香港国際空港到着。
降りた瞬間、どんな空気の臭いがするのかが海外旅行の楽しみだ。香港は、香菜(シャンツァイ)の臭いがする、と形容していた人がいたが、さて・・・
うん、飛行機から一歩外に出た瞬間、何やら日本とは違う臭いがする。しかし、香菜の臭いではないようだ。えーと、これは一体なんだろう。
「香ばしい臭い、という感じだよな。何かを炒めているような」
とジーニアスが助け船をだす。確かに、そんな感じだ。
「香港の繁華街の方で中華料理屋が料理しまくってるから、空港のある田舎まで臭いが飛んできた・・・?まさか」
はるか昔は、香港は香木の産地だったという。その香木目当てで、イギリスが占領して開港したから、「香港」という名前になっているくらいだ。しかし、今となっては香木のようなかぐわしいにおいではなく、何やら俗っぽい臭いが辺りを包み込んでいる。いいねぇ、こういうの。これからの旅が楽しめそうな予感。
看板表示が、当然の事ながら全て漢字表記になっている。だから、てくてく歩いていても、あまり外国に着た、という違和感は感じなかった。少なくとも、この時点、では。
入国審査の先には、サーモグラフィーが設置されていた。SARSの検査の為と思われる。
ジーニアスがうれしそうに言う。
「おいおかでん、万が一キミの股間だけがぬぉーん、って赤く反応したらどうする。えらく恥ずかしいぞ」
「それは確かに恥ずかしいな。できるだけ平静を装わないと」
「アンタはワイセツだから香港に入国しちゃいけません、なんて事になったらどうする?」
「いや、『どうする?』って聞かれても。これはワイセツなものではありません、と主張するしかないな。というより、それ以前に、なんでこんなところで股間を堅くしなくちゃならんのよ。変態か、俺は」
サーモグラフィーをあっけなく通過し、なぜかほっと一安心。何をびびってるのだろう。
サーモグラフィーゲートの先に、両替屋があった。ここで、日本円を香港ドルに交換する。香港ドルは日本国内での流通量が少ないため、日本で両替するとレートが悪い。だから、香港で両替をする事にしていた。
本当は、クレジットカードでキャッシングをした方が効率がいい(借金の年利の方が、為替手数料より安くつく)らしいのだが、やっぱり借金には抵抗があったので、ここは現金を両替。
だいたい、1HKDを15円程度で両替。
「おい、せっかくだから香港ドルを手にしているところの写真を撮るぞ」
「何やってるの、こんなことやっているうちに周りに誰も居なくなっちゃったじゃないの」
「いや、いいからいいから。もう、拝金主義でお札を手にしてうれしくてしょうがないって顔してくれ」
「しょうがない奴だな、おい」
こうやって現金をむき出しにしても、問題が起きないのは香港が治安のいい証拠。
両替を済ませ、ロビーを歩いていたらエアポートエクスプレスの自動券売機にたどり着いた。
運賃が記載されているボード。
「車票興車費」と書かれているのが、いかにも中国にやってきた、っていう感じだ。
これから向かう九龍駅までは90HKD。日本円で1350円といったところ。
自動券売機によっては、お札が使えるところと使えないところがあるので要注意。また、同じ紙幣価値でも発行元が違う、別紙幣があるため、使えない紙幣があるのも注意だ。日本だと、「日本銀行券」一種類しか存在しないのでちょっと不思議だ。しかも、紙幣を発行しているのが「上海香港銀行(HSBC)」みたいな一般の銀行だったりするのが、ますます不思議だ。
ちなみに香港の位置関係をおさらい。
左端がランタオ島といい、その北側にある埋め立て地が香港国際空港となる。そこから、エアポートエクスプレスが出ていて、地図では右下に位置する大きな島、香港島にある香港駅(中環)まで伸びている。所用時間は約40分といったところか。
香港島の対岸にある半島が九龍で、香港観光といえばこの九龍地区と、香港島の北部地区がメインとなる。
チケットを購入して、ロビーを歩いていたら目の前に電車が停まっている事に気づいた。これがエアポートエクスプレス。
「えっ?ここ、駅だったの?」
あまりに唐突だったので、びっくりしてしまった。だってここ、空港の中じゃん。成田空港とか羽田空港を見ろ!階段やエスカレーターをさんざん駆使しないと、鉄道にはアプローチできない・・・それこそが空港なのだと思い込んでいた。
「こういうのって、イギリス統治からきた合理主義が反映されてるよな、香港って雑然とした街の印象があるだろうけど、実はすごく合理的な街だぞ。ここに着くまで、完全にバリアフリーだっただろ?こういう配慮も、スバラシいよな」
なるほど、確かにそうだ。これを見てしまうと、成田空港をはじめとする日本の空港のダメさが際だっていることがよく分かる。
