広島、ふるさとの味は今も【広島ミニ食べ歩き】

高校時代の恩師が久々に教壇に立つ、という話を聞いた。中学時代から大変にお世話になった方で、まさに「恩師」と呼ぶのにふさわしい、僕がもっとも人生の中で尊敬する方だ。ずいぶんとかわいがって貰ったけれど、さすがに今では疎遠になってしまい不義理を働いている日々だ。いや、恩師だけでなく、同期ともすっかり疎遠になってしまった。

僕の出身地である広島では、地元に残っている人たちを中心とした同窓会が存在している。そういうコミュニティに属していれば、同期や同窓の人たちとの交友関係は続けられるだろうし、恩師とのコネクションも定期的にキープできていたはずだ。しかし、同期の集まりは決まって「1月2日」となっており、すでに広島に生活拠点がない僕にとっては敷居が高い場となっている。

もちろん、帰省先である岡山から1月2日だけ広島に移動すればよいだけのことだ。しかし、盆暮れしか帰省しないことを考えると、せめて帰省時くらいは実家で過ごすのが老いた両親への親孝行だと思っている。

そんなこんなで同期や恩師はおろか、広島自体から足が遠のいてしまった。最後に広島に足を踏み入れたのはいつだろう?2012年か、2013年か。記憶が定かではない。いずれにせよ、5年近く疎遠にしているのは、間違いない。

自分のルーツである場所から遠ざかってしまう、というのはとても残念なことだ。でも、親兄弟どころか親戚までもが住んでいない土地なので、疎遠にならざるをえなかった。

今回、恩師が母校の文化祭で久々の教壇に立つ、という話を聞いて、久々に広島に行く決心ができた。恩師は1945年生まれ。すでに定年退職して久しい。くたばるにはまだ早いが、かといって歳が歳だけに、いつまで表舞台に出てきてくれるかわからない。先生のエネルギッシュなところに惹かれ続けてきたわけだし、まだ老いぼれて耄碌しちまう前に、その姿を脳裏に焼き付けておきたいと思った。(敢えて汚い言葉を使っているのは、恩師への愛情あってのことだ。そういう悪口を書いても笑って許してくれるような、懐の広い方だ)

とはいえ、いくら自分のふるさととはいえ、すでに生活拠点を失っている場だ。往復するだけでもかなりのお金がかかるし、宿泊するともっとお金がかかる。さすがに恩師の公開授業に出るだけでは、僕の財力を踏まえると厳しかった。何かほかのイベントを組み合わせないと、我がお財布の紐がガチガチに固かった。

そこで、「2日目はますゐ詣で」「3日目は帰京がてら、百名山登山」という欲張った段取りにして、なんとか自分を納得させることができた。・・・イベントを組み合わせたら、トータルでの出費がかさむ一方じゃないか、だって?その通りだな、今これを書いていて気がついた。遅い。

今回、この連載記事では、アワレみ隊メンバーと関わりがある「1日目(公開授業前後の話)」および「2日目のますゐ詣で」の話を取り上げる。「3日目の登山」は、いずれ「へべれけ紀行」で書く予定だ。

2017年11月3日(土・祝) 1日目

広島駅

11:14
新幹線で久々の広島入り。

公開授業は母校で13時から、という話を聞いていたので完全に油断していたが、その時間に到着しようとすると、自宅を早朝に出発しないといけないことに気がついた。広島、案外遠い。

以前、東京~広島は飛行機と新幹線が乗客の奪い合いを延々と繰り広げていた。スピードに勝る飛行機、運行頻度に勝る新幹線。どっちも互角の戦いだった。それもこれも、広島空港が「えっ、こんな山奥に?」とびっくりするような場所にあるからだ。「広島県の空港」という意味なら納得がいくが、「広島市の玄関口の空港」として考えると、あまりに遠すぎた。

なにせ、リムジンバスに乗って空港から広島駅まで、45分かかる。広島市の中心地であるバスセンターまでは55分。せっかく飛行機がビューンと超速で空を飛んでも、地上で台無しになる計算だった。しかも、バス運賃が片道1,300円以上もかかる。

一時は航空会社がかなり頑張って、特割であればバス代含めても新幹線とほぼ同額、ということもあった。所要時間はどちらもほぼ同じで4時間程度。こうなると広島市民は飛行機を使うようになる。

飛行機に勝負あったか、と思われたが、燃油代の上昇とかJRの攻勢の前に窮地に追い込まれ、結局2017年時点では新幹線が東京~広島間のシェアを多く占めるに至っている。航空会社は価格競争を諦めてしまったようで、値段では新幹線の方が安い。安くて、多頻度運行で、定時運行ともなれば新幹線が圧倒的に有利だ。

同じような展開が、東京~岡山便でも展開されていたのだけど、こちらも飛行機が負けてしまったっぽい。やはりここも、岡山空港が沿岸部の都会から離れた山間部にあり、バス移動でコストと時間を無駄に消費してしまうのだった。

