フィトンチッドでいこう【赤沢自然休養林】

アワレみ隊、つかの間の休息。

日 時:2017年(平成29年) 09月23日-25日
場 所:赤沢自然休養林(長野県)参 加:おかでん、ばばろあ、ひびさん、しぶちょお(以上4名)

最近活動がほとんどなかったアワレみ隊だが、2017年GWの長崎遠征で弾みがついた感じがする。今年二度目の企画が、9月に立てられた。

過去3年くらい、僕はアワレみ隊の活動を脇においてでも大切にしてきた余暇があった。でもそれも一区切りつき、今は身軽な立場。むしろ過去3年を取り返すつもりで、最近はあちこち繰り出している。財力の都合上、「さすがにこれは無理だぁ!」という時もあるけれど。

たとえば7月に、ばばろあやしぶちょおたちは広島で集まっている。僕も当然声がかかったのだけど、東京に住んでいておいそれと広島には遠征できなかった。我が出身地の広島だけど、すでに両親は岡山に移住し、僕が寝泊まりする拠点は残されていないからだ。往復運賃+宿代を考えると、4万円近くがかかってしまう。「イベントに貴賎なし」と思ってはいるけれど、どうしても選別をしてしまう。

場所を選ぶ、という点ではアワレみ隊のアクテイブメンバーの一人、ばばろあもそうだ。彼は山口在住だが、最近「イベントに行けても名古屋あたりまで」と公言している。愛知以東になると、交通費・時間・気力体力すべての面においてしんどくなるからだ。まあ、そりゃそうだ。

これまで彼は香川県に住んでいたときも、岡山に住んでいたときも、兵庫県に住んでいたときも、律儀に長野県の蕎麦食べ歩きに参加していた。でもそれが、むしろ異常とも言えるフットワークの軽さだったにすぎない。ばばろあはようやく最近「我に返った」とも言える。

「東京に来りゃいいじゃないか。自分の家に布団はあるから、好きに使ってくれてもいいんだぞ?お前、国立国会図書館で資料をあさるために東京に来ることがあるだろ?」

と聞いてみたら、ばばろあは「いやー」と首を振る。

「最近はネットがあるんでね。わざわざ国会図書館に行かんでも、お金さえ払えば資料は手に入るんよ」

なるほど。地方の人にとっては良い時代になったものだ。

こうなるとアワレみ隊における東京というのは、辺境の地となる。そして、中心地は中京エリアから阪神エリア、ということになるのだった。

さて今回だが、しぶちょおから「赤沢自然休養林に行こうと思っているのだが、一緒に行く人はいるか?」という照会がアワレみ隊メーリングリストに投げ込まれたことに端を発している。

なにそれ。聞いたことがない場所だ。

その頃の僕はというと、週末は様々な予定が立て込んでいてバタバタ、平日は残業続きでこれまたバタバタ、という有様だった。帰省したり、半分徹夜状態で大曲花火大会に行ったり、山に登ったり。しかも、今回の日程の数日前まで、3泊4日で北海道に行っているという有様。もう、ヘトヘトだ。

「なんでこんなに過密スケジュールなんだ」と嘆いている最中、しぶちょおからの企画提案は無謀だと思われた。しかし、他でもないしぶちょおからの提案で、久しく彼とも会っていないから今回会っておきたかった。そして、聞きなれない「赤沢自然休養林」について調べてみたら、まさに今の自分向けの場所だとわかった。

そこで、「行く」と即答した。普段なら、しばらくグダグダと様子見をする性分だけど、今回はわりかし即決だったと思う。

しぶちょおが提案してきたのは、赤沢自然休養林内にある民宿「去来荘」に泊まる、というものだった。その公式サイトを見てみると、こう書いてあった。

何もない 何もしない ただそこにいる。

この一文で僕は「あっ、これだ!ここに行こう!」と決めたのだった。しかも、ダメ押しで

憩いの一時、静かにのんびりを大切にしたい 「大人だけの宿」です。

と書いてあるの、すごくいい。

「何もしない」というのはアワレみ隊らしくない。でも、40代半ばになってきたアワレみ隊御一行様、たまにはこういう「何もしない」活動というのを僕らなりにやってみたい。
僕は、

「何もしないでゆっくりしたい」

と企画を具体的に検討しはじめる早々に宣言した。つい色気を出して、近所の散策・・・なんてこともやめよう、ただひたすらダラダラしよう、という考えだ。逆に、そうでもしないと僕がヘロヘロだ。

ところで、去来荘という宿の話はともかく、そもそもの「赤沢自然休養林」ってなんだ?

場所としては、木曽の山奥。岐阜県との県境からもそう遠くない。御嶽山や開田高原があるエリアの南側だ。

アワレみ隊は木曽界隈も蕎麦の食べ歩きで訪れているけど、さすがに蕎麦屋が存在しない山奥までは足を踏み入れていない。赤沢自然休養林?聞いたことすらなかった。

しぶちょおはここに一度日帰りで訪れたことがあり、それがとても素晴らしかったので今度は泊まりで訪れたいのだという。へー。

名前からすると、「県立森林公園」的な場所っぽい。そんなものは全国各地に存在していて、「公園って名前をつけたもん勝ちだよね」という場所も、正直ある。単なる山じゃん、って。でも、しぶちょおを魅了させたというからには、そんじょそこいらのものとは何か違うようだ。

「木曽ヒノキの産地なんだよ」

しぶちょおが熱弁を振るう。

「伊勢神宮のご神木にも使われる木だぞ」

ああ、なるほど。そういえば木曽といえばヒノキの産地だ。それは知っているけど、ええと、ヒノキって温泉旅館の檜風呂くらいしか、馴染みがない。香りがいい木、だよね。え?歴史ある神社仏閣の材木って、ヒノキが使われているの?

そんな木が生える森、それが赤沢自然休養林なのだという。樹齢300年を越えるヒノキが天然で生えており、昔は林業が盛んだったけど今では環境が保護される場所になっている。

ヒノキ林か。そういえば、見たことがないかもしれない。

ヒノキは北限が福島県で、それより北には生えないという。また、雪に弱いので太平洋側中心に生える木だという。でも、「ヒノキ林」っていうのは東京界隈では聞いた記憶がない。でも、花粉症の人が、「スギ花粉だけじゃなくてヒノキ花粉でもアレルギーが出るから、長い間しんどいんだよね」と言っているのを何度も聞いたことがある。ということは、東京近郊でも花粉症を引き起こすくらいのヒノキの林が存在するのだろう。

それはともかく、ヒノキの林に囲まれたところでゆっくり過ごす。最高じゃないか。ヒノキ風呂は、その香りがなによりも癒やしをもたらしてくれる。それが、風呂でなくても、24時間ずっと感じられる空間なのだからすばらしい。ぜひ、ゆっくりしよう。

とはいえ、「周囲でお昼ごはんを食べる場所はあるかな?」と、ちょっと色気を出してあれこれ調べたのは事実。でも、分かった事実は「あまりに山奥すぎて、何にもない」ということだった。小一時間かけて木曽福島に行ったり、開田高原に行けば蕎麦屋が何軒もある。しかし、ちょっとそれは遠すぎるようだ。これは、おとなしく休養林の中で休養せよ、というお告げにほかならない。

よし、開き直って2泊3日、ここでだらーっとすごそう。

ちょうど、この赤沢自然休養林には何本ものトレイルルートが用意されていた。ヒノキ林を散策してのんびりするのは格好の暇つぶしだ。写生でもやってやろうか、なんて気にもなったけど、いやいや、余計な要素を入れちゃダメだ。おとなしく過ごそう。

こうして、アワレみ隊4名によるツアーは、「森の奥でひっそり過ごす」という趣旨で参集された。

2017年9月23日(土)

07:21
朝の東京駅ホーム。

名古屋に向かう新幹線に乗るため、ここにいる。

木曽の山奥に向かうために、名古屋経由で行くか、それともレンタカーを調達して車で行くか、の二択だった。あれこれ検討した結果、みんなで名古屋から出発、ということに落ち着いた。

「えっ?東京から長野に行くのに名古屋経由?」

と一瞬思うだろうが、長野とはいえそういう立地条件なのが、木曽だ。東京からのアクセスでは、むしろ名古屋を経由したほうが近かったりする。

昔の僕なら、ウキウキと朝6時発の始発新幹線に乗車していたと思う。しかし今回は始発から1時間以上遅い便での出発だ。さすがにここ最近の疲弊著しく、朝4時代に起きるのがしんどかったからだ。

前日は雨の中、会社の同期たちとビアガーデンで宴会をやっていて、帰宅したのは23時近く。旅行の荷造りをするのさえ、しんどかった。

「そこまでして旅に出なくてもいいのに!」と思うが、いやいや、今回はこれから休養に行くのです。癒されにいくのです。そのためには、今日は少しだけ早起きしてもいいの。たぶん。きっと。

そんなわけで、現時点ではまだ癒やされていないおかでん中年、重たい体を引きずりながらメガステーション・東京駅をさまよう。新幹線の出発までまだ少し時間がある。ここは一発、何か我が老体にカツを入れるものがほしい。「さあ!これからツアーが始まるぞ!」というなにか、だ。

最初は、駅弁を買おうと思っていた。しかし、東京駅が誇る巨大駅弁売り場「祭」が、早朝にも関わらず人が溢れごった返しているのを見てやる気を失った。

で、宙ぶらりんの気分のまま新幹線ホームに来てしまった。今更駅弁というわけにはいくまい。じゃあこんな僕を慰めてくれるのはノンアルコールビールだよね、ということでキオスクに行ってみることにした。

ノンアルコールビール。ようやく市民権が得られつつある飲み物ではあるけれど、まだまだ取り扱いが少ない「ややマイナー」な飲み物だ。飲食店でも扱っていないところは案外あるし、キオスクのような駅の売店でさえ、取り扱っていないお店が多い。

新幹線ホーム上のキオスクで、「サントリーオールフリー」を発見した。お値段は147円。

うーん、値段はともかく、「オールフリー」が欲しいんじゃないんだよなぁ。この飲み物、丁寧で上品な味わいだとは思うけど、僕がノンアルコールビールに欲しいのは、もっとガツンとした炭酸の刺激だ。だから、飲むとすれば「アサヒドライゼロ」に限る。

ドライゼロが売っていなかったので、いったんパス。新幹線ホーム上には、数十メートルおきに売店がある賑わいだ。時間の許す限りハシゴして、ドライゼロを探そう。

あれっ?

何軒もホーム上のキオスクを見比べていたら、同じ「オールフリー」でも値段が違うことに気がついた。

グリーン車の前にあるキオスクの場合、お値段は165円だった。先ほどのキオスクから100メートルも離れていないのに、値段が17円も違う。

グリーン車に乗るようなお金持ち相手のお店は、割高な価格設定にしているわけだ。JR東海、商売上手だなあ。

感心している場合ではない。早くしないと新幹線が出発してしまう。結局、ホーム上でドライゼロを発見することができなかったので、おとなしくオールフリーを買って乗車した。もちろん148円のほうで。

07:27
オールフリーで、これからの出陣を記念して一人乾杯。

プシっ!

ごきゅ、ごきゅ・・・おおおう。

喉をキュッ!と締め付ける刺激。

さあ、これから日常とは違う時間が始まるぞ!という、内外への宣戦布告だ。

しかし、当然これを飲んでも酔っ払わないわけであり、しかも糖質ゼロ、カロリーゼロときたもんだ。朝酒・昼酒独特の「罪悪感と背徳感」というのがまったく沸かない。なので、飲んでいる最中に「だから何なんだ?」という気にすーっと陥る。我に返る、という表現がただしい。

いやいや、冷静になっちゃダメだ。これはそういう飲み物なんだから。「だから何なんだ?」なんて身も蓋もないことを考えてはいかん。

いずれにせよ、この儀式をもってアワレみ隊木曽ツアーの幕が開けた。おかでんの中で。

09:21
時間は流れて9時過ぎ。名古屋駅に到着し、在来線に乗り換える。

集合場所は、名古屋駅ではなく、JR中央本線の千種駅に指定されていた。しぶちょおがレンタカーを借りるお店が千種駅の近くにあるからだ。

在来線ホームに行ってみたら、ちょうど目の前にきしめん屋がある。

「ほほう?」

わかっているくせに、まるで初めて遭遇して「意外だった!」という体を装い、お店の様子を遠巻きに見つめる。

名古屋駅のホーム上にあるきしめん屋、というのはB級グルメの世界では特に有名だ。

「きしめんを食べるならわざわざ駅の外に出る必要はない、名古屋駅のが一番うまい」

なんて言われた時期もあった。そして、通な人は

「食べるなら新幹線ホームのお店だね、在来線ホームのお店よりもうまい」

なんて語る。

・・・実際、そこまで言うほどうまいとは思わない。少なくとも僕は。何度も名古屋駅できしめんを食べたけど、初戦は立ち食い屋の麺料理の域を超えない。その範疇でならうまいと思うけど、あらかじめ過剰に期待してから食べると「なんだ、こんなものなの?」と思ってしまうだろう。

で、僕は通常なら新幹線ホームのきしめんを食べるので、今回は敢えてそこを素通りして在来線ホームにやってきたというわけだ。

おい、食べる気マンマンじゃないか。

いや、そういうつもりはないんですけどね。あれ、おかしいなあ、電車の接続にまだしばらく時間がありそうだなぁ。

半分薄ら笑いを浮かべながら、「何かの気の迷いがあったら食べちゃうかもよ?押すなよ?押すなよ?」と思っていた。

そんな僕の背中をドン、と押したのが店頭のポスターだった。

期間限定 秋のきのこきしめん

アカーーーーン!「期間限定」という言葉に弱い上に、「秋の」というズバリ季節感、さらには僕が好きな「きのこ」が全面に出ている料理ではないか。

これはもう、不可抗力やね。逃げられないね。ブラックホールやね。

そのままするすると店内に入ってしまった。

あー。最近はストレス太りなので、今回のツアーを目前に、せめて朝飯は抜こうと思ったのに。

自動食券機。

一番高いきしめんは名古屋コーチンきしめんで、お値段870円。駅ホームの立ち食い店で出す値段じゃない。誰が食べるんだ、これ?観光客だろうか?

それよりももっと気になるのが、このお店には酒が置いてあるということだ。以前名古屋を訪れた際も、ホームの立ち食い屋に酒があることが不思議だったのだが、今回もそう。名古屋ではこういうのが当たり前らしい。

狭い厨房にもかかわらず、誇らしげに生ビールサーバが銀色に輝きながら置いてある。生ビールはれっきとしたメニューだ。しかも、サイズが小・中・大と3つもあり、居酒屋顔負けの品揃え。誰がここでで大ジョッキを飲むんだ?

それだけじゃない、本醸造酒370円とか、(冷)吟醸生貯蔵酒390円、なんてボタンもある。本気で飲むモードだぞ、これ。

夜になると、こういうところを居酒屋代わりにして酒を飲むおっちゃんたちが多数いるのだろうか。

それとも、きしめんが出来上がるほんの僅かなスキに、キュッ!と一杯あおり、その後そそくさときしめんを食べて後腐れなくお店を後にするのだろうか?

あっ、下の方に、「枝豆」とか「どて」というメニューがある。こりゃあ、居酒屋顔負けだぞオイ。

こういうのを見ると、東京はまだまだだなーと思う。こんなお店、都心の駅で見たことがない!

いや、違う違う、東京のような人口超過密地の駅で酒を提供しちゃうと、混乱をきたす。多分やれば儲かるのだろうけど、敢えてやっていないんだと思う。

秋のきのこきしめん。

きのこを食べて満足。

09:40
名古屋駅から数駅、千種駅到着。

ホームに降り立つと、ここにも立ち食いきしめん屋があった。かなり巨大で横幅がある。

そして笑ってしまうのが、ガラス戸の上の看板に

「そば きしめん 生ビール かん酒」

と書いてあることだ。もちろん、店内には銀色の生ビールサーバがコンニチハしている。

どんだけ酒を呑むんだ、名古屋の人は!

おそらく、居酒屋利用で長逗留するお客さんがいるからこそ、大きめの店構えになっているのだろう。ものの数分で食べ終わる立ち食いきしめんで、こんなに大きなお店はいらないはずだ。

でもこういうところでのサク飲み、いいよな。会社帰りに一献。飲み会の帰りに、シメの一杯。

09:47
千種駅の改札を出ると、遠くの車で手を振る男がいる。しぶちょおだった。1年数カ月ぶり。車の中には、毎度のメンバーであるばばろあとひびさんもいた。これで今回のツアーは全員集合だ。

ばばろあは前日のうちから名古屋入りして、今日に備えていた。聞くと、仕事が終わったらすぐに名古屋への移動を開始したのだという。山口からの参戦なので、彼は僕以上に大変だ。

「もう名古屋以東は無理」と言っている彼だが、名古屋のしぶちょお宅で前泊するならば、「もうちょっと東までは可能」とのことだった。その「もうちょっと」は、長野や静岡にちょこっと立ち入ったあたりまでらしい。

「キャンプやろうぜキャンプ」

GWの長崎ツアーでもばばろあは言っていたが、ここでも繰り返し彼は言う。

「焚き火がやりたいのぅ。焚き火ができるところに行こうぜ」

まったく同意だ。ばばろあは

「大げさなオートキャンプだとなかなか開催できないので、各自寝袋一つ、テントも自分が寝る分だけの小さなもの、料理は自分が食べる分を自分で作って、なんなら仲間同士でシェアする程度でええじゃん」

ということを言う。どちらかというと、登山をやる人がテント泊をする時のような装備のイメージなのだろう。

実際、もしアワレみ隊が今度あらためて「昔ながらの」キャンプをやろうとするとどうなるか?

まず僕がいろいろ装備品を書い直さないといけない。ボロボロになった炭火コンロ、壊れたデイレクターズチェア・・・。何を書い直して、何が今でも使えるのか、備品の棚卸しをするだけでも大変だ。

そして、じゃあキャンプをやろう、となると、僕はレンタカーを借りてきて、大量の荷物を車に積み込むために家と駐車場を何往復もすることになる。キャンプが終わって帰宅したら、その逆。

昔はマイカーを持っていたので、キャンプ用品はずっと車のトランクに入れっぱなしだった。だからとてもフットワーク軽くキャンプができたのだけど、今となってはそうはいかない。

その点、ばばろあが提唱する「登山テント泊スタイル」の場合、荷物が大幅に簡略化されるので、こういうドタバタが必要ない。ちょうど僕自身、山用のソロテントを買おうかどうしようか思案していたところだし、ガスストーブなどの調理器具は既に持っている。

「よし、それは是非やろう」

とばばろあに約束した。ただ、今年はもう遅いので、来シーズンということになるだろう。2018シーズンのアワレみ隊は、久々のテント泊ができるかもしれない。

10:13
今回のツアーは、ほとんど何もスケジュールが決まっていない。

9月23日の朝9時半過ぎに名古屋の千種駅集合

木曽の赤沢自然休養林に行く。2泊

9月25日の15時過ぎ、中央本線中津川駅で解散

ということだけだ。

車中、しぶちょおから「今日の昼は駒ヶ根でソースカツ丼を食べようと思う」という話と、「最終日は中津川で栗きんとん」というキーワードを聞いた。その程度だ。

スケジュールをガチガチに決めたがる僕にしては異例のことだが、もうこの際どうにでもして、状態だ。あれこれ考える時間が足りなかったのと、目的地の赤沢自然休養林があまりに山奥過ぎて、あれこれ考えるだけ無駄だったからだ。

2日目は何も計画が立たないのは当然として、現地に向かう初日も、退却する最終日も、いずれも大移動を必要とする。移動ついでにどこかに立ち寄ろうぜ、なんていう欲はあんまり出しようがない。

ただ、「駒ヶ根でソースカツ丼」という提案はちょっと意外だった。へえ、そういう発想もあるのか!という意味で。

そもそも、伊那谷にある駒ヶ根は、我々の目的地である木曽とまったく場所が違う。中央アルプスの名峰、木曽駒ヶ岳や空木岳といった3,000mクラスの山に阻まれている。そんな場所にわざわざ行って、いきなりソースかつ丼とな?

