鵝鑾鼻の気持ちよい芝生の高台の一角に、白くまぶしい灯台がある。台灣最南端の灯台ということになる。「一番端っこ」に行きたくなるのは何処の国の人も同じようで、この灯台を見上げて「ああ」とか「うう」と嘆息している人がたくさんいた。しかし、この灯台には有料で入場できるのだが、中に入っている人は皆無だった。お金に関してはシビアらしい。
「今通り過ぎた人たち、大陸の人だよ」とFishが耳元でささやく。大陸、ということは中華人民共和国の人ということだ。
「何でこんな処に?来ても面白いのだろうか?」
「さあ?」
ちょっと不思議だった。恐らく、ビーチリゾート墾丁に来たついでに、ということなのだろう。中国人観光客はどん欲にあちこちに現れるな。いや、どん欲なんじゃなくて、単に絶対数が多いということなんだと思うが。
「大陸の人」からすると、「台灣は中国の領土である」と学校で習っているはずであり、それを信じて疑っていないわけであり、今更「中国の一部である島の最南端」を見ても感慨は何も無いと思う。面白いんだろうか。
われわれはこの灯台を眺めたあと、この地を後にした。しかし実際は、ここから遊歩道が岬の先の方まで伸びていて、それがなかなか楽しい。知らなかった。
帰りは堂々とゲートをくぐって、車のところに戻る。
戻る途中、ニワトリが路上をうろうろしていたのにはびっくりした。野良鶏か?・・・いや、まさか。これは飼われているよな。でも、こんなところをうろうろしていたら、「お土産」としてお持ち帰りされそうだが、大丈夫か。
いずれにせよ、「台灣最南端のニワトリ」という称号は与えて間違いないと思う。
車の返却時間が迫ってきたので、ざっくりと半島の東側を見てみることにした。本当はずっと東側海岸を北上してから内陸部を通って恆春に戻ろうと思っていたのだが、タイムオーバー。
鵝鑾鼻からつづら折れの道をのぼっていくとそこは高台で、予想外にも草原が広がっていた。南国=草木うじゃうじゃ、というイメージがあるので、開放感溢れる景色には驚いた。多分、海にせり出した場所であるが故に風が強く、草木が生えないのだろう。北海道のえりも岬を思い出した。
その大地の草原には、なにやら天文台のようなマッシュルーム頭がある。聞くと、台灣海軍のレーダーサイトらしい。そうか、ここは国境の地でもあるのだったな。
この辺りの海岸線を見ると、断崖絶壁というわけではなく、スキー場のゲレンデくらいの斜度でわれわれがいる高台まで斜面がついているのが特徴的だ。地面は赤土だが、ところどころ珊瑚の岩が突き出ている。海沿いをずっと見ていると、こんなところなのに小さいながら砂浜が形成されているところもあり、びっくりする。
風は常に強い。この地に限らず恆春半島全体がそうなのだが、台風前夜くらいの不穏な強さの風がこの地は常に吹き続けている。だからこそ、実際の気温よりも体感温度が低く快適なのだろう。
時間が来たので、車を反転させて恆春に戻る。
Fish家に戻ると、既にFish母は帰宅しておりなにやらごそごそと荷造りをしていた。手に大きなマンゴーなどを抱えているが、あれは高雄のFish妹へのお土産として持っていくのだろうか。赤ん坊よりもデカい。
そんなFish母だったが、「まあゆっくりしなさい」とおかでんをソファに座らせ、なにやら目の前に置いてくれた。・・・台灣啤酒。しかも二缶も。ほとんど会話すらしたこと無い方だが、早速「おかでん=ビール飲み」というプロファイリングになってしまったらしい。これはちょっと恥ずかしい。思わず赤面してしまった。
そんなおかでんなど居ないかのように、萌萌が音もなくすすすっとビール缶に接近。表面についた水滴を舐めていた。何をやってるのかね君は。
啤酒と一緒に渡されたプラコップの方はというと、開けてみるとなにやら茶色い、あんかけのようなものだった。食べてみると、中のつぶつぶは豆。台灣風汁粉だ。当然温かく、Fish母からも「温かいうちに食べなさい」と言われた。
この国の人は、夏でもおでん屋台があちこちにあるように、あまり「夏だから冷たいものを」という発想はないようだ。年中温かいからか、それとも「体を冷やすのは良くない」という漢方的発想からか。
で、この汁粉だが、豆の食感は当然日本の小豆とは違うものの、それを除くと味つけなどは日本のものとほぼ一緒。粘りけが強いのは、こちらの人の嗜好だからだろう。
Fish弟がガソリンスタンドに車を運び、オイル交換や給油をして長距離遠征に備える間、Fish宅ではFish母による二胡の演奏や琴の演奏などがあった。多芸な人だ。
で、車が無事戻ってきたところで、さあ荷造りして出発。・・・って、あれれ。弟さんが運転するんですか?ええと、僕が今朝時点で聞いていたのは「Fish母が高雄までわれわれを送ってくれる」という物だった。なにやら話が変わっているぞ。またか!
