保安検査場、出国審査を通過しターミナルの二階にあがると、そこが待合室。
建物の都合上2箇所に分散していて、一体何の便を待っている人たちなのか、わかりにくい。また、普通この手の席は滑走路側を向いていて、目の前に大きな旅客機が停まっているのが見えたり、離着陸する飛行機がよく見えるものだ。しかし、これまた建物の都合上、あまり面白くない光景をご堪能ください状態になっている。ここまでワクワクしない待合い席というのは珍しいのではないか。
暇つぶし用の大型テレビや、運行情報を表示するディスプレイすらほとんどない。どうせ新ターミナルに移るんだし、という割り切りの仕方が潔い。
壁に貼ってあったポスターを見て笑った。
大きく「NO!」の文字と友に、「上海ガニは日本への持ち込みが禁止されています」だって。そりゃそうだよなあ、生きた奴をトロ箱に詰めて持ち込まれたりしたら、えらいこっちゃ。でもそれ、上海蟹に限らず、動植物は原則国内持ち込みは禁止だと思うが。特に上海カニについてはやばい、こいつパネエっす、ということなのだろう。
なんでも、日本のモクズガニの親戚なので(上海カニはそもそも「チュウゴクモクズガニ」と言う)、持ち込まれて繁殖されると生態系が壊れるんだそうだ。
ご丁寧に、ポスターにはおいしそうにゆでられたカニの写真と共に、「上海ガニは、中国か中華料理店でお召し上がりください。」と書かれていた。はい、機会があればぜひそうします。
こういうピンポイントな警告を貼ることができるのも、上海便とソウル便しかない国際空港ならではだなあ、と感心。
待合室の背後には売店が並んでいるのだが、そうか、さりげなくこの売店って免税品店なんだな。「ANAフェスタ」とか「ブルースカイ」じゃないんだな。規模感がどう見ても国内空港並なので、ディオールとかブルガリといったブランド名が並んでいるのを見るととても違和感を感じてナイス。良く見ると、ここの店の運営は「JAPAN DUTY FREE」がやっているようだ。成田空港の免税品店と一緒だな。羽田まで出張ってきましたか。お疲れさまです。
免税品なんぞに全く興味がないおかでんにとって、正直品そろえはどうでもよいのだが、残念に思う人も多いことだろう。これが、成田や関空といった巨大国際空港との違いだ。もっとも、成田でさえ免税品店の規模は世界的にみて随分と小さいのだが。
そんな免税品店の一角に、なぜか「北海道」コーナー発見。なんじゃこりゃ。あまりに突拍子もなくて笑った。
取扱商品は、白い恋人とロイズ。北海道土産の大定番だが、なぜ「東京」に?新千歳空港には、上海からもソウルからも直行便が出ているはずだが・・・。この空港を経由しないと北海道に行けないんです、というのであれば、ここに北海道土産を置く意味はある。買いそびれたお土産をぜひこちらでどうぞ、と。しかし、そうではない。
結局、韓国・中国・台湾の人たちにとっては、「北海道」という地名は一大ブランドなのだった。これらの国の旅行代理店で、日本行きツアーを見ると、北海道が非常に多い。当然ロイズや白い恋人の工場に行ったりもするし、富良野に出現したかと思ったら函館朝市に行ったり、とにかくアクティブに満喫しとる。ひょっとしたら日本人よりも北海道が好きかもしれん。
そんな実績があるからこそ、北海道土産がここでも売られているのだろう。これが、たとえば宮崎県知事が「うちの県の商品も」と要望したとしても、「場所がありません、以上」で空港会社から門前払いだろう。だって、考えてみ?東京タワーや浅草、チョンマゲや模擬刀、浴衣や扇子といった江戸風土産屋すらないのに、北海道土産屋はある。この異常さというか、ブランド力の強さたるや相当なものだ。他自治体には真似できんよ。
軽食コーナーもあった。身長が高い机とスツールがあって、さくっと飲み食いができる。
気になるのは黒板に書かれている、「ザ・プレミアムモルツ&ミックスナッツset」。1,050円だそうで。「飛行機よりも爽快な一時を・・・」だって。なにがどう爽快なのかは不明だが、確かに高度が高い機内だと麦酒は泡だらけで案外おいしくないものだ。しかも若干ぬるいし。飲みたけりゃ、地上で飲んだ方がうまいぜ、とこのお店は提案しているらしい。むう、よい提案だ。
出発時間1時間20分前に空港到着、という国際線搭乗にしてはのんびりしたチェックインだったが、なにせ施設が狭い。出発予定時刻1時間5分前には既にこうして暇をもてあましているのだった。麦酒の一杯でも飲みたくなるってのが人情だ。律儀に2時間以上前から空港入りしていた人に至っては、搭乗前に既に暇すぎてくたびれきった表情をしていた。大丈夫ですか。麦酒飲んでお気を確かに!
