平和公園から原爆ドーム方面を見たところ。
写真左端に原爆ドームが見える。夜でもライトアップされている。
しかし、背後に広島商工会議所の建物があるため、写真写りがとても悪い。特に、広島商工会議所の隣にあった広島市民球場が移転し、取り壊された今となってはなおさら目立つ。
「景観を損なうから、移転して欲しい」という議論は昔っからあったが、いまだに決着していない。隣接する広島市民球場跡地の再利用案が二転三転していて、それに引きずられているせいもあると聞いている。
いや、それはともかく、なんだありゃ?原爆ドームの右側に、最上階が吹き抜けになって明るく光っているビルが見える。あんな建物、見たことがない。いつのまに建ってたんだ、これ。
このあたりは景観の規制がかなり厳しいはずだけど、どうやって建てたんだ。
「なんじゃろうね?」
「場所からして、ホテルじゃないか?修学旅行生が泊まるにはちょうどいい場所だぞ」
「だとしても、あの最上階はなんだ。バーラウンジでもあるんか?」
ばばろあも知らないらしい。
回り込んでみると、建物脇にはスロープもある。
「ああ!こりゃパチンコ屋だ。上の階は立体駐車場になっているんだよ、きっと」
「パチンコ屋?こんな場所に?」
よく考えると不自然だ。さすがにこんなところにパチンコ屋はないような気がする。
「???」
と二人して状況が理解できないまま、路面電車の通り道である表側に回り込んでみたら、建物には折り鶴が描かれていた。
「折り鶴!?」
建物は「おりづるタワー」という名前だった。
えええ、いつの間にこんなものが。全く知らなかった。いやー、変わったなあ、広島。
以前、広島市民球場跡地利用で広島内外で大もめにもめていたとき(これは2017年現在でもまだもめているはず)、当時の秋葉市長が「おりづるホールを作る」とぶち上げていたけど、それがこんな形で実現していたのか。市民球場跡地そのものには作られなかったものの、道路を挟んだ向かいにしぶとく完成していたとは。
「おりづるホール」とは、当時の秋葉市長がぶち上げた、平和公園に日々たくさん奉納される折り鶴を保存するための平和祈念施設だ。
当時、折り鶴に放火されるという騒ぎが起きていたということも理由の一つだ。しかし、広島のど真ん中、これ以上ない一等地である広島市民球場跡地に「折り鶴を格納するだけの施設」を作るということに反対意見が多かったし、秋葉市長がノーベル平和賞を狙うためのパフォーマンスなのではないか、という観点での批判の声もあった。
そもそも、奉納された折り鶴は定期的にお焚き上げすればいいじゃないか、わざわざ大量にため込む必要がどこにある?という意見も。
いずれにせよ、秋葉さんから松井さんに市長が交代し、この「おりづる計画」は頓挫したと認識していたので、この建物は意外だった。
建物は地上13階建て。1階には物産館があり、最上階は吹き抜けの展望台テラスとカフェ、その下の階にはおりづる広場がある、と記されている。3階から11階までは一般のオフィスが入居している。
さすがにイチからおりづるホールを作るのは世論が許さなかったから、テナントを入居させてその費用でまかなおう、ということか。
・・・と感心していたが、翌日のますゐ詣でで、地元広島在住民たちからその間違いを指摘された。ここはもともと東京海上の建物だったのだけど、後に広島マツダ(マツダ系列の自動車販売会社)が買い取り、広島マツダによって改築されたものであるとのこと。あ、新築ビルじゃないのか。外装から見ると、全くの新しいビルにしか見えなかった。そういえばここには昔から東京海上のビルがあったっけなあ。だから、ここは公共施設ではなく、税金は投入されていない。
2016年に完成したそうだから、まだ1年しか経っていない。道理で知らないわけだ。
建物の脇にあるスロープは全く新しく作られたものだけど、ここは歩いて下ることができるのだそうだ。歩いておりたからといって何かいいことがあるわけでもないけれど、なんだか楽しい。こういう遊び心があるのは面白い。
「このスロープの脇にすべり台があるから、子供が喜ぶんよ」
しうめえが教えてくれた。すべり台!まさか、13階からストーンと1階まで、らせん状に滑っていくの?
「いや、1フロアごとにいったん止まるようになっとるんで、子供でも安心して遊ばせられる」
へー、そういう工夫もされているのか。
設計は三分一博志。中四国地方ではとても有名な建築家だ。独特なデザインセンスは特徴的で、僕は結構好きだ。
ちなみに最上階の展望台に上がるためには、1,700円の料金がかかる。びっくりするくらい高い。運営主の広島マツダ曰く、「一企業が運営する以上損をするわけにはいかないので、この値段になった」とのこと。確かにその通りだと思うが、これでは地元民のリピートはないだろうし、一見の観光客も足が遠のくと思うのだけど大丈夫だろうか?
