12:48
先ほど雲に隠れていた不帰キレット周辺の雲が晴れてきた。では早速答え合わせをしてみよう。
・・・わからん。
一つ言えることは、あのギザギザの上にまたがった状態で、前後にぐいぐいと引きずられたらさぞ痛いだろうな、と。
その発想もよくわからん。
12:49
それにしても、なだらかで穏やかなここ、八方尾根とは雲泥の差だ。どうしちゃったのそんなにカリカリしちゃって、まあカルシウムでも摂れや、っていう感じ。見るも恐怖の絶壁で相手を威嚇しなくってもいいじゃないか。僕怖くて震えちゃうヨー。
そりゃあ、これだけ急斜面でぎざぎざしていたら、雪渓だって秋になっても溶けずに残るだろうな。日が直接差すのは一日何時間もないだろうから。
12:53
ギザギザ、ワクワクな山容は対岸の火事だと思っていたがそうも言ってられなくなってきた。こちらもそれなりにごつごつしてきましたよと。
とはいっても、マッチョ感満点に目の前の岩によじのぼるようなルートではなく、ぐるーりとトラバースするルート。そうそう、できるだけ穏便に行こうじゃないか諸君。争い事は好まないのだよ僕は。
12:57
お?
濃いガスの向こうに、なにやら直線的なものが見えると思ったら・・・山小屋だ!
あらら、唐松岳頂上山荘に到着でございますか。
八方池山荘から登山開始で1時間58分経過のことだった。
正直、ちょっと拍子抜けしてしまった。標準コースタイムは約3時間半。もっともっと時間がかかるものだと思っていたのに、すいすいすいと登っているうちに大幅時間短縮で到着だ。凄いぞ、僕。トレーニングの成果が出たじゃないか。エアロバイク、レッグカールなどを頑張ってきた甲斐があった。まだまだ全然体力も余裕ありまくりだ。
何だかサイボーグ化したような気がしたので、「シャキーン、シャキーン」と効果音を口にしながら歩く。全く無意味だ。
12:58
山小屋脇から稜線に出た。
標準コースタイムでは、ここまでで3時間半、ここから五竜山荘まで2時間半となっている。すなわち、11時登山開始だと夕方5時に山小屋到着の見込みだった。
・・・温泉旅館に泊まるんじゃないんだから、夕方5時に山小屋到着予定なんてプランを立てるのはばかげてる。遅くとも16時、現実的には15時、可能ならば14時くらいには山小屋に到着するようにしなければならない。よい子のみんなは今回のようなプランを立ててはいかんぞ。今回僕の場合は、コースタイム通りの行程だった場合は唐松岳頂上山荘で一泊という選択肢も考慮していた。だからちゃんとリスクヘッジはしていたので問題なしだ。
しかし、こうして大幅に標準コースタイムを短縮してきたので、五竜山荘へは余裕をもって到着できそうな見込みになってきた。もちろん、行きますとも。
ギリギリの行程も想定していたため、この唐松岳頂上山荘から往復30分のところにある唐松岳には行くつもりがなかった。しかし、こうして時間に余裕が生まれてくると、とりあえず行ってミルク?という気になってくる。しかも、五竜岳方面の縦走路を見やると・・・うはぁ、いきなり小高い丘に登るルートになってます。いきなりここに行くのはちょっと憂鬱。劇団四季のライオンキングじゃないんだから、あんな高い丘い登るのはちょっと、今は。はい。
12:58
しかも、五竜岳とは逆方向・・・白馬岳方面に位置する唐松岳山頂方面は、非常になだらかだ。登ってくれ!と言わんばかりだ。
登りましょう。ここまできて登らないわけにはいくまい!?
12:59
巨大な唐松岳頂上山荘の横を通りすぎる。
実際の唐松岳頂上へはここから20分かかるのだが、まあ名前なんてのはつけたもん勝ちだ。飲食店における「元祖」「本家」なんてのと一緒だ。
話はずれるが、先日池袋の町はずれで「元祖豚骨ラーメンの店」というのを発見してえらく仰天したことがある。なんと、豚骨ラーメンのルーツは池袋にあったのか!?と。ま、もちろん信じちゃいないけど。
標高2,620m。収容人数350名の比較的大きな山小屋だ。
以前兄貴がこの山小屋に宿泊したことがあると言っていた。そのときは水制限が大変に厳しく、お皿を洗う水すら惜しいものだから、お皿にラップを巻きつけて料理が提供されていたそうだ。食後はラップを外せばあらびっくり、水一滴も使わずにきれいなお皿が維持されているという仕組み。
この山小屋には「六根清浄ラーメン」なる名物があるらしいのだが、一体どんなにありがたいラーメンなのかは不明。さすがに時間に余裕ができたとはいえ、ラーメン食らってるほどゆとりはないので確認はできなかった。
後で考えれば、昔の僕だったら「とりあえず稜線突入おめでとう記念」だとか、「富山県と長野県の県境にまたがってる俺記念」とか適当な理由をつけて麦酒を飲んでいるんだよな。しかし、この時は全くそんな気が起きなかった。老けたなぁ。何しろ、昔は北穂高岳山頂で麦酒飲んでる始末だもんな。危ないって。
13:08
唐松岳の山頂を目指す。
途中、雪渓を見下ろす。やー、大絶壁ですなぁ。ジェットコースターで最初の急降下をする直前、「あっ、これはやばい」という絶望感を感じる瞬間の光景を思い出した。
しかし、絶壁といえば絶壁なのだが、こうして上から見下ろすと、下から見上げた時よりも傾斜が緩く見えるのはなぜだろう。
13:11
