見たことも聞いたこともない謎料理「東北農家鍋」をディープ西川口で食す

「ディープな中国料理」というのは、一昔前・・・そうだな、2000年代初頭くらいまでは確実に存在した。横浜中華街にあるような立派な中国料理店でもなく、町中にあるジャパニーズ中華を出すお店でもない。大陸出身の人が、大陸出身の人向けに料理を出す、そんなお店。

そういうお店を見つけて、おっかなびっくり料理を食べる。見たこともないような料理、日本のお店とは違う接客態度や値段設定、ボリュームにいちいち驚きと興奮を覚えたものだ。

2019年の今はどうか?今だって、そういうお店はいっぱいある。

でも、「ディープ」じゃなくなった。

なにせ、いたるところにそんな「中国人による、中国人向けのお店」ができているからだ。少なくとも、東京界隈なら。けっこう、日常的な光景になっちゃった。

「何の料理なのか、料理名を見ただけではわからない料理」が並ぶお店というのはもはや珍しくないし、そういうのをいちいち攻略してらんないくらい、お店が多い。

昔は、池袋駅北口の「知音食堂」なんてスゲーと思ったけど、今なら知音食堂クラスのお店はゴロゴロしていると思う。多分。それだけ、日本は中国からの人が住む国になったということだ。

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そんなわけで、僕らは中国料理において「ちょっとやそっとのディープさ」では食指が動かなくなってきている。でも、とんでもない巨大な人口と広大な国土を持つ国だ。まだまだ見知らぬ郷土料理がゴロゴロあるはずだ。だって、こんなに狭い日本でさえ、膨大な数のご当地料理があるんだし。

そんな「未知の中華待望論」の中で、一つどうしても行ってみたいと思っていた場所がある。それは、西川口にあるお店だ。

西川口。

京浜東北線で赤羽まで北上すると、そこから先は荒川を越えて埼玉県に入る。川口駅のもう一駅北、そこが西川口。ここが今や、かなりディープなリトルチャイナになっているという。

西川口といえば、僕がまだお酒を飲んでいた頃、はっと目が覚めて途方にくれる場所だった。西川口ないしは、お隣の蕨。そこから何度タクシーに乗って帰ったことか。なので、駅周辺のことはよく知っているつもりだ。

このサイトの「蕎麦喰い人種行動観察」でも、飲んで寝過ごして西川口で目を覚まし、駅前の立ち食い蕎麦を食って帰るという記述が残っている。2005年なんだな。

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結局僕は、2013年ころまで西川口界隈を自転車などでウロウロする機会があった。肉のハナマサがあったから、遠方からわざわざキコキコ自転車を漕いで訪れていたからだ。当時はチャイナタウンの気配はあまり感じられなかった。なので、この数年で急速に中華資本が拡大したんだと思う。

ディープなリトルチャイナがある、といっても、ちょっと辺鄙なところに固まっているのだと思っていた。しかし、調べてみると、堂々と駅前の一角に中華料理店がひしめいているらしい。そして、テレビやwebサイトの情報によると、池袋のディープ中国料理店の比じゃないくらい、ディープっぽかった。ディープというか、日本人は眼中にない、といわんばかりの雰囲気だった。これはすごい。これは面白い。

実際、2018年にはカザフスタン人が多く住む町・蕨と、ここ西川口の街歩きをして、実際に町のディープさを思い知った。いや、マジですごいわ。西川口なんて、ちょっと日本じゃない感じさえする駅前になっていた。いつの間にこんな空間ができていたなんて。

そんな中でも特に異彩を放つのが、「中国東北鍋」なる料理を出すお店だった。僕は食べたことがないのだけど、テーブルにめり込む形で備え付けられた巨大鍋に、野菜をぼんぼん投入して大きな蓋をして、グラグラ煮て食べるというその鍋は、これまで見たことがないビジュアルですごく興味があった。ちゃんこ鍋を土鍋で食べている場合じゃないぞ、と思った。

とはいえ、鍋料理を一人で食べに行くのはかなり難しい。ましてや、大人数で料理を囲む習慣がある中国人向け料理なら、なおさらだ。そこで、オフ会企画を立ち上げてみたけれど、参加者が出揃わず中止に。企画の主旨にいまいちワクワクしてもらえなかったのかもしれないけど、埼玉県にみんな集まれ!というのはやはりハードルが高かったのかもしれない。

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とはいえ、虎視眈々と次の機会を狙っていた。諦めるわけにはいかない、と思っていたので、僕の手元のToDoリストにはちゃんと「行きたいお店」としてこの「中国東北鍋のお店」のことは書き込んであった。