「あー、すごいことになってるなあ」
おりづるタワーの正面には、広島市民球場跡地がある。僕は、ここにまだ市民球場が建っていた光景しか知らないので、がらんとしてしているこの眺めには驚きが隠せない。
広島の町というのは、広島駅を中心に栄えているのではなく、駅からやや離れた場所にある紙屋町、八丁堀を中心に栄えている。特に紙屋町には郊外エリアへの起点となるバスセンターや新交通システムアストラムラインの駅がある。そんな場所のすぐ脇に、この跡地がある。
「おりづるホール」の件も含めて、この跡地利用については広島市民が本当に熱く議論をしていた。サンフレッチェ広島のためのサッカースタジアム建設が良い、という意見が結構多かったのだが、なにせ場所が良すぎた。本当にサッカースタジアムをこんな場所に作って良いのか?という意見もあった。試合があるときは良いのだけど、無いときは全く集客ができない。そんな施設を町のど真ん中に置くのが良いのかどうか?というわけだ。
市民球場は広島市民の思い出が詰まっているので一部だけでも残すべきだ、という意見も多かったが、土地の利活用ができない上に維持費用がかかるため、却下された。広島以外の人からすると、「そんなしょーもないセンチメンタリズムなんて問題外だ」と思うだろうが、広島の人は大真面目に「市民球場を残せないか?」と考えていた。それくらい、愛着があり思い入れがある建物だからだ。
結局今や、何もない更地になってしまっている。そして時々、東京の代々木公園で行われているような野外イベントが開催されていると聞く。それこそもったいない!とは思うが、下手なハコ物を作ってしまい、後世にまで維持費を押しつけるのはもう時代遅れだ。納得がいく案が固まるまでは、何も手をつけないというのはむしろ良いのかもしれない。
「野外イベントの会場として使われている、と聞いているけどね」
と話をしていたら、やや?実際に何やら野外イベントが開催されているぞ。
ゲートには、「ひろしまラーメンスタジアム」と書いてある。なんと、ラーメンのイベントが行われているらしい。
「とりあえず近くまで行ってみよう」
ということでゲートまで行ってみたら、入場無料のお気軽なイベントだった。入場料を払ってまで中に入る気はしなかったが、無料だったら入らない手はない。ひとまず、中に入ってみることにする。
町のど真ん中にぽっかりと空いた広い空間。公園ではないので、トイレは仮設だし、地面は舗装されていない砂利だ。そんな中に、屋台がいくつも並んでいた。
ラーメン屋台がメインのようだけど、それだけではなくいろいろな食べ物系の屋台が並んでいた。
さすがにラーメンを食べるという気にはなれなかったが、ちょっとした屋台料理をつまむというのは良さそうだ。縁日で見かける古典的な屋台ではないので、品揃えがちょっと面白い。
「なんか食おうや」
ばばろあが提案する。おう、望むところだ。ここで何もせずに引き下がるのはもったいない。
売り切れのお店もあったので、狙ったものが買えたわけではないが、この2品を購入。
焼き小籠包と、鶏胸肉のフライドチキン(大鶏排)。
「なんで広島で上海料理と台湾料理を食べてるんだ?僕ら」
と苦笑しながら、乾杯しつつこいつらを食べる。
ホルモン天ぷら → 出雲蕎麦 → シュークリーム → オレンジジュース → 屋台料理
という流れになっている。よく食べるなあ。そのかわりよく歩いてもいるけれど。
しかしつくづく思うのが、僕が広島出身者だからこそ、こういう食べ物を食べても納得している、ということだ。もし単なる観光客だったら、「広島名物を食べなくちゃ!」という義務感とワクテカ感にグイグイ背中を押され、フライドチキンなんて食べている訳がない。
知らない光景が増えてきている広島ではあるけれど、やっぱりここが自分の地元なんだ、ということを実感する。
それにしても、先ほどからばばろあが何度も嘆息している。
「今日は三連休で?行楽シーズンで?なんで広島のど真ん中なのに、これだけしか客がおらんのや?」
そこそこの賑わい、とはいえ、各屋台の行列はあまり長くない。100万人都市にしては、ちょっと物足りない人の集まりだ。
「お店もそんなに悪くないと思うんじゃけどねぇ、どうして人が集まらないんじゃろ?」
確かにそうだ。もったいない話だ。
東京でこの手のイベントをやったとしたら、人が多くてウンザリすることになるだろう。
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