これまで、僕が過去6回も訪れた「身近なアメリカ」、米海軍横須賀基地。
年に一度の「ヨコスカフレンドシップデー」で禁断の地・「米軍基地」が解放される。それにあわせて、毎年のように基地に足を踏み入れていた。
自分の人生では過去に1度しかアメリカ本土に上陸したことがないけれど、治外法権で実質アメリカ領みたいな場所である米軍基地には何度も入っている。よく考えると不思議な過去だ。
2、3回連続で通うと、それ以降は惰性になる。惰性、というのは言葉が悪いが、「季節の風物詩」として自分の年中行事に組み込まれるようになる。「そろそろヨコスカの季節だな」と心待ちにし、「今年はどうなっているかな。あのお店は今年も出店するかな」と経年比較をしたくなる。
そんなわけで、気が付いたらあれよあれよと6回も通っていた。全部、オフ会として。
オフ会なので、いろんな人が参加した。でも、あまりの猛暑で熱中症寸前となり、途中離脱する仲間も何人かいた。僕自身、暑さで疲弊してしまい、何もする気が起きなかった回がある。「8月第一週土曜日」というスケジュールは、身の危険を感じるレベルで危険なイベントを確約していた。
「天気予報で、当日の横須賀の最高気温が35度超えだったら開催中止」という条件付きでオフ会を企画したこともあった。
基地内はとにかく広大だ。そして、照り返しのきついアスファルト舗装の道をてくてく歩くことになる。日陰は少なく、涼を求めるためには自己解決するしかない。
その結果、参加者が減少していたのは事実だと思う。「入場まで2時間待ちはザラ」などという事態を恐れていたが、朝の時点でも昼の時点でも、大行列ができている光景は見なくなった。これは僕らにとってラッキーだった。暑くてしんどいけど、混んでいるよりはマシだ。
2022年は、3年ぶりにイベントを開催するという。新型コロナウイルスの流行が落ち着いた10月が開催日となった。これまでが一年で一番暑い8月の開催だったので、それと比べるとずいぶんと良いお日柄だ。
久しぶりに横須賀基地に行ってみよう。この数年の間でどう変わったのか、それとも変わっていないのか、気になるからだ。
でも懸念点がいくつもあった。
- 混雑はどうなるのだろう?
10月というお日柄の良さから、猛暑で参加をためらっていた人たちがどっと押し寄せる可能性がある。
または、「えっ、10月?気が付かなかった!」と広報不足のため、参加者が少ないかもしれない。
どっちなのか、さっぱり検討がつかない。 - 北朝鮮・台湾情勢の緊迫度が上がっている
北朝鮮が連日弾道ミサイルの発射実験を行い、日本国内でもミサイル落下のおそれを知らせる「Jアラート」と呼ばれる空襲警報が発せられるほど緊張感が高まっている。横須賀基地を母港とする空母「ロナルド・レーガン」は日本海に出動中。
このような中、横須賀の兵隊さんたちがどれほどイベントに参加できる余裕があるのだろうか。 - そもそも、だんだん屋台がショボくなってきていたが、その傾向に歯止めがかかるのかどうか
僕が初めて横須賀を訪れた2013年をピークに、年々出店しているお店がショボくなっている印象だ。昔はあちこちで肉が焼かれ、あたり一帯煙だらけで視界が悪くなるレベルだった。嬉々として肉を焼くアメリカ人を見て、異国情緒を感じたものだ。しかし、あまりに暑いせいで肉が売れなくなったのか、肉を焼くのがタルくなったのか、だんだんエナジードリンク屋台やグッズ売り屋台が増え、ワクワク感が減った。
今年はどうなるのだろう。涼しい季節なのでばんばん派手に肉を焼いて欲しいものだが。
これは行ってみて確認するしかない。仲間を募って、現地を訪れることにした。
参加者は、2013年からのおなじみメンバーであるよこさん、とんばらさん夫婦(横須賀初参加)、アワレみ隊のジーニアス(横須賀初参加、オフ会初参加)、いし(横須賀初参加)、弊息子タケ、おかでんの7名。
2022年10月16日(日)
9時15分、京急横須賀中央駅前の横須賀カレーマスコットキャラ「スカレー」像の前で集合。
この時点では「相変わらず人が多いな」という印象だった。駅前はフレンドシップデー目当てで大勢の人がいた。
しかし、会場入口となる三笠公園に向かって歩いていて、ことのヤバさに気がついた。あっ、三笠公園に向けて行列ができている。
横須賀中央駅からまっすぐ基地に向けて歩いた先、国道16号線と合流する交差点のところにすでに長蛇の列が見える。
基地の入口は記念艦三笠がある三笠公園。すでに500メートルではきかない長さにまで列が伸びていることになる。
うーん。今年はまだ開場していないのかもしれない。例年、混雑緩和のために「10時オープンです」という公称にもかかわらず、9時過ぎにはゲートを開ける運用をやってきていた。しかし今年は馬鹿正直に10時オープンなのかもしれない。だったらしょうがない。じき、列は動き始めるだろう。それまでもうちょっと、待とう。
・・・とはいっても、列がどこからスタートしているのか、まったく見通せない。
国道16号線の対岸にずらーっと列ができているのが見えるけれど、横須賀中央駅側の歩道にも、列ができている。交差点の横断歩道を先頭に、あちこちに小規模の列がある。この列はいったいなんだろう?ちゃんと誘導員も立っていて、それに従って人々が並んでいるようだ。決して野良行列、というわけではなさそうだ。
国道16号線の横断歩道信号が青になったら、誘導員の案内に従って対岸の長蛇の列に割って入るのだろう・・・と思い、僕らもその列の一つに並んでみた。しかし、横断歩道の信号が青になっても前に進まない。一体なんなんだこれは。
はるか前方を見やると、別の交差点でも僕らと同じ「謎の行列」ができていた。後ろを振り返って、これまで通り過ぎた交差点を見てもそう。
なにかまったく無意味なところに並んでしまった気がする。だって、横断歩道を渡って対岸の大行列サイドに向かった人は、どんどん行列の最後尾に向けて歩いているからだ。どう見てもあっちのほうが早そうだ。じゃあこの列は何なんだ。
何の意味がある行列なのか、疑心暗鬼になる頃合いを見計らってはちょっとずつ前進するよう誘導される。で、次の交差点のところでしばらく大休止。また動かなくなる。この列は一体どこを目指しているのか。少なくとも、基地の入口とは逆方向に歩いているのは間違いないし、この列に加わったことは時間の無駄だったっぽいのも間違いなさそうだった。
09:54
謎の誘導に従って、ようやくメインの大行列最後尾にたどり着いた。行列最後尾にたどり着くまで、駅から30分以上かかるってどういうことだ?
結果的に、メイン大行列の対岸勢力だった僕らは、無意味に立ち往生をくらっただけだった。まっすぐ、このメイン大行列に沿って歩いていき、末尾に並ぶのが正解だった。
それは割り込みじゃないか、って?いやだって、僕らが最終的に並ばされたところには、「フレンドシップデー最後尾」のプラカードを掲げた警備員さんが立っているんだぞ。ここが公式な最後尾だ。これまでの道中、なんとなく警備員さんに並ばされ、誘導されていたアレは意味のない列だったと断言できる。なんだいこりゃあ。
結局、最後尾に並んだ場所は、横須賀中央駅から電車で一駅、汐入駅にほど近い場所だった。
この後さらに列は伸びていってヴェルニー公園内に入っていったので、最終的にはJR横須賀線の横須賀駅から歩くのが最短だったと思う。そうだとわかっていれば、最初から集合場所と時間を考えていたのに。油断したなぁ。
それにしても酷い目に遭った。あまりに長蛇の列なため、警備員が不足したのかもしれない。そして複数の警備会社を使っていたので、各地点ごとの情報共有ができていなかったんだと思う。四方八方からわーっと集まってくる人たちに対して、「ここが列の最後尾」「こっちに並べ」と正しく誘導できていなかった。なにしろ、広場に行列を作らせているんじゃなく、街中にできたとんでもない長さの行列だ。究極的には、四つ角ごとに割り込みが入ってくる。
行列最後尾に並んでからは、30分ほどまったく動きがなかった。
もうゲートが開いているけど、その動きが列最後尾にまで伝播していないだけなのか、それとも単に開門が遅れているのか。さっぱりわからない。
ひたすら待つ。こういうとき、僕はオフ会主催者という立場上、参加してくださった皆さんに申し訳ない気持ちでいっぱいになる。「わざわざ横須賀まで行くんじゃなかった」と後で思われないように、できるだけ朗らかに皆さんとお話をする。でも気分は針のむしろ。
行列がぴたっと動かなくなった場所のすぐ脇に、「横須賀海軍カレー本舗」というお店があった。あっ、このお店、知ってる!「どこかイケてる食べ放題のお店、ないかなぁ」とあれこれ調べていたとき、ここで護衛艦カレーの食べ放題があることを知ったからだ。へえ、これがそのお店なのか。
朝10時前なのでまだ営業はしていなかったけど、店先のポスターを撮影しておく。
「海上自衛隊の食器で食べる!護衛艦式ビュッフェ」なんだそうだ。カレー4種類、空自空上げが食べ放題。
お値段は大人1名90分で1,980円。おう、高い。
「カレーで1,980円、払う気になる?」「いやあ、ちょっとそれは・・・」というのがみんなの統一意見だった。
僕自身は「食べ放題」「食べ比べできる」という点で大いに惹かれるんだけど、ジャパニーズカレーを腹いっぱい食べて1,980円というのはさすがに贅沢が過ぎる。インドカレー食べ比べ可能な食べ放題なら、まだお財布の紐が緩むのだけれど。
もし1時間以上経っても列が動かなかったら、もういっそのことここでメシ食べようぜ!どの護衛艦のカレーが一番うまいか、俺たちで白黒つけようぜ!という企画に趣旨変更しようかと思った。でも、「いや、それはやめておこう」と言われて廃案担っていた可能性が大だ。
10:28
ようやく列が動き始めた。じりじりと前にすすむ。
歩道橋を渡り、列の前方を見るが当然先頭はこのはるか先だ。1キロ以上先だ。
対岸を見ると、僕らが歩んできたように、各交差点ごとに列ができているのが見えた。相変わらず何をやっているのか意味がわからない。それよりも、こっちに歩いてきて、とっととメイン行列の最後尾に並んでしまったほうが早いのに。
11:02
30分以上かけて、ようやく横須賀中央駅からまっすぐ歩いてきて国道16号とぶつかる交差点まで戻ってきた。僕らが一番最初に「あっ、やべえ、すごい行列だ」と驚いた場所だ。
対岸(横須賀中央駅側)には長蛇の列ができていた。一体どこまで伸びているのか、さっぱりわからない。そして並んでいる人たちも、自分がどこに誘導されているのかよくわかっていないだろう。おそらく大半の人が、僕らがそうであったように
「適当なところで対岸のメイン行列に割り込ませてくれるのだろう」
と思っていたはずだ。だって、ここに並んでいる人たちは「善い人であろう」として、積極的にこの混乱の秩序を緩和しようとしてくれている人たちばっかりだ。まさかその人たちの善意を無視して、ばんばん最後尾が違う方向に伸びていっているとは誰も思っていないだろう。
ここに限らず、さらに基地方面に向かったところでも交差点ごとに行列が出来ていた。たぶん、基地に向けて最短ルートで向かった人が行列に弾き返され、「じゃあどうすればいいんだ?」と途方にくれたところで誘導の警備員さんを見つけ、その人の後ろに並んだというパターンだろう。いったいこの人たちはいつ、メインの行列に接続できるんだろう?気の毒だ。
11:23
道路渋滞の解消がそうであるように、人の行列も一旦解消されはじめるとどんどん人の間隔が空いていく。みんな早足になりながら、前の人についていくようになる。そうやって隙間ができたところに、どんどん割り込みが入っていく。
悪意ある割り込みならともかく、何も知らないでやってきた人が「おっ、ここが最後尾か?」と隙間が空いたところに並んでしまう、といった感じだ。
Twitterをサーチしてくれた仲間が、「どうやら9時過ぎにはもう開門していたらしいですよ」「割り込みがひどいらしいですよ」「9時半にはもうブルーリッジ(第7艦隊の旗艦)の見学をやっている人がいますよ」と教えてくれた。こういう大規模イベントの状況把握をするには、Twitterは有効だということを今更知る。
11:48
基地前で身分証明と手荷物検査を行って、晴れて基地入口にたどり着いたのは12時前だった。横須賀中央駅集合から2時間45分経過。もうこの時点で結構疲れた。
そして残念なことに、ここで仲間2名が脱落となった。
これまで、基地に入るときは本籍地が確認できる写真つき身分証明書の携帯が求められてきた。しかし実際にそれを見せろ、と言われたことはない。しかし今年は身分証明が厳格化され、手荷物検査の手前で必ず証明書の提示をしなければならなくなっていた。
ここで、有効期限切れの証明書を提示した仲間が弾かれてしまったのだった。ああ、残念。我々は彼らを手を振って見送ることしかできなかった。
他にも、「えっ、本籍地の記載が必要なんですか?免許証じゃ駄目なの?」とふるい落とされる人が周囲に続出。せっかく2時間以上並んだのに、中に入れない人が大勢いた。これは悔しい。
免許証イコール最強の身分証明書、と思われがちだけど、現在の自動車運転免許証は本籍地の記載がなくなった。米軍が知りたいのは、「お前は日本人なのか、そうでないのか」ということであって、どこに住んでいる誰なのかは問うていない。なので、免許証だと駄目なのだった。
今は係員による目視チェックで入場の可否が決まるけど、いずれは「一人ずつ、身分証明書と顔をスキャナで読み取って軍が保管する」とか、「webで事前予約をしないと入場できない」という時代がくると思う。
なお、いしと弊息子タケのコンビは、ベビーカーを携えているやらリュックには幼児用の飲食物が入っているやら、手荷物検査をするとなれば見るべき場所がいっぱいある。特に飲みかけの飲み物なんて、「目の前で飲んでみせて」と言われたりするんじゃないか?と思われたが、特にそこまでのチェックはなかったそうだ。見るからに普通の親子で、テロリストには見えなかったのかもしれない。
11:51
基地内にようやく入る。仲間2名をゲート手前で失ってしまった喪失感はあるけれど、気を取り直して盛り上げていかなくちゃ。残された4名(+子ども1名)のうち、横須賀基地初入場は2名だ。この二人に「すごいなあ」と楽しんで帰ってもらいたい。
「ほら!ここから米軍基地だよ!この中で悪いことをやったら、日本の法律じゃなくてアメリカの軍法で裁かれるからね?」
なんて言って場を温める。
以前は、ゲートをくぐって真っ先に「基地内でなにかあった場合は軍法を根拠に裁かれます」という主旨が書かれた横断幕が掲げられていたものだ。今年はそれがなかった。
横須賀基地に入った人たちが真っ先に出会うのが、マクドナルドのドライブスルーだ。多くの人が、ここでアメリカンなメニューを見て感心しながら写真撮影をする。
僕も一応写真を撮ったけど、上の空だったので中身をほとんど見ていない。あまりの人の多さに浮足立ってしまい、入口すぐのここに留まっているのが憚られたからだ。早く奥に行かないと。このあと人が増える一方だ。
今あらためて写真を見ると、レギュラーメニューとは別にフレンドシップデー向けに日本円のメニューが用意されていたようだ。チョコレートクッキーで、3ピース175円。13ピースで720円。
高いんだか安いんだかよくわからないが、たぶん高いのだろう。なにせ1ドル150円前後をフラフラしている、歴史的円安ドル高の時期だ。
一方、このお店でイチオシのメニューは「ダブルビックマック」らしい。一番大きく写真が掲載されている。ビックマックの、ミート4枚バージョン。日本だと「倍ビックマック」という名前で売られているものと同じだろう。
米軍基地価格で、単品5ドル。日本マクドナルドだと510円なので、実は日本国内で食べたほうが安い。
何も知らない人が、「ミート4枚!さすがアメリカ!」と喜んでこの商品を買うと、1ドル150円計算で750円のお支払いとなる。やけに高い。
ヨコスカフレンドシップデーの会場説明。
こういう図を予め公式サイトに載せておいてくれれば良いのに、と思うが、これまでも現在も決してそういうことをしない。基地の地図を公開するという発想自体が、防衛上の観点として望ましくないのかもしれない。たとえ航空写真などでまるわかりになっている時代であっても。
いずれにせよ、毎年この地図は殆ど見ていない。アメリカ人の脳内と日本人の脳内は作りが違うらしく、地図が僕の頭にスルッと入ってこない。アイコンの使い方とか、地図の解説がやっぱり日本的ではない。
(つづく)
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