日本満喫お接待【群馬ぐるぐる観光】

Fishから、「Jennyが今年も来日するよ」という話を聞いたのは、2008年のお盆明けだった。

Fishは台湾人留学生からそのまま日本の企業に就職した女の子で、Jennyはその小学校時代の親友。Jennyは現在台北に住み、IT系企業に勤めているらしい。このあたりの話は、2009年02月「おもてなし三昧の世界」に詳しい。

「え、また来るの?」

2007年秋にもJennyは来日していたので、1年と開けずに再来日ということになる。日本人として、日本を愛してくれてありがとう、と頭を下げたくなるが、逆になんだか申し訳ないような気にもなる。この「すみません」的発想がいかにも日本人ならでは、なんだろう。

聞くと、Jennyの勤務先は「年に一回、海外旅行に行ってくること」がルールになっており、その旅費も一部は会社が負担するのだそうだ。もちろん休みだって、余裕で確保できる。なぜなら、それが当然の権利として認められているからだ。

すげえ。「優雅なバカンス」なんてのは、白人様の特権だと思っていたのだが、すぐお隣の国でもそんな異次元な福利厚生がまかり通っていたとは。

で、Jennyは昨年の「海外旅行権」を日本にし、今年もまた日本を選択、というわけだ。ちなみに後日談になるが、2009年はフランスに行き、2009年後半からはワーキングホリデーでオーストラリアに長旅に出かけちゃった。一体どういう会社なんだ。

「googleは社員食堂の飯がタダで食えるらしい。ええのぅ」程度で悶絶していた自分がなんとも馬鹿馬鹿しくなるスケール感だ。

話を戻す。そのJennyだが、2007年はちょうど11月の来日だったということもあり、霧降高原から日光を日帰りドライブに御案内した。日光が良い、というチョイスはFishによるものだ。微妙に紅葉の時期を取り逃がしていたが、それでも少々残っていた紅葉に南国の人・Jennyは大喜びで一眼レフカメラをブンブン振り回していた。

で、今年だ。2度目の来日、大変ありがとうございます。そして、またもおかでんに旅の案内人ご指名、身が引き締まる思いでございます。

しかし、一体どうすりゃJennyに最大限喜んで貰えるのか、そこが悩ましかった。わざわざの再来日だ。Jennyが期待する以上の日本を紹介しないと、「もう日本は大体分かった。次回からは別の国に行こう」と思われかねない。それはなんとも悔しい。「うわ、まだまだ日本って見るところが山積みだ!また来なくちゃ!」と思わせて、後ろ髪を引っ張られつつ離日させるくらい、あれこれ日本を紹介したい。・・・だけど、何がグッと来るのかね?台湾人の心境というのは全くわからないので、Fishに相談するしかない。

Fishにこちらの基本的な考えなどを提示し、ざっくりどういう場所に行きたいか、と聞いてみた。すると、返ってきた答えがこちら。

行ってみたいところは

(1)白神山地
(2)伊豆半島、鮎+温泉
(3)川中温泉

なんだこりゃ。すごすぎてよくわからんのが出てきたぞ。

(1)は・・・秋田だぞ。しかも、トレッキングになるのでそれなりの身支度と時間が必要。もちろん交通費だって相当なものだ。多分Fishは場所をあまり理解しておらず、そのせいでこういう奇抜なアイディアが出たらしい。しかし、それはそれで面白い。地理に明るいおかでんなら、絶対に思いつかない案だからだ。・・・ただし、「絶対に思いつかない」だけあって、事実上無理に近い案だが。

(2)は・・・これ、「鮎の茶屋」という鮎料理専門店が西伊豆にあって、その話を以前Fishにしたのが記憶に残っていたらしい。うん、確かにこれは十分に選択肢としてあるだろう。天城温泉あたりの宿泊とセットにすると楽しかろう。

