13:45
お地蔵さんがいた。
あ、なるほど、だから「地蔵尾根」って言うのか。今頃になって納得だ。
でも、何でこんなところにお地蔵さんがいらっしゃるんだろう?・・・いや、もちろん道中の安全を祈願するためだろう。まさかここで安産祈願とかそんなんじゃないだろうし。でも、こんな山の中、唐突だ。
あいにく、菅笠は持っていなかった。汗拭き用のタオルでもかぶせてあげようか。そうしたら、今晩あたり山小屋に餅やら米俵やらを届けてくれるかもしれない。「かさこ地蔵」っていう寓話があったよね、昔。
13:53
急坂でそれなりにきつい道だが、体重が激減したために体が軽くなった今のおかでんにとっては余裕な道のりだった。気がついたら森林限界をあっという間に通り越し、そして今、八ヶ岳主脈縦走路との合流点が見えてきた。
縦走路まできたら、あとは山小屋までもう少しだ。がんばれがんばれ。
13:55
地蔵尾根の終わり。主脈縦走路と合流した。
看板によると、ここは「地蔵ノ頭」という地名らしい。多分、「じぞうのかしら」と読むのだろうが、これが「じぞうのあたま」だったら全然違った感じになる。
で、この地蔵ノ頭にもお地蔵さんはいらっしゃるわけで、ちょっとだけややこしいことに。
13:56
これから進んでいくことになる、赤岳方面を見やる。
ガスでよくわかりません。以上。
ここからさほど遠くないところに、本日のお宿である赤岳天望荘があるはずなんだが、全くその姿は見えない。今日は雨が降らなかっただけ良しとしよう。「夜は満天の星空を観察」なんてハナから期待しちゃいねーよ。
13:56
縦走路北側、天狗岳方面の写真も撮影してるんだけど、こっちもひたすらガスなので割愛。
八ヶ岳の東側はガスっておらず、晴れていた。稜線まで風が巻き上がり、ガスを呼び寄せているのだが、稜線を超えるとガスが消える。自然って面白い。
眼下には高原野菜の畑が広がっていた。
13:57
稜線歩きを始める。ごつごつした岩場を避けながらの行軍。もう地蔵尾根ほどきつい登りはないはずなので、気が楽だ。
鼻歌でも歌っちゃおうかなぁ。
そんな「楽勝」モードになりつつあるところで、いよいよ本日のお宿「赤岳天望荘」が正面に見えてきた。よーしよしよし、予定よりも繰り上がりで到着できたぞ。よくやった、俺。自画自賛しておこう。
山小屋の醍醐味(だいごみ)って、何はともあれチェックインから夕ご飯までの間だよな。酒が飲める人は飲み、飲まない人はそれなりに、ぼーっとしながら時間を過ごすぜいたく。遅れて山小屋にやってきている人たちを遠くからずっと観察してみたり。
何しろ、夕食後は「寝床争奪戦」で寝苦しい一晩となる。天国なのはあくまでも夕ご飯の時間まで。せいぜい、「今晩何が出てくるかな?」とニヤニヤしながら想像しているうちが、華だ。
で、この山小屋の場合、お風呂があるわけで。楽しい夕食前のひとときを更に彩ってくれる。それにしても凄いな、この山小屋、モロに稜線上におっ立てているぞ。どこをどうひっくり返したって、こんこんと湧き水が出てくるような場所は存在しない。相当遠くからポンプアップしているに違いない。それでも、お風呂を供給するとは驚くしかない。
13:59
「赤岳天望荘 お疲れさまでした」の看板がお出迎え。本日の行程、これにて終了。怪我一つなく、無事到着できました。
当初は15時着予定だったので、1時間予定を短縮することができた。うん、我が脚力は捨てたもんじゃないな。
この勢いを駆って、そのままこの先約1時間の場所にある「赤岳頂上山荘」に行く事だって可能な時間だ。しかし、赤岳天望荘に既に予約を入れているし、そもそも今回の旅の最大の楽しみはこの山小屋でのお風呂とバイキングだ。わざわざ別の山小屋に行く理由など何もあるものか。さあ、早く着いた分、たっぷりと満喫させてもらうぜ。
14:00
赤岳天望荘は二つの建物から構成されていた。
手前は、個室が並ぶ「個室棟」。そして奧に見えるのは受付や大部屋がある棟。
