天上世界の愉楽、ただし雨
日 時:2003年(平成15年) 08月29日~31日
場 所:野反湖キャンプ場
参 加:おかでん、しぶちょお(以上2名)
2003年もそろそろ秋を迎えようとしていたが、まだこの年は一度もキャンプを開催していなかった。ヒグラシの鳴き声とともに、「キャンプ、そろそろやりたいよねー」「たき火、最近やってないからなあ」という声がぼちぼちと聞こえ始めた。涼しくなってきはじめると、急に「アウトドアイベントやらなくちゃ」と焦り始める。特にこの年、アワレみ隊結成から10周年ということもあり、天幕合宿をしないわけにはいかなかった。
とりあえずどこかキャンプ場で、という事であれこれ検討した結果、群馬県の六合村にある「野反湖キャンプ場」がターゲットとして選定された。山上にある野反湖の湖畔キャンプ場ということで、写真で見るととても神秘的だ。避暑にも向いているだろうし、俗世間からの逃避行先として最適と思われた。天下の名湯・草津温泉にも近いし、たき火もできる。われわれが望むほぼ全ての要素を兼ねそろえている場所だった。
募集をかけたが、さすがに群馬県の奥も奥、新潟との県境にあるキャンプ場にまで遠征してくるだけの金と暇をもてあました人はなかなかおらず、しぶちょおとおかでん、毎度おなじみの2名のみで2泊3日の天幕合宿を行うこととなった。
2003年08月29日(金曜日) 1日目

中軽井沢駅でしぶちょおと合流。しぶちょお、おかでん共に車で現地入りだ。
軽井沢駅界隈の蕎麦屋を2軒ほどハシゴした後、食材の買いだしをする。二人で「何を食べるかねえ」と思案したが、「せっかく二人しかいないわけだし、何かガツンと行こうぜ」という話になった。そういえば、二人とも辛くてスパイシーなものが好きだ。他のメンバー(ひび、ばばろあ等)は逆にそういう辛いものが得意ではないので、普段のキャンプ料理では避けてきた経緯がある。しかし今回であれば、ド派手に香辛料を使っても誰からも怒られない。
「よし、今晩は『スパイシーナイツ』ってテーマで、スパイス入れまくろうぜ」
ということを決定し、あれこれ食材を買い求めた。もちろん、唐辛子は多めに購入。
「ひゃーっはっはっはあ」
この時点でテンションが妙に高くなる。悪いことをやっている高揚感、とでも言おうか、それとも悪いことを理解してくれる仲間が側にいることに対する安ど感とでも言おうか。
食材購入後、浅間山の脇を通り過ぎ、長野県から群馬県に越境し、六合村を目指す。結構遠い。通常であれば絶対に無視できない草津温泉も、時間の関係で素通り。草津温泉からさらに山奥に分け入ったところにある野反湖を目指した。
山道をうねうねと走っていくと、急に風景が開けた。ちょうどそこが峠になっていて、駐車場に車を停めると、眼下に野反湖が見えた。
「うわあ・・・」
二人とも、しばし野反湖に見とれる。なんとも神秘的な光景だった。ここに来るまでは、雑誌で見た野反湖の写真はプロカメラマンによる、たった一瞬の絶景をうまく撮影したものだと思っていた。しかし、実物は写真同様、いや、それ以上の迫力をもって五感に迫ってきた。

自然環境が厳しいからか、湖周辺は高い木が生えていない。また、渓谷に作られたダム湖とは違い、湖畔の陸地がなだらかな傾斜で形成されている。そして、見苦しい人工建造物が周囲ぐるっと見渡してもあまり見かけられない。これは天上世界だ。極楽浄土に違いない。そう思った。この湖畔で2泊3日の天幕生活が送れるということは、非日常的で癒されること間違いなしだとこの時点で確信した。リラックスできる場所だけど、なんだかスピリチュアルでもある。そんな感じの場所だった。
「絶対、この湖に主が住んでるぞ。大魚とか、ナマズとか」

キャンプ場は、ここから湖を半周ほど周回した対岸にある。湖畔の道をしばらくすすむと、なにやら荒れた道になり、警告看板が出ていた。
「これより先は道路がせまく危険ですから大型車は乗り入れないでください」
と書いてある。ここから先、どうせキャンプ場しかないわけで、道路整備に多額の投資はできんというわけだろうか。
ちなみにここまでの道は国道405号線。この看板で国道がストップしている。しかし、県境を越え、この野反湖から川を下って10キロほど北の切明温泉で、忽然として405号線が復活してくる。いわゆる「点線国道」だ。いずれ貫通させる予定はあるのだろうか?

