おせちを作る、というのは実家の恒例行事で、その様子は毎年見てきたつもりだった。しかし、実際は「上澄み」の部分しか見ていなかったんだな、と唸ってしまったのが本日のパート。
黒豆と、数の子。
12月30日頃に帰省して、12月31日に実家で「さて、大晦日ですね」なんて呑気なことを言っているようじゃ、お目にかかれない下ごしらえが必要だ。1日どころか、2日がかりの準備がいるのが、この2つの料理だ。
豆。豆はどうしよう。
当初、近所にある豆屋で仕入れようと思っていた。豆を専門に売っているお店があるだなんて、といつも自転車でお店の前を通り過ぎながら驚いていたものだが、こういうときこそ、使いたい。
しかし、そこで売られていた丹波の黒豆は、容量不明ながらお値段が「2,400円」と書かれていた。まじか。
おせちには欠かせない食材だけど、黒豆は「おせちオールスターズ」の一員に過ぎない。そこにここまでの財力を注力するのは無理だ。住宅ローン支払い不能になって夜逃げする覚悟でないと。
さすが黒豆、高いものだなと思っていたところ、意外とお手軽に手に入る場所があった。
千葉県館山市にある、「木村ピーナッツ」。ここは、「ばんや」でお魚を食べまくったあと必ず立ち寄る、ピーナッツソフトの名店だ。ここでピーナッツソフトを食べると、その旨さにあきれて苦笑が出てしまうくらいだ。
そんな信頼のおけるお店で売っている黒豆だ。質が悪かろうはずがない。
スーパーに行けば、安い黒豆は売っているだろう。でも、おせちだぞ?縁起物だぞ?ちょっといい食材を使いたい、という欲がある。かといって、際限なくお高い豆は無理だ。
このお店は、正確な値段は忘れたけれど、確か250gで800円くらいだったような気がする。これだったら、買える。
いや、そんなに安くなかったかもしれない。なにせ、ここで売られている国産ピーナッツは、僕にとっては高すぎて「せっかくだから」という口実をつけても買えないくらいの値段だ。それだけ、国産の豆というのは高級だ。黒豆だって、安いわけがない。
でももういいんだ、250グラム800円ってことにしておこう。もしこれが記憶違いで、もっと高かったら微妙な空気になるし。
調理を開始する。
基本的にも応用的にも、料理はすべて目分量で作る。しかも、味見さえしない。そんなメシを毎日食べさせられているパートナーのいしはとんだ被害者だが、気を遣ってかいつも「美味しい」と言ってくれる。なのできっと味見しなくてもいい塩梅にできているんだろう。たぶん。おそらく。
そんな僕でも、黒豆制作のときはびびりまくった。
えっ、こんなに砂糖を使うの?と。
僕の母親は、「正月が近くなると、びっくりするくらい砂糖と醤油が減る」と言っていたっけ。それがまさに目の前で展開されている。しかし、やっぱり信じられない。
だって考えてみてよ、最近の喫茶店の砂糖ってどんどんサイズが小さくなってるでしょ?僕が子どものときって、角砂糖1個5グラムを、コーヒーカップに2個3個と入れるのが当たり前だった。それがどんどん少量になっていって、3グラムのスティックシュガーになって、今じゃ1グラムのスティックまであるくらいだ。
そんなご時世で、この圧倒的な砂糖の量たるや。
土木作業だよ、これじゃ。土砂を埋めているような感じだよ。
おせちって、伝統的な料理だと思われているけど多分嘘だな。少なくとも、今食べているおせちと昔のおせちは全然違うはずだ。だって、昔の人がこんな贅沢に砂糖を使えないでしょ。
数時間、弱火で煮る。
錆びた鉄くぎを入れると、色つやが良くなることは知識として知っているけれど、マンション住まいの我が家にくぎなんて存在しない。さすがに、ネジを入れても効果は出ないだろう。
ということで、くぎは入れなかった。重曹は、ちょびっと入れた。
わー
なんだこれは。
予想以上に難しいものだな、黒豆って。毎年、母親が「今年の黒豆はよく炊けた」「シワがちょっと出た」などと一喜一憂していて不思議だなあ、と思っていたが、素人が作ると黒豆はこうなるのだな。
母親の料理が上手すぎて、素人にはわからないレベルだった、ということだ。だって、過去にこんなシワシワな豆は一度も見たことがないから。
しかも、色も結構ムラがある。ふっくら、だなんてとんでもない。なぜだ。皮だけびよーんと伸びるんじゃなくて、中身も膨らんでくれよ。
「試食など無用」と強がっている僕でさえも、さすがにこれは心配な出来。ためしに食べてみたが、案の定硬かった。マジか。あれだけ煮てもびくともしないのか。
このあと何度か水を足して、追加で煮てみたけれども、大勢に影響はないようだった。勝敗は既に決した感があり、硬さは最後まで残った。食べられない硬さじゃないんだけど・・・。
味?いやもう、味は豆風味の砂糖醤油味ですよ。だって味付けはそれだけだから。これはさすがにハズレようがない。しかし食感は予定していたものと別なものに。どちらかというと、甘納豆を連想させる雰囲気だった。あとは、見た目の印象からレーズンっぽさも感じた。
なんだよ、縁起ものにしちゃインパクトが弱いな。まあいいか。
気を取り直して、というか、黒豆と並行して数の子も仕込む。
箱で買いましたよ塩数の子。
1ヶ月ほど前にコストコに行ったのだけど、そこで売られていたので「じゃあ、正月用に買っておくか」と手にとったものだ。確かお値段は2,000円以上したと思う。コストコだと、2,000円っていうのは「安い」と感じてしまう。ごついブロック肉とかサーモン切り身を見たあとだと、値段感覚が狂ってしまう。
「値段は高いかもしれないけれども、量は多いから!グラムあたりで計算すれば、安いから!」
という変な理解でつい買い物をしてしまうのが、コストコの怖さだ。普通のスーパーで正月用の数の子を探していたら、絶対2,000円オーバーのものなんて買わない。
数の子は塩漬けにされているので、まずは薄い食塩水に漬けて塩を抜いていくことになる。
塩抜きをしたあと、改めてだし汁で塩味をつけ直すのだから難しい。やったことがないので加減がわからない。
そういえば昔、母親は「数の子はあまり戻しすぎると味がスカスカになる」って言ってたっけ。僕は「へーそうなんだー」程度に聞き流していたけれども、いざ数の子を前にするとその言葉の意味がよくわかる。
それにしても立派な数の子だな。
夫婦ふたりでこれを正月に食べるって、量が多すぎる気がするけどまあいいや。
塩っけを抜いて、そのあと白い繊維状のスジを爪楊枝で引っ張って取り除く。数の子は葉脈みたいな膜で覆われているので、これをきれいに取り除かないと食感が悪くなりそうだ。
でも、これが結構難しい上に手間がかかる。途中で「みなかったこと」にしようかと何度思ったことか。
だし汁に漬け、チャック付きの袋に詰めて冷蔵保管だ。
薄口醤油なんて我が家にはないので、濃口醤油を使いつつ、いかにどす黒く変色させないかは悩ましい。
2日がかりで出来上がった、数の子。
みんなでシェアする、という発想で作られているわけじゃないので、一切れがデカい。これ一本で一体いくらするんだ?と計算してしまいそうになるが、やめておこう。縁起物なんだから。
(つづく)
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