久々のますゐ料理を前に、なんだか照れる。
40歳過ぎた大人の男性が「料理を前に照れる」というのは気味悪いかもしれないが、それでもこういう気持ちになるのが、ますゐの魅力だ。
ああ久しぶり、という気持ちと、これまで疎遠にしていてすまん、という気持ちとが入り交じる。あれ?「うまそう!食うぞォォォ」という気持ちはその次だな、今思うと。
ますゐ料理がうまいのは当然なのだが、それはすでに「おふくろの味」レベルの殿堂入り状態だ。今更、「うまそう!」なんて言うだけ野暮、っていう感じの崇高なる存在になっている。
料理が到着したら、「ウェーイ」という奇声を上げるのではなく、「おおおぅ」と野太い声を上げる。そういうのが似合うのが、このお店だ。
2003年8月の時のしうめえ。「全メニュー制覇プロジェクト」第二回目の時だ。
料理の到着を喜び、そのワクワク感を存分に体現している様を写真に収めている。
「せっかくだから、あの光景を2017年バージョンでもう一度」
ということで、2017年11月4日バージョンを撮影。あれから14年。アワレみ隊はこう変わりました。
酸いも甘いも知っている年頃になっているため、昔のように無邪気な喜びは表現できていない。これが「年を重ねる」ということなのか!
「大人の渋み」と呼ぶにはまだ早いし、かといって「大人げない」というほどでもない。44歳、ちょうどそういう端境期なのかもしれない。
でも、いいよな、「昔と今」をこうやって比較して笑い合える仲間がいるって。本当にありがたいことだ。
さて、「お通し」としてのサービストンカツを見てみよう。
「サービストンカツって、最初っから包丁入ってましたっけ?自分でナイフとフォークで切ったような気がするんですけど」
ばばろあが店員さんに確認する。店員さんは
「こっちの方が食べやすいと思って、切っておきました」
と教えてくれた。
ああ、そうだった。この流儀は昔っからそう。団体客にサービストンカツを出す時に限っては、箸でも食べられるようにカットしてくれているんだった。すっかり忘れていた。
魅惑の「ますゐソース」が相変わらずたっぷりとかかっている。この料理はカツを食べるためにあるのではない。ますゐソースを食べるためにカツがついているのだ。ソースが全くケチられていないのが素晴らしい。
「なんか以前よりも肉の反りっかえりが激しくなっている気がする」
昔っから、サービストンカツは350円という激安価格で提供するために、肉は薄かった。そのため、揚げると「のたうち回っているかのような」形状になる、という特徴があった。
とはいえ、2017年バージョンはそれがより一層拍車がかかっているような。
箸でつまんでみて、その理由がわかった。
ありゃ、肉がますます薄くなってる。
ビアホールの「ニュートーキョー」の名物料理、「紙カツ」とほぼ同じだ。カツの衣部分の厚みと、肉そのものの厚みが拮抗しているっぽい。
なるほど、道理でカツがのけぞる訳だ。
2003年1月の時に撮影したサービストンカツ。2017年版サービストンカツと並べて比較したわけではないのでなんとも言えないが、やはり月日の経過とともに肉は薄くなったように見える。
そりゃそうだ、350円でトンカツにライス付きだぞ?いくら「赤字覚悟」なんてきれい事を言ったって、物事には限度というものがある。「350円で料理を提供し続ける」ためには、それなりの対策を打たなくちゃいけない。
ちなみに、2017年版サービストンカツが物足りないか?というと、全くそんなことはない。むしろうまい、うますぎる。ガリガリとした衣の食感が、まったりと甘みとコクのますゐソースとよく合うからだ。
以前、「おそるべしますゐソース」の回で調査研究したが、このソースはジューシーな肉や料理とはあまり相性がよくない。むしろ、素っ気ない素材の方が、相性が良い。
それを考えると、2017年版サービストンカツというのは、ますゐソースを味わい尽くす究極の進化形なのかもしれない。それが350円で食べられるなんて、ここはこの世の楽園なのか。
ちなみに300円値段があがり、ライスが付かない単品料理である「上トンカツ」を頼むとこうなる。650円。
カツの厚みがある程度しっかりしてくるし、カツの下にキャベツの千切りが添えてあるというのも特徴だ。(サービストンカツは、茹でキャベツ)
「この皿ええよね。売っとらんかなあ」
ばばろあがしきりにそんなことを言う。皿!?その発想はなかった。
楕円形の皿は、白い無地で何の変哲もない。中華料理店でギョウザがのっかっていても不思議ではない。よくもまあ、こういうところに目をつけたものだ。
「絶対売れると思うんよ、『あの!ますゐで使われている皿!』とか言って売れば。なんなら、『肉のますゐ』って皿の一部に字を書いて」
さすがの僕でさえ全然共感できない話だったが、熱心に語るばばろあの話を聞いているうちに僕も欲しくなってきた。この皿に、お惣菜のカツでもなんでも盛り付けて、ますゐソースをかけて食べたら・・・さぞや風情が出ることだろう。
このアイディアに自信を深めたばばろあは、やってきた店員さんに「お皿、売ってませんかね」と直接聞いていた。店員さんは面食らっていたけど。
あ!「上ハンバーグステーキ」だ!