野反湖キャンプ場の玄関口、野反湖ロッヂに到着した。周囲には、山の斜面にバンガローが点在していた。バンガローは76棟もあるらしい。
「天気が悪いし、雨が降りそうだからバンガロー泊に日和るっていう手もあるよね・・・」
と、立ち並ぶバンガローを見上げつつ二人で話をしていたのだが、さすがにバンガローに宿泊してしまうとたき火ができない。
「たき火ができないとなると、今回のキャンプの目的は半分以下しか達成できぬではないか」
ということで、激しく華麗に却下された。
とはいっても、天気が悪いなあ・・・。標高が高いこともあり、分厚い雲が間近に感じられる。湿気が高い。こりゃ、そう遠くないうちに雨が降るぞ。
正直、こんな状態で天幕を野外に張ろうというのは無謀というものだが、久々の天幕合宿なのでこの際目をつぶる。雨の中で時間を過ごすのもまた至高の一時だろう。

バンガロー村方面。優雅そうだなあ。
でも、湖畔からやや離れるので、やっぱりテント泊の方が楽しそうだ。
ちなみに、ロッヂ宿泊もできるらしい。一泊二食で6,500円。安いが、「簡易宿泊」という表現を使っているし、「湖畔の宿」というイメージで宿泊するとびっくりすることになりそうだ。

おかでんとしては、最重要課題の一つとしてロッヂ入口にあるビール価格をチェック。
ロング缶400円、350ml300円。
非常に交通の便が悪い場所だけど、それほど値上げされていないのが大変に好感。山小屋価格ではないのが素晴らしい。ま、ここは車で来ることができるので山小屋価格(500ml=700円~800円)だったら暴れてしまうが。
基本的にビールは下界で既に買いだししているが、万が一足りなくなったらここで買いだししておこう。

受付で宿泊手続きをしたら、「テントサイトまではちょっと距離があるので、リアカーがあるのでそれを使ってください」と指示された。
車が入ることができない場所にテントサイトがあるというのは聞いていたが、「車の音がしない静かな場所」程度にしか認識していなかった。そうか、よく考えると、車が入れないということは荷物をどうやって運搬すんねん、という事を考慮せにゃいかんのだった。
ロッジの軒下にリアカー置き場があるというのでそこに行ってみたら、おお、あるある、リアカーがたくさん立てかけてあるぞ。
どれも一緒じゃん、と思ったが、よく見ると詰める荷物のキャパシティが違うもの、タイヤの空気が抜け気味なもの、タイヤの取り付け位置が微妙に異なっているものなの各種ある。結構それぞれにクセがあるので、ひとつひとつを慎重に吟味して「これぞ」というものを選んだ。
特にタイヤの取り付け位置は重要。重心バランスが悪いと、リアカーを制止させた時にせっかく積み込んだ荷物がひっくり返るからだ。

アワレみカーのトランクに積み込んであった天幕道具、食材などをリアカーに積み込む。大したことはないと思っていたのだが、リアカー2台分山積みになってしまった。たった二人のキャンプとはいえ、オートキャンプを前提とした装備なのでこんなにふくれあがってしまった。たき火用に、薪を2把調達していたのも、場所を食う理由だった。これがまた重い。
「昔は、できるだけ最小の荷物でキャンプやってたのになあ」
「変わったな、俺たち」
しみじみと語る。

リアカー2台で収まるかどうかも危惧される状態だったが、何とか荷物を整理整頓して無事収まった。2往復するのはちょっといやだ。
リアカーを引っぱって、テントサイトに向かう。テントサイトはここから15分ほど先だという。うえー、結構な距離だ。
テントサイトまでは車が通れる道路があるものの、業務用の車以外は入れないようにしてある。そのため、テントサイトへの道の入口には、なんだか変なゲートが設置されていた。
幅を狭くし、リアカー1台分の幅を作るだけで良いと思うのだが、なぜかここは「高さ規制」までしてあった。二人とも、軽いリンボー状態でこのゲートを潜っていった。

テントサイトに向けてリアカーを運ぶ。湖畔の道なので、入り江に沿って進んでいくことになる。目の前に対岸が見えているのに、切れこんだ入り江のせいでぐるーっと大回りをするハメになる。肉体的にも疲れるが、精神的にも疲れる。
しかも、リアカーは通行できないものの、歩行者だけは通行可能という「入り江ショートカット橋」があって、なんだか悔しいというか、精神的ダメージ倍増。
「おい待て、今回運搬は1回で済んだが、このリアカーを持って帰らないといけないんだな?」
「そういうことだ。あともう一回ロッヂまでこのリアカーを運ばないと」
「さらに、そのロッヂからテントサイトまで戻るのか。一往復半!面倒臭ぇ!」

坂道になると、リアカーに押しつぶされそうになったり、リアカーが逃げ出しそうになったりと、わあああと叫びつつキャンプサイトに到着。
オートキャンプ場と異なり、明確な形でサイトが区切られているわけではない。なんとなく下草が刈り取られている場所があちこちにさりげなく存在するので、その中から適当に見繕うことになる。
できるだけ斜面が無く、眺めが良く、洗面所・炊事場から近く、周囲に先客のテントがない場所を探し歩く。10分ほど探索した結果、やや斜面であるもののその他の条件は十分な場所を発見し、そこを大本営に設定した。