僕に関して言うと、今やすっかり新幹線の人となってしまった。一時はマイラーだったこともあって飛行機に乗りまくっていたのだけど、それはすでに昔の話。

恐るべきは有料会員サービス「エクスプレス予約」で、一度これに捕捉されてしまうと、「せっかく年会費を払っているのだから」と、そのまま新幹線ばかりを使うようになってしまう。安易に入るべきではないな、このサービス。新幹線と心中する覚悟がないと。

作りが違う

久しぶりの広島とはいえ、道に迷うほどの久しぶりではない。地方都市の楽しいところで、もう本当に僕は市街地の隅々まで知っている。何しろ、以前広島市街の地図を買い求め、「地図に載っている全部の道を自転車で走る!」と称して広島市内を延々何日もデロデロと走り回っていた時があったくらいだ。そういうことができてしまうのが、100万人規模の都市の楽しいところだ。

広島平野はかなり狭く、周囲を山に囲まれている。なので、「だいたいこのあたりを熟知してれば十分」というエリアは明確にわかる。

・・・が、早速広島駅で迷った。なんだなんだ、何だこれは。

正確に言うと、新幹線改札から出る前の段階で、ギョッとした。自分が知っている広島駅と全然違っていたからだ。

えー、新幹線改札を出たところに、マツダの車が展示されているのが定番の光景なのに。

まずそもそも、そっちに改札がない。なんてこった、改札の位置さえ変わってしまったのか。

コンコース

広島の最近の話題、というのは全然聞いていなかったので、この広島駅の変貌っぷりには度肝を抜かれた。予備知識が全くなかったからだ。最後の広島が5年前くらいだとして、それ以降の情報がごっそり抜けている。いつの間に広島駅、大改修してたんだ?

「工事、始めました」という気配すら、僕は知らなかった。ちょうど僕が広島から縁遠くなっている最中に、えいやっと工事をやったのだろう。

コンコースになっていて、お店もいろいろ並んでるぞオイ。もう笑っちゃうしかないな。これ、僕が知っている広島駅じゃないぞ。

見慣れない光景

なるほど、橋上駅舎に完全に切り替わってしまったんだな。

そのかわりに、駅の南北を移動できる自由通路が立派にできている。以前は地下トンネルをくぐっていかなければならなかったけど、ずいぶんと開放的になったものだ。

いつのまに広島、こんなになっちまったんだ?

もっとモッサリした駅だったはずなのに。

何せ、コンコース上にあるお店の名前が「アントレ・マルシェ」だぞ!?どうしちまったんだ広島。店内のテナントも、単なるお土産物屋さんじゃない。もみじ饅頭と川通り餅と熊野筆を並べて売っているような時代はもう終わりだ。

少子高齢化・日本の人口減ということで地方都市の衰退が叫ばれる昨今。でも、広島はごらんの勢いだ。おそらく、広島は中国地方の田舎から人を吸いあげている立場なのだろう。だから、まだ伸びしろがある。多分。推測だけど。そうでないと、この状況が理解できん。

売店

あ、立ち食いうどんのお店もコンコースにあるのね。ミスタードーナッツと並んでいるのが不思議な光景。

「駅麺家」という店名。ありがちな名前だな、JR系列のチェーン店なのかな、と思ったが、後で知ったがこれは1番線ホームにあった立ち食いうどん屋が移転したものだそうだ。

広島駅1番線ホームの立ち食いうどん屋は、知る人ぞ知る名店だった。とりわけ旨い、というわけではないけど、まあ、昔からある定番のお店。愛されていたものだ。ホーム上にあるお店のくせに、ネオン看板を掲げているという派手な外観だったっけ。

「がんばれカープ 赤うどん」という麺が真っ赤なうどんがあるので、興味がある人は食べてみるといい。

山陽本線

行楽シーズンの三連休初日ということで、新幹線だけでなく在来線も遅延が発生しているようだった。あ、「在来線」という言い方をするのもちょっと久しぶりだ。東京じゃ、新幹線の対義語として「在来線」という言い方はしない。「e電」という言い方をするのが一般的だ。・・・あ、一般的ではないか。

まだ時間は早かったけど、ホームにおりてみたら回送電車が停車していた。それを見てまた仰天。なんだこれ。新型車両が導入されてるやんけ。

カープをイメージしたと思われる、赤い車体。RedWing、と書いてある。すげー。

僕が知っている山陽本線というのは、「 國 鐵 廣 嶋 (こくてつひろしま)」とネットで馬鹿にされるほどの古い車両が使われていた。車体の製造年月日を見ると、自分の年齢よりも年上だったりする。さすがに天井の扇風機がエアコンに切り替えられたりはしていたけれど、雨漏りはするし、ガムテープで補修をするし、JR西日本のカネのなさを存分に発揮していたものだ。

昔はクリーム色にブルーとグレーのラインが入っているスリートンカラー車両だったのだけど、「塗り分ける塗装代がもったいない」という理由から(噂のレベルだが)黄色一色に塗りつぶされ、「末期色」と揶揄されていたものだ。

僕は実物を見たことがなかったけど、ほかにも「大口径の前照灯の電気代がもったいないから」という理由で前照灯を取り外し、そこに小型の照明をはめ込んだ「チクビーム」というケチケチ大作戦も展開されていたらしい。

