ビール無しの山、そしてバイキング【赤岳】

山頂が見えてきた

06:37
赤岳頂上山荘を冷やかしたあと、また荒天の世界に戻る。

相変わらず信州側からの風が強い。

山小屋からすぐのところに、山頂の標識が見えた。あ、本当に山頂すぐそばだ。

こんなに山小屋と山頂が近いのは、北穂高岳にある北穂山荘とここくらいかもしれない。

よくこんなところに山小屋作ろうとしたものだ。というか、よく許可が下りたな。・・・いや、許認可とかややこしい話が制度化される以前に、山小屋ができていたのかもしれない。既得権益ってやつだ。結構山小屋ってのはそういうのが多い。

赤岳頂上の分岐表示

06:38
赤岳頂上の分岐表示。なにやらややこしい。

赤岳山頂

06:39
赤岳山頂。

雨と風でへろへろにさせられながらの到着。

おかでんの前後にも登山客はいたが、記念撮影を済ませ次第とっととこの場を去っていた。お茶をいっぱい飲もう、とかしばし休憩、といったパーティーは皆無。何しろ八ヶ岳最高峰の山頂だ、360度見渡したって、風雨をさえぎるものは何もない。

せめて「心の目」で周囲の風景を楽しもうじゃないか・・・なんてやってる余裕なんて、おかでんにだってない。それ、記念撮影が済んだら、とっとと下山しよう。

撮影しようとするたびに、レンズに雨が降り込んで画がにじむ。拭いても拭いても、すぐに濡れる。こういうことをやっているから、デジカメがすぐに壊れるんだ・・・とわかってはいるが、山頂で撮影しないという選択肢は存在しない。できるだけ速やかに、撮影を済ませる。

下山を開始してすぐハシゴ

06:49
下山開始。

やっぱりこの状態じゃ、中岳から阿弥陀岳に抜けていくのは危険。赤岳山頂に向かうのでさえリスキーだったというのに、これ以上リスクは負えない。予定通り文三郎尾根で一気に行者小屋まで下ろう。

赤岳山頂の南側は、急な斜面。はしご場や鎖場が続く。

メガネが曇ってしょうがない

06:54
水滴にやられためがね。

こんな感じで、細かい水滴がすぐにびっしりつく。

めがね用ワイパーが本気で欲しい。

前が見えないので、岩場を歩くのに難儀する。そのため、めがねをおでこにずりあげ、まるで老眼の人みたいにめがね無しで足元を確認する羽目になった。

岩場の中を下る

06:55
深いガスの中、岩場で標高を下げていく。

風は相変わらず強いが、稜線ではないので身の危険を感じるほどではない。しかし、足下がゴロゴロしているので、気が抜けない時間帯。

中岳・阿弥陀岳に向かう稜線との分岐点

07:08
八ヶ岳主脈縦走路と中岳・阿弥陀岳に向かう稜線との分岐点に到着。

見ての通り、めがねが完全に水滴でびっしり覆われている。この状態だと、めがねをかけていてもほとんどものが見えない。裸眼の方がましなくらいだ。

深いガスの中を彷徨う

07:14
いまいちどこを歩いているか、実感が伴わない。ここはどこだろう・・・。

もちろん、地図上でどこにいるかは分かっているつもりだけど、ここまで前が見えないと少し不安になる。あと、思い描いていた地形と目の前の光景が少し違うので、それも不安にさせられる。

文三郎尾根の分岐

07:19
文三郎尾根の分岐に到着。

天気が良ければ、このまま中岳・阿弥陀岳と縦走するつもりだったが、やっぱり今朝決めた通りに文三郎尾根にエスケープすることに決めた。この天気で稜線歩きを続行するのはやっぱり危険だ。

ここから行者小屋へ向かうことになるが、すとんと標高を落とす道なので足下には気を付けたい。

歩きにくい段差

07:20
段差。微妙に高い段で、とても歩きにくい。

山道で、自分の歩幅や足を上げる高さにフィットした階段って、あまりないものだ。で、そういう階段は疲労感が増す。

この段差がまさにそうだった。

階段で標高を下げまくる

07:28
黙々と歩き、標高を下げていく。

視界が悪いし、特に何かコメントすべきことはない。「文三郎尾根」というだけあって、どうやら尾根の上を歩いているらしいということは地形的にわかるのだが、それ以上でもそれ以下でもない。