ノーマルのハンバーグステーキと比べて200円高い(850円)、プチブルな料理。「上」ならば鉄板で出てくるという、特権階級ならではのサービスが受けられる。
昔は「上ハンバーグステーキ」を頼むと「おおおおお」とどよめきが起きたものだが、今の僕らはしれっと注文している。
それだけ財力に余裕ができたから・・・というならかっこいいのだけど、実際は「あれこれ食べるほどの胃袋キャパがないので、せっかくだからちょっといいものを。」という消極的理由でリッチなものを食べている。
「腹が減った!たくさん食べたい!だから安く!」という、わんぱく盛りの時代は遠くになりにけり、ということだ。
ハンバーグステーキ一つを眺めるだけで、こうやって時代の流れをしみじみと感じさせる。
それだけ、ますゐと共に我々は生きてきた、ということに他ならない。
いやあ、毒々しい色だな。
といったら語弊があるけれど、黄色!赤!以上!という潔い、オムライス。730円。
なんでばばろあがオムライスを頼んだんだか、理由は忘れたけど、彼は何か語っていたはずだ。なんだったっけ。
福神漬けってカレー専門の添え物という印象だけど、オムライスにも添えられるのだな、と感心させられる。
これは「鶏モモステーキ」780円。
「こんなの、無かったよな?昔は」
「多分無かったと思うで」
「じゃあ、頼まなくちゃ」
ということで頼んだもの。
見ての通りの、鶏もも肉のソテーに、マッシュルームが添えてある。茹でキャベツと千切りキャベツ添え。
ご家庭でも簡単に再現できそうな料理ではある。わざわざますゐで食べなくてもいい。ますゐソースがかかっているわけでもないし。
「いかんな、どうしても『1サービストンカツ=350円』という単位でモノを見てしまうので、これが割高に感じてしまう」
このお店の素晴らしいところでもあり、悲劇でもある。もういっそのこと、「1,000円以上ご飲食された方に限り、350円でサービストンカツをご提供します」というルールにしちゃってもいいんじゃないか?とさえ思えてくるくらいだ。
牛煮込みスープ、1,350円。
「うお、スープなんてものもあるのか!こりゃすげえ、汁物も箸休めにはいいから、ぜひ頼まなくちゃ!」
と言いながら頼んでみたもの。
が、届いてみて気がついた。あ、これは食べたことがある。
新参者の部類に入るメニューだけど、いつだったか食べたことがあったぞ、これ。しまった、予習復習を怠っていたせいだ。
ハーフサイズの牛煮込みスープが780円であるので、そっちにすれば良かった。
と、思いつつも、これがうまいんだよなあ。はっきり言おう、スゲーうまい、と。
だってスープの色を見りゃ、わかるでしょ?勝利の色だぞ、これ。いろいろ煮溶けてます、ってことがバレバレじゃないか。
しかも、お玉でお皿の底をすくうと、こんなごっつい肉がホロホロになって入っているんですもの。団体でこのお店を訪れたなら、ぜひ頼もう。
汁物が何か欲しいよね、といってもこのお店には「赤だし」しかない。お味噌汁もいいけど、せっかくだからこういうのでガツンといっちゃおうぜ。
はくちゃんとおかでんとで、ますゐ料理を前に笑みを浮かべている一枚。
そういえば、この場に居合わせているばばろあ、しうめえ、はくちゃんは「ますゐ全メニュー制覇プロジェクト」全8回のうち7回参加した、歴戦の勇者だ。8回フル参加したのは僕だけなので、最も「全メニュー制覇に貢献した人たち」ということになる。
あらためてこの写真を見ると、ますゐの料理皿は案外大きいということに気がつく。単品の写真を見るとこぢんまりとした印象を受けるけど、実際に手に取るとずっしりと重く、大きい。
なので、一人でこのお店を訪問しても、食べられる料理の数は知れている。あれも、これも食べたい!となると、団体様での訪問に限る。大皿料理中心の中国料理店と一緒だ。
このお店、くるくる回る円卓があると便利なのになあ、と真剣に思うが、そんなことを考えるのは我々だけかもしれない。
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