台湾では鮎は「香魚」と書き、高級魚として珍重されているらしい。以前Fish妹が来日時、宿の食事で鮎が出たら姉妹そろって大喜びしていたのが印象的。

ちなみに、このメールの翌週末、「試しに鮎料理食べてみよう」とFishを「鮎の茶屋」に連れていったのだが、鮎づくしのコース後半で「もう鮎は当分いいよ・・・」とギブアップしてしまった。どうやら、台湾人にとって、「同じ食材がいろいろな料理になるコース料理」という手法は飽きるらしい。さすが、「前菜~野菜料理~肉料理~スープ~デザート」などと、バランスよく食べる中華料理の国だけある。日本人はむしろ、「○○づくし」というのは「面白いねえ、こういう料理もあるのか」とその七変化を面白がるのだが、台湾では事情が違うらしい。そんなわけで、この「伊豆半島鮎」計画は、Fishが身をもって体験して、却下と相成った。

(3)の川中温泉は、思わずにやりとしてしまった。群馬県にある小さな一軒宿だが、「日本三大美人の湯」として知る人ぞ知る温泉地だ。なるほど、「日本三大美人の湯に行ったぜ」というのは、Jennyにとっても話のネタになるだろう。

ただ、川中温泉って微妙に都心から近いようで近くないようで。悪くはないのだが、何か他の観光地と組み合わせたい。さてどうしたものか。

いずれにせよ、気をつけないといけないのは、台湾物価からすると日本の物の値段はありえないほど高い、ということだ。あまりにもお金がかかるプランを提示すると、Jennyに申し訳が立たない。「そこそこの値段だけど、すこぶる満足」ができる企画にしないといけない。さあどうしたもんかな。しばらく悩む。

何で「白神山地」なの?とFishに聞いてみたら、「世界遺産だから!」という答えが返ってきた。そういえば、昨年の訪問先である「日光」も世界遺産だったな。Fish曰く、「台湾には世界遺産がないので、JennyもFishも世界遺産にすごく惹かれる」んだそうな。

世界遺産は、ユネスコが認定するものだ。つまり、国連に加盟している国でないと、世界遺産登録はあり得ない。そのため、国連に加盟していない台湾(中華民国)は、タロコ渓谷などいろいろ風光明媚な場所がありながらも、「世界遺産」は皆無なのだった。

世界遺産がお好みなのか・・・と、日本の世界遺産リストをFishに送付しておく。

[文化遺産]
法隆寺地域の仏教建造物 - (1993年12月)
姫路城 - (1993年12月)
古都京都の文化財 - (1994年12月)
白川郷・五箇山の合掌造り集落 - (1995年12月)
原爆ドーム - (1996年12月)
厳島神社 - (1996年12月)
古都奈良の文化財 - (1998年12月)
日光の社寺 - (1999年12月)
琉球王国のグスク及び関連遺産群 - (2000年12月)
紀伊山地の霊場と参詣道 - (2004年7月)
石見銀山遺跡とその文化的景観 - (2007年6月)

[自然遺産]
屋久島 - (1993年12月)
白神山地 - (1993年12月)
知床 - (2005年7月)

うわ、どこも東京から遠いぞ。唯一の近場、日光は既に昨年行ったしなあ。

とりあえず、「白神山地」は最低2泊3日だし、お金だって相当かかる。まさかおかでん車で移動するわけにはいかないので、新幹線か飛行機だ。

結論:無理。

それ以外の世界遺産だって、交通費だけとってもJennyには申し訳ない価格帯になってしまう。とてもじゃないがお奨めできない。

「温泉を中心に考えてはどうか」とFishにはプッシュしておく。温泉+風光明媚なところをドライブ、という事を考えたら、福島県の土湯峠あたりにある秘湯宿なんてのが魅力だろう。会津若松、裏磐梯あたりと組み合わせると日本的で良いのではないか。

そんな検討の同時期、FishからJennyにこんなメールが飛んでいた。

A.去吃香魚大餐+温泉
B.去日本東北部(福島縣會津若松)兜風+温泉
(以上預算約一萬八日幣左右)
C.去世界遺産白神山地
(預算約三萬日幣所右)