この二つの棟の間に登山道が突き抜けており、分断されている。しかし、登山道の真下にトンネルが通っていて、そのトンネルでお互いの建物を行き来できるのだという。トンネルがある山小屋ってのはこれまた珍しい。いろいろ探検しがいがある山小屋だな。
14:01
赤岳天望荘の宿泊料金が張り出されてあった。
1泊2食、大部屋というスタンダードなプランの場合、9,000円。おかでんがこれに該当する。個室利用だと12,000円。つまり、何人かのパーティーでこの地を訪れるなら、個室利用も十分選択肢になり得るということだ。一人頭3,000円プラスで済むなら、山小屋物価を考えれば安い部類だ。
面白いことに、個室の一人利用もここでは受け付けていた。旅館とかでは嫌がられる「お一人様」だが、ここでは「お金さえ払えばOK」というスタンス。そのお値段、15,000円。かなりな出費となるが、寝苦しさから解放され、プライバシーとセキュリティが担保されると思えば、案外悪くない価格だと思う。
この山小屋、個室は30以上ある。なるほど本腰入れて個室営業やってるんだな、ということが分かる。
では一番ケチな宿泊はというと、素泊まり大部屋になるわけだが、6,500円だ。この山小屋には、テン場が存在しない。赤岳頂上山荘にもテン場はないので、テントで山歩きをする人は必然的に行者小屋を使わなければならない。
14:01
小屋の中に入ってみる。
個室がたくさんある山小屋ではあるが、だからといって広い場所が確保されているわけではない。いかにも山小屋らしい、コンパクトな作りになっていた。
中に入ってすぐのところが受付兼物販カウンターになっていた。宿帳を書くのも、お酒を買うのも、全てここでどうぞ。そしてその背後には厨房が控えている。バイキング料理を提供するってこともあってか、小さな厨房だ。
建物奧は、食堂になっている。食事時間以外は談話スペースとして解放されていた。既に早くに到着した人たちがぼちぼちと宴会を始めていた。そうだよな、やっぱりこの時間が宴会タイムだよな山ん中って。待ってろ、俺もじき宴会やるから。一人で。酒なしで。
14:02
宿帳に必要事項を記載し、お金を払いながらこの山小屋の説明をスタッフから受ける。
なにやらいろいろ覚えないといけないことがあって大変だぞ、ここ。
まず、夕食の食券も手渡された。
夕食は17時から開始のようだが、おかでんは17時半から18時、と食券に張ってあった。
14:02
そして、カップを渡された。ピンク色のプラスチック持ち手と、使い捨てのカップ。カップのほうには、マジックで名前を書くようにといわれた。他人のものと間違いやすいからだ。山小屋で、いや、宿泊施設でチェックイン時にカップを手渡された経験なんてないので、ちょっとびっくりした。
持ち手の色は、到着順で宿泊客ごとに違う。この色の違いで、朝ごはんの順番が決まるようだ。ちなみにピンク取っ手の宿泊客は、朝食の時間は5時から5時半の間、ということだった。
14:03
このカップがあれば、受付においてあるコーヒーサーバーから自由にコーヒーを飲んでよい、ということだった。無料コーヒーとは面白い試みだ。
ちなみに、宿泊客以外の、外来の人は1杯500円となる。すごいや!じゃあ、一泊の間に4杯コーヒーを飲んだら、2,000円相当お得ってことだ。どうせ酒が飲めずに暇なんだから、今晩はコーヒーを飲んで過ごすことに決めた。
ちなみにコーヒーの提供時間は、14時~19時と、朝食開始時間~7時。
14:04
このほか、館内案内の紙を一枚貰った。
山小屋でこういう紙が配られるのは初めて見た。でも、それだけインフォメーションがあるってことだ。
ええと。
天水を使っていて水には不自由しているので、水が欲しければミネラルウォーターを買ってくれ、と書いてある。あれれ、風呂はあるし、水洗トイレもある宿なのに。
結局、「水はあるけど、飲料水はない」ってことなんだな。了解。
あと、お風呂の利用時間も書いてある。
女性の利用時間 14:00~15:20、18:30~19:30
男性の利用時間 15:30~16:50、19:30~20:20
