静岡出身のいしが、「いつか弊息子タケを連れて大井川鐵道のSLに乗せたいんだ」と繰り返し言っている。
全国、ところどころでSLが観光用として運行している路線があるが、静岡県ならば大井川鐵道となるからだ。
じゃあ、その企画を立ててみよう、ということであれこれスケジュールを工面し、2025年のGWに大井川鐵道に遠征してきた。今回はそのお話。
子どもにこういう体験をさせるタイミング、というのは難しい。・・・と僕は考えている。時間もお金も気力もあるなら、早いに越したことはない。浴びせるようにあれこれいろんなところに子どもを連れていけばいい。
でもわが家はそこまで余裕があるわけじゃない。だから、こう見えて弊息子タケをいつ・どこ連れて行くか、僕はずっと彼を観察しながら決めている。
早く連れていくと、単に「わあ、面白い!」と刹那的な快楽で終わって、翌日には記憶に残っていない有り様だ。かといって、遅いと彼の好奇心育成が遅れる。あと、彼の祖父母を連れて一緒に行くとなった場合、数年後には祖父母が体調を崩していたり最悪鬼籍に入っている場合がある。遅すぎてもまずい。
大井川鐵道企画は、そういう絶妙なタイミングを見計らったつもりだ。弊息子タケ4歳、義母がまだ前期高齢者という肩書のうちに。
大井川鐵道とは
JR東海道本線金谷駅から大井川に沿って路線が伸びる鉄道で、千頭(せんず)を経由して最終的には井川(いがわ)ダムがある井川まで運行している。
特徴は、新金谷から川根温泉笹間渡までの間にきかんしゃトーマスをはじめとするSLが運行していることと、千頭から先の路線はトロッコ列車のような乗り物になり、途中には日本で唯一のアプト式機関車を連結して運行する場所があるということだ。
アプト式とは、列車を動かす機関車の下に歯車がついていて、レールとレールの間にある歯型レールにガッチリ噛み合い、それで動く仕組みのものだ。急勾配で、普通の列車だとずり落ちてしまいかねないような場所に使われる。
つまり、日本で大井川鐵道にしかこのアプト式鉄道が現存していない、ということは、ここがもっとも急勾配な鉄道ということにほかならない。昔は、信越本線の横川~軽井沢間にもアプト式鉄道が走っていたが、現存していない。
大井川鐵道、とわざわざ難しい「鐵道」という漢字を使うのは、「鉄」は「金を失う」と書くので縁起が悪いから、という理由らしい。なるほど、言われてみればそうだ。
2025年04月28日(月)

06:11
とんでもなく早朝に、静岡駅にやってきた。
6時過ぎに静岡駅、ということは、4歳の弊息子も、今回同行する僕の義母も、等しく夜明け前に起床している。鉄道の旅なのに、なんでこんなにスパルタンな展開なんだ。
この企画を立てた時点で、いしに「本当にこんなのでいいの?お義母さん、5時起きなんて大丈夫?」と何度も念押ししたくらいだ。そして、ずっと鉄道に乗る旅は地味に疲れる。弊息子はともかく、お義母さんが疲れてぐったりしないかどうかのほうが心配だった。
でもいしは、「大丈夫!」と意に介していない。あっけらかんとしている。マジで?
義母に本当に大丈夫か聞いてみたら、「先週は娘(いしの妹)家族の車に乗って、日帰りで東京ディズニーシーに行ってきたのよ。その時は夜中の2時に家を出た」なんて仰る。どうなってるんだ、いし一家は。親子揃ってものすごく元気だ。
なんでこんなに早起きしないといけないのかというと、単に大井川鐵道の路線が長いからなんだが、理由はそれだけではない。
2022年の台風の影響で川根温泉笹間渡~千頭の間が不通となってしまい、未だに復旧の目処が立っていない。このため、川根温泉笹間渡の手前にある家山から、千頭の間は川根本町町営バスを使って移動する必要がある。
乗り換えがあるし、それぞれの路線のダイヤが薄いし、路線全体が長いしで、行って帰ってこようとすると1日がかりになるのだった。静岡駅発着でさえ1日がかりなのだから、その他のエリアから大井川鐵道を楽しもうとするなら、1日がかりどころか1泊がかりになってしまう場合もある。それくらい大変だ。
僕みたいになんでもコンプリートしないと気がすまない性格ならともかく、僕以外の皆様は「SLだけ乗って帰る」とか、大井川鐵道の名所である「奥大井湖上駅」まで行って帰って来るのもありだ。
そういう選択肢もあれこれ模索し、禿げ上がるほどシミュレーションに悩んだのだけど、結局「えーい、金谷から井川まで全線乗るぞ」という乗り鉄パターンに落ち着いた。
たぶん、SLに乗って満足しちゃったら、このあと一生アプト式がある、井川線の奥深くに行く機会が失われる気がする。
また、終点の井川まで行かず、「奥大井湖上駅」で下車してあの有名な景色を見に行く、ということも考えたが、結局却下した。とにかくダイヤが薄いからだ。駅の対岸にある展望台から景色を見るのも良いが、せっかくなら列車がゴトゴトやってくる風景を見たい。・・・で、その列車を見送ってしまうと、次の列車がやってくるまで相当先になる。しまった、その列車に乗らないと帰れない!
帰宅がずっと遅くなっても良いなら、もちろん1本2本列車を見送ることができる。しかし、わが家一族としては、遅くとも18時過ぎには帰宅したい。そうすると、呑気に列車を見送るなんて余裕はなかった。
たぶん大井川鐵道に乗るのは一生で今回限りだろうなあ、と思いながら、静岡駅の中に入る。それくらい、大井川鐵道というのは南アルプスの奥深くに伸びる、盲腸路線だ。

