リフト乗り場の二階は売店と軽食コーナーになっていた。客は誰もおらず、がらんとしていた。みんな、ここにやってきたら先ほどの山頂ヒュッテに行ってパンを食べるからだろう。
そんな中、静かに湯気を立てていたのがおでん鍋。もう7月目前、というこの時期におでんというのは季節外れだが、標高2,305mだったらそんなの関係ないのだろう。
先ほどのパン食が物足りなかったしぶちょおがおでんを購入。
おでん用のからしは、マーガリンの容器に入っていて付け放題。その練りからしをコネコネしているうちに、これをおでんにたっぷりつけたらさぞやおいしかろう、と思えてきた。
「今日はしぶちょおが頑張りたいというから・・・」(とマーガリン容器を取り出す)
「ちょっと待った!」
こんにゃくにしこたまからしをつけて、さあ胃袋へGO!
悶絶するしぶちょお。小刻みに震えている。顔が真っ赤だ。
1分近くハアハアした挙げ句、最後に言い放った一言「全然辛くねぇ!」
ならば、ということで今度はおかでんも挑戦。
薩摩揚げの上にたっぷりとからしを載せて、「これ、ウニだから」「生ウニだねえ」という会話をしつつ、がぶりと一口。
結果は同じ。ケホケホと空虚な咳をして、身震いをして、顔を真っ赤にして悶絶。やっぱり1分近くからしワールドに染まった挙げ句、「辛くねぇなぁ」と平然とコメント。
いい歳して何をバカな事をやっているんだ、と思うかもしれないが、逆にいい歳をしてこういうことができている自分の人生にエールを送りたい。ビバマイライフ。
リフトで下に降りる。
行きは二人で一つのリフトに乗ったが、帰りは一人一つのリフトで。なんだかぜいたくをした気分になる。
リフトを降りたところで、写真を売っていた。そういえば、登りのリフトに乗った時、カメラマンに写真を撮られたっけ。観光地だなあ。
われわれの写真も当然あったが、どう見ても暑苦しい写真にしか見えなかったので、記念に買うことはしなかった。
次に向かったのは、志賀高原のほぼ中央に位置する「熊の湯ホテル」。
以前ここのお風呂の写真を見て、そのカラフルな色に非常に強く興味を惹かれたことがある。日帰り入浴もやっているということなので、今回は日帰りで入浴してみることにした。
熊の湯の内湯。
非常に強い臭いがする。
含硫黄-カルシウム・ナトリウム-硫酸塩・炭酸水素塩泉、という非常に長い泉質名を持っている。お湯の温度は結構熱い。
内風呂だと光の加減であまりお湯の色がわかりにくいが、露天風呂に行ってみるとそのすごさがよく分かる。
バスクリン色。
バスクリンの色を「わざとらしい」と思っている方。いやいやいや、実際にこういう色の温泉もあるんですよ。びっくりだ。
お湯の見た目だけでなく、実際にいいお湯だった。とても快適。できれば一泊したいくらいだ。
露天風呂から隣を見てみると、今度は青い湯船が見えた。
何だろう、とのぞき込んでみたら、単なるプールだった。
車は奥志賀へと向かう。雄大な森が広がっていて、ものすごく心が開放的になる空間。いままで奥志賀に足を踏み入れた事がなかったので、こんないい場所があるとは知らなかった。
さて、奥志賀から先には細い林道がある。奥志賀公園栄線、という林道で、さらにその先野沢温泉に行くのと秋山郷に行く分岐がある。われわれはその秋山郷にある切明温泉で一泊なので、この林道を通り抜ける必要がある。
林道の入口のところに、「奥志賀公園(高原、ではないのが紛らわしい)栄線 通行止のお知らせ」という看板が出ていてひやっとする。しかし、よく見ると「通行可能」というプレートが付けられていて一安心。このあたりは当然ながら冬期通行止めとなる。
もしここが通行止めだったら、いったん志賀高原まで戻って信州中野まで行き、そこからぐるっと野沢温泉経由、新潟県津南町経由で秋山郷に入らなければならない。もしそんなことになったら、日没前にチェックインできるかどうか怪しい。通行可能で本当に良かった。
秋山郷へと向かう林道は「雑魚川林道」といい、その名のとおり雑魚川という川沿いに林道が延びている。1.5車線分ないくらいの狭い道だが、ちゃんと舗装されているし特に荒れた箇所もなくほぼ快適に走ることができた。
途中滝があったり、雪渓が残っていたりと見所もある。
ただ、こんなところで対向車が来たら困るな、と思っていたのだが、さすがに信州の秘境・秋山郷からやってくる車はおらず、すれ違いで肝を冷やす事はほとんどなかった。
林道入口から40分くらいうねうねとした狭い林道を走ったところで道が広くなった。
秋山郷に到着。
秋山郷は長野県栄村という位置づけだが、先ほど通ってきた雑魚川林道以外のルートは必ず新潟県の津南町に通じている。メインルートは当然津南町ルートなので、秋山郷の人達が村役場に行こうとしたらほぼ必ず他県を経由しなければならないという不思議な地勢になっている。
