密輸商人おかでんの上海貿易顛末【上海1】

音声ガイドのカウンター

クロークに荷物を預けた事によって、また手荷物検査の行列に並び直しとなってしまった。なかなかハードル高いのぅ。

せっかく並び直すんだから、ということで、音声ガイドを借りる事を思いついた。確か、40元で貸してくれたはずだ。入口の脇にある円形カウンターのところで、どうやら貸してくれるらしい。欧米系の来場者が結構借りている姿が見える。ええと、音声ガイド貸してください。

すると、受付の人は面倒くさそうに「こっちじゃない。あっち行け」と追い払う身振りをする。何だなんだ、「※ただしイケメンに限る」なんていう注意書きは無かったと思うのだが。

音声ガイドのチケット

行列を挟んだロビーの向かい側に、音声ガイド貸し出しと同型のカウンターがあった。左右対称に建物が造られているので当然なのだが、どうやらそこでチケットを買ってくれ、という事らしい。おい、そういう事はどこにも書いてないぞ。「案内看板の字が読めませんでした」ではない、「案内そのものがない」のだ。何と不親切な。過剰に親切な日本での生活に慣れ親しんでいると、戸惑うことばかりだ。

40元を払ったら、AUDIO TOURと書かれたチケットをくれた。これを持って、またさっきのカウンターに戻れ、と。

ソレだったら最初から同一のカウンターでやってくれよ、と思うが、「せっかく左右対称に支柱とカウンターがあるんだから、両方に別々の機能を持たせよう」という無駄な美意識が働いたんだろう。気分は分かるが、面倒じゃのー。

音声ガイド

チケットを手に入れたことだし、得意満面で先ほどのカウンターに戻る。

「さあ、音声ガイドをよこせ」

と。

すると、あちらさんはさらに上手だった。「ならばパスポートをよこせ」と。えええ、パスポートっすか。旅人にとって、命の次に大切とまで言われるイチモツを、そんないとも簡単によこせと言いやがりますか。そして、そんなに簡単に渡すとでも思っているんですか。ありえねえ。

「パスポートがイヤなら400元をデポジットだ」

という事を、カウンターにある掲示を示しながら職員は言う。

相変わらず、うんざりした顔だ。どうしてここの職員は、100%、全員が「つまらなさそうな」「面倒くさそうな」態度なんだろう。お昼ご飯を与えられていないのかな。それとも、実は全員懲役者で、社会奉仕としてここで仕事をすることが更正の一環なのだろうか。400元なんて手元にお金を持っていないので、しぶしぶパスポートを渡した。こっそりコピーをとられたり、公安にデータ照会したりしないだろうな、と心配だが、この際仕方がない。

で、ようやく受け取った音声ガイドがこれ。でけぇ。巨大なハンディマッサージャーみたいなサイズで、長さは30センチ越え。てっきり、イヤホンなんぞで聞くものかと思ったが、やたらとでかい受話器型だったと。

でかい割には相当軽いので、非常に安っぽく見える。もう少し小さく作っても良かったのではないのか?

博物館内のエスカレーター

再度金属ゲートを通り、ICレコーダーに疑惑をかけられ「これはなんだ」と聞かれたりなんやらあって、ようやく中に入ることができた。入館料無料で大変に結構なのだが、この入場の手間暇だけで数十元とられた気分。

ゲートの向こうは広い吹き抜け空間になっていて、まるで百貨店のようにエスカレーターが設置されていた。ざっと見ると、結構な数の白人さんがいて、上海という町が予想以上に国際化されていることに気付く。日本の国立博物館で、こんなに西洋人がいるか?いない。

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博物館、と名前がついているが、中国語で「博物館」というのは美術館とほぼ同義になるらしい。別にパンダの剥製があったり、恐竜の化石があるわけではない。これは台湾の故宮博物院も一緒。

中に入ると、その質と量に目を白黒させてしまう。やっぱ中国すげえや。「中国4,000年の歴史」なんていうのは非常にうそくさいレトリックだが(頻繁に統治している民族が変わっているので、連続した歴史というものは希薄)、芸術の蓄積たるやもの凄い。どうしてこの国が現在コピー天国と言われてしまっているのか、残念でならない。

これだけ自国の芸術作品を、これでもかこれでもか食らえ、と陳列できるのは中国だけしかあるまい。日本もそれなりに歴史と伝統と芸術はあるが、こういう巨大施設にあらゆるジャンルの美術品を網羅して陳列、というのはできていない。

何しろ、しれっと「紀元前15世紀頃」なんてブツが置いてあるんだから、桁が違いすぎる。ただし、後ほどコダマ青年にその「すごい歴史」の話をしたら、薄ら笑いをして「いやー、どこまで本当なんだろうね」と一言コメントをしていた。ちゃんとした国立の博物館だからあながちインチキではないのだろうが、中国に関してはある程度話半分に聞かないといけないところもある様子。

驚いたのは、陳列物の写真撮影がOKだということだ。フラッシュさえしなければ、問題ないらしい。日本ではあり得ないことだ。写真撮るくらい好きにやれ、それによって芸術に対する理解が深まればそれは良いことだ、ということらしい。入館無料だし、なんとも素晴らしい施策。何で日本の美術館は写真撮影禁止なんだ?ミュージアムショップでポストカードが売れなくなるからか?

