「ばんや」に今シーズンも行ってみることにした。過去何度目だろうか、もう数えきれない。でもこれでも僕は少ないと思っていて、本来なら四半期ごとに訪問(=年間4回)したいと思っているくらいだ。
その気になればいつでも行ける気がする場所だが、実際は微妙に遠い。電車はお金がかかるし最寄り駅から徒歩が面倒だ。車だと、都心から微妙に遠いし、東京湾アクアラインが週末の朝晩は絶望的に混む。
2018年秋から2019年春にかけて、僕は何度も「ばんや」がある鋸南町を訪れていた。町が主催する「狩猟ワークショップ」に参加していて、イノシシ用の罠を作ったり、畑を作る電気柵を作ったり、害獣の生態系を学んでいたからだ。
しかしこの時も、「ついでにばんやでご飯を食べる」ということはしていない。ばんやは基本、お昼までに訪れるべきお店だ。ワークショップが終わったあと、17時前に訪れたとしてもメニューは限定的だろう(お店の営業時間は09:30-17:00)。そしてワークショップの際は、よく裏山で駆除したイノシシ肉をごちそうになっていたので、魚を食べる胃袋キャパがなかった、というのも事実だ。
そうこうしているうちに、2019年秋は記録的な大災害となった台風19号のために、房総半島はめちゃめちゃになってしまった。ばんやがある鋸南町も被害は甚大で、2020年春になってもまだ復旧が終わっていない。
台風19号が通過して、僕はすぐに鋸南町にふるさと納税を行った。とりあえず返礼品なんて復旧が一段落してからで構わないので、まずは現金を直接、と思ったからだ。すると、入金してから一週間後には返礼品である干物が届き、むしろ「こんな大変な時に、むしろ手間をとらせてしまったのではないか」と恐縮してしまった。
でも、現地は電気も不安定な状況なので、冷凍・冷蔵品が早くさばけてむしろ良かったのかもしれない。いずれにせよ、こんな時だからこそ地元の経済を動かさないといけない。ふるさと納税は、豪華返礼品がけしからんという議論がありその通りだとは思うが、こういう時に役に立つと思う。
それはともかく、2019年秋冬はそんなわけで現地訪問はかなわず、2020年春になってようやくばんやを訪れる機会を得た。折角ばんやに行くならば、魚の脂がのっている寒い時期の方がいい。桜が咲く前に、そして房総半島にまだ菜の花が残っているうちに訪れよう。
2020年03月15日(日)
まだ屋根にブルーシートがかけられた一戸建てがちらほら見える中、ばんやに到着する。
朝8時過ぎに東京都心を出発するのは毎度のこと。通常なら9時半の開店にはちょうど間に合うタイミングでばんやに到着するのだけど、今日は「海ほたる」と「道の駅保田小学校」に立ち寄ったため、到着は10時過ぎとなった。
お店正面の駐車場は、漁港の一部を使っているだけあって広大。しかしそれがすでに車でいっぱいになっていて、「あっやばい、駐車できるかな?」と心配になるくらいの有様だった。
完全に油断していた。まだ房総半島はオフシーズンで空いていると思っていたのだけど、すっかり春の陽気に誘われて、そしてコロナウィルスから逃避して、房総半島は人だらけなのだった。すでに、「コロナ疲れ」ということでみんなの気が緩んできていた時期だったからだろう。
世界はコロナ禍で大騒ぎだけど、房総半島はまだ昨秋の台風19号の被害から立ち直っていない。ばんやも建物が甚大な被害を受けたと聞いていたけど、実際本館の一角、後で増築した部分はまだ修理の真っ最中だった。なるほど、ここが使えなくなっているので、客が中に入れなくて外まで溢れるのか。
ばんや自体は早々に営業を再開したと聞いていて、ほっと思っていたのだけど完全復旧までは程遠い。こうやってベニヤ板で外周をぐるりと覆っている、ということは、それだけ外壁やガラスがめちゃめちゃになったということなのだろう。