「駒ヶ根、といえば以前『丸富』っていうイイカンジの蕎麦屋に行ったよな。そこを再訪しよう、とかじゃないのか?」

するとしぶちょおは、

「行こうと思っている店は、蕎麦屋なんだけどソースカツ丼もうまいんだ。他ではなかなか味わえない味で、いいんだわこれが。蕎麦とのハーフもできるぞ」

という。そりゃ楽しみだ。僕の発想であっち方面で店選びをするなら、つい「蕎麦」か「ローメン」となってしまう。ソースカツ丼。いいじゃないか。

しぶちょおがハンドルを握り、車は先へと進んでいく。しかし、いっこうに高速道路に乗ろうとしない。うっかり高速道路のインター方面に向かっちゃって、「あっ、しまった」といって軌道修正をするくらいだ。

このあたりは裏道を使えば、高速を乗るまでもなくスイスイと前へ進めるからだ、という。逆に、高速道路は長野県方面に向かう車で渋滞を起こしていて、トロいのだ、と。

そんな裏道を使ってどんどん先に進んでいたら、急に隣に座るばばろあが「あっ」と声をあげた。

「なんか見たことある風景じゃのぅ、思うたら、ここワシ来たことあるで」

何を言ってるんだ君は。こんな、駅からも遠い、何の変哲もない場所なのに。

「ここ、城跡なんよ。このあたりの城跡巡りをやったときに来たわ」
「えっ?こんなところまで城を見に来たんか?」

アワレみ隊の企画ついでに、などではなく、独自でここまでやってきて調査をしていたというのだから、この男の機動力の軽さには驚かされる。しかも、見た限り全然ワクワクさせられない土地だ。山城のように見晴らしが良い場所でもない。単なる平地に見える。

「いや、それが違うんよ。普通の人からすると単なる平地に見えるかもしれんけど、わしなんかが見ると、だんだん見えてくるんよ」
「見えてくる?」
「ああ、あそこに堀があったんだろうな、とか」

経験がなせる技だ。

「それだけの知識と経験があるなら、専門家としてメシが食えるんじゃないのか?」
「ムリムリ、誰がそんなものに興味持つんじゃ?ごく一部のマニアしか興味を持ってもらえんで。しかもそのマニアの中にはもっとすごい人もおるんじゃけぇ」

なるほど。趣味の世界がニッチすぎて、難しいか。

下道を車で移動中、道端にあった建物の看板に我々は目を奪われた。

「株式会社ブレインフォレスト」と書いてあるからだ。なんだそれ?「脳の森」?

昔、「まんがの森」という漫画書店があったけど、「脳の森」というのはよくわからない。一体何屋さんだろう?

看板には、「解体屋らしからぬ解体屋」というキャッチコピーが書いてあった。あ、解体屋さんなのね。

確かに、「らしからぬ」という表現はごもっともだ。なんで「ブレインフォレスト」っていう名前なんだろう。面白い。

12:22
「もうそろそろ高速に乗らんとな」

としぶちょおが独り言をいい、我々の車は高速に乗り込んだ。あんまり延々と下道で進んでいると、いつまで経っても目的地の木曽に到着しない。

「いや、それ以前に昼飯を食いそびれるかもしれん。行こうと思っている店、確か14時までなんだ。ラストオーダーの時間も踏まえると、13時半までには到着しておかないと」

おっと、あまり悠長な事は言ってられないのか。

高速を走っていると、前方に「YAZAWA」と書かれたミニバンを発見した。矢沢永吉のファンらしい。

「見ろ、初心者マークを付けているぞ!」

ということは、矢沢永吉初心者、ということだろうか。

「矢沢永吉ファンのお父さんの車を使わせてもらっている、免許取り立ての息子じゃないか?」

という推理でこちらの車内は盛り上がる。

12:29
途中、神坂PAに立ち寄る。

何か和風な作りの建物がお出迎え。

駐車場が小さなPAなのに、車が溢れかえりそうな勢いだ。なんだ、こりゃ?

聞くと、この近くに旧宿場町の馬籠宿(まごめじゅく)があって、ここからバスに乗って行くことができるのだそうだ。車をPAに置いて、パーク&ライドができるとは意外。

さすがに我々は馬籠宿まで行く時間の余裕がなかったので、パス。

えっ?このPAって、「かみさかパーキングエリア」じゃなくて、「みさかパーキングエリア」って読むの?へええ。

12:33
パーキングエリアとは思えない店構えで、お土産物を売っていた。

栗きんとん関連のお菓子がずらりと並ぶ。そういえばしぶちょお、最終日は中津川で栗きんとんだ、って言ってたっけ。このあたりは栗きんとんが有名なんだな。長野県の小布施も栗が有名だけど、こっち方面も栗の産地なのか。

だが、「栗きんとん」とたくさんかかれているお菓子売り場だが、どうもなんだか怪しい。

栗きんとんサブレ、栗きんとんケーキ、栗きんとんラングドシャ、栗きんとん栃餅、栗きんとんクランチ、栗きんとんサブレ・・・。

「栗きんとん」という既にお菓子であるものを素材に、さらなるお菓子が出来上がってる。不思議な世界だ。それだけ栗きんとんが愛されているというわけだし、栗きんとんを愛するがあまりにさらに加工したくもなるのだろう。

12:34
恵那山。

日本百名山の一つなので、いずれ登頂するつもりだけど、遠いなあ。

この山のどてっ腹をトンネルで突っ切った先が、長野県。

13時過ぎ、駒ヶ根に到着。

当日、駒ヶ根ではマラソン大会が開かれていて、道路の一部が通行止めになっていたようだ。お店の営業時間終了を気にしていたので一瞬ヒヤリとしたけど、マラソン大会が終わって道路規制解除になった道路をすり抜け、なんとかお店に到着。

到着したお店は、「福寿美」という。ふくずみ、と読むのかな?

13:18
福寿美。

駒ヶ根駅からは近いのだけど、表通りには面していない、こじんまりとしたお店。

しぶちょお、よくこんなお店を見つけたものだ。観光ガイド本などにバーンと登場するタイプのお店ではなさそうだ。昔からやってる、地元民に愛されるタイプのお店だろう。

えっ、100年近く続くお店、だって?予想以上に歴史があってビックリだ。

創業当初は、「ソースカツ丼」という概念はあったのだろうか?カツ丼なんてハイカラな食べ物は、当時はなかったかもしれない。

看板には、「元祖名代手打生蕎麦」と記されている。これだけ見ると、普通の蕎麦屋さんのようにみえるけど、「ソースかつ丼」ののぼりが看板の下ではためいている。どっちも食べられるよ、というわけだ。

それにしても、何が「元祖」なんだろう?

お店の入口には、こんな掲示があった。

暴力団、やくざ風の方の出入り、又は押売、訪問販売は固くお断りします。

「やくざ『風』」?

「っぽい」とダメらしい。

僕ら大丈夫だよな。人相はあんまりよくないかもしれないけど、「風」じゃないよな。

福寿美が店をかまえる路地界隈は、ソースかつ丼激戦区らしい。

ちょうどお店の向かい側にも、ソースかつ丼を売りにするお店がバーンと構えていた。

「名物」ではなく「銘物」と謳っている。どう意味が違うのかはよくわからないけど。

真っ赤な看板に、バーンと茶色い料理がそびえていた。

当店自慢おすすめメニュー、ボリューム満点、と書いてある。

確かに、こりゃあすごい。「ソースボリュームミックス丼」は揚げ物がキャンプファイヤーのように組まれていてそびえ立っているし、ソースかつ丼はよく見ると信じられない肉厚っぷりだ。本当にこんなに分厚いカツが出て来るのだとしたら、驚愕だ。

ソースカツ丼激戦区だから、これくらいのインパクトを出さなくちゃ!他店には負けてられないよ!ということなのかもしれない。

この看板に見とれていたら、みんなが福寿美のお店の中に入ってしまった。遅れて僕もお店に入る。

福寿美の店内は、縄のれん&赤ちょうちんの居酒屋、という風情だった。

壁にはたくさんの芸能人の写真とサイン。テレビ取材で来店した際のものだ。

お品書きを見ると、ページの右側が蕎麦料理、ページの左側がソースカツ丼という配置になっていた。それくらい、このお店ではソースカツ丼が重要な位置づけになっているということだ。

せっかくだから、蕎麦とソースカツ丼、両方食べたい。先ほど名古屋駅でこっそりきしめんを食べたので、まだそこまで空腹ではないけれど。

僕以外の3名は、朝ごはんをコメダ珈琲で食べたようだ。朝、LINEでしぶちょおが写真を送ってくれたのを見た。その写真を見ると、しぶちょおとひびさんがトースト半分がついているモーニングを食べているのに対し、ばばろあは・・・シロ・ノワールだった。えっ、こんなボリュームがあってくどいのを朝から食べたのか?

「しかもばばろあ、飲み物は頼んでないんだぞ」

しぶちょおが教えてくれる。

「コーヒーとか頼んでないの?じゃあ飲み物は?」
「お冷を飲んでた」

なんでそんな面白い朝食を食べたのか、ばばろあから理由を聞きそびれたけど、我が友ながらすげえ、と思った。多分、ばばろあなりに「さあ、このアワレみ隊ツアーを楽しむぞ!」と気合が入ったのだろう。気合の現れとして、朝からシロ・ノワール。

一方僕は、きしめんを食べて「やあ、朝から食べ過ぎだな」なんて思っているんだから、なんたる老いぼれか!我が軟弱っぷりが本当に恥ずかしい。

料理が出てくるまでの間、しぶちょおは自前のデジカメを取り出し、自慢のズーム機能を披露してくれた。

「なんだその特殊警棒みたいに伸びるレンズは」
「これを使うと、ほら」

見せてくれたのは、壁に貼られているポスターの文字。肉眼では全然読めない小さな字なのだけど、ズームさせるとよく見えた。

何十倍ものズーム、というのはきれいな写真を取る上ではまったく実用性がないが、「遠くの見づらいものを拡大して見る」という別用途としては十分に使いみちはある。

しぶちょおと、しばらくスマホのカメラの進化について話をする。

僕もしぶちょおも、20年近くのデジカメ使用歴だ。そして今でも、写真撮影はデジカメを使っている。これまでは「スマホの写真は汚い。特に料理がマズく写る」ということでスマホのカメラは敬遠してきたけど、ここ最近のスマホカメラのデキの良さは目をみはるものがある。これはふたりとも一致した意見だ。

FacebookやInstagramで友達が掲載しているスマホ写真を見ると、はっとするほど綺麗にとれている写真がある。しかもアングルが結構大胆で、「おっ?」と思わず目を惹かれる。

おそらく、指でピンチアウトしてズームさせる、というスマホ独特の動作のお陰で、被写体が画面からはみ出すくらいの大胆な構図を作りやすいのだろう。そのお陰で、やたらと被写体が迫ってきて迫力がある。そして、画像がクッキリ鮮明だ。

一方僕が使うようなデジカメは、最近はセンサーが高機能化したお陰でよりきれいな画像を撮影できるようになった。もちろん画質ではスマホに負けないのだけど、高機能化したお陰でピンぼけや白飛びといったイージーミスが増えてしまった。人物の背景をボカしたり、印象的な写真を撮影できる代わりに、雑に撮影するとピンぼけしやすいピーキーさも併せ持っているのだった。

むしろ、スマホで撮影したほうがミスがない。僕みたいに「サッと懐からカメラを取り出して、わずか1秒程度で撮影して、すぐにカメラをしまう」という盗撮的なスタイルで写真を撮りまくる人にとっては、スマホのほうがブレない・フォーカスがあう、という点で優れていると思う。

「もう時代の流れなのかねぇ、いずれデジカメを卒業する時がくるのかもねぇ」

自分のカメラをいじりながら、そうぼやく。

僕のように、1年に1回カメラを壊す人にとって、今の「やたらと高級化したコンデジ」というのは書い直すのがかなりの苦痛だ。なにせ10万円を越えるから。

しぶちょおは、コンデジにこだわりはないそうで、時と場合によってスマホカメラでの撮影とコンデジの撮影を使い分けているそうだ。彼はもう新しい時代にシフトしつつある。僕もいずれそうなるのだろう。

結構待ち時間がある。蕎麦を茹でるのはともかく、カツを揚げるのにはそれなりの時間がかかるから。

お互いの近況報告などに時間を割いていたところで、料理が届けられた。

まずはひびさんが頼んだ料理。メニューに「当店人気メニュー」と書かれている、「半かつ丼・半もりそば(セット)」1,000円だ。

ソースカツ丼、もりそばに加えて生野菜サラダと冷奴がついている。こレで1,000円は安い。

というかちょっと待て、このどこが「半」なんだ?

蕎麦はまだわかる。出雲そばの割子のような器に入って、量は少なめに見える。しかしカツ丼、お前ちょっと待て。このどこが「半かつ丼」なんだ?しっかりと丼にはご飯が入り、キャベツが敷き詰められ、そしてその上にカツが1枚。「カツ1/2枚」でもなければ、お茶碗のような器に盛られているわけでもない。

「食べられないかもしれない」

ひびさんが既に食べる前から呻いている。確かに、女性ならこれは持て余す量だ。

一方、朝からシロ・ノワールを食べて絶好調のばばろあは、どうしたことか昼ごはんも突っ走っていた。

お盆1つに乗り切らず、2つにわけられて届けられた料理。これがばばろあのお昼ごはん。単品のソースカツ丼と、単品のざるそばだ。

ハーフのセットがあるのに、敢えて単品を組み合わせたというのが男らしい。「せっかくじゃけぇ、それぞれをしっかり食べたい」という思惑での注文だろう。しかし、ハーフセットでさえ量が多いのに、単品組み合わせともなるとすごい量だ。

ばばろあは決して大食いではないのに。

頼んだものは残さず食べる。

というわけで、ばばろあ選手、猛然とカツ丼に取り掛かっております。

蕎麦はざるが二枚重ね。

ああそうだ、このあたり(長野県南部)って、何故かデフォルトで蕎麦が二枚重ねの蕎麦屋があるな。木曽福島のくるまやとか。

こいつぁおなかいっぱいになれそうだ。がんばれ、ばばろあ。

「えっ、みんな両方フルで食わんのん?」

ばばろあが自分だけ突っ走った事実に対して、若干戸惑いを見せる。それに対してしぶちょおは「蕎麦は普通だけど、カツ丼だけハーフ、っていうセットもあるんだよ」と言う。

卓上のお品書きには書かれていないのだけど、壁には「ざるそば(二枚重)半かつ丼(セット)1,700円」と書かれた短冊が貼ってあった。しぶちょおと僕はこれを頼んでいる。

で、そのセット。

蕎麦が二枚重ねなので、さすがのカツ丼も小さく見える。が、これでもれっきとした丼だ。カツはご覧の通り、かなりの肉厚で立派な一枚。これでも、大の大人が十分に満足できる量だ。「カツ丼がハーフだから物足りない」なんて絶対に言わせない。

カツ丼に目がいきがちだけど、蕎麦もしっかりうまかった。

でもやっぱりソースカツ丼がいい。玉子とじのカツ丼文化圏の人にとって、ソースかつ丼というのは「非常にそっけなく、色気がない、面白みのない丼では?」と思っている節がある。実際、単にソースをくぐらせただけのカツがご飯の上に乗っているだけ、という大してうまくないカツ丼は存在する。

しかしこれはどうだ、カツのサクサク感を残しつつ、ソースの味わいを楽しみつつご飯をかきこむ楽しさよ。なるほど、こっちのカツ丼に慣れてしまうと、「玉子でとじたら、せっかくのカツが台無しじゃないか!」って思えてくるだろう。

このお店が面白いのは、オールドスタイルな喫茶店でホットコーヒーを頼んだら出て来る、ミルクを入れる小さなステンレス製器にソースが入っているということ。そしてその横にある小皿には、なんと柚子胡椒が添えてある。柚子胡椒をソースと混ぜて、それをカツにかけて食べよ、というスタイルだ。柚子胡椒の爽やかな風味が楽しい。

ソースも、単なるウスターソースの類ではなく、なんだか独特の旨味がある。甘みのある醤油っぽい味。ちょっと正確に味を覚えていないので記述が難しいのだけど、酸味はあんまりなかった気がする。

分厚いカツは見事。こりゃあ、調理に時間がかかるわけだ。調べてみると、駒ヶ根ソースカツ丼には規約があって、最低でもカツの肉は120グラム以上ないといけないそうだ。150グラムが望ましいとも。なるほど、ライバル店同士がデカさを競い合った結果、ではなく、もともとこういう料理なんだな。

見て楽しい、食べて美味しい、満足いくお昼ごはんだった。

15:21

駒ヶ根でソースカツ丼と蕎麦の素敵なお昼ごはんを終えたアワレみ隊ご一行様、いよいよ本日の目的地、赤沢自然休養林へと向かう。

「いよいよ」といっても、今日名古屋を出発してからやったことというと、「駒ヶ根でお昼ごはん」しかない。それだけ木曽の山奥にいくには大移動だ、ということだ。

それもそのはず、駒ヶ根から西に向かったところに赤沢自然休養林はあるのだが、その間に木曽駒ヶ岳がそびえ立っていて直進することができない。そのため、ぐるっと北に迂回して、伊那から権兵衛トンネルを抜け、木曾福島から南下してようやく到着することができる。偉大なり木曽駒ヶ岳。

北の迂回が嫌なら南から迂回になるわけだが、そうなると長野県の最南端、恵那山の近くまで戻らないといけない。これはあまりにも遠すぎ。

今でこそ、権兵衛トンネル(4.5km)が開通して便利になったけど、昔は峠越えルートしかなかった。冬季通行止めだったというから、このあたりの長野県は東西移動が本当に難儀だっただろう。

ちなみに僕はアワレみ隊南乗鞍天幕合宿のために権兵衛峠越えをしたことがあるが、ウネウネの山道であんまりオススメしたくない道だったと記憶している。

木曾谷に入ってから南下していく。ああ、昔はこのあたりをアワレみ隊が跋扈していたなあ、と懐かしい。南乗鞍の天幕合宿しかり、信州蕎麦食べ歩きしかり。

15:21
そんな中、国道19号沿いに「水車家」という蕎麦屋を発見。アワレみ隊が精力的に長野の蕎麦屋巡りをしていた時に出会った蕎麦屋で、「街道沿いにある、何の変哲もない蕎麦屋」にもかかわらず素晴らしく美味い蕎麦を出してきたことに仰天したお店だ。

「街道沿いに美味い蕎麦屋なし」と思い込んでいた我々の概念を覆したお店、として未だに僕の印象に残っている。そのお店がまだこうやって健在で、営業をしているというのが嬉しい。

しばらく前にしぶちょおはここで蕎麦を食べたそうだが、限定の生粉打ち蕎麦が売り切れでなかったそうだ。なのでなんとも評価はできないが、そこそこうまかった、とのこと。

そう、今となっては蕎麦業界全体がレベルアップして、「美味い蕎麦」は珍しくなくなってきた。食べる側としては喜ばしいことだけど、「美味しくない蕎麦屋の中から、美味い蕎麦屋を探し当てる」という宝探し的な楽しみが薄れてしまって、その点はちょっと残念だ。水車家も相変わらず美味いのだと思うが、それ以外のお店も美味い、ってことだ。

15:34
駒ヶ根でお昼ごはんを食べたあと、しぶちょおがやや焦っていた意味がわかった。いや、本当に時間がかかる。大遅刻!宿の夕ご飯に間に合わない!というほどではないにしろ、当初予定していた「さっさと宿に到着して、あとはダラダラ過ごす」にしては遅い時間になってきた。

木曽福島を過ぎてしばらく、中央線の上松駅のあたりで赤沢自然休養林の分岐を示す看板が出てきた。ここからさらに15キロ。しかも、山道。

15:43
川沿いの道を走る。

「しめた、前をバスが走っているぞ」

しぶちょおが喜ぶ。

普通、前を路線バスが走っていたら、邪魔だと思うはずだ。でも彼はこれ幸いだと言う。

「ここから先の道、すごく狭いんだよ。すれ違いにも困るところがあって、以前来たときは対向車同士が立ち往生した。だから、先にバスが走っていてくれれば、露払いの役になってくれるからありがたいんだ」

そんな険しいところに行くのか?

