
中国料理店特有の、「分厚くて、重くて、デカい」メニューをぺらぺらとめくる。
いや、「ぺらぺらと」なんていう月並みな表現じゃ無理だ、そんなに簡単にはめくれない。だってデカいんだもん。
今回参加している4名は、それなりの健啖家ぞろいだ。「そんなには食べられないですぅ」なんて言うのは潔いと思っていない。むしろ、「食べたいものがあったら躊躇しないで頼めばいいさ。お腹いっぱいになってから悩めばいい」と考える性分だ(いしだけは、もう少し冷静かもしれない)。
とはいえ、目の前の机に巨大な鍋が鎮座しており、ここでこれからグツグツ煮られる料理が本日のメインだと思えば、声高らかにあれやこれやと頼む気にはなれない。だって、まるで五右衛門風呂みたいな鍋なんだから。さすがに慎重にならざるをえない。
そん感じでびびっている我々の前に、噂の「東北農家鍋」の料理紹介ページが登場した。おお、やっぱり噂の通りだ。
ページ左に、まさに「東北農家鍋」の記載がある。料理写真を見ても、なんのこっちゃよくわからないぞ。4~5人前で、5,180円税込(2020年6月時点)。高いんだか安いんだか、鍋の場合は相場感がよくわからないけど、多分安いと思う。
ええと、何が入っているのか具の紹介があるぞ。ありがてぇ。それによると、
スペアリブ、インゲン、とうもろこし、かぼちゃ、じゃがいも、とうもろこし饅頭5個付き
と書いてあった。ああ、鍋肌にペタンと張り付けてある餅みたいなのは、「とうもろこし饅頭」なのか。
日本の鍋料理としては、あんまりつかわない具ばかりが入っているのが特徴だ。珍しい食材というわけではないのだけれど。こいつァ楽しみだ。海老とかホタテとか、高級な具はいらんのですよ。ありきたりな具でも、エキサイティングになれるんですよきっと。だって、目の前の鍋、これが既にこれからの我々の心拍数上昇を約束してくれている。
ちなみに、ページの右側には「豚の色々な部位の鍋(中国東北地方特色)」という鍋もあって、これも魅力的だった。次回があるなら、今度はこっちも食べてみたい。お値段は一緒で5,180円。

鍋というメインディッシュがあるので、肉!とか魚!といったメインディッシュ級の料理を頼むわけにはいかない。火の玉ストレートな料理ではなく、ジャブ、フック、ボディとじわじわせめていこう。
いや、ボディにくるのはダメだな、もっと軽く。
そんなわけで、前菜系の料理を頼むのですよ。
本来、前菜(冷菜)はあっさりといきたいところなのだけど、「豚の心臓和え」に目が行く。かなり攻めてるなオイ。いやだって、豚の心臓ってあんまり食べなれない食材だから。鶏の心臓(ハツ)なら全然珍しくないのだけど、豚だぞ豚。
しかし、やっぱり「さすがにそれはちょっと」という声が上がって、おとなしく「キュウリとニンニクの和え物」480円に落ち着いた。

女性が混じる会における料理選びだと、大抵「サラダを頼みたい」という声が上がる。女性という生物は、サラダを食べたくてうずうずしている生き物なのだろうか、と気になる。
もちろん、サラダを頼むのは賛成だ。
とはいえ、ごく普通のサラダを頼むなんてのは面白くない。ここはディープ西川口、せっかくだから見慣れないサラダを頼みたいところだ。
「東北サラダ」880円。
東北サラダ?
もちろんここでいう「東北」というのは、宮城とか秋田とかの東北地方ではなく、中国の東北地方だ。満州があったあたり、だろうか。
それにしても、これもまた謎の料理だ。具がたくさん入った冷麺またはそうめんのように見えるけど、そんなわけはない。実物を見るまでは油断がならない。

ガツンとくる系は、本日のメインディッシュである「東北農家鍋」に敬意を表して敬遠するつもりだった。
でも、これを見るとどうしても頼みたくなったので許して。
「豚スネ肉の特製醤油煮」。980円。

「豚スネ肉の特製醤油煮」が真っ先にやってきたのだけど、あれれ、写真と実物が結構違う。
とはいえ、お肉どっさりでみんな笑顔にっこり。
酒飲みなら、こいつだけをつまみに飲み続けられそうだ。

キュウリとニンニクの和え物が届いた。これはもう、見たまんま。

日本人が世界的にみて長寿国である理由はあれこれ言われているけれど、甘いものをさほど飲まない、という文化もあると思う。中国料理店に行くと、特にそう思う。なんか不気味なほど甘いジュースが用意されているから。
「せっかくだから、ここは日本で飲まれていないご当地ドリンクを。」
と頼むんでみて、やっぱり料理と合わなくてちょっと複雑な気持ちになること、しばし。

うわあ。
これが「東北サラダ」だ。
野菜マシマシ、といった感じ。こんなに盛り上がったサラダを見るのは初めてだ。
なんで「初めて見た」と思ったのだろう?と自分のファーストインプレッションを不思議に感じたけど、なるほどわかったぞ。サラダ=生野菜、とした場合、ふわっとした葉物野菜はこんなに盛り上がらない。もと横にべたっと広がる。こぶりなボウルにサラダを盛ったとしても、だ。
キャベツの千切りは山盛りにできるけど、だからといってここまで盛り上がるかどうか。
じゃあ、このサラダってなんだ?おっと、うず高く積み上げられたビジュアルに気を取られていたけど、料理そのものについて考えていなかった。
えーと?
改めて、メニューを確認してみたけど、何も書いていなかった。そもそも、メニューの写真と実物が全然違うし。
いろいろなものが入っているが、メインはどうも春雨っぽい。そして、きゅうりと人参、玉ねぎの千切り。あと、干豆腐、刻みにんにくだと思う。そして、よくわからない内蔵肉らしきものが。
「サラダを頼むと、野菜がいっぱいとれてヘルシー!」とは言い切れないような言えるような、そんなサラダだ。日本人諸君の常識とはちょっと違う、サラダ。むしろ面白い。
ちなみに、メニューに書かれている料理の中国名は、「家常冷菜」だった。「家常」という言葉は、ガチ中国料理店でよく見かける名前だ。「家常」というのは、家庭、という意味があるらしい。中国東北地方の人たちは、こういうのを自宅で食べるんだろうか?

ひとまず、ここまでの料理を並べてみる。
サイズ感がよくわかると思う。一つ一つが、デカい。
「実物とメニューの写真が違う!」と場が騒然となった、「豚スネ肉の特製醤油煮」だって、これだけのボリューム感で一体何の不満があろうことか。大満足だ。
そもそも、「家常冷菜」だけでお腹いっぱいになりそうな勢いだ。こりゃあ大変だ、ペース配分は大事。そしてこの後、この木の蓋の下に潜んでいる鉄鍋を使って「中国東北鍋」なんだから大変なことですよこれはもう。
(つづく)
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