ちなみにこのエアポートエクスプレス、香港からやってきた電車は1階上の出発フロアに到着するようになっているのも、気が利いている。利用者は、下車したら迷うことなくそのまま水平移動で出国ゲートに向かうことができる。
ちなみに成田空港第二ターミナル駅におけるJRと京成は、ホームがそれぞれ一つしかないので上り線と下り線が混在してしまっている。「今度の電車は成田空港第一ターミナル行きです、お乗り間違えのないように」なんてアナウンスを帰国時に耳にし、やっぱり日本の空港はダメだなあと確信した。
エアポートエクスプレスは、各座席にディスプレイがついていた。香港国際空港における出発時刻と到着予定時刻の表示、ロイターによる経済情報、天気予報、ニュースといった情報がチャンネルごとに配信されている。こういうサービスはとてもありがたい。
電車が出発すると、情け容赦ない加速で一気にスピードを上げていった。
「お、おい、さりげないけどこれは相当なスピードだぞ」
「新幹線に相当するからな、この電車は」
「新幹線の場合って、駅から出てもしばらくはゆっくりと走るじゃない?でも、こいつ、問答無用で加速するなオイ」
「それでも揺れが少ないだろ。やっぱり新しい電車はいいよな。新幹線だとこれくらいのスピードだと揺れまくるぞ、きっと」
外の風景は、シュロの生えた海岸線だったのだが、だんだんと都市化していった。都市化、といっても日本でありがちな「郊外型スーパー」があったりするのではなく、ただひたすらノッポなマンションが林立する光景だった。日本だと、最近でこそタワー型マンションが増えてきたが主体は「マッチ箱を横に倒したような」横長なマンションだ。しかし、こちら香港では全てがタワー型であり、しかもそのほとんどが十文字型をしていた。何か意味があるのだろうか。十字の形をしていたら、窓から斜め向こうのお宅が覗けてしまうのではないか、と心配なのだが。
九龍(カオルーン)駅に到着。ここから、ホテルがある尖沙咀(チムシャツォイ、以下略して「チム」と呼ぶ)に向かう。
地下鉄駅の改札を出たところに一人のオバチャンが居て、何やらチケットを配っている。何かの客引きだろうか。胡散臭いので受け取らないで素通りしたら、ジーニアスが「これ、取っておかないとダメだぞ」と忠告した。
一体何の割引チケットなんだよ、全くと思いながらオバチャンから券を受け取ると、それは無料シャトルバスのチケットだった。何でも、エアポートエクスプレスを利用した人は無料で各ホテルへの送迎バスに乗る事ができるらしい。激しく感心。
エレベーターで上がった先には、確かにシャトルバス乗り場があった。乗り場手前でチケットを受付に手渡す。チケットを手にしていた時間、わずかに2分。短いお付き合いでした。
さて、そのシャトルバスだが、九龍駅からは6系統が運行されていた。そのそれぞれのバスが、10カ所近いホテルを順番に巡るわけで、相当なホテル数だ。香港が観光立国なのはこの辺りでもうかがい知れる。
われわれも、たくさん列記されているホテル名から該当するものを見つけ、そこを巡回地としているバスに乗り込んだ。
しばらくしてバスは発車。いよいよ香港の中心地に突入だ。
・・・と思ったが、おいこら運転手!ちょっと加減速、激しすぎるぞ。目の前にカーブが迫っているからここは減速しなくちゃ、というゾーンまで来ても、アクセルをより一層深く踏み込みやがる。で、バスの巡航速度にあるまじきコーナリングスピードで曲がっていく。加速重視なのか、低いギアのままで突っ走るために騒音が結構ひどい。そして、目の前に邪魔な障害物があったら遠慮無くクラクションを馴らす。もう、何だか戦いなんである。
このバスだけ特殊なのかと思ったら、周りの車も似たようなもんだ。ひっきりなしにクラクションを鳴らしながら、爆走してやんの。日本におけるクラクションの位置づけと、根本的に違っている国のようだ。
車中では、しっかりと何かに捕まっていないと危ない。でも、怪我とかしようものなら「それはちゃんと防御していなかったお前が悪い」と自己責任で片づけられそうな予感。乗っている方も結構必死だ。
いくつかのホテルを経由したのち、到着したのはわれわれが滞在する「ハイアットリージェンシー香港」。
いや、いくつかのホテルを経由・・・ったって、ホテルの隣がまたホテルっていう状態なのでストップアンドゴーの繰り返し。首から上ががっくんがっくんと揺れてむち打ち状態になりそうだった。
ハイアットは、地下鉄尖沙咀駅から出てすぐのところにあり、九龍の目抜き通りであるネイザン・ロードに面していることから非常に立地条件が良い。実際、今回3泊して最高の環境だと思った。次回香港に来るときもまたここを利用しても良い、と思ったくらいだ。
※現在のハイアットリージェンシー香港とは場所が違います※