実際はグネグネ道だったり崖だったり、という山岳ルートというわけではなかった。しかし、単純に道が狭い。すれ違える場所はところどころにあるのだけど、運が悪いと対抗車とコンニチハしてからにらめっこ、さあどっちがバックするんだ?ということになる。

15:47
貯木場の横を通過する。

あとで聞いた話だけど、ここに積んである木は買い手がいなくて、そのままになっているものもあるのだそうだ。日本の木材はコストが高すぎて、買い手がなかなかつかない、ということなのだろうか。

昔は、この奥の赤沢自然休養林あたりから木曽ヒノキを切り出して、森林鉄道でここまで運びおろしてきたのだろう。

16:21
赤沢自然休養林に到着。

既に駐車場に停まっている車はまばらになってきている。駐車場は、公園整備料を兼ねて1台600円(普通車の場合)がかかるが、去来荘宿泊者は無料らしい。去来荘用の駐車場は、別の場所にある。

もっとジトジトした、木々が生い茂った狭い谷なのかと思っていた。しかし実際はどうだ、ここが駐車場だからということもあるが、とても空が広い。開放感がある。

あと、何よりも空気がきもちいい。

「マイナスイオンが」とか「森林セラピーが」とかそういうのは僕は好きではない。だけどここの空気感はとてもいい。登山を趣味とする僕だけど、「他の山よりも気持ちいい空間」だと思った。

標高は1,000メートルちょっと。下界と比べて、気温は6度以上低い。

去来荘の看板。

なぜ国有林・国有地の中にこつ然と民宿があるのか、謎。この界隈で宿泊施設はここだけだ。

赤沢は冬になると雪に閉ざされてしまう場所だ。なので、山小屋同様にこの民宿も冬期は営業をしていない。GWから11月の初旬の営業となる。

去来荘の専用駐車場に車を停め、宿に向かう。

宿はどうやらこの建物らしい。

宿のエントランスにしては不思議な作りだ。

と思ったら、宿の脇を通り抜けているだけだった。宿の正面入口はこことは別にある。

客室の横を通り抜ける。窓の中から客室が丸見えだ。ちなみにこの日は満員御礼。

細長い去来荘。

おっと、テラス席もあるのか。おしゃれな喫茶店のようだ。

9月だというのに、今年は異常気象ということもあって既に寒い。天気が良ければ昼間テラスでのんびりするのは素敵だが、16時過ぎの今だと、寒くて多分ムリだ。

テラスのあたりから駐車場を振り返ったところ。

テラス席。

気持ちのよい空間。

喫茶店営業をするとさぞや心地よいだろうに、と思ったが、ここは宿泊客専用のエリア。一般の日帰り客は立ち入ることができない。

ここでくつろぎたかったら、是非去来荘に宿泊をどうぞ。

16:01
去来荘入口。

大きなのれんがかかっているのでそこが入口だとわかるが、これがなかったら入口に気づかないんじゃないか?という、そっけない玄関だ。

実際、玄関に入ってみるとご覧の通りの屋内。

宿というものは、玄関から入るとまずそこにフロントなり帳場なりがあって、なんなら応接セットがあったりもする。こういう山の中にある宿なら、バーンと鹿とかイノシシの剥製が置いてあったりもする。それが、まったくない。

幸い僕らは、駐車場からこの玄関に向かう途中で宿の人と会ったので困惑しなかったけど、何もわからずにこの玄関にたどり着いたら途方にくれたかもしれない。

それはともかく、この去来荘って「民宿」という名乗り方をしていたっけ。秋から春までは雪に閉ざされる土地なので、当然この宿の人も別のところに家があるだろう。そういう場合、「民宿」って呼ぶのが妥当なのかどうか、謎だ。では、高い山にある山小屋も民宿なのだろうか、とかあれこれ考えてしまう。どうでもいいけど。

そういえば以前、「民宿旅館」と名乗る宿をどこかで見た記憶がある。もうこうなるとわけがわからないな。もっとどうでもいいけど。

去来荘の建物の端に、渡り廊下でつながっている離れの建物がある。ここには独立した玄関も備わっていて、「三木(さんもく)荘」という名前だ。今上天皇が2度ほど宿泊されたことがある、という部屋で、1組限定の貸し切りとなる。

中には檜風呂があったりするということなのだが、我々が泊まるのはここではない。中身を覗き見る機会はなかった。二泊とも、宿泊客がいたからだ。

大きく確保された縁側のガラス引き戸が素敵だ。ここを開放して、外の風を感じながらのんびり過ごすのはさぞや心地よいだろう。でも、さすが夏季限定の宿だけある。この建物で冬を越すのは至難の業だ。寒くてかなわないだろう。

去来荘の中。

玄関から中に入った突き当りに、何かがぶら下がっているのが見えた。

「入浴中です 入浴後はこの札を裏返しにしてください」

と書かれている紙だ。

風呂は男女別になっているわけではなく、家族風呂のように「誰かが使っているときは貸し切り」となる。そのため、使用中はこの札をこうしてひっくり返しておく必要があるわけだ。

僕は、この札は単に廊下に吊り下げられているだけで、実際に入浴するときはこの札を浴室入口のどこかに吊るすのだと思っていた。そのため、「あ、廊下に札があるならば誰もいないんだろうな」と思い、ガラッと風呂場の扉を開けてみたら・・・

キャー、のび太さんのエッチー!

びっくり、人がいた!慌てて謝罪して扉を閉める。ああ、びっくりした。

3つ並ぶ扉。

どれも扉の材質、形状が似ているので紛らわしい。「どれか一つが正解だ。残りの2つは地獄行きだ」という究極の選択を迫られているようだ。

一番左には札がぶら下がっていて、従業員専用トイレだと書いてある。保健所の指導で、客と従業員ではトイレを分ける必要があるのだ、ということが書いてある。では残り2つの扉のうち片方が、風呂でもう片方がトイレということだ。

さっきうっかり開けてしまったところが風呂場だったので、じゃあ真ん中の扉は・・・ああ、これはトイレだ。

去来荘の水は地下30メートルから汲み上げた伏流水で、超軟水なのだと書いてある。しかし、さすがに塩素は入れているそうだ。

我々があてがわれた部屋は、玄関から三木荘に向かう廊下の突き当りだった。

おっと、障子で廊下と仕切られているのか。ということは、鍵がない部屋というわけだ。貴重品は身につけて外出しないとな。

部屋の中。

隣の部屋とふすまで仕切られているだけ。さらに隣の部屋との境目もふすまだ。扉をあけて「やあこんにちは」とお隣さんにごあいさつをしてもよいくらいだ。怒られるけど。

我々は、手前の部屋とふすまの奥の部屋、2部屋があてがわれた。手前の部屋だけでも4人が寝泊まりできるのだけど、一応奥の部屋をしぶちょお・ひびさんペアが使い、手前の部屋をばばろあ・おかでんコンビが使うことにした。

二部屋使うことができてありがたいのが、電源コンセントに不自由しないということだ。今日(こんにち)の旅行事情というのは、まずはスマホなどの電化製品の充電のために電源確保が必須となる。古い宿だとコンセントが少ないため、争奪戦になることが珍しくない。僕なんか、わざわざ今回のために三叉コンセントとUSBハブを持参したくらいだ。しかしそれは杞憂だった。

おっと、ばばろあが鞄の中からノートパソコンを取り出したぞ。ノートパソコンを電源につなげている。まだ「艦これ」をやっていたのか。今年のGW、長崎ツアーの際にもやっていたけど、まだ継続して楽しめているらしい。

長く楽しめるというのはとても良いことだが、僕はそれを遠巻きに見ておこう。僕がうっかり「物は試し」と足を踏み入れて、ドはまりするのが怖い。

去来荘にチエックインできる時間は14時と早めだ。早く到着して、ここでゆっくり過ごすというのもいいだろう。

いろいろ注意書き。

去来荘の避難ルート。

9部屋+三木荘で、最大10組まで宿泊ができるようだ。定員は31名。3人部屋中心の構成で、「一家四人」が泊まるような作りにはなっていない。

あ、それもそうか。ここは「子連れ」の宿泊はお断りしている。18歳以上の大人のみが利用できる。静かなひとときを楽しめる施設。

まさか、夜になったらみんなヒラヒラした仮面を付けて・・・なんていう夜の社交の場、なんていう展開はないよな?うん、それは絶対にない。

玄関のところに置いてあった、「赤沢美林散策マップ」。今後のお散歩用にありがたく頂戴する。

見ると、8つのトレイルルートが整備されているようだ。その多くが1時間程度でぐるっと回って元のところに戻ってこられるので、気軽でいい。ダラダラ宿近辺で昼寝したり読書をして過ごそうと思っていたけど、トレイルも楽しそうだ。

16:21
時刻は16時すぎ。宿の夕食は18時からだと聞いているので、まだ2時間ある。お風呂に入る時間を入れても、まだ余裕があるようだ。

よし。

いや待て、「よし」じゃねぇよ。何もしないでだらだらするんじゃなかったのか?

ああ、ダラダラするとも。ダラダラするためには、まず状況を把握しなくちゃいけないだろ?この土地がどうなっているのか、って。ざっと周囲を歩いてみて、その状況を把握しよう。

宿でダラダラするのか、それともイイカンジの場所を山の中で見つけて、そこでぼんやりするのか。ああ、ダラダラするのに忙しいな。自分で何を言っているのかよくわからないけど。

まずは駐車場に出てみる。

駐車場の傍らに、「日野百薬丸」「御岳百草丸」と染め抜かれたのぼりが立っている建物があって、そこはおみやげ物屋になっているらしい。

単なる「ド山奥」なのかと思っていたのに、おみやげ物屋もあるとはびっくりだ。なーんもない、せいぜいトイレと水飲み場くらいしかないような場所だと思っていたので、なおさら。

「おみやげ」を売れるほどの場所ってことだ。買う人もいるし、売るものだってある。ああそうか、ヒノキ製品を売ればいいのか。ヒノキ風呂はさすがに売れないと思うけど、ヒノキ製の孫の手くらいだったらお手軽だろう。

どれ、どんなものが売られているのか・・・あれ?

もう閉店していた。16時閉店のお店なのだろう。早いなぁ。

しかし、周囲を見渡すと、車の数はずいぶんと少なくなっていた。去来荘に泊まるお客さん以外は、この界隈に寝泊まりする人はいない。日帰りの人は早く引き上げないと、ここから下界まではずいぶんと距離がある。

おみやげ物は明日あらためて確認しよう。

16:22
ふと気づくと、駐車場脇の木が黄色く染まっていた。あ、もう紅葉のシーズンなのか・・・。

まだ9月だというのに、色づくとは。

この時期、毎年テレビのニュース番組では「北海道の大雪山が紅葉です」と報じている。9月に紅葉だなんて、日本は広いねぇ、さすが北海道だねぇなんて呑気に口をポカンと開けつつ眺めていたのだけど、目の前にも紅葉が。

まだ緑が残っている黄色だけど、むしろこういうのがきれいだ。真っ黄色!イエーイ!というのは、都内でも銀杏並木があるところで見ることができる。しかし、こういう微妙な色合いを、大自然の中で見るとすごく、すごーくホッとさせられる。なんなのこの癒し。

癒し、なんて言葉は僕は安易に使いたくない。なんかビジネスライクな言葉だし、安直な気がするから。でも、それでも今回ばかりはこの言葉を使わざるをえない。癒しィィィィ!

早いってば。まだ駐車場だぞ?休養林の入り口部分だぞ?ここでそんなに前のめりになってどうする。

でもね、きっとそういう場なんだよここって。

僕が最近自然とふれあっていないからか?自然に飢えているからか?と自分の感覚を疑ったけど、きっと違う。だって、先月だって徳島の剣山に登頂して自然の中を歩いている。この際には、「癒しィィィ」とも「くつろぎィィィィ」という感覚はなかったと思う。

なんだこの空間。怪しい。人体に何らかの影響をもたらしているっぽい。

赤沢自然休養林コースマップをあらためて確認する。先ほどのパンフレットにかかれているのと一緒だ。いくつものトレイルルートが紹介されている。

川が自然休養林の中央を流れ、その川に沿って森林鉄道がある。昔、材木運搬のために使われていた鉄道だけど、現在は復活して観光用に短距離、運行されている。

森林鉄道は明日乗るとして、今回は川沿いに森林鉄道の終点まで歩いて、戻ってくることにした。所要時間は1時間程度だろう。

16:26
いろいろな看板。

よく、ペンション村とよばれるような場所には、こういう看板が道路脇に立っているよな。でも、もちろんこれはそうではない。

森林資料館、森林鉄道記念館・・・といろいろな施設の案内表示がでている。こりゃああれこれ楽しめそうだ。明日は一日この界隈で過ごしていても、飽きるなんてことはなさそうだ。

バーベキューハウスもある。明日の昼はバーベキューかなあ?

「バーベキューは夏だけじゃないかな?今はやっていないかもしれない」

しぶちょおが言う。あ、そうか、もう赤沢の9月といえば秋だ。

16:29
御神木奉曳車、という展示があった。大八車のような台車に、すまきにされた柱が載せられている。

「これはまさか」

「いや、男根を模したものじゃないぞ?御神木、って書いてあるだろ?」

ああそうか、愛知県の田縣神社のように男性器を模したお神輿、じゃないんだな。

御神木、というからには、伊勢神宮に使われる木を運んだのだろう。

16:31
川を見下ろす。

おお!?と声を上げてしまうくらい、透明な水。

「見ろ、魚が丸見えだぞ」

「おお、本当だ」

よく見ていると、水中のあちこちで魚が泳いでいるのが見える。淀みも、濁りもない水なので丸わかりだ。「よく見たら魚がいた」というレベルではない。この場にいる我々全員が、「ほらあそこにいる」「ああ、いるね」と即座にわかる有様。

魚よ、そんなに悠々としていたら食べられるぞ?大丈夫か?

心配になる。

でも逆に、こういうところに棲む魚は非常に臆病だろうから、そう簡単には捕まらないだろう。

水面を見ているだけでもいくらでも時間がつぶせる。魚を何匹探せるか、じっと見ているのは楽しいひとときだ。

対岸に渡り、水面をじっと眺めるしぶちょお。

夏の昼間は、ここが天然のプール代わりとなってちびっ子たちがわいわいと水遊びをやっているらしい。我々が滞在している間は、そういうお客さんは誰もいなかったけど。水はすでに冷たくなってきている。

16:36
川べりから少し山を見上げると、ホームが見えた。

森林鉄道のホームだ。

すでに今日の運行は終わっていて、列車はすでに車庫に戻ったらしい。がらんとしていた。

16:42
今日、夕食までの間軽く歩くルートは「ふれあいの道」と名付けられていた。

何に触れ合うんだ?

思わず隣りにいる仲間たちを凝視してしまう。いや、今更ふれあわなくていいから。ぺたぺた触ってどうする気だ。何も今更発展はしないぞ?もう30年来の付き合いだ。

もちろん「自然と触れ合う」という意味なのだろう。しかし、何を今更?だ。だって、もうこのあたり全部ひっくるめて自然じゃん。

しかし、ざーっと解説を斜め読みしてみて状況がわかった。わざわざ1km以上にも及ぶ木道を整備してスゲーな、と思ったけど、それは車椅子や杖をついているような人でも散策ができるように、という配慮だった。なるほど、それで「ふれあいの道」なのか。

「山歩きってのは足腰が弱い人は無理」という思い込みがあるけど、ここだとそういう人も楽しめるというわけだ。よくぞ整備したものだな!びっくりだ。

ふれあいの道の傍らには、錆びたレールが鎖で吊り下げられていた。叩くための鉄棒も添えてある。

ばばろあがカーン!と鳴らす。

・・・いや、そんなに小気味よく「カーン!」とは鳴らなかった。若干濁った音だ。なにせ汽車が行き来しても平気な、頑丈な鉄の塊だ。

なんだろう、これは。

森林鉄道の名残をお楽しみください、ということなのかと思ったが、このあとあちこちのトレイルルートの途中でこれと同じものを見かけた。どうやら、熊よけのためのものらしい。音を鳴らして、熊に「人間がここにいますよ」と知らせるためのものだ。

ふれあいの道。

なるほど、これは確かによく整備されている。

前方頭上に何か橋が見える。これは対岸から先にあるトレイルルートに繋がっている橋だ。結構大掛かりだぞ、これは。

完全に侮っていた。もっとシンプルな、そっけない森だと思っていたのに。かなり手間暇をかけて整備されていることがわかる。

16:43
川と森林鉄道の線路に挟まれながら、上流に向けて歩いて行く。

このあたりはとてもなだらかで、息が上がるような斜面は一切ない。川沿いなのに、とても穏やかな地形だ。

16:45
おっと、何か解説が書いてあるぞ。

「床堰(とこせき)」だって。

これが床堰。

正確に言うと、床堰跡。

川の流れを遮るように、木で砂防ダムのようなものを作っている。

解説の写真を見てみると、昔はもっと大掛かりな、木製のダムだったらしい。で、ここに水をパンパンに貯め、上流で切り出した丸太もそこに貯め、貯まりきったところでえいやっと堰を切るんだそうな。そうすると、強い水の流れで一気に丸太が下流に流されるというわけだ。

人工的に洪水を起こしてモノを運ぶ、という発想はとても面白い・・・けど、丸太が流れずに途中で引っかかることも多いだろうし、毎回毎回壊した堰を作り直すのは面倒なことだ。

結局、川の水流が減ったこともあり、森林鉄道に取って代わられたらしい。

今じゃ、ゴムボートでラフティングをするのでさえ、浅い川の流れになっている。

16:47
踏切発見。ここで森林鉄道を横切ることができる。

なんで唐突に?と思ったら、ここから先山奥に向かっていくトレイルルートが伸びているからだ。本当にあちこちにルートがある。そりゃそうか、今でこそ「お散歩道」だけど、昔は大事なヒノキの管理に使ってきた道だ。

聞くところによると、このあたりのヒノキは全て台帳で管理されていて、どこのどの木が樹齢何年、みたいなことは全部分かっているのだそうだ。さすが木曽ヒノキ。そこまでして丁寧に管理するだけの価値がある、名木というわけだ。

森林鉄道の線路。今日はもう運行が終わっているので静まり返っているが、だからといってこの線路を歩いて「スタンド・バイ・ミーごっこ」をやると怒られるのでやめておけ。

まだ現役バリバリの路線だよ、ということが銀色に鈍く光る線路でわかる。

昼間は30分に1本のペースで、ここをトロッコ列車が行き来する。さすがに機関車ではないらしいけど。そりゃそうだな、うかつにこういうところで機関車を走らせたら、山火事になりかねない。ディーゼルで動かせるなら、それに越したことはない。

16:53
空を見上げる。やあ、青空と緑、気持ちいいなあ。

ところで、この木ってヒノキってことでいいんだっけ?