ただ、さすが空港物価。夏目漱石さんお一人を供託しないと飲めないビールですか。ブルジョアの飲み物ですな。
それは兎も角、おかでんとしては搭乗手続き開始前に一仕事やらないといけなかったので、ビールは遠慮しておいた。搭乗前にパソコン使った作業はひとまず終わらせないと、飛行機に乗り込んだら当分電子機器類は使用不可だ。
地味な搭乗口。
1番搭乗口と2番搭乗口が並んでいる。これだけ搭乗口が至近な空港はちょっと珍しいかもしれない。私鉄とJRが乗り入れている駅のようだ。
1番搭乗口にはJALの自動改札、2番搭乗口にはANAの自動改札が並んでいる。これはさすがに固定。
まだ出発まで1時間あるが、既に搭乗口にはグランドアテンダントが数名集まって作業をしたりうろうろしていた。飛行機って、つくづく人件費がかかる商売だなと思う。バスや電車のようにワンマン運転、というわけにはいかんからな。
この辺りを徹底的に簡略化し、コスト削減をしたのがLCCなわけだが、コスト削減は機内の座席やらなんやらまで及んでおり、その狭さたるや「空飛ぶ監獄」と呼ばれるほどのものもあるらしい。たとえ安くても、身動きできないくらい狭いシートピッチというのはさすがに乗る気にならんな。以前ユナイテッド航空に乗った時は、ほぼそれに近い仕打ちを受けた事があるので、想像ができる。あれはひどかった。
搭乗口近くにインターネットスタンド発見。100円で10分、インターネットが使えるという。いい商売しているじゃないか。使う人がいないかどうかしばらく様子を見ていたが、誰も使っていなかった。
最近はノートパソコンを持ち歩く人は多いのだから、「PCは使わないで、LANケーブルとネット接続を提供。100円で20分」というサービスがあっても良いと思う。
そういや、この「100円玉投入口がある特殊なPC」だが、ここからLANケーブルを抜いて自分のPCにつなげたら、そのまま使えてしまうのだろうか?まさかハブ側で課金管理しているとは思えないので、使えてしまいそうな気がするのだが・・・目の前には赤いLANケーブルが見えるな・・・
ただ、それが仮にできたとしても、窃盗の罪で「ちょっとお前こっちにこい」と警備員さんに捕まる。余計なチャレンジはしない方がよろし。本を盗みました、とか化粧品をちょろまかしました、ではなく、LANの帯域を盗みましたというのはなんとも情けない容疑だ。
まだ搭乗口がオープンになっていないが、搭乗口付近で地上職員がなにかの紙を配りだした。現地で使えるお得なクーポン、とかだろうか。
見ると、「出/入境健康申明卡」と書かれている。なんだ、全然お得じゃないぞ。ちょうど今大流行中のH1N1型インフルエンザ対策ってことだろう。体調悪いなら入国させないぞ、入国していても後からでも追いかけて捕まえるぞ、というための申告表。
海外旅行の定番・入出国カードを書くだけでも難儀して「地球の歩き方」に書かれている記入例に首っ引きになるというのに、こんな面倒なものまであるとは。ややこしいのぅ。でも、この大変な時期に海外旅行する以上、これくらいの手間は覚悟しなくちゃいかんわな。
しかし、これだけ配るんじゃなくて、一緒に入出国カードも配ってくれればいいのに。まとめて今のうちに書いておくんだがな。
搭乗までの間にちゃちゃちゃっと書いておく。パスポート番号を記入したりしなければならないので、機内の狭いシートで書くよりも地上で書いた方が楽だ。
ただ、この記述が結構難儀で、脂汗をかいてしまった。漢字で書かれているので、おおよそ、何を聞いてきているのかは理解できるのだが、どういう回答を求めているのかまでが分からない。裏面には英語での記述があるのだが、かえって英語の方が意味不明だ。同じ漢字の国だからといって、ナメてかかっちゃいかんな、というのがよく分かる。