さて、チェックインを済ませて部屋に到着。ツインルームで、こんな感じ。
まあまあ広い部屋なので、満足。
さて恒例の部屋チェックに参りましょうか。
洗面所は・・・どれどれ。
なるほど。
洗面所の脇にはミネラルウォーターのペットボトルが2本、置いてあった。うがいをする際、水道水ではイヤだという人向きなのだろうか。
シャンプーなどは当然用意されているのだが、ひげそりは置いていなかった。海外旅行に疎いのでよく分からないのだが、外国ではひげそりを置かないのが一般的なのだろうか。
ちなみに、綿棒は置いてあった。
こんな写真を撮ってどーすんのよ、と我ながら思いつつも、トイレとバスタブを激写。
このトイレ、水洗のレバーを相当我慢強く押さないと水が勢いよく流れてくれなかった。軽く一押しした程度では、「ごごごご」という水流の音がするだけでまともに流れてくれない。
だから、後に入った人が、便器のフタを開けてみたら・・・うわぁ!なんてこともあり得るわけで、というか実際あったわけで、非常に危険だ。
便器の隣に電話機が据え付けてあったのがさりげなく謎だった。長風呂の方も退屈しないようにお電話でもどうぞ、という事なのだろうか。しかし、湯船からはちょっと距離がある。
ひょっとしたら、便座を跳ね上げた状態で間違って便器にしゃがみ込んでしまい、お尻が便器にすっぽりとはまりこんでしまい抜け出せなくなった時の為の緊急連絡手段用?・・・と考えたが、そんな滅多に起きない事のためにわざわざ電話機を設置するとも思えず、結局結論は出なかった。
テレビ台の下を開けてみたら、お菓子類が詰められていた。カルビーのポテトチップスなど、日本メーカーのスナックが完備されていた。
香港の街を歩いていて感心したのは、スナック菓子の相当数が日本でも馴染みのあるものだったということだ。中国語にパッケージをあらためているものは当然多いのだが、日本で売られているまんまのパッケージのものも多い。これ、中国人に理解できるんか、といういらん心配までしてしまうほどだ。
まあ、日本人だって、英語で書かれているキャンベルスープの缶を買ったりしているわけで、特に外国語だからといって問題はないのだろう。
冷蔵庫の中を開けてみると、こんな感じ。
エヴィアン、スプライト、ハイネケン、カールスバーグ、青島ビール、コカコーラ・・・といったラインナップ。
お茶が置いていない、というのはちょっと興味深い。ノンカロリーな飲み物が水しかない状態。なぜだろう。
窓側で記念撮影してみる。
窓の外は、ネイザン・ロードとなる。ここから見下ろすと、尖沙咀の街が一望に見下ろせる事になる。
・・・のだが、おい、ネイザン・ロードを挟んで正面にあるあの建物は何だ。
うわ。
何だ、この幽霊屋敷みたいな建物は。
こっちはホテル内のエレガントな空間にいるというのに、その真正面には平然と薄汚れたビルが建っていた。さも、当たり前のように。なんなんだ、このギャップは。
日本だと、ボロい建物が建っている場所と、立派な建物が建っている場所っていうのは大抵くっきりと棲み分けができている。土地の再開発などが行われて、ほぼ同時期に街が形成されていくからだ。しかし、こりゃ一体なんだい。しかも、香港一の目抜き通りに面した建物で、これだぜ。
よく見ていると、空調の室外機が今にも落っこちそうになっているところがいくつもある。大丈夫か、おい。
どうやら、これは安宿の集合体らしい。一つのビルの中に、テナント感覚で安宿が軒を連ね、集客を競い合っているようだ。確かに、外見はものすごくおんぼろなのだが、垣間見える部屋の中はそこそこきれいにはされている模様だ。
ここで注目なのは、これだけのボロいビルにもかかわらず、今われわれはそのビルを見上げている、という事実だ。われわれの部屋は8階に位置しており、それで見上げているということは・・・ええと。下からフロアを数えてみる。すると、16階建てであることが判明した(正確に言うと、香港は1階がGF、2階から1階とカウントするので15階建て)。こんな古そうな建物なのに、案外やりおるわい。日本で、ここまでの外観で10階以上の建物って存在するだろうか?しないような気がする。
何だか、長崎にある軍艦島の廃墟建造物を見ているような気さえしてくる。
これだけの外観の建物があるということは、古くからこの地では高層ビル建設に熱心だったということだ。よっぽど土地事情が逼迫していたのだろう。
そういえば、香港滞在中、平屋建ての建物は一つたりとも目にしなかった。香港人は、ひたすら空を目指す。日本やアメリカにある郊外型巨大スーパーなんて香港人が目の当たりにしたら、びっくりして卒倒してしまうのではないか。
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