テントサイトからの景色。
正面に見える対岸が、丁度先ほど湖を見下ろしていた峠。
雲行きが怪しいので、早く荷ほどきをしてテントとタープを設営することにした。

夕方、曇っていたせいもありあっという間に日が暮れた。恐れていた通り、雨も振ってきはじめた。
タープがあるので、ひとまずは濡れないで調理や食事ができるが、もしタープが無かったらびしょぬれになるところだった。荷物が増えるが、やはりタープは必須アイテムといえる。晴れの日は日差し避けになるし。

雨の中、調理を手分けして進める二人。
「今夜はスパイシーナイツだ」
と口々に言いながら。
よく考えると、今晩の食事を作っているのに「ナイツ」と複数形で語っているのがおかしいし、さらに「今夜は~ナイツだ」と、「腹痛が痛い」みたいな変な言葉を口走っている。
スパイス切れで脳神経がうまくはたらいていないのかもしれない。

炭火コンロをダッチオーブンに独占されていたので、炊飯は別にプリムスのガスストーブで行っていた。
しかし、安定が悪かったため、ちょっとした弾みで炊飯鍋がひっくり返ってしまった。
「ああ!」
慌てて鍋を拾いあげ、少しでもご飯を救済しようとするしぶちょお。
「待て、ここはまず写真を撮ってからだ」
と妙に冷静な事を言い制止し、カメラを取りに走るおかでん。

ただ、ご飯がひっくり返ってしまったので二人のテンションがえらく下がってしまったのは事実。
なんだか、「・・・」と無言になりながら調理を続行する二人の写真。
ご飯の半分近くがこぼれてしまったので、窮余の策で米と水を注ぎたして、何事も無かったかのように炊飯続行。芯が残りそうな気がするが、大丈夫か?

テンションをさげさせている張本人。
ああ。
おじや状態でドロドロしているので、明日まで放置して水分が抜けてから片づけることにした。
そのため、視線には常にこの白米がちらちらと見えるわけで、そのたびにテンションが下がる。

さすがに、ガスストーブに不信感が沸いたので、ダッチオーブンに退場願い、炭火コンロでご飯を炊いた。
ご飯鍋の横には、本日のスパイシーナイツを彩る料理がスタンバイOKだ。においを嗅ぐだけで唾液腺が刺激される。

しばらくしてでき上がったご飯。
黒っぽく見えるのは、別に砂が混じったわけではなく、しぶちょおが三島食品の「菜めし」を振りかけたから。
ビール飲みのおかでんにとっては、ほとんどご飯は口にしないので、このほぼ全量がしぶちょおの胃袋に収まることになる予定。

先ほどから一等席が与えられ、慎重に調理されてきたダッチオーブンの料理ができ上がった。
ローストチキン+ジャーマンポテト。
下敷きとしてじゃがいも、玉ねぎ、グリーンアスパラを並べ、その上に鶏の足を一本配置。
ダッチオーブンの底とフタの部分に炭を置き、上下から加熱すること1時間程度でこんな感じに仕上がった。
もちろん、スパイシーナイツということで(まだ複数形をしつこく使い続ける、たとえ間違いに気づいても)、黒胡椒をたっぷりと振りかけている。おう、スパイシー。

お皿に盛ってみた。
なんだか残飯みたいに見えるが、アスパラを3本、並べてチキンに立てかけたあたりで僅かながらも見栄えを意識したということでご勘弁願いたい。

さて、大鍋でぐつぐつと地獄の業火のごとく煮えたぎっていたのは、ポークチリビーンズだ。メキシコ風に言うとチリ・コン・カン。要するに大豆と挽肉のトマトソース煮。
こいつに、大量のチリパウダーと唐辛子、カイエンペッパー、胡椒、にんにくを投入してある。わき上がる湯気の臭いがすでに相当スパイシー。
お前をあの世でまた殺す、というやばい感じがする。さすがにこれは、しぶちょお・おかでんの2名キャンプでないと無理だ。その他メンバーがいたら、絶対に嫌がられる。

というわけで夕食準備完了。
前菜として馬刺を用意するというのも、スパイシーなラインナップだ。いや、別に馬刺そのものがスパイスまみれというわけではないが、こういう癖のある料理をセレクトするあたりがウェットかつワイルドだと我ながら思う。
馬刺、ポークチリビーンズ、ローストチキンwithジャーマンポテト、菜めし。
正直、二人で食べるにはボリュームありすぎ。ポークチリビーンズの鍋を平らげるだけでも結構な量だ。まあいい、まだ合宿は続く。明日以降の備蓄食糧として取っておけばいいさ。
この日、発売されたばかりの「キリン秋味」をしこたま飲みながら、「もう秋だねー」と語りあい、辛くてシビレてうまいスパイシーズを満喫したのだった。
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