下ってくるとだんだん天気は回復してきた

08:04
下界から登ってくる人と時々すれ違うのだが、彼らはいたって軽装だ。Tシャツ1枚の人さえ、いる。

「下のほうはどうなってますか?」
「いい天気ですよ。暑いくらいです」
「ええ?上のほうは寒いですよ。えらい違いだ」

天気が悪いのは、山の上だけのようだ。聞くと、今日は行者小屋から出発しているという。直線距離でいったらすぐ近くなのだが、標高が違うだけで全然気象は変わるのだな。

「この上は風が強いし、天気は相当悪いですよ。覚悟を決めていってくださいね」

と忠告しておく。脅しでもなんでもなく、実際にそうだからだ。

「えー?信じられない」

と、登ってきた人たちはお互いの顔を見合わせ、笑う。

「いやいや、見てくださいよこの格好を。これが何よりの証拠」

おかでんは、自身のレインウェアをぱんぱん叩いて説明する。

でも、確かにいい加減この格好は大げさになってきた。気がついたら風はやみ、雨もやんでいた。高度が下がったので、気温も上がってきている。レインウェアはちょっとうっとおしいかもしれない。

せっかくなので、これを機に雨用装備は片付けることにした。その場でレインウェアを脱ぐ。

すると、ちょうど上から単独の女性が降りてきて、おかでんが装備を立て直しているのを見て自身もレインウェアを脱ぎだした。自然と、会話をする。

「いやあひどい目に遭いましたね」
「すごい風でしたね」

その女性は行者小屋に泊まっていて、今朝早くに出発して文三郎尾根往復で赤岳山頂まで行ってきたのだという。あれっ?ということは、途中でこの人とすれ違ったのか。でも全然気がつかなかった。すれ違う人にまで気を配る余裕がなかったのだろう。それだけのしゃれにならない天気だった、ってことだ。

「せっかくなので一緒に下山しませんか?」
「いいですよ」

ということで、二人連れ立って下山することになった。

高山植物

初対面の人と連れ立っての山歩きなんて、初めてのことだ。

でも、話題はいくらでもあった。お互い、これまで登った山の話をするだけでもいくらでもしゃべることはできたからだ。しかも、山が好きな人は決まって旅行好き、温泉好きだ。これまで訪れた素敵な温泉宿の話や、鉄道など公共交通機関の話をしていれば、話が途切れて不自然な間が生まれることはなかった。

ほとんどの山歩きにおいて、おかでんは単独だった。誰かと登っているときは、兄貴かコダマ青年だった。この二人は、あまりに勝手知ったる仲であり、特にあらためてあれこれ会話をするような間柄ではなかった。だから、山に登りながらぺらぺらしゃべった記憶はない。

その点今回は、全くお互いのことを知らない者同士で、会話がはかどったのでとても楽しかった。相手がおかでんと年齢が近かったというのも、よかった。

時間が経つのを忘れて歩いていたら、気がついたら尾根歩きが終わっていた。

う行者小屋まで降りてきた

08:11
テントが見えてきた。

あれっ、もう行者小屋まで降りてきたのか。早いな。

この時間、主不在のテントがあちこちにあった。持ち主は、テントをそのまま置いて、近隣の山のてっぺんを目指しているのだろう。で、登頂を終え下山してきたら、テントを畳んで撤収だ。

今日は三連休最終日だけど、テント村が賑やかなのはあともうしばらく時間があるだろう。

行者小屋の中

08:15
ご一緒していた方(以下、Uさんと呼ぶ)が、

「行者小屋に荷物をデポしているので、それを受け取りたい」

といって行者小屋の中に入っていった。それにくっついて、おかでんも山小屋の中に入る。

この時間、宿泊客は全員出払っているので、山小屋の中はがらんとしていた。

食堂として使われている広間も、広々としている。

稜線上などの厳しい場所にある山小屋じゃないので、横に広くゆったりとした作りになっている。おおよそ、山小屋っぽくない。行者小屋があるところは、山の中とはいえ、比較的平らなところだ。

