

あえて不自由が欲しい。でも、本当の不自由はもちろんイヤだ。

離島にでも行けばいいのだろう。「島で過ごす」と腹を括れる。北海道?いや、それはダメだ。北海道なら、あちこちウロウロしたくなる。だいたい、宿はどうするの、車はどうするの、飛行機は?と考えだしたらきりがない。

自分が生き生きと拘束される、そんな不自由な場所。考えをめぐらした結果、思いついたのが「上高地」だった。

上高地は過去に何度も訪れた事があり、おなじみの場所だ。直近では焼岳登山の際に立ち寄り、数年ぶりの本格登山で感極まり、「自分の居場所はここにあった!」とまで思ったくらいだ。

上高地は、山の麓であるけれど別世界だ。環境保護のため、下界からは専用のシャトルバスに乗ってでしかアクセスができない。なので、一度上高地に足を踏み入れると、そうやすやすと脱出するわけにはいかない。

いや、バスの便数は多い。だけど、上高地にたどり着くまでの手間暇とコストを考えると、「ちょっと買い出しに行ってくるわ」みたいな感じで脱出する気にはなれない。

この上高地には、バスターミナルから徒歩10分たらずところにキャンプ場がある。「森のリゾート小梨」という名前で、通称は「小梨平キャンプ場」と言う。

バスターミナルからほど近いのに、これ以上ない大絶景のキャンプ場がある。便利で、別世界。最高じゃないか。

上高地までの交通の便については、勝手知ったるところだ。特に悩むことはない。そして、キャンプ用品の準備も、大した問題じゃない。あれこれ悩んで検討して、という要素がないのが素晴らしかった。今の僕にうってつけだった。

決めた。上高地に籠ろう。テントを張って数日。最低2泊、できれば3泊。それくらい滞在して、ぼんやりして、歩いて、本を読んで過ごす。それだけ。それだけをしよう。

メシは?

これがだいじょうぶなのよ、メシについて何も心配がいらないのも、上高地を選んだ理由の一つ。早朝からバスターミナルにある上高地食堂は營業をやっている。朝飯には困らない。昼だって、河童橋界隈のあちこちのホテルなどで食べられる。夜は、キャンプ場に併設された食堂で食べることができる。

つまり、大量の食料や水を買いだして、背負って、持参・・・という手間がいらない。軽装でいける。

今の僕に必要なのは、「なにもない贅沢」だ。

上高地で、癒やされよう。さようなら、あれこれたくさんある選択肢。

2018年04月29日(日) 1日目

2018年4月29日朝、新宿。

特急あずさ松本行きが停車するホームにやってきた。

乗車するあずさは午前10時出発。ずいぶんのんびりした出発時刻だ。

それは、今日は上高地に到着してテントを張ればオッケーという行程だからだ。夕方までに上高地に到着できていれば問題ない。

実は、荷造りは前日のうちに済ませていた。でも、当日朝になって「いやだなあ、行きたくないなあ」という気持ちになってウジウジと布団の中で過ごしているうちに、出発が遅くなったというのが真相だ。

これまでの温泉療養もそうだけど、毎回ウッキウキで旅行に出かけているわけではない。重い腰を上げて、ようやくの出発だということは強調しておきたい。

前日になってこの上高地滞在を決心したので、指定席はとれなかったし、金券ショップで安いチケットを買う余裕もなかった。今日は自由席で松本を目指す。

アワレみ隊のしぶちょおとばばろあの2名が、今日から車でドライブしながら温泉を巡ったりキャンプをやる予定だという。誘われていたのだけれど、断った。またとない機会ではあったけど、「あてもない旅」というのは今の僕にとって「選択肢がいっぱいある世界」で恐怖だったからだ。

どこに行くか、何をするかなど全部おまかせにして旅行についていくということは、考えなかった。自らの選択肢を閉ざしたとしても、やっぱり人間なので「あー、あっちの方がいいと思うんだけどなぁ」などと決定に対して違和感を持ったりするだろう。そのチリッとした心の揺れさえも、この時はいやだった。

完全に一人になりたい。一人で、自分の気の赴くままに、気が済むまで時間を過ごしたい。

そう思い、スーパーあずさに乗る前にスマホの電源をオフにした。これ以降は極力スマホを見ない、使わない。下界とは隔絶だ。

今回、本を3冊持ち込んだ。

この3冊を現地で読み終えるまでは、上高地から脱出しないつもりだ。

重たい荷物になってしまったけど、Kindleで読むというのは今回の旅の趣旨とは違う。やっぱり紙の書籍を読みたい。

本日の装備品一式。

さすがに38リットルのザックでは、ソロキャンプとはいえ荷物が全部入らなかった。そのため、25リットルのザックを使って、ようやく荷造りができた。移動するときは、背中に38リットル、お腹側に25リットルをおぶって、だっこして、もそもそと歩く。

4月末ということで、東京界隈はすっかり暖かくなった。しかし上高地は「五千尺」と呼ばれているとおり、標高が1,500メートルだ。しかも標高3,000メートルクラスの山々に囲まれた谷間で、4月末はまだ寒い。

事前情報によると、夜は氷点下まで下がるという。耐寒の装備品は持っていないので、どこまで夜の寒さに耐えられるのかは、未知数だ。

氷点下に耐えうるダウン製寝袋の購入も考えたが、店頭で実物を見て、あまりにサイズが大きいのでやめた。山用の装備品というのは、値段が高い代わりに極力小型軽量に作られている。それでもこのデカさなのか・・・と驚いたくらいだ。

でかい寝袋を買うとなると、今のザックでは到底持ち運べない。そうか、この時期にキャンプをやろうと思うと、まずはデカいザックがないといけないのだな。最低でも50、できるなら60リットルくらいのものを。

テントはちゃんと登山でも使えるコンパクトなやつを買っている。ふるさと納税でモンベルの商品券を結構な額もらったので、ただでさえ「上から下までモンベル製」という身なりが、テントなど周辺機材までモンベルだらけになってしまった。歩く広告塔みたいだ。

10:06
新宿駅出発。

今年に入って激太りしたわけだけど、その状態は健在。相変わらず太っている。

4月29日10時のスーパーあずさ自由席、客の入りはこんな感じ。ほぼ埋まっている状態。

横浜方面に住んでいる人は、横浜線で八王子までやってきてそこからあずさに乗る、ということをやる。でも、八王子から自由席に乗るとなると、週末は空いていないことが多い。

12:13
八ヶ岳が見えてきた。

まだ山頂あたりに雪が少し残っているようだ。

残雪の様子を見れば、これから僕が向かう上高地の夜の厳しさが推測できる。さて、どうかな?

小淵沢界隈から見た、南アルプスの甲斐駒ヶ岳。美しい山容だ。いつか登りたいんだけどな、待ってろよ。今回はまずは登山ではなく、北アルプスの登山口に行く旅だ。

(つづく)

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