会津若松の事を「兜風」と形容しているのが面白いねえ、なんて思って見ていたのだが、待て、白神山地が3万円で行けるかのような記述が。東京からじゃどうやっても無理だ、やめとけ。

強引に「温泉」に軌道修正する。ちょうどこの頃、Fishは「日本秘湯を守る会」のスタンプを集めていた時期でもあったので、「秘湯を守る会」会員宿に限定し、検討してもらうことにした。その際に軽くFishの意向を聞いたのだが、やたらとマニアックすぎる宿を選ぼうとしていたので「いや、それはどうよ」と忠告。

Fishは「渋いところはきっと喜ばれるはず。なぜなら、日本文化がいっぱい入ってるから。」と言ってきたが、とはいえ、渋すぎるのもリスキーですぜ。単にぼろいという事もあるし、「渋い」をJennyまで含めて喜んでくれるかどうかは疑問だ。現に、以前Fishは冬季休業するような秘湯に一泊したらしく、その施設がぼろかったと僕に愚痴をこぼしていたことがあった。「渋さ」を美化しすぎると、うっかり落とし穴にはまる。男性よりも女性の方が「渋さ耐性」は弱い。

この後、温泉宿の選択を巡って、Fish~Jenny~おかでんの意見のやりとりがあり、結局Jennyから希望として出されたのは以下の3候補となった。

1、法師温泉
2、滑川温泉 福島屋
3、奥会津三島町 宮下温泉

1の法師温泉は王道っちゃあ王道の有名な旅館だが、辺鄙な場所なので滅多に外国人観光客は来ないだろう。外国人セレクトとしては、これでも相当マニアックな部類に入る。なんでも、この湯船の渋さにJennyは惚れたらしい。

それはまだしも、2と3のマニアックな事よ。3に至っては日本人でも知っている人の方が少ないんじゃないか、という温泉。只見線沿線にある宿なのだが、まあとにかく山奥だわ。2も山奥過ぎて、どうすりゃいいの状態な場所にある。「渋い」のを選びすぎだ。でも、お客様であらせられるJennyがこう希望しているのだから、そりゃもちろんどこだって僕が手配するつもりだ。

ちなみにこの一段階前の検討時点では、「幕川温泉」だとか「高湯温泉」といったキーワードが出ていたので、よりマニアック化していったということになる。

第一希望の「法師温泉」だが、一度は泊まりたい旅館として名高い。

群馬県と新潟県の県境、三国峠の近くにある一軒宿。風情のある木造建築が旅情をそそるのだが、宿代は決して安くはない。17,000円~くらいだったと記憶している。台湾物価と比較して大丈夫かな?と心配になるが、たぶん人気宿だからそう簡単には予約がとれないだろう。「やっぱり予約は取れませんでした」という実績を作って、第二希望以下の温泉宿にTELだな・・・と思って法師温泉に電話。すると、空室がちょうどできたところだ、といううれしい返事。何そのナイスタイミング。この好都合を最大限活かそうと、肺活量最大で「3名予約をお願いします」と電話口でバリトンボイス。

というわけで、一泊二日Jenny様ご接待旅行は、群馬県の法師温泉に行くということに決定。

さてその後が悩ましい。法師温泉で一泊するのは良いが、その前後に何をして過ごそうかね、というのが決めかねる。ゆっくりと温泉浸かって帰りました、というだけでも十分なのだが、せっかくだからあちこち観光地を御案内したい。日本スゲエ、と思わせたい。しかし、法師温泉は山奥のどん詰まりにあるので、どこかに行くついでに温泉にピットイン、というわけにはいかない。もの凄く緻密に、あれこれ行き先を練らないと。

紅葉のシーズンには早いし、かといって高原の避暑ムードを楽しむような季節でもない。ちょうど中途半端な時期にJennyは来日する。どうしたもんかね。

さんざんこねくり回し、カーナビで所用時間を確認し、やり直し、を繰り返し、相当むちゃ苦茶なプランを作成した。作っている途中で、本当にこれは台湾の人に喜んで貰えるのか?と自分自身が信用できなくなってきたが、多分大丈夫ということにしておこう。