Fishに聞いてみたら、しれっと「弟も行くよ」と言う。ありゃー、弟さん、申し訳ないです、またお手数おかけしちゃいます。でも、そうなるとおかーさんが同行する意味がわからない。また異国の地へと旅立つ長女(Fish)を見送ろうと、高雄まで送り届けるつもりだろうか。
すると、Fishは「今日、もう一人の弟が高雄の家に戻ってくるので、家族全員で食事をするよ」と言い出した。はぁぁ・・・。相変わらず勝手に話が進んでいくなあ。「現状と、今後の予定」を一切相手(おかでん)に伝えないのは強制連行にほぼ等しいということを、この人は全く分かっていない。毎回驚かされる。
Fish家は4人姉妹であり、長女がFish、次女が高雄在住。そして双子の弟がいて、一人は萬巒などおかでんをいろいろ案内してくれた、恆春在住の人。もう一人の弟はFish妹と高雄で同居しているが、兵役中につき普段は不在だ。台灣国籍を持つ男性は、2年間の兵役が義務づけられている。その義務をただいま遂行中というわけだ。
で、聞くところによると、その兵役中の弟が外出許可を取って、今日夕食は同席できる、というのだ。久しぶりの家族全員集合だよ、とFishはうれしそうに言うが、ええとその席に日本人の僕が混じってルンですがこれはかまわないのでしょうか?
Fish妹とは一度日本で会った事があるから良いが、最後の最後になってFish弟(2)登場とは。これでFish家族勢そろいではないか。ええと、やっぱり僕、正座でもしてごあいさつせにゃならん立場なんでしょうか。大安吉日選んで。
今回の旅は、まあ次から次へと「どうも初めまして」な人が登場することよ。ツアー旅行、もしくは個人旅行でもなかなかこうはいかない。台灣人を一人友達にすると、まさに芋づる式で知人が増えるな。びっくりだ。
驚くやら呆れるやらしているうちに、車は恆春半島を北上していく。道路の脇に、うっすらと紫に見える畑があるので何かと思ったら、「鳳梨(フォンリー=パイナップル)」畑だった。
車内で、「心残りは檳榔を売るセクシーなお姉さんを見かけなかったこと」と言ったら、Fish家全員が「それは台北の方にいかないといないのではないか?」という見解だった。この辺りでは見かけない、という。
確かに、よく注意してロードサイドを見ていたが、それらしきものを一回目撃しただけだった。そのお店は、透明なガラスとアクリル板で作られたコンテナボックスのような店で、青やピンクに塗られた蛍光灯が怪しく光るお店だった。おねーちゃんは・・・高速で通過したので、全く確認とれず。檳榔屋かどうかすらわからなかったくらいだ。でもどうやら、そうらしい。
セクシーな檳榔売りについて帰国後調べてみたら、セクシーなのは台灣南部であり、北部では取り締まりが強化されてあまりセクシーではないというのが真相のようだ。男性ユーザーが多い檳榔であるが故に、やはり同じ値段で檳榔を買うならババアの店より色気のあるお姉さんのお店の方が良い、という購買者心理なわけだ。ただそうなってくるとセクシーさが過当競争となり、ビキニの水着同然の格好くらいは序の口、中にはトップレスだとか、檳榔買うとおさわりOKといったすごい状況がまかり通っていたらしい。しかし、さすがにそうなると物販店ではなく、風俗店に近い。当局の取り締まり対象となったのはさほど時間がかからなかったようだ。また、やらしくて怪しからん、という観点以外にも、道ばたにセクシー小姐がいて脇見運転して事故、というしょーもない事件が多発したということからも取り締まりになったようで。
セクシーな檳榔売りの小姐の事を「檳榔西施(ビンランシースー)」と言うが、このキーワードでgoogleなどで画像検索してみると感心する。競争原理が働くとこうなります、という良き見本哉。
