いつもは広島に住んでいるばばろあが、仕事の関係で期間限定として東京に長期出張となった。それだったらGWになにかやろう、という話になったが、さてどうしよう。
「なにかやろう」ですぐに動けるほど、僕らは若くもないしそれなりの経験を積んできた。「なにそれ!?面白い!知らないそれ!やりたいやりたい!すぐやろう!」と言えたのは20代までで、30代は惰性で動いて、40代ともなれば重鎮としてすっかり腰が重たくなってしまった。
「おかでんが以前言っとった、東京にある世界各国の大使館を全部回るやつをやってもええんじゃけどね」
ばばろあは言う。
「でも、さすがに一日じゃ回りきれんじゃろ?」
「そうだよなあ」
ばばろあは、僕がはるか昔に提案した企画案をしっかりと覚えていてくれていた。そして、その提案に乗ってくれようともしていた。ただし、200近いであろう国と地域の大使館(等)を巡るとなると、とてもじゃないけれど1日2日じゃ済まない。具体的に試算をすると面白みが半減するので調べてはいないけれど、丸3日かけてもムリかもしれん。なにしろ、数が数だ。しかも、大使館というのは駅前なんかにはなく、麻布だとかの駅から相当離れたところにある。場合によっちゃ、大使館前で記念撮影を撮るだけで機動隊に不審がられるかもしれない。
空き日程は1日。そんな中で、何ができるだろうか。せっかくだから、アワレみ隊お得意の「スタンプラリー的なもの」がやりたい。ある程度自分たちの行動が制約され、そして企画終了時には達成感があるもの。でも、そんな都合の良いものがあるのだろうか。
そこでばばろあが、こんな提案をしてきた。
「銀座とか日本橋あたりで、古美術店とかを巡る企画があるらしいぞ」
僕は美術鑑賞が好きだ。銀座・京橋界隈のアートギャラリーは何度となく訪れている。そしてばばろあも美術を好み、特に古伊万里や九谷といった陶器を好む。ちょうど2人におあつらえむきな企画だ。
とはいえ、別にギャラリー巡りなんて、いつでもできそうだ。何を今更感がある。
そこで、ばばろあに教えられた情報を元に調べてみたら、なるほどと納得したしびっくりもした。こいつァすげえ、と。
企画の名前は「東京アートアンティーク 日本橋・京橋美術まつり」。
「日本最大級のアート密集地」と銘打って、GW前半戦の期間に開催されているようだ。
このサブタイトルの通り、実際にこの界隈はとんでもなくギャラリーが多い。ギャラリーというか、画廊とか骨董・古美術というたぐいのお店がたくさんある。
選り好みなくできるだけ多くの美術を見たいと思っている僕でも、京橋日本橋あたりのギャラリーの多さにビビり、道を歩きながら「いやもう、見なかったことにしよう」と思わず目線を落としてしまったくらいだ。
僕がコンプリートしないと気がすまない性格だから、「見なかったことにする」というだけではない。とっても入りづらい雰囲気の画廊・古美術がずらずらと並んでいるのも、抵抗感があった。
もともと、現代アートのギャラリーであってもどういうジャンルであっても、美術館ではないのだから敷居は高いものだ。なにせ、「売り物のアート」を扱っているのだから。そしてこっちは、「いいものがあったらいつでも買うぜ?」というほどお金を持っていない。単なる冷やかし客だ。それがなんだか申し訳なくって、気楽に画廊などには入れないのだった。
そういう状況である、というのはお店側も百も承知であり、だからこそこうやって「まつり」を企画しているのだった。つまり、どうぞお店にお気軽にお越しくださいね!と手招きしているイベントだということだ。冷やかし歓迎。
冷やかすったって、いずれは美術品を買うかもしれない未来の客候補だ。美術への興味や審美眼を養ってもらうことは、お店にとって美術業界にとって長期的にメリットになる。だから、こういう企画を立てているのだろう。
やるなあ。深謀だなあ。