行者小屋の売店

08:15
「行者小屋は快適でした?」

とUさんに聞いてみたら、なかなかよかった、という回答が返ってきた。料理は悪くなかったし、寝床はさほど混雑しなかったから、という。

「お風呂はありました?」

と聞いたら、お風呂はなかった、という。あ、そうなんだ。

不思議なものだ、行者小屋よりはるか上の赤岳天望荘には風呂があるのに、ここには風呂がない。結構大きな山小屋だし、しれっと風呂があっても不思議じゃないのに。

逆に、Uさんからは僕が泊まった赤岳天望荘のことについて根掘り葉掘り聞かれた。やっぱり、ある程度山に詳しい人からすれば、この山小屋には風呂があり、バイキング料理だということは有名らしい。質問に一つ一つ答えていったら、

「いいなあ。私も昨日無理して行けばよかった。行者小屋に着いた時点で、まだ時間に余裕があったんですよね」

と少し悔しがっていた。しかし、聞くと美濃戸口を出発したのは昼を大きく回った時間であり、行者小屋一泊は妥当な線だったと思われる。

行者小屋の中には売店があった。カップラーメンやワインが並んでいたが、アイスクリームが入った冷凍庫も備わっていた。アイスクリーム、この時期ならよく売れそうだ。

行者名物おでんのメニュー

08:30
「せっかくだから、行者小屋に着いたら無事を祝して乾杯でもしましょう」

という話をUさんとはしていた。まだ登山口まで相当先だけど、それでも行者小屋で祝杯を上げたかったのは、それだけ山の上の気象がすごかったからだ。厳しい状況をクリアした暁には、お祝いをしたい。そう思わせるだけの壮絶さが、山頂付近ではあった。

Uさんは女性とはいえビールが大好きな人で、この乾杯話にはのりのりだった。一昔前の自分を見ている気分だ。何かメリハリを付けるときには必ずビール。

「せっかくだから、行者小屋名物と言われているおでんを食べてみよう」

おかでんはそう思い立った。Uさんと一緒にビールを飲むことができないので、そのかわりにおでんでも食べて場つなぎをしようというわけだ。

Uさんがビールを買っている傍らで、おかでんはおでんの鍋と対峙。おでんは、セルフで自分が欲しいものを鍋からすくい、受付までそのお皿を持っていってお会計ということになる。

大根をはじめとし、玉子、こんにゃく、大判、きんちゃく、じゃがいもが150円。がんもとちくわが100円。

おでん二種類

08:30
とりあえず、がんもとじゃがいもをチョイス。しめて300円。

買い物が終わったところで、Uさんと乾杯。Uさんはキリンラガーの350ml缶、おかでんは水。

おでんは薄味。汗をかいた後なのでやや物足りなく感じる塩っ気だけど、多分この程度がちょうどいい味なんだろう。

「いやー、いいですなあ」

Uさんがほっと一息つきながら、にっこりと微笑んで言う。和歌山出身ということなので、イントネーションが関西風だ。こういうとき、ビールが飲めるっていいよな、と思う。さすがにおでんを頬張っても、Uさんのように「いいですなあ」と心に響くせりふは出せない。

でも、だからといってビールを今飲みたいとは全く思わないのが、せめてもの救いだ。今回一連の山歩きの中で、「ビールが手元にない」ことの違和感は感じるものの、そこから「飲みたい」という欲求へはつながっていない。

行者小屋のお手洗い

09:06
行者小屋を出発する前に、お手洗いに行っておくことにした。

宿泊者以外は100円支払う、チップトイレだ。

イベント会場にあるような、仮設トイレがずらっと並ぶ。お賽銭箱に書かれている文言によると、微生物の力で便を分解するのだそうだ。ご時世だな。たとえ水が潤沢にあったとしても、汚物をざばーっと流せばそれでOK、というわけにいかないのがこの世の中。そんなことをやったら、下流が大腸菌で汚染されてしまう。

急激に天候が回復してきた

09:07
赤岳を見上げてみたら、あれっ、雲が晴れてきた。

あれだけ凶悪な風と小雨をもたらしていた天気だけど、機嫌がすっかりよくなったらしい。赤岳山頂周辺はまだガスが残るものの、青空が随分広がっていた。気持ちよい、真っ青な空。夏ならではの、くすんだ空ではない。まるで冬の空のようだ。

「最初っからあれだけ晴れていればなあ」

と愚痴りたいところだけど、山の天気に対しては文句いいっこなし。こういうものだ、と理解した上で山に登らないと。

今日これから山頂を目指す人、ラッキーでした。でも、今日は三連休最終日。これから登っていたのでは、下山が随分遅くなる。明日からのお仕事にも支障が出そうなので、やっぱり「今日山頂を目指す」という選択肢は選びづらい。

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