「天」という漢字が日本語における「1日」という意味があったり、「和」が「and」の意味だったりするため、実は質問はアホみたいにシンプルなものにも関わらず、全く意味不明なのだった。「おお、インフルエンザの事は中国でも流感、というのか」とか、理解できる範囲だけ見て現実逃避。結局、質問の意図が分からず1/4くらい空欄ができてしまった。
地球の歩き方にも、この「入国検疫申告書」の記入例はあった。しかし、2008-2009年度版が発行された時点では、「発熱・嘔吐などの症状が無い限り原則提出不要」と書かれていた。しかも、記入例が現在のものと全然違う。今手にしているものの方が数段細かく記述を求めている。さてはインフルエンザで検疫を厳しくしたな。
後日、あらためてこの申告書の内容を読み直すと、聞いているのは「訪中後7日間の行程は?」「トランジットするならその飛行機や電車の席を教えろ」「中国国内のどこに滞在するのか詳しく書け」「中国にいる間連絡が取れる電話番号は?」といった類だった。また、入国する前の一週間はどこの国や地域に居たか、という過去の話まで突っ込んで聞いていた。
さあおかでん困った、現地滞在先って言われても知らん。コダマ青年の家の住所は聞いていないから。しょうがないのでコダマ青年の会社の住所と電話番号を書いておいた。おかでんに万が一の事があったら、コダマ青年の会社に連絡が入ってしまうのだが。「おかでん?いえ、そんな人知りません」「何だって。あいつ、うその住所書いたな」→出国時、「お前ちょっとこっち来い」と連行され、拘束・・・。ありそうで怖い。
搭乗が開始になったので、渡り廊下を通り機内へと向かう。
途中、第二ターミナルが窓から見えた。ちょうど第二ターミナル南側は拡張工事中。景気悪化だとかなんとかで、ロビー/商業施設部分が北半分しかないという変な形の第二ターミナルだが、南半分もこれから作ることになったらしい。
おかでんが広島に帰省する際、ANA便の場合は大抵南の一番端、67番搭乗口あたりに案内される。ここだと、保安検査場から10分歩いてもまだ着かないんじゃないかという距離にある。何でこんなに遠いんだ、健康増進のためか?と思ったが、それもそのはず、ロビーが北半分しかないからだった。南側にロビーが延びれば、もう少し歩く距離が短縮されるだろう。
定刻で飛行機は離陸。離陸までが結構楽しかった。普段とは違うターミナルからの出発なので、滑走路に着くまで見慣れない光景の中をタクシングする。窓側の席で良かった、と思った。また、滑走路に着く手前で、現在大絶賛造成中のD滑走路も見ることができた。D滑走路、多摩川沖に作るだけあってもの凄い遠い。この滑走路から離発着すると、それだけで所用時間が5分以上伸びるな。
離陸後の航路は広島方面に向かうものと同じで、富士山の北側を通って南アルプスを越えていく。
そうこうしているうちに、機内食のデリバリーが始まった。沖縄と同じくらいの距離の「国際線」なので、一連の「国際線のお作法」は手際よくやらないと間に合わない。よって、飛行機の高度が安定するやいなや素早くギャレーでは作業が開始されていた。効率化を徹底し、機材配置やCAの作業分担など綿密に計算されているのだろう。
なにせ、出発してから(離陸してから、ではない)30分後には、ほら、既に自分のテーブルには機内食一式が。早い。まだ長野県上空あたりを飛んでいるので、なんだか不思議な気持ちになる。
これまでのおかでんが体験した海外旅行といえば、必ず「離陸後すぐ、飛行機は大海原の上空へ」という流れだった。しかし今回は眼下に日本列島が。なんだか国内線で、場違いなお食事タイム。これからボクはどこへ行くの?