そういえば、先ほど「道の駅保田小学校」に立ち寄ったのだけど、そこでも台風の傷跡は残っていた。元々体育館だった場所を、地元の農産物や土産物の直売所にしているのだけど、その建物全体が休館となっていたからだ。そのかわり、旧校舎の片隅でひっそりと野菜を売っていたっけ。
時刻は10時過ぎ、という頃合い。開店時間からわずか30分強だというのに、もう入店待ちの名簿は3枚目に及んでいた。1枚につき、40組くらいは記載ができるだろうか?かなりの数が書き込めるので、それが3枚にも達しているということはすごい数だ。
僕らが3枚目の真ん中あたりに自分の名前を記した時、店員さんが呼び出していたのは2枚目の真ん中あたり。やれやれ、こりゃあ待つことになるぞとため息をつく。
ただ、案外回転が早いのがこのお店の特徴でもある。
これまでアワレみ隊OnTheWebがやってきたオフ会のように、「海鮮を肴に大宴会。2時間滞在」という人もいる。しかし多くの人は、さっと食べてあっけなく退却していく。総じて、滞在時間は長くない。
おそらく、それなりのボリュームがある料理なので、1品ないし2品頼んで、お腹いっぱいになって、もう引き上げよう、ということになるのだろう。「食べ物の量が多いと、チンタラと食べるからむしろ回転が落ちる」というわけではない印象。
あと、ここは房総半島の南側。都心からここまでやってきた人は、「せっかくだから他の場所も見て回りたい」と思っているはずだ。だから、食べ終わったら次の目的地に向かって旅立っていくのだろう。
そんなわけで、「呼び出しは相当先のことだ」と油断はしていられない。店の中でじっと自分が呼ばれるのを待つ。
店入って正面のところに、ホワイトボードでおすすめ料理が掲げられている。どれどれ、今日はヒラメや伊勢海老の刺身がおすすめらしいぞ。
ものすごく残念なのが、ばんやの特徴である「液晶ディスプレイでメニュー札を表示する」という仕組みが稼働していないことだ。前回1年以上前に訪れたときもそうだったので、多分もうこの運用は止めてしまったらしい。そのかわり、平凡すぎる紙のメニューが各テーブルに置いてある。
もったいないなあ、液晶を見上げながら、「さて、どうしようか?」という話をするのが好きだったのに。このお店のワクワク感が大いに削がれてしまった。
しかも、見ているそばから、「あッ、今売り切れになってメニューから消えた!」なんてことが発生するし、場合によっては新メニューが途中から登場、なんてこともあった。そういうリアルタイム性があるメニューというのは、「入荷次第、ある数だけご提供しますよ」という産直感を感じさせてワクワクしたものだ。スーパーの鮮魚コーナーとは違う、数が揃わなくてもウチでは出す、という意気込みが感じられて、都会人からするとそれこそが「わざわざお店にやってきた」と実感するというのに。
紙のメニューを各テーブルに用意する、ということは、少なくともこの日一日は概ねメニューに載っている食材と料理は品切れになりませんよ、ということなのだろう。安定供給は嬉しいんだけど、もっと僕らは希少品のドキドキとスリルを味わいたいんだよな。
入り口すぐのいけすでは、伊勢海老がかごに入っていた。
しっぽが水面から出てしまっている奴もいる。伊勢海老は、一体自分に何が起こっているのかさっぱり理解できずに混乱していることだろう。
ヒラメも。
今日はこの中にいる限りで売り切れじまいだよ、ということなので、これは早くお店に到着した人の特権。
イカもちょうど目の前で入荷があった。こいつらは威勢がよく、ばっちゃんばっちゃん暴れるし水面が泡で濁る。イカの入荷は嬉しい、ぜひこれは食べたい。
ばんやが初めての人には、イカのかき揚げを毎度おすすめしているが、イカ刺しがあるならこれも食べたい料理の一つ。やっぱり、鮮度が良いイカは見てよし、食べてよしのニヤニヤしっぱなし料理だ。
(つづく)
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