・・・それが、どうしちまったんだ?アルミ車体があまりにまぶしい。これは大阪界隈で使われていた電車のお古じゃないぞ、新造車両だぞ。

広島界隈は、山陽本線、呉線、芸備線、可部線の広島駅周辺エリアをまとめて「広島シティネットワーク」という枠組みがある。何やらキラキラしたネーミングではあるが、その実態は「國鐵廣嶋」であって、広島人の自虐ネタにもなる内容だった。しかしそれが今では本当にキラキラしたものになっちゃった。少なくとも車体に関しては。

いやぁ、取り残され感が半端ないなあ。なんだか、自分の出身地という感覚がこれでまた一つ、薄れてしまった気がする。

八昌

11:47
今回、ばばろあと蛋白質が僕同様公開授業参加のために広島入りしているので、彼らと合流する。蛋白質とは5月の長崎ツアー以来、ばばろあとは9月の赤沢自然休養林以来の再会だ。あともう一人、アワレみ隊メンバーではないけれど同級生と合流。

大変革を遂げた広島駅はともかく、西広島駅は昔ながらの雰囲気を残し・・・と思ったら、やっぱりそんな訳はなかった。時代は流れる。それとともに、駅前の景色だって、ぐいぐい変わっていく。

西広島駅前に、お好み焼きの「八昌」ができていた。これは以前にはなかったお店だ。以前ここって何があったっけなぁ、中華そば屋だったっけ、どうだっけ。

久々の広島なので、お好み焼きは是非食べたい。というわけで、このお店でお昼ご飯を食べてから母校に向かうことにした。

水で乾杯

ジョッキに入ったお冷やでまずは乾杯。

「ここでビール飲んだら、強者じゃね?」

とばばろあがお品書きをちらっと見て言う。確かにそれはすごい。考えてもみろ、日頃勉学や部活動に勤しんでいた母校に、酒気帯びで行くという不貞っぷりを。しかも恩師(ばばろあや蛋白質にとっても恩師にあたる)の講義を、教室で、酒気帯びで傾聴するんだぞ。こんなに背徳感にまみれた行為がほかにあろうか?ちょっと思いつかない。

さすがにそこまで大胆な行動に出られるわけもなく、みんなおとなしく冷水をあおった。

広島のお好み焼き屋は、こうやって冷水を景気よく出してくれるお店が多い。飲み屋ではなく、飯屋として日常生活に浸透しているからだ。

お好み焼きを食べる

定番の肉玉そば。「せっかくだからそばダブル」という言葉がでかかったけど、さすがに満腹のあまりに公開授業中爆睡!というわけにはいかない。おとなしくシングルで。

このお店では「そば肉玉」というネーミングになっている。広島のお好み焼き屋は、このあたりのネーミングに統一性はなく、「肉玉そば」だったり「そば肉玉」だったりする。そもそも、広島以外の人からしたら、オーソドックスな「そば肉玉」自体が「???」だとは思うけれど。

値段は810円。

「おう、高いな」

この値段は、広島中心部のお好み焼き屋の値段だ。いくらJRの駅前とはいえ、西広島界隈でこの値段はかなりの強気。いや、広島でもインフレが訪れていて、これくらいお好み焼きに払って当然の時代になってきているのだろうか?

以前どこかの記事で書いたかもしれないが、広島における「お好み焼き屋」というのは3パターン存在する。

1つは、商業地にあるお好み焼き専業店。今回訪れている「八昌」もまさにそう。本店は中国地方一の繁華街、流川にある。生麺をオーダーの都度茹でたりして本格的な作りであることが多く、技術も高く、その分値段も高い。

2つめは、やはり商業地にある鉄板焼き居酒屋形態のお好み焼き屋。酒肴として鉄板で軽く調理したものを提供しつつお酒を振るまい、シメでお好み焼きを食べるというスタイル。「広島のB級グルメ」として若干知名度がある「ウニホーレン」(ほうれん草を炒めたものにウニをのせたもの)などはこういったお店で食べられる。

3つめは、住宅地の中にあるお好み焼き屋。地域密着型で、一戸建ての自宅を改装して1階部分を店舗にしているお店が多い。奥さんが一人で切り盛りしているタイプ。広島の住宅地であれば、数百メートルおきにこの手のお好み焼き屋があるのは当たり前の光景。味はともかく、値段はとても安い。

西広島の場合、この3番目のパターンに該当するエリアで、西広島駅周辺に絞っただけでもかなりの数のお好み焼き屋がある。「そば肉玉」で550円程度、というお店もあったと記憶している。

・・・ただし、僕が知っているのは5年以上昔の話。今はどうなったのか、知らない。

だから、そんな西広島駅前に810円でお好み焼きを出すお店がある、ということにずいぶんと驚いた。時代は変わったものだなあ、と。

ちなみに2017年における広島市の最低賃金は818円。どんなバイトでも、1時間働けばこのお好み焼きが1枚食べられる計算になる。

余談だけど、昔は広島駅近くの予備校があるエリアで、「そば肉玉」を450円で出すお店があった。さすがにこれは今じゃやっていないと思う。

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