さて、車が高雄に近づくにつれて、車の数が増えてきた。何と無しに車のナンバープレートを見ていたら、あることに気がついた。「あれ・・・高雄市、のナンバープレートだ」。
当然といえば当然なのだが、違和感があった。というのも、このFish車は「台灣省」ナンバー。台灣省とは、これ即ち中華民国(台灣)の事であり、てっきりこの国は全部「台灣省」ナンバーなのだと思っていたからだ。聞くと、台北市と高雄市だけは独立してナンバーを持っているとのこと。それ以外は、台灣省。
「台灣省」という、さも中国の一部のような表現を敢えて使っているのは訳がある。あくまでも中華民国は、中国共産党に追われ「一時的に台灣に本拠地を構えている」のにすぎない、というスタンスだからだ。いずれは大陸反攻、共産党を追い出して大陸を取り戻すという幻想が蒋介石時代にはあった。そのため、敢えて「台灣省」を自ら名乗っているのだった。
なお、大陸と目と鼻の先の小さな島、金門島にも台灣は領土を持っているが、そこは「福建省」という扱いになっている。じゃあ福建省というナンバープレートは台灣でもあるのか?と聞いたが、誰も知らなかった。
高雄の町。ネオンがいっぱいだ。この光景を見て、思わず興奮してしまった。すげえ、大都会だ!と。
たった2日ほど恆春にいただけだったのだが、このネオンはまぶしすぎた。
Fishが「凄いよね、私、初めて高雄に来たときびっくりしたもん」という。「高校の時に屏東に行ったときも相当びっくりしたけど」と付け加えていたが、確かにその気持ちは分かる。
感心するのが、商業地がぶわーっと縦横無尽に広がっているが、高層ビルが少ないことだ。せいぜい5階程度の中低層階雑居ビルで、しかも入居しているお店は個人商店もしくはそれに類したお店。いかにもチェーン店舗でござい、というのがあまり無いので、店を見て歩くだけでも楽しそうだ。これを見ると、日本の町って高度に効率化され、チェーン店のような規模の論理と効率重視な店が増えすぎてつまらんなあ、と思う。
あと、このネオンを見ていると、やたらと飲食店が多い。確か台灣って、人口あたりの飲食店の数が世界一だったと記憶しているが、なるほど納得だ。
繁華街に見とれていたら、車は脇道に逸れ、そのまま路上に駐車。違法駐車とかなんとかという概念はこの地では希薄のようだ。
車を降りて、一同荷物を抱えてFish妹の家に向かう。Fish母、やっぱりあの巨大マンゴーを抱えていた。
「ここだよ」
と言われた場所で、おかでんは思わず立ちつくした。何だこれは。5m以上はある、超巨大な鉄門が眼前にそびえ立つ。門の上には、意味があるような無いような、微妙なエンブレムが金色に輝く。そして、門の脇には警備員さんが常駐・・・その背後に、高層マンションが数棟建ち並ぶ。
「ええええ?これって、高級マンションなんじゃないの?」
にわかに信じられない。人生の成功者が住むならまだしも、Fish妹はまだ20台半ばのはず。どうしたらこんな家に住めるというのか。しかも、同居人(専ら兵役のため不在)の弟は収入が無い状態だし。
「結構普通だよ、これくらいは」
とFishは平然としているが、それは本当なのか。30歳にもならない若造がこんな警備員付き高層マンションに住めるのが台灣では普通なのか。それだったらすぐにでもこっちに移住しないといかんな。ありえん。
というより、Fish、アンタはこのいびつな世界を何と思っているんだ。アンタは残業しまくって倒れそうになるまで働いて、住んでいるのは都内の1Kアパートでしょ。妹さんよりはるかに稼いでいるはずなのに、このギャップは何?・・・ああ、中に入れって?そうか、Fish一家と一緒に通過しないと、警備員さんに制止されてしまう。
建物の中に入ってみると、エレベーター一基につき、各フロアの部屋数は2つだけ。うおおお、なんというブルジョアなんだ。レシート宝くじで大当たりでもあてたのか?