全然よくわかっていない。

里山でよく見かける、一面の人口植林杉林とは違う。このあたりに人口ヒノキ林もあるようだけど、このあたりは天然だ。そのため、雑木林になっている。

雑木林、と聞くと、ごちゃーっとした場所をイメージしてしまうけど、このあたりは整備が行き届いていて、下草が刈り取られている。地面も開放感がある、気持ちのよい空間だった。

あと、ヒノキはまっすぐに生えているので、それもまたスッキリとした森を形作っている。

川。

このあたりは大きな岩の上を川の水が流れている。

渕。

17:03
呑曇渕(どんどんぶち)というらしい。

どんどん水が流れ落ちるから、だって。

このあたりは、ふれあいの道の中でも特に気持ちのよい空間。それは施設管理側もよく分かっているようで、公衆トイレが用意されていたり、解説看板が並んでいた。

17:05
その解説看板。なにやらグラフが描いてある。

「森林の香り成分(フィトンチッド)」と書いてある。

「ほう、フィトンチッド!?」
「ああ、フィトンチッドだな」

みんな、「ふぃとんちっど」という言葉を使いたくてしょうがないので、しばらくこの単語を連呼した。

ひびさんが、香水だったか芳香剤だったかにフィトンチッドなものがあるとかかんとか、解説してくれたことは覚えているんだが、僕はもう「フィトンチッド」という単語を連呼するのに夢中だった。すまん、聞いた中身は全然覚えていない。

針葉樹林に豊富に含まれている香りの総称なのだそうだ。「フィトンチッド」というのが成分名なのではなく、そのなかには「α-ピネン」とか「リモネン」といった成分が含まれている。

そういえば檜風呂というのは非常に香り高いわけだが、あれがまさにフィトンチッドパワー全開、というわけだな。

森林浴で心理的にリラックス、と書かれた看板。

森の中を歩くと、「緊張」「混乱」「疲労」の成分が緩和されて、「活気」が高まるのだそうだ。確かにそれはそうだ。これは僕自身実感する。温泉でも同じ効果が得られそうだけど。あ、でも温泉だとマッタリしすぎてしまい、「活気」は衰えるか。

なんだ、森林浴って完璧超人じゃないか。

たまには森林浴を生活に取り入れるべきだな。

しかも面白いのが、森林浴を2泊3日で行ったあと、4週間後でも免疫機能が森林浴前とくらべて高いままだということ。

マッサージ屋に行って、肩や背中をモミモミしてもらって「ああ!気持ちええのぅ。これだけほぐして貰えれば、肩こりは雲散霧消や!」と満足することがある。でも、お店から出て数分後には元のガチガチな体に戻っていて、強く落胆する。これはマッサージ好きの人なら誰しも経験があるだろう。

一方森林浴は、そのようなことがないそうだ。モミモミほどのダイレクトな気持ちよさはないけれど、一ヶ月経っても効果が持続。こんなオトクな話はない。

ストレスホルモンも下がるんだそうだ。素晴らしいな。

ただし、こういうのは随分恣意的なデータで誇張していると思うので、完全に鵜呑みはできないけど。でも、効果のほどはともかく、嘘ではないだろう。ストレスを癒やしたいのぅ。

17:09
どんどん渕からさらに進んでいくと、森林鉄道の分岐があった。あれっ、行き先が分かれているのか。

虚を突かれた思いがした。

「森林鉄道=山の中をウネウネ走る、一本道」という勝手な思いこみがあったからだ。でも鉄道はそんなに都合がよくできていない。単線のケーブルカーでさえ途中で分岐するんだ、森林鉄道が分岐しないわけがない。

17:10
おっと。

右側に分岐した先に歩道は沿っているのだけど、歩道の木道がそのままホームになっていた。ここが森林鉄道の終点になるらしい。

ただし、「ここからの乗車はできません」という看板がでている。ここにくるのに疲れたので、帰りは鉄道で・・・というわけにはいかない、ということだ。

いや待てよ、これはひょっとしたら将軍様からのトンチのお誘いかもしれない。

ホームの外から全力疾走して、ホームを走り幅跳びの要領で飛び越して、鉄道に乗り込めばOK?

・・・OK?じゃねぇよ。そんなわけないだろう。

森林鉄道はここで折り返し運転、ということになる。

特にこの地に何かええもんがあるわけではない。滝がある、とか巨木が残っている、とか。何もない。単に開けた場所だ。「もうそろそろこの辺でいいっスか?満足したっしょ?」ということなのだろう。

ただ、相変わらずとても気持ちのよい空間だ。静かにこのあたりで時間を過ごすのは、とてもすてきなことだと思う。

「なにかこのあたり、やけにフィトンチッドだぞ」

先ほどから、ヒノキ風呂の香りがする。いや違う、「ヒノキ風呂の香り」ではなくて、これこそがヒノキの香りなのだろう。

「このあたりはヒノキの密度が濃いのかな?」

周囲を見渡すが、特にこれまでと景色が違うわけではない。不思議だ。

「このホームに使われている木材のにおいじゃないか?」

誰かが指摘をする。あ、それか。

「森の奥にやってくると、そこはフィトンチッド天国」なのだと思ったけど、単に人工建造物がにおいを発しているだけだったらしい。だとしても、この香りは素敵だ。うっとりする。

冷静になってみると、この香りが「良い香り」なのかどうかはよくわからない。でも、すっかり「ヒノキの香り=温泉旅館の風呂=リラックス、良い思い出」という構図が頭にできているので、このにおいをかいだだけでうっとりしてしまうのだった。なんだ俺、「パブロフの犬」じゃないか。

17:11
ホームとは別方向に伸びている線路に目線をやると、線路上に小屋のようなものが建っていた。なんだあれ?赤いぞ。

様子を見に行っていたばばろあが「トイレじゃ!」と建物そばから叫ぶ。ああ、公衆トイレなのか。でも、なんで線路の上にあるんだ?

17:12
ここの公衆トイレはヒノキ製で立派だ。もちろんフィトンチッドだぞ!トイレの悪臭を打ち消すかもしれないフィトンチッド。

それにしてもなんでこんな立派な、木造のトイレをこしらえたのだろう?しかも線路の上に。

あ、いや、違う。この階段と手すりがある建物部分は線路の脇だ。そして、線路の上、車台の上に乗っかっている建造部分は・・・

あー!これはすごい。

イベント会場でよく見かける、仮設トイレが組み込まれていた。

よく考えたなあ。この仮設トイレは車台の上に載せられている。だから、トイレのタンクがいっぱいになったら、建物と切り離してそのまま下界まで輸送することができるというわけだ。

トイレの奥には、ビニールシートがかぶせられた何かが停車していた。この奥しばらくは線路が続いている。うう、気になる。もっと奥に入っていきたい。この奥はトレイルルートの一つになっていて、ずっと歩いていくと駐車場に戻ることができる。

「また明日にしよう。今日はもう戻らないと」

夕食時間が気になる時間帯になってきた。これ以上奥に行くのはやめよう。明日、あらためてここを歩こう。

17:15
森林鉄道のホームに戻ってみたら、このあたりの木の種類を紹介する看板が並んでいた。

しぶちょおが「キソゴボクだな」という。なんだそれ?

聞き直してみると、「木曽五木」なのだそうだ。木曽を代表する五種類の木、なんだそうだ。

一瞬、聞き間違えて「基礎土木」なのかと思った。

この「五木」はどれもヒノキ科の樹木で、外観が似ている。

ネズコというのは聞いたことがない。

サワラ。うん、これは知ってる。岡山県の県魚。魚へんに春、って書いて鰆(サワラ)。刺身がうまいんだよな。

でもそのサワラとは違う。おひつによく使われている木だったっけ。

ヒノキよりも成長が早い植物だけど、その分材質が弱いので、建築物の柱には不向きなんだそうな。そのかわり、ヒノキのようなフィトンチッドは強くない上に水をあまり吸わないので、おひつやしゃもじなどに使われる。

ヒノキ。これが高級かつとても良い材質の材木となる。

アスナロ。

そういえば、「ヒノキの木になりたくてしょうがなくて、明日ヒノキになろう、あすなろう、ということでアスナロなんだ」とかいう童話だか伝説だかを聞いたことがあるな。なんでそんなにヒノキになりたかったんだっけ?ぜんぜん覚えていない。

似てはいる木だけど、それだけヒノキとアスナロは雲泥の差がある、ということなのだろう。そういえば、「ヒノキ風呂」はあるけれど、「アスナロ風呂」というのは聞いたことがない。たぶん、少なくとも風呂には向かない材質なのだろう。

17:33
駐車場まで戻ってきた。

やあ、黄色い葉が美しいな。

先ほどまで我々が潜伏していた森は、雑木林ではあるもののほとんどがヒノキやアスナロからなる針葉樹林帯だった。なので、下界までおりてきて「おっ、紅葉してるぞ!」と驚き興奮するのだった。

「下界」といっても、先ほどの森林鉄道の終着点から駐車場まで、きつい坂はまったくない。本当に車椅子で行って帰ってこられるレベルだ。老若男女、ニコニコしながらの森林浴散歩が楽しめると思う。

17:39
去来荘に戻ってみると、風呂場の前に「空いてます」という札がぶら下がっていた。あ、今ならお風呂に入ることができるらしい。

女性のひびさんがいることもあって、一度に四人入浴、というわけにはいかない。ひびさんの許可を取って、ひとまず僕とばばろあの二人が先にお風呂に行かせてもらう。

超軟水で沸かしたお湯なので、きっと心地が良いはずだ。

東京の東のはずれ、江戸川区に「イーストランド」という銭湯がある。ここは人為的に水中のミネラルを除去した軟水風呂だ。昔、わざわざ車で片道1時間近くかけてでも通っていた時期がある。それくらい、魅力的なお湯だからだ。

軟水だの硬水だの、水のことでガタガタ言うのは通ぶっててイヤなのだが、実際軟水風呂に入るとその滑らかさに驚く。キシキシした感じがまったくなく、むしろヌメリを感じるくらいだ。温泉でもないのに。

で、これが去来荘の浴室。

シャワーが2つあるが、そのうち右側はどうやら水圧がかなり強いらしい。蛇口をひねったばばろあが「ヒャアアアア」と叫んでいた。どうやら快楽とかそういうレベルを超越した凄い圧らしい。

左側の、僕が使ったシャワーはごく普通の水圧だった。「こっちは全然平気だぞ?」と言いながら、シャワーの使用を止めると、またばばろあが「ヒャア!」と叫んだ。いったん2つのシャワーに水圧が分散したのが、また一つに戻ったのでばばろあのシャワーがすごいことになったらしい。

「ちゃんと股間を隠せよ」
「ええじゃん、このままで」
「やめい、あとでモザイク加工するのが面倒なんだから」
「モザイクかけんでええじゃろ」
「そうはいくか、この写真はGoogeフォトに自動バックアップされるんだぞ?そこで股間丸出しの写真があってみろ、ポルノ画像と判断されて、アカウント凍結の憂き目かもしれん。それは嫌だ」

毎度この二人は同じような会話を風呂でしている。

18:08
部屋に戻ると、しぶちょおがむくれていた。

「遅れて風呂に入ろうとしたら、鍵がかかっていて入れなかった」
「あれ?ひびさんと一緒にお風呂入るんかと思ったで」
「外から帰ってきたんだから、風呂に入りたいじゃないか。で、ドアを叩いても全然反応がないから諦めた」

ちょうど風呂場で「股間を隠せ」「いやだ」という不毛な押し問答をしていた頃かもしれない。それは悪いことをした。

もう夕ご飯の時間なので、しぶちょおのお風呂は食後ということでお許し願って、食堂へと向かった。

ほう?

箸には「木曽ひのき」という焼印が押してある。割り箸ではない。ヒノキの箸か!こりゃぜいたくだ。

「使い回しはしないので、洗って持って帰ってもいいですよ」

と宿の奥さんがおっしゃる。えー、それはありがたい。持って帰る持って帰る。今回2泊するから、合計4膳のヒノキ箸が手に入る。来客向けに使えるかも。

あと面白いのが、箸置きだ。

何かの葉が、箸置きとして使われていた。風流だ。

さすがに箸の重さに反発できるほどしっかりとはしていない。なので箸を載せるとぺちゃん、と潰れてしまい箸が机に触れてしまう。箸置きの用としてはいまいちだが、それでもこういうセンスが楽しい。

去来荘の料理の品々は、本当にワクワクさせられた。地味ならぬ慈味、というやつだ。派手さはない料理だけど、食材の色、食感、季節感を感じさせる調理ばかりで、口にしたときにハッとさせられる。油断して口にした自分が間抜けに感じられるくらいだ。

柔らかすぎず、硬すぎず、若干硬め程度の絶妙な食感で料理は調理されている。メリハリがある食べごたえ。

こんな山奥で、「マグロのお刺身でございます」なんて出てきたら興ざめだ。最近の山あいの宿で、そんな場違いな料理を出す例は随分と減ってきたけど、まだまだ世の中には多い。刺し身は出さないけれど、エビフライがあります、とか。どうも、宿というのは「ハレの料理を提供しなくちゃいけない。そのためには山のもの海のものいろいろ取り揃えないといけない」という思い込みがあるようだ。

その点この宿は徹底してそういう色気を出さない。秋だということもあって、きのこがいっぱい。聞きなれない名前のきのこもあって、独特の色合いと食感と味で感心しっぱなしだ。

感心しすぎて、味も名前も全部忘れてしまったけど。

さあこうなると酒を呑む人たちは黙っておりません。

いや、「たち」と複数形で語るのは語弊があるか。ばばろあ一人がソワソワしはじめた。ひびさんに「お酒、一緒に呑む?」と水を向けている。

ひびさんといえば、「酒豪の豪傑」のイメージが根強いけど、それはあくまでも2000年までのものだ。「高知の夜」事件があって以降、ひびさんは(少なくとも人前では)酒を飲むことに慎重な姿勢を見せている。

というわけで、イメチェンからかれこれ17年も経過しているのに、未だに酒豪イメージを周囲が抱いているという不思議な構図だ。ひびさんとしては迷惑な話だろうけど、それくらい昔は彼女の存在に驚かされた。何しろ僕が「もう勘弁してください」とサシ飲みをリタイアしたことがあるくらいだ。

食堂の壁には、木曽の銘酒のラベルが貼られていた。「七笑」・・・

「ななわらい?」
「しちわらい、じゃないか?」
「いや、ななしょうかもしれない」

結局、我々の中で「しちわらい」であろう、という結論を出し、宿の奥さんに「しちわらい、ください」とオーダーしたら、「ななわらいですね」と修正された。あ、そっちなのか。

でも、いったん「しちわらい」で覚えてしまったため、いつまで経っても「しちわらい」が忘れられない。結局、最後まで「しちわらい」という間違ったネーミングが頭にこびりついてしまった。

同様に、「中乗さん」もそう。

我々の席から、遠目でこのお酒のラベルを見た時、どうも「中来さん」に読めた。「来る」という漢字は何やらゴチャゴチャっとして見えたので、「旧字体なのだろう」と思い込んだ。

そのため、覚えてしまったのが「なからいさん」。後になって「来」ではなく「乗」ということを知らされ、このお酒が「なかのりさん」という名前であることを知った。

でも時既に遅し。「なからいさん」がすっかり定着してしまった。

「いや、なからいさんじゃなくて、漢字が『乗』だから・・・なかじょうさん」

と、ダブルで間違いをやらかす始末。もうむちゃくちゃ。

ちなみに「中乗(なかのり)さん」というのは、木曽で切り出した材木を木曽川で下流まで運ぶ際に、丸太の上に乗って操縦していた人のことだそうだ。

ひびさんをそそのかしたばばろあが、ひびさんと共にお酒を楽しみはじめた。

一方、酒を飲まないしぶちょおと僕は、ひたすら食べる。

去来荘の料理の数々。きのこがいっぱい。

馬肉ときのこの味噌鍋。

この味噌汁は、えっ!?とびっくりするうまさ。

レンゲで一口すすってみて、「まじで!?」と慌てて姿勢を正して、もう一度飲み直すくらいのうまさだ。

「味噌が美味いのかな?それともきのこの旨味かな?」

宿のご主人いわく、軟水で水がとてもいいから、だしがよく出るのだそうだ。はえー。すごいな、あったり前の話だけど、料理の基本は水なんだな。

色鮮やかな生春巻き。バジルソース付きと、いきなり洋風とアジア風のミックス。

生春巻きには、とうもろこしやいんげんが入っていた。アイディアが光る。

きゅうりの一本漬けも、シンプルだけどうまい。

古代米入りのおむすびも、うまい。

となりに添えられているきゃらぶきまでもがうまいんだから、いい加減「うまい」を言い飽きてきた。それくらい、どれもこれもが極上。

お吸い物をいただいて、夕食は終了。本当にすばらしい食事だった。ご主人、何者だ?水がいいから、の一言では片付けられないレベルでセンスが光るぞ?

20:53
食後、部屋に戻りくつろぐ・・・というか、死体状態になっているばばろあ。

ビールを飲んだあとに木曽の地酒を一合程度たしなんだので、既にいい感じ。

卓の上には「カタン」というボードゲームが置いてあり、しぶちょおが「カタンやろうぜ、カタン」とみんなに呼びかけている。しかし、ひびさんが「いやー」と及び腰で、僕はといえば完全に様子見を決め込んでいるので、結局この旅行中行われることはなかった。

なんでも、以前ひびさんが加わってこのゲームをやった際、周囲のプレイヤーから「えっ、本当にそれでいいの?」とプレイするたびに挑発されたり脅かされたりして、疑心暗鬼になってしまったらしい。なので腰が引けている、というわけだ。

この「カタン」というゲームは、相手との交渉術次第でゲームが有利になったり不利になるもので、初心者はカモにされやすいのだそうだ。しかも、目の前にある「カタン」は日本語版ではないため、ルールをチェックしながらゲームをしようにも、ドイツ語だか英語だか、外国語のマニュアルを読み解かないといけない。いっちょ前にゲームをこなせるようになるには、ちょっと大変らい。

20:57
一方のばばろあだが、今日ここに来るまでに買ったお酒をさっそくゴソゴソと取り出してきた。にごり酒で、冷蔵保存が必要なものだ。

「はよぅ飲まんと、痛むけぇ」

といいながら、プシッと栓を開けた。さっき清酒を飲んだばかりなのに。

というのも、宿の人に「冷蔵庫を使わせてもらえませんか?酒を冷やしておきたいので」とお願いしたところ、断られたからだ。さすがに宿泊客の飲食物を、宿の冷蔵庫で保管したら保健所からお叱りを受けてしまうのだろう。

「ひびさんも飲むじゃろ?」
「いえっ、私はにごり酒は苦手で、飲まないんですよ」
「ええええー?マジで?」

予想外の展開。そういえば僕も、まだひびさんが大学生だった頃、そういう話を本人から聞いたことがある。本当に昔から一貫してにごり酒は苦手らしい。

そのため、ばばろあが

「ちょっとでもええけぇ。開封しちゃったから今日中に飲みきらんと」

と何度となくお誘いをかけても、ひびさんは首を縦に振ろうとしなかった。

21:03
「六花亭を開けよう、六花亭」

ということで、僕が持ち込んだ北海道土産の六花亭クッキー詰め合わせ、「○△□」を開封。この商品は、六花亭の直営店でしか売っていないものなので、わざわざ僕は札幌の本店まで買いに行ったくらいの代物だ。あの巨大な新千歳空港のお土産物売り場を練り歩いても、これは売っていない。

9種類のクッキー類が詰め合わせになっているのだが、これまで食べてきたのはなんだったのか?というくらいにうまい。僕が敬愛するカフエマメヒコのオーナー、井川さんも「結局いろいろ食べてきたけど、六花亭がうまいんだよなあ」としみじみ語るくらいだ。プロでさえも脱帽するうまさ、それが六花亭のクッキー。

六花亭といえば、一般的なお土産としては「マルセイバターサンド」が有名だけど、機会があったらぜひこの「○△□」もどうぞ。きれいな缶入りなので、食べ終わってからも楽しい。

ただ、僕にしちゃ高額な買い物だ。お値段2,200円。なので、今回持参したものとは別に、自家消費用に買ったひと缶は、後生大事に保管しすぎて賞味期限切れにしてしまった。アホですか。

味がうまいのは当然として、9種類のお菓子詰め合わせなので、「どれがうまいか」というのを仲間内で議論するのが楽しい。「僕はこっちがうまいと思う」「それもいいけど、こっちも捨てがたい」という会話がしばらく続く。

僕が酒を飲んでいた頃は、絶対にありえないシチュエーションだ。甘いものなんて、見たくもないくらいに毛嫌いしていたのに。甘い飲み物さえ、嫌っていたくらいだ。それが今や、糖尿病まっしぐらなくらい甘いものを食べている。

タチが悪いことに、僕の場合「ビールを愛していた頃の嗜好」であるポテトチップス好きがまだ残っている。で、甘いものを食べるのも好きになったので、最悪の食べ方「しょっぱいのと、甘いのを交互に食べる」ということをやってしまう。自制しなくちゃ。