今回のキモは、「世界遺産暫定リスト」登録されたという富岡製糸場に行く、ということだ。世界遺産ではないけど、将来的には世界遺産になるかもしれませんよ、というところに行ければ、台湾勢のお二方は喜んでくれるだろう。あとは、伊香保温泉や水沢うどんあたりを組みあわせて・・・。

でき上がったルートは、群馬県を二回転ループするようなものすごいいびつな形になった。分刻みで移動することを前提とした、相当トリッキーなルートだ。つくづく自分はツアーコンダクターにでもなった方が良かったんじゃないかと思う。

2008年09月13日(土) 1日目

ぺしゃんこタクシー

旅行開始の前に、旅のプランをここで説明しておく。

[1日目]
都内のFish宅前で2名をピックアップ→富岡製糸工場→水沢で水沢うどん→伊香保温泉→榛名湖→法師温泉

[2日目]
法師温泉→谷川岳一の倉沢、土合駅→横川で峠の釜めし→碓氷峠→軽井沢→白糸の滝→鬼押し出し→草津温泉→Fish宅で解散

ぱっと見ると2日目は相当しんどいのが分かるが、1日目はそれほど激しいスケジュールには見えない。しかし、この微調整が非常に悩ましかった。「早朝出発だと、相手が疲れるだろうから旅の満足度は落ちるだろう」という事と、「せっかくの法師温泉なのだから、チェックイン時間直後には宿に入って、ゆっくりと宿時間を過ごしたい」という事のバランスをどうとるか、ということで悩む悩む。こういうチマチマしたことで延々と悩み続けられるところが、おかでんの良いところでもあり、悪いところでもある。いずれは精神をすり減らして、参ってしまうと予測。

さて当日朝、Jenny御一行様をお出迎え。そのまま首都高速C2、外環道経由で関越道へと抜ける。土曜日の朝なので、都心に車を突っ込ませると確実に身動きが取れなくなるので、それは避けた。

しかし、外環道の時点で10kmの渋滞が発生していて、早くもおかでんはへこむ。予定が狂いまくりじゃないか。

事故渋滞がおきていて、明らかにサンデードライバーと思しき事故車の横を通る際は舌がもげるのではないかというくらい強く舌打ちをする。もちろん心の中だけだが。

ようやく関越道に入って一安心・・・と思ったら、ここでも事故渋滞。やあ、のっけから試練の連続だな。今度はどこのサンデードライバー様だ?と思って、辛抱しつつじりじりと前へと進んでいったら、あれれ、個人タクシーだった。べっこしフロント部分がへこんでしまっている。一体何がどうなったんだ。運転のプロである個人タクシードライバーがこうなっちゃ、もうどうしようもないわな。

日本って事故だらけですねー、なんてJennyに思われるのは大変に残念なので、「なんだか今日はたまたま事故が多いようだねえハハハ」と先手を打っておく。でもJennyはこの事故をカメラで撮影していた。なんだか興味深かったらしい。

ヨコオのこんにゃく

上信越道富岡ICから下道に降りる。降りたところにはぐにゃりとねじれたコンニャクがお出迎え。Jennyはこれも大層珍しがって、写真を撮っていた。聞くと、台湾にもコンニャクはあるが、一般的には白っぽい色をしているんだそうな。へー。

「なぜこんにゃくが?」と聞かれたので、「この辺りはこんにゃくいもの産地で」と説明しておく。確かに、リボン状にねじれた板こんにゃくがインター出口のところでお出迎えじゃあ、知らない人からしたら何事かと思うだろう。ましてや外国の人ならなおさらだ。

富岡製糸場案内看板

おかでん自体富岡製糸場へは行ったことが無かったので、案内表示に従って車を走らせる。製糸場の前には駐車場がないので、ちょっと離れたところにある市営駐車場(有料)からてくてくと歩く事になる。

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