2007年09月08日(土) 3日目
午前7時半、朝風呂を浴びてから食事処に向かう。
既に荷造りは済ませてある。朝食終了後、歯を磨いたら即出発だ。山の中での行動で時間を短縮するのは難しい。体力に直結するからだ。だから、こういう「登山以外」のところで時間を短縮していかないと、レンタカー返却時間に間に合わないという事態になる。
もしくは、「急げ、急げ」と車を走らせた結果事故を起こすか、お巡りさんに「ちょっと待ち給えキミィ」と呼び止められるか。
いや、そんなタイトなスケジュール組むアンタがバカだ、と言われればその通りだ。でも実際はそこまで必死にならなければならない程タイト、というわけではない。「下山後のお風呂は諦める」という事にすれば30分は余裕ができるし、「きっと熊本市街の道路はスムーズに進む」と楽観視すればさらに時間に余裕ができる。そういうバッファを見込んだ状態で、「できるだけ早く登山開始したい」と思っているだけだ。
何しろ、ここからレンタカー返却先である熊本市街地の中心部まで、70km近くある。・・・今適当に距離を言ったが、間違ってるかもしれん・・・要確認。時間配分としては十分にバッファを積み上げておかないとやばい。
そんなあわただしい気持ちを抑え込むような朝食膳。「まあ、落ち着いて食べていきんさい。」という感じ。大きな籠の中に松花堂弁当のように小鉢が並ぶ。どれもシンプルでありきたりなものだが、演出がうれしい。
籠に入りきらなかったはぐれ者、冷や奴とお漬物。冷や奴が「何で俺だけはぐれてるんだ」と不満そうだ。お漬物は「いやどうせ僕は食事の添え物だし、籠の中に入れてくれなんてぜいたくは申しませぬ」とすました顔をしている。
この他に、ご飯とお味噌汁。
むぅ、ドリンクメニューがさりげなく卓上に置いてあるのが気になる。
朝用の別物かとも思ったが、さすがにそんなことはなく昨晩と同じもの。
「朝からでも呑みたい人、いるでしょ?だったらメニュー置いておきますからどうぞ」
という事なんだろう。
普通、宿って夜はドリンクメニューが用意されていても朝はひっこめられているものだ。リクエストすれば出てくる。そういうのに慣れていたので、「朝でも呑みたい人はぜひ!」という前向きなこの宿のスタイルにちょっとびっくり。びっくりした証拠に、しょーもない写真だと分かっていてもついつい撮影してしまった。
おっちゃん達のグループが同宿していたが、その人達は頼むかな・・・と様子を見てみたが、食事処にいる全員が大人しくお茶で食事をすすめていた。誰も飲まないのね。
昼酒、大好きですと公言してやまないおかでん。朝酒はあまり乗り気ではないが、まあ飲めないこともない。しかし、温泉宿で朝からビールを飲もうと思ったことは過去一度もない。だから、おっちゃんが「いやー朝風呂のあとのビールはいいねぇ」なんて言いながら朝食を肴に飲んでいるのを見ると感嘆の声をあげざるをえない。
07:56
朝食を早々に済ませ、チェックアウトした。
家族経営(っぽい。詳細不詳)の宿なので、まだ食事処で給仕している時間帯にチェックアウトするのは悪いと思ったが、ちょうど女将さんとご主人はフロントに居た。心おきなく「これから久住に登ります。早いですけどチェックアウトお願いします」と宣言。
惜しいな、朝8時からまたあの冷泉地獄が利用できるのに。本当だったら、チェックアウトの10時まで2時間、またガタガタ震えることができたんだけどな。
ちょっと後ろ髪を引かれつつ、誘惑を振り切って宿を後にした。
はっはっは、こういうときに未練を感じないように後ろ髪はバリカンで刈り上げてあるんだよ。おかげで「こうしよう」と決めるまでは優柔不断だけど、一度決めると動きは速いぜ。
08:06
本日も派手なうなり声をエンジンが放ちつつ、車は坂を登っていく。到着したのは、「牧の戸峠」だ。
九重連山の表玄関は二つあり、長者原(ちょうじゃばる)とここ、牧の戸峠だ。「連山」と名が付くだけあって、この山域一帯はあちこちに登山道があるのだが、牧の戸峠は久住山への最短ルート入り口となる。標高、1,330m。目指す久住山は1,786.5mなので450mほどの標高差となる。標準コースタイムは片道2時間、往復3時間35分。