22:19
何の話をしていたか覚えていないが、ばばろあの憂国論みたいな話だったかもしれない。四合瓶のにごり酒を前に置き、ばばろあは顔色をほとんど変えずに手酌で飲んでいく。

にごり酒は度数がやや高めだし、酔っ払ったら後に残りやすい印象だ。四合も飲んで大丈夫なのか?と興味深く観察していたが(ここで、「もうそろそろやめておいたほうが」なんて気の利いたことは言わない)、結局彼はまったく取り乱すことなく、最後まで弁舌達者で喋り倒していた。

会話の途中、押入れを開けてみたら、当たり前だけど布団が入っていた。しかし、その横に灰色のアタッシュケースのようなものが。なんだろうと思ったら、布団乾燥機だった。しかも作動している。

森の中の宿、ということもあって、湿気が溜まりやすいのかもしれない。

何時に寝たか忘れたが、24時ころにお開きになったと思う。お互いいい歳なので、就寝時間は昔の旅行と比べて早くなってきている。あと20年後くらいに同じメンツで集まったら、「22時就寝、朝5時起床」なんてリズムになっているかもしれない。

2017年9月24日(日) 2日目

07:18
2日目の朝。天気はあまりよくないように見えるが、朝もやによるものだ。もう少し時間が経てば、すーっと晴れてくるはずだ。

朝ごはんは8時から。温泉旅館ではないので、朝風呂に入るということはできない。しぶちょおと蛋白質はギリギリまで寝ているようなので、7時には起き出していた僕とひびさんは、朝の散歩に出かけることにした。

僕だって、日頃の疲れが溜まっている。せっかくの休みなんだし、朝寝をすればいいのに・・・と思うが、根が貧乏性なので、こういうところにくると朝からハッスルしてしまうのだった。朝の深林散歩!うわあ優雅!とか思いながら、ソワソワしてる。実は全然優雅ではない。

「ゆっくり過ごすために、あわただしい」という本末転倒。でも、そういう性分なのははるか昔から諦めがついているので、これで良いと思っている。悟りの境地っすわ、もう。

07:22
朝ごはんまであと40分ちょっとだったので、1.5kmほどのトレイルルート、「渓流コース」を歩いてみることにした。

駐車場があるところから下流に向けて川沿いに歩いていき、途中で橋を渡って対岸に移り、そこから駐車場に戻るコースだ。

07:28
川を眺めながらの散策はとても気持ちのよいものだ。

といいたいところだが、朝一番の散歩ということもあって、ルート上には蜘蛛の巣があちこちに張り巡らされていた。

「あっ」とか「うっ」というおおよそ朝らしくないうめき声を出しながら、前へと進む。

07:36
朝の赤沢自然休養林は、完全に我々の独占場だった。山奥深くなので、宿に泊まっている人以外、ほとんど人がいない。

昼間でも、9月ともなれば客足はさほど多くない。ただでさえ快適なのに、朝夕ともなれば我が物顔で森をのっしのっしと闊歩できる。

ただし、蜘蛛に熱烈歓迎されるけど。

07:38
折り返し地点となる橋を渡ろうとすると、橋が封鎖されていた。

まさか、今来た道を折り返さないといけないのか?と身構えたが、ゲートの右側に人が通れる道がこしらえてあった。車止めのゲートらしい。

07:47
紅葉を眺めながら、宿へと戻る。我々の足で30分ちょっと。ちょうど良い散歩道だった。

ほとんどアップダウンは無し。朝から心拍数が上がってゼエゼエすることもない。

08:10
去来荘の朝ごはん。

さほど珍しくない見栄えだけど、これも「えっ?」というくらいの美味しさだから困ったものだ。

左端に写っている生卵だけど、この黄身がやたらとうまい。いや、なんで?なんで生卵なのにここまで違いがあるの?旨味が染み込んでいる感じがする。

聞くと、宿のおかみさんは笑いながら「簡単よ!」と言う。前日のうちに、醤油を少し入れた器に生卵の黄身を割り入れるだけなのだそうだ。あ、言われてみれば白身がないな、これ。一晩の間に、醤油味が黄身に染み込んだもの、ただそれだけ。それだけなのに、やたらとうまい。黄身から水分が抜け、ねっとりとしているのもうまみを強調する。

本当に困ったものだ。

なんで「困ったものだ」と繰り返し言うのかというと、ご飯が進んでしょうがないからだ。

というわけでしぶちょお、お前のご飯を盛っておいてやったぞ。

「あっ、何をする」

遅れて食堂にやってきたしぶちょおが、自分の席に盛られたご飯を見て叫ぶ。

「まあ、いつものとおりだ」

「器、貸せ。おかでんのご飯は僕がよそうことになってるから」
「いや、いいんだよ、悪いよ、自分でやるから」
「いいからよこせ」

しぶちょおが僕のお茶碗にご飯をよそいはじめる。いや、ちょっと待て、何かしゃもじの扱い方がおかしくないか?「ぐーっと押さえつける」動作が入っているぞ。

こんなことに。

お陰で、鮭の切り身がやたらと小さく見えてしまっている。何かサイズ感がおかしい。

厨房から顔を出した宿のご主人が「ええーっ!?」と何度も繰り返して驚きの声を上げる。「本当?本当にそれを食べるの?」と。

「ええ、僕らいつもこれが普通なんです」
「ええーっ?」

さんざんご主人が驚きを表明したのち、

「でもさ、それって仏様にあげるご飯だよね」

と言う。あっ、余計なことを言ってはいかん。

「どこの宗教?どこの出身?」

いやいやいや、宗教も出身も関係なく、ただ単にわんぱくで育ち盛りなだけなんです。

08:37
朝ごはんを食べ終わる頃、宿の奥さんから「外に珈琲がありますから」と案内された。えっ、そうなの?

言われるままにテラスに出てみたら、コーヒーメーカーがお出迎えしてくれた。おお、森の朝の空気を楽しみながら、コーヒーを楽しめるのか。それはいい。

しばらく、コーヒーを楽しむ一同。

みんな服装はまちまちだ。はっきりいって、9月下旬とはいえ標高1,080メートルのこの場所は肌寒い。しぶちょおはしっかりした長袖を着ているが、僕は夏真っ盛り!という雰囲気のご機嫌なカラーリングのシャツを着ているし、ばばろあに至ってはTシャツ1枚だ。

ただ、さすがに昼間になると、結構気温は上がった。朝夕で寒暖の差が激しいし、日陰と日なたの気温差も大きい。着脱が簡単な服をいくつか持参して、肌感覚にあわせて着たり脱いだりする準備をしておいたほうがいい。

赤沢自然休養林が閉鎖されるのは11月上旬。あと1ヶ月ちょっとだ。もう夏はとうの昔に終わっていて、今、まさに急速に冬に向かいつつあるところだ。

09:08
今日一日は何も予定がない。この休養林の外にまでお出かけしてご飯を食べるという計画もないので、午前は森林鉄道乗車してその足でトレイル、午後もトレイル、空いた時間はのんびり、という程度のプランだけある。

やっぱり旅行は2泊以上に限る。この「2泊目」の日こそが、移動がなくてとてもくつろげる。さあ、今日はくつろぎまくるぞー

・・・と、張り切っている。いや、だからそれがダメなんだってば。

森林鉄道乗り場に向かう。

乗り場のすぐ脇には、「森林鉄道記念館」とい建物がある。後でここにも寄ってみよう。

まずは運行ダイヤを確認。

9時半から15時半まで、30分おきに運行されている。往復2.2キロ、所要時間25分。往復800円。

我々は、昨日の夕方に訪れた、森林鉄道の最奥地までゴトゴト鉄道で移動し、そこからトレイルを開始する予定だ。片道切符があれば歓迎なのだけど、あいにくそういうきっぷはない。

09:09
森林鉄道のりば。まだ出発まであと20分あるので、まだ改札を通過するのはやめておこう。周囲を見渡すかぎり、団体客がどかーっとやってきて、100席が埋まってしまうということはなさそうだし。

09:10
森林鉄道資料館に入ってみると、そこは車庫になっていた。

ディーゼル車が鎮座している。

この時間、ひっきりなしに貨車などが動かされている。

夜の間はこの車庫に格納されているものを、昼の間は外に展示するためだ。

独特な煙突の機関車も、後ろに引っ張られながら外へ出ていく。

さすがにこれだけのために、自力で動くわけにはいかない。

思いがけない「動く機関車たち」を観察できて、嬉しくなってカメラ撮影しまくっている人たち。もちろん、僕もその一人。

かわいいのりもの

こうやって材木を積んで運搬したのだな。

これが、今でも現役で運行している森林鉄道の客車。

機関車に興味津々

09:28
そろそろ、森林鉄道の始発が出発する。チケットを買い求めて、ホームに向かう。

チケット、といっても、さすがは木曽ヒノキの産地だけある。硬券、しかも紙ではなく木でできている。焼印を押すことで、文字や絵を木に描いている。

えーと、これはヒノキ・・・で良いよな?たぶん。あんまり自信がないので、「木製」という表現にとどめておこう。

昨日、さんざんヒノキを見てきたというのに、まだ「ヒノキ」がどういうものなのかよくわかっていない。そりゃそうだ、生えている木を見ても、製材されたものは想像がつかない。あと、ヒノキと対面するのは、神社仏閣か、温泉旅館の檜風呂くらいだから。

前回のアワレみ隊企画、「長崎編」のあと、ばばろあがメールで「やっぱり記念写真を撮っておくのはええね」ということをしみじみ語っていた。

いい歳をしたおっさんの集まりなので、記念撮影をしてもきれいな絵面にはならない。「ああ、以前とくらべて老けたな」ということが気になる。とはいえ、そういうのをむしろ積極的に楽しみ、時間の流れを焼き付ける、というのがとてもいい。特に我々は、30年に渡る付き合いだからなおさらだ。

風光明媚なところで、「ワア!きれいだよ!」と写真を撮りまくるのは楽しいことだ。料理の写真を撮るのも、良い旅の思い出だ。しかし、それだけだと、ガイド本や他のwebサイトで見ることができる写真の焼き直しだ。やっぱり、「この景色の中に僕らが実際にいる証拠」みたいなものこそが、写真を撮る意義だと思っている。

とはいえ、「さあ、写真を撮るよー」と声をかけると、どうしても直立不動のポーズになってしまうものだ。今の20代以下の世代だったら、写真慣れしているのでポージングは得意だろうが、40代の連中はそれが苦手。

しかし、直立不動のおっさんほど見苦しいものはないので、しぶちょおと「動きがある写真を撮らないとね」と話をしていたところだ。

で、それをまさに実践中のしぶちょお。

高飛び込みをする瞬間の選手、みたいなポーズになっていて、「森林鉄道に乗車しています」というシチュエーションには全くそぐわない。でも、席に座ってニッコリ微笑んでます、みたいな毒にも薬にもなりゃしねぇ写真よりも、こっちの方が遥かにいい。後々記憶に残るのはこういう写真だ。

09:39
森林鉄道はゆっくりと動く。

乗り心地が特に変わっているということはないのだけど、線路幅が狭い路線なので、小回りがきく。キューッとキツめのカーブを曲がっていくので、楽しい。

あと、もちろん風景も楽しい。緑アンド緑。

眼下に、歩道が見える。

やあ、これはいい。

09:42
緑ばかりでなく、川も同時に楽しめるのがいい。

昨日歩いた歩道のすぐ脇を走る森林鉄道なので、見える景色は一緒。でも、鉄道に乗りながらだと、また違って感じる。風を感じながら、だからだろう。

あと、徒歩だと「気になる景色があれば、立ち止まることができる。引き返すことだってできる」という自由があるけど、鉄道の場合はそれがない。一期一会だ。だから、ますます綺麗に感じるのかもしれない。

09:44
柵で囲まれた切り株があった。

古井戸があって、転落防止のために柵を設置しています・・・というものかと思ったけど、違う。脇にある看板には「御船代祭(みふなしろさい)跡」と書いてあった。

伊勢神宮の御神木として伐採されたのだろうか?

でも、しぶちょおは違う、という。御神木は、並んだ二本のヒノキを独特な技法で切り倒すのだそうだ。しかも、その二本の木がXの字に交差するように切り倒すんだと。

この御船代祭跡、の木は対になる木がない。

後で調べてみたら、「御神木を納める、『御桶代(みひしろ)』を納めるためのもの」が御船代だった。なんだこのマトリョーショカ構造は?それだけ、御神木というのは大事に大事、扱われているということだ。

「御神木の容器の、さらにその容器」用の木材を切り出すだけでもお祭りになるし、こうやって切り株が誉れ高いということでちゃんと保存されている。伊勢神宮に使われる木材というのが、いかにすごいのかがよくわかる。

ちなみにこの御船代祭跡は、昭和60年、と看板に書いてあった。1985年だ。

09:46
15分ほどで、電車は終点までやってきた。ここで折り返しとなるため、牽引していたディーゼルカーはいったん切り離され、先頭から最後尾に移動した。

あ、ここの線路が複線になっているのはそういう意味があったのか。

09:47
貨車とディーゼルカーが接続。

鉄道好き、というほどではないのに、こういうイベントごとがあると絶対見たくなるよな。

で、写真も撮る。

やっぱり、「ドッキング」は男のロマンだと思う。いろんな意味で。

09:52
ディーゼルカーの前後付け替えを終えた森林鉄道は、出発していった。

我々はこれからトレイルするので、お見送りする立場。

こういうときだけは愛想が良くなり、必死に乗客たちに笑顔を振りまき、手を大きく振ってお別れだ。

乗客の半分くらいはここで下車してしまい、川沿いの道を歩いて駐車場まで戻るようだ。

僕らのように、ここからさらに山奥に向けてトレイルする、という人はいなかった。

09:57
赤沢自然休養林にいくつもあるトレイルルートのうち、もっとも森の奥を歩くことになる「冷沢(つめたさわ)コース」に向かう。

線路上に停めてある「トイレ貨車」の脇をすり抜け、線路沿いに進んでいく。

線路の上を歩いている写真。そういえば2017年は、線路に入り込んで記念撮影をして、SNSにそれを掲載した女性芸能人が叩かれていたっけ。我々がまさに今それを実践中だ!

といってもここは廃線だし、なによりも、「歩道ですよ」という証拠として線路の間に木道が作られている。

この線路、取り外さないのだろうか?鉄の塊だから、そのまま放置しておくにはもったいない。でも、外して運搬する手間を考えたら、このままの方が楽なのかもしれない。

または、いずれは森林鉄道を延伸・・・?いや、さすがにそれはないと思うのだけど。

数百年経って、このあたりが今以上に自然豊かになって「休養させなくてもいいんじゃないか」っていう雰囲気になったら、また林業が大復活・・・?いや、残念ながらそれは難しいと思う。

熊出没注意、の看板。ばばろあがびびる。

「おい、熊が出る、って書いてあるで!」

そういえば、朝ごはん前にお散歩しようぜ、という提案を昨晩したときも、

「朝は熊がおるかもしれん」

と尻込みしていたっけ。確かに、早朝は熊が餌を求めて活発に動く時間なので、その心配は間違っていない。

熊に対して注意を払うに越したことはないけど、あんまり心配しすぎる必要はないと思う。というわけで、そのまま直進。

線路はここでおしまい。この先は、遊歩道になる。

09:59
冷沢コースを歩く。

なんて快適な道なんだ!

「たまらんのぅ」と思わず口から出てしまう、それくらい良い道だ。

階段がきっちり作り込まれている。山の一部を切り開いただけの登山道とは段違いだ。

段違いといえば、この階段は非常に気持ちのよい段差になっていて、歩きやすい。登山道の多くは、「人の歩きやすさ」よりも「地形がこうなんだから文句言うな、人間ども」と言わんばかりの段差になっていて、歩きにくいものだ。そして、人に踏まれ、靴で削られ、風雨にさらされた結果、段差周辺の土がえぐれてしまい、ますますあるきにくい。

一方この歩道はどうだ、歩きやすい段差だけでなく、「ここからはみ出て歩かないでね」ということを暗示する、歩道と自然との境界となる木が歩道脇にある。

さらに驚くべきは、歩道の地面にずーっとウッドチップが撒いてある。これが素晴らしい。ふかふかした歩き心地で膝への負担が少ないし、雨が降ったあともぬかるまない作りになっている。これだと、人が歩くことによる地面へのダメージも減らせるだろう。

なんて手間暇かけてメンテナンスをしているんだ!と驚かされる。

そしてこの道。わかるでしょう?写真を通じてでも。この心地よさを。

傾斜はさほどキツくなく、アップダウンがあるとはいえ負担感はほとんどない。息が上がるようなことはないので、仲間と雑談しながらの散歩が余裕だ。

10:01
こういう森って、ありそうでなかなかないものだ。

まず、日本の山で多い杉の人工植林がされたエリアは、もっと木が密集していて薄暗い。そしてじめっとしている。

植林されていない雑木林の場合、下草がごちゃごちゃ生えていて、うっそうとしてしまっている。

広々とした空間、適度な間隔の木、美しい木漏れ日。そして快適なトレイルルート。

このルートなら、スニーカーとデニム、といった山をナメた格好でも全く問題なく散歩できる。実際僕らは、飲み物さえ持たずに歩いている状態だ。

なお、六花亭の「○△□」だけは持参している。これを展望台で食べよう、という話になっているからだ。

10:02
さすがに100%、ウッドチップの道というわけにはいかない。普通の登山道っぽい道もあるけど、歩きやすいことには変わりない。

10:04
赤沢自然休養林の最奥部、冷沢峠にやってきた。

このあたりのヒノキは自然休養林のトレイルルートの中ではもっとも育ちがよく、見ごたえがある・・・とパンフレットには書いてある。いやもう、僕にとってはどこのヒノキも見応えがありすぎて、ここが特にすごいという感覚がない。

10:06
ところどころ、熊よけの線路がぶら下がっている。先頭を歩くばばろあが、それを見つけては「カーン」と鳴らす。

お寺の鐘のように、心地よい音が鳴るように作られたものではない。だから、毎回絶妙とは言い難い、かといってイマイチとも言い難い、中途半端な音が鳴りみんなの気持ちをモヤモヤさせた。

昨日、しぶちょおが

「このあたりには赤沢原人がいるんじゃないか?」

とぼそっとつぶやいた。

「赤沢原人!その発想はなかった!」

僕はかなりビックリした。ああそうだ、自然豊かなところには、まだ我々が出会ったことがない、原人が住んでいる可能性があるんだった。幸いなことに、我々アワレみ隊にはそれを見る能力と運が備わっている。

昔、小笠原諸島に行った時に出会った「小笠原原人」。あれ以来原人には出会っていないが、もう日本にはそういう原人は生き残っていないのだろうか?

小笠原原人との出会いは今から11年も前。アワレみ隊の主要メンバーが32歳の頃の出来事だ。さすがに今となっては、ピュアな心を失ってしまったし、もう原人と出会うことなんて・・・

出た!