この秋山郷は中津川沿いに小さな集落が連なっていて、それぞれのところに温泉が湧いている。周りは苗場山など高い山に囲まれているので、山越えルートはほとんどない。だから津南町まで出て行かないといけないわけだが、それ故に「秘境」となっている。秘境にある温泉だから、当然秘湯だ。なんちゃって秘湯が多い昨今、ここにある温泉はほんまもんの秘湯と言えるかもしれない。
渓谷の最奥にあって交通が激不便な切明温泉。しかし、その名を有名にし、人がわざわざやってくるコンテンツがある。何か。それがこの切明温泉のハイライト、「天然手掘り温泉」なのだった。
要するに、河原のどこでも掘ってください、お湯が沸いてきますよというわけだ。「メイド・イン・俺」なお風呂を河原にこしらえることができる。もちろんスコップは貸してくれるし、自分で掘る分には無料だ。
われわれがこの温泉地を目指したのも、「アワレみの湯」をこしらえるためだった。ゲーム「DigDag」のように掘りまくって、この地の温泉を枯渇させてやろうじゃないか。
鼻息荒いけど、まずはお宿にチェックインしなくちゃ。
本日のお宿、「雄川閣」。
一泊二食付きで1万円程度だったと記憶している。
栄村の村営宿だ。
切明温泉は最奥の地であるにもかかわらず、3軒の温泉宿がある。
そのうちの一軒が「切明リバーサイドハウス」。
このあたりは豪雪地帯なので、冬でも営業できるんだろうかと心配になる。山小屋のように、夏期のみ営業みたいな事をやっているんじゃなかろうか。切明温泉は集落が存在しないので、ちゃんとここまで除雪してもらえるのか人ごとながら心配。いや、除雪して貰えても、すぐ次の日には雪に埋もれてしまうような場所柄だろう。一体冬はどうなっているんだ?
※確認してみたら、冬も道路は開通しているようです。雄川閣は冬期も営業、切明リバーサイドハウスは冬期は休業する模様。
もう一軒の宿、「雪あかり」はここから更に奥。建物の姿は見えなかった。伊達に「日本秘湯を守る会」の会員宿じゃない。
でも、結果的にわれわれが選択した「雄川閣」が一番立地条件としては良かった。河原の手掘り温泉に行くのに近かったし、部屋は川沿いのリバービューだったし。
立ち入り禁止の黄色いテープの向こうには、犬がいた。
犬とじゃれあうしぶちょお。
しぶちょおは猫にしろ犬にしろ、あやすのが上手だ。おかでんが同じ事をやろうとすると、犬に吠えられる。何でだ。
営業時間の御案内、というホワイトボードが下がっていた。
日帰り入浴 10:00-19:00まで
食堂営業 11:30-14:00まで※宿泊での御利用もできます。
※河原の手掘り温泉は無料です。
実際問題、この宿に日帰り入浴をする人はどれだけいるのだろう。言っちゃあなんだが、こんな最奥の地に「立ち寄り」する人はそうそういないはずだ。秋になると紅葉がとてもきれいで、紅葉狩りに訪れる人が結構いるらしいが。
雄川閣入口。
「一軒宿の会」と書かれた木札が掲げられている。「秘湯を守る会」ではなく、「一軒宿の会」とな。いろいろな会があるもんだ。でも、ここは近くに別の宿があるから、正確には一軒宿ではないような気がするんだが・・・。
あと気になったのは、「北信州 いい湯だなスタンプラリー」という幟があったこと。何だ、これ。調べてみたら、北信州の12の温泉でスタンプラリーをやっていて、そのうち4カ所でスタンプをもらうと温泉施設の無料招待券他いろいろな景品が貰えるのだという。だとしたら、の切明温泉は相当ハードルが高い場所となるわけだが、スタンプを押しにやってくる人はどれだけいるのだろうか?
スタンプラリーといえばアワレみ隊なわけだが、われわれはすっかり宿にチェックインすることで浮き足立ってしまい、スタンプ台帳を貰いそびれてしまった。もったいないことをした。
自販機があったので、値段を見てみる。
おおお、500ml缶が400円!これまでの2泊した宿と比べて最安値!素晴らしい。さすが村営の宿だけある。ここ、下手な山の上よりもよっぽど秘境だぜ?それで廉価な400円で提供するとは凄すぎだ。こここそ、500円を取っても良いくらいだ。
しばし物価の安さに感動するおかでん。
宿のフロントとロビー。天井が吹き抜けになっている。冬は相当冷えそうだ。暖房をガンガンに効かせるんだろうな。
売店にはいろいろ色紙が張り出してあった。飲食店の色紙だったら、油と埃の汚れで何がなんだかわからない様相を呈してくるものだが、ここはそういうことがない。そうか、色紙って結構保存が利くんだな、と感心。
ここに飾ってあるのは名前が分かりやすいものが多い。関根勤、石塚英彦、キャイーン、さまぁ~ずなど。やっぱり色紙って誰のものか判ってこそナンボだと思うので、こうやって見て分かるものはありがたい。
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