ただ、九重連山の盟主かのような名前を持つ「久住山」だが、連山の中では最高峰ではない。その隣にある「中岳」が5mばかり高い。「中岳」、なんとも平凡な名前だ。なぜ最高峰の山に「久住」の名を与えなかったのか不思議だ。命名当時は、精緻な標高測定技術が無かったから「きっとこっちの山の方が高い」とかなんとか、適当に決まっちゃったのだろうか。
08:06
牧の戸峠には広い駐車場が用意されており、登山客に都合が良くできている。山によっては登山口に駐車スペースが無く、強引な路駐を余儀なくされることがある。しかしその点この山は安心。
駐車場だけじゃない、ここには売店もお手洗いもある。バスだって別府や豊後中村から「牧の戸峠行き」定期便が運行されている。何かと便利。それだけ九重連山が愛され親しまれている証拠だろう。
08:07
親しまれている山だからか、安易に入山させんぞとばかりに登山口には警告が並んでいた。
上の写真は、火山ガスについての警告だ。
硫黄山周辺は、気象状況により有毒な火山性ガスが滞留する恐れがあります。
不快な臭気を感じたら高い所へ避難するか、速やかに通り抜けてください。
体調の悪い方、ぜんそく、心臓疾患等の持病を持っている方は特に危険です。
なんだか阿蘇山と同じパターンだな。ただ、阿蘇山の場合は「入っちゃイカン」という拒絶だったのに対し、こちらは警告に留まっている。管理団体の性格の違いなのか、本当に危険度が違うのかはわからない。
下の写真は、遭難注意の喚起だった。
最近、午後から入山して夜まで下山できずに遭難する事故が急増しています。午後からの安易な入山は控えてください!!
なお、山頂までの往復は6時間以上を要し、日没後は気温が零下十度まで達するので、くれぐれも注意してください。
ああ、初心者でもふらりと訪れる事ができる山だからこそ、発生してしまうトラブルなんだろうな。午後から入山って山慣れした人から言わせると馬鹿げているが、実際にやる人がいてもおかしくない。
しかし脅かしすぎ。「往復6時間以上」は相当体力が無い人でもここまではかからんだろうという時間だし、「日没後は気温が零下十度」というのも大げさだ。実際に零下十度にまで下がる日はあるのだろうが、そんな真冬にこの山に素人が軽装で登るのかね。・・・登るんだろうなあ。これくらい派手に警告しとかんと素人は何しでかすかわからんぞ、という危機意識が強く感じられる警告表示だ、実際「マジすか」と呆れるような遭難事件が過去にあったに違いない。
08:08
登山口にて、出発前の儀式:記念撮影を。
撮影しておくと、デジカメなので登頂開始時刻が記録されて便利。
さて、登りますかね。待ってろよ、久住山。
08:09
登頂開始。
最初の登山道はコンクリートで固めてあった。さすがによく歩かれている山だけある。
安定しているかわりに、固い感触が足に負担を強いる。上りの時は良いが、下りで疲れている時だと体力が無い人だと膝を痛める恐れがある。
08:10
ご丁寧に、微妙な段差がこしらえてある。無くても良いとは思うが、妙なところで気を遣ってくれている登山道だ。
手間がかかっても段差をつけよう、と施工主が思ったくらいだから、見た目以上に傾斜が急だ。「山をなめてると痛い目に遭うぞ、その覚悟はできてるんだろうな?」と登山者を試しているかのようだ。
目の前を歩く4人組のワカモノたちは、「きつー」「うわ、もう既にくじけそう」と弱音をさっそく吐いていた。
08:16
ちょっと開けたところにでてきた。山の斜面がテラス状になっているところで、休憩用のベンチや東屋があった。
「ほらもう疲れたでしょ?ここで一区切りつけて、諦めて帰っても良いんだよ、先はまだ長いんだし。十分頑張ったよ」というリタイア地点としては最適。眺めも良いし。
08:16
このテラス地帯で登山道は90度折れ曲がり、まだまだ登っていく。ご丁寧にコンクリート舗装道路はこの先も続いていた。
「ここでギブアップして温泉巡りに予定変更しようかなあ」と逡巡している人にとっては、微妙な斜面だ。正面の丘を直登するわけでもなく、かといって山腹を水平に巻くわけでもない。先ほどまでと比べるとやや斜度が低い道がのびている。