【写真省略】

「安心してください、履いてませんよ」
「それはやめろ!」

赤沢原人は、どうやら今時の芸能界事情にも詳しいらしい。「とにかく明るい安村」にとどまらず、「アキラ100%」的な動きも披露。

【写真省略】

ひとしきり騒動があった後、赤沢原人は森の中に消えていった。

「ありがとう!赤沢原人!」

感動の声があがる。

・・・僕がちょっとみんなのところから離れている間に、赤沢原人が現れたらしい。小笠原原人のときもそうだったけど、毎回僕は運が悪い。今回も見ることができなかった。ちなみに赤沢原人の写真はしぶちょおが撮影したもの。

「ほら、大丈夫、肝心のところは写ってないから。ちゃんと隠れているから」

このあたりはヒノキに混じって、ホウノキが生えている。そのため、とても大きな朴葉がたくさん地面に落ちていた。肝心要の場所を隠すにはうってつけだ。

「わし、動画撮影しとったで」

ばばろあが口を挟む。

「動画撮影はまずい。写ってはいけないものが写っているかもしれん」

あわてて阻止する。

余韻を残しながらも、一同は先に進む。しかし、微妙に駆け引きが始まっていた。

「赤沢原人がやっぱりいた、ということは一体だけじゃないと思うんだ。他にもいるはずだよな、繁殖するからには」
「さっきのはオスだったぞ。メスだっているはずだよ」

そこでひびさんに男どもの視線が集まる。ひびさんはブンブンと首を振り、拒絶の意を示す。

「いや、大丈夫だって。かなり大きな朴葉があちこちに落ちているから」
「一枚じゃ足りないですよー」
「金太郎のふんどしみたいな大きなのは無理だけど、三枚あれば大丈夫だろ?」
「一度に押さえられないですよ」
「じゃ、こうしよう、一枚もしくは二枚程度で隠せるサイズの朴葉がもしあったとしたら・・・?もしあったなら、きっとここにメスの赤沢原人が降臨するッ・・・と!?」
「いえいえ、無理ですってば」

それからしばらくは、「お前先頭を歩け」「いや、先頭はいやだ」と押しつけあいになった。先頭を歩く人間が赤沢原人を発見してくるに違いない、などという話になったからだ。

ほうのき峠に到着した。

ここから道が分岐していて、盲腸道になっている脇道に入ると、展望台があるらしい。六花亭ポイント、と目論んでいる場所だ。

「おっ、このあたりは朴葉がたくさん落ちているぞ!」

周囲を見渡すが、誰も目を合わせようとしなかった。

ほうのき峠から赤沢台の展望台まで150メートル。これまでのルートとはうってかわって、ここはつづら折れの道になっている。

これまでがのんびりしすぎたんだ。

「こんな緩やかな道の先に展望台があるとは到底思えない」

と道中みんなで話をしていたのだが、やっぱり最後の最後で上り道があるのだな。

山城や砲台巡りを趣味とするばばろあは、こういう道はめっぽう歩くのが早い。むしろ登山を趣味とする僕の方が、歩くのは遅い。というのも、登山というのは4時間〜8時間くらいの持久戦となるので、できるだけゆっくりと、体力温存をする歩き方が身につくからだ。

やあばばろあ、歩くのが早いな・・・と思っていたら、前方でしぶちょおの大笑いが聞こえる。

行ってみたら、あっ!赤沢原人がここにも!

【写真省略】

【写真省略】

茂みの中から現れた新手の赤沢原人は、僕らの前で奇妙な踊りを踊ってくれた。

このあたりは本当に原人が住んでいるんだな。しかも、先程とは違う個体だ。すごい!学術的新発見だ!僕は静かに感動した。

10:49
赤沢台の展望台からの景色。

案の定、視界がものすごく限定的で、大して眺めは良くなかった。樹木の隙間からちらっと景色が見えるだけだ。

我々はここで、六花亭の「○△□」を食べて一息ついた。

ばばろあがぼやいている。

「もうカンベンしてくれぇや。なんでこんなことせにゃならんのん」
「あれっ、ノリノリなのかと思った」
「ノリノリなことあるか!なんかあの雰囲気だと、ワシがやらんといかんような感じじゃったけえ」

確かにそれはそうだ。

「最初、登場するまではいいけど、それから後はどうすりゃいいのかわからなくなって、間が保たなくなるよな」
「何も考えとらんからね、最初は勢いでどうにかなるけど、その後のやめ時がよくわからん」

先程現れた赤沢原人は、間が保たなくなった結果、「ヒョーイ」と叫んでいた。さほど面白くないパフォーマンスなのだが、やっている側の「どうしよう」感がヒシヒシと伝わってきて、同情の念しか湧いてこない。

しぶちょおがぼそっと言う。

「それにしても赤沢原人、二人とも腕時計ははめてるんだな」
「あれっ?」

原人のはずなのに、腕時計を外すという発想までは至らなかったらしい。慌てて服を脱いで、勢いで登場するということにアップアップしてしまっているからだ。

11:15
「次はしぶちょお、先頭を歩けよ」
「やだよ、やらないよ」
「なんでだよ、たまには先頭を歩けよ」

またもや押し付け合いが再燃しながら、道を進んでいく。美林を歩きながら、しょうもない話が延々と続く。

僕らは聖人君子ではない。「美しい木々ですねぇ」「そうですねぇ」なんて話ばっかりやっていられない。こういう下世話な話題こそが楽しい。

そろそろ駐車場に戻ってくる、というところに、建物があることに気がついた。

バーベキューハウス。

「夏の間は、子どもたちがここでバーベキューをやってましたよ」

ひびさんが教えてくれる。

「でも今はもうやってないんじゃないですかね?」

いや、まだ9月下旬でも営業していた。

標高1,080メートルとはいえ、まだ昼間は暖かい。バーベキューは可能らしい。

場所柄やBBQという性質上しょうがないのだけど、値段は決して安くない。セットで1,600円。

「うーん」

一同、唸る。折角だからバーベキューっていいよね、とは思う。でも、朝ごはんをつい3時間ほど前に食べたばっかりだ。しかも腹いっぱいに。そのため、今この時点では全然おなかが空いていない。

ヤマメの塩焼きが一匹650円。

他にも五平餅とかもある。

ノンアルコールビールが置いてある、というのが嬉しい。最近、みるみる市民権が得られつつある。こういう山奥の施設の場合、車で訪れる人が多い。ドライバー向けに、ノンアルコールビールを提供するというのが当たり前になってきつつある。

昔は、お酒が飲めない人はウーロン茶などを飲むのが定番だったけど、ウーロン茶を飲んでも冴えない。そして、高い値段を払ってまでウーロン茶を注文したくない。

ノンアルコールビールは、昔はキワモノ的な感じだったけど、今や味が向上したので十分「普段使いの飲み物」として使えるようになった。だから、こういうところでも取り扱うのだろう。

バーベキューハウスは、コンクリートのU字溝があって、そこに網を載せて炭火焼きを楽しむスタイルらしい。

お客さんは今のところゼロ。

ふむ、我々もどうするか決めかねているけど、いったんここは保留にしよう。おなかが空いてからあらためて考えよう。今、肉や魚を食べたいとい気分じゃ、ないんだよなぁ。

11:18
バーベキューハウスの脇の川は、石を堤防のように組んでいて、子どもたちでも安心して遊べる水流になっていた。

大きな堤防を超えた下流には、これまでとは段違いに大きい魚が泳いでいた。ヌシだ、と思ったら一匹どころか何匹もいる。

後でNPOの方に話を聞いたら、上流のBBQハウス界隈で放流されている魚が堤防を乗り越え脱走したものだという。大雨などのタイミングで逃げ出すことに成功したらしい。

「浅いところにいる魚だと、サギがやってきて餌にされてしまいますけどね。あそこまで大きくなるともう敵がいなくなりますよ」

と教えてくれた。サギ、こんな山奥までやってくるのか。

「でも、釣り客が狙いますよね?」

ばばろあが聞くと、

「ここは国有地なので、人が魚を釣ることは禁止されているんです」

だって。ヌシは本当にヌシだった。

11:29
駐車場入口のところにある大きな三角屋根。昨日、この地に到着したとき、真っ先に気になった建物だ。

「深林資料館」と書いてある。入館無料。

11:31
中には、このあたりの林業に関する資料や機材の展示がいろいろあった。

子供が見ても大して面白くないとは思うが、我々だったら十分に楽しめた。

木曽五木が並んでいて、それぞれがどう違うのか、見比べる。

「よし、せっかくここまで来たんだ、今回はヒノキとその他の木の違いをちゃんと覚えて帰るぞ」

勢いこんで5種類の木を見比べたけど、結局何一つ身につかなかった。肝心のヒノキの特徴さえ、よくわからない有様。いやー、植物って難しい。

11:46
国産に限らず、様々な木材を一同に展示したパネル。

それぞれ特徴があって面白い。

「部屋のインテリアに使うとしたら、どの木材が好み?たとえば、リビングのテーブルとか」
「えー、これだけ見てもよくわからないですねぇ」

出題した自分も、よくわからなくなった。こういうパネルで見せられても、「おっ、これはいいね、じゃあこれで机を作って!」なんてとても言えない。全く完成品のイメージがつかないからだ。

結局、

「あ、この材質、名前は聞いたことがある!」
「これも結構よく見かけますね」

なんていう、「これは知ってる・知らない」を言い合うだけの場になってしまった。

11:51
深林資料館を出て、駐車場を横切ったところに「御岳百草丸」ののぼりを掲げるお店がある。お土産物を売る売店だ。

昨日はここで「日野百草丸」というのぼりを見かけた記憶がある。どうやらこの界隈、「ナントカ百草丸」という名前が付く薬が何種類か存在するらしい。

お土産は明日、出発前に買うとしても、ひとまず今日は下見ということで物色しよう。まさか高額なものを買うことはないと思うけど、場合によっては一日置いてよく考えないといけないような買い物をするかもしれないし。

11:52
店内はさすが、ヒノキ尽くしの商品ラインナップ。

そりゃそうだな、ここでクッキーとかキティちゃんなどのグッズが売られていたら、おかしい。そんなごちゃごちゃしたものを売らないで、ヒノキで勝負をかける、というのは大変に潔い。

目の前にある青い袋は、ヒノキのチップが詰められたポプリのようなもの。これを室内においておけば、フィトンチッド部屋にできる。いいな、これ!ちょっと心動かされる。

なんだ、「孫の手」のようなものしか売っていないのかと思っていたけど、なかなかやるじゃないか。ヒノキだと、モノ以外にも「香り」という観点からも売り物になるから素晴らしい。

お椀とか皿とかわっぱとか、いろいろなヒノキ製品も売っています。

ヒノキの油も売られていた。目薬程度の小さな容器に入っていて、お値段が1,100円だったか、1,200円だったかとかなり高い。しかし、1滴垂らしてもらい、その匂いを嗅いでびっくりした。オウ、フィトンチッド!

「ほのかな香り」なんてレベルじゃない。かなり強い香りだ。樹液なので、くどい匂いでもある。でも、これが薄まるとちょうどいいフィトンチッドになると思う。(フィトンチッドって言いたいもんだから、何度となく連呼してます、フィトンチッド)

肌に付けてもいいし、ハンカチや枕カバーに少々垂らしてもいいだろう。お店のおばちゃんいわく、「風呂に数滴垂らしてもいい」のだという。それはいい、自宅で檜風呂感覚!

明日買うことにして、いったんここは引き上げる。

12:10
森林鉄道乗り場の近くに、大きな建物が建っている。

ここは、軽食とお土産物を売っている売店だった。もちろん、様子を見に行く。

ほう?オオヤマレンゲソフトクリーム、というのがあるぞ。

6月下旬に赤沢の周辺に咲く白い花なのだそうだ。

季節感が全然違うけど、ソフトクリームだし、あんまり気にすることじゃないだろう。

ちょっとめずらしい提案なので、我々はこぞってその提案を受けることにした。

オオヤマレンゲソフトクリーム、ください。

オオヤマレンゲの写真。

12:08
オオヤマレンゲソフトクリームを食べる。

味はどうだったっけ?記憶に残っていない。そんなに特徴的な味ではなかったような気がする。

というのも、先程から遠近法を使い、「超巨大なソフトクリームを食べるしぶちょお」の写真を撮影しようと必死だったからだ。味わうどころじゃなかった。

「何をやってるんだ、何を」

しぶちょおが呆れた声をあげる。

12:12
テラス席でソフトクリームを食べる一同。

ここでもしぶちょおは「躍動感ある記念撮影」を志向している。

「店員さん、追加オーダーいいですか?」

ポーズに見えるけど。

「うーむ」

先程からばばろあが唸っている。

壁に貼られたメニューの短冊を見ながら。

こういう時のばばろあは、何か甘いものを食べたい時と相場が決まっている。

12:15
しばらくしてばばろあは、みたらし団子を買ってきた。案の定だ。

「もう、ここで昼飯にしちゃうか?本格的にバーベキューを食べるほど腹が減ってるわけでもないし」
「そうだなあ、そうするか」

ばばろあの団子を皮切りに、ここで昼飯ということに決まった。

そうなると気になるのがメニューだ。何やら、メニューの中に「かき揚げ」というのがあるぞ?

「なんだろう、あの『かき揚げ』というのは?うどんや蕎麦の上にトッピングするための、単品メニューなのだろうか?」
「たぶんそうだと思うけど、天ぷらそばはメニューとして存在するんだよな。何か特殊なかき揚げか?」

疑問に思ったら頼んでみよう食べてみよう。

奥にあには、ビールの自販機が設置されていた。おっ!しかも、ノンアルコールビールも売られているではないか。

こりゃあもう、頼むしかあるまい!深林散策の後だし!

12:27
というわけで僕のお昼ごはん。なんだか無茶苦茶な構成だ。

かき揚げ、きのこ汁、そして絶品カレーパン。

かき揚げは、みたまんま普通のかき揚げだった。山ならでは、というわけでもなく、海老さんがコンニチはしていらっしゃる。

あと、カレーパンはどうやら自慢の品らしく、「絶品」を標榜している。コッペパンのような細長い形で、食べてみるとモチモチしていた。もっとザクザク、殺伐とした食感のカレーパンの方が僕は好きだ。これはちょっとお上品な感じ。確かにカレーは本格的な印象はあるけれど。

おでんを頼んでいる人もいた。

12:44
僕がノンアルコールビールを飲んでいることの罪滅ぼしとして、ばばろあとひびさんにビールを振る舞う。それであらためて乾杯をして、気勢を上げる。

ばばろあは「何かつまみになるもんがいるな」と独り言をいい、しばらくして戻ってきたらフライドポテトを手にしていた。フライドポテト!やるなぁ。こんな小鉢に入ったフライドポテトは初めて見た。

13:01
お昼ごはんを済ませたのち、隣の建物に移動する。ここにも大きくて立派な三角屋根の建物がある。

13:07
「赤沢セラピー体験館」という建物。

13:43
中に入ると、赤沢の自然が紹介されていると共に、ヒノキ?の薄い板を使って編み物ができるコーナーがあった。

数十分もの間、みんな黙々とこの板を編み込むことに没頭する。

ある程度大きくできたところで四隅をカットすれば、コースターのようなものが出来た。これは今、僕の職場の机においてある。ヒノキのコースターって、なんだか高級そうなイメージがあるし。

ただし、面倒臭がって糊付けしていないので、日に日にほつれてきて、外れていく。

15:08
このセラピー館はNPOのボランティアによって運営されているようだ。植林をやったり、赤沢の自然を守るために日々勤しんでいるとのこと。本業の仕事を持っていながら、週末はここで作業をやったり来客にレクチャーしたりと大変だ。

いろいろとこのあたりの話を聞かせてもらい、とてもおもしろかった。

赤沢のヒノキ林といっても、天然林と人工林がある、というのは「へえ、そうなんだ?」と思った。てっきりこのあたりは全部天然だと思っていたからだ。

人工林の方が手入れされている分、生育が良いという。なんだ、人の手で育てられるし、成長が良いし、人工林最高じゃないか!と思ったが、やはり天然のヒノキの方が良い材木になるらしい。えー、なんでだよ。

曰く、天然ヒノキの方が成長が遅い分、ぎゅっと詰まった材木になるのだという。なるほど、成長が早いということは密度が薄いということになるのか。

そんな話をずーっと聞かせてもらった。

一方の僕は、途中でその会話から離脱し、ベンチで日なたぼっこをしながら昼寝をしていた。「旅先で昼寝」なんて、スケジュールをぎゅうぎゅうに詰め込みたがる僕の性格ではあり得ない展開だ。でもだからこそ、敢えてそういうことをやってみようと思った。それができるのが今回の旅行だ。

15:19
ひとしきりガイドさんのお話を聞かせてもらい、昼寝もしたところで、あらためてトレイルをもう一本やることにした。

今度は、赤沢の東側に向かっていく向山コースを歩く。所要時間60分と手頃だ。

15:20
本当にきれいな眺め。

15:21
カーン、と線路を殴りつけ、熊が出てこないように祈念。

15:23
向山コースを進む。

15:28
「たぶんここは、昔森林鉄道が走っていたんだろうなあ」

山の中にしては不自然なまでにまっすぐな道。

はるか昔の風景に思いを馳せる。

15:30
ヒノキが密集しているエリア。

このあたりは一本一本が細い。

午前中見て回った冷沢峠あたりとは、迫力が全然違う。

15:35
川を超えて対岸に向かう。

ここで折り返し地点。橋がとても立派で、いちいち驚かされる。

ここから先、上流は休養林の管理者くらいしか立ち入ることがない秘境だ。この奥もずっとヒノキが生えているのだろう。

ただ、この界隈のヒノキを守るために、かなり広範囲に渡って植生保護活動が行われている。ほっとくとヒノキ以外の木が生えてしまい、単なる雑木林になってしまう。そのために、自然休養林の周囲には「緩衝地帯」を設けて、別の木を植え、そのさらに外周には別の木を植え、とヒノキ林のエリアを守るための努力が続けられている。しかしそれでも、ヒノキ林は侵食されやすいようだ。

15:36
きれいな水だなあ・・・

「見ていると吸い込まれそうな気になる」という文学的な表現があるけど、うーん、特にそういう印象はない。入水自殺願望なんて全くないから、だろうか?心が健全な証、ということで理解して良い?

15:36
ヒノキの林の中を歩く。

・・・といいたいのだけど、結構途中にあすなろやサワラが混じっていて、一概に「ヒノキ林」とも言い切れない。

ヒノキ、ボンバイエ!とテンションを上げたいのだけど、自然というのはなかなかそう単純にはできていない。むしろ、雑木林こそ自然界の自然(妙な日本語)なんだろう。

色づき始める葉

見よ、この歩道を。ものすごく手間暇がかかっているのがよくわかる。

崖を削って、土の歩道を作る・・・というだけじゃない。こうやって、木道をわざわざ崖からせり出す形でこしらえている。一体どれだけの労力をここに注ぎ込んでいるんだ?信じられない。

15:41
この先に展望台がある、とパンフレットには書いてある。

「いやー、さすがにこれは無いだろう?そこまで坂道になっていないぞ?」
「午前中見た、あの展望台もどきみたいな見え方だろうな」

あまり期待せずに、歩く。

このペースだと、ひのきの木の高ささえ超えられないに決まっている。となると、遠景が見えたとしても、「木々の隙間から」なのだろう。

15:48
おっと、正面にベンチが見える。ということは、あれが展望台・・・なのか?

ご丁寧に、ひな壇のようなものが組んである。この上に登って絶景を堪能せよ、ということらしい。

でもそのすぐ目の前に、木が邪魔をしているんですがこれは?