今回、オフ会という形ではなく、仲間を集めることでようやく謎の東北農家鍋と対面できる機会を得た。苦節何年だろうか、ようやくだ。

2019年06月08日(土)

西川口駅の西口を出ると、すでにロータリー周辺に中国語の看板があるので「おっ!?」と思う。しかも、繁体字ではなく簡体字なので、ますます「おおっ!?」と思う。駅前に中国のネットカフェがあるから、その看板が出ている。

中国語でネットカフェのことは「网吧(ワンバー)」という。なんで僕がそのことを知っているのかというと、いっとき中国語の語学教室に通っていたからだ。で、言葉を習い始めてわずか数回で学んだ単語が、「网吧」だった。中国語を勉强したのは2000年代後半頃だと思うけれど、その当時ではよっぽど大事な単語だったらしい。今ではどうなんだろうか?

ちなみに、僕が中学1年の時、英語の授業で真っ先に習った単語は「orange」と「pen」だったっけ。うーん、これも大事だったのかなあ、1980年代後半は。

それはともかく、西川口の町はなかなかにすごい。近未来映画の世界のようだ。西口を出て右(北側)に向かえば風俗とホテル、左(南側)に向かえばリトルチャイナ。混沌としている。今回僕らに用があるのは、左の方だ。

駅から歩いてわずか数分、目指すお店がある。周囲は、「日本人は眼中にないっぽい」ガチ中華料理店が並ぶ。横浜の中華街みたいな、観光地としてのお店の立ちふるまいというのは全くない。非常にあっけらかんとお店が存在している。

お店の名前は「滕記鉄鍋屯」という。えーと、なんて読むんだっけ。「とうきてつなべとん」と読むらしい。どうやら。日本語に配慮した読み方なので、一応日本人客も歓迎してくれるようだ。

読み方がわからないお店

店頭にある光る看板を見ると、やはりここが目指していた地であることがわかる。「当店一押しメニュー」と太鼓判を押す形で、「東北農家鍋」が紹介されているからだ。なんだ、案外日本語が通じるっぽいぞ。

僕が仲間を集められずモタモタしている間に、後に僕のパートナーとなるいしが友達と食事会のために利用していた。その斥候報告によると、

「店員がまともに日本語が通じず、オーダーに難儀した。話が通じないので、隣のブースにいる別の中国人客(日本語が少しできる)が間に入ってオーダーを取り持ってくれた」
「少人数で行ったので、中国東北鍋に辿り着く前に前菜とかでお腹が一杯になってしまい、鍋は注文できなかった」
「客は中国人ばかりだった」
「そもそも、予約の電話の時点で話がなかなかうまく伝わらなかった。1号店と2号店があって、そのどちらに行けばいいのか困った」

ということだった。我々日本人が店内に入ったら、店中の客や店員さんから「お前、なんでここに来た?」という目で見られるんじゃないかと身構えていたけど、看板を見る限りはフレンドリーっぽい。

最大100人収容のお店だから、広くて安心だ。狭い洞窟のようなお店で、マニアックな感じというわけではなさそうだ。

それはともかく、中国東北鍋なる料理の写真の謎なことよ。鍋、といってもまるでそれは中華鍋だし、鍋肌に餅みたいなのがいくつも張り付いている。こんなビジュアル、見たことがない。楽しみで仕方がない。

久しぶりだ、これだけワクワクする料理というのは。

地下のお店に入る

そんなワクワクパラダイスのお店は地下にある。「歓迎光臨」の文字に誘われて、いざお店へ。

お店に入ると、いきなりこのビジュアルだから素晴らしい。

「お前ら、こういうのを見たかったんだろう?」

と足元を見られている気がする。ハイ、こういうのが見たかったんです。非日常感がビシバシ伝わってくる。

ええと、これはなんだ?豚の皮?いや、鶏もある。鴨もいるかな?とにかく、肉系(としか言いようがない、よくわからん)を醤油ベースで甘辛く煮たものだ。

お客さん、こういうのを家に買って帰って晩酌なり夕ご飯のおかずにするのだろうか。するんだろうな、きっと。だってレジカウンターの脇に陳列されているんだもの。

そんなショーケースの上には、黄色い野菜が置いてある。なにげにこういう野菜も見慣れないものだ。

天井からぶら下がる、照明。酒瓶を模してあって面白い。

土曜日の夜、お店は空いているっぽいけど、店の入り口のところで少し待たされた。ひょっとして予約が通っていなかったのか、とやきもきしながらこの酒瓶を眺めていたけど、ほどなくして席に通された。

(つづく)

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