でも、ここでふうふう言ってる人は登山やめとけ。そこまで苦労して登っても楽しくないぞ。
おかでんは当然「こんなの序の口」と東屋で一息入れずに通過。短期決戦型の精神と肉体を持つ者として、最初に急坂があった方がありがたい。最後ガツンとこられるより、最初にガツンの方がまだ体力が余っているので大丈夫だ。
08:18
牧の戸峠を見下ろす。登山開始から9分でこの高度差。なるほど、急な坂を一気に登ってきたんだなと実感。
しかし逆をいえば、既にこれだけ標高を稼いだということであり、この後が楽になるわけだ。楽しく登ろう九重連山。
08:22
さすがにコンクリート舗装はいつまでも続かない。この頃になると土の上を歩くようになった。この方が踏みしめ甲斐があってよい。
おっと、案内標識が出てきたぞ。牧ノ戸0.7km、久住山3.4キロメートル。
なぜか久住山までの距離表示が、上書きされている。距離が変わったのだろうか。それとも、何かの勘違いで間違った距離を書いてしまったのだろか。謎だ。
「活発な火山活動が行われている九重連山では、毎年1mずつその距離が広がっていて・・・」
なんていう大地の神秘の結果「距離を訂正」したんだとしたらすごい。ありえないけど。
08:22
標準コースタイム25分で、標高1503mの沓掛山まで登らないといけない。牧の戸峠が1,330mだから、170mちょっとの標高差だ。のっけから登山者試しの上り。
そんなわけで、登山道もやや強引。木道の階段が出現した。こういうの、自分にジャストフィットした段差であったためしがない。歩幅ともあわないし。だから、逆に疲れが溜まりやすいシチュエーションだ。
でもここまで整備するということはすごいことだ。感心する。
08:24
ひとのぼりすると、正面が開けてきた。
雲が出ていて、あまりはっきりとわからないが。
恐らく正面は扇ヶ鼻と思われる。
いよいよ九重「連山」の中に入ってきたということか。
08:25
連山を満喫するためにも、まずは前衛の山である沓掛山と仲良くなっておかないと。正面に沓掛山が見えてきた。
08:28
結局沓掛山の山頂は踏むことなく、道は先へとつながっていた。
このあたりで既に楽しい尾根歩きだ。九州の山、というと森林限界が相当高いところにあって、標高をかなり稼がないと見晴らしが良くないと思っていた。きっと、登り始めの頃は樹林帯の中を延々歩くんだろうなと。
しかし、地形のせいなのかどうかはわからないが、この山域に高い木は生えていないようだった。おかげで、大変見晴らしの良い中尾根歩きができる。本来標高を稼いできたものだけに与えられる特権が、ここでは気軽に手に入るのがうれしいし楽しい。
おっと、まずはこの岩の崖を下りないと。あんまり先ばっかり見ていると足下すくわれるぞ。
08:29
道が良く整備されているし、見晴らしは良いし、のんきな山だと思っていたが沓掛山からの下りはハシゴがあった。一応こういうイベントも用意されてるのね。「気安く久住って呼ばせねーぞ」といったごあいさつか。
08:30
ハシゴを下りて、沓掛山から離脱を図ろうとしているとき、もう一つのハシゴを発見した。上に登っている・・・すなわち、沓掛山方面行きだ。
あれ?どこかで分岐があったんだ。全然気付かなかった。
そして、歩みを今まで止めてこなかったおかでんが初めてストップしてしまったのがこのハシゴを見たからだった。
「下り専用道」
うーん、これはどういう意味だろう。
久住山への登山、と考えた際の「下り」なのか、それとも沓掛山方面からの「下り」なのか。その解釈次第で意味が180度変わってしまう。前者だと、「お帰りの際はこちらの道をお通りください」という意味になるし、後者だと「ここは一方通行の出口です、中には立ち入りできませんのであしからず」という意味になる。どっちなんだ。
トンチだろうか。ボク、試されてる?ひょっとして。
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