とはいえ、「乗鞍岳眺望」という看板が出ているので、これがその展望台で間違いない。

あー。

まあ、わざわざ見るまでもないだろう、とは思っていたけど。

雲のせいで乗鞍岳は見えなかったし、見えたとしても本当に絶妙な隙間から、ということになっていた。なんですかこの覗き趣味みたいな世界は。

15:57
整備された道を歩いて、ごくごくなだらかな下り坂を下っていく。

このあたりは木々が細く、密集している。樹齢は80年くらいなのだそうだ。

いきなり、パカーンと開けたところがあった。モーセの十戒のようだ。

もちろん人工的に切り開いたものだ。山火事の延焼を防ぐための防火帯・・・じゃなさそうだ。それにしては、幅が細すぎて火事はまんまと炎症する。

どうも、ここにワイヤーを通し、山の上で切った木材を吊るして下まで運んだらしい。宙ぶらりんにして木材を運ぶための通路。

16:01
新しい木もあれば、古い木もある。

こういうところを歩くと、いかにも「森林浴効果」がある気がするだろ?実際そうだぜ、本当にリラックスするし、心が穏やかになる。

これまで、心を落ち着かせるには温泉しかない!と思っていたけど、森林浴ってすごく良いものだなと思った。どこの森でもいいってもんじゃない。こういう森じゃなくちゃ。

もし足元がぬかるんでいたりしたら、リラックスどころかイライラしてむしろ逆効果だ。適度に整備されているというのが大事。

このトレイルルートは、ところどころに解説看板があって楽しい。

16:03
執念ともいえる、歩道の手入れっぷり。

これくらいの平地なら、そのままでもいいじゃないか・・・と思うけど、みっちりとウッドチップを敷き詰めている。

こうすることで、「ルート以外のところには立ち入るなよ」ということを暗黙のうちに伝えているのだろう。柵を作って美観を損なうよりも、遥かに美しく優しい世界だ。

それにしてもどうしたらこうなるのかね。

「なぜ根は浮き上がっているのかな」

とまさに僕が今感じた疑問に看板が答えてくれていた。

木の切り株のところに新しい木が生えた場合に、こうなるんだそうだ。数十年をかけて切り株は朽ちてその姿を消してしまうけど、新しく生えた木は残る。だから切り株がもともとあった場所は空洞になっているというわけだ。

気持ち良い散歩

そして気持ち良いヒノキ林。

このあたりは密集しているし、樹齢がほぼ同じっぽい。こういうのが人口植林されたヒノキ、ということなんだろう。

ここにもワイヤーを通していた跡があった。

苔むした倒木。

「おや森林(もり)の中がすっきりしているね」

なんだかフレンドリーなヤツだな。あと、何を一人で感心してるのかね。

森が広々して見えるのは、アスナロを刈り払っているからだ、と書いてある。当たり前だけど、ほっとけばこんな美しい森になるわけではない。

18:09
16時半頃、宿に戻る。しぶちょおが「体調が悪くなった」と浮かない顔をしている。風邪をひいてしまったのか、何なのか。

風呂に入る、と言い残し、彼は長時間風呂に浸かっていた。汗をかいて、体温を上げて、この体調不良を乗り切ろうとしていた。

結局、フィトンチッドで殺菌効果があったり、リラックス効果はあっても、風邪をひく時はひく、ってことだ。

夕食時間。今日も食堂では宿のご主人のセンスが光りまくりで眩しくてしょうがない。

このご主人、べらんめえ口調で大声で喋る。厨房と食堂をつなぐカウンターから身を乗り出して、食堂にいる客と喋る。初めて聞いたときはぎょっとする口調だけど、温かみがある面白い方だということがすぐにわかる。

だいたい、こんな繊細な料理を作る人だぞ?がさつな訳がない。

他のテーブルでは、我々が昨日食べた料理が振る舞われていた。でも僕らは連泊ということで、違う料理。

しぶちょおのこの顔。

滋味を楽しむ料理なので、一口一口、ちょっとずつ食べては「この味は・・・」とゆっくり舌や歯で確認することになる。今まさにそんなシチュエーション。

一方ばばろあはこんなシチュエーション。

「木曽の酒総ざらいだ!」とばかりに、昨日頼んだお酒も含めて全3種類、登場願っていた。ええと、ナカライさんだったっけ、ナカノリさんだったっけ。ああ、ナカノリさんか。

料理が料理だけに、きっと酒もかなりおいしく呑めたはずだ。こういうしみじみとした料理を前にすると、つくづくお酒が飲めないのは残念に思う。飲みたいとは今更思わないけれど。

ひびさんとお酌したりされたりと、二人で3合を空けたのち、「あれも気になるんよね」と壁に貼られた焼酎のラベルを指差すばばろあ。

「奄美黒糖焼酎 朝日」

と書いてあった。おう、これから焼酎、しかも黒糖焼酎を飲もうってか。やるなあ。

宿のご主人に「本当に飲むの?大丈夫ぅ?」と聞かれるけど、蛋白質は「大丈夫です」と平然答える。昨日、にごり酒4合+ビール1本+木曽地酒を二人で2合という戦績にもかかわらず、今朝は二日酔いもせずに起きている。実際に大丈夫なのだろう。

するとしばらくして、ご主人がお酒を持ってきてくれた。それを見た一同、「えっ・・・」と一瞬絶句すする。

「一人一杯まで!それ以上は頼まれても出せないから!」

とご主人が仰っていたので、何か貴重なお酒なのかな?それにしては「朝日」って普通っぽいお酒なのにな?と思っていた。しかし実物を見て納得。大ぶりのグラスに、いっぱいの焼酎が入っていたからだ。量は・・・どれくらいだろう?1合前後入っている。

たかが1合?いや、焼酎だぞ?これ、度数が30度あるんですが。

まるでお湯割りをした焼酎かのような量に、驚き、恐れる。これはてきめんに酔うぞ?

そばがきを素揚げにしたもの。うまいうまい。

いちいち、宿の周辺で摘んできた葉を下敷きにしたり添え物にしたりという工夫が美しい。

かと思ったら、レタスを塩もみしたものがわっさーと登場したりもする。大胆だ。

そういえば、昨日はここでキュウリの一本漬けが出てきたっけ。今日はレタスできたか。

塩むすびもこれまたうまいんだ、炊き加減が絶妙。

蕎麦米が沈むお吸い物でフィニッシュ。

恐るべし、去来荘。このメシを食べにだけでも来る価値はある。酒飲みならなおさら。

21:36
木曽地酒と黒糖焼酎で足腰をグラグラいわされたはずなのに、案外ばばろあはケロリとしていた。目がトロンとしていつもの饒舌に拍車がかかってはいるけれど、悪酔いという感じではない。

ひびさんに至っては、大してキャラが変わっていない。そういえばこの人、酔ってキャラ変した姿を見た覚えがない。

昨日は雲が出ていて星空が見えなかったけど、今日は見ることができそうだ。全員で外に出てみる。

星空鑑賞。

ものすごい星の数だった。天の川がすぐに見分けられるくらい、満天の星。

しばらく、全員で空をみあげていた。

「横になっても良かったんだけど、ちょっとこの地面ではな」

と話しながら宿に引き上げていたら、しぶちょおが

「赤沢原人、いたな」

という。えっ、何を言っているんだ?

「今さっき、いた」

としぶちょおはニヤニヤしながら言う。まじか。暗闇に紛れて全く気づかなかった。

でも、本当に「いた」のか、しぶちょおが「いたと主張している」のかは、ウラが取れなかった。真相は闇の中に、というのはまさにこのことだ。

2017年10月25日(月) 3日目

07:21
3日目の朝。

今朝も、ややスタートは遅れたものの僕とひびさんは朝の散歩。ばばろあとしぶちょおはまだ床の中だ。

「耳栓を持ってきているんですよ」

ひびさんは言う。しぶちょおのいびき対策だ。ばばろあもいびきをかくので、夜の間は二人のいびきの競い合いとなっていた。お互いがお互いのいびきで目を覚まし、「うるさい!」と怒鳴ったら面白いんだけど、さすがにそういうことはなかった。いびきをかく人は、他人のいびきに目を覚ますということはないらしい。

「耳栓、効果ある?」

と聞いてみたら、ひびさんは「いえいえいえいえ」とばかりに手を左右に振り、

「振動が・・・」

と言葉を濁した。なるほど、それは耳栓ではどうしようもない。

ばばろあは昨日、しょぼしょぼした顔でこうぼやいていた。

「夜、熟睡できんけぇ朝起きてもだるいんよ。週末、何もないときは一日中寝とるで、わし」

いびきのせいで、眠りが浅くなってしまうらしい。その割にはアクティブに週末動き回っているようだけど、いったい彼の疲労はどこへ消えているというのか。無尽蔵に溜め込んでいるのだろうか?

「睡眠薬、飲んだら?」
「いや、そういうんじゃないんよ。飲んでもだるくなるだけじゃろ」

まあそうだ。

幸い、ばばろあにしろしぶちょおにしろ、睡眠時無呼吸症候群ではない。なので、心臓発作で急死するといった悲劇はすぐには起きないだろう。とはいえ、結構しんどそうだ。

朝ごはんまであまり時間がないので、バーベキューハウスあたりの近場を、軽く歩く。

朝もやが強く、視界はまだ開けていない。日が昇るともう少しガスが晴れるのだろうか?

08:11
宿に戻って朝ごはんをいただく。

朝からしみじみ、うまいんだなこれが。

たぶん、こういう食事を毎日食べ続けていたら、性格でさえも変わってしまうと思う。もっとゆったりとしたものの考え方、時間のすごし方になるんじゃないか。

現在の僕は、朝ごはんといえばヨーグルトに野菜ジュース、フルーツ缶詰、牛乳だ。健康なんだか、カロリー取り過ぎなんだかよくわからない。いずれにせよ、日々あわただしくこれらを食べている。

フルーツ缶詰のような、激甘シロップ漬けを食べていたら、気分がカリカリしてくるよな。あんまりよくないと思う。

08:37
今日もテラスでコーヒーをいただく。

気温は10度。9月にしてこの気温。結構、さむい。

09:08
食後、早々にチェックアウトする。

この後、もう一本トレイルルートを散策して赤沢自然休養林の総仕上げをして、退却開始だ。

しぶちょおが「お昼ごはんは中津川で栗おこわと栗きんとん」という提案をしているので、ランチタイムには中津川に到着していたいところ。

なんだ余裕じゃないか、と一瞬思うのだけど、しぶちょおは慎重な姿勢を崩さない。「思った以上に時間がかかるんよ」という。確かにそうだ、初日だって、朝に名古屋を出たのに、赤沢に到着したのは夕方だった。近いようで、遠いのが木曽という場所だ。

駐車場の車に荷物を入れていると、駐車場脇にすべり台があることに気が付いた。

ほほう?せっかくだからここは一発、滑ってみるか。

何百メートルもある巨大すべり台だったら遠慮していたけど、ざっと見た限りはそんなに遠くはない。でも、チャレンジしがいがある高さと距離がある。

つまり、「you、チャレンジしちゃいなよ!」ということだ。

すべり台の脇に、「すべり台用シート」が置いてあった。麻袋だ。

なるほど、こいつァ本気だ。単にステンレスのすべり台で、重力に任せてずりずりとすべるのだとつまらない、というわけだ。お尻に麻袋を敷いて、すべりをよくしてクールラニング!!!しろ、というわけだ。

よーし、やったらぁ。

長さは何メートルあるだろうか?50メートルはないとおもうけど、わからない。

吹っ飛ばされて転落事故が起きないように、すべり台の周囲にはフェンスが張り巡らされていた。これで、何かの弾みでジャンプしちゃっても大丈夫。

麻袋をお尻に敷いて、一人で滑ってみた。

うひょう、これは爽快!楽しい!距離が長い分、スピードが出る。

このスリルをぜひみなさんに、ということで、後からやってきた3人にも猛烈おススメをしてみた。すべり台の高さに、「あそこまで登らないといけないの?」とうんざりした顔をしていた一同だが、僕が熱心に勧めるので登っていった。

・・・

しばらくして、悲しい顔をして3人が戻ってきた。麻袋が、上には一枚もなかったからだ。使われたまま、滑り台の下に溜まっていたのだった。

「もう一度登るのはちょっと」

と渋る一同をもう一度炊きつけ、もう一度登ってもらう。

上からおりてきたしぶちょお。高速で通過していった。

みんなの歓声を聞いて、僕ももう一度滑りたくなってきた。

「ごめん、ちょっと待ってて。もう一度行ってくる」

と言い残し、再度すべり台の人に。

今度は両手をキョンシーのように前に突き出し、まったくのノーブレーキで滑ってみた。

すごい!このスリルはかなりのものだ!

大興奮しながらフィニッシュ。着地点にはウッドチップが敷き詰めてあるので、安心。

「おい、ずいぶん飛んだな」

しぶちょおが、僕がしりもちをついた穴を指差して言う。その穴は、すべり台から50センチくらい離れていた。

「K点越えだ!」

なんだか誇らしい気分になった。時間があれば、どれだけ飛距離を伸ばせるか、仲間で競争してみたいものだ。

09:30
乗鞍が見える・・・といえば見える。

滑り台の近くにも、展望台となる場所があった。眺めが良いとはいえないのだけど。

今日みたいに晴れていてもこの眺望なら、ちょっとでも曇ったらほとんどなにも見えない。いや、「ほとんど」なんて生ぬるい、全く見えないだろう。

09:34
見よこの青空。

9月下旬にして、この真冬のような日本晴れには驚いた。水蒸気はどこへ消えたの?

朝、あれだけ朝もやがあったのに。

09:35
今日もまた快適。

我々は最後、まだ未踏のトレイルルートを目指した。これにて赤沢自然休養林はフィニッシュだ。

09:39
川が流れていると、風景にメリハリが出てフォトジェニックだ。この地が魅力的なのは、手入れが行き届いたヒノキの森があるだけじゃなく、川もあるからだ。

しかもザアザアうるさい川ではない。川のそばの宿に泊って、最初は「ウワア素敵!リバーサイドだよ!」なんてはしゃぐけど、だんだんザアザア音がうっとおしくなる、ということがある。もっと無音なところがいいのに、と。その点去来荘は、川の音が気にならずに本当に静かに過ごすことができた。素晴らしい場所だ。

09:45
2.7kmある「駒鳥コース」を歩く。

初日に歩いた川沿いの「ふれあいの道」を歩いていき、途中から川から外れて山の中に入っていく。道中、御神木の伐採地や大木がある、変化に富んだルートらしい。今回の総決算にふさわしい。

09:53
なにか、屋根が見える。

外壁がない。休憩用のあずまやにしては形がシンプルすぎるし、倉庫にしても唐突だ。

近づいて見たら、大木の切り株が2つ、まるでおだいりさまとおひなさま、といった風情で並んで祀られていた。

御神木。

昭和60年に御神木として伐採されたものらしい。

伊勢神宮の式年遷宮は20年に一度行われることは有名だけど、一体いつの式年遷宮のために使われたのだろう。前回、62回目の遷宮が2013年(アワレみ隊が伊勢神宮詣でをしたとき)だった。

61回目が1993年(平成5年)、60回目が1973年(昭和48年)。ということは、61回目の遷宮に向けて伐採されたということになる。1985年に伐採されて、遷宮は1993年。ざっと8年前だ。諏訪大社の御柱祭よりもさらに大掛かりな期間をかけていることになる。

もちろん、伐採するはるか前から、適切な木の選定が丹念に行われているはずだ。そして、その一連の作業のいたるところに、儀式があるはずだ。とんでもないスケールで展開されているに違いない。

興味を持ったので、遷宮に必要なヒノキの木の本数を調べてみたら、一回の遷宮で1万本だという。思わず笑ってしまった。1万本!山一つをはげ山にしても、まだ全然足りないだろう。こりゃあ大変なことだ。

じゃあ、赤沢のこのあたりがつるっ禿になっているかというと、そうはなっていない。このエリアで選りすぐりの木がたまたまここだった、ということで、あたり一帯総ざらいで伐採したというわけではない。

しぶちょおが言っていた、「三つ紐伐り(みつひもがり)」という独特な木の切り方が説明されていた。

三カ所から木に斧を入れ伐採する、というやり方。複雑なので、以下のサイトで写真を見るとなんとなく理解できるはずだ。

三つ紐伐り | 森林・林業データベース
 伊勢神宮の御神木は、奈良、平安時代に確立したと言われている「三つ紐伐り(みつひもきり)」によって伐採されます。樹木の伐採には、ノコギリ(今ではチェンソー...

今時、斧で木を切り倒すなんていうことは滅多にないだろうから、この技術を持っている人は今や少なくなっただろう。それでも20年に一度、チェーンソー全盛のご時世であってもこのお作法はしぶとく復活するわけで、遷宮というのつくづく伝統を生きながらえさせる格好のしくみなのだな、と感心させられる。

ただ、ヒノキは20年で成長なんかするわけがない。100年でも足りない。200年で御神木になれるかどうか。そんな悠久の時を刻んでいるので、人間様の時間軸(神様の時間軸?)である「20年に一度」だと大変だ。山がいくらあっても足りない。

20年に一度、1万本のヒノキが必要になるわけで、ヒノキの成長に200年かかるとすると、同時に10万本の「伊勢神宮用のヒノキ」を育てていないといけない。もちろん、人間一代ではどうにもならないので、二代、三代と受け継いでようやく成り立つ世界だ。本当にすごい。

ただ、前回2013年はヒノキがいよいよ枯渇してしまい、青森のヒバ(あすなろ)が一部で使われたらしい。ヒノキは日本固有の種なので、「海外から輸入」というわけにはいかない。そもそも、伊勢神宮に「海外の材木」を使うというわけにはいくまい。

09:52
ヒノキがまっすぐ伸びる森の中を歩く。

09:59
チェーンソーで切り倒されたヒノキが転がっていた。高級木材のはずなのに、なぜこんな無造作に放置されているのだろう。間伐のためだろうか?

「切っても、これを下界に運ぶ手間暇考えると割にあわないんじゃないか?」

確かにそうだろう、ここは重機も車も入れない山の中だ。これを頑張って運んでいくと、一本あたりいったいいくらになるんだ?

現在、林内に伐採されているナラの木につきましては、遊歩道に枯れ木が落ちてくる危険がありましたので、平成28年2月に安全対策として処理させていただきました。

あれっ、ヒノキじゃなくてナラの木だったのか。

おい、ものすごく根本的なところで勘違いしていたぞ、恥ずかしいなあ、もう。

10:04
森林鉄道の線路を超えて、川の反対側に渡る。

ここには、不自然に広い敷地がある。

大樹(だいじゅ)、と書かれた看板があった。

御神木にするための、直径60センチ以上のヒノキなのだそうだ。木曽谷で18,000本、赤沢周辺で2,690本あるのだとか。

一回の遷宮で10,000本のケヤキを使うわけだから、木曽谷全体のヒノキをまるごと伐採しても、2回分にも満たないことになる。

気持ちのよい道を歩く。

10:15
ここにも床堰があった。

小川のような、浅い川だけど、この水流も材木を運ぶために使われていたのか。ちょっと今では想像がつかない。

昔はもう少し川が深かったのだろう。

つめた沢床堰、という名前だそうだ。

10:16
歩きやすい木道が設置されている。しかも手すり付き。

手すりまで作らなくてもよかろうに、と思うが、ありえないくらいに手間暇をかけている。尾瀬沼のような天然記念物の湿原地帯よりも手厚い。

さわらの大樹があった。

周囲にあるさわらと比べて、これは一回りも二回りも大きい。

しぶちょおが抱きついてみたけど、当然一人では無理。

「よし、こうなったらアワレみ隊の総力戦だ」

しぶちょおに連結する形で、ばばろあ、ひびさんが手を繋いでさわらの大樹に取り付いた。さて、僕も・・・と思ったら、

「3人で間に合ったぞ」

の声。えっ、四人で力を合わせて、じゃなかったの?

カメラを持ったまま立ち尽くしてしまう。そこまで大きくはなかったということか。

それにしてもこの皮の分厚いことよ。なんだこりゃ。

皮そのものにも年輪があるんじゃないか、というくらい立派な厚みを誇っている。

ゴトゴト音がするな、と思ったら、森林鉄道が目の前を通り過ぎていった。どうやら我々のトレイルルートはそろそろ終わりらしい。そして、赤沢に滞在する時間もそろそろ終わりだ。

11:08
駐車場に戻ってきた。

赤沢を退却する前に、木工品のお土産物屋に立ち寄って、何か買って帰ろう。

店頭には、枝がついたままの木の棒がぶら下がっていた。これも売り物だろうか?帽子とか、ちょっとした上着をひっかける用には使えると思うが、まずこういう木の枝をどうやって家で吊るすかが問題だ。

フィトンチッドの時間をコンクリートジャングルの真っ只中にある我が家でも・・・。なにかいいものがあったら、買って帰ろう。

と思ったら、早速ばばろあが店頭のある商品に釘付けになっている。

ヒノキの板。

板?

ドラゴンクエストで、早い段階で勇者が手にするチープな武器として「ひのきのぼう」というのがあるけれど、ヒノキの板なんてどうするんだよ。あ、これ、まな板なのか。

いや、冗談だろうまな板を買うだなんて。お前、山口県在住だよな?