こういう企画じゃないと行けないお店はいっぱいある。骨董市によく足を運ぶというばばろあが傍らにいるというのも心強い。この機会に、1日がかりで美術三昧をしてみることに決めた。
2019年04月27日(土)
東京駅で2人はおちあい、歩いて京橋方面に向かう。
地図を予め公式webサイトで見ていたし印刷もしたのだけれど、とてもじゃないけど作戦が練られなかった。地図は紙を何枚もまたがっておりどこに美術店があるのかぱっとわかりにくいし、うまいこと一筆書きでお店を巡るにはどうすればよいか、という作戦も立てにくい。
というか、一筆書きはムリだということに気がついた。そんなことを許してもらえないほど、あちこちにお店はあるからだ。同じ道をUターンしたりしないと行ききらない。しかもややこしいことに、お店ごとに営業時間が異なっており、朝はやくからやっているところ、昼になってようやく営業を始めるところ、なんなら今日は定休日のところ、とまちまちだ。そうなると、ますます一筆書きが難しくなる。
このイベントに協賛しているお店の数はいくつあっただろうか?100近くだっただろうか。曖昧な答えになってしまっているのは、ズバリ1日で回りきれなかったからだが、とにかく膨大な数だ。それらを見て回るとなると、気力体力ともに必要となる。僕らは気力が尽きたのだけれど。
一つ一つ、どこで何を見て回ったのかというのはあんまり覚えていないので、今回の連載はざざざーっと写真を掲載して雰囲気を楽しんで貰えればいいと思っている。
10:25
この日一軒目のお店は「加島美術」。
僕はここに一度訪れた事がある。扱っている絵や掛け軸は超高級だけど、間口が広いしポスターが貼ってあったりして、まだ入りやすい雰囲気はある。アート関係の情報サイトにイベントの告知を出すこともあるし。
こんな感じで店頭にポスター。
どうぞお入りください感があって、これなら僕でも入れる。
しかし一歩中に足を踏み入れると、そこが自分にとって場違いな場であることを知る。何しろ、横山大観や円山応挙の掛け軸がかけられ、値札を見ると数百万レベルのものがゴロゴロ。これはもう、「冷やかす」なんてレベルじゃない。こっちが冷や汗をかくレベルだ。すいません、竹やぶで1億円の札束でも発見しない限りはこういうのは買えません。
そんな高級なお店だけれど、今回のイベントでは気軽に入れる、というのが嬉しいことだ。堂々と作品を拝見させてもらえる。
なお、このイベントにはスタンプラリーといった要素はない。単に、お店がずらっと地図で紹介され、お店の紹介カタログがあるだけだ。何店舗訪れたら景品、といったものはない。飽きたらそこでやめればいい。
あと、全ての美術系店舗が参加しているわけではない。まだまだ、他にも美術商があるのだから本当にこの界隈は「美術沼」だ。
10:33
茶碗展をやっている。ばばろあは陶器が趣味なのでこういうのに興味があるかと思ったが、「いやあ、もっぱら実用的な酒器じゃねえ」と言う。「他のもんまで手を出したら、きりないで。いくら金あってもたりん」。
なるほどそれはそうだ。
10:41
この手のお店は、とても狭くて扱っている作品数が少ない。いや違うな、展示している作品数が少ない、というのが正しいのか。決まってお店の奥には立派な商談スペースがあって、おそらくそこでお得意さんなどにとっておきの一品を紹介しているのだろう。店頭に飾っているのは、あくまでもサンプル的な位置づけなのかもしれない。
何しろ僕が普段ウロウロしている「ギャラリー」と称するところは、展覧会の形式で作品を売っているようなところばかりだ。こういう「画廊」とはかなり方向性が違う、ようだ。
この日たくさんお店を見てきたけど、実態はよくわからない。なにせ、商談はしていないので。何百万円という作品を、どんな人が買うのか、買うときは限度額無制限のカードで払っているのかどうなのか。知らない世界だ。
(つづく)
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