ひたすらびっくりしまくっているうちに、Fish妹(&弟2)の家に到着。
「靴はここで脱いでね」と、扉を開ける前に指示される。ここ、って言われても、ここはエレベーターホールなんですが。見ると、確かに靴がいくつか転がっている。お向かいさんの家も同様。そうか、この家も「いわゆる玄関」が存在せず、靴箱という概念もあまりない世界なのだな。扉を跨いだそこからは、下足禁止。スリッパに履き替え。でも、段差がほとんどないので、日本人からすると理解できない世界。
この事について、後日Fishに聞いてみた。おかしいだろ、と。家の前で靴を脱いで放置するんじゃなくて、日本みたいに扉をくぐったところに玄関を作り、下駄箱を作り、段差を作って明確に「土足ゾーン」と「素足ゾーン」をわけた方が良かろう、と。
するとFishは驚きの見解を示した。「日本の玄関は、何だか汚い感じがする。外と繋がっている部分が家の中にもあるから」だって。ひゃぁぁ、なるほどそういう発想か。なるほど、それは思いつかなかった!!
日本だと、家にあがった以上は床に座ったり寝ころんでも全然平気。だが、台灣だと、家にあがる際に靴を脱ぐけど、床は若干不浄の地とされているようで、座ったりするのはダメ。以前、Fishの引っ越しを手伝いに行った際、フローリングの床に掛け布団を置いたらスゲー怒られた事がある。床に布団置くんじゃねぇ、というわけだ。何でですか、とその時は思ったが、こういう台灣の住環境を見ていると、理解できる。でもねえ、日本式家屋なんだから、床をそんなに不浄視しなくても良いと思うんですが。
部屋は、外見に違わぬ広さ。リビングが(日本人感覚からしたら)無駄に広いのは台灣住宅の特徴らしい。このリビングだけでワンルームマンション一部屋が完結する広さ。それに、ベッドルーム2部屋と小さな部屋1つと、キッチン。やっぱり広い部屋に住んでる。凄いな。この国の物価感覚がますます分からなくなってしまった。
おっと忘れちゃいけない、この家もやはりそうでした、ということでトイレは二箇所ございました。マンションでも、ちゃんと二つあるのね。これはお約束らしい。何で?とFishに聞くと、「来客用の部屋と、それに併設されたトイレというのがあった方が便利でしょ?」ということだが、この国の人はそんなに頻繁に来客、しかも宿泊客があるのか?
Fish妹は仕事がまだ終わっていなかったので不在。弟(2)は既に家にいた。弟(1)がうれしそうに弟(2)の部屋に入り、なにやら兄弟談義にふけっていた。双子なので顔がそっくり。というか、一緒。それだけじゃなく、趣味がマンガやアニメというところまで一緒というのは感心させられる。
この弟(2)のオタク趣味については後述するとして、この家にはまだ住人(獣)がいる。奥から「にゃー」といいながら顔を出してきた。Fish妹が飼うトラ猫、「粘粘(ニェンニェン)」だ。野良猫を妹さんが拾ってきたのだが、よくなついて、まとわりついて離れようとしないので「粘粘」という名前が与えられた。
猫缶が大好物で、以前Fish妹が猫缶を与えるとみせて、ドライフードをお皿に盛りつけたら粘粘は号泣したという。そんなこともあって、今回粘粘用にも日本からお土産として猫缶を持参した。粘粘からしたら、初めての「海外の味」となるわけで、ご満足いただけるかどうか。
話は前後するが、夕食をFish家全員で食べに行った後、帰宅してから妹さんに粘粘の猫缶を進呈した。猫缶を僕が取り出した時点で粘粘はすばやくそれに気づき、夜の11時だというのに「早く食べさせてください」とニャーゴニャーゴと鳴いていた。本当に好きなんだな。というか、食べたこともない種類の猫缶のはずなのに、缶詰の形状を見ただけでそれが自分のエサだとわかるんだな。すごいな。
その後、哀願が通じて晴れて日本産猫缶が与えられた粘粘だったが、あまりにおいしくて、お皿の上に盛られた具を食べ終わる前にFish妹を見上げ、「次をください」とお願いしていた。お皿の上の残量が少なくなるのが心細いのだろう。
