105分の遠洋航海【東京湾納涼船】

屋形船に乗ったことはあるだろうか?

東京湾を見下ろすオフィスで仕事をしている僕は、毎日夕方になると隅田川上流からスイースイーと赤提灯をともして屋形船がお台場沖に繰り出すのを見ている。「ああ、あの中でドンチャン騒ぎをやっているのだな」とうらやましく思うものだ。

屋形船は一般的な相場が2時間で1万円。最近はお一人様からでも乗船できる「乗り合い屋形船」があるとはいえ、原則は船一艘貸切だ。かなりハードルが高い宴会となる。僕自身、人生で2度ほどしか屋形船に乗ったことがない。

船に乗ってクルージングしながらグラスを傾ける・・・・。

なんと甘美なシチュエーションなのだろう。別に恋人同士でなくてもいい。一人苦み走った顔で、霧がかかった湾岸エリアをデッキで観賞するのだって様になる。ウイスキー片手に、とはいかないので、必然的に缶ビールとかペットボトルのジュース、ということになるが。

そんな「船での宴会」を夢見る男のもとに、「東海汽船が『納涼船』をやっている」という情報がやってきた。東海汽船といえば、東京や熱海などから伊豆諸島へ船便を運行している会社だ。そこが「納涼船」をやっているとは初めて知った。そして、調べてみると、その納涼船は実際に定期便として使われている大型フェリーをそのまま使っていることがわかった。

面白い。フェリーで宴会なのか。

「クルーザーで『ウェーイ』とかいいながらパーティー」というのはどうも性にあわないが、フェリーでミニクルージング、そして宴会というのはかなり気に入った。最近離島とはすっかりご無沙汰しているので、なおさらだ。船内を探検したくてウズウズする。

そんなわけで、仲間を募ってこの「納涼船」に乗ってみることにした。

2016年07月14日(木)

竹芝客船ターミナル

18:30
東海汽船の納涼船は、竹芝客船ターミナルからの出発となる。伊豆諸島および小笠原諸島の玄関口であるこの地に降り立つと、早くも自分の血圧が上がるのがわかる。この地から25時間半かけて小笠原(父島)に行ったものだなあ、と感慨深い。

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とはいえ、あまりこの場で感慨に浸っている暇はない。早く乗船券を確保しないと。

コンビニで既にチケットを購入していたのだが、それは乗船券の「引換券」に過ぎなかった。その引換券には「18:30までに必ず乗船券と交換せよ」と書いてあった。

船は19:15出航で、21時に戻ってくる1時間45分のクルーズとなっている。18:30までに乗船券と交換せよ、というのは随分早い気がする。恐らく少々遅れても大丈夫だとは思うが、なにせ初めての体験なので勝手がわからない。18時に仕事を終え、仲間みんなでタクシー2台に分乗して竹芝入りとなった。タクシー代、それなりの出費。

チケット売り場

ああ、乗船券の窓口には、「東京湾納涼船」という掲示がされてあった。すっかりターミナルは納涼船モードになっている。

伊豆諸島に向かう高速船は昼間のうちに発着を済ませているし、フェリーの定期便は夜遅くの出航だ。ちょうどこの時間はすぽっと空いているのだろう。

当日券あり

「本日、当日券ございます」の立て看板。浴衣姿のおねえさんがにっこり微笑んでいる。

そりゃそうだ、これだけおめかしして、当日券がなかったら途方に暮れる。まあ、当日券目当ての人はそもそも浴衣なんて着てこないか。

この「東京湾納涼船」は、コンビニなどで乗船券引換券を購入することができる。また、電話予約も受け付けている。これらが当日になっても乗船定員に満たなかった場合のみ、当日券が出ることになっている。ちなみに、2016年は7月下旬から8月末までほぼ予約でいっぱいだった(7月上旬時点)。そのかわり、海の日までと、9月以降は結構空きがあるようだ。「知る人ぞ知る」穴場なのだろう、きっと。