そもそもヒノキのまな板だなんて、寿司職人の世界だ。いい趣味してると思う、友達ながら。

ばばろあは、ビンテージの腕時計を衝動買いしたり、骨董品を買ったり、なかなかいい趣味をしている。しかしまな板を衝動買いする男だとは思っていなかった。彼は僕の想像の上を行く男だ。

横にいるしぶちょおも、「良い買い物ではないか」とばばろあの購買欲に肯定的だ。というのも、めっぽう分厚い板だからだ。まな板用途でなかったとしても、これだけの木材は値段が高いぞ、ということだ。

店頭にいた、材木屋さん?のおっちゃんに値段を聞いたら、「そうだなあ、まけて5,000円だな」と言う。どうやら、値段は言い値らしい。商品には値札が付いていない。

その気配を察したばばろあ、すかさず店内に入っていく。

ばばろあがわっぱを手に取る。サイズは小さめだけど、お弁当箱に使うには楽しいサイズだ。塗りも施されているということもあって、1個3,000円くらいする。

「これ2つ買いますから、まな板とあわせて7,500円にしてください」

えええ。すげえなばばろあ。即断即決で結構な額の買い物をしようとしている。しかも、数千円の値引きを堂々と要求。ここは日本なのに。

店頭の旦那、「まいったなあ」と苦笑しながら、ちょっと考えた末にオッケーを出してくれた。ありゃ、本当にお買上げだぞ。

「大胆な買い物だな、僕には真似できん」
「こういうのは、片方だけ得するようじゃいけんのよ。あっちも得をする、こっちも得をするようにせんと。単にまな板だけ値引いてくれ、って言うんは向こうが損じゃけえ、わっぱもつけます、お金も高くなります、でも値引きもします、という形がええんよ」
「ところでばばろあ、自分で弁当を作って会社に持っていったりはしないんだよな?」
「せんで」
「じゃあ、このわっぱ、どうするんだよ。しかも2つも」
「どうしようかねえ。あとで考えるわ。悪いもんじゃないけえ、何か使いみちはあるじゃろ」
「すげえな、そんなので買うのか!」

ばばろあが欲しいと思ったまな板(といっても、まな板と言われない限りは単なる木の板に見える)は、店頭に置いてあったためか、少し凹みができていた。店頭の旦那にお願いして、その場でかんながけをしてもらう。かんながけをして表面を削れば、全く何事もなかったように綺麗になるからだ。

全員で、かんなをセッテイングして、削るまでの一連の動作を鑑賞する。プロの手さばきは惚れ惚れする動作だ。シュルシュルシュルっ!とごくごく薄い木の表面が削られる。

「見ろ、こんなに分厚いまな板ってそうそうないぞ」

しぶちょおが感心して声をあげる。確かにそうだ。

「今後手入れをしていって、表面を削ったとしても、そう簡単に薄くならないぞ」
「一生もの、ということだな。ばばろあは死ぬまでこれを使い続けるということなのか」

なんだか切なくなるな。ばばろあの棺桶はこれを使おう。

一方、まな板を欲しいとは特に感じていなかった僕は、別のものを買った。あんまり物欲はないほうなので、「消費して消える」系のものを買うのが好きだ。

買ったのは、昨日みかけた「森林浴のかけら」ポプリと、桧油、そして写真には載っていないけど、桧油を水で薄めたスプレー。安物のように見えるかもしれないけど、高いぞ?この桧油、1,100円だか1,200円するんだから。そのかわり効果は抜群。

ちなみに、去来荘に泊ってました、というと商品の一部を割引してくれた。ありがたい。

森林浴のかけらは、人へのプレゼントにした。香りはとても薄くて、鼻を袋に近づけないとフィトンチッド感はない。でも、こじゃれた感じなのでプレゼントにはちょうどよかった。女性でも喜んでくれる・・・と思う。いや、女性はヒノキの香りなんかよりも、花の香りのほうが好きか?

店頭では、ばばろあがまな板をいっしょうけんめい新聞紙で梱包していた。山口に持って帰る途中でどこかにガン!とぶつけて凹ましたら、気持ちも凹む。

「うわあ、どうやって持って帰ればええんや」

とこの段階でつぶやいている。脇に抱えて帰るにしてはデカすぎる。

一方のしぶちょおは、ばばろあのまな板をかんなで削った削りかすを貰い受け、買い物袋に詰め込んでご満悦だった。

「おかでんのようにわざわざ香り袋を買わなくても、ほら、これで十分香る」

賢いな、そのアイディアは。

爆買い、というほどではないけれど、それなりのお買い物をしたのでお店の人から「これを食べていって」とフルーツや飴を出してもらった。ありがたく頂戴する。

こうして、我々は赤沢を後にした。

お昼ごはんは中津川で栗、と決まっている。既に時刻は11時を回っていて、うっかりしているとランチ営業が終わってしまう。

とはいえ、最後に一カ所、立ち寄りたいところがあった。姫渕。

ちょうど赤沢自然休養林への道の途中にある場所。なので、立ち寄り地としてはちょうど都合が良かった。

11:17
平安時代末期、源平合戦のとき、後白河法皇の孫にあたる姫(15歳)が平家の追撃を逃れてここまで逃げてきたのだという。そして、逃げ切れずに姫はこの渕に投身して命を絶った、という伝説だ。

どこまでが実話で、どこまでが後世に作られた話なのかが謎なのが昔の言い伝えだが、これはどうなのだろう?埼玉県の秩父界隈にはヤマトタケルノミコト伝説がたくさんあるし、平家の落ち武者伝説は呆れるくらい全国あちこちにある。鹿児島の離島だったり、栃木の山奥だったり。

当時、新幹線も飛行機もない時代に、よくもまあそうやって逃げたりできたものだ、と思う。というか、そこまで逃げなくても、なんとかなるんじゃないの?とさえ思える。

しかし、昔の集落は全く排他的な、人の交流なんてほとんどない時代だろうから、よそ者がやってきたらすぐにバレて通報されるのだろう。逃げまくるしか手段がなかったのかもしれない。

そんな姫渕の入口には、木製の鳥居があった。

この地で自らの命を絶った姫を祀る、姫宮神社というのがこの奥にあるそうだ。

これが姫渕。

赤沢を流れる川の下流にあたる。

なにもここで投身自殺をしなくても・・・と思うが、食料も気力も体力も尽き、逃げ場を失うとそうせざるを得なかったのだろう。

水はあくまでも清らかで美しい。こんな透明度の高い川の水はなかなか見かけない。

「ひびさん、飛び込むなよ?」
「飛び込みませんよ」
「なんだ、残念」
「なんですかその残念、ってのは」

11:24
橋を渡ってしばらく歩くと、姫宮神社があった。

姫宮神社。

姫が投身自殺を図って以降、「姫が追っ手から逃れるために身を潜めた麻畑」の麻が育たなくなった、とか森の中に姫の幽霊が出た、という事件が相次ぎ、霊を鎮めるために神社を作ったのだという。

アワレみ隊一同お詣りする。

こういうところで、「金運が上昇しますように」とか「健康でありますように」なんて祈ってはダメで、ええと、どうすればいいかな、ひとまず無の境地で、頭を下げる。

たぶんこういうところだと、「はらいたまえきよめたまえ」なんて言葉も違うんだろうし。

800年以上前の秘話に思いを馳せつつ、姫宮神社を後にする。

途中、通行止めになっている遊歩道があった。

ここから2キロくらい、川沿いにトレイルルートがあって、赤沢自然休養林の駐車場に繋がっている。しかし、川沿いということもあって、崩れたりしやすいのだろう。2017年現在は通行ができない。

11:39
空木岳方面の眺めが美しい。良い景色だなあ・・・

空木岳は日本百名山の一つ。いずれあの山頂にもたどり着くつもりだが、面倒くさい山なので入念に計画を立てないといけない。

木曽駒ヶ岳からの縦走が一般的で、山中一泊は必要だ。途中山小屋がほとんどない上に、かなり時間がかかるのでさてどうしたものかな、と思案しているところ。多分後回しにされて、百名山コンプリートの最後あたりに登る山になるはずだ。

11:47
いちいち山並みが美しいんだよな、長野県って。

こういうところに住んだら気持ちが穏やかになるだろうなあ、そういう人生もいいよなあ、と思う。でも、それは都会人が勝手に抱く妄想であり、このあたりに住むのはそう簡単ではないだろう。仕事とか、買い物とか、病院とか、コミュニティとか。

田舎暮らしに憧れるけど、移住するなら自由がきく若い内、だな。これから老いぼれていく一方の僕は無理だ。来年僕は引っ越しを予定しているが、ますます都心のゴチャゴチャしたところに移る予定になっている。もう、全振りで利便性重視のライフスタイルとなる。心は休まらないから、猫でも飼うかな、と真剣に考えている状況。

とはいえ、その話をすると、友達のほぼ全員から「やめとけ」と言われる。これまでのように旅行とかいろいろできなくなるぞ、と。確かにそうだ。だいたい、盆暮れの実家帰省でさえ、何泊もするわけだけどどうすればいいのやら。やっぱりニャンコはダメかー。じゃあ犬は?犬も一緒?

12:45
国道19号をひたすら南下していく。谷底にある道で、木曽谷から南を目指す際には100%ここを通らないといけない。週末になるとアツい渋滞になる、というのがよくわかる。他に逃げ道がない。

幸い、まだ昼ということで混雑はひどくなかった。13時前に中津川に到着。

中津川は栗の産地。ちょうど今は栗のシーズンということで、もってこいだった。

しぶちょおがおすすめするお店が、「満天星 一休」という。

大きな建物がお出迎え。

食事処兼喫茶スペースが建物の中にあるが、それそのものは地味だ。

このお店のメインは、あくまでも和菓子屋ということなのだろう。こちらは広いスペースで、栗を中心とした様々な和菓子が売られていた。

もちろん栗きんとんが名物。

あ、「和菓子屋」という前言は撤回。栗きんとんや栗きんつばが売られているけど、それだけじゃなくてサブレとかケーキも売っていた。

「せっかくだから」論理で、ついたくさん買ってしまう。単品で、4種類8個も。自家消費するには買いすぎだ。職場のお土産?いや、勘弁してくれ、一つ一つが決して安くないんだ、職場には30名近くいるので、こんな高級お菓子は無理だ。

「職場にお土産」というのは、だんだん僕はやめていっている。というのも、他の人とくらべて僕は圧倒的に旅行に行く頻度が高く、いちいちお土産を買っていたら出費がきりがないからだ。そして、お土産を持ってこない人は全然持ってこない。しかもそういう人に限って、お土産に対してお礼も言わず感想も言わない。職場全体でポジティブなギブ&テイクが成り立たなくなっているので、もうこういう文化は縮小しよう、というのが2017年時点の僕の考え。

今では、気心しれた数名の同僚にだけにお土産を渡す、という形にしている。職場全員に渡すのは、有給休暇を大胆に取って旅行に行った時くらいでいいや、と思っている。

中津川の栗きんとんマップ。へー、これは面白い。

栗きんとん、といっても、僕が知っているものとは全く違う。僕が栗きんとんを食べるのは、正月のおせちだけだ。あの栗きんとんは、「中に栗の甘露煮が入っている、黄色い料理」だ。あれって、甘露煮の周囲はサツマイモだったりする。

一方、中津川の栗きんとんは、栗そのものを潰してまんじゅう状態にしたものだ。まさに似て非なるもの。

このため、おせちの栗きんとんとくらべて色はおとなしい。はっきりいって冴えない色あいだが、むしろ無着色の天然で、食欲が湧いてくる。

そんな栗きんとんをバーンと一同に表示している、というのはよくやったと思う。「ライバル店と比較されるのはイヤだ」という声だってあっただろうけど、よくぞ取りまとめてパンフレットにできたと思う。すばらしい。

しぶちょお曰く、「中津川の栗きんとんの詰め合わせセット」を売っているお店が中津川駅前にあるのだそうだ。それは、いろいろなお店の栗きんとんが1つずつはいっているのだという。へえ!お店をまたいで味くらべか!それはいいな。

広島でも、もみじまんじゅうの味くらべセットがあればいいのに、とその話を聞いて思った。藤い屋、山田屋をはじめとしてもみじまんじゅうのメーカーはたくさんあるから。広島人でも、好みは分かれるところだ。ちなみに僕は藤い屋の、こしあんが好きだ。

13:03
一休の食事処は席数が少ない。

このため、我々は栗きんとんを買ったりしながら順番待ちをしていたのだが、しばらくして中に通された。

このお店のメニューは至ってシンプル。

栗おこわ膳か、お抹茶か、栗ぜんざい。以上。

食事をしたければ、栗おこわ膳1,300円を頼むしかない。

「あらやだ、高いわ。もっと安い食事ってないの?うどんとか」

なんていう人はアッチいってなさい。ここでは栗おこわが食べれられればそれで十分なのだ。

栗おこわ膳登場。

いやあすばらしい、栗おこわに栗がゴロゴロ入っているぜ!

栗ごはん、といっても、「栗の風味がついたご飯をご堪能ください。栗そのものは1個か2個程度でお許しください」という代物が時々あるけど、これはもう、栗パラダイス。米粒の数と栗の数、どっちが多いんだ?というくらい・・・いや、すまん、それは嘘だけど、それくらい栗が多い。

栗がホクホクなのは言うまでもないけれど、甘い。いや、果物のような甘さじゃないぞ?やさしい甘みがある。スーパーで売っているような、「栗ごはんの素」に入っている栗とは大違いだ。あっちは、若干硬いし、渋みが混じっている場合があるけれど、それとは全くの別物だ。

比較対象が悪いって?でも、そうとしか言いようがない。「うまい栗を食べ歩いた」経験がないので、「すごいなあ」としか言いようがないんよ。

あと、食後のお楽しみとして栗きんとんも添えられている。これがまたいい。おせちで食べる栗きんとんは、甘露煮なだけあってかなり甘い。くどいくらい甘い。1個食べたらもう十分、という感じだ。でもこっちの栗きんとんは、ほのかに甘く、すっと嫌味なく食べられるのがとても新鮮な感覚だった。一度に二個でも三個でも食べられそうだ。大満足。

僕とばばろあは15時過ぎに中津川を出る特急しなのに乗る予定だ。しぶちょおは「自由席でも良かったんじゃないか?」というが、名古屋まで1時間弱の距離なので、指定席で確実に席を押さえてある。

「でも、月曜日だろ?」

あれっ、そうか、今日は平日だったのか。すっかり忘れていた。確かにそれなら、自由席でも大丈夫だったかもしれない。

いずれにせよ、電車の時間までしばらく余裕がある。栗おこわを食べたことだし、残りの時間は中津川界隈で少しだけ時間つぶしをしよう。

とはいっても、ノーアイディアだ。スマホでGoogleMapを見てみたら、お昼ごはんを食べた満点星一休のすぐ近くに、「北恵那鉄道苗木駅跡」という場所があることがわかった。

とりあえず、突撃。

しかし、撃墜。

行ってみたけど、どれが駅の跡で、どれが線路跡なのか判別がつかなかった。「多分この道が線路だったんじゃないか?」などと往時を偲んではみたけど、答え合わせはできず。

以上、終了。

13:46
このすぐ近くに、「苗木城」という場所がある。山城好きなばばろあなら、「是非行きたい!」と言いそうなものだが、何やらそっけない。聞くと、行ったことがあるし、結構時間がかかるので見て回るには難しいんじゃないか、ということだった。

まあそうはいっても代案がないし、見過ごすにしてはあまりに現在地から近場なので、サクッと立ち寄ることにした。時間があるようで、案外時間は残されていないし。

駐車場に車を停めて、歩いて行く。

道中、展望台があるということなのでルートから少しだけはずれ、なんの気なしにそこからの景色を見たら・・・

ええ?なんだありゃ。

目の前に見えたのは、岩山の上に立っているやぐらだった。あれが、苗木城。

山城、というのは世の中たくさんあったのだろうけど、ここまで清々しく岩のてっぺんに建っているはどれだけあったのだろう?まさにサル山のような場所に、お城がある。

お城、といっても、我々が想像するような天守閣ではない。なんだか、ジャングルジムのように木が組んであるだけの建物だ。いや、建物?屋根もない。そこまでは復元していないらしい。

いずれにせよ、凄い場所にあるお城だ。

やりやがった、ばばろあめ!

こんなエキサイティングな城であることを内緒にしておいて、僕らをびっくりさせたな!いい演出だ。あらかじめ「苗木城は凄いぞ、場所がとにかく驚くぞ」なんて聞かされていたら、今このような興奮は感じなかっただろう。

「苗木城跡は断崖の地にあり、急な斜面に守られた城でした」と書いてある。

そしてその脇に、昔のお城の復元図。

まるで写真のような図で、一瞬こういう建物が実際に建っているのかと思ってしまう。

「よく作ったな、でも実際にこんな建物はないぞ?」

しぶちょおが実際の景色と見比べて言う。

マップを参照。「戦国アスレチック」だってさ。なんだよ戦国アスレチックって。つくづくすごい城だな。

石垣の脇を歩いて行く。

石垣。時折、石垣評論家でもあるばばろあの解説を聞きながら。

このあたり一帯が既にお城の中。

大門跡の表示。単なる物見やぐら的な位置づけではなく、れっきとしたお城だったのだろう。

興奮していろいろ写真を撮っているけど、説明は割愛。

ポコーンと周囲から突き出た山のてっぺんを目指しているので、当然坂道を歩く歩く。お年寄りはしんどいと思うので、足腰がしっかりしているうちにぜひどうぞ。

「エレベーターがないのはけしからん!」とか言うなよ?無理だから。

それにしてもこんな山の上に、よく作ったもんだなあ。

見てよこの石垣。執念だな、下から石を運び上げるだけでも大変だ。

「昔の人は偉かった」と過去形で語っておしまい、というわけにはいかない。もしこれが風雨で劣化して、補修しなくちゃいけないとなると、今度は現代人が大変なことになる。

車なんて入れない場所だから、石とかの資材を全部下から運び上げなくちゃ。どうするんだよ、それ。ヘリコプターで石を運ぶなんて、お金がかかりすぎるから大変だし。

眼下を見下ろす

天守閣直下。

山のてっぺんからの眺め。

木曽川に二本の橋が渡っている。おそらく手前の橋が、北恵那鉄道の廃線なのだろう。

14:01
最後の登り。

駐車場からだいたい15分といったところ。

てっぺん。

天守閣再現!とはいかず、展望台のような作りになっている。

この天守は、昔は三層からなっていたらしい。

岩の上に乗っかってるぞ、オイ。

岩に穴をあけて、そこに柱を差し込んでいるというわけではない。本当に、「乗っかっている」だけだ。うっかりズレて、天守が崖下に落ちるんじゃないか?と心配になるような作りだけど、案外頑丈らしい。

今の建築基準法?の範囲内でもこういう建物を再現できているのだから、安全には間違いあるまい。へええええ。

天守からの眺め、東側。

床下には、岩。

天守からの眺め、西側。

天守からおりていく。

見よ、この開放感。

天気が悪いと、こりゃ天守から一歩も外に出られないな。

いや、そもそも天守には常時人が住んでいたわけではないだろう。物見櫓的に使われていたのだと思う。

天守を支える岩。

かろうじて乗ってる。半分は宙に浮いてるぞ、おい。

さすがに岩だけでは不安定なので、人工的な石垣で補強がしてある。

本当に手間暇がかかっている。昔の棟梁は、殿様から「あそこのてっぺんに城を作れ」と言われたとき、困っただろうな。

馬洗岩、というのが天守の直下にあった。

これ。なんで?というネーミング。

かつて城攻めにあって、水脈を断ち切られた際にここに馬を立て、コメで馬の体を洗う姿を敵兵に見せつけたのだという。遠方から見ると、豊富な水で馬を洗ってる!なんと!水断ちが失敗してるぞ!と見えたらしい。

・・・ほんとかな?

14:37
JR中津川駅に到着。

そろそろ、我々の二泊三日の旅は終わりだ。僕とばばろあはここで特急列車に乗り、しぶちょおとひびさんは車で名古屋に向かう。

まだあともう少し時間がある。駅前に車を停め、ちょっと時間つぶしをしよう。

「栗きんとん発祥の地」の石碑が駅前にあった。

へへー、そうなのか。思わず土下座。