食べ終わった後、やたらと粘粘はおかでんの存在を気にして、折に触れこちらに近寄ってきた。「臨時の猫缶、しかも食べ慣れない味のやつを食べた」→「その前後に、見たことがない男が現れた」→「どうやらこの男が猫缶を持ってきたらしい」→「だったら仲良くしておこう」ということは、猫でも分かるようだ。
粘粘は「ふんぞり返っていたあまり動かない猫」だと思っていた。事前に見せて貰った写真が、大抵偉そうな顔をして座り込んでいるからだ。
たとえばこれ。旧正月、恆春の家に帰省したFish妹に同行した粘粘が、萌萌と初遭遇のシーン。
萌萌はまだ若いということもあって、「遊んで遊んでー」と粘粘にちょっかいを出そうとしたようだが、粘粘はその威厳でもって追い払ったらしい。この写真の、二匹の距離感がその様子を伺わせる。
しかし、実際粘粘を見ると、飛んだり跳ねたりといった若々しさは無いものの、すたすたとマンション内を歩き回り、「にゃー」と鳴き、見ていて楽しい猫だった。
「あ!今、確実にニャーって鳴いた!」
とおかでんは事ある度に主張するのだが、Fishは
「違うよ、あれはミャウ、だよ」
と言って聞かない。中国語的頭脳ではそう聞き取れるらしい。その割には、犬の鳴き声については「ワン」で日本と台湾では同じ、というのが不思議。
さらに聞いていると、ニワトリは「クッククー」と鳴くらしい。へえー。
おまけ。
居眠りしている萌萌の顔。目が不自由なので、まぶたを開けたまま寝ている。
Fish妹はまだ帰宅していないが、夕食に出かけることにした。弟(2)が20時までに基地に戻らないといけないからだ。軍隊なので時間厳守だ。妹さんは現地合流するとのこと。
てくてくと歩いていく。何のお店に行くかは、毎度の通り何も聞かされていない。
結構歩くのでどうしたものかと思ったら、弟二人がかりでスクーターを使って輸送していくことになった。家にスクーターが二台あるので(まさに自転車感覚)、それをいったん家まで取りに戻り、あとは双子兄弟二人がそれぞれ後ろに人を乗せ、ピストン輸送で現地まで輸送。よくやるなあ、全く。
到着したところは、「廣城」というお店だった。見ると、「自助餐」と書かれている。おお、先日から食べてみたいと言っていた自助餐、今晩の食事にセットされましたか。ありがたいことです。
でもねえ、こうやって細かく僕の話をキャッチアップしてくれているのはうれしいんだが、だったら事前に「じゃあ今晩はその要望に応えるよ!」なんて事前説明しておいてくれればいいんだがねえ。全部が全部、抜き打ち状態だもんな。「えっ、あ、ああ、そうですか。そりゃどうも」って毎回なるので、喜びきれないんだわ。もったいない。あらかじめわかってれば、「ウワア楽しみ!」とか事前にわくわくできるんだけど。
妹さんとも合流し、Fish家総勢5名+ガイジンおかでんによる都合6名の夕食開始。
ああ、なんだかんだいって人数、増えるもんだな。これが台灣式というやつなんだろう。10人份、だとか13人份、といったメニューが平然と用意されているのには身をもって納得だ。
でも、自助餐は少人数、場合によっては一人でも気軽に食べられるスタイルのお店。さすがに6人はちょっと多かったが、回りのお客さん許せ。
お店の中は、まさにレストランのビュッフェコーナーと同じ。料理皿がずらっと並んでいる。あまり客席数はないお店だが、皿数は非常に豊富だ。ホテルの貧相なビュッフェしかあんまり見たことがないので、こういう状況は血湧き肉躍る。
料理、どれを選んで良いか目移りする。いや、目移りする以前に、何が何だかわからない。日本のお店の場合、当然料理自体を知っているし、知らなかったとしても「ビュッフェならではの文法」ってのがあって、何となくその料理の位置づけというのがわかる。しかし、こっちの方は全然そういう文法やら不文律が違うので、戸惑いっぱなしだ。一つ一つ、料理を吟味していたのでは後ろの人に迷惑がかかるので、即座に選んで即座に盛りつけないと。