最近はコストカットのため、短距離国際線は軽食のみ提供、とかアルコール類は別料金、といった航空会社/路線が増えているようだが、ANAの上海便はちゃんとした機内食を提供していた。さすがにシートポケットに「お品書き」は挟まっていなかったが、ANAのwebサイトで事前に確認できるので、気になる人はチェックしてよだれを口に溜めて搭乗すればよろしい。
とはいえ、「Fish or Beef?」といった選択肢は存在しない。学校給食よろしく、全員同じ物を食べる。料理は写真のようなでき。がんもどきなどの煮物と魚の照焼と、、カニと枝豆が載ったごはん。航空業界はビジネスが厳しい最中、この料理は頑張っていると思う。いずれ、コストカットが進んでくると、魚料理を選ぶと「白身魚のフライ」で、肉料理を選ぶと「メンチカツ」みたいな、安いホカ弁みたいなものになるのだろうか?
隣の席の女性は、特別食を頼んであったらしく、いの一番に料理が提供されていた。気になったので内容を見たかったのだが、ジロジロ見るわけにもいかず断念。ただ、ちらっと見た限りだとご飯がなくて煮物だらけに見えたが、気のせいだろうか。メチャがんもどき好きだったのだろうか。
前菜のお皿が用意されているのがうれしい。
パストラミと、帆立と、ズッキーニとトマトの料理と、貝柱。
これは「さあこれで酒を飲みたまえ」というお誘い、と捉えざるを得ないのだが、そう解釈してヨロシイか?
酒飲みの発想として、これはどうみてもスペインバルにあるタパスだ。逆に、「この料理、お酒を飲まない人はどうやって食べるんだろう」と不思議に思ってしまうくらいで、そういう思考回路になっている自分が恐ろしい。相当アルコールで脳がやられているっぽい。
とはいえ、実際問題これをおかずに味つけご飯を食べるというのは日本人のセンスとしていまいち冴えないだろう。やはり、機内ではビールをいっぱいくらい飲むぜ、という人向けに料理は構成されているのだろうか?和風旅館の夕食がそうであるように。
さあおかでん選手がアップを開始しました。まだ朝10時で、これから慣れない異国の地に一人放り出されるとはいえ、少しは飲っておくかね。睡眠不足でフラフラだし。
さて、そんな「酒の肴」の傍らにあるのが、うどん。何で(日本路線の)機内食って、蕎麦とかうどんを出したがるのかね。不思議でならん。どうひっくり返っても美味い麺なんて出せるわけがないのに、このチャレンジ精神。恐らく、「体調が優れずご飯が喉を通らない」という人のために、「つるつるっと食べられる麺を」という発想なのだと思う。しかし、麺同士がくっついてしまっているため、つるつるっと食べるの、無理なんですけどー。
あと、うどんって主食でしょ。すでにご飯という主食があるのに、うどんもあるというのはなんとも違和感がある。もちろん、「ラーメンライス」的感覚で食べるのは有りだが、それは温かいうどんに限ると思う。冷たいうどん・蕎麦でご飯を食べる人って、日本人ではほとんどいない。
せっかくだから、このスペースにお味噌汁か豚汁といった汁物を置いてくれればうれしいのだが、みそ汁ってのは特殊なスープだからなあ。多分、外国人も乗る機内食としては採用は難しいだろう。外国人曰く、みそ汁は「濃くて塩辛い」んだそうで。
この路線の場合、「ご飯ものも出すけど、パンも出す」という両刀使いな機内食ではなかった。あれ、困るのよね。主食多すぎて。残すのももったいないし・・・でもこんなには食べたくないし・・・と、毎回悩む。まあ、結局残すんですけど。
あと、機内食で悩ましいのが、デザート。まずそうなフルーツだったり、あまったるそうなケーキが「どうだ」とばかりにニーハオしている事があるが、個人的には好きではない。「食べ物は残さず食べよ」と躾けられてきたおかでんでさえ、これらデザートは見なかったふりをするくらいだ。
しかし今回の機内食、ちょっと変わっていた。なんと、カスタードプリン登場。いいねえ、これだったらおいしく食べられそうだ。食べきれなかったらお持ち帰りにしてもいいし。カップに入っているので、フルーツやケーキと比べて見栄えは劣るが、いやいや見栄えなんてそもそも期待していないので、実用性でいきましょうや。このプリン大賛成。
それにしても、プリンに「北海道」の文字が。ここでも北海道ブランドは健在。多分、ANAとしても「北海道、とバーンと書かれているラベルで」とリクエストしたはずだ。
上海の方、朗報です。ちゃっかりこれを自宅に持ち帰って、「北海道みやげだよ」と言えばお土産代が浮きます。
普通、国際線のお作法としては、高度が安定した時点で
(1)おしぼりを配る
(2)ドリンクを配る。その間にギャレーでは機内食の加熱を行う