観賞していて、室内で特に目立ったのは警備員の存在だった。普通日本では、美術品が盗まれたり悪さをされないように、お姉さんが部屋の片隅に座っているものだ。しかしここでは、軍隊のような制服を着た警備員が立っている。その態度が偉そうなこと偉そうなこと。ある意味シビレた。感動した。「おいコラ」的な態度で、ふんぞりかえりつつ、つまらなさそうに周囲をゆっくりうろついている。ポケットに手を突っ込んでいたり、腕を組んでいる不遜な輩もいる。さらに、服のサイズがあっておらず、だぼだぼになっている人もいて、それがまたエラそうに見える。

一般人がネガティブにイメージするところの「共産主義国家」像が、まさにここで見られるとは思わなかった。中国、面白い国だな。先進国的な姿と、まだまだ発展途上国的な姿とが混在している。

そんな「ちょっと怖くてワルそうな警備員」にイチャモンつけられて、連行されて尋問されたらたまらん、と勝手に被害妄想をして一人興奮し、捕まらないようにそそくさと彼らを避けまくった。

音声ガイドは壊れていた

書画のコーナーでは、通常では明かりが消えている。明かりを点灯しっぱなしだと紙が傷むからだろう。で、センサーがあって、人が近づくと明かりがつく仕組み。良くできているもんだ。

王義之の書なんぞが当たり前のように置いてあるのがさすが。日本だったら、その書一つだけで特別展が開けるくらいのものだが、さすが本場だけあって平然と陳列されている。

当然といえば当然なのだが、書は全て繁体字。中国は文化大革命の際に「難しい漢字は覚えるの面倒じゃん。簡略化してしまえ」と簡体字を採用したので、今となっては繁体字を読めない人が多い。繁体字の書を、似て非なる漢字である簡体字で紹介してあるのはなにか不思議な光景だった。

おっと、今気がついた。展示に気を取られていたが、手にしている音声ガイドを使わないと。ええと、重要なアイテムの説明プレートには、音声ガイド用の番号が記述されている。これを端末に入力すれば音声が出てくるはず・・・

あれ?「error」という表示が。操作を間違えたか。

あれこれいじってみたが、どうやっても音が出ない。error、と出るだけだ。「3回操作をミスるとセキュリティ確保のためロックされます」なんて機能が備わっているわけではないだろうし、なんじゃこりゃ。不良品掴まされたァ。

40元払って、なおかつパスポートを人質に取られて、このありさまか。ひでぇ。よっぽど怒鳴り込みに行こうと思ったが、「これが壊れているので交換せよ」というのを説明するのが面倒だし、もっと面倒なのはまた手荷物検査の大行列に並ばないといけない、ということ。「まあ・・・いいか」と諦めた。

だいたい、陳列品が予想以上に多い。多すぎる。これ、ざっと流し見だけでも2時間コース、本気で見たら一日がかりのコースになる。音声ガイド聞いてふむふむ、と納得しているとキリがない。

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紙幣があったり、黒檀の家具があったり、いろいろな展示があって飽きさせない。無料だし、芸術に興味がない人も訪れる価値大。あと、えらそうな警備員がそこら中うろうろしているのも、ある意味一つの陳列品として見れば非常に楽しい。

若い中国の人が結構多い。中高年が多い日本の美術館とは客層が明らかに違う。そもそも、上海の町自体が、若い人が多いようだ。ワカモノが地方からどんどん流入してきているからだと思うが、こういう光景を見るにつけ、日本が超高齢化社会に突入していることに気がつかされる。

面白いことを二つ気がついた。

カップルが結構来場していたのだが、その例外なく全てが手を繋いでいた。上海のカップルは手を繋ぐ事が必須らしい。もし上海娘と付き合う事があるなら、手を繋がないと「私に対して愛情がない」と相手は勘違いするだろう。要注意だ。・・・って、そんな機会はまずあり得ないのだが。