いわゆるひじきや里芋などの煮物が(当然)無いし、ふわふわスクランブルエッグやソーセージも(当然)ないし、漬物も(当然)無いし、さて、どうしようか。全体を見渡しながら、配分を考えつつ手前の料理を取っていかないと、最後になったら取り皿から料理が溢れることになりかねない。
お客はトレイの上に紙の弁当箱みたいな皿を載せ、そこに料理を盛りつけていく。最後におばちゃんのところにたどり着くわけで、おばちゃんもトレイに盛るかどうかはアナタ次第。
いや、このオバチャンはご飯をよそう係兼、お会計係。ご飯の有無を尋ね、いる、とお客が答えたらお茶碗にご飯をよそってくれる。これだけおかずがあってご飯食べない、という選択肢はあり得るのか?と思うが、お持ち帰りにする人もいるためにご飯はオプション、となっているわけだ。取り皿が即お持ち帰り用の弁当箱になる仕組み。
いいなあ。これだけおかずが並んでいて、選びたい放題で、お持ち帰りし放題で、一人で店で食べても違和感無いのって日本にほとんどないよなあ。うらやましい。多分おかでんだったら、おかずをてんこ盛りにして家に持ち帰り、それで麦酒飲むだろうな。
「で、お会計ってどうなるの?」
「選んだ料理の種類と、量で決まる」
「でも、値札なんてどこにも料理皿には無かったし、オバチャンを見る限り重量計測もしていないぞ」
「その当たりはオバチャンの経験で」
「いい加減だなあ」
いい加減といえばいい加減だが、ざっくり取り皿に盛って○元、という価格設定なのだろう。後は、魚尾頭付き一匹、といった特徴的な料理についてはざっくり料金に追加、ということだと思う。
そんな会話をしながら、Fishがふとおかでんの取り皿を見て「あっ・・・」といって困った顔をした。「そんなにいろいろ盛りつけたら、オバチャン値段が計算できないよ」。
確かに、おかでんはいつものビュッフェの癖で、あれもこれも少量多種を選んでしまっていて、お皿の上は料理が何種類あるんだかさっぱりわからない状態になっていた。確かに、これではオバチャン泣かせだ。大丈夫か。
しかし、あっさりとおばちゃんは計算をしてみせた。さすがベテラン。ちなみに、Fishと二人で135元(約432円)だった。一人200円ちょっと。安いなあ。
お会計カウンターの先に何かが置いてある。
右のタンクが、冷たいお茶。左の寸胴がスープだった。これは無料で頂けるらしい。ありがたく頂戴する。
おかでんが選択した料理。Fishが眉をひそめた、料理博物館状態のお皿。すまん、あらためて写真で見ると汚い盛りつけだなあ。せめてFish一家の前では、もう少しお上品に盛っておけば良かった。「日本人、きたねー盛りつけするなあ」と思われたかもしれない。
ご飯は相変わらずお椀が小さい。おかずの皿と比べて、いかに小さいかがわかると思う。こちらの人でデブがそれほど多くないのは、炭水化物(ご飯)をあまり食べていないからではないか、と真剣に思う。日本だったら、このおかずの量だったらご飯は2倍から3倍くらいのサイズがないと、納得いかないな。
味は・・・はい、もう何が何だか。少量ずつあれこれ、だったので、よくわかりませんでした。でも、野菜などを採れて良かった良かった。味つけも日本人にとって全く問題ない、適度な塩気。やっぱりこっちの食べ物はおかでんには合うなあ。特に不満は無いです、ホント。
ふう、と一息、箸休めとしてスープをすすると・・・うわ、うっかりしていた。スープには味が無いんだった。これだけはどうしても味覚嗜好が合わないところだ。もう少し塩気をください。ご飯が食べ進めにくいですホント。塩気もなければ、ダシもほとんどきいていないスープはとても悲しいものがある。
まあ、そういうトラップもありながらおいしくこの日の晩ご飯を食べ終わったのだった。最後に、お茶を飲んですっきりと。・・・ぎゃあ、砂糖入りのお茶だった。全く油断していた。思わず、口から噴き出しそうになったくらいだ。砂糖入りのお茶って、コンビニでお茶を買うときに注意さえしておけば良いと思っていたのだが、こういう店でも容赦ないのね。
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