(3)機内食を配る
(4)温かいお茶やコーヒーなどを必要に応じて配る
という段取りを踏む。しかし、短時間で効率よくお作法を済ませようとCA大活躍のため、ドリンク担当が席までやってきたのは機内食を配った後だった。いかに機内食配りが早かったかということだ。
「お飲み物はいかがなさいますか?」
と聞かれたので、
「スパークリングワインを」
と注文した。周囲が、「なにィィィィ」と一瞬ひるむ気配を感じた。まさか、こんな短距離路線で、エコノミークラスで、スパークリングワインがあるなんて思わないだろう。でも、ANAは置いてあるんだなこれが。
手元にメニューリストがないので、どんな飲み物があるか分からないまま乗客は適当にオーダーしている。昼前ということもあって、専らジュースや烏龍茶の類が多かった。お酒を頼む人は少なかったし、せいぜいビールだ。ウィスキーや日本酒を飲む強者は皆無だった。そんな中、スパークリングワイン。そりゃ、目立つわ。悪い意味でも。事前にwebで機内ドリンクについて調べておいたオレ、勝ち組。
しかし、CAさんはさらに右斜め上の対応をしてくれた。
「スパークリングワインですね。かしこまりました。他にはいかがですか?」
「え?」
「スパークリングワインなんてしょせん食前酒。ならアンタはメインに何を飲むのかね」と聞いとるんかね。これは明らかにワタクシへの挑戦状と見なした。領空侵犯もいいところだ。大変にけしからん。
「ではビールを」
ANA凄いな。ANAからすれば数百円の余計な支出とはなったが、こういう事で顧客満足度というのはぐんと上がるものだ。ビール1本でおかでんの心をわしづかみにしたANAは、今後もおかでんから贔屓にされ続けるであろう。なんだか、吉備団子貰って忠誠を誓った犬猿雉の気分。
しかもこの後、食後のタイミングで「ドリンクのおかわりはいかがでしょうか」とカートが機内を巡回していたのでびびった。そこまでやるか。長距離路線ならまだしも、短距離路線でこれは参った。
お酒のお伴、として定番のスナック。ANAのロゴ入り。なんでわざわざPB商品化するのかよくわからんが、飛行機に積み込む際の制約とかあれこれあってオリジナルで商品化したのだろうか。
これこそ酒飲みのためのツールっぽいのだが、案外おかでんはこいつをもてあます。スナックをぽりぽり食べながらビールを飲むという習慣がないからだ。結局、お持ち帰りにされる事が多く、なおかつ、荷物に潰されて粉々になっているのが後日発見され、廃棄されることになる。
「きゅぽん」
と、場違いな音が機内に響く。CAさんがスパークリングワインの栓を開けた音だ。なんだか恥ずかしくなってきた。回りはビジネス客が多いのか、みんな真面目にソフトドリンクだ。アンタ何やってるの感濃厚。
ただこっちとしても必死なのよ、ここでアルコール飲んで、寝て、昨晩一睡もできなかった分を上海到着までに取り返さないと。上海との時差は1時間。当然、あちらの方が遅い。だから、ただでさえ海外観光旅行の一日は長くなり睡眠時間が削られるというのに、それが1時間余計に追加されるということだ。今のうちに寝ておけ、寝ておけ。
早速スパークリングワインを頂く。「シャンブラー」という銘柄で、スパークリングワイン専業メーカーとしては世界最大手なんだって。知らなかった。エコノミークラスの機内サービスに供されるくらいだから、クリスマスのお子様用発泡ジュースみたいな奴を想像していたのだが、予想以上においしくてびっくり。これはすばらしい。はっきりいって、こんな高コストアルコールを乗客にたくさん注文されたらANAは相当しんどいと思う。調子に乗ってこれをお代わりするのは止めておきましょう。さもないとスパークリングワインがメニューリストから消える事になりかねん。
すっきりとした味わいでおいしいのだが、やはり気圧が低い機内だと泡が相当出てしまう。まるでビールのように盛大に泡を吹いてしまい、それが持続するので、さっさと飲まないと「スパークリングではないワイン」になってしまう。
シートにあるディスプレイでは、現在地を表示するようチャンネルをあわせておいた。日本列島上空を飛行中であるのがよくわかるが、果たしてこれが国際線なのかと思ってしまう図だ。
このサービス、地図の縮尺が一定時間ごとに切り替わっていくように設定されていた。短距離路線なので、道中ずっと同じ縮尺だと地図がデカすぎたり小さすぎたり、見づらいから気を利かせてくれたのだろう。
なぜか大阪近辺を上空を飛行中には縮尺がえらく拡大され、写真右のように神戸、大阪、奈良、京都がばっちり見えるようになっていた。おい、ホントにこれ、国際線か?