ザックを山小屋の近くにデポしておいたので、非常に身軽だ。手ぶらでひょいひょいと登っていく。雷鳥がひょっこり出てきそうなハイマツの中を進む。
13:11
おっ、前方から人の談笑する声が聞こえてきた。ということは山頂がすぐそこということだな・・・
と、心の準備をしていたら、見えてきたぞ、なにやら山頂っぽい標識が。
黄色い標識の横に盛り上がっているのはケルンかと思ったが、そのケルンがにょろりと動いたので相当にびっくりした。わっ、人だった。おばちゃんじゃございませんか。
石の色と一体化してたので分からなかった。
近づいてみるとこのおばちゃん、白地に青色のチェック柄の服を着ていた。しかし、遠目だと石ころの色とあまり違いがわからない。こういう格好をしていると、崖から滑落してしまったときに救助が遅れそうだ。ああいう色の服は買わないでおくことにしよう。
13:12
山頂で思わぬ勉強をさせてもらったが、まあそれはともかく、13時12分晴れて唐松岳山頂に到着。標高2,696m。
風が相当に強い。どどどぅ、と風が押し寄せてきて、体が押される。風は富山側から吹き付けており、せっかくの景色を奪うガスも富山側からどんどんと供給されていた。
13:13
不帰キレット方面を眺める。おー、結構面倒臭そうなアップダウンがあるじゃあないか。ガッツが激しくかき立てられるが、そっちに行ってしまうと白馬岳だ。「この先にある天狗山荘、夕食に供される「天狗鍋」が名物らしいんだよなあ」と余計なことを考えてしまう。
そうこうしているうちに、写真左手・富山側からぐいぐいとガスが押し寄せて、稜線を乗り越えて信州側に侵入してきていた。大変だ、信州がガスで覆われてしまう!
いや、全然大変だ、とは思っていないんですけどね。
この「富山側からのガスと風」というのは、鹿島槍に登ったときも痛い目にあわされてきた経緯がある。くっそう、今回も僕に刃向かうか。
13:15
晴れていれば、後立山連峰に対峙する形でビシーッと見えるはずの立山、剱岳が全く見えない。
何ですかこの写真は。まるで飛行機の窓から外を眺めたみたいじゃないか。いやいや、あくまでも水平方向にカメラを向けて撮影しただけなんですけどね。
13:16
山頂にいると風にあおられるし、これでもかこれでもかとガスが富山さんから送りつけられるし、こりゃいかんということで山頂は早々に退却。本日の目的地は、標準コースタイムで2時間半かかるこの先の五竜山荘。さっさとしないと、富山さんからの物量作戦に屈した信州さんもガスで充満しちまう。
13:23
戻ってきました、唐松岳山頂山荘。
テント場は富山側の急斜面を下ったところに、こじんまりと・ひっそりと用意されていた。ピーク時だとこのテン場はすぐにいっぱいになってしまいそうだ。あと、お手洗いに行くのも一苦労だ。テント泊の場合は、麦酒飲みすぎ注意だな。
13:30
何だか周囲がガスってきたんですけど、まあいずれまた晴れる時もあるでしょう。とりあえず第二回目の栄養補給。なぜかザックからでてきたのはお赤飯のおむすび。何を祝おうというのだ、何を。
お赤飯、大好きです。祝い事が無くても食べたいです。でも自分で作るガッツはあまりないので、もっぱらスーパーのお総菜売り場で買ってくるんだけど、これが高い高い。何でこんなに高いの?ってくらい高い。あと、難しいのが、付属してくるごま塩。これを絶妙な塩加減でかけるのがまたむつかしくて、ちょっと手元が狂えば
話がずれまくってる。さっさと食べて、さっさと行動再開しなさい。
13:36
はーい。
ということで行動再開。先ほどの丘を「おいまじかよ巻き道無いのかよ何で一番てっぺんまで登らなくちゃいかんのだよ」と言いつつ登る。
登った先には・・・
あら。
神に祈りを捧げるには丁度良さそうな、空に突き出た出っ張り。あれれ、行き止まりですか?
ま、行き止まりなわけはなく、前方の岩には黄色いペンキで「○」「×」の印が付けられている。いよいよ来たな、岩場遊びタイム。
×の方向に間違って迷い込むと行き止まりでゲームオーバー、場合によってはあの世行き。ちゃんと五体満足で下山してまっとうな人生を歩みたければ、○が記された方向へ進め、という「お前のあまのじゃく度合いを見極めてやるぞ」選択肢。もちろんこんなところで意地を張る気はさらさらないので、おとなしく○の方向に進む。
13:36
岩場の向こう側には五竜岳の勇姿が・・・みえねぇ。
なんとなく、正面に山があることは分かった。あと、この先随分と高度が下がることも分かった。おーぃ、やってくれるじゃないかぁ。せっかく溜め込んできた高度を一気にここではき出させるつもりだな?
13:37
さあフィールドアスレチックの開始です。
早速鎖場の登場で、先ほどまでののどかなトレッキングムードが一変して気合い入れ直しだ。
13:37
なぁに簡単なことです、前に進みたければ転がり落ちればいいんです、そうすればどんどん前に行きます。
なんて冗談を言おうとしたら、うは、いきなりこうきましたか。目の前の岩から先の稜線が全然見えないんですけど。さらにすぱっと切れ落ちているということかそれは?
ウフフいきなりデカい爆弾で来たつもりカシラ、ウブなコネコチャン。
そうはいくか。
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