さすがに男女別浴室、というわけにはいかないので、ひとつの風呂を男女が交互に使うことになる。そのため、時間が細かく刻まれているというわけだ。入浴時間には注意しておかないといかんな。うっかり入りそびれると後悔する。
14:06
本日の寝床、「大部屋」に向かう。
その名の通り、広い空間の部屋だ。しかし、上下二段のカイコ棚になっており、そこにびっしりと寝袋が並んでいた。
寝袋か。うん、それならまだいいや。
寝袋だと、少なくとも「隣の人の生足が自分の体に触れる」といったようなことにはならない。狭いながらも、寝袋の中というプライベート空間は最低限確保できるので、安心感が段違いだ。
14:07
カイコ棚にずらりと並ぶ寝袋。
まだ時間が早いこともあり、人は少ない。でも寝袋の配置を見てみると、この後どばどばっと人がやってくることが確定済みらしい。
「いきなり登山道が崩れて、もうこれ以上山小屋に客がこれなくなればいいのに」
みたいなことは今更思わない。そんなこと、考えるだけ無駄だからだ。山小屋に泊まるということは、こういうことなんだから最初っから覚悟というか、諦めはできている。夜、狭いところで寝るのも登山のつらさのひとつとわきまえよ。急斜面を登って息があがるだけが登山じゃないのだよ。真の本番は寝苦しい夜なんだよ。
あー、寝袋が半分づつ、隣と折り重なっている。つまり、寝袋の幅分さえも一人あたりのスペースが確保されていないってことだ。
いやあ、今晩が楽しみになってきたぞ。
狭いだけじゃあないぞ?これだけ、人が密集していたら、室内は相当の温度と湿度になるんだぞ。蒸すぞ、息苦しいぞ。覚悟しとけよ。
14:07
あー。
受付で、寝床の指定を受けた際、「壁際」だったのでラッキーと思ったものだ。両側から見知らぬ人に蹴られたり押されたりしながら一晩を過ごしたくないからだ。せめて片側が、文句ひとつ言わない壁ってのは心強い。
しかし実際に自分の寝床を見て、これはなかなか手ごわい、と思った。
カイコ棚の下、一番奥の壁。
昼なお、暗い。懐中電灯が必要なくらいだ。窓がない。(写真はフラッシュを焚いた状態のもの)
これは、「寝床で本を読んだりして時間をすごす」ってのは無理だな。談話室か食堂にエスケープしないと。
寝床で時間をすごす、というのはちゃんとした意味がある。
「ここは俺のテリトリーだ」と周囲の人にアピールできるからだ。もし不在にしていたら、いざ寝ようと思ったときに自分のスペースがなくなっていて途方に暮れることになる。
でもまあ、しょうがないか。そのときはそのときだ。領土侵犯をした人にお引取り願うしかない。
14:10
大部屋の中には、壁で仕切られた中部屋的なものもあった。
大所帯のパーティーなんかが、ここで寝泊りするんだろうか。
14:17
さあ、荷解きをしたので、早速館内探検をしてみよう。
まずは、個室棟に行ってみようと思う。こっちに、風呂も、トイレも、談話室もあるらしい。
大部屋の入り口脇から、噂のトンネルがのびている。個室棟へは、このトンネルを潜り抜けていくことになる。なんだか秘密基地っぽくて楽しい。
14:18
トンネルを抜けた先に、トイレと、風呂の入り口があった。
風呂の時間になったら、早速入るぞ。ひとっ風呂あびてさっぱりしたら、さぞや爽快だろう。標高2,700メートル超の稜線で、風呂。こんな体験、他じゃできない。
・・・あれ?今気が付いたんだが、この山小屋って、「日本で最も標高が高いところにある風呂」になるんじゃないか?他にこんな高いところに風呂ってないだろ。
「日本最高所の温泉」は「みくりヶ池温泉」で2,430m。これは有名な話なんだが、じゃあ単なる「風呂」って最高所はどこなのか、そんな情報は見たことがない。乗鞍畳平の山小屋に風呂がありそうだが、あっちよりもこの赤岳天望荘の方が標高が高いはず。どうなんだろう。
・・・その後あれこれ調べてみたら、木曽御嶽の上にある山小屋には風呂があるようだ。標高2,900mとかなんとか。あ、やっぱり上には上があったか。
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