食後、一眠りしようと思ったのだが完全に寝そびれた。
寝酒として飲んだアルコールのせいで、体が重くなっただけだった。作戦失敗。
先ほど福岡上空を通過したな・・・と思ったら、もう地図上では目的地の上海が迫ってきていて驚いた。近いな、ホント。羽田空港発ということもあって、国内旅行感覚だわ。新幹線で広島の実家に帰省するよりも早く、上海についちまう。
あれよあれよという間に飛行機は中国大陸に侵入。見下ろすと、ちょうど空港の真上を通過していた。あれれ、行き過ぎですよ、と思ったが、見えていた空港は上海浦東(pǔ dōng :プードン)空港。上海における国際線専用空港で、成田からの便は全てこちらに着陸する。ただ羽田便は、本来国内線専用空港になっている虹橋(hóng qiáo:ホンチャオ)空港に着陸する。中国の一地方都市のはずなのに、国際線空港と国内線空港、二つを持っているんだから中国ってのは規模感が全然違う。
規模感、といえば大陸上空を飛ぶようになってからイヤというほど思い知らされる事になる。なんだこの都市。平地にびっしりと家や工場が並んでいる。東京のようにごちゃーっと密集しているわけではないが、もれなくまんべんなく、低層マンションが並んでいる。見たところ鉄道などない場所なのに、よくぞこれだけ家が建つな、と思う。マンションは規則正しく並んでいるので、上空から見るとソーラーパネルのセルのように見える。一昔前の新興団地のように、同じ形をした建物がずらりと並んでいるのでとても無機質だ。
工場は青い屋根をしているので一見してすぐわかる。工業団地のように密集しておらず、なんだかあまり節操なくあちこちに立っている。畑?田んぼ?もあちこちに散らばっている。土地不足で困っている気配はまだない。
道路は建設中のものが多い。高規格道路があちこちに造られており、車での移動はスムーズにできそうだ。とはいえ、高規格道路へのアクセス道路がまだ未整備なところが多いだろうし、人口が馬鹿にならんので結局大渋滞になりそうだが。
全体的にまだ建物類は古ぼけていないようだ。急速な発展を遂げて、最近になって作ったものが多いのだろう。
上空からみても、空気と川が汚いのはよくわかる。中国製の野菜などに疑念を抱く日本人は多いが、確かにこの環境では大層怪しいといわざるをえない。もっとも、上海は都会なので、大農園があるであろう田舎にいけばまた少しは状況が変わるのかもしれないが。
飛行機は虹橋空港も素通りし、おいおいハイジャックされたのかよ、と思っていたらぐいーんと大きく時計回りをし、北側から着陸。おかげで上海(の周辺部)を良く見ることができて良かった。
飛行機が停止後、普通なら「我こそ一番槍を」と、CAの「まだシートベルト外すんじゃねぇ」という警告を無視してみんなゴソゴソするもんだ。しかし今回は事情が違った。「機内検疫があるので、席にてお待ちください」だって。おお、H1N1対策は中国でもやっていたのか。
ボーディングブリッジが接続されると、完全白装束のアラブの王子様・・・じゃないな、検疫官が入ってきた。手に何か凶器のようなものを持っている。「動くな!手を挙げろ、そしてゆっくりと壁に手をつくんだ。そうだ、その調子だ、悪い気を起こすんじゃないぞ」と乗客を威嚇する。あれ?でもこれはアメリカンな刑事(デカ)がやることか。中国ではこのパターンは多分ないな。
実際のところは、2名一組で2組の白装束が乗り込んできて、通路ごとに一人一人検疫をしていた。日本でも実施され、「大げさだ」「世界の笑いものだ」と叩かれた、サーモグラフィーによる体温検査だ。
ここで気がついた、ANAの陰謀に。しまったあああ、オレ、調子にのってお酒ちょっと多めに飲んじゃったので、赤ら顔+体温上昇しとるかもしれん。こんな状態でサーモグラフィーチェックを受けると、「お前ちょっとこっち来い」になるんじゃあるまいか。大丈夫か?