毎度顔面モザイクで登場している弊息子タケだが、実物がどんな顔なのか?というと、「うなぎパイ」の広告にでてくる子どもの顔。ほぼこれと同じ。

06:24
静岡駅の東海道本線ホーム。
06:33発、豊橋行きに乗る。

この豊橋行きの電車は既に入線していた。静岡駅始発の東海道本線があるのは知らなかった。
地元民いしに言わせると、「朝夕のラッシュ時は当たり前のように運行されている」という。
僕は「青春18きっぷ」でしかこの路線を使ったことがなかったので、「静岡始発」という存在に全く気が付かなかった。なにしろ、東京から出て、目指すは広島だったから。熱海とか沼津から、豊橋などに行く長距離便しか知らなかった。

07:06
30分ちょっと、静岡駅から電車は進み、到着したのは金谷駅。今では静岡空港の最寄り駅でもある。
ホームは案外狭い。というか、島式ホームではなく、相対式だ。
下り線ホームから改札に出るためには、線路下の地下通路を歩くことになる。
おや、そういえばここは3番ホーム。上り線が2番ホームになっている。ということは、1番ホームはこれから乗る大井川鐵道か。

地下通路が狭くてちょっとびっくりする。

東海道本線のホームから、大井川鐵道への乗り換え改札が用意されている。しかも、自動改札で。
えっ、だったら大井川鐵道もTOICAをはじめとする交通系ICカードで乗車できるの!?とびっくりするが、よく見ると自動改札の先に有人改札があって、そこで紙のチケットを買う仕組みだった。

大井川鐵道の出発まで約20分。
ちょっとだけ時間があるので、乗り換え改札を経由しないで一旦駅舎の外にでてみた。
金谷駅の駅前は、ロータリーがひっそりある、静かな町並みだった。

JR駅舎の軒先に、自販機。
コカ・コーラのドリンク、セブンティーンアイスクリーム、そして大塚製薬の自販機。大塚製薬の自販機は、カロリーメイトやソイジョイも売っていた。
なぜこういう写真を撮ったのかというと、ここから先大井川鐵道に乗ってから、食べるもの飲むものに不自由するかも?という不安があったからだ。我々はお菓子やお弁当を持参しているが、今後の参考にするために「どれだけ飲食物を現地調達できるか?」というのを写真で残しておくことにした。

平日だし朝7時過ぎだし、観光案内所は開いていなかった。
大きなタペストリーのような、垂れ幕のようなものがぶら下がっている。「鉄道むすめ」かな?と思ったら、「ゆるキャン△」だった。どうやら、コラボしたらしい。
(つづく)
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