もう一つは、カップルまたは若い女性のグループの来場が目立ったが、中国人男性のグループというのが見あたらなかったということだ。男性は何をやっとるんだ。

この件についてコダマ青年に問うたら、

・博物館は冷房が効いていて涼しいし、無料だから居心地が良いのではないか
・上海の女性は向学心が強く、勉強家。しかし、男性はだらけている人が多い。その差だ

という見解が示された。なるほど・・・。

上海博物館を出る

当初、「博物館見た後に余った時間はどうしようかねえ」くらいにかんがえていたのだが、閉館時間までしっかりと居残ってしまった。いやー、見るところ多いわ。最後は駆け足で回ったが、それでも回りきれなかった。

本当は、博物館内に茶芸館があるので、そこで一服したりなんぞもしたかったのだが、そうなりゃ本当に一日コースを覚悟だ。参りました。

ただ、中国さんは単なる閉館であってもイベント盛りだくさんで旅行者を飽きさせない。

閉館10分前くらいから音楽が流れ出し、そろそろ閉館ですよと来場者に知らせてくれる。本来なら、それを聞いた来場者が「ああ、じゃあそろそろ帰らないと」と自主的に引き上げていくものなのだが・・・ここは、音楽が鳴った途端に、さっきまでかったるそうにしていた警備員が急に動き出し、「帰れ、帰れ」と室内に居る人を追い出しにかかるのだった。その追い払い方は、われわれをまるで人扱いしているとは思えず、ある意味感動ものだった。

で、呆気にとられながらも部屋から廊下に出たら、「全員追放完了!」とそこの展示室の扉を閉鎖しちまった。しかもその後、シャッターまで閉めはじめるありさま。おいおい、ちょっと気が早すぎじゃないか?

自分がいた展示室の警備員だけがせっかちなのかと思ったら、どこの展示室も同じ。みんんな、警備員によって追い出しを食らっていた。それが済んだら、今度はフロア閉鎖にとりかかり、まるで牧羊犬が羊を追い立てるようにエスカレーターまで客を追い詰め、下のフロアに押しやっていた。日本だったら、あまりの態度の悪さに投書殺到だが、ここはあくまでも中国。

アトラクションは警備員だけでは済まない。クロークに荷物を受け取りにいったら、既に他の人の荷物は全て引き取られていたらしく、おかでんのリュックだけが取り残されていたようだ。そのせいで、「何やってるんだよ、早く取りにこいよ」といわんばかりに、クロークカウンターの上にリュックが放り投げられてあった。おい、誰かが盗んだらどうするんだ。ちゃんと管理してくれよ。クロークの意味がないじゃないか。

職員を呼び、番号札を渡して荷物を受け取ったら、その女性職員はニヤリとわらい、「ふぃに~っしゅ!」と小馬鹿にしたような声で隣の職員に声をかけていた。おい、最後の客だからといって、声に出すのはよせ。・・・って、うわあ。なんだなんだ。

「ふぃに~っしゅ」の声から数秒後には、クロークカウンターの脇にある扉がバン、と開き、女性職員がゾロゾロと行列を作って出てきたのだった。仕事終わり終わり、さあ帰るぞ、という訳だ。そのあんまりにも「かったるくて仕事やってられっかよ」感と「ようやく仕事終わったわ、ああ面倒くさい」感満点な雰囲気に、ただただおかでんは圧倒されるだけで棒立ちになってしまった。しかも、やたらと人数が多い。10名以上いる。狭いクロークで何やってたのアンタたち。

警備員もそうだが、どこのポジションにもやたらと人が多い。無駄に多い。人件費が安いからだと思うが、こんなに人が多いとモチベーションだとか、改善といった事はできないと思う。

上海博物館の外

追い立てられるように博物館の外に出た。周囲には、主に白人さんやインド人さんなど、外国からの観光客が僕と同じように難民と化し、「なんだこりゃあ」と苦笑いしたり気持ちの整理の真っ最中だった。地元の人はこうなることは分かっていたようで、既に博物館周辺にはいない。閉館前に引き上げたのだろう。

博物館前で記念撮影を撮っておく。せっかくだもんな。と、思ったら。うわあ、また大変な事が。背後から、大量の警備員どもが押し寄せてきた。全員、早足もしくは駆け足で客がはけた後の館内から群れを成して出てくる。火事でも起きたのか?

慌てて警備員を避けつつ、遠巻きから観察してみる。出るわ出るわ、一体何匹いるんだ、というありさま。量詞は「匹」でカウントしたほうが妥当ではないか、というくらい人数が多い。100名はいるだろうか。そんな人たちが、さっきまであれだけつまらなさそうな顔をしていたのに、なぜか笑顔で走っている。彼らも仕事が終わって開放感いっぱいらしい。

で、ドドドドと音を立てて建物の脇の方に移動していったので、何があるのかと思って見に行ったら・・・そこは喫煙スペースだった。みんな、仕事終わりの一服をしにきたのだった。なんだかなあ。

日本の美意識、仕事のプロ意識というのとは完全に相容れない世界がこの上海博物館にはぎっしり。とはいえ日本の方がレベルが上だぜ、中国まだまだじゃのぅ、というのは短絡的で間違い。価値観が違うのだから、中国のやり方が悪いとは言えない。ただ、こういう国が遠くないうち世界最大規模の経済大国になると思うと、本当に大丈夫かと暗鬱な気持ちになる。

地方部ならともかく、中国を代表する大都市である上海でこのレベルでは・・・。

まず、手始めに「チケットを購入したら、こちらにチケットを投げつける」のはやめてくれ。大変に不愉快だ。

公衆厠所

17時半目安でコダマ青年の仕事が終わるので、ぼちぼち人民広場を歩きながらコダマ青年オフィスの方へとすすむ。

途中、「公衆厠所」という立派なトイレがあった。何が立派って、建物の荘厳さもさることながら入口がガラス張りで自動ドア付き。しかも中には銭湯の番台みたいなカウンターまである。普段は職員が常駐しているのだろう。今は掃除中なのか、不在。そして、壁には世界何カ国かの時刻を示す時計がずらり。トイレで世界時計を気にする人なんて居ないと思うのだが、無駄にゴージャスだ。

コダマ青年から、事前に「上海のトイレ事情の悪さ」については聞いていた。公衆トイレはダメだと。使うならデパートなどに限る、と。そんなわけでここは見るだけでスルーしておいたが、多分「公衆トイレでも、有料なので清潔にしています」という趣旨の建物なんだろう、これは。

シンプルな公衆トイレ

こちらはシンプルな公衆トイレ。

ただし、やっぱり有料。1元かな?コインロッカーのようなコイン投入口があり、そこにお金を入れると扉が開くという仕組みになっていた。若い女性の方も入っていったので、ある程度清潔に保たれているようだ。

若い女性をやたらとよく見かけるので、どうしても即席品評会を始めてしまうのは男の性(さが)。奇麗な人が多くて感心させられる。とにかく、手足が長い。ひょろ長い、とは言い方が悪いが、そんな形容があうようなスタイルの人が多い。背は・・・うわっ、というくらい高い人がちらほらいる。しかし、その逆もしかりで、うわっ、というくらい低い人もやっぱりちらほらいる。

服装は日本の女性とあまり差はないのだが、靴がスニーカーの人が多いのが特徴。せめてパンプスにすればもっと足元が奇麗に見えるのに、と思うが、上海の美的センスはまだまだ発展途上中。あと10年もすればもっと奇麗になると思う。

化粧っ気があまりないし、黒髪が多いし、ロングヘアーでポニーテール率高いし、色白だし、幼い顔立ちだし、そういうのが好きな人にはたまらん場所だと思う。上海の人は、顔のパーツがぎゅっと中心に寄っていて、それが童顔に見える要因になっているようだ。そのため、おでこがひろい。でこキャラが好きな人もお勧め。

ただし、コダマ青年曰く「上海の女性はキツいよー」だそうだ。真面目な人が多く、仕事をやるパートナーとしては優れているのだが、性格がキツい、と。結婚しても、共働きにもかかわらず家事を100%旦那にやらせる、なんて事例も結構あるそうで。もちろん、付き合っている時はデートの送り迎えを彼氏がやるのは当然。

日本人男性の観点から「上海の女性はキツい」という事なのかと思ったが、この後出会った上海人バーテンダーの男性も「性格はキツいですね」と苦笑いしていたし、さらにその後に会った、コダマ青年の同僚の日本人女性ミハラさんも同じ事を言っていたので、実際にそうなんだろう。

「学級委員長」的な女性をフェチズムとして愛してやまない変態はぜひ上海に移住してみてください。ただし、ツンデレなんて通用しない世界だと思うので、一生自分がマゾに徹しきる覚悟が必要だけど。

重みのある建物

ガラス張りでキラキラした建物がある一方で、石造りの重厚な、古い建物がある。上海観光の魅力は横浜に似ていて、開国・開港して流れ込んできたハイカラな西洋建築物があるということだ。

右の写真のように、古い建物のパース、そしてその奥にある近代的な高層ビルはまさに押井守の世界だ。

上海新世界丽笙大酒店

人民広場の向こうに、目立つビルが見えてきた。

左側、「UFOが突き刺さったような」というか、巨大こけしビルというか、なんとも異様な建物がある。頭でっかちすぎて、ある時ぽっきり首が折れてしまうんじゃないかと心配になる。そうしたら大惨事だ。あ、でも落下しないで空を飛んでいくかもしれない。

調べてみたら、「上海新世界丽笙大酒店」というホテルだった。英語でいうと、「ラディソンホテル上海ニューワールド」だって。五つ星ホテルだという。

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