検疫官と目を合わせたらアカン、と思って視線を微妙に逸らしつつ、でも不審人物と思われないように慈愛に満ちたほほえみを浮かべつつ検査。結果、スルーだった。良かった。
それとともに、おかでん周囲の乗客も全員セーフ。この場合、周囲に誰か一人「要注意人物」が現れたら連帯責任で「お前は悪くないがちょっとこっちこい」にされてしまう。それで一週間近くホテルに軟禁になったらかなわんので、何事もなくてほっとした。
検査はてきぱきと行われ、それほど時間のロスは無し。
一安心して機内からボーディングブリッジに出ると、そこでも再度白装束が待ちかまえていて不審人物をチェックしていた。フェイント攻撃だ。ここでも何事もなくスルー。
空港内を移動中、窓から外を撮影したもの。
何だかくたびれた印象を受ける空港だ。多分新しくつくられた浦東空港の方は最先端でぴかぴかなんだろうが、こちらは歴史がある分、くすんで感じる。空が霞んでぼんやりしているせいもあるが、古くさい車や建物を見ると、ああ中国に来たんだなという気にさせられる。
逆に日本の空港がぜいたくすぎるんだな、きっと。都道府県が運営している第三種空港でさえ、えらくカネかけてるもんな。
入国審査の前に、検疫が待ちかまえていた。
通常時だったらここはほとんど素通りできるのだろうが、新型インフルエンザで緊急事態の最中なのでそういうわけにはいかない。窓口の他にも、窓口に並ぶ行列に白衣・マスク着用の職員がへばりついて対応にあたっていた。
ここで、離陸前に書いておいた入国検疫申告書を提出することになる。しかし、職員さん、「お前何で全部記入しとらんのか?」と面倒くさそうに未記入のところ一つ一つについて質問をしてきた。あ、やっぱり全部「必須入力項目」でしたか。「(任意)」という文字がないなあ、と思っていたんですがそうですか。
もちろん中国語で話しかけられても理解不能。さすがにカタコトの英語は話すが、カタコトすぎて逆に何を言っているのか分かりにくいくらいだった。一応、何度かお互いが「は?何スか?」と聞き返したりしながら、フォーマット通りに記入完了。やあ、冷や汗かいた。
その後の入国審査はパスポートチェックだけ。訪中理由も聞かれなかった。検疫の方が面倒だったというありさま。
検疫を通過した際、二通の書面を貰った。
一つは「告知書」。
インフルエンザが世界的流行になりそうな昨今、感染を未然に防ぐ事は国際的な責任でござんす。ついては上海についてから7日以内に熱だの咳だのいろいろあったら、疾病予防センターまで連絡くれよ、という内容。
もう一つは「インフルにやられちまった時の心得」みたいな内容で、
集会には出ちゃダメ、家で栄養とってゆっくり寝てなさい、手はしっかり洗うんだぞ、というものだった。
わざわざご苦労様です、といいたいところだが、日本語に翻訳していないのはどういうことかね。なぜか告知書はスペイン語訳がついているんですけど、スペイン人(南米人)、そんなに上海に来るのか?謎だ。
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