受付案内

納涼船の乗船案内。ピンク色の立て看板。女性たちにも受けがいいようにしているのだろうか。

先ほどから浴衣を着ている若い女の子がとても多い。まるで花火大会のようだ。いや、花火大会よりも浴衣率が高い。なんだなんだこの空間は。若くて奇麗な女性が浴衣でいっぱい。

というのも、この納涼船、「浴衣で乗船したら1,000円引き」というとんでもない割引制度があるからだ。もともと、「乗船+飲み放題」で2,600円。フードは別売りとはいえこの時点で激安なのに、そこから1,000円なんて引いちゃったら、もうタダみたいなものだ。なんなのこの施しは。

僕もその1,000円引きを!と思ったけど、作務衣はダメなんだそうだ。れっきとした浴衣だけOK。僕は浴衣を持っていなかったので断念した。同行した女性陣も、「浴衣はもっているけど、ちょっと・・・会社帰りに着替えるのは」と躊躇して、結局仲間うちでは誰一人浴衣着用はなかった。なるほど、そうそう「浴衣で割引っ!」というわけにはいかないのだな。

でも若い人たちは圧倒的割引を前に、ガンガン浴衣を着てやってきている。この1,000円引き、既にコンビニでチケットを購入/決裁済みであっても、乗船券と交換するときに返金してくれるらしい。あー、浴衣持っている人、いいなぁ。

納涼船乗船券

納涼船の乗船券を入手。あ、そうそう、海の日まではまだ「ローシーズン」扱いらしく、本来2,600円のところが500円引きの2,100円だった。安すぎるだろ、おい。で、浴衣組はそこからさらに1,000円引きなのだから、1,100円。これで飲み放題+クルージングって、慈善活動すぎる。若者たちがここで格安で合コンでもやって、少子高齢化に歯止めをかけてくれ、という趣旨だろうか?と勘ぐってしまう。

そう、きれいな女性がいるところに男性あり、ということで、やはりここには若い男性も多い。ナンパが横行しているような風には見えなかったけど、その気になればいくらでもそういう展開に持って行けるシチュエーションだった。

さるびあ丸1
さるびあ丸2

今回乗船する納涼船は「さるびあ丸」という船だった。普段は東京~大島~神津島便として就航している。夏の間は納涼船としても活躍しているわけだが、その間神津島の人たちはどうしているのだろう?

伊豆諸島に向かう客船はこのほか八丈島便の「橘丸」があるが、その両方とも夜行便になる。そのため、船内はしっかりと宿泊施設になっていた。

特等室からはじまって、2等まで。2等といっても、カーペットのごろ寝シートと座席タイプの二種類がある。座席に座って一晩を過ごすのは結構しんどいだろうが、深夜高速バスと同様その分お安く利用できる、ということなのだろう。でも僕は2等椅子席はイヤだ。

客船ターミナル地図

竹芝客船ターミナルの案内図。

以前ここからおがさわら丸に乗船したときは、B-1ゲートから乗船したっけ。あらためて図を見ると、5カ所もゲートがあるということを初めて知った。そもそも、「第二待合所」があるということも知らなかった。

あとびっくりしたのは、我々が乗る「さるびあ丸」だ。19:15に出航して21時に帰還してくるのだけど、その後23時に何事もなかったかのように神津島行きの定期便として出航していくことになっていた。えっ、たった2時間でオールリセット?

客を追い出し、フードやドリンクの屋台を片付け、館内を清掃。かなりの手間だと思うが、てきぱきとやるのだな。で、22時40分にはお客を乗せるのだから、東京駅の新幹線清掃員なみの手際ではあるまいか?

ちなみに八丈島行きの橘丸は一足先の22:30出航らしい。

伊豆を感じさせるメニュー

ターミナル内にある「喫茶 東京アイランド」。何気ないメニューのようだけど、よく見ると伊豆諸島感満載でワクワクさせられる。カレーライスの上に「ムロアジ」(くさやの材料になる)のメンチが載っているとか、明日葉のうどんとか。このあと納涼船でなけりゃ、ここで一発腹に仕込んでおきたいくらいだ。で、隣の売店で青ヶ島の焼酎「あおちゅう」を土産として買って帰る。

乗船待ちの行列

A-1ゲートの手前に列ができていた。納涼船に乗るための列だ。浴衣の女性率が高いことがなんとなくわかるだろう。

人の数が多くてびっくりするが、それでもなおソールドアウトしていないのだから呆れる。どうやら定員は1,700人らしい。すげえ!寝ないこと前提だから、客をいくらでも詰め込んでやがる!「さるびあ丸」って旅客定員は816名なのに、納涼船だとその倍だ!

道理でなかなかソールドアウトしないわけだし、道理で格安でサービスができるわけだ。これだけの人からお金を集めたら、空いた時間の船を運航することはできるのだろう。

船内マップ

乗船券とともに渡されたリーフレットには、船内マップが描かれていた。

船というものはかなり複雑な構造になっているものだ。横っ腹に穴が開いても沈没しないようにするためか、RPGのダンジョンみたいになっている。このマップだと、AデッキからEデッキまで5階あり、さらにその上にトップテラスがあるので6階層ということがわかる。しかしビルのような「単なる6階建て」ではないに決まってる。図だけみるとフロア内では並行移動ができそうだけど、実際はその通りいけなかったりする。

そういうのを探検するのが、船の醍醐味だ。酒を飲まない僕にとっては、仲間との宴会よりもむしろこっちの方に興味があった。仲間はまんまとダシにされた状態。

図を見ると、Aデッキから入場するようだ。このデッキにはイベントスペースがある。

Bデッキから下には、「パーティープラン予約専用席」「レストランダイニング予約専用席」といった文字が並ぶ。追加料金を払えば、個室やレストラン席が利用でき、料理も出てくる仕組みだ。狭いデッキでわちゃわちゃやらないで、じっくり座って落ち着いて宴会をやりたい向きには良いのだろう。

値段表を見ると、レストランプランを頼むと乗船料に加えて7,000円がかかるという。うわ!高い!と思って鼻にもひっかけなかったけど、後で読み返してみると「4人分の料理がついて7,000円」ということだった。4名ぴったりで参加すれば、一人1,700円程度。テーブルチャージ+料理代と思えば悪くない値段なのだろう。料理が足りなければ、船内の屋台に買い足しにいけば良いのだし。

どのデッキに何があるのか

どのデッキで何が売られているのか、書かれていた。

乗船券が安い分、食べ物でぼったくるのかと思っていたがとんでもない。東海汽船はひたすら低価格路線を貫いており、フードも安い。100円からはじまって、一番高いものでも600円だった(セットメニュー除く)。

全てのメニューは100円刻みになっている。これは、フードは船内で購入する100円単位の食券で入手するからだ。

A-1ゲート

18:49
A-1ゲートから船へと向かう。

さるびあ丸

今日乗船するさるびあ丸が停泊していた。空は雨がぽつぽつ降り始めている。やばいな、このまま耐えて欲しい。納涼どころかずぶぬれ船になっちまう。

船へは、空港にあるようなボーディングブリッジを使って向かう。

ブリッジ内

18:51
いざ、納涼船へ。

それにしても感心するくらい若い人だらけだ。中高年というのが少ない。最近始まったイベントなのだろうか?と思ったが、同行した仲間の一人が「私は子供の頃毎年納涼船に乗ってました」と言っていたので昔っからあったらしい。

「そんなブルジョアな生活だったの?幼少期は?」
「いえ、そういうわけじゃなかったんですけど、父が東海汽船の株主だったかなんだかで、無料のチケットを毎年もらっていたんですよ」
「で、今は全然?・・・貴族だったのが没落したのかな」
「そんなのじゃないですよ。結婚して家を出たので、行く機会がなくなったんです」

相手の家を「没落」呼ばわりするとは、今思うとひどいことを言ってるな。それにしても、うらやましい